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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-26
(45)【発行日】2023-02-03
(54)【発明の名称】イオン注入装置、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20230127BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01J37/317 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019097247
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020191266
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】湯瀬 琢巳
(72)【発明者】
【氏名】田中 美和
(72)【発明者】
【氏名】福井 了太
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-332448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01J 37/248
H05H 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成した初期イオンを放出するイオン源装置と、
放出された前記初期イオンの中から所望の質量電荷比を有する初期イオンを選択イオンとして通過させる質量分析装置と、
前記質量分析装置を通過した前記選択イオンから成るイオンビームの飛行速度を加速させる加速装置と、
前記加速された前記イオンビームの飛行方向を変更させるスキャン装置と、
注入対象物が配置され、前記注入対象物に前記イオンビームが照射され、前記選択イオンの元素が前記注入対象物に注入される試料室と、を有し、
前記加速装置には、飛行する前記イオンビームの上流側から下流側に向けて一列に配置された加速電極が設けられ、
最上流に位置する前記加速電極には第一加速電圧が印加され、前記加速電極は上流側から下流側に向けて段階的に小さくされた電位にされる通常加速状態を有するイオン注入装置であって、
前記加速電極のうち、連続して配置された所定個数個の前記加速電極を上流側加速電極装置とし、前記上流側加速電極装置に含まれる前記加速電極のうち最下流の前記加速電極よりも下流側に連続して配置された三個以上の前記加速電極をレンズ電極装置とすると、
前記上流側加速電極装置に含まれる前記加速電極のうち、最上流に位置する前記加速電極には第二加速電圧が印加され、前記上流側加速電極装置に含まれる前記加速電極は段階的に小さくされた電位にされ、前記レンズ電極装置に含まれる前記加速電極のうち最上流に位置する前記加速電極と最下流に位置する前記加速電極とは接地電位にされ、前記最上流に位置する前記加速電極と前記最下流に位置する前記加速電極との間に位置する一個又は連続して配置された複数個の前記加速電極には所定のレンズ電圧が印加される中央電極にされる加速集束状態を有するイオン注入装置。
【請求項2】
前記加速集束状態では、前記レンズ電極装置に含まれる前記加速電極のうち、最上流に位置する前記加速電極と前記中央電極との間と、最下流に位置する前記加速電極と前記中央電極との間とには、それぞれ一乃至複数個の前記加速電極が配置され、
前記レンズ電極装置に含まれる前記加速電極のうち、最上流の前記加速電極を含む連続して配置された複数個の前記加速電極は、下流側から上流側に向けて段階的に小さくされた電位に接続され、最下流の前記加速電極を含む連続して配置された複数個の前記加速電極は、上流側から下流側に向けて段階的に小さくされた電位に接続される請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記通常加速状態で段階的に小さくされた電位に接続される前記加速電極の中には、前記レンズ電極装置よりも下流側に配置された一乃至複数個の前記加速電極が含まれており、
前記加速集束状態では、前記レンズ電極装置よりも下流側に配置された前記加速電極は接地電位に接続される請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のイオン注入装置。
【請求項4】
前記加速電極は等間隔に配置され、
前記通常加速状態では、隣接する前記加速電極は抵抗値が等しい抵抗装置に接続されて隣接する前記加速電極間の電界の大きさは等しくされた請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記加速集束状態での前記上流側加速電極装置に含まれ、隣接する前記加速電極間の電界の大きさと、前記通常加速状態に於ける隣接する前記加速電極間の電界の大きさとは等しくされた請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のイオン注入装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のイオン注入装置を用いた半導体装置の製造方法であって、
半導体の前記注入対象物に、前記通常加速状態と前記加速集束状態とで、異なる深さの不純物注入層を形成する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置の技術分野に係り、特に、イオンビームを発散させないイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置は注入対象物の表面下に所望元素を注入する装置であり、主として半導体基板にドーパントを注入して半導体素子を形成するために用いられている。
【0003】
所望の元素を注入するために、イオン源装置の中でイオン化ガスを電離させ、色々な元素のイオンを含む初期イオンを生成し、初期イオンを質量分析機に導入し、初期イオンの中から、注入目的元素のイオンの質量電荷比に応じた選択イオンを通過させイオンビームとして加速装置に入射させる。
【0004】
加速装置の中では、加速電圧が印加された加速電極によってイオンビームを加速させ、試料室内の注入対象物に照射して、イオンビームの加速された速度に応じた深さに選択イオンを注入する。
【0005】
このとき、同じ元素のイオンでも、一価イオンと多価イオンとでは、同じ速度に加速させる電圧が異なっており、同じ速度に加速させるためには一価イオンは価数が小さいことから、多価イオンよりも大きな加速電圧を必要とする。
【0006】
つまり、多価イオンを加速するためには、一価イオンに比べて比較的小さい加速電圧で済むという利点があるが、同じ電流値のイオンビームを注入対象物に注入するときには、一価イオンの方が多価イオンよりも多くの元素を注入できる(イオン源内部に於ける存在確率が一価イオンの方が高い)ため、多価イオンを注入するときには、注入時間が長くなる。
【0007】
また、高電圧を用いて発生させた強電界中にイオンビームを飛行させるとイオンビームは集束されるが、低電圧を用いて発生させた弱い電界中にイオンビームを飛行させると、イオンビームが発散し、注入効率が悪化するという問題がある。
【0008】
このような発散は、イオンの注入深さを浅くするために低電圧を用いて弱い電界を形成した場合に発生しやすく、所望数の元素を注入させるために長時間を要することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実開平1-160700号公報
【文献】特開平4-109599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の問題を解決するために創作されたものであり、強い電界と比較的弱い電界の両方で、高効率のイオン注入を行うことができるイオン注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明は、生成した初期イオンを放出するイオン源装置と、放出された前記初期イオンの中から所望の質量電荷比を有する初期イオンを選択イオンとして通過させる質量分析装置と、前記質量分析装置を通過した前記選択イオンから成るイオンビームの飛行速度を加速させる加速装置と、前記加速された前記イオンビームの飛行方向を変更させるスキャン装置と、注入対象物が配置され、前記注入対象物に前記イオンビームが照射され、前記選択イオンの元素が前記注入対象物に注入される試料室と、を有し、前記加速装置には、飛行する前記イオンビームの上流側から下流側に向けて一列に配置された加速電極が設けられ、最上流に位置する前記加速電極には第一加速電圧が印加され、前記加速電極は上流側から下流側に向けて段階的に小さくされた電位にされる通常加速状態を有するイオン注入装置であって、前記加速電極のうち、連続して配置された所定個数個の前記加速電極を上流側加速電極装置とし、前記上流側加速電極装置に含まれる前記加速電極のうち最下流の前記加速電極よりも下流側に連続して配置された三個以上の前記加速電極をレンズ電極装置とすると、前記上流側加速電極装置に含まれる前記加速電極のうち、最上流に位置する前記加速電極には第二加速電圧が印加され、前記上流側加速電極装置に含まれる前記加速電極は段階的に小さくされた電位にされ、前記レンズ電極装置に含まれる前記加速電極のうち最上流に位置する前記加速電極と最下流に位置する前記加速電極とは接地電位にされ、前記最上流に位置する前記加速電極と前記最下流に位置する前記加速電極との間に位置する一個又は連続して配置された複数個の前記加速電極には所定のレンズ電圧が印加される中央電極にされる加速集束状態を有するイオン注入装置である。
本発明は、前記加速集束状態では、前記レンズ電極装置に含まれる前記加速電極のうち、最上流に位置する前記加速電極と前記中央電極との間と、最下流に位置する前記加速電極と前記中央電極との間とには、それぞれ一乃至複数個の前記加速電極が配置され、前記レンズ電極装置に含まれる前記加速電極のうち、最上流の前記加速電極を含む連続して配置された複数個の前記加速電極は、下流側から上流側に向けて段階的に小さくされた電位に接続され、最下流の前記加速電極を含む連続して配置された複数個の前記加速電極は、上流側から下流側に向けて段階的に小さくされた電位に接続されるイオン注入装置である。
本発明は、前記通常加速状態で段階的に小さくされた電位に接続される前記加速電極の中には、前記レンズ電極装置よりも下流側に配置された一乃至複数個の前記加速電極が含まれており、前記加速集束状態では、前記レンズ電極装置よりも下流側に配置された前記加速電極は接地電位に接続されるイオン注入装置である。
本発明は、前記加速電極は等間隔に配置され、前記通常加速状態では、隣接する前記加速電極は抵抗値が等しい抵抗装置に接続されて隣接する前記加速電極間の電界の大きさは等しくされたイオン注入装置である。
本発明は、前記加速集束状態での前記上流側加速電極装置に含まれ、隣接する前記加速電極間の電界の大きさと、前記通常加速状態に於ける隣接する前記加速電極間の電界の大きさとは等しくされたイオン注入装置である。
本発明は、上記記載のイオン注入装置を用いた半導体装置の製造方法であって、半導体の前記注入対象物に、前記通常加速状態と前記加速集束状態とで、異なる深さの不純物注入層を形成する半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
低い加速電圧で加速しても、イオンビームを集束させることができるので、イオンの注入効率が低下しない。
【0013】
高速のイオンビームと低速のイオンビームを生成することができるから、注入深さを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本願発明のイオン注入装置の一例の全体図
図2】加速装置の第一例を説明するための図
図3】加速装置の第二例を説明するための図
図4】加速装置の第三例を説明するための図
図5】円筒電極を中央電極に設けた場合の例
図6】円筒電極を接地電位に接続される加速電極に設けた場合の例
図7】本発明のイオン注入装置で製造する半導体装置の一例
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1の符号2は本発明のイオン注入装置であり、イオン源装置42と、質量分析装置43と、ビーム整形装置44と、加速装置45と、スキャン装置46と、平行化装置47と、試料室装置48とを有し、各装置42~48はこの順序で接続されている。
【0016】
イオン注入装置2には、一台乃至複数台の真空排気装置33、31が接続されており、各装置42~48は真空排気され、内部に真空雰囲気が形成された後、継続して真空排気されている。
【0017】
イオン源装置42にはイオン化装置32とガス源35とが接続されており、ガス源35からイオン源装置42に供給されるイオン化用ガスはイオン化装置32から供給される電力又は電磁波などによってイオン化され、異なる元素のイオンや注入目的の元素の一価イオンや多価イオン等、異なる質量電荷比のイオンを含む初期イオンが生成される。
【0018】
初期イオンはイオン源装置42から引き出され、質量分析装置43の内部に導入される。
【0019】
質量分析装置43の内部には電界や磁界が形成されており、質量分析装置43の内部に導入された初期イオンのうち、質量分析装置43に設定された質量電荷比のイオンが選択イオンとして質量分析装置43を通過し、イオンビームとなってビーム整形装置44に入射する。
【0020】
ビーム整形装置44にはイオン用のレンズが設けられておりビーム整形装置44に入射したイオンビームは整形され、加速装置45に入射する。
【0021】
加速装置45は真空槽41を有しており、真空槽41の内部には主電極装置6が配置されている。
【0022】
図2に示すように、主電極装置6は複数個数であるn個の加速電極61~6n(図2ではn=22)を有している。
【0023】
各加速電極61~6nはそれぞれ板状電極であり、各加速電極61~6nの中央には貫通孔151~15nが設けられた環状形形状になっている。ここでは環状形形状の外周と内周とは円形形状の円環にされており、各加速電極61~6nは外周の中心と内周の中心とが一致されている。
【0024】
各加速電極61~6nは互いに平行にされ、加速装置45の中を飛行するイオンビームの上流側から下流側に向けて一列に配置されており、各加速電極61~6nの中心は、加速装置45に入射するイオンビームの光軸上に位置するように配置されている。
【0025】
この例では、各加速電極61~6nの間隔は、同一の電極間距離Wに配置されている。
【0026】
真空槽41の外部には切替回路4が配置されている。
【0027】
切替回路4は電源装置5を有しており、電源装置5には、それぞれ加速用電源51とレンズ用電源52とが設けられている。
【0028】
<通常加速状態>
イオンビームを高速に加速する運転では、各加速電極61~6nの電位を、次に説明する通常加速状態にする。
【0029】
通常加速状態では、隣接する加速電極61~6nの間は一個の抵抗装置71~7n-1によってそれぞれ電気的に接続されている。
【0030】
この場合、各抵抗装置71~7n-1は一列に直列接続されていることになり、直列接続された抵抗装置71~7n-1によって抵抗ラダー7が構成されている。抵抗装置71~7n-1の個数は、加速電極61~6nの個数n個よりも一個少ない個数(n-1)である。
【0031】
加速電極61~6nのうち、最上流に位置する加速電極61は加速用電源51に電気的に接続され、最下流に位置する加速電極6nは接地電位に接続されており、通常加速状態では、最上流の加速電極61には加速用電源51が出力する第一加速電圧V1(V)が印加されている。
【0032】
なお、選択イオンは陽イオン、第一加速電圧V1と後述する第二加速電圧V2とは正電圧である。
【0033】
抵抗ラダー7により、第一加速電圧V1は直列接続された抵抗装置71~7n-1によって分圧されており、ここでは抵抗装置71~7n-1の抵抗値は等しくされていることから、隣接する加速電極61~6n間の電位差Vd1は、等しくV1/(n-1)の大きさになっており、また、上述したように、加速電極61~6n間の間隔である電極間距離Wは一定値にされているから、隣接する加速電極61~6n間の電界Ea1は、等しい値のV1/((n-1)×W)になる(Ea1=V1/((n-1)×W))。
【0034】
そして、複数の個数n個の加速電極61~6nの中の最上流を1番目とすると、p番目の一個の加速電極6p(1≦p≦n)の電位Vpは、V1×(n-p)/(n-1)の値(V)になる(Vp=V1×(n-p)/(n-1))。
【0035】
従って、各加速電極61~6nは、上流側から下流側に向けて、段階的に小さくされた電位になっている。
【0036】
加速装置45に入射したイオンビームに含まれる選択イオンは光軸に沿って、飛行し、通常加速状態では、各加速電極61~6nの貫通孔151~15nを通過する度に全部の加速電極61~6nの間の電界Ea1によって加速されてスキャン装置46に入射する。
【0037】
スキャン装置46の内部では、入射したイオンビームは飛行方向が変更され、スキャン装置46を通過した後、平行化装置47に入射し、平行化装置47の内部で、入射したイオンビームが湾曲され、飛行方向が変更されたイオンビームは光軸同士が平行にされて試料室装置48の内部に入射し、照射位置が移動されながら注入対象物10の表面に照射され、イオンビームの速度に応じた深さで、選択イオンは注入対象物10の内部に注入される。
【0038】
大きな電圧で加速された選択イオンは、小さな電圧で加速された選択イオンよりも深い位置に注入される。
【0039】
<低電圧>
イオンビームを比較的低速に加速する運転では、各加速電極61~6nの電位は、次に説明する加速集束状態に置かれる。
【0040】
加速電極61~6nのうち、隣接する所定個数m個の連続して配置された加速電極を上流側加速電極装置6Aとし、上流側加速電極装置6Aの下流側であって上流側加速電極装置6Aに隣接し、連続して配置された3個以上である複数個数k個の加速電極6m+1~6m+kをレンズ電極装置6Bとする。
【0041】
ここでは、全部の加速電極61~6nの中で最上流に位置する加速電極61が上流側加速電極装置6Aの中の最上流の加速電極61であるものとすると、上流側加速電極装置6Aには、最上流の加速電極61からm番目の加速電極6mまで、個数m個の加速電極61~6mが含まれる(図2ではm=10)。
【0042】
なお、加速電極61~6nのうち、上流側加速電極装置6Aよりも上流側に加速電極が配置された場合も本発明に含まれる。
【0043】
上流側加速電極装置6Aの中の最上流の加速電極61からレンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1までの電極間は、通常加速状態のときと同じ抵抗装置71~7mによってそれぞれ接続されている。
【0044】
上流側加速電極装置6Aの中の最上流に位置する加速電極61は、加速用電源51に接続され、加速集束状態では、加速用電源51から第二加速電圧V2が出力され、第二加速電圧V2は最上流の加速電極61に印加されている。
【0045】
上述した切替回路4には、レンズ用スイッチ装置8が設けられており、レンズ用スイッチ装置8には、最大で、レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+kと同数の第一~第kのレンズ用スイッチ素子81~8kが設けられている。
【0046】
レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+kのうち、最上流に位置する加速電極6m+1は、その加速電極6m+1に接続されたスイッチ素子81により、通常加速状態のときと同じ抵抗装置7m、7m+1に電気的に接続された状態で、接地電位に電気的に接続される。
【0047】
上流側加速電極装置6A中の最下流の加速電極6mはV2×1/mの電位であり、その下流側に隣接し、レンズ電極装置6Bの中の最上流に位置する加速電極6m+1の電位は接地電位であり、第二加速電圧V2は上流側加速電極装置6Aに含まれる加速電極61~6nの個数m個と同数の抵抗装置71~7mが直列接続された回路によって分圧されており、上流側加速電極装置6A中の最上流の加速電極61からレンズ電極装置6Bの中の最上流に位置する加速電極6m+1までの加速電極61~6m+1のうち、隣接する加速電極61~6m+1間の電位差Vd2は等しい値のV2/mとなる(Vd2=V2/m)。
【0048】
従って、隣接する加速電極61~6m+1間の電界Ea2は等しい値のV2/(m×Wになる(Ea2=V2/(m×W))。
【0049】
また、上流側加速電極装置6Aに含まれる加速電極61~6mのうち、最上流からr番目の加速電極6r(1≦r≦m)の電位Vrは、V2×(m-r+1)/mの値(V)になる(Vr=V2×(m-r+1)/m)から、上流側加速電極装置6A中の加速電極61~6mは、上流側から下流側に向けて、段階的に小さくなる電位になっている。
【0050】
なお、通常加速状態での加速電極間の電界Ea1が放電が生じない最大電界値であるとすると、加速集束状態での加速電極間の電界Ea2の最大値は、通常加速状態での電界Ea1の値と等しくなる。従って、第一、第二加速電圧V1、V2の上限は、加速電極間の電界の上限によって決まる。
【0051】
次に、加速集束状態では、レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+kのうち、少なくとも最下流の加速電極6m+k(図2ではk=3)と最上流の加速電極6m+1とは、レンズ用スイッチ素子81、8k(83)によって接地電位に接続されており、レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+kのうち最上流と最下流の間に位置する一個又は連続した複数個の加速電極6x(1<x<k)は、レンズ用電源52に接続され、レンズ用電源52が出力するレンズ電圧VLが印加される。
【0052】
レンズ電圧VLが印加された一個乃至連続した複数個の加速電極6xを中央電極6xとすると、少なくともレンズ電極装置6Bに含まれる最上流の加速電極6m+1と中央電極6xと最下流の加速電極6m+kとによってイオンビームを集束させるアインツェルレンズが形成される。
【0053】
図2は、最上流の加速電極6m+1と中央電極6xと最下流の加速電極6m+kとが一個ずつの場合であり、三個の加速電極6m+1~6m+3によってアインツェルレンズが形成される。
【0054】
図3の加速集束状態は、まず、上流側加速電極装置6Aの中の最上流の加速電極61からレンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1(m=9)までの電極間は、通常加速状態のときと同じ抵抗装置71~7mによってそれぞれ接続される。
【0055】
レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+k(k=6)のうち、中央位置で隣接する二個の加速電極6x(612、613)が中央電極6xとなり、レンズ用スイッチ素子81~8kによって、中央電極6xにレンズ電圧VLが印加され、中央電極6xの上流側に隣接する二個の加速電極6m+1、6m+2(610、611)と、下流側に隣接する二個の加速電極6m+k-1、6m+k(614、615)とが接地電位に電気的に接続される。従って、図3のアインツェルレンズは、六個の加速電極610~615によって形成されている。
【0056】
上流側加速電極装置6Aの中の加速電極61~6mは、配置された順番に段階的に小さくなる電位になっている。
【0057】
次に、図4の加速集束状態では、先ず、上流側加速電極装置6Aの中の最上流の加速電極61からレンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1(m=9)までの電極間は、通常加速状態のときと同じ抵抗装置71~7mによってそれぞれ接続されている。
【0058】
レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+k(m=9、k=6)のうち、中央位置で隣接する一個乃至複数個(ここでは二個)の加速電極6x(612、613)を中央電極6xとし、レンズ電極装置6Bの中の中央電極6xよりも上流側の加速電極6m+1~6m+2と中央電極6xの中の最上流の加速電極612との中で、隣接する電極間が通常加速状態と同じ抵抗装置7m+1、7m+2によって接続されている。
【0059】
また、中央電極6xの中の最下流の加速電極613と、中央電極6xよりも下流側の加速電極6m+k-1~6m+kとの中で、隣接する電極間が通常加速状態と同じ抵抗装置7m+k-2、7m+k-1によって接続されている。
【0060】
レンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1と最下流の加速電極6m+kとは接地電位に電気的に接続されており、各中央電極6xにはそれぞれレンズ電圧VLが印加されている。
【0061】
レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+kの中で、中央電極6xよりも上流側の加速電極6m+1~6m+2と下流側の加速電極6m+k-1~6m+kとは、同数の個数sとすると、中央電極6xよりも上流側と下流側とで、加速電極間の電位差Vd2はVL/sになる。
【0062】
このように、レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+kのうち、最上流の加速電極6m+1を含む連続して配置された複数個の加速電極6m+1、6m+2は、下流側から上流側に向けて段階的に小さくされた電位に接続され、最下流の加速電極6m+kを含む連続して配置された複数個の加速電極6m+k-1~6m+kは、上流側から下流側に向けて段階的に小さくされた電位に接続される。
【0063】
このアインツェルレンズでは、中央電極6xと接地電位に接続された加速電極6m+1、6m+kの間の加速電圧の個数を増加させることで、レンズ電圧VLを高電圧にすることができる。
【0064】
アインツェルレンズは上記のように構成されており、先ず、加速装置45に入射したイオンビームに含まれる選択イオンは光軸に沿って飛行し、上流側加速電極装置6Aに入射する。
【0065】
入射したイオンビームは、上流側加速電極装置6Aの中の加速電極61~6mとレンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1とによって形成される電界Ea2によって、上流側加速電極装置6Aの中の加速電極61~6mの貫通孔151~15mとレンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1の貫通孔15m+1とを通過する間に加速され、レンズ電極装置6Bに入射する。
【0066】
レンズ電圧VLは、レンズ電圧VLによって形成されるレンズ電極装置6Bの中の電界が放電を発生させない大きさにされており、レンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1と中央の電極6xとの間の電界と、中央の電極6xとレンズ電極装置6Bの中の最下流の加速電極6m+kとによって形成される電界とによって、レンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1の貫通孔15m+1を通過したイオンビームが、一又は複数個の中央電極6xの貫通孔15xと最下流の加速電極6m+kの貫通孔15m+kとを通過する間に集束される。
【0067】
ところで切替回路4は一般的には大気圧環境に配置されているため、レンズ電圧VLが、真空雰囲気中のレンズ電極装置6Bの中で放電を発生させない大きさであっても、切替回路4の中の隣接する電流導入端子間で放電を発生させてしまう場合がある。
【0068】
これへの対策として、電流導入端子間の距離を大きくすると言う手段があるが、電流導入端子間の距離を大きくしたのに伴い、レンズ電極装置6Bに含まれる加速電極6m+1~6m+k間の距離も大きくなるため、電界が弱まるという不都合が発生する。
【0069】
加速電極6m+1~6m+k間の距離を大きくしたときにもアインツェルレンズとして機能する電界が得られるように、レンズ電極装置6B中の加速電極6m+1~6m+k間の電気的な距離を電流導入端子の距離よりも短くなるようにすれば良い。具体的には図2の二個の接地電位に接続される加速電極611、613とレンズ電圧VLが印加される中央電極612との間の電気的距離を、電流導入端子間の物理的距離と比べて短くなるようにすれば良い。
【0070】
図5は、環状形形状で、その外周と内周とは円形形状で両者の中心とが一致された円環中央電極612の上流側の表面と下流側の表面とに、中央電極612の内周と同径の円筒形形状の円筒電極37a、37bを、中心軸線16が一致するように配置し、溶接等によって、中央電極612に円筒電極37a、37bを固定させた場合の例である。所謂パイプフランジソケット形状と呼ばれている。
【0071】
この様な形状とすることで、電流導入端子間距離に比べ、レンズ電極装置6B中の接地電位に接続される加速電極 (611、613)とレンズ電圧VLが印加される中央電極612との間の電気的距離が短くなり、レンズ電極装置6B中の最大電界強度が大きくなり、アインツェルレンズとしての機能を維持しつつ大気側の放電の発生を防ぐことが出来る。
【0072】
図6は、接地電位に接続される加速電極611、613に円筒電極37a、37bを固定させた場合の例である。
【0073】
要するに、レンズ電極装置6B中の電位差のある二個の加速電極のいずれか一方に円筒電極を設ければよい。
【0074】
レンズ電極装置6Bの下流に加速電極が配置されていない場合と配置されている場合の両方が本発明に含まれており、レンズ電極装置6Bの下流に加速電極が配置されていない場合は、集束されたイオンビームは、スキャン装置46に入射する。
【0075】
レンズ電極装置6Bの下流に一乃至複数個の加速電極6m+k+1~6nが配置されている場合は、下流側スイッチ装置9に設けられたスイッチ素子91~9n-m-k-1によって、抵抗ラダー7に代わって接地電位に接続する場合や、抵抗ラダー7に接続した状態を維持する場合がある。抵抗ラダー7に接続した状態を維持する場合は、レンズ電極装置6Bの下流側の加速電極6m+k+1~6nのうち、最上流の加速電極6m+k+1を接地電位に接続する場合も含まれる。
【0076】
従って、レンズ電極装置6Bの下流の加速電極6m+k+1~6nは電界を形成せず、レンズ電極装置6Bによって集束されたイオンビームは、レンズ電極装置6Bの下流の加速電極6m+k+1~6nの貫通孔15m+k+1~15nを発散することなく通過し、スキャン装置46に入射し、次に平行化装置47に入射する。
【0077】
いずれの場合も、イオンビームは通常加速状態と同様にスキャン装置46と平行化装置47とを通過して、注入対象物10の表面に照射され、選択イオンはイオンビームの速度に応じた深さで、注入対象物10の内部に注入される。
【0078】
第二加速電圧V2は、第一加速電圧V1よりも低電圧であり、比較的低い第二加速電圧V2で加速された選択イオンは、高電圧で加速された選択イオンよりも浅い位置に注入される。
【0079】
第二加速電圧V2は、第一加速電圧V1よりもイオンビーム集束力は弱いが、第二加速電圧V2を用いる加速集束状態ではレンズ電極装置6Bが形成するアインツェルレンズがイオンビームを集束させるので、イオンビームが発散しない。
【0080】
なお、通常加速状態では、レンズ用スイッチ装置8や下流側スイッチ装置9は、隣接する加速電極61~6n間が抵抗装置71~7n-1によって接続され、最上流の加速電極61に第一加速電圧V1が印加され、最下流の加速電極6nが接地電位にされ、各加速電極61~6nに第一加速電圧V1が抵抗ラダー7によって分圧された電位にされ、上流側から下流側に向けて段階的に小さな電位になるように動作する。
【0081】
上記加速集束状態では、上流側加速電極装置6Aの中の最下流の加速電極6mとレンズ電極装置6Bの中の最上流の加速電極6m+1との間には加速電極は配置されていなかったが、上流側加速電極装置6Aに含まれる加速電極61~6mが段階的に小さくされた電位にされていれば、加速集束状態で、上流側加速電極装置6Aの最下流の加速電極6mとレンズ電極装置6Bの最上流の加速電極6m+1との間に、接地電位に接続された一個乃至複数個の加速電極が配置されていてもよい。
【0082】
<半導体装置の製造>
図7の符号20はイオン注入装置2を用いて製造した半導体装置である。
【0083】
n型とp型のうち、いずれか一方を第一型とし、他方を第二型とすると、この半導体装置20は第一型の半導体基板(ここではSiC基板)21上に、第一型のSiCがエピタキシャル成長されたエピタキシャル層22が形成されて半導体の注入対象物30が形成されている。
【0084】
注入対象物の表面にパターニングされたレジスト膜を形成し、試料室装置48の中に配置し、エピタキシャル層22の表面に、第二型の不純物を通常加速状態で注入し、低濃度で深い第二型の不純物注入層であるボディ層23をエピタキシャル層22の表面に複数個規則的に形成する。
【0085】
ここで、イオン注入毎にパターニングされたレジスト膜を交換するものとし、各ボディ層23の内側の中央に、加速集束状態により、第二型の不純物を注入し、浅くて高濃度の第二型の不純物注入層であるオーミック層25を形成する。
【0086】
また、加速集束状態で第一型の不純物を注入し、リング状の浅くて高濃度の第一型の不純物注入層であるソース層24を形成する。ソース層24の外周とボディ層23の外周とは離間され、ソース層24の外周とボディ層23の外周との間の部分にボディ層23から成るチャネル領域29が形成されている。
【0087】
隣接するボディ層23の間に露出するエピタキシャル層22の表面に、パターニングされたゲート絶縁膜26とゲート絶縁膜26上のゲート電極膜27とを形成する。
【0088】
ゲート絶縁膜26とゲート電極膜27とは、ソース層24上まで伸ばされており、ゲート電極膜27上とその側面とを覆う層間絶縁膜28を設け、ソース層24とオーミック層25上に、ソース電極膜19を形成する。
【0089】
ソース電極膜19はソース層24とオーミック層25とに電気的に接続されており、他方、ゲート電極膜27とエピタキシャル層22とは電気的に絶縁されている。
【0090】
この半導体装置20を用いる場合は、ソース層24及びボディ層23と、半導体基板21との間にソース・ドレイン電圧を印加し、ゲート電極膜27にゲート電圧を印加して、チャネル領域29の表面に第一型である反転層を形成し、ソース層24とエピタキシャル層22とを反転層で接続すると、半導体装置20は導通する。
ゲート電圧の印加を停止すると、半導体装置20は遮断する。
【0091】
このような半導体装置20を製造する際に、イオン注入装置2では、同じ元素のイオンを用い、通常加速状態で深い不純物注入層(ここではボディ層23)を形成し、加速集束状態で同じ導電型の浅い不純物注入層(ここではオーミック層25)を形成することができる。
【0092】
また、異なる元素のイオンを用いれば、異なる導電型で深さが異なる不純物注入層(ここではボディ層23とオーミック層25とソース層24)を形成することができる。
【符号の説明】
【0093】
2……イオン注入装置
1~6n……加速電極
1~7n-1……抵抗装置
6A……上流側加速電極装置
6B……レンズ電極装置
20……半導体装置
23……深い不純物注入層
24,25……浅い不純物注入層
42……イオン源装置
43……質量分析装置
45……加速装置
46……スキャン装置
48……試料室装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7