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特許7218832ヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】ヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230131BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20230131BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20230131BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20230131BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/18
C23C16/24
H01L21/205
H01L21/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022095410
(22)【出願日】2022-06-14
【審査請求日】2022-07-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】松原 寿樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-165497(JP,A)
【文献】特開2005-347666(JP,A)
【文献】特開平02-267197(JP,A)
【文献】特開平11-228297(JP,A)
【文献】特開2000-264792(JP,A)
【文献】特開平02-006388(JP,A)
【文献】特開2012-171830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00 -35/00
C23C16/00 -16/56
H01L21/205
H01L21/31
H01L21/365
H01L21/469
H01L21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶膜をヘテロエピタキシャル成長させるヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法であって、
減圧CVD装置を用いて、
前記単結晶シリコン基板の表面の自然酸化膜を水素ベイクにより除去する第一工程と、
前記減圧CVD装置内に炭素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が600℃以上1200℃以下の条件で前記単結晶シリコン基板上にSiCの核形成を行う第二工程と、
前記減圧CVD装置内に炭素とケイ素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が800℃以上1200℃未満の条件でSiC単結晶を成長させて前記3C-SiC単結晶膜を形成する第三工程と、
を含むことを特徴とするヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記炭素を含むソースガスとしてメタン、エチレン、アセチレン、またはプロパンを用いることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記炭素とケイ素を含むソースガスとしてモノメチルシランまたはトリメチルシランを用いることを特徴とする請求項1に記載のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記炭素とケイ素を含むソースガスとしてモノメチルシランまたはトリメチルシランを用いることを特徴とする請求項2に記載のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記第一工程を、温度が1000℃以上1200℃以下の条件で行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記第二工程を、温度が600℃以上800℃以下の範囲から900℃以上1200℃以下の範囲に徐々に昇温する条件で行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記第二工程を、温度が600℃以上800℃以下の範囲から900℃以上1200℃以下の範囲に徐々に昇温する条件で行うことを特徴とする請求項5に記載のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶膜をヘテロエピタキシャル成長させるヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Siのバンドギャップ1.1eVと比べ、SiCは2.2~3.3eVという広いバンドギャップを有することから高い絶縁破壊強度を有し、また熱伝導率も大きいためパワーデバイスや高周波用デバイスなどの各種半導体デバイス用の半導体材料として期待されている材料である。
【0003】
また、窒化ガリウム(GaN)成長のプラットフォームとしての利用(例えば特許文献1および非特許文献1)も進められているが、一方でSiCウェーハは小口径が主流であり、パワーデバイスや高周波デバイス向けとして大口径化が求められており、良質な3C-SiC単結晶膜を大口径基板上に成膜することができれば、3C-SiC単結晶膜そのものの利用以外に、大口径で良質なGaN層をもつヘテロエピタキシャルウェーハを作製することが可能になる。
【0004】
そこで、この大口径化の方法として、デバイスプロセスとの整合性がよいシリコン基板上へのエピタキシャル成長が検討されてきた(例えば特許文献1および2)。
これらの特許文献では、シリコン基板上に3C-SiC単結晶膜が成長できること、ならびにリアクタの種類を選べば直径300mm基板のような大口径基板へ3C-SiC単結晶膜が成長できることが開示されている。
これらの特許文献における3C-SiC単結晶膜の形成は、炭素源前駆体を含むガスとシリコン源前駆体を含むガスの2種類の原料ガスをキャリアガスとともにリアクタ内に導入し、高温処理(~1200℃)ないしは高温処理とプラズマ処理を組合せてこれらの原料ガスを分解して成長することを特徴としている。
【0005】
このように2種類の原料ガスを同時に流して成膜する場合、それぞれのガス種の熱的安定性や拡散係数の違いにより、これらを制御して良質な3C-SiC単結晶膜を成長することが非常に困難であり、使用できるプロセス条件の範囲が狭くなる問題がある(エピタキシャル成長が起こらず、分解した原料ガスが気相中で反応してリアクタを汚染することのないようなプロセス条件で行う必要があるなど)。また高温処理を必要とするために既存プロセスとの親和性が低くなる(直径が300mmのように大口径化するとスリップ耐性などの問題のためできるだけ低温での成膜が望ましい)問題がある。また、使用する原料ガス種が多くなると、装置および付帯設備のコストアップや安全上の問題(特にシリコン源となるガスは概して反応性が高い)が生じることから、使用する原料ガス種は少ない方がよい。
【0006】
シリコン基板上への3C-SiC単結晶膜の成長例として、特許文献3には、シリコンとSiCの格子不整合をより小さくするために、単結晶シリコン基板として面方位(110)の単結晶シリコン基板を使用することが開示されている。格子不整合の面からは有利だが、ヘテロエピタキシャルウェーハの製造を考慮した場合、面方位を限定することは望ましくない。また、水素を含む3C-SiC単結晶層を形成することが同時に開示されているが、エピタキシャル成長シーケンス中の昇温過程で水素は容易に抜けてしまうことが想像され、水素量に依存した条件でないことが望まれる。
【0007】
また、特許文献4には、単結晶シリコン基板のオフ角度について言及されているが、プロパンによる炭化とそれに続くプロパン+シランガスの成長であり、やはり原料ガス種が多くなり、エピタキシャル成長には不利である。
また、特許文献5には、原料ガスとしてモノメチルシランを用いて、面方位が(111)で直径が8インチ(200mm)未満の単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶層を成長する方法が公開されているが、このときの成膜条件は単結晶シリコン基板の温度が1050~1100℃の成膜条件に達した後で、5~12時間の間、チャンバー内の圧力を2×10-4~3×10-4Torr(0.02~0.03Pa)の条件で行うというものであり、極めて圧力が低い条件で3C-SiC単結晶層の形成を行っているので形成速度が遅いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2018-522412号公報
【文献】特開2021-020819号公報
【文献】特開2006-253617号公報
【文献】特開2008-184361号公報
【文献】特開2017-039622号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Japanese Journal of Applied Physics 53, 05FL09 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、単結晶シリコン基板上に良質な3C-SiC単結晶膜を効率よくエピタキシャル成長させることができるヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶膜をヘテロエピタキシャル成長させるヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法であって、
減圧CVD装置を用いて、
前記単結晶シリコン基板の表面の自然酸化膜を水素ベイクにより除去する第一工程と、
前記減圧CVD装置内に炭素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が600℃以上1200℃以下の条件で前記単結晶シリコン基板上にSiCの核形成を行う第二工程と、
前記減圧CVD装置内に炭素とケイ素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が800℃以上1200℃未満の条件でSiC単結晶を成長させて前記3C-SiC単結晶膜を形成する第三工程と、
を含むことを特徴とするヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【0012】
このように、第一工程で単結晶シリコン基板表面の自然酸化膜を除去することで、第二工程でSiCの核形成が可能となる。
そして、炭素を含むソースガスの供給による第二工程と、炭素とケイ素を含むソースガスの供給による第三工程を組み合わせることにより、目的とする良質な3C-SiC単結晶膜を有するヘテロエピタキシャルウェーハを効率よく製造することが可能となる。
【0013】
また、第二工程において、温度を600℃以上とすることで、低温のためSiCの核形成が非効率的になるのを防ぐことができる。また1200℃以下にすることで、高温のため単結晶シリコン基板とソースガスとの反応が進行してしまい、単結晶シリコン基板表面にSiCの核形成ができなくなるのを防ぐことができる。
また、圧力を13Pa(0.1Torr)以上とすることにより、低圧のためSiCの核形成が非効率的になるのを防ぐことができる。また、圧力を13332Pa(100Torr)以下とすることで、反応活性種が気相中でソースガスと反応するなど、二次あるいはさらに高次の反応が起こるのを防ぐことができ、効率的である。
【0014】
また、第三工程において、温度を800℃以上とすることにより、低温のためSiC単結晶の成長が進まなくなるのを防ぐことができる。また、1200℃未満とすることで、スリップ転位が発生するのを防ぐことができる。
また、圧力を13Pa(0.1Torr)以上とすることにより、低圧すぎてSiC単結晶の成長が進まなくなるのを防ぐことができる。また、圧力を13332Pa(100Torr)以下とすることで、反応活性種が気相中でソースガスと反応するなど、二次あるいはさらに高次の反応が起こるのを防ぐことができるので、エピタキシャル成長を確実なものとすることができる。これにより3C-SiC単結晶膜が多結晶化してしまうのを防ぐことができる。
【0015】
このとき、前記炭素を含むソースガスとしてメタン、エチレン、アセチレン、またはプロパンを用いることができる。
また、前記炭素とケイ素を含むソースガスとしてモノメチルシランまたはトリメチルシランを用いることができる。
【0016】
第二工程、第三工程において、各々これらのようなソースガス(原料ガス)を用いるのであれば、比較的簡便に用意することができるし、1種類の原料ガスを用いて非常にシンプルな条件でSiCの核形成やSiC単結晶の成長を行うことができる。
【0017】
また、前記第一工程を、温度が1000℃以上1200℃以下の条件で行うことができる。
【0018】
このような温度条件とすることで、単結晶シリコン基板表面の自然酸化膜をより効率よく除去でき、また、スリップ転位の発生を防止することができる。
【0019】
また、前記第二工程を、温度が600℃以上800℃以下の範囲から900℃以上1200℃以下の範囲に徐々に昇温する条件で行うことができる。
【0020】
このようにすれば、第二工程でのSiCの核形成をより効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法により、簡易な製造プロセスによって、効率良く、単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶膜を直接形成したヘテロエピタキシャルウェーハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態の成長シーケンスの一例を示すグラフである。
図2】実施例1で成長した3C-SiC on Si(111)のIn plane XRD解析の結果を示すグラフである。
図3】比較例1で成長した3C-SiC on Si(111)のIn plane XRD解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述したように単結晶シリコン基板上への3C-SiC単結晶膜の形成が可能なヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法が求められていた。そこで本発明者らが鋭意研究を行ったところ、減圧CVD装置を用いて、単結晶シリコン基板表面の自然酸化膜除去のための水素ベイク(第一工程)に加え、ソースガス(炭素を含む)を供給しつつ、SiCの核形成がしやすい所定の条件[圧力:13Pa以上13332Pa以下、温度:600℃以上1200℃以下](第二工程)と、ソースガス(炭素とケイ素を含む)を供給しつつ、SiC単結晶が成長しやすい所定の条件[圧力:13Pa以上13332Pa以下、温度:800℃以上1200℃未満](第三工程)を組み合わせて行うことで、高品質の3C-SiC単結晶膜を効率よく形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
以下では、各工程の具体例を挙げて説明する。
図1は実施形態の成長シーケンスの一例を示したものである。水素ベイク(以下、Hアニールとも言う)の第一工程、SiCの核形成工程の第二工程、SiC単結晶の成長工程(3C-SiC単結晶膜の形成工程)の第三工程を順に行っている。以下、各工程について説明する。
<第一工程>
まず、減圧CVD装置(以下、RP-CVD[Reduced Pressure - Chemical Vaper Deposition]装置とも言う)に単結晶シリコン基板を配置し、水素ガスを導入し、表面の自然酸化膜を水素ベイク(Hアニール)により除去する。酸化膜が残っていると、単結晶シリコン基板上にSiCの核形成が出来なくなってしまう。この時のHアニールは、例えば温度が1000℃以上1200℃以下の条件とすることが好ましい。温度を1000℃以上とすることで、自然酸化膜の残留を防ぐための処理時間が長時間になるのを防ぐことができ、効率的である。また1200℃以下とすれば、高温によるスリップ転位の発生を効果的に防止することができる。ただし、このときのHアニールの圧力や時間は自然酸化膜が除去できればよく、特に制約はない。
図1に示す例ではHアニールを1080℃で1分間行っている。また、水素ガスの導入はこの第一工程後においても、第二、第三工程においても引き続き行うことができる(キャリアガス)。
【0025】
<第二工程>
次に、RP-CVD装置内に炭素を含むソースガスを供給しつつ、所定の圧力と温度に設定し、単結晶シリコン基板上にSiCの核形成を行う。単結晶シリコン基板表面に3C-SiCの核形成を行うため、上記ソースガスとしては例えば炭化水素ガスを用いることができる。例えばメタン、エチレン、アセチレン、またはプロパン等を導入することができる。このようなソースガスであれば簡便に用意することができるし、1種類のソースガスでSiCの核形成の条件をシンプルなものとすることができる。
【0026】
また、このSiCの核形成は、圧力が13Pa以上13332Pa以下(0.1Torr以上100Torr以下)、温度が600℃以上1200℃以下であれば単結晶シリコン基板の表面に行うことができる。
SiCの核形成工程において、温度が1200℃よりも高温の条件では単結晶シリコン基板と原料ガスとの反応が進行してしまい、単結晶シリコン基板表面にSiCの核形成ができなくなってしまう。また、温度が600℃未満の場合においては、温度が低すぎてSiCの核形成を効率良く行うことができない。
【0027】
また、圧力を13332Pa(100Torr)以下とするので、反応活性種が気相中で原料ガスと反応するなど、二次あるいはさらに高次の反応が生じてしまうのを防止できるため、効率的である。一方で低圧過ぎてもSiCの核形成が非効率的になってしまうので、圧力の下限値は13Pa(0.1Torr)とする。
【0028】
ところで第一工程から第二工程への温度の変遷の仕方は特に限定されない。例えば、前述したように1080℃で第一工程を行った後、その1080℃から直接的に、第二工程の保持する所定の温度まで昇温または降温して調整することができる。
あるいは、1080℃で第一工程を行った後、一旦、600℃以上800℃以下の温度範囲にまで降温する。そして、第二工程としてその600℃以上800℃以下の範囲の温度から900℃以上1200℃以下の範囲の温度まで徐々に昇温させても良い。このとき、昇温したのちに、その昇温後の所定の温度で例えば10分間温度を保持することができる。このようにすることで、SiCの核形成をより効果的に行うことができる。
【0029】
なお、上記の600℃以上800℃以下の温度範囲から昇温するときの昇温速度は1.0℃/sec程度が好ましい。この程度の昇温速度であれば、昇温速度が速すぎることもなく、昇温中や昇温後の設定温度と基板の実温度に乖離が生じて制御が困難となるのを効果的に防ぐことができる。また昇温速度が遅すぎることもなく、3C-SiC核形成温度帯の通過時間が長くなり不均一な核形成やエピタキシャル成長中の欠陥形成が発生しやすくなるのを効果的に抑制することができる。
【0030】
図1に示す例では、第一工程後に700℃にまで降温し、第二工程として昇温速度1.0℃/secで1100℃にまで昇温し、その後1100℃で10分間保持している。なお、圧力は13332Pa(100Torr)としている。
【0031】
<第三工程>
RP-CVD装置内に炭素とケイ素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下(0.1Torr以上100Torr以下)、温度が800℃以上1200℃未満の条件でSiC単結晶を成長させて3C-SiC単結晶膜を形成する。このような条件により、効率良くSiC単結晶を成長させて3C-SiC単結晶膜を形成することができる。上記ソースガスとして、例えばモノメチルシランまたはトリメチルシランを導入することができる。このようなソースガスであれば簡便に用意することができるし、1種類のソースガスでSiC単結晶の成長の条件をシンプルなものとすることができる。
【0032】
なお、成長圧力が13332Pa(100Torr)よりも大きいと、形成する3C-SiCが多結晶化してしまう。一方、本発明ではこの第三工程において圧力を13332Pa(100Torr)以下とするので、前述したように気相中で二次あるいはさらに高次の反応を抑制することができ、3C-SiC単結晶膜を確実かつ効率良く形成することができる。そして好ましくは1333Pa(10Torr)以下、さらには133Pa(1Torr)以下とすることができ、これらの条件では3C-SiC単結晶膜直下に空孔が形成されるようになり、ヘテロエピタキシャル層全体の応力を緩和する効果を得ることができる。一方で低圧すぎてもSiC単結晶の成長が非効率的になってしまうので、圧力の下限値は13Pa(0.1Torr)とする。
また温度については、800℃未満では前述したようにSiC単結晶の成長が進まなく、1200℃以上ではスリップ転位が発生し得る。そのため、上記のように800℃以上1200℃未満とする。
【0033】
図1に示す例では、第三工程では1000℃で10分間保持している。なお、圧力は13332Pa(100Torr)としている。
【0034】
以上のように本発明のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法について説明してきたが、上記のように、単結晶シリコン基板表面の自然酸化膜を除去してからSiCの核形成工程を行うことにより、確実にSiCの核を形成可能で、ひいては3C-SiC単結晶膜の形成が可能となる。
また、3C-SiC単結晶膜の形成工程前にSiCの核形成工程を導入することにより、Siと3C-SiCの格子不整合による結晶性の悪化を抑制することが出来、良質な3C-SiC単結晶膜を形成することが可能となる。
また、前述した成長条件であれば、ヘテロエピキシャル成長を供給ガスの輸送律速とすることが可能であり、単結晶シリコン基板の面方位の制約を受けない。また水素を含むような層を形成する必要もなく3C-SiC単結晶膜を成長させることが可能である。さらに、直径が例えば300mm、さらにはそれ以上の大口径の単結晶シリコンの基板上に3C-SiC単結晶膜の形成が可能となる。
【0035】
このときの膜厚は圧力や温度に依存するため、目的の膜厚となるように設定した圧力と温度条件に基づいて成膜時間を適宜設定する。
この場合、3C-SiC単結晶膜の膜厚は例えば4nm程度の薄い膜から数μmの厚膜まで成膜が可能である。
【0036】
また、このようにして成長させた3C-SiC単結晶膜は表面が平坦であるので、3C-SiC単結晶膜の表面に、さらにGaNを成長させ、3C-SiC単結晶膜上に高品質なGaN層を有するヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法を提供することも可能である。あるいは、3C-SiC単結晶膜の表面に、さらにSiを成長させ、3C-SiC単結晶膜上に高品質なSi層を有するものも提供可能である。
【実施例
【0037】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
直径300mm、面方位(111)、ボロンドープの高抵抗率(1000Ω・cm)の単結晶シリコン基板を準備し、RP-CVD装置の反応炉内のサセプター上にウェーハを配置し、1080℃で1分間のHアニールを行った(第一工程)。
続いて、炉内温度を700℃まで降温させた後、昇温レート1℃/secで1100℃まで昇温させながらプロパンガスを導入し、1100℃まで到達後10分間保持し、3C-SiCの核形成を行った(第二工程)。
核形成工程後、炉内温度を1000℃まで降温させた後、トリメチルシランガスを導入して3C-SiC単結晶膜の形成を行った(第三工程)。
成長圧力は一律13Pa、13332Pa(0.1Torr、100Torr)とした。
10分間の成長を行った結果、それぞれの圧力パターンで、膜厚は80nm、115nmとなっていた。
【0038】
成膜後、In plane配置にてXRD(X線回析)スペクトルを確認したところ、いずれの成長圧力条件であっても、図2のXRD解析結果のグラフに示すようにSi(220)に平行な3C-SiC(220)のピークを確認することが出来、単結晶の3C-SiC膜が成長していることが確認された。
【0039】
(比較例1)
実施例1と同様の単結晶シリコン基板を準備し、RP-CVD装置の反応炉内のサセプター上にウェーハを配置し、1080℃で1分間のHアニールを行った(第一工程)。
続いて、第二工程(3C-SiCの核形成工程)を実施せず、炉内温度を1000℃としてトリメチルシランガスを導入して10分間保持し、3C-SiC単結晶膜の形成を行った(第三工程)。
成長圧力は13332Pa(100Torr)とした。
その結果、膜厚は45nmとなっていた。
【0040】
In plane配置にてXRDスペクトルを確認したところ、図3のXRD解析結果のグラフに示すようにSi(220)に平行な3C-SiC(220)のピークの他に3C-SiC(111),3C-SiC(311)のピークが確認され、多結晶の3C-SiC膜が成長していることが確認された。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様の単結晶シリコン基板を準備し、RP-CVD装置の反応炉内のサセプター上にウェーハを配置し、1080℃で1分間のHアニールを行った(第一工程)。
続いて、炉内温度を600℃としてプロパンガスを導入して10分間保持し、3C-SiCの核形成を行った(第二工程)。
その後、炉内温度を800℃まで降温させた後、トリメチルシランガスを導入して10分間保持し、3C-SiC単結晶膜の形成を行った(第三工程)。
成長圧力は一律13Pa、13332Pa(0.1Torr、100Torr)とした。
その結果、それぞれの圧力パターンで、膜厚は60nm、92nmとなっていた。
【0042】
In plane配置にてXRDスペクトルを確認したところ、Si(220)に平行な3C-SiC(220)のピークが確認することが出来、単結晶の3C-SiC膜が成長していることが確認された。
【0043】
(実施例3)
第二工程、第三工程の温度をそれぞれ1200℃、1190℃とした以外は実施例2と同じ条件(成長圧力は一律13Pa(0.1Torr)、13332Pa(100Torr))で3C-SiC単結晶膜の成長を行った。
その結果、それぞれの圧力パターンで、膜厚は90nm、120nmとなっていた。
【0044】
In plane配置にてXRDスペクトルを確認したところ、Si(220)に平行な3C-SiC(220)のピークが確認することが出来、単結晶の3C-SiC膜が成長していることが確認された。
【0045】
(比較例2)
第二工程の温度を500℃とした以外は実施例2の成長温度が13332Pa(100Torr)の場合と同じ条件で、3C-SiC単結晶膜の成長を行った。
また別途、第二工程の温度を1250℃とした以外は実施例2の成長温度が13332Pa(100Torr)の場合と同じ条件で、3C-SiC単結晶膜の成長を行った。
その結果、それぞれの第二工程の温度パターンで、膜厚は38nm、43nmとなっていた。
【0046】
このように形成された膜厚は実施例2に比べて極めて薄く、効率が著しく悪かった。これは、第二工程の温度が低すぎたり高すぎたりしたためSiCの核形成が十分に行われず、そのため第三工程でヘテロエピタキシャル成長がほとんどなされなかったためと考えられる。
【0047】
(比較例3)
第三工程の温度を700℃とした以外は実施例2の成長温度が13332Pa(100Torr)の場合と同じ条件で、3C-SiC単結晶膜の成長を行った。
また別途、第三工程の温度を1250℃とした以外は実施例2の成長温度が13332Pa(100Torr)の場合と同じ条件で、3C-SiC単結晶膜の成長を行った。
その結果、それぞれの第三工程の温度パターンで、膜厚は40nm、130nmとなっていた。
【0048】
このように700℃の場合は形成された膜厚が実施例2に比べて極めて薄く、効率が著しく悪かった。また、1250℃の場合はスリップ転位が発生してしまった。
【0049】
(比較例4)
第二工程、第三工程の成長圧力を一律1.3Pa(0.01Torr)とした以外は実施例2と同じ条件で、3C-SiC単結晶膜の成長を行った。
その結果、膜厚は18nmとなっていた。
【0050】
このように成長圧力が1.3Pa(0.01Torr)の場合は形成された膜厚が実施例2に比べて極めて薄く、効率が著しく悪かった。
【0051】
(比較例5)
第二工程、第三工程の成長圧力を一律19998Pa(150Torr)とした以外は実施例2と同じ条件で、3C-SiC単結晶膜の成長を行った。
その結果、膜厚は98nmとなっていた。
【0052】
In plane配置にてXRDスペクトルを確認したところ、Si(220)に平行な3C-SiC(220)のピークの他に3C-SiC(111),3C-SiC(311)のピークが確認され、多結晶の3C-SiC膜が成長していることが確認された。
【0053】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]: 単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶膜をヘテロエピタキシャル成長させるヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法であって、
減圧CVD装置を用いて、
前記単結晶シリコン基板の表面の自然酸化膜を水素ベイクにより除去する第一工程と、
前記減圧CVD装置内に炭素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が600℃以上1200℃以下の条件で前記単結晶シリコン基板上にSiCの核形成を行う第二工程と、
前記減圧CVD装置内に炭素とケイ素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が800℃以上1200℃未満の条件でSiC単結晶を成長させて前記3C-SiC単結晶膜を形成する第三工程と、
を含むヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
[2]: 前記炭素を含むソースガスとしてメタン、エチレン、アセチレン、またはプロパンを用いる上記[1]のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
[3]: 前記炭素とケイ素を含むソースガスとしてモノメチルシランまたはトリメチルシランを用いる上記[1]または上記[2]のヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
[4]: 前記第一工程を、温度が1000℃以上1200℃以下の条件で行う上記[1]から上記[3]のいずれかのヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
[5]: 前記第二工程を、温度が600℃以上800℃以下の範囲から900℃以上1200℃以下の範囲に徐々に昇温する条件で行う上記[1]から上記[4]のいずれかのヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【要約】
【課題】単結晶シリコン基板上に良質な3C-SiC単結晶膜を効率よくエピタキシャル成長させることができるヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】単結晶シリコン基板上に3C-SiC単結晶膜をヘテロエピタキシャル成長させるヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法であって、減圧CVD装置を用いて、単結晶シリコン基板の表面の自然酸化膜を水素ベイクにより除去する第一工程と、炭素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が600℃以上1200℃以下の条件で単結晶シリコン基板上にSiCの核形成を行う第二工程と、炭素とケイ素を含むソースガスを供給しつつ、圧力が13Pa以上13332Pa以下、温度が800℃以上1200℃未満の条件でSiC単結晶を成長させて3C-SiC単結晶膜を形成する第三工程と、を含むヘテロエピタキシャルウェーハの製造方法。
【選択図】図1
図1
図2
図3