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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】微生物発電方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20230131BHJP
   H01M 8/04082 20160101ALI20230131BHJP
   H01M 8/04791 20160101ALI20230131BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20230131BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/04082
H01M8/04791
C02F3/34 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019060885
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020161380
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小松 和也
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-531489(JP,A)
【文献】特開2009-224128(JP,A)
【文献】特開2015-009210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を保持し電子供与体である有機物を含む原水が供給されるアノード室と、該アノード室に対しイオン透過性を有した非導電性膜を介して隔てられ、電子受容体が供給されるカソード室とを備えた微生物発電装置による微生物発電方法において、
前記アノード室内の溶解性BOD濃度が50mg/L以下となるように運転調整するとともに、前記アノード室流出水の一部を循環させて原水に混合することにより前記アノード室に流入するアノード室流入水の溶解性BODの濃度を50mg/L以下に調整する微生物発電方法。
【請求項2】
原水、アノード室流出水、前記循環させる循環水、原水と循環水とが混合した混合水のいずれかのpHを調整する請求項1に記載の微生物発電方法。
【請求項3】
微生物を保持し電子供与体である有機物を含む原水が供給されるアノード室と、該アノード室に対しイオ透過性を有した非導電性膜を介して隔てられ、電子受容体が供給されるカソード室とを備えた微生物発電装置において、
前記アノード室内の溶解性BOD濃度が50mg/L以下となるように運転調整するとともに前記アノード室流出水の一部を循環させて原水に混合することにより前記アノード室に流入するアノード室流入水の溶解性BODの濃度を50mg/L以下に調整する運転調整手段を備えた微生物発電装置。
【請求項4】
原水、アノード室流出水、前記循環させる循環水、原水と循環水とが混合した混合水のいずれかのpHを調整するpH調整手段が設けられている請求項3に記載の微生物発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の代謝反応を利用する発電方法及び装置に関する。本発明は特に、有機物を微生物に酸化分解させる際に得られる還元力を電気エネルギーとして取り出す微生物発電方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を用いた発電装置として、特許文献1~3には、微生物を保持する導電性充填材をアノード室内全体に存在させるとともに、アノード室とカソード室とを隔てる非導電性膜を、アノード室とカソード室とにそれぞれ配置される電極と密着させた微生物発電装置が記載されている。この微生物発電装置では、アノード室内での原水の短絡を防止するとともに、微生物反応により生じる電子およびプロトン(H)の移動を促進し、発電効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-152091号公報
【文献】特開2010-33823号公報
【文献】特開2009-224128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微生物発電装置は、アノード電極表面に発電微生物が付着増殖することによって、発電を伴う有機物分解が進むが、アノード室は嫌気条件であるため、長期間運転しているうちに嫌気性微生物であるメタン生成菌が増殖して分解有機物あたりの発電量(電流効率)が低下してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、アノード室内のBOD濃度を低く維持することにより、メタン生成菌の増殖を抑え、アノード室内に発電微生物を優占させ続けることができる微生物発電方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微生物発電方法は、微生物を保持し電子供与体である有機物を含む原水が供給されるアノード室と、該アノード室に対しイオン透過性を有した非導電性膜を介して隔てられ、電子受容体が供給されるカソード室とを備えた微生物発電装置による微生物発電方法において、前記アノード室内の溶解性BOD濃度が50mg/L以下となるように運転調整する。
【0007】
本発明方法の一態様では、前記原水の濃度を調整することにより前記運転調整を行う。
【0008】
本発明方法の一態様では、前記アノード室流出水の一部を循環させて原水に混合することにより前記原水の濃度を調整する。
【0009】
本発明方法の一態様では、原水、アノード室流出水、前記循環させる循環水、原水と循環水とが混合した混合水のいずれかのpHを調整する。
【0010】
本発明の微生物発電装置は、微生物を保持し電子供与体である有機物を含む原水が供給されるアノード室と、該アノード室に対しイオ透過性を有した非導電性膜を介して隔てられ、電子受容体が供給されるカソード室とを備えた微生物発電装置において、前記アノード室内の溶解性BOD濃度が50mg/L以下となるように運転調整する運転調整手段を備えている。
【0011】
本発明装置の一態様では、前記運転調整手段は、前記原水の濃度を調整するものである。
【0012】
本発明装置の一態様では、前記運転調整手段は、前記アノード室流出水の一部を原水に循環させる循環ラインであり、循環水を原水に混合することにより前記原水の濃度を調整するものである。
【0013】
本発明装置の一態様では、原水、アノード室流出水、前記循環させる循環水、原水と循環水とが混合した混合水のいずれかのpHを調整するpH調整手段が設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、アノード室流出水(処理水)の一部をアノード室に循環させるなどして運転調整し、好ましくはアノード室内を完全混合に近い状態としたうえで、好ましくは溶解性BOD濃度50mg/L以下に制御する。メタン生成菌に比べ、発電微生物は基質親和性が高いため、アノード室内のBOD濃度を低く維持することにより、メタン生成菌の増殖を抑え、アノード室内に発電微生物を優占させ続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係る微生物発電装置の模式的な縦断面図である。
図2】実施の形態に係る微生物発電装置の模式的な縦断面図である。
図3】実験結果を示すグラフである。
図4】実験結果を示すグラフである。
図5】実験結果を示すグラフである。
図6】実験結果を示すグラフである。
図7】実験結果を示すグラフである。
図8】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の微生物発電方法及び微生物発電装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の微生物発電方法及び装置の概略的な構成を示す模式的断面図である。
【0018】
槽体1内に複数枚のイオン透過性非導電性膜2が平行に配置されることによってカソード室3とアノード室4とが交互に区画されている。各カソード室3内にあっては、イオン透過性非導電性膜2に接するように正極5が配置されている。
【0019】
正極(カソード)5は、導電性材料(グラファイト、チタン、ステンレスなど)で構成された立体よりなる。正極を構成する素材は、電子受容体の種類によって適宜、選択すればよい。酸素を電子受容体とする場合は白金などの酸素還元触媒を用いることが好ましく、例えばグラファイトフェルトを基材として白金を担持させるとよい。
【0020】
カソード室3内には酸素含有ガスの代りに、例えばヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(フェリシアン化カリウム)を含む液を供給してもよい。この場合、正極5として、安価なグラファイト電極をそのまま(白金を担持させずに)使用してもよい。
【0021】
各アノード室4内には、導電性材料(グラファイト、チタン、ステンレスなど)で構成された立体の負極6が配置されている。アノード室4内に発電微生物が保持されている。
【0022】
この実施の形態では、カソード室3内は、空室であり、ガス流入管7を介して空気などの酸素含有ガスが導入され、ガス流出管8を経て排ガスが流出する。
【0023】
カソード室3とアノード室4とを仕切るイオン透過性非導電性膜2としては、非導電性、かつイオン透過性を有するものであれば殆どのものが使用できる。イオン交換膜、紙、織布、不織布、いわゆる有機膜(精密濾過膜)、ハニカム成形体、格子状成形体等が使用できる。イオンを透過させ易くするために、厚さは10μm~1mm、特に30~100μm程度の薄いものが好ましい。
【0024】
アノード室4には中和槽10でpH調整された原水添加負極溶液がポンプ11及び配管12を介して導入し、流出配管13から廃液を排出させる。なお、アノード室4内は密閉され嫌気性とされる。
【0025】
流出配管13へ流出した流出液の一部は、配管13から分岐した循環配管14を介して中和槽10に循環され原水が希釈される。この中和槽10には、液のpHを測定するpH計15が設けられると共に、配管16から水酸化ナトリウム水溶液などのpH調整剤が添加され、負極溶液のpHが7~9に調整される。アノード室の温度条件は常温から中高温、具体的には10~70℃程度とすることが好ましい。
【0026】
アノード室流出水の循環比率は、アノード室4内が完全混合に近くなるように、原水量:循環水量として1:10以上、特に1:50以上、原水のBOD濃度が10,000mg/Lを超えるような高濃度の場合には1:200以上とするのが好ましい。
【0027】
本発明では、アノード室4内の溶解性BOD濃度が50mg/L以下、例えば5~50mg/Lに維持されるように、原水量及び/又は循環水量を調整する。アノード室内のBOD濃度を低く維持することにより、メタン生成菌の増殖を抑え、アノード室内に発電微生物を優占させ続けることができる。このような原水濃度の調整方法としては他にも、系外からの希釈水の添加や、BOD除去する前処理の実施なども原理上は可能である。
【0028】
アノード室4に窒素ガスなどの酸素を含有しないガスを連続的、または、間欠的に通気してもよい。負極表面にガスによる剪断力が与えられ、生物膜の過度な付着による閉塞を防ぐ効果が高まるのに加え、特にカソード室3で酸素を電子受容体とする場合などには、好気性スライムの増殖などにより性能低下に繋がる、カソード室3からアノード室4に浸透する酸素を除去する効果もある。
【0029】
正極5と負極6との間に生じた起電力により、端子20,21を介して図示しない外部抵抗に電流が流れる。
【0030】
カソード室3に酸素含有ガスを通気すると共に、アノード室4に負極溶液を流通させることにより、アノード室4内では、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子21、外部抵抗、端子20を経て正極5へ流れる。
【0031】
イオン透過性非導電性膜2がカチオン交換膜である場合、上記反応で生じたプロトンHは、カチオン交換膜を通って正極5に移動する。正極5では、
+4H+4e→2H
なる反応が進行する。この正極反応で生成したHOはカソード排ガスと共に排出される。
【0032】
イオン透過性非導電性膜2としてアニオン交換膜を用いた場合、正極5では、
+2HO+4e→4OH
なる反応が進行する。この正極反応で生成したOHがイオン透過性非導電性膜2としてのアニオン交換膜を透過する。
【0033】
アノード室4では、微生物による水の分解反応によりCOが生成することにより、pHが低下しようとする。そこで、pH計15の検出pHが好ましくは7~9となるようにアルカリが中和槽10に添加される。このアルカリは、アノード室6に直接に添加されてもよいが、循環水や、原水が循環水で希釈された混合水に添加することにより、アノード室6内の全域を部分的な偏りなしにpH7~9に保つことができる。
【0034】
図2は本発明の別の実施の形態に係る微生物発電装置を示している。図1に示す微生物発電装置では、各アノード室4に対し負極溶液が並列に通水されている。図2では、各アノード室4は直列に接続されており、負極溶液は直列に通水される。図2のその他の構成は図1と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0035】
本発明では、アノード室内に保持され、電気エネルギーを産生させる微生物は、電子供与体としての機能を有するものであれば特に制限されない。例えば、Saccharomyces、Hansenula、Candida、Micrococcus、Staphylococcus、Streptococcus、Leuconostoa、Lactobacillus、Corynebacterium、Arthrobacter、Bacillus、Clostridium、Neisseria、Escherichia、Enterobacter、Serratia、Achromobacter、Alcaligenes、Flavobacterium、Acetobacter、Moraxella、Nitrosomonas、Nitorobacter、Thiobacillus、Gluconobacter、Pseudomonas、Xanthomonas、Vibrio、Comamonas、Proteus(Proteus vulgaris)及びShewanell Geobacterの各属に属する細菌、糸状菌、酵母などを挙げることができる。このような微生物を含む汚泥として下水等の有機物含有水を処理する生物処理槽から得られる活性汚泥、下水の最初沈澱池からの流出水に含まれる微生物、嫌気性消化汚泥等を植種としてアノード室に供給し、微生物を負極に保持させることができる。発電効率を高くするためには、アノード室内に保持される微生物量は高濃度であることが好ましく、例えば微生物濃度は1~50g/Lであることが好ましい。
【0036】
負極溶液は原水由来の有機物を含むものである。この有機物としては、微生物によって分解されるものであれば特に制限はなく、例えば水溶性の有機物、水中に分散する有機物微粒子などが例示される。原水としては、下水、食品工場排水などの有機性廃水が例示される。
【0037】
負極溶液中には、微生物又は細胞からの電子の引き抜きをより容易とするために電子メディエーターを含有させてもよい。この電子メディエーターとしては、例えば、チオニン、ジメチルジスルホン化チオニン、ニューメチレンブルー、トルイジンブルー-O等のチオニン骨格を有する化合物、2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン等の2-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン骨格を有する化合物、ブリリアントクレジルブルー、ガロシアニン、レソルフィン、アリザリンブリリアントブルー、フェノチアジノン、フェナジンエソスルフェート、サフラニン-O、ジクロロフェノールインドフェノール、フェロセン、ベンゾキノン、フタロシアニン、あるいはベンジルビオローゲン及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0038】
さらに、微生物の発電機能を増大させるような材料、例えばビタミンCのような抗酸化剤や、微生物中の特定の電子伝達系や物質伝達系のみを働かせる機能増大材料を溶解すると、さらに効率よく電力を得ることができるので好ましい。
【0039】
負極溶液は、必要に応じ、リン酸バッファを含有していてもよい。
【0040】
カソード室に流通させる酸素含有ガスとしては、空気が好適であるが、純酸素や、酸素を富化させた空気を用いることもできる。
【実施例
【0041】
以下、比較例及び実施例について説明する。
【0042】
[比較例1]
アノード室及びカソード室をそれぞれ1室ずつ有する微生物発電装置を製作した。
【0043】
7cm×25cm×0.5cm(厚さ)のアノード室(容積87.5mL)に、厚さ0.5cmのグラファイトフェルトを充填して負極を形成した。このアノード室の厚さ方向に対して、厚さ30μmのポリオレフィン製の不織布よりなるイオン透過性非導電性膜を介してカソード室を形成した。カソード室も7cm×25cm×0.5cm(厚さ)であり、厚さ0.5cmのグラファイトフェルトを充填して正極を形成した。負極と正極のグラファイトフェルトには、それぞれステンレス線を導電性ペーストで接着して電気引出し線とし、3Ωの抵抗で接続した。装置は35℃に制御された室内に設置した。
【0044】
アノード室には、2N NaOHを添加してpHを7.5に調整した、酢酸1,250mg/Lと50mMリン酸バッファ、酵母エキス、および塩化アンモニウムを含む合成排水よりなる原水(BOD 1,000mg/L)を160mL/hrの流量にて上向流で通水した。なお、原水の通水に先立って、他の稼動中の微生物発電装置の流出液を植菌として通液した。
【0045】
カソード室には50mMのフェリシアン化カリウムとリン酸バッファとを含む正極溶液を70mL/minの流量で供給した。
【0046】
[比較例2]
比較例1において、アノード室流出水(処理水)を処理水槽に受け、処理水槽にてpH7.5に調整したアノード室流出水を152mL/min(9.1L/hr)の流量で循環し、160mL/hrの原水と混合してアノード室に上向流で通水するようにした。
【0047】
[比較例3]
比較例2において、原水と循環水の混合水の合計流量を13mL/min(0.78L/hr)で一定としたうえで、立ち上げ時は原水の流量を低めに調整し、アノード室流出水(処理水)の溶解性BOD濃度が10~50mg/Lにあるのを確認しながら原水の流量を徐々に最大160mL/hrまで上げることで徐々に溶解性BOD負荷を上げるように調整した。
【0048】
[実施例1]
比較例3において、原水と循環するアノード室流出水の合計流量を155mL/min(9.3L/hr)で一定としたうえで、アノード室流出水(処理水)の溶解性BOD濃度が10~50mg/Lにあるのを確認しながら原水の流量を最大160mL/hrまで上げるように調整した。
【0049】
<結果及び考察>
比較例1~3、実施例1のBOD槽負荷、アノード流出水BOD濃度の推移を図3~6に示す。BOD槽負荷43kg/m/dで運転を行った比較例1、2では、アノード流出水(処理水)BOD濃度が徐々に低下し、1.5~2ヶ月経過した頃より300mg/L前後で安定した。一方、アノード流出水BOD濃度が5~50mg/Lになるように原水量を調整して立ち上げた比較例3、実施例1では40日後にBOD槽負荷43kg/m/dに達し、それ以降、アノード流出水BOD濃度は30mg/L前後で安定して推移した。
【0050】
発電量の推移を図7に示す。比較例1では3週間経過後の0.4kW/mをピークに、比較例2では約1ヶ月経過後の0.8kW/mをピークに、比較例3では約1ヶ月経過後の1.0kW/mをピークに、いずれも低下し、2ヶ月以降、比較例1、2は0.1kW/m以下に、比較例3も0.3kW/mになった。一方、実施例では40日後に1.4kW/mに達した後、1.4~1.5kW/mで安定して推移した。
【0051】
図8に電流効率(酢酸酸化時に得られる理論電子量に対する、電流として外部回路に流れた電子量の比率)の推移を示す。実施例1では0.7前後で安定していたのに対し、比較例1~3では初期の0.6~0.7から0.2以下に低下しており、アノード室でメタン生成菌が優占化してメタン発酵が進行していたと考えられた。比較例1、2では酢酸が多く残存する条件で運転を続けたため、また、比較例3でもアノード流出BODとしては低かったものの、循環水量が少なくプラグフローに近い状態で、アノード室内の流入部付近のBOD濃度が高くなっていたため、メタン生成菌の増殖が進んだと考えられる。
【0052】
比較例1では、アノード室流入水BOD濃度が常に高い状態であった上に、立ち上げ時の槽負荷をコントロールしなかったため、アノード室内のBOD濃度が常に高い状態に保たれ、メタン生成菌が増殖してしまい、発電効率が低下したものと考えられる。
【0053】
比較例2では、循環比を高く設定したのでアノード室流入水BOD濃度がアノード室流出水BOD濃度と同程度となっておりアノード室内が完全混合に近い状態になったと認められる。しかし、立ち上げ時の槽負荷をコントロールしなかったため、アノード室内のBOD濃度が常に高い状態に保たれ、メタン生成菌が増殖してしまい、発電効率が低下したものと考えられる。
【0054】
比較例3では、立ち上げ時の負荷をコントロールしたため初期のアノード室流入水BOD濃度は低い状態であったが、循環比の設定が低かったため装置が立ち上がるに伴いアノード室流入水BOD濃度が高くなってしまい、メタン生成菌の増殖が進み、発電効率が低下したものと考えられる。
【0055】
実施例1では、循環比を高く設定してアノード室流入水BOD濃度がアノード室流出水BOD濃度と同程度となりアノード室内が完全混合に近い状態になったと認められる。また、立ち上げ時の槽負荷をコントロールして徐々に溶解性BOD負荷を高めていったため、40日目以降もアノード室流入水BOD濃度は50mg/L以下で安定して推移した。これによりメタン生成菌の増殖を抑制し、アノード室内に発電微生物を優先させ続けることができ、40日目以降も発電効率が高水準で推移したものと考えられる。
【符号の説明】
【0056】
1 槽体
2 イオン透過性非導電性膜
3 カソード室
4 アノード室
5 正極
6 負極
10 原水槽
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8