(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】蓄熱放熱システム
(51)【国際特許分類】
F01N 5/02 20060101AFI20230131BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
F01N5/02 J
F28D20/02 D
(21)【出願番号】P 2019108923
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】滝川 由浩
(72)【発明者】
【氏名】波多野 龍
(72)【発明者】
【氏名】大野 晃司
(72)【発明者】
【氏名】久富 夏規
(72)【発明者】
【氏名】籾木 崇
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】吉清 まりえ
(72)【発明者】
【氏名】中川 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】東中 竜一
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-37743(JP,A)
【文献】特開2014-137153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 5/02
F28D 20/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
双安定性を有する相転移材料であって、結晶構造が第一相のときに第一温度以上に加熱されると吸熱して第二相に相転移し、結晶構造が第二相のときに前記第一温度よりも低い第二温度以下となると前記第一相に相転移して放熱する相転移材料、を備える蓄熱体と、
開口部を備えているとともに内部に前記蓄熱体が収容された断熱ケースと、
前記開口部に設けられて当該開口部を開閉自在な開閉装置と、
発熱体と前記蓄熱体とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在な第一伝熱部と、
加熱対象体と前記蓄熱体とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在な第二伝熱部と、
前記発熱体の温度が前記第一温度以上の場合に前記開口部を閉塞状態にするとともに前記第一伝熱部を伝熱状態とし、前記断熱ケースの周囲の外気温が前記第二温度以下であってかつ前記加熱対象体に関する規定の開始条件を満足する場合に前記開口部を開放状態にするとともに前記第二伝熱部を伝熱状態とする制御部と、
を備える、蓄熱放熱システム。
【請求項2】
前記開始条件は、前記加熱対象体の温度が当該加熱対象体の性能発揮のために適した温度域の下限値である第三温度以下であり、かつ、前記加熱対象体の使用を開始する指令があったことである、請求項1に記載の蓄熱放熱システム。
【請求項3】
前記開口部又はそれに隣接する位置に設けられて前記開口部の開放時に前記断熱ケースの内部に外気を導入する送風装置をさらに備える、請求項1又は2に記載の蓄熱放熱システム。
【請求項4】
前記発熱体の温度を検出する第一センサと、
前記断熱ケースの周囲の外気温を検出する第二センサと、
をさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の蓄熱放熱システム。
【請求項5】
前記加熱対象体の温度を検出する第三センサをさらに備える、請求項1から4のいずれか一項に記載の蓄熱放熱システム。
【請求項6】
前記発熱体と前記加熱対象体とが同一部材であり、
前記第一伝熱部と前記第二伝熱部とが共用されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の蓄熱放熱システム。
【請求項7】
電力供給源としてのバッテリを備えた移動体又は設備で使用され、前記バッテリが前記発熱体でありかつ前記加熱対象体である、請求項6に記載の蓄熱放熱システム。
【請求項8】
前記発熱体と前記加熱対象体とが別部材であるとともに、前記第一伝熱部と前記第二伝熱部とが互いに独立に設けられ、
前記制御部は、前記第二伝熱部を伝熱状態とする場合に、前記第一伝熱部を非伝熱状態とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の蓄熱放熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱放熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
発熱体から熱を吸収して蓄熱し、その蓄えた熱を必要なときに放熱する蓄熱放熱システムが用いられている。例えば特開2017-218971号公報(特許文献1)には、所定の結晶構造を有する酸化チタン(新型酸化チタン)を含む蓄熱体を備えた蓄熱放熱システムが開示されている。この蓄熱体に含まれる新型酸化チタンは、約187℃超まで加熱するとβ相からλ相に相転移してその際に外部の熱を蓄え、約60MPa超の圧力を印加するとλ相からβ相に相転移してその際に外部に熱を放出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の蓄熱放熱システムでは、放熱させるためのトリガーとして上記のとおり大きな圧力を印加する必要があるため、周辺部材の強度を高め、耐久性を向上させる必要がある。また、大きな圧力を発生させるために多くのエネルギーを消費してしまう。
【0005】
比較的簡素な構成でエネルギー効率良く蓄熱及び放熱を行うことができる蓄熱放熱システムの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る蓄熱放熱システムは、
双安定性を有する相転移材料であって、結晶構造が第一相のときに第一温度以上に加熱されると吸熱して第二相に相転移し、結晶構造が第二相のときに前記第一温度よりも低い第二温度以下となると前記第一相に相転移して放熱する相転移材料、を備える蓄熱体と、
開口部を備えているとともに内部に前記蓄熱体が収容された断熱ケースと、
前記開口部に設けられて当該開口部を開閉自在な開閉装置と、
発熱体と前記蓄熱体とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在な第一伝熱部と、
加熱対象体と前記蓄熱体とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在な第二伝熱部と、
前記発熱体の温度が前記第一温度以上の場合に前記開口部を閉塞状態にするとともに前記第一伝熱部を伝熱状態とし、前記断熱ケースの周囲の外気温が前記第二温度以下であってかつ前記加熱対象体に関する規定の開始条件を満足する場合に前記開口部を開放状態にするとともに前記第二伝熱部を伝熱状態とする制御部と、
を備える。
【0007】
この構成によれば、蓄熱体に備えられる相転移材料が、温度に基づいて吸熱する状態と放熱する状態とに切り替わるので、例えば大きな圧力を印加する等の必要がない。このため、周辺部材の強度を高めたり耐久性を向上させたりする必要がなく、また、トリガーのために多くのエネルギーを消費することも抑制できる。従って、比較的簡素な構成でエネルギー効率良く蓄熱及び放熱を行うことができる。また、この構成では、発熱体の温度が第一温度以上の場合に開口部を閉塞状態にするとともに第一伝熱部を伝熱状態とすることで、発熱体の熱を蓄熱体に伝え、相転移材料を第二相に相転移させて蓄熱することができる。一方、外気温が第二温度以下でありかつ開始条件を満足する場合に開口部を開放状態にするとともに第二伝熱部を伝熱状態とすることで、開口部から断熱ケース内に流入してくる外気で蓄熱体を第二温度以下に冷却し、相転移材料を第一相に相転移させて放熱することができる。そして、放熱により生じた熱を加熱対象体に伝え、加熱対象体を加熱することができる。このように、比較的簡素な構成でエネルギー効率良く、発熱体から吸熱して蓄熱し、その蓄えた熱を必要に応じて放熱して加熱対象体を加熱することができる。
【0008】
本開示に係る技術のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】示差走査熱量計により得られる熱量と温度との関係を概略的に示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
蓄熱放熱システムの実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態では、電気自動車(移動体の一例)に搭載されて使用される蓄熱放熱システム1を例として説明する。電気自動車では、ガソリン車に比べて発熱源が少なく、特に車両の主電源オン時に熱が不足しがちである。本実施形態の蓄熱放熱システム1は、前回走行時に発生した熱を蓄熱しておいて、次に走行する際に放熱することにより、主電源オン時に不足しがちとなる熱を補填するために用いられる。
【0011】
本実施形態の蓄熱放熱システム1は、双安定性を有する相転移材料12を備える蓄熱体10(
図4等を参照)を中核として構成されている。
図1に、本実施形態で用いる相転移材料12の結晶構造を示す。この相転移材料12は、ルビジウム-マンガン-鉄錯体(以下、「RbMnFe錯体」と称する場合がある。)であり、鉄とマンガンがシアノ基で3次元的に架橋されたネットワーク構造を有しており、その骨格の空孔にルビジウムイオンが互い違いに配置された結晶構造を有している。RbMnFe錯体は、電荷移動型相転移錯体であり、マンガン(II)-鉄(III)の高温相及びマンガン(III)-鉄(II)の低温相という、2つの状態間で双安定性を示す。また、磁化率と温度との関係を示す
図2のグラフから分かるように、RbMnFe錯体は、温度ヒステリシスを有する。
【0012】
RbMnFe錯体において、ルビジウムとマンガンとの比率を変更することができ、例えばマンガンに対してルビジウムの量を減らすと、電気的中性を保つために一部のシアノ鉄が欠けて水分子が配位する状態となる。すなわち、RbMnFe錯体は、
RbXMn1-X[Fe(CN)6]・zH2O
との構造式で表すことができる。そして、ルビジウム量を連続的に変化させることにより、2つの相転移温度(すなわち、第一温度T1及び第二温度T2)やヒステリシス幅(第一温度T1と第二温度T2との温度差)を連続的に変化させることができる。
【0013】
図3に、示差走査熱量計により得られる熱量と温度との関係を示す。この図から分かるように、RbMnFe錯体(相転移材料12)は、結晶構造が低温相のときに第一温度T1以上に加熱されると吸熱して高温相に相転移し、結晶構造が高温相のときに第一温度T1よりも低い第二温度T2以下となると低温相に相転移して放熱する。RbMnFe錯体(相転移材料12)は、低温相から高温相に相転移した後、再び低温相に相転移するまでの間、高温相に相転移する際に吸収した熱を蓄熱する。本実施形態では、低温相が「第一相」に相当し、高温相が「第二相」に相当する。
【0014】
図4~
図6に示すように、本実施形態の蓄熱放熱システム1は、上述したRbMnFe錯体(相転移材料12)を備える蓄熱体10と、断熱ケース20と、開閉装置30と、送風装置40と、共用伝熱部50と、切替機構60と、制御部70とを備えている。また、この蓄熱放熱システム1は、発熱体兼加熱対象体Dとの間で伝熱可能な状態で、当該発熱体兼加熱対象体Dに併設されている。なお、発熱体兼加熱対象体Dは、発熱体Hでありかつ加熱対象体Bでもある。本実施形態では、発熱体兼加熱対象体Dは、車両の駆動力源として機能する回転電機への電力供給源としてのバッテリ(高圧バッテリ)である。
【0015】
断熱ケース20は、内部に蓄熱体10を収容するケースであり、断熱性を有している。断熱ケース20は、断熱性のケース本体21を備えている。ケース本体21は、それ自体が断熱性の高い材料で構成されても良いし、断熱材を別途備えて構成されても良い。或いは、ケース本体21が、その外壁部の内部に真空層を備える等して構成されても良い。断熱ケース20(ケース本体21)の内部には、収容空間22が形成されており、この収容空間22に蓄熱体10が配置されている。
【0016】
また、断熱ケース20(ケース本体21)には、開口部23と複数の挿通孔24とが形成されている。本実施形態では、断熱ケース20は直方体状に形成されているとともに1つの面が発熱体兼加熱対象体Dに接するように配置されている。挿通孔24は、ケース本体21の外壁部のうち、発熱体兼加熱対象体Dに接する壁部を貫通する状態に形成されている。開口部23は、挿通孔24が設けられていない壁部のうちのいずれかを貫通する状態に形成されている。
【0017】
開口部23には、開閉装置30と送風装置40とが設けられている。開閉装置30は、断熱ケース20の開口部23を開閉自在に設けられている。すなわち、開閉装置30は、開口部23の状態を、開放状態と閉塞状態とに切替自在である。
図4等に示すように、本実施形態の開閉装置30は、回動軸31を中心として開閉扉32が揺動することにより開口部23を開閉するヒンジ式に構成されている。但し、そのような構成に限定されることなく、例えばルーバー式やシャッター式、観音開き式等の他の方式の開閉装置30であっても良い。
【0018】
送風装置40は、開口部23の開放時に、開放状態の開口部23を介して断熱ケース20(ケース本体21)の内部に外気を導入するための装置である。送風装置40は、ファン41を備えている。ファン41は、回転駆動された際に、ケース本体21の外部から内部へと向かう気流を生じさせる。
【0019】
本実施形態では、挿通孔24には、ケース本体21を貫通する状態で共用伝熱部50が配置されている。共用伝熱部50は、伝熱性の高い材料を用いて例えば柱状に形成された部材である。共用伝熱部50は、挿通孔24の個数と同じ個数だけ設けられており、各挿通孔24に1つずつ共用伝熱部50が配置されている。共用伝熱部50は、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在である。本実施形態では、共用伝熱部50は、「第一伝熱部」と「第二伝熱部」とを共用(兼用)するものとして構成されている。
【0020】
切替機構60は、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10との間の、共用伝熱部50の伝熱状態と非伝熱状態とを切り替える。本実施形態の切替機構60は、共用伝熱部50をその長手方向に沿って往復移動させるスライド機構61で構成されている。このスライド機構61は、複数の共用伝熱部50をまとめて往復移動させるように構成されている。スライド機構61が共用伝熱部50を当該共用伝熱部50の可動範囲において最も蓄熱体10側に移動させると、共用伝熱部50は発熱体兼加熱対象体D及び蓄熱体10の両方に接する状態となる(
図4及び
図6を参照)。これにより、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10との間が伝熱状態となる。一方、スライド機構61が共用伝熱部50を発熱体兼加熱対象体D側に移動させると、共用伝熱部50は発熱体兼加熱対象体Dだけに接し蓄熱体10には接しない状態となる(
図5を参照)。これにより、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10との間が非伝熱状態となる。
【0021】
制御部70は、蓄熱放熱システム1の各部の動作制御を行う中核として機能する。また、制御部70は、蓄熱放熱システム1に備えられた各種センサ(本実施形態では第一センサ81及び第二センサ82)の検出結果の情報を取得可能に構成されている。
【0022】
第一センサ81は、発熱体の温度を検出するためのセンサであり、本実施形態では発熱体兼加熱対象体Dの温度を検出する。第二センサ82は、断熱ケース20の周囲の外気温を検出する。蓄熱放熱システム1には、これら以外にも、例えば蓄熱体10の温度を検出するためのセンサ等が備えられても良い。
【0023】
制御部70は、発熱体兼加熱対象体Dの温度が第一温度T1以上の場合に、開口部23を閉塞状態にするとともに共用伝熱部50を伝熱状態とする(
図6を参照)。制御部70は、スライド機構61を駆動して共用伝熱部50を発熱体兼加熱対象体D及び蓄熱体10の両方に接する状態とすることで、共用伝熱部50を伝熱状態とする。これにより、第一温度T1以上となっている発熱体兼加熱対象体Dから、共用伝熱部50を介して蓄熱体10に熱が移動する。このとき、開口部23は閉塞状態となっているので、発熱体兼加熱対象体Dから伝わってきた熱は開口部23から断熱ケース20の外には逃げにくい。そして、蓄熱体10(相転移材料12)も第一温度T1以上となると、相転移材料12の結晶構造が低温相から高温相に変化し、その際、発熱体兼加熱対象体Dから伝わってきた熱を蓄熱体10が吸熱する。
【0024】
例えば、電気自動車の走行中に発熱体兼加熱対象体Dであるバッテリの温度が上昇して第一温度T1以上となったとき、上記のようにして、蓄熱体10はバッテリの熱を吸熱することができる。蓄熱体10がバッテリの熱を吸熱することで、バッテリの温度上昇が抑制されるので、バッテリが過熱しにくくその性能を好適に維持しやすくなる。このような観点から、第一温度T1は、発熱体兼加熱対象体Dであるバッテリの性能発揮のために適した温度域の上限値付近の値以下に設定されていると好適である。例えば、前記温度域の上限値は40℃付近であり、第一温度T1は、例えば25℃~35℃の範囲内の値に設定される。
【0025】
制御部70は、蓄熱体10が十分に吸熱すると、或いは、蓄熱体10の温度が第一温度T1未満となると、開口部23を閉塞状態に維持したまま、共用伝熱部50を非伝熱状態とする(
図5を参照)。制御部70は、スライド機構61を駆動して共用伝熱部50を蓄熱体10から離間した状態とすることで、共用伝熱部50を非伝熱状態とする。これにより、所定量の熱を蓄熱している蓄熱体10が、熱的に他から隔離された状態で、断熱ケース20内に保持される。
【0026】
制御部70は、断熱ケース20の周囲の外気温が第二温度T2以下であってかつ加熱対象体Bに関する規定の開始条件を満足する場合に、開口部23を開放状態にするとともに第二伝熱部52を伝熱状態とする(
図4を参照)。ここで、上記のとおり、発熱体兼加熱対象体Dであるバッテリには、性能発揮のために適した温度域が存在する。この温度域の下限値を第三温度T3とすると、発熱体兼加熱対象体Dの温度が第三温度T3以下であることが、上記開始条件の1つとされている。第三温度T3は、例えば10℃~20℃に設定される。なお、第二温度T2は、第三温度T3よりも低い設定であることが好ましく、例えば-10℃~10℃に設定される。また、本実施形態では、発熱体兼加熱対象体Dであるバッテリの使用を開始する指令があったことも、上記開始条件の1つとされている。バッテリの使用を開始する指令は、例えば車両の主電源がオフからオンに切り替えられたときに出力される。
【0027】
例えば寒冷地において、外気温が極めて低いと(例えば外気温が氷点下となるような場合)、車両の停止中に発熱体兼加熱対象体Dであるバッテリの温度が第三温度T3を大きく下回ってしまう場合がある。その状態で車両の主電源をオンにして、そのまま車両を走行させようとすると、バッテリの温度が適正温度域から低温側に外れていることにより、電費が悪くなる(航続距離が短くなる)。
【0028】
この点、本実施形態では、制御部70は、断熱ケース20の周囲の外気温が第二温度T2以下であり、かつ、発熱体兼加熱対象体Dの温度が第三温度T3以下であり、かつ、発熱体兼加熱対象体Dであるバッテリの使用を開始する指令があった場合に、開口部23を開放状態にするとともに共用伝熱部50を伝熱状態とする。また、制御部70は、送風装置40を回転駆動する。これにより、開口部23を通って、断熱ケース20内に第二温度T2以下の冷気が導入される。そして、流入した冷気によって蓄熱体10(相転移材料12)も第二温度T2以下となると、相転移材料12の結晶構造が高温相から低温相に変化し、その際、それまで蓄えていた熱を放熱する。その熱は共用伝熱部50を介して発熱体兼加熱対象体Dに伝わり、当該発熱体兼加熱対象体Dを加熱する。これにより、例えば、極低温での車両の起動時に、発熱体兼加熱対象体Dであるバッテリを早期に温めることができ、電費を向上させる(航続距離を長くする)ことができる。
【0029】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10との間の、共用伝熱部50の伝熱状態と非伝熱状態とを切り替えるための切替機構60として、スライド機構61を備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば
図7に示すように、切替機構60として昇降機構62を備えても良い。昇降機構62は、蓄熱体10を共用伝熱部50の長手方向に沿って昇降させる。そして、蓄熱体10と共用伝熱部50とが接触した状態で、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10とが伝熱状態となり、蓄熱体10と共用伝熱部50とが離間した状態で、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10とが非伝熱状態となる。なお、この場合、共用伝熱部50は断熱ケース20を貫通する状態で当該断熱ケース20に固定される。
【0030】
(2)上記の実施形態では、発熱体兼加熱対象体Dと蓄熱体10との間の、共用伝熱部50の伝熱状態と非伝熱状態とを切り替えるため、共用伝熱部50とは別に切替機構60を備える構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、切替機構60を備えずに、共用伝熱部50(第一伝熱部、第二伝熱部)そのものに、伝熱性を切り替えるためのメカニズムが備わっていても良い。かかるメカニズムは、例えばフォノンマテリアルを利用した熱伝導方向の切り替え等によって実現することができる。
【0031】
(3)上記の実施形態では、断熱ケース20の開口部23に送風装置40が設けられている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば送風装置40が、断熱ケース20の開口部23に隣接する位置に設けられても良い。或いは、送風装置40が設けられなくても良い。
【0032】
(4)上記の実施形態では、発熱体兼加熱対象体Dが発熱体Hでありかつ加熱対象体Bでもあり、それに伴い、「第一伝熱部」と「第二伝熱部」とを共用(兼用)する共用伝熱部50が用いられている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば
図8に示すように、発熱体Hと加熱対象体Bとが別部材であるとともに、第一伝熱部51と第二伝熱部52とが互いに独立に設けられても良い。この場合、第一伝熱部51は、発熱体Hと蓄熱体10とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在に設けられ、第二伝熱部52は、加熱対象体Bと蓄熱体10とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在に設けられる。また、発熱体Hの温度を検出する第一センサ81に加え、加熱対象体Bの温度を検出する第三センサ83が設けられる。このような構成では、制御部70は、第二伝熱部52を伝熱状態とする場合に、第一伝熱部51を非伝熱状態とすることが好ましい。また、制御部70は、第一伝熱部51を伝熱状態とする場合に、第二伝熱部52を非伝熱状態とすることが好ましい。なお、発熱体Hと加熱対象体Bとが異なる場合の一例としては、発熱体Hが回転電機であり、加熱対象体Bがバッテリ(高圧バッテリ)である場合が例示される。
【0033】
(5)上記の実施形態では、電気自動車で用いられる蓄熱放熱システム1を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、蓄熱放熱システム1は、例えばガソリン自動車で用いられても良い。このような場合には、例えばエンジンの熱を吸熱して蓄熱し、その蓄熱した熱を次回の起動時における暖機のために利用しても良い。或いは、蓄熱放熱システム1は、例えば住宅や車両等に設置される空調設備で用いられても良い。
【0034】
(6)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0035】
〔実施形態の概要〕
以上をまとめると、本開示に係る蓄熱放熱システムは、好適には、以下の各構成を備える。
【0036】
蓄熱放熱システム(1)であって、
双安定性を有する相転移材料(12)であって、結晶構造が第一相のときに第一温度(T1)以上に加熱されると吸熱して第二相に相転移し、結晶構造が第二相のときに前記第一温度(T1)よりも低い第二温度(T2)以下となると前記第一相に相転移して放熱する相転移材料(12)、を備える蓄熱体(10)と、
開口部(23)を備えているとともに内部に前記蓄熱体(10)が収容された断熱ケース(20)と、
前記開口部(23)に設けられて当該開口部(23)を開閉自在な開閉装置(30)と、
発熱体(H)と前記蓄熱体(10)とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在な第一伝熱部(51)と、
加熱対象体(B)と前記蓄熱体(10)とを熱伝導可能に接続するとともに伝熱状態と非伝熱状態とに切替自在な第二伝熱部(52)と、
前記発熱体(H)の温度が前記第一温度(T1)以上の場合に前記開口部(23)を閉塞状態にするとともに前記第一伝熱部(51)を伝熱状態とし、前記断熱ケース(20)の周囲の外気温が前記第二温度(T2)以下であってかつ前記加熱対象体(B)に関する規定の開始条件を満足する場合に前記開口部(23)を開放状態にするとともに前記第二伝熱部(52)を伝熱状態とする制御部(70)と、
を備える。
【0037】
この構成によれば、蓄熱体(10)に備えられる相転移材料(12)が、温度に基づいて吸熱する状態と放熱する状態とに切り替わるので、例えば大きな圧力を印加する等の必要がない。このため、周辺部材の強度を高めたり耐久性を向上させたりする必要がなく、また、トリガーのために多くのエネルギーを消費することも抑制できる。従って、比較的簡素な構成でエネルギー効率良く蓄熱及び放熱を行うことができる。また、この構成では、発熱体(H)の温度が第一温度(T1)以上の場合に開口部(23)を閉塞状態にするとともに第一伝熱部(51)を伝熱状態とすることで、発熱体(H)の熱を蓄熱体(10)に伝え、相転移材料(12)を第二相に相転移させて蓄熱することができる。一方、外気温が第二温度(T2)以下でありかつ開始条件を満足する場合に開口部(23)を開放状態にするとともに第二伝熱部(52)を伝熱状態とすることで、開口部(23)から断熱ケース(20)内に流入してくる外気で蓄熱体(10)を第二温度(T2)以下に冷却し、相転移材料(12)を第一相に相転移させて放熱することができる。そして、放熱により生じた熱を加熱対象体(B)に伝え、加熱対象体(B)を加熱することができる。このように、比較的簡素な構成でエネルギー効率良く、発熱体(H)から吸熱して蓄熱し、その蓄えた熱を必要に応じて放熱して加熱対象体(B)を加熱することができる。
【0038】
一態様として、
前記開始条件は、前記加熱対象体(B)の温度が当該加熱対象体(B)の性能発揮のために適した温度域の下限値である第三温度(T3)以下であり、かつ、前記加熱対象体(B)の使用を開始する指令があったことであることが好ましい。
【0039】
この構成によれば、加熱対象体(B)の使用を開始するタイミングで、加熱対象体(B)がその性能を発揮するのに適さないような低温である場合に、蓄熱体(10)から放熱させた熱で加熱対象体(B)を加熱し、性能発揮のために適した温度状態とすることができる。
【0040】
一態様として、
前記開口部(23)又はそれに隣接する位置に設けられて前記開口部(23)の開放時に前記断熱ケース(20)の内部に外気を導入する送風装置(40)をさらに備えることが好ましい。
【0041】
この構成によれば、第二温度(T2)以下の外気を効率良く開口部(23)から断熱ケース(20)内に流入させることができる。また、その冷気を自然対流に頼るのではなく強制対流によって蓄熱体(10)側に送り込むことができるので、効率良く蓄熱体(10)の温度を低下させることができる。よって、必要に応じて、蓄熱体(10)から迅速に放熱させることができる。
【0042】
一態様として、
前記発熱体(H)の温度を検出する第一センサ(81)と、
前記断熱ケース(20)の周囲の外気温を検出する第二センサ(82)と、
をさらに備えることが好ましい。
【0043】
この構成によれば、各センサでの検出結果に基づいて、開口部(23)を閉塞状態にするとともに第一伝熱部(51)を伝熱状態とするタイミングや、開口部(23)を開放状態にするとともに第二伝熱部(52)を伝熱状態とするタイミングを、適切に判定することができる。
【0044】
一態様として、
前記加熱対象体(B)の温度を検出する第三センサ(83)をさらに備えることが好ましい。
【0045】
この構成によれば、開始条件の中に加熱対象体(B)の温度に関する条件(すなわち、第三温度(T3)以下であること)がある場合に、その条件を満たすか否かを適切に判定することができる。
【0046】
一態様として、
前記発熱体(H)と前記加熱対象体(B)とが同一部材(D)であり、
前記第一伝熱部(51)と前記第二伝熱部(52)とが共用されていることが好ましい。
【0047】
この構成によれば、加熱対象体(B)自身が発熱しているときに吸熱して蓄熱し、その蓄えた熱を、時期を異ならせて、必要なときに放熱して加熱対象体(B)を加熱することができる。また、第一伝熱部(51)と第二伝熱部(52)とが共用されているので、システム構成を簡素化することができる。
【0048】
一態様として、
電力供給源としてのバッテリを備えた移動体又は設備で使用され、前記バッテリが前記発熱体(H)でありかつ前記加熱対象体(B)であることが好ましい。
【0049】
バッテリは、その性能を発揮するために適した温度域が存在し、使用中の温度が高過ぎても低過ぎても好ましくない。この点、本構成のように移動体又は設備に備えられる電力供給源としてのバッテリを発熱体(H)兼加熱対象体(B)とすることで、バッテリの温度が上昇した際に吸熱してその温度上昇を抑えつつ蓄熱し、その後、例えば低温での起動時に放熱してバッテリを予備加熱することができる。よって、自身が発生する熱を時間差で利用して、長期間に亘りバッテリを適正温度域で使用することができる。
【0050】
一態様として、
前記発熱体(H)と前記加熱対象体(B)とが別部材であるとともに、前記第一伝熱部(51)と前記第二伝熱部(52)とが互いに独立に設けられ、
前記制御部(70)は、前記第二伝熱部(52)を伝熱状態とする場合に、前記第一伝熱部(51)を非伝熱状態とすることが好ましい。
【0051】
この構成によれば、蓄熱体(10)が放熱した熱を用いた加熱対象体(B)の加熱時に、その熱が第一伝熱部(51)を介して発熱体(H)に伝わるのを抑制することができ、加熱対象体(B)を効率良く加熱することができる。
【0052】
本開示に係る蓄熱放熱システムは、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができれば良い。
【符号の説明】
【0053】
1 蓄熱放熱システム
10 蓄熱体
12 相転移材料
20 断熱ケース
23 開口部
30 開閉装置
40 送風装置
50 共用伝熱部(第一伝熱部、第二伝熱部)
51 第一伝熱部
52 第二伝熱部
81 第一センサ
82 第二センサ
83 第三センサ
D 発熱体兼加熱対象体(発熱体、加熱対象体)
H 発熱体
B 加熱対象体
T1 第一温度
T2 第二温度
T3 第三温度