(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】アルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20230130BHJP
C25D 11/16 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
C25D11/04 101E
C25D11/16
(21)【出願番号】P 2019023364
(22)【出願日】2019-02-13
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】598006336
【氏名又は名称】アルバックテクノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋志
(72)【発明者】
【氏名】石榑 文昭
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 さかえ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109161948(CN,A)
【文献】特開2004-211128(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104264200(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101538729(CN,A)
【文献】特開2013-060613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部品本体と、前記部品本体の表面に形成された酸化皮膜とを有し、前記酸化皮膜表面に剥離部、疵または摩耗痕のうちの少なくとも1つ以上を有
し、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置のチャンバー内で使用されたアルミニウム製部品の前記酸化皮膜の再生方法であって、
前記アルミニウム製部品の前記酸化皮膜の一部または全部を除去しないまま、前記アルミニウム製部品を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を行うことにより、前記酸化皮膜を修復する再生工程を含むことを特徴とするアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【請求項2】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部品本体と、前記部品本体の表面に形成された酸化皮膜とを有
し、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置のチャンバー内で使用されたアルミニウム製部品の前記酸化皮膜の再生方法であって、
前記アルミニウム製部品の
表面に形成された前記酸化皮膜の
うち前記表面の一部
にある前記酸化膜の厚み方向の上層部を除去するか、前記表面の全部にある前記酸化膜の厚み方向の上層部を除去するか、または、
前記アルミニウム製部品の表面に形成された前記酸化皮膜のうち前記表面の一部にある前記酸化皮膜
の厚み方向の全部を除去する
工程であって、前記上層部を除去する場合は前記酸化皮膜の膜厚Tに対して残存膜厚が0.2T~0.5Tの範囲になるように除去する除去工程と、
前記除去工程を経た前記アルミニウム製部品を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を行うことにより、除去された箇所の前記酸化皮膜の厚みを増加させる再生工程と、を含むことを特徴とするアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【請求項3】
前記除去工程は、前記酸化皮膜を除去するために、機械研磨処理、ブラスト処理または高圧水噴射処理を用いることを特徴とする請求項2に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【請求項4】
前記除去工程は、表面に異物が付着した前記酸化皮膜または表面が変質した酸化皮膜の上層部を除去することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【請求項5】
前記除去工程は、表面に異物が付着した部分の前記酸化皮膜または表面が変質した部分の酸化皮膜を除去することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【請求項6】
前記アルミニウム製部品が、前記部品本体に、前記部品本体の板厚方向に沿って複数の貫通孔が設けられてなる、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置のチャンバー内に設置されて使用されるプレートであり、
前記除去工程は、部品本体のうち前記貫通孔が設けられた面の一部または全部に形成された前記酸化皮膜に対して行うことを特徴とする請求項2乃至請求項
5の何れか1項に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【請求項7】
前記除去工程は、前記貫通孔の内面に形成された前記酸化皮膜に対して行わないことを特徴とする請求項
6に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【請求項8】
前記再生工程は、前記酸化皮膜の膜厚を、再生工程前の膜厚よりも厚くする工程であることを特徴とする請求項1乃至請求項
7の何れか1項に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリや発光ダイオード等の半導体装置、液晶表示装置や有機EL表示装置等の表示装置(フラットパネルディズプレイともいう)、太陽電池、磁気デバイス、光学膜等を製造する装置として、スパッタリング成膜装置、CVD成膜装置(CVD:Chemical Vaper Deposition)、真空蒸着装置、アッシング装置、エッチング装置、イオン注入装置、アニール装置等の各種の製造装置が知られている。これら製造装置は、処理対象の基材を収容するとともに、基材に対して成膜、エッチング、イオン注入、アニール等を行うためのチャンバーを有している。チャンバーには、成膜、エッチング、イオン注入、アニール等を円滑に行うために、様々な部品が備えられている。これらの部品の一部は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム製部品が使用されている。なかでも、プラズマ環境下でウエハや薄膜等を加工するエッチング装置や、薄膜を形成する成膜装置(以下、プラズマ環境下で処理する装置をプラズマ装置という。)では、チャンバー内で使用される金属製部品の大部分がアルミニウム製部品である。アルミニウム製部品の例として、原料ガス、腐食ガス等を基材上に均一に供給するために多数の貫通孔が設けられたプレートがある。また、別の例として、ヒータや遮蔽板等がある。
【0003】
上述のアルミニウム製部品は、プラズマ照射等から保護するため、あるいは電気的絶縁性を付与するため、または耐食性を向上するために、その表面に酸化皮膜を有することが一般的である。アルミニウム製部品の表面に酸化皮膜を形成する方法としては、例えば、硫酸浴を使用した硫酸陽極酸化処理、シュウ酸陽極酸化に代表される有機酸陽極酸化処理、硫酸と有機酸との混合溶液を用いる混酸陽極酸化処理等がある。これらの手法により、アルミニウム製部品の表面に酸化皮膜を形成している。
【0004】
ところで、プラズマ装置を使用して各種の処理を連続してまたは断続して行うと、徐々に、アルミニウム製部品の表面の酸化皮膜が劣化する場合がある。劣化の態様としては、プラズマに含まれるイオン、電子、ラジカル等による酸化皮膜の表面の腐食、酸化皮膜の表面が還元され又はフッ化されることによる酸化皮膜の表面の変質、各種の処理に伴って発生する反応副生成物の酸化皮膜表面への堆積、といったことが挙げられる。酸化皮膜の劣化は、プラズマ装置に限るものではなく、プラズマ装置以外の半導体製造装置やフラットパネルディスプレイ製造装置においても起きるおそれがある。
【0005】
このような酸化皮膜の劣化は、各種の製造装置における処理の障害となる。例えば、腐蝕や変質によって酸化皮膜から剥離した酸化アルミニウムが脱落したり、フッ化物に変質した酸化皮膜がその基材となるアルミニウムから脱落したり、表面に堆積した反応副生成物が脱落したりすることにより、パーティクルを引き起こす原因となる。そのため、このような障害を防止するために、各種の製造装置用として使用されるアルミニウム製部品については、定期的に当該製造装置から取り外し、酸化皮膜を完全に除去した後に、新たな酸化皮膜を形成することで、アルミニウム製部品を再生する必要がある。
【0006】
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウム製部品をエッチング液に浸漬させることで酸化皮膜を除去する方法や、研削、研磨等の機械的な手段によって酸化皮膜を除去する方法がある。後者については、特許文献1に、アルミニウム製部品の酸化皮膜を除去し、更に、酸化皮膜を除去したアルミニウム製部品に研磨処理を施すことが記載されている。
【0007】
しかし、アルミニウム製部品をエッチング液に浸漬させる方法では、次に説明する理由により、アルミニウム製部品を過剰にエッチングしてしまう場合がある。すなわち、酸化皮膜の劣化は、アルミニウム製部品の酸化皮膜全体が不均一に劣化する場合が多い。このため、劣化状態が比較的軽度な部分と、劣化状態が比較的重度な部分とが混在する場合がある。ここで、酸化皮膜のうち重度に劣化した箇所を除去するようにエッチング条件を調整すると、そのエッチング条件は、劣化が軽度な箇所に対しては過剰な条件になり酸化皮膜の下地まで過剰にエッチングしてしまう場合がある。
【0008】
上記の問題は、特に、多数の貫通孔が設けられたプレートに対してエッチング液を用いた酸化皮膜の除去を行う際に顕著になる。プレートにおいて、重度に劣化した酸化皮膜を完全除去する条件でエッチングすると、劣化が軽度な箇所、例えば、貫通孔の内部では、酸化皮膜がエッチングされるとともに貫通孔の内周面が過剰にエッチングされてしまい、貫通孔の内径が拡大する場合がある。プレートの酸化皮膜の再生を繰り返すと、当初は複数の貫通孔間での内径のばらつきが小さかったところが、次第に貫通孔間での内径のばらつきが大きくなる。このように貫通孔の形状が変化したプレートを用いて例えば薄膜の形成を行うと、薄膜原料の堆積量に分布が生じて薄膜の厚みが不均一になる場合があり、薄膜の品質に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0009】
また、特許文献1に記載されているように、研削、研磨等の機械的な手段によって酸化皮膜を除去すると、酸化皮膜の下地のアルミニウムまで過剰に研削してしまい、アルミニウム製部品の形状寸法が変化し、製造装置における処理の障害の原因になるおそれがある。形状寸法の変化を防止するために、酸化皮膜の膜厚方向の上層部のみを除去することが考えられる。しかし、下地を露出させずに酸化皮膜の一部を残したままで通常の陽極酸化処理を行っても、新たな酸化皮膜は成長しないため、酸化皮膜の再生が困難であった。
【0010】
更には、アルミニウム製部品を誤って傷つけてしまい、酸化皮膜に剥離部、疵または摩耗痕を生じさせてしまう場合がある。この場合に、酸化皮膜を部分的に再生したいという要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム製部品の酸化皮膜を再生することが可能な、アルミニウム製部品の酸化膜の再生方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
[1] アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部品本体と、前記部品本体の表面に形成された酸化皮膜とを有し、前記酸化皮膜表面に剥離部、疵または摩耗痕のうちの少なくとも1つ以上を有し、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置のチャンバー内で使用されたアルミニウム製部品の前記酸化皮膜の再生方法であって、
前記アルミニウム製部品の前記酸化皮膜の一部または全部を除去しないまま、前記アルミニウム製部品を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を行うことにより、前記酸化皮膜を修復する再生工程を含むことを特徴とするアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
[2] アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部品本体と、前記部品本体の表面に形成された酸化皮膜とを有し、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置のチャンバー内で使用されたアルミニウム製部品の前記酸化皮膜の再生方法であって、
前記アルミニウム製部品の表面に形成された前記酸化皮膜のうち前記表面の一部にある前記酸化膜の厚み方向の上層部を除去するか、前記表面の全部にある前記酸化膜の厚み方向の上層部を除去するか、または、前記アルミニウム製部品の表面に形成された前記酸化皮膜のうち前記表面の一部にある前記酸化皮膜の厚み方向の全部を除去する工程であって、前記上層部を除去する場合は前記酸化皮膜の膜厚Tに対して残存膜厚が0.2T~0.5Tの範囲になるように除去する除去工程と、
前記除去工程を経た前記アルミニウム製部品を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を行うことにより、除去された箇所の前記酸化皮膜の厚みを増加させる再生工程と、を含むことを特徴とするアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
[3] 前記除去工程は、前記酸化皮膜を除去するために、機械研磨処理、ブラスト処理または高圧水噴射処理を用いることを特徴とする[2]に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
[4] 前記除去工程は、表面に異物が付着した前記酸化皮膜または表面が変質した酸化皮膜の上層部を除去することを特徴とする[2]または[3]に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
[5] 前記除去工程は、表面に異物が付着した部分の前記酸化皮膜または表面が変質した部分の酸化皮膜を除去することを特徴とする[2]または[3]に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
[6] 前記アルミニウム製部品が、前記部品本体に、前記部品本体の板厚方向に沿って複数の貫通孔が設けられてなる、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置のチャンバー内に設置されて使用されるプレートであり、
前記除去工程は、部品本体のうち前記貫通孔が設けられた面の一部または全部に形成された前記酸化皮膜に対して行うことを特徴とする[2]乃至[5]の何れか1項に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
[7] 前記除去工程は、前記貫通孔の内面に形成された前記酸化皮膜に対して行わないことを特徴とする[6]に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
[8] 前記再生工程は、前記酸化皮膜の膜厚を、再生工程前の膜厚よりも厚くする工程であることを特徴とする[1]乃至[7]の何れか1項に記載のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、酸化皮膜表面に剥離部、疵または摩耗痕のうちの少なくとも1つ以上を有するアルミニウム製部品に対してマイクロアーク酸化処理を行って酸化皮膜を修復するので、アルミニウム製部品を新品同様に再生できる。
【0015】
また、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、アルミニウム製部品の酸化皮膜の一部若しくは全部の上層部を除去するか、または、酸化皮膜の一部を残して除去し、次いで、アルミニウム製部品に対してマイクロアーク酸化処理を行って、除去された箇所の酸化皮膜の厚みを増加させるので、劣化した酸化皮膜を新たな酸化皮膜に置き換えることができ、アルミニウム製部品を再生できる。本発明では、酸化皮膜の厚み方向の全部を除くことはせず、酸化皮膜の上層部のみを除去し、上層部以外の残部は残したままとするので、アルミニウム製部品の部品本体の一部を誤って過剰に除去してしまうおそれがない。また、マイクロアーク酸化処理を行うことにより、上層部が除かれて膜厚が減少し絶縁抵抗が小さくなった酸化皮膜に対して、新たな酸化皮膜を形成させることができ、上層部が除去された酸化皮膜を上層部除去前の元の厚みに容易に回復させることができる。
また、本発明では、酸化皮膜の全部を除去せず、一部を残してもよく、この場合は、アルミニウム製部品の部品本体の表面全部を誤って傷つけるおそれが少なくなる。また、酸化皮膜の一部を残した状態でマイクロアーク酸化処理を行うことにより、残存した酸化皮膜と同等の厚みの酸化皮膜を形成できる。
以上により、本発明によれば、アルミニウム製部品の酸化皮膜を再生できる。
【0016】
更に、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、除去工程において、酸化皮膜を除去するために機械研磨処理、ブラスト処理または高圧水噴射処理を用いるので、劣化した酸化皮膜を部分的に除去することができ、健全な酸化皮膜を残せるので、再生工程において迅速に酸化皮膜を再生できる。また、従来のエッチング液による除去処理に比べて、健全な酸化皮膜の形成箇所を過剰にエッチングするなどの不具合を起こすおそれもない。
【0017】
また、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、除去工程において、表面に異物が付着した酸化皮膜または表面が変質した酸化皮膜の上層部を除去するので、劣化した酸化皮膜のみを新たな酸化皮膜に置き換えることができ、アルミニウム製部品を迅速に再生できる。
【0018】
また、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、除去工程において、表面に異物が付着した部分の酸化皮膜または表面が変質した部分の酸化皮膜を除去するので、劣化した酸化皮膜のみを新たな酸化皮膜に置き換えることができ、アルミニウム製部品を迅速に再生できる。
【0019】
更に、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、対象とするアルミニウム製部品を、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置のチャンバー内に設置されて使用されたものとするので、チャンバー内において使用され、酸化皮膜の一部が劣化したアルミニウム製部品を再生できる。
【0020】
更にまた、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、アルミニウム製部品が、複数の貫通孔を有するプレートであり、貫通孔が設けられた面の一部または全部に形成された前記酸化皮膜に対して本発明の再生方法を実施するので、このプレートのうち劣化が激しい部分の酸化皮膜を選択的に再生することができる。
【0021】
更にまた、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、除去工程において、複数の貫通孔を有するプレートの貫通孔の内面に形成された酸化皮膜は除去しないので、本発明の再生方法を繰り返し行ったとしても、貫通孔の内径は新品のプレートの状態に保たれるので、チャンバー内においてプレートの貫通孔の変化に起因する不具合、例えば、形成した薄膜の厚みの不均一性を招くことがない。
【0022】
また、本発明のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法によれば、酸化皮膜の膜厚を、再生工程前の膜厚よりも厚くすることで、アルミニウム製部品を新たな酸化皮膜で覆うことができ、アルミニウム製部品の品質を向上できる。
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、劣化した酸化皮膜を再生することが可能な、アルミニウム製部品の酸化膜の再生方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法における除去工程を説明する断面模式図。
【
図1B】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法における除去工程を説明する断面模式図。
【
図2A】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法における除去工程を説明する断面模式図。
【
図2B】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法における除去工程を説明する断面模式図。
【
図3A】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法における再生工程を説明する断面模式図。
【
図3B】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法における再生工程を説明する断面模式図。
【
図4A】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法の別の例を説明する断面模式図。
【
図4B】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法の別の例を説明する断面模式図。
【
図5A】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法の更に別の例を説明する断面模式図。
【
図5B】実施形態のアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法の更に別の例を説明する断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態であるアルミニウム製部品の酸化皮膜の再生方法について説明する。
本実施形態のアルミニウム製部品の再生方法は、アルミニウム製部品の酸化皮膜の一部若しくは全部の上層部を除去するか、または、酸化皮膜の一部を残して除去する除去工程と、マイクロアーク酸化処理によって、除去された箇所の酸化皮膜の厚みを増加させる再生工程とを備える。
以下、各工程について説明する。
【0026】
本実施形態の処理対象であるアルミニウム製部品は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる部品本体と、部品本体の表面に形成された酸化皮膜とを備えている。本実施形態のアルミニウム製部品は、各種の製造装置のチャンバーに備えられる部品である。
【0027】
各種の製造装置とは、例えば、半導体製造装置またはフラットパネルディスプレイ製造装置であり、より具体的には、スパッタリング成膜装置、CVD成膜装置(CVD:Chemical Vaper Deposition)、真空蒸着装置、アッシング装置、エッチング装置、イオン注入装置、アニール装置等が挙げられる。
【0028】
また、上記の製造装置のチャンバーは、処理対象の基材を収容するとともに、基材に対して成膜、エッチング、イオン注入、アニール等を行うために、内部雰囲気を制御可能な処理室である。これらのチャンバーには、成膜、エッチング、イオン注入、アニール等を円滑に行うために、様々な部品が備えられている。
【0029】
本実施形態のアルミニウム製部品は、上述のチャンバー内で使用される部品であり、製造装置のメンテナンスの際に、チャンバーから取り外すことが可能とされている。
【0030】
アルミニウム製部品の具体例としては、例えば、複数の貫通孔を有するプレート、ヒータ、遮蔽部材等が挙げられる。これらの部品は、主に、プラズマ環境下で基材や薄膜等を加工するエッチング装置、薄膜を形成する成膜装置(以下、プラズマ環境下で処理する装置をプラズマ装置という。)に用いられる。
【0031】
複数の貫通孔を有するプレートは、部品本体に、部品本体の板厚方向に沿って複数の貫通孔が設けられてなる部品である。貫通孔の内径は0.1~2mm程度とされ、貫通孔の数は部品本体の大きさにもよるが数千から数万個である。
【0032】
アルミニウム製部品を構成する部品本体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。アルミニウムまたはアルミニウム合金は特に制限はないが、例えば、JIS合金番号の1000系の純アルミニウムや、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金を例示できる。また、アルミニウム合金として、Al-Si系合金、Al-Mg系合金、Al-Cu-Si系合金、Al-Cu-Mg-Si系合金、Al-Mg-Si系合金等を用いることもできる。
【0033】
部品本体の形状に特に制限はない。上述したプレートのように、多数の貫通孔が設けられたものでもよい。
【0034】
アルミニウム製部品を構成する酸化皮膜は、酸化アルミニウムを主成分とする酸化皮膜がよい。酸化皮膜は自然酸化膜ではなく、意図的に部品本体に形成された酸化皮膜を対象とする。
【0035】
アルミニウム製部品を構成する酸化皮膜は、後述のマイクロアーク酸化処理によって形成された酸化皮膜であってもよい。また、酸化皮膜は、各種の陽極酸化法によって形成された陽極酸化膜であってもよい。陽極酸化法としては、硫酸浴を使用した硫酸陽極酸化処理、シュウ酸陽極酸化に代表される有機酸陽極酸化処理、硫酸と有機酸との混合溶液を用いる混酸陽極酸化処理等が挙げられる。更に、アルミニウム製部品を構成する酸化皮膜は、アルマイト処理によって形成された酸化皮膜であってもよい。
【0036】
アルミニウム製部品を構成する酸化皮膜は、部品本体の全面に形成されていることが好ましい。例えば、プレートの貫通孔の内周面にも酸化皮膜が形成されていることが好ましい。
【0037】
アルミニウム製部品を構成する酸化皮膜の厚みは、例えば、5~20μmの範囲とすればよい。酸化皮膜の厚みは、アルミニウム製部品の任意の箇所の断面を露出させ、当該断面における酸化皮膜の厚みを光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて測定すればよい。厚みが不均一な場合は、例えば、断面において10mm間隔で酸化皮膜の厚みを10点測定しこれら10点の測定値の平均値とすればよい。
【0038】
次に、除去工程について説明する。
除去工程に供されるアルミニウム製部品は、酸化皮膜が劣化したものとする。ここで、酸化皮膜の劣化とは、例えば、酸化膜の表面に汚染物が付着した状態、または、酸化皮膜の表面が変質した状態を挙げることができる。
【0039】
汚染物が表面に付着した状態とは、例えば、上記の製造装置の各種の処理に伴って発生する反応副生成物が酸化皮膜表面に堆積した状態が挙げられる。
【0040】
酸化皮膜の表面が変質した状態とは、例えば、プラズマに含まれるイオンや電子やラジカル等によって酸化皮膜の表面が腐食された状態や、酸化皮膜の表面が還元され又はフッ化されたことによって酸化皮膜の表面が変質した状態が挙げられる。
【0041】
酸化皮膜の劣化の有無は、酸化皮膜の外観を肉眼で観察することで判別できる。酸化皮膜の変色や、酸化皮膜の表面が粗面化が認められる場合に、酸化皮膜が劣化していると判断できる。
【0042】
例えば、アルミニウム製部品が上記の製造装置のチャンバー内に設置されて使用されたことにより、酸化皮膜の一部または全部に変色が認められる場合に、酸化皮膜が劣化したとして、このようなアルミニウム製部品を本実施形態の再生方法の再生対象とすることができる。
【0043】
また、アルミニウム製部品を誤って傷つけてしまい、酸化皮膜に剥離部、疵または摩耗痕のうちの少なくとも1つ以上を形成させてしまう場合がある。このような酸化皮膜の不良箇所は肉眼で確認可能である。よって、酸化皮膜の外観を観察した結果、不良箇所を認めた場合にも、酸化皮膜が劣化したと判断できる。このようなアルミニウム製部品についても、本実施形態の再生方法の対象にできる。また、剥離部や疵や摩耗部が形成されたアルミニウム製部品は、各種の製造装置において使用前のものでもよく、使用後のものでもよい。
【0044】
なお、本実施形態で対象とするアルミニウム製部品は上述のものに限定されず、上述の各種の製造装置において使用され、処理の障害になる程度に表面が劣化したアルミニウム製部品全てについて適用することができる。
【0045】
除去工程は、アルミニウム製部品の酸化皮膜の一部若しくは全部の上層部を除去するか、または、前記酸化皮膜の一部を残して除去する工程である。酸化皮膜の劣化が酸化皮膜の一部に留まる場合は、劣化した酸化皮膜の上層部を除去すればよく、健全な箇所の酸化皮膜の上層部は除去しなくてもよい。また、酸化皮膜の劣化が酸化皮膜全体に及ぶ場合は、全部の酸化皮膜の上層部を除去の対象とすればよい。更に、酸化皮膜の劣化が酸化皮膜の一部に留まる場合、劣化していない酸化皮膜を残し、劣化した酸化皮膜を除去(この場合は上層部だけでなく厚み方向全部を除去)してもよい。
【0046】
酸化皮膜の上層部を除去する場合の除去範囲は、酸化皮膜の変色箇所、粗面化箇所、剥がれ箇所、傷発生箇所等の劣化箇所を含み、かつ、これら劣化箇所の周囲を含む領域の酸化皮膜の上層部とすればよい。また、劣化箇所が酸化皮膜の広範囲に分布している場合は、酸化皮膜の全部の上層部を除去すればよい。
【0047】
除去範囲を酸化皮膜の上層部とする理由は次の通りである。酸化皮膜の劣化は酸化皮膜の表面若しくは表面近傍に留る場合が多く、酸化皮膜と部品本体との界面側にまで劣化が達することは少ない。このため、上層部以外の部分は劣化がなく健全な状態にある。このような健全な部分までを除去範囲に含めると、除去工程が煩雑になり、生産性が低下する。従って、酸化皮膜の除去範囲は、劣化した酸化皮膜の上層部とする。また、酸化皮膜の除去範囲を、劣化した酸化皮膜の上層部とすることで、除去工程から再生工程を行う間において、下地の部品本体を露出させることなく、残存させた酸化皮膜によって部品本体を保護できる。また、酸化皮膜の除去の際に誤って部品本体を傷つけるおそれもない。
【0048】
以下、酸化皮膜の上層部を除去する場合について説明する。
図1Aには、除去工程前のアルミニウム製部品の部分断面模式図を示す。
図1Aに示すように、除去工程前のアルミニウム製部品1は、部品本体2と、部品本体2の表面に形成された酸化皮膜3とが備えられている。また、酸化皮膜3の一部に劣化箇所3aがある。この例の除去工程では、劣化箇所3aの周囲を含む領域の酸化皮膜の上層部3bを除去する。なお、
図1Aでは劣化箇所を「×」で示している。
図2A及び
図2Bでも同様である。
【0049】
図1Bには、除去工程後のアルミニウム製部品1の部分断面模式図を示す。
図1Bに示すように、除去工程を経ることによって、酸化皮膜3の厚みが部分的に小さくなる。
【0050】
ここで、酸化皮膜3の上層部3bを除去する際は、
図1Bに示すように、除去前の酸化皮膜3の厚みをTとしたとき、上層部3bを除去後の酸化皮膜3の厚みT’が0.2T~0.5Tの範囲内になるように、上層部3bを除去することが好ましい。除去後の酸化皮膜3の厚みT’が0.2T以上にすることで、再生工程において酸化皮膜の厚みを増大させるために必要な時間を短くできるので好ましい。また、除去後の酸化皮膜3の厚みT’が0.5T以下にすることで、劣化箇所を完全に除くことができるため好ましい。
【0051】
除去工程において上層部が除去されて残存した酸化皮膜は、その表面が平坦面である必要はなく、うねりがあってもよい。すなわち、残存膜厚がばらついていてもよい。残存膜厚のばらつきの範囲は、例えば、除去前の酸化皮膜3の厚みをTとしたとき、0.2T~0.5Tの範囲にあればよい。本実施形態の再生工程において実施するマイクロアーク酸化処理は、設定した電圧値によって膜厚を調整可能であり、再生後の膜厚を均一にすることが可能である。このため、除去工程において残存した酸化皮膜の膜厚がばらついていたとしても、再生工程によって均一な膜厚の酸化皮膜に再生できる。
【0052】
なお、
図1A及び
図1Bに示した例は、酸化皮膜の一部の上層部を除去する例である。劣化箇所3aが酸化皮膜3の広い範囲に分布する場合は、全部の酸化皮膜3の上層部3bを除去すればよい。
【0053】
除去工程は、上層部3bを除去する手段として、機械研磨処理、ブラスト処理または高圧水噴射処理を採用できる。機械研磨処理は、例えば、研磨材を含む研磨液を酸化皮膜表面に塗布して研磨する研磨処理、研磨材を含むブラシまたは布で酸化皮膜表面を研磨する研磨処理、あるいは、硬質の研磨材で酸化皮膜表面を研磨する研磨処理が挙げられる。ブラスト処理は、ドライアイス粉末を酸化皮膜表面に噴射するブラスト処理が挙げられる。高圧水噴射処理は、高圧水を酸化皮膜表面に噴射して劣化箇所を取り除く処理が挙げられる。尚、本実施形態の除去工程では、エッチング液を利用したエッチング処理は行わないことが望ましい。部品本体を過剰にエッチングするおそれがあるためである。
【0054】
アルミニウム製部品が複数の貫通孔を有するプレートの場合は、除去工程は、以下のように実施するとよい。
図2Aの拡大断面模式図に示すように、除去工程前のプレート11は、部品本体12と、部品本体12の厚み方向に沿って設けられた複数の貫通孔12aと、部品本体12の表面及び貫通孔12aの内周面に形成された酸化皮膜13とが備えられている。酸化皮膜13は、部品本体12の貫通孔12aが設けられた面に形成された酸化皮膜13aと、貫通孔12aの内周面に設けられた酸化皮膜13bとがある。酸化皮膜13a、13bに劣化箇所13cがある。
【0055】
図2Bには、除去工程後のプレート11の拡大断面模式図を示す。プレート11に対する除去工程は、部品本体12の貫通孔12aが設けられた面にある酸化皮膜13aの上層部を除去し、貫通孔12aの内面に形成された酸化皮膜13bは除去しない。これにより、
図2Bに示すように、除去工程後のプレート11は、除去工程前に比べて、酸化皮膜13aの膜厚が減少し、酸化皮膜13bの膜厚は減少しない。貫通孔12aの内部にある酸化皮膜13bには劣化箇所13cが残されたままとなるが、これが残されても製造装置における処理時に不具合は発生しないことから、除去しなくてもよい。
【0056】
なお、除去工程を行う前に、アルミニウム製部品に付着した溶解性の付着物を除去するために、アルミニウム製部品に対して水または有機溶剤による洗浄処理を行ってもよい。
【0057】
次に、再生工程について説明する。
再生工程では、除去工程を経たアルミニウム製部品を電解液に浸漬し、マイクロアーク酸化処理を行うことにより、上層部が除去された酸化皮膜の厚みを増加させる。マイクロアーク酸化処理は、火花放電を伴うアノード酸化処理であり、除去工程において上層部が除去されて膜厚が薄くなった酸化皮膜を絶縁破壊させて新たな酸化膜を成長させ、酸化皮膜の膜厚が増大して絶縁抵抗が高まるまで酸化皮膜の成長を続けるものである。
【0058】
マイクロアーク酸化処理を行うことにより、膜厚が減少した酸化皮膜に、新たな酸化皮膜を形成できる。これにより、上層部が除去された酸化皮膜を、上層部が除去される前の元の厚みに回復させることができる。
以下、マイクロアーク酸化処理の好ましい条件について説明する。本実施形態では、以下の条件1または条件2のいずれかの条件を採用することで酸化皮膜を再生するが、本実施形態はこの条件1、2に限定されるものではない。
【0059】
(条件1)
条件1では、除去工程を経たアルミニウム製部品を電解液に浸漬し、所定の電流密度でマイクロアーク酸化処理を行い、所定の電圧に達した後に、電圧を一定に維持する。電圧を一定にした後、電流密度が除々に降下するが、電圧一定の処理開始時の電流密度に対して、電流密度が1/100~1/10となった時点で処理を終了すればよい。
【0060】
マイクロアーク酸化処理の際の電流密度については、好ましくは1~6A/dm2、より好ましくは1~4A/dm2とする。1A/dm2以上であれば放電が十分となり、6A/dm2以下であれば、除去工程において除去しなかった酸化皮膜と、新たに形成した酸化皮膜との境界において膜質が均一になる。
【0061】
また、電解液の温度は-10~65℃とすることが好ましい。大きな冷却設備ではなく、冷却チラー等の小規模な冷却設備を用いて安定した酸化皮膜を形成することができるからである。
【0062】
電解液としては、例えば、りん酸水素二ナトリウム、トリポリりん酸ナトリウム、りん酸二水素ナトリウム、ウルトラポリりん酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、水酸化カリウム、二リン酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム等の中の1種類又はこれらの中の混合物を、水に溶解させたものを用いることができる。
【0063】
また、貫通孔を有するプレートのように、酸化皮膜を再生したい領域が大面積になる場合は、複数回に分けてマイクロアーク酸化処理を行ってもよい。すなわち、1回目の処理として、アルミニウム製部品の一部を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を行うことで、浸漬した箇所に酸化皮膜を形成する。次いで、2回目の処理として、1回目に形成した酸化皮膜の部位とは異なる他の部位(残りの部位)を電解液に浸漬して酸化皮膜を形成する。このように、酸化皮膜の再生が必要な箇所に対して、複数回に渡って酸化皮膜を形成してもよい。2回目の酸化皮膜の形成時には、1回目の酸化皮膜は絶縁膜となるので、2回目の処理では、1回目の酸化皮膜が形成されていない部位のみに集中的に酸化皮膜が形成されることになる。
【0064】
(条件2)
条件2では、除去工程を経たアルミニウム製部品を電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を行うが、その際、200V以上の第1の電圧まで定電流密度で行う第1工程と、第1工程の第1の電圧による定電圧処理を行わずに、第1の電圧から、第1の電圧よりも低い電圧の第2の電圧まで、所定の時間で線形又は段階的に電圧を下降させて、マイクロアーク酸化処理を行う第2工程と、第2の電圧で、定電圧処理を行う第3工程と、を行う。
【0065】
第1工程では、第1の電圧による処理時間は、200V以上の第1の電圧となるまで継続する。
また、第1の電圧の処理開始時の電流密度としては、1A/dm2~20A/dm2の範囲とすることが好ましい。1A/dm2以上であれば、電圧が十分に上昇し放電させることができる。また、電流密度を20A/dm2以下とすることで、形成した酸化皮膜が放電により破壊されることを防ぎ、皮膜構造を緻密にして耐食性を向上できるようになる。
【0066】
第2工程では、第1工程で第1の電圧となった後に、第1の電圧による定電圧処理を行わずに、第1の電圧から、第1の電圧よりも低い電圧の第2の電圧まで、所定の時間で線形又は段階的に電圧を下降させて、マイクロアーク酸化処理を行うものである。これにより、第1の電圧による定電圧処理での酸化皮膜の絶縁破壊を避けることができ、更には、電力消費を抑えることができる。
【0067】
第2工程と第3工程との間に、第2の電圧から第1の電圧まで電圧を上げる中間工程を行い、第2工程及び中間工程を1組の工程とし、この1組の工程を、第1工程の後に複数回繰り返し行うことが好ましい。これにより、酸化皮膜の膜質を高めることができる。
【0068】
また、「段階的」とは、第1の電圧と第2の電圧との間の電圧で少なくとも1つの定電圧処理を行うことを意味し、段階的に電圧を下降させる場合には、少なくとも1つの段階における電圧は、30秒以上保持されることが好ましい。酸化皮膜が形成されにくい部分への酸化皮膜の形成に時間が必要だからである。尚、この時間の上限は最大でも10時間とする。10時間を超えるような場合には電解もしくは電解液により酸化皮膜が腐食するからである。
【0069】
また、印加する電圧及び電流の波形に関しては、交流、直流や交流と直流の重畳のいずれでもよく、交流の場合には、電流又は電圧は、正弦波でも、正弦波でなくてもよい。
上記のように、電圧を一定で処理することにより、電流の流れやすいところ、即ち、酸化皮膜が形成されていないところに順次酸化皮膜を形成させることができる。
【0070】
第3工程は、第2工程の終了時の電圧、即ち、第2の電圧で所定の時間、定電圧処理を行うものである。処理時間としては、5分~10時間とすることが好ましい。5分未満では酸化皮膜が十分に成長しない。また、10時間を超える場合には電解もしくは電解液によって酸化皮膜が腐食するおそれがある。
【0071】
第2の条件においても、貫通孔を有するプレートのように、酸化皮膜を再生したい領域が大面積になる場合は、複数回に分けてマイクロアーク酸化処理を行ってもよい。
【0072】
図3Aには、再生工程前のアルミニウム製部品1の断面模式図を示し、
図3Bには、再生工程後のアルミニウム製部品1の断面模式図を示す。マイクロアーク酸化処理を行うことで、酸化皮膜3のうち上層部が除去されなかった部分3Aは、再生工程を経てもその膜厚はほとんど変化しないが、上層部が除去されて膜厚が減少した部分3Bには新たな酸化皮膜が成長して膜厚が増大し、好ましくは部分3Aと同じ膜厚まで増大する。新たに形成する酸化皮膜3の膜厚を調整するには、元の酸化膜の膜厚になるまで酸化膜が成長するように、マイクロアーク酸化処理の条件を調整することが好ましい。具体的には、電圧を適宜設定すればよい。
【0073】
ここで、
図3Bに示す例では、部品本体2は再生工程の前後で大きな変化はみられないが、部品本体2が再生工程の前後で僅かに変化する場合もある。すなわち、マイクロアーク酸化処理は、下地のアルミニウムまたはアルミニウム合金を酸化皮膜の原料とする成膜プロセスであるため、膜厚が減少した部分3Bに新たな酸化皮膜を成長させる際に、膜厚が減少した部分3Bの直下の部品本体2の表層が、アルミニウムまたはアルミニウム合金から酸化皮膜に置き換わる場合もあり得る。
【0074】
なお、
図3A及び
図3Bに示した例は、酸化皮膜3の一部の上層部を除去したアルミニウム製部品1に対して、再生工程を実施した例である。全部の酸化皮膜3の上層部を除去したアルミニウム製部品に対して再生工程を実施する場合は、酸化皮膜の全部の厚みが元の厚みになるまで成長させるとよい。この場合も、マイクロアーク酸化処理の条件を調整することが好ましい。具体的には、電圧を適宜設定すればよい。また、この場合も、上層部を除去して箇所直下の部品本体2の表層が、アルミニウムまたはアルミニウム合金から酸化皮膜に置き換わる場合があり得る。
【0075】
部品本体2の表層が、アルミニウムまたはアルミニウム合金から酸化皮膜に置き換わった場合でも、その置換量はごく僅かであるので、半導体製造装置やフラットパネルディスプレイ製造装置での各種の処理において障害を生じさせるおそれはない。
【0076】
除去工程にて残存させた酸化皮膜と、再生工程にて新たに形成された酸化皮膜は、膜質がほぼ同等になり、また、再生前後でほぼ同じ膜厚になるので、アルミニウム製部品として必要な、プラズマ照射に対する耐久性、電気的絶縁性、耐食性を有するものとなる。
【0077】
なお、本実施形態の再生方法によって再生されたプレートは、部品本体に、部品本体の板厚方向に沿って複数の貫通孔が設けられ、貫通孔の内周面を含む部品本体の全面に酸化皮膜が形成されてなり、貫通孔の内周面の酸化皮膜が劣化した状態にあり、それ以外の酸化皮膜は劣化していない状態にある。このため、貫通孔の内周面の酸化皮膜の状態を確認することで、プレートに本実施形態の再生方法が適用されたかどうかを判断することができる。
【0078】
以上説明したように、本実施形態によれば、酸化皮膜の下地である部品本体に研削や研磨を施すことなく、劣化した酸化皮膜を再生することができる。
【0079】
以上説明した実施形態では酸化皮膜の上層部を除去した後に酸化皮膜を再生する方法について説明したが、本発明では、
図4Aに示すように、酸化皮膜3のうち、劣化した箇所の酸化皮膜の厚み方向全部13Bを除去してから、
図4Bに示すように、マイクロアーク酸化処理によって、酸化皮膜3を再生してもよい。
【0080】
この場合の酸化皮膜の除去範囲は、
図1A及び
図1Bに示した場合と同様に、酸化皮膜の変色箇所、粗面化箇所、剥がれ箇所、傷発生箇所等の劣化箇所を含み、かつ、これら劣化箇所の周囲を含む領域の酸化皮膜とすればよい。
【0081】
劣化した箇所13Bの酸化皮膜の厚み方向全部を除去する場合も、機械研磨処理、ブラスト処理または高圧水噴射処理を採用できるが、酸化皮膜3の下地である部品本体2を傷つけないような処理条件とすることが望ましい。
【0082】
除去工程後は、上記の実施形態と同様にしてマイクロアーク酸化処理による再生工程を行うことで、酸化皮膜を再生することができる。
【0083】
また、以上説明した実施形態では、各種の製造装置において使用され、表面に異物が付着した酸化皮膜または表面が変質した酸化皮膜を有するアルミニウム製部品を再生方法の対象とした。次に説明する例では、表面に不良箇所が生じた酸化皮膜を有するアルミニウム製部品を対象とする。このようなアルミニウム製部品として例えば、アルミニウム製部品のハンドリング中に、酸化皮膜に、剥離部、擦り疵や凹み疵などの疵または摩耗痕といった不良箇所が生じてしまったものを例示できる。不良箇所以外の酸化皮膜は健全な状態にある。
図5Aに、凹み疵24Bを有する酸化皮膜3を示す。
【0084】
このようなアルミニウム製部品に対しては、上述したように除去工程と再生工程を行ってもよいが、酸化皮膜の除去工程を省略して再生工程を行ってもよい。凹み疵24Bが生じた酸化皮膜3は、凹み疵24Bの部分において局所的に厚みが減少したものとなっている。このような酸化皮膜に対してマイクロアーク酸化処理を行うことで、凹み疵24Bの箇所に新たな酸化皮膜を形成させることができ、これにより、凹み疵24Bを消滅させて、アルミニウム製部品を再生できる。
【0085】
また、上記の実施形態では、再生工程において、新たに形成する酸化皮膜の膜厚を調整する際に、元の酸化皮膜の膜厚になるまで酸化皮膜が成長するように、マイクロアーク酸化処理の条件を調整することが好ましいと説明したが、本発明はこれに限らず、元の酸化皮膜の膜厚を超える膜厚まで酸化皮膜が成長するように、マイクロアーク酸化処理の条件を調整してもよい。これにより、アルミニウム製部品全体を新たな酸化皮膜で覆うことができ、アルミニウム製部品の品質を向上できる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の一態様を示すものであって、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0087】
縦1100mm、横900mm、厚み20mmのプレートを用意した。プレートには、内径0.69mmの貫通孔を多数設けた。また、プレートは、アルミニウム合金製の部品本体に、酸化皮膜が平均で15μmの厚みで形成されたものとした。酸化皮膜は、マイクロアーク酸化処理法によって形成した。この際、貫通孔の内周面にも酸化皮膜を形成した。
【0088】
上記のプレートを、フラットパネルディスプレイ製造装置であるプラズマ成膜装置のチャンバー内に取り付け、原料ガスを供給しつつ複数枚のガラス基板に対して成膜処理を行った。また、成膜処理の合間に、適宜、フッ素ガスをチャンバー内に流すクリーニング処理を行った。プレートの使用上限時間まで成膜処理とクリーニング処理を行い、使用上限時間を経過後に、チャンバーからプレートを取り出した。プレートの酸化皮膜の表面には、酸化アルミニウムとフッ素ガスとが反応したことによりフッ化アルミニウムが形成していた。
【0089】
除去工程として、プレートに対して、研磨布による機械的研磨処理を行い、酸化皮膜の上層部を除去した。除去範囲は、プレートの表面に形成された酸化皮膜の全部を対象としたが、貫通孔内の酸化皮膜は除去しなかった。酸化皮膜の残存膜厚は3~6μmの範囲となって若干ばらついた。酸化皮膜の残存膜厚は、元の酸化皮膜厚みをT(15μm)としたときに、0.2T~0.5Tの範囲であった。
【0090】
次いで、再生工程として、除去工程後のプレートを電解液に浸漬してマイクロアーク酸化処理を行った。電解液は、水酸化カリウム、メタけい酸ナトリウム及びりん酸三ナトリウムのそれぞれを3g/Lとなるように純水に溶かしたアルカリ性電解液を使用した。上記電解液を、カーボン製の対向電極が設けられた電解槽に入れ、直流の定電流でマイクロアーク酸化処理を行った。電流密度6.0A/dm2で450Vに達するまで酸化皮膜を形成した後、電流密度0.28A/dm2となるまで450Vで定電圧処理を行った。電解液の温度は65℃以下とした。このようにして、酸化皮膜を再生した。
【0091】
再生後のプレートを上記と同様にプラズマ成膜装置のチャンバー内に取り付けて、上記と同様にして成膜処理とクリーニング処理を行い、使用上限時間を経過後に、チャンバーからプレートを取り出し、上記と同様にして除去工程と再生工程を行った。この一連の作業を、合計で3回繰り返した。このようにして酸化皮膜の再生を繰り返したプレートを実施例のプレートとした。
【0092】
一方、除去工程として、水酸化ナトリウム水溶液をエッチング液とし、このエッチング液に使用済みのプレートを浸漬させることで酸化皮膜の全部を除去すること以外は、上記実施例と同様にして、比較例のシャワープレートを調製した。
【0093】
実施例及び比較例のプレートについて、フッ化アルミニウムの付着量が少なかった領域の貫通孔の内径の変化を調べた。貫通孔を任意に10個を選択して内径を測定し、その平均値を求めた。貫通孔の内径の測定は、3回の再生工程後においてそれぞれ行った。結果を下記表1に示す。
【0094】
【0095】
表1に示すように、実施例のプレートは、再生を繰り返した場合であっても、貫通孔の内径はほぼ変化がないのに対し、比較例のプレートは、再生を繰り返すたびに内径が拡大しており、貫通孔の形状が変化したことが分かる。
【0096】
また、実施例のプレートは、除去工程において酸化皮膜の上層部を除去することで、酸化皮膜の残部を残して部品本体を露出させなかったが、再生工程においてマイクロアーク酸化処理を行ったために、新たな酸化皮膜が形成できた。実施例においては、除去工程において残存した酸化皮膜と、新たに形成した酸化皮膜との間に界面等の明確な境界が確認されず、残存した酸化皮膜と新たな酸化皮膜とが一体化していた。
【0097】
また、実施例のプレートは、除去工程において、酸化皮膜の除去量にばらつきが生じたが、再生後の酸化皮膜の膜厚はほぼ15μmとなり、膜厚のばらつきは生じなかった。
【0098】
更に、実施例のプレートは、除去工程において酸化皮膜を残存させたため、部品本体が残存させた酸化皮膜によって保護され、部品本体に傷等が発生することが無かった。
【0099】
一方、比較例のプレートでは、除去工程において全部の酸化皮膜を除去したため、再生工程の作業時間が実施例の場合よりも長くなった。
【符号の説明】
【0100】
1…アルミニウム製部品、2、12…部品本体、3…酸化皮膜、3b…酸化皮膜の上層部、11…プレート、12a…貫通孔、13a…貫通孔が設けられた面の酸化皮膜、13b…貫通孔の内面に形成された酸化皮膜。