(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】食感改良油脂組成物とその製造方法、加熱調理食品の製造方法、及び加熱調理食品の食感を改良する方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20230130BHJP
A23D 9/013 20060101ALI20230130BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20230130BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/013
A23L5/10 D
(21)【出願番号】P 2018030581
(22)【出願日】2018-02-23
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆英
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
(72)【発明者】
【氏名】江尻 麗子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-016051(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074257(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/096785(WO,A1)
【文献】特開2008-245637(JP,A)
【文献】特開2017-051145(JP,A)
【文献】特開平07-016052(JP,A)
【文献】DAGの機能と栄養,2007年,pp.20-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-9/06
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、脂肪酸モノグリセリドとを含有する食感改良油脂組成物であって、
該油脂は、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、米油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油から選ばれる動植物油脂及びその水素添加油、分別油から選ばれる1種又は2種以上の油脂であり(ただし、なたね油はキャノーラ油である)、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルはHLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上であり、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.02~0.20質量%であり、
該脂肪酸モノグリセリドの含有量が0.005~1.00質量%であり、
該食感改良油脂組成物が、フライ用油脂である、
食感改良油脂組成物。
【請求項2】
食感改良油脂組成物が、アルカリ金属を含有するものである、請求項1に記載の食感改良油脂組成物。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸モノグリセリドの構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸である、請求項1又は2に記載の食感改良油脂組成物。
【請求項4】
フライ調理工程前又はフライ調理工程中に、
フライ油脂中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、
油脂にグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸モノグリセリドを添加する工程を含み、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上であ
り、
該油脂は、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、米油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油から選ばれる動植物油脂及びその水素添加油、分別油から選ばれる1種又は2種以上の油脂であり(ただし、なたね油はキャノーラ油である)、
加熱調理食品の製造方法。
【請求項5】
フライ調理前又はフライ調理中に、
フライ油脂中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、
フライ油脂にポリグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸モノグリセリドを添加する操作を含み、
該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上であ
り、
フライ油脂中の油脂は、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、米油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油から選ばれる動植物油脂及びその水素添加油、分別油から選ばれる1種又は2種以上の油脂であり(ただし、なたね油はキャノーラ油である)、
加熱調理食品の食感を改良する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食感改良油脂組成物とその製造方法、加熱調理食品の製造方法、及び加熱調理食品の食感を改良する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にフライ、天ぷら、から揚げ等の油ちょう調理(フライ調理)品は、魚、肉、野菜等に、小麦粉を主成分とするバッターを付着させ180℃前後の油で揚げる。得られたフライ調理品は、外観、風味、食感などが優れたものが求められる。特に、フライ調理品のサクサク感、カラッと揚げた食感等は、油脂の選択やフライ時間、フライ温度、フライ操作などの条件を適宜選択するなどの熟練が必要であった。これらのフライ調理における課題を解決するために、特許文献1には乳化剤を配合し、特定の範囲の界面張力を有する油脂を用いることが提案されている。例えば、特許文献1の表2には、ヘキサグリセリンペンタオレエートを1%添加した例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、重合度が3を超えるポリグリセリン脂肪酸エステルは、触媒のアルカリが残存するために、着色しやすい。そのため、前述のヘキサグリセリンペンタオレートの添加量を大幅に削減する必要があるが、特許文献1で必要な界面張力を満たすことができなかった。
【0005】
本発明の課題は、フライ後の調理品のサクサク感を付与するとともに、加熱時の着色を抑えた食感改良油脂組成物とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を達成するために、下記の[1]~[6]を提供する。上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0007】
[1] 油脂と、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、脂肪酸モノグリセリドとを含有する食感改良油脂組成物であって、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上であり、該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.02~0.20質量%であり、該脂肪酸モノグリセリドの含有量が0.005~1.00質量%である、食感改良油脂組成物。
[2] 食感改良油脂組成物が、アルカリ金属を含有するものである、[1]の食感改良油脂組成物。
[3] 前記ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸モノグリセリドの構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸である、[1]又は[2]の食感改良油脂組成物。
[4] 前記食感改良油脂組成物が、フライ用油脂である、[1]~[3]のいずれかの食感改良油脂組成物。
[5] 食感改良油脂組成物中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、油脂にポリグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸モノグリセリドを添加する工程を含み、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上である、食感改良油脂組成物の製造方法。
[6] フライ調理工程前又はフライ調理工程中に、フライ油脂中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、添加する工程を含み、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上である、加熱調理食品の製造方法。
[7] フライ調理前又はフライ調理中に、フライ油脂中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、添加する操作を含み、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上である、加熱調理食品の食感を改良する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フライ後の調理品にサクサク感を付与するとともに、加熱着色が抑えられた食感改良油脂組成物とその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、加熱調理食品の製造方法、及び加熱調理食品の食感を改良する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸モノグリセリドを含有することによって、フライ後の調理品のサクサク感を付与するとともに、食感改良油脂組成物の加熱着色を抑制できることを見出した。この知見に基づき、食感改良油脂組成物とその製造方法、加熱調理食品の製造方法、及び加熱調理食品の食感を改良する方法を完成するに至った。
以下に、本発明の食感改良油脂組成物とその製造方法、加熱調理食品の製造方法、及び加熱調理食品の食感を改良する方法を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0010】
[食感改良油脂組成物]
本発明の食感改良油脂組成物は、油脂と、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、脂肪酸モノグリセリドとを含有し、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上であり、該ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.02~0.20質量%であり、該脂肪酸モノグリセリドの含有量が0.005~1.00質量%である。
<ポリグリセリン脂肪酸エステル>
本発明の食感改良油脂組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する。このポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB3~8である。HLBが3以上であると、水との親和性がよくなり、フライ調理時において、フライ品へサクサク感を付与することができる。一方、HLBが8を超えると、油脂への溶解安定性に劣る。本発明の食感改良油脂組成物で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLB5~8であることが好ましい。
なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0~20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。
【0011】
本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルのポリグリセリン部分の重合度は、ポリグリセリンの重合度が4以上である。ポリグリセリン脂肪酸エステルのポリグリセリン部分は、重合度が6~30のものが好ましく、重合度が8~12がより好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルはアルカリを触媒に用いて、製造されるが、触媒が残存していると、加熱時に着色しやすくなる。しかし、触媒を除去するには、コストがかかる上に、ポリグリセリン部分の重合度が4以上のポリグリセリン脂肪酸エステルは、触媒を除去することが難しいため、触媒が残存した状態で流通している。本発明では、これらのポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることができる。また、ポリグリセリンは、グリセリンが重合してできたものであり、様々な重合度を有する混合物として得られる。一般的に、重合度4以上のものは、単離することが困難なため、様々な重合度のポリグリセリン脂肪酸エステルの混合物であることを許容する。そのため、本発明において、重合度は、平均重合度である。
【0012】
本発明の食感改良油脂組成物は、食感改良油脂組成物中に前述のポリグリセリン脂肪酸エステルを0.02~0.20質量%含有する。ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、0.02質量%以上あれば、フライ後の調理品にサクサク感を付与することができ、0.20質量%以下であれば、加熱着色をより、抑えることができる。本発明の食感改良油脂組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.04~0.10質量%含有することが好ましく、0.03~0.08質量%含有することがより好ましい。
【0013】
本発明で用いるポリグリセリン脂肪酸エステルは、食感改良油脂組成物が液状になりやすいことから、構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であることが好ましく、不飽和脂肪酸がオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸であることがより好ましい。酸化安定性の点から、オレイン酸、エルカ酸がより好ましい。例えば、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタデカグリセリン、ノナデカグリセリン、デカグリセリン等のオレイン酸エステル等を用いることができる。
【0014】
<脂肪酸モノグリセリド>
本発明の食感改良油脂組成物は、脂肪酸モノグリセリドを含む。本発明において、脂肪酸モノグリセリドは、ジグリセリン、トリグリセリン、グリセリン等の不純物を含む脂肪酸モノグリセリドとして流通しているものを用いることができるが、食感改良油脂組成物中の脂肪酸モノグリセリドの含有量は、これらの不純物を含まないものとする。食感改良油脂組成物中の脂肪酸モノグリセリドの含有量は0.005~1.00質量%である。この範囲であれば、加熱着色を抑えることができ、さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステルとの相乗効果でフライ後の調理品にサクサク感を付与することができる。本発明の食感改良油脂組成物は、脂肪酸モノグリセリドを0.001~0.5質量%含有することが好ましく、0.05~0.3質量%含有することがより好ましく、0.05~0.3質量%含有することがさらに好ましい。
【0015】
本発明で用いる脂肪酸モノグリセリドは、通常、グリセリンと脂肪酸をエステル化し、場合によっては分子蒸留等の精製を行うことにより得られる。前記脂肪酸モノグリセリドは、アルカリ触媒の存在下、又は無触媒で、グリセリンと脂肪酸を加熱することでエステル化して、製造できる。ここで、アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。なお、脂肪酸モノグリセリドを、アルカリ触媒を用いて製造した場合、通常、アルカリ触媒由来のアルカリ金属が脂肪酸塩として残存している脂肪酸モノグリセリドが得られ、そのまま本発明に用いてもよい。また、分子蒸留等で純度を高めたものを用いることもできる。なお、これらの組成物には、ジグリセリド、トリグリセリド、グリセリン、脂肪酸塩が不純物として含有されている。
【0016】
本発明で用いる脂肪酸モノグリセリドは、食感改良油脂組成物が液状になりやすいことから、構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であることが好ましく、不飽和脂肪酸がオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸であることがより好ましい。酸化安定性の点から、オレイン酸、エルカ酸がより好ましい。グリセリンのオレイン酸エステル等を用いることができる。
【0017】
<油脂>
本発明の食感改良油脂組成物は、油脂を含む。油脂としては、動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油などのほか、グリセリンと脂肪酸から合成した油脂を単独あるいは組み合わせて用いることができる。動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ハイオレイックなたね油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。原料油脂そのものが20℃で固体であっても、他の原料油脂と併用して用いることによって、油脂全体として液状であれば好適に使用できる。特に、融点の低い液状油でありながら、酸化安定性も良好であるという利点を有することから、なたね油、パームオレインとそれらの混合物などを好適に使用することができる。これらの油脂は、リパーゼ等による加水分解を受けると脂肪酸モノグリセリドが発生するが、精製で除去したものを用いることできる。また、脂肪酸モノグリセリドを含有したものを用いることもできる。なお、本発明において、原料油脂中にもともと含有される脂肪酸モノグリセリドは、前述の脂肪酸モノグリセリドとして含有量を算定するものとする。
<アルカリ金属>
本発明の食感改良油脂組成物は、アルカリ金属を含む。前述のとおり、本願において用いるポリグリセリン脂肪酸エステル中には、アルカリ金属が残存している。また、アルカリ金属を含む脂肪酸モノグリセリドを用いることができる。また、アルカリ金属をアルカリ金属化合物として添加することもできる。アルカリ金属化合物としては、脂肪酸アルカリ石鹸、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を用いることができる。なお、アルカリ金属を水酸化物、炭酸塩として添加した場合は、食感改良油脂組成物中において、経時的に脂肪酸アルカリ石鹸に置き換わると考えられる。アルカリ金属の含有量は特に限定するものではないが、0.1~5.0質量ppm含有することが好ましい。アルカリ金属の含有量は、0.1~3.0質量ppm含有することがより好ましく、0.1~2.5質量ppm含有することがさらに好ましい。アルカリ金属は、ナトリウム及び/又はカリウムが好ましい。なお、アルカリ金属含有量は、原子吸光光度計によって、測定することができる。
【0018】
(その他の成分)
本発明の食感改良油脂組成物中には、本発明の効果を損ねない程度に、その他の成分を加えることができる。これらの成分とは、例えば、一般的な油脂に用いられる成分(食品添加物など)である。これらの成分としては、例えば、酸化防止剤、その他の乳化剤、シリコーンオイル、結晶調整剤、食感改良剤等が挙げられ、脱臭後から充填前に添加されることが好ましい。
【0019】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。その他の乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ワックス類、ステロールエステル類、リン脂質等から適宜選択される。
【0020】
シリコーンオイルとしては、食品用途で市販されているものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルポリシロキサン構造を持ち、動粘度が25℃で800~5000mm2/sのものが挙げられる。シリコーンオイルの動粘度は、特に800~2000mm2/s、さらに900~1100mm2/sであることが好ましい。ここで、「動粘度」とは、JIS K 2283(2000)に準拠して測定される値を指すものとする。シリコーンオイルは、シリコーンオイル以外に微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0021】
<食感改良油脂組成物の用途>
本発明の食感改良油脂組成物は、あらゆる加熱調理用途に用いることができるが、フライ後の調理品のサクサク感を付与できるため、フライ用であること、すなわち、フライ用油脂として使用することが好ましい。
【0022】
[食感改良油脂組成物の製造方法]
本発明の食感改良油脂組成物の製造方法は、食感改良油脂組成物中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、油脂にポリグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸モノグリセリドを添加する工程を含み、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上である。
【0023】
本発明の食感改良油脂組成物の製造方法に使用される油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリドは、前述の[食感改良油脂組成物]で述べたとおりである。なお、油脂は、植物の種子若しくは果実、または動物性材料から搾油された粗油を出発原料として用い、順に、必要に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程を経て、さらに必要に応じて脱ろう工程を介した後、脱臭工程を経た精製により製造することができる。上記脱ガム工程、脱酸工程、および脱ろう工程は、採油される前の油糧原料に応じて変動し得る粗油の品質に応じて適宜選択される。
【0024】
本発明の製造方法では、油脂にポリグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸モノグリセリドを添加するが、その順番は特に限定するものではない。また、添加方法については、単独あるいは混合して添加してもよく、油脂で数倍に希釈した後に、油脂に添加することが好ましい。なお、添加は、10~200℃で行うことができ、10~80℃で行うことが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法は、必要に応じて、他の添加剤を添加する工程も含んでいてもよい。他の添加剤の添加工程は、油脂の精製工程後であるのが望ましく、その添加時の油脂温度等の条件は、添加剤の種類、目的によって適宜変更されるのが望ましい。
【0026】
[加熱調理食品の製造方法]
本発明の加熱調理食品の製造方法は、フライ調理工程前又はフライ調理工程中に、フライ油脂中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、添加する工程を含み、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上である。
【0027】
本発明の加熱調理食品は、フライ調理品であれば、特に限定するものではないが、パン粉等の衣を有するもの、及び/又はバッター液を用いるものが好ましい。例えば、パン粉等で覆われたフライ、あるいは天ぷら類、から揚げが好ましい。より好ましくは、天ぷらである。
【0028】
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸モノグリセリドの詳細は、前述の[食感改良油脂組成物]で述べたとおりである。加熱調理はフライ調理であることが好ましい。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸モノグリセリドの添加は、フライ調理に使用する前に添加するだけでなく、フライ調理後に不足分を補うように添加してもよい。継続的にフライ調理を行う場合、減少したポリグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸モノグリセリドを補うことができ、フライ油の加熱着色を抑えるだけでなく、加熱調理食品の食感を維持することができる。
【0029】
[加熱調理食品の食感を改良させる方法]
本発明の加熱調理食品の食感を改良させる方法は、フライ調理前又はフライ調理中に、フライ油脂中の、ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.02~0.20質量%、脂肪酸モノグリセリドの含有量を0.005~1.00質量%となるように、添加する操作を含み、該ポリグリセリン脂肪酸エステルは、HLBが3~8であり、ポリグリセリン部分の重合度が4以上である。
【0030】
本発明の加熱調理食品は、フライ調理品であれば、特に限定するものではないが、パン粉等の衣を有するもの、及び/又はバッター液を用いるものが好ましい。例えば、パン粉等で覆われたフライ、あるいは天ぷら類、から揚げが好ましい。より好ましくは、天ぷらである。
【0031】
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸モノグリセリドの詳細は、前述の[食感改良油脂組成物]で述べたとおりである。加熱調理はフライ調理であることが好ましい。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸モノグリセリドの添加は、フライ調理に使用する前に添加するだけでなく、フライ調理後に不足分を補うように添加してもよい。継続的にフライ調理を行う場合、減少したポリグリセリン脂肪酸エステル及び脂肪酸モノグリセリドを補うことができ、フライ油の加熱着色を抑えるだけでなく、加熱調理食品の食感を維持することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
<食感改良油脂組成物の調製>
油脂としてキャノーラ油を使用し、該油脂に、乳化剤を添加し、均一になるまで混合して、試験油(油脂組成物)を調製した。得られた試験油に対して、下記の方法で、フライ試験を行い、結果を表1に示した。なお、ナトリウム含有量は、原子吸光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製Z2310)によって、測定した。
【0034】
<フライ試験>
(比較対照油のフライ)
フライヤーに4Lのキャノーラ油を入れ、合計64時間、加熱(180℃)した。1時間ごとに、海老5本を、日清おいしい天ぷら粉(日清フーズ株式会社製):水=1:1.5のバッターをつけ、2.5分揚げた。得られた海老天を食感の評価において、比較対照とした。また、加熱64時間後の色調を測定した。結果を表1に示した。
(試験油のフライ)
キャノーラ油の代わりに、表1の配合の試験油(油脂組成物)を入れ、比較対照と同様の操作を行い、比較対照に対する食感の評価、64時間後の色調の測定を行った。結果を表1に示した。
(食感の評価基準)
20名の専門パネルが、比較対照と試験油のサンプルを食べ、試験油の方がサクサク感があると感じた人数を表1に示した。なお、各パネルは、比較対照と試験油のサンプルの由来を知らされずに評価した。
(音響センサー)
フライ後1時間経過した海老天を7枚の板状の突起物を有する破砕装置で破砕し、2000~4000Hzの破砕音からサクサク感を評価した。なお、10回測定し、30db以上の音の平均値(db)を算出した。同数値が高いとサクサク感が高い。
(色調:Y+10R値)
試験油(油脂組成物)の色調の濃淡を、ロビボンド比色計(The Tintometer Limited社製Lovibond PFX995)で0.5インチセルを使用して、黄の色度(Y値)、赤の色度(R値)を測定し、Y値+10×R値(以下、Y+10R)を算出して評価した。Y+10Rの数値が小さい程、色調が淡く、Y+10R数値が大きい程、色調が濃いことを意味する。
【0035】
【表1】
※配合の数値は、質量%
※キャノーラ油(日清オイリオグループ株式会社製)
※デカグリセリンオレイン酸エステル(商品名「リョートーポリグリエステル O-50D」三菱ケミカルフーズ株式会社製、HLB7、Na含有量50ppm)
※ジグリセリンオレイン酸エステル(モノ・ジエステル サンソフトQ17B Na含有量1100ppm)
※脂肪酸モノ・ジグリセリド:(モノグリセリド含有量:約45質量%、ジグリセリド含有量:約45質量%、遊離グリセリン含有量:約10質量%、構成脂肪酸:オレイン酸を主として、不飽和脂肪酸が70質量%以上 Na含有量 118ppm)
【0036】
実施例1から3の試験油では、比較対照と比べて、調理品の食感が良好であり、音響センサーの値も高く、サクサク感を有していることが確認できた。また、Y+10R値も低く抑えられている。一方、試験油4は食感に劣り、試験油5は食感とY+10R値に劣った。