(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】音作成方法
(51)【国際特許分類】
G10K 15/04 20060101AFI20230131BHJP
A61M 21/02 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
G10K15/04 302M
A61M21/02 J
(21)【出願番号】P 2019039502
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502178171
【氏名又は名称】クリムゾンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 宗平
(72)【発明者】
【氏名】沼尾 正行
(72)【発明者】
【氏名】飛河 和生
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0127283(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0097881(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/00-15/12
A61M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する際の騒音を録音する録音ステップと、
前記録音ステップで録音された前記騒音を被験者に聞かせつつ、前記被験者の脳波を計測する計測ステップと、
前記計測ステップにおいて計測された前記脳波におけるアルファ波の計測データと前記騒音との相関関係に基づいて前記被験者が好む前記騒音のパラメータを特定し、特定された前記パラメータに基づいて音を作成する音作成ステップと、を備える音作成方法。
【請求項2】
前記パラメータは、前記車両のエンジンの爆発音に係るパラメータ、ロードノイズに係るパラメータのうち、少なくとも1つを含む請求項1に記載の音作成方法。
【請求項3】
前記被験者は、前記車両の所有者である請求項1又は請求項2に記載の音作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される技術は、音作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両走行時の騒音対策として、軟質材と硬質材とを積層した遮音材を用いることが記載されている(下記特許文献1)。遮音材を用いることで、車室内に騒音が侵入する事態を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような遮音材を用いた構成では、遮音材を配置することで、省スペース化や軽量化を図ることが困難となる場合がある。また、騒音対策として、様々な種類の対策を組み合わせるとより好適である。このような事情から、騒音対策として、遮音材を用いる方法以外の方法が求められている。
【0005】
本明細書で開示される技術は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、車内空間において、遮音材の有無に関わらず、騒音対策を図ることで快適な車内空間を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、本明細書で開示される音作成方法は、車両が走行する際の騒音を録音する録音ステップと、前記録音ステップで録音された前記騒音を被験者に聞かせつつ、前記被験者の脳波を計測する計測ステップと、前記計測ステップにおいて計測された前記脳波におけるアルファ波の計測結果と前記騒音との相関関係に基づいて前記被験者が好む前記騒音のパラメータを特定し、特定された前記パラメータに基づいて音を作成する音作成ステップと、を備えることに特徴を有する。
【0007】
上記構成によれば、音作成ステップにおいて、車両走行時の騒音に基づいて、被験者が好む音を作成することができる。被験者が車両に搭乗した場合において、音作成ステップで作成された音(被験者が好む音)を車両走行時に流すことで、被験者は、その音を選択的に聞き取ることになり(いわゆるカクテルパーティ効果)、それ以外の音については聞こえ難くなる。これにより、遮音材の有無に関わらず、騒音対策を図ることができ、さらには被験者が好む音を聞かせることができる。この結果、より快適な車内環境を提供することができる。また、音作成ステップによって作成された音は、車両走行時の騒音に基づいて作成された音であるから、車両走行時に被験者が聞いた場合、不自然に感じる事態を抑制することができる。
【0008】
また、前記パラメータは、前記車両のエンジンの爆発音に係るパラメータ、ロードノイズに係るパラメータのうち、少なくとも1つを含むものとすることができる。車両走行時の騒音の主成分であるエンジン爆発音やロードノイズを反映した音を作成することができる。
【0009】
また、前記被験者は、前記車両の所有者であるものとすることができる。車両の所有者が好む音を作成することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本明細書で開示される技術によれば、車内空間において、遮音材の有無に関わらず、騒音対策を図ることで快適な車内空間を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】オーバーオール値及び騒音レベルの時間変化の一例を示すグラフ
【
図4】ロードノイズ成分の周波数特性の一例を示すグラフ
【
図5】音作成ステップで作成された音の周波数特性の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を
図1から
図5によって説明する。本実施形態では、車両走行時において、車両に搭載された出力装置(スピーカー等)から出力するための音を作成するための音作成方法について説明する。本実施形態の音作成方法は、録音ステップと、計測ステップと、音作成ステップと、を備える。
【0013】
(録音ステップ)
録音ステップでは、車両が走行する際の騒音を録音するもので、
図1に示すように、車両10に搭載された録音装置11を用いて実行される。録音装置11は、
図1に示すように、騒音計12と、記憶部13と、を備える。騒音計12は、図示しないマイクロフォン及び演算処理部を備え、音の騒音レベル(A特性音圧レベル)を測定することが可能となっている。記憶部13としては例えばデータロガーを用いることができる。
【0014】
録音ステップでは、車両10で周回路(テストコース)を走行し、走行時の騒音を騒音計12によって取得する。車両10が走行する周回路は、複数のカーブや起伏を有しており、路面変化に富んだものとされる。このような周回路を走行することで、走行時のロードノイズ(騒音の一部)は、時間毎に変化することになる。また、車両10の運転手は、上記周回路を走行する際に車両10が一定の速度(例えば60km/h)となるようにアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を調整する。これにより走行中にはアクセル開度が変化することで、エンジン爆発音(騒音の一部)が時間毎に変化する。このようにして録音された騒音のデータは、記憶部13に記憶される。
【0015】
(計測ステップ)
計測ステップでは、録音ステップで録音された騒音を被験者に聞かせつつ、被験者の脳波を計測する。計測ステップ及び後述する音作成ステップは、例えば、
図2に示す音作成装置21を用いて実行する。また、ここで言う被験者とは、例えば、車両10(又は車両10と同じ車種の車両)の所有者である。
【0016】
音作成装置21は、制御部22と、記憶部25と、周波数解析部26と、ヘッドホン27と、脳波計28と、を備える。記憶部25には、録音ステップで録音された騒音のデータ(騒音データ)が記憶されている。なお、記憶部25が記憶部13と同一のものであってもよい。制御部22は、記憶部25、周波数解析部26、ヘッドホン27、脳波計28とそれぞれ電気的に接続されている。
【0017】
周波数解析部26は記憶部25に記憶されている騒音データについて周波数解析を行うことが可能となっている。周波数解析の手法としては、例えば、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)を例示することができる。周波数解析部26は、記憶部25に記憶されている騒音データについて周波数解析を行うことで、騒音に係る下記4つのパラメータ(1)~(4)を時間毎に算出することが可能となっている。
【0018】
パラメータ(1):騒音のオーバーオール値A1
騒音のオーバーオール値A1は、全周波数帯域における騒音レベルの総和である。
【0019】
パラメータ(2):オーバーオール値A1に対するエンジンの爆発一次成分の割合B1
エンジンの爆発一次成分の周波数(以下の説明では周波数F31と呼ぶ)は、車両10に搭載されたエンジンの仕様から計算によって求めることができる。このため、騒音データ中の周波数F31における騒音レベルB2を参照することで割合B1を算出することができる。なお、
図3にオーバーオール値A1及びエンジンの爆発一次成分の騒音レベルB2の時間変化の一例を示す。なお、割合B1=B2/A1である。
【0020】
パラメータ(3):オーバーオール値A1に対するロードノイズ成分の割合C1
一般的にロードノイズは100~400Hzの周波数帯域の音によって構成されている。このため、本実施形態では、騒音における100~400Hzの範囲において、1/3オクターブバンドの周波数帯域毎の騒音レベルの総和をロードノイズ成分とし、オーバーオール値A1に対するロードノイズ成分の割合C1を算出する。なお、
図4にロードノイズの周波数特性の一例を示す。なお、ロードノイズ成分R2とした場合、割合C1=R2/A1である。
【0021】
パラメータ(4):1/3オクターブバンドの中心周波数160Hz、250Hz、315Hzの各周波数帯域の騒音レベルの比率D1
一般的にロードノイズの多くは、1/3オクターブバンドの中心周波数160Hz、250Hz、315Hzの3つの周波数帯域でピークとなることが多い。このため、本実施形態では、ロードノイズの周波数特性を反映するパラメータとして、中心周波数160Hz、250Hz、315Hzの各騒音レベルの比率D1を算出する。なお、160Hzの周波数帯域の騒音レベルをX1、250Hzの周波数帯域の騒音レベルをX2、315Hzの周波数帯域の騒音レベルをX3とした場合、比率D1=X1:X2:X3である。
【0022】
制御部22は、記憶部25に記憶されている騒音データに基づいてヘッドホン27を動作させる。これによりヘッドホン27から、録音ステップで録音した車両走行時の騒音が出力される。脳波計28は、被験者の脳波を計測することが可能となっている。脳波計28は、例えば、被験者が装着可能なヘッドギアの形態をなしており、ヘッドホン27はそのヘッドギアに設けられている。また、制御部22は、脳波計28で計測された脳波データについて、周波数解析部26を用いて周波数解析を実行することが可能となっている。これにより、被験者の脳波のうち、アルファ波(8~13Hz成分)の強度を計測することが可能となっている。
【0023】
計測ステップでは、録音ステップで録音された騒音をヘッドホン27を介して被験者に聞かせつつ、脳波計28によって被験者の脳波を計測する。制御部22は、被験者に聞かせた騒音の騒音データ(上記パラメータ(1)~(4)のデータを含む)と計測されたアルファ波の計測データについて時系列を対応させつつ記憶部25に記憶させる。
【0024】
(音作成ステップ)
制御部22は、音作成部23と、パラメータ決定部24と、を備える。パラメータ決定部24は、人工知能(AI)を備え、記憶部25に記憶された(計測ステップにおいて計測された)アルファ波の計測データと騒音データとの相関関係に基づいて深層学習を行うことで、パラメータ(1)~(4)についてそれぞれ被験者が好む数値(被験者が好む騒音のパラメータ)を決定する。具体的には、ある時間においてアルファ波が所定の閾値を超えた場合、その時間での各パラメータ(1)~(4)の数値や、その時間前後での各パラメータ(1)~(4)の変化の傾向(時間微分値)等を参照し、被験者が好む各パラメータ(1)~(4)の数値を特定する。例えば、アルファ波が所定の閾値を超えた時点T1においてオーバーオール値A1のみが瞬間的に上昇していた場合、その時点T1でのオーバーオール値A1が、被験者が好むオーバーオール値A1であると特定することができる。
【0025】
なお、録音ステップ及び計測ステップにおいて取得したデータにおいて、アルファ波の計測データと騒音データとの相関関係が見出し難い場合には、録音ステップ及び計測ステップに戻り、アルファ波の計測データ及び騒音データの量を増やせばよい。具体的には、録音ステップにおいて周回路を様々な速度で定速走行し、騒音データを速度毎に取得することで騒音データの量を増やし、計測ステップにおいて被験者に聞かせる騒音データの量を増やすことでアルファ波の計測データの量を増やすことができる。
【0026】
そして、各パラメータ(1)~(4)について、被験者が好む数値がそれぞれ特定された後、音作成部23は、音のオーバーオール値や1/3オクターブバンドの各周波数帯域における騒音レベルを設定すること等によって被験者が好む音を作成する。具体的には、音作成部23は、以下の手順(1)~(5)を経て音を作成する。
図5は、作成された音の一例について周波数特性を示すグラフである。なお、音作成部23は、
図5に示すように、例えば、車内騒音を主に構成する40~800Hzの周波数帯域について騒音レベルを設定する。なお、以下の説明では、被験者が好む騒音のオーバーオール値A1をオーバーオール値ALと呼び、被験者が好む爆発一次成分の割合B1を割合BL(車両のエンジンの爆発音に係るパラメータ)と呼び、被験者が好むロードノイズ成分の割合C1を割合CL(ロードノイズに係るパラメータ)と呼び、被験者が好む各騒音レベルの比率D1を比率DL(ロードノイズに係るパラメータ)と呼ぶものとする。
【0027】
手順(1)作成する音のオーバーオール値を決定する。
被験者が好むオーバーオール値ALを作成する音のオーバーオール値とする(
図5のF1参照)。
【0028】
手順(2)作成する音の周波数F31(爆発一次成分の周波数)の騒音レベルL1を算出する。
(騒音レベルL1)=(オーバーオール値AL)*(割合BL)である(
図5のF3参照)。
【0029】
手順(3)ロードノイズ成分R1(100~400Hzの騒音レベルの総和)を算出する。
(ロードノイズ成分R1)=(オーバーオール値AL)*(割合CL)である(
図5のF2参照)。
【0030】
手順(4)1/3オクターブバンドの中心周波数160Hz、250Hz、315Hzの各周波数帯域の騒音レベルを算出する。
中心周波数160Hz、250Hz、315Hzの各周波数帯域の騒音レベルは、ロードノイズ成分R1の90%を比率DLで配分したものとする(
図5のF4、F5、F6参照)。例えば、比率DL=160Hzの周波数帯域の騒音レベルX1:250Hzの周波数帯域の騒音レベルX2:315Hzの周波数帯域の騒音レベルX3である場合、作成する音について、160Hzの周波数帯域の騒音レベルは、R1*0.9*(X1/(X1+X2+X3))となる。また、250Hzの周波数帯域の騒音レベルは、R1*0.9*(X2/(X1+X2+X3))であり、315Hzの周波数帯域の騒音レベルは、R1*0.9*(X3/(X1+X2+X3))である。
【0031】
手順(5)1/3オクターブバンドにおいて中心周波数160Hz、250Hz、315Hz以外の周波数帯域の各騒音レベルを決定する。
1/3オクターブバンドにおいて中心周波数160Hz、250Hz、315Hz以外の各周波数帯域(
図5のF7~F17参照)については、次の手順(A)~(C)に基づいて定める。
(A):騒音データ中の周波数帯域F7~F17の各騒音レベルの各平均値を算出する。
(B):周波数帯域F7~F17の各騒音レベルの各平均値を各周波数帯域F7~F17の比率とする。
(C):上記(B)で定めた比率を維持しつつ、各周波数帯域F7~F17の騒音レベルの総和がロードノイズ成分R1の10%となるように各周波数帯域F7~F17の各騒音レベルを設定する。
【0032】
上記手順(1)~(5)を踏まえて作成された音は、被験者が好むパラメータ(オーバーオール値AL、爆発一次成分の割合BL、ロードノイズ成分の割合CL、160Hz、250Hz、315Hzの各騒音レベルの比率DL)を含む音であり、被験者が好む音(被験者が聞いた際にアルファ波を発生する音)となっている。
【0033】
次に本実施形態の効果について説明する。本実施形態によれば、音作成ステップにおいて、車両10走行時の騒音に基づいて、被験者が好む音を作成することができる。被験者が車両10に搭乗した場合において、音作成ステップで作成された音(被験者が好む音)を車両10走行時に流すことで、被験者は、その音を選択的に聞き取ることになり(いわゆるカクテルパーティ効果)、それ以外の音については聞こえ難くなる。これにより、遮音材の有無に関わらず騒音対策を図ることができ、さらには被験者に好みの音を聞かせることができる。この結果、より快適な車内環境を提供することができる。また、音作成ステップによって作成された音は、車両走行時の騒音に基づいて作成された音であるから、車両走行時に被験者が聞いた場合、不自然に感じる事態を抑制することができる。
【0034】
また、被験者が好む騒音のパラメータは、車両10のエンジンの爆発音に係るパラメータと、ロードノイズに係るパラメータとを含む。車両走行時の騒音の主成分であるエンジン爆発音やロードノイズを反映した音を作成することができる。また、被験者は、車両10の所有者である。車両10の所有者が好む音を作成することが可能となる。
【0035】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態において、被験者と車両の所有者とは別の人物であってもよい。
(2)音作成ステップで作成した音は
図5に示したものに限定されない。
(3)音作成部23による音の作成手順(1)~(5)は、その順番に限定されるものではなく、可能な範囲で順番を入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…車両、BL…爆発一次成分の割合B1(車両のエンジンの爆発音に係るパラメータ、被験者が好む騒音のパラメータ)、CL…ロードノイズ成分の割合(ロードノイズに係るパラメータ、被験者が好む騒音のパラメータ)、DL…160Hz、250Hz、315Hzの各騒音レベルの比率(ロードノイズに係るパラメータ、被験者が好む騒音のパラメータ)