(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】酸性液状栄養組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/19 20160101AFI20230131BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20230131BHJP
A23L 29/231 20160101ALI20230131BHJP
A23C 21/08 20060101ALI20230131BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20230131BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230131BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20230131BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A23L33/19
A23L33/21
A23L29/231
A23C21/08
A61K35/20
A61K47/36
A61P3/02
A61K9/10
(21)【出願番号】P 2018532993
(86)(22)【出願日】2017-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2017028372
(87)【国際公開番号】W WO2018030284
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2016156026
(32)【優先日】2016-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【氏名又は名称】梅村 裕明
(74)【代理人】
【識別番号】100158241
【氏名又は名称】吉田 安子
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】川鍋 舞
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/016917(WO,A1)
【文献】特表2006-508057(JP,A)
【文献】特表2013-545884(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146460(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0135791(US,A1)
【文献】国際公開第2012/043688(WO,A1)
【文献】特開2006-271326(JP,A)
【文献】特開平10-014494(JP,A)
【文献】特開2014-236668(JP,A)
【文献】国際公開第2013/085059(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/010669(WO,A1)
【文献】特開2014-079225(JP,A)
【文献】ペクチンの基本物性と応用アプリケーション,月刊フードケミカル,2011年11月,第27巻,19-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質、3~5質量%の脂質、糖質、食物繊維、および0.01~2.0質量%のペクチンを含有する酸性液状栄養組成物であって、
前記酸性液状栄養組成物に含有される前記たんぱく質全体の90質量%以上は乳清たんぱく質であり、
前記ペクチンがエステル化度70%以上の高メトキシルペクチンであり、
前記酸性液状栄養組成物中のカゼイン含有量は
、0質量%であり、
乳化剤を含まず、
20℃における粘度が5~100mPa・sであり、
25℃で8ヶ月の保存後に分離および沈殿が生じない
酸性液状栄養組成物。
【請求項2】
前記ペクチンの含有量が、0.8質量%より大きく1.2質量%以下である、請求項1に記載の酸性液状組成物。
【請求項3】
前記乳清たんぱく質は、加水分解されていない、請求項1
又は2に記載の酸性液状栄養組成物。
【請求項4】
前記乳清たんぱく質は、乳清たんぱく質濃縮物、乳清たんぱく質ミセル、および乳清たんぱく質分離物からなる群から選択される、請求項
3に記載の酸性液状栄養組成物。
【請求項5】
前記酸性液状栄養組成物が加熱済みである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の酸性液状栄養組成物。
【請求項6】
pHが3~5である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の酸性液状栄養組成物。
【請求項7】
前記たんぱく質の含量が0.5~20g/100mLである、請求項1~
6のいずれか1項に記載の酸性液状栄養組成物。
【請求項8】
エネルギー含量が1~10kcal/mLである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の酸性液状栄養組成物。
【請求項9】
前記酸性液状栄養組成物中のペプチド含有量は
、0質量%である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の酸性液状栄養組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性液状栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液状栄養組成物は、例えば栄養摂取が困難な高齢者などの効率的な栄養摂取をサポートしており、一般的には流動食と称されている。このうち、濃度が高く、より効率良く栄養摂取できるものが、濃厚流動食と称されている。現在市場に流通している濃厚流動食の多くは、1~2kcal/mLの高エネルギータイプで、かつ、pH7付近の中性タイプである。
【0003】
特許文献1には、平均分子量500~10000ダルトンのカゼイン分解物を含む酸性タイプの濃厚流動食が開示されている。特許文献2には、コラーゲンペプチド及び分解度が23~35である乳ペプチドを含む、酸性タイプの濃厚流動食が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-83774号公報
【文献】特開2014-236668号公報
【文献】特開2009-84204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、従来の濃厚流動食の多くは、1~2kcal/mLの高エネルギータイプで、かつ、pH7付近の中性タイプが多いため、その濃厚さから後味の悪さが問題となっている。また、特許文献1、及び特許文献2に開示されている酸性タイプの濃厚流動食では、乳ペプチド及び/又はコラーゲンペプチドに由来する独特の苦み(タンパク質分解臭)の発生と、当該酸性タイプの濃厚流動食自体の浸透圧の上昇が問題となっている。
【0006】
かかる問題を解決するためには、乳ペプチド及び/又はコラーゲンペプチド以外のたんぱく質原料、例えばカゼインなどの乳たんぱく質原料、を含有する酸性タイプの液状栄養組成物を提供できればよい。一方で、例えば、カゼインにはpH4.6周辺に等電点があることが知られている。カゼインを酸性タイプの液状栄養組成物に応用すると、たんぱく質の凝集による、液状栄養組成物の分離や沈殿が発生する。また、特許文献3には、乳化安定性を得るために、有機酸モノグリセリドやポリグリセリン脂肪酸エステルを含む酸性タイプの濃厚流動食に関する技術が開示されている。有機酸モノグリセリドやポリグリセリン脂肪酸エステルは、十分な乳化安定性を得るために0.1~2.0重量%程度の濃度で含有させる必要がある。この場合には、有機酸モノグリセリドやポリグリセリン脂肪酸エステルに由来して、風味が低下する。
【0007】
本発明は、乳ペプチド及び/又はコラーゲンペプチド以外のたんぱく質原料、例えば乳たんぱく質原料を高濃度で含有し、風味が良好で、乳化安定性の高い(分離や沈殿が起こりにくい)酸性液状栄養組成物の開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来の問題点に鑑み鋭意研究を進めたところ、乳清たんぱく質を90質量%以上含むたんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、及び0.01~2.0質量%のペクチンを含有する酸性液状栄養組成物が、風味が良好で、乳化安定性が高い(分離や沈殿が起こりにくく)ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従来は、カゼインの豊富な乳たんぱく質を含む液状栄養組成物を酸性条件下で安定させる場合に、高メトキシルペクチン(HMペクチン)が使用されていた。HMペクチンの電荷による反発作用によって、液状栄養組成物の分離や沈殿が防止される。本発明は、たんぱく質の90質量%以上を乳清たんぱく質が占める酸性タイプの液状栄養組成物である。
【0010】
本発明では、カゼインがほとんど存在しないにも関わらず、HMペクチンを使用して乳化安定性を高めることができた。これは、驚くべきことである。本発明の酸性タイプの液状栄養組成物は、乳ペプチドなどのペプチド原料を使用しないので、ペプチド原料に由来する風味の悪化を回避できる。
【0011】
本発明の酸性液状栄養組成物は、乳化安定性が高く、長期間の保管に供しても分離や沈殿が抑制されるため、数ヶ月間に及ぶ長期間の保存も可能である。また、本発明の酸性液状栄養組成物は、高たんぱく質タイプとすることができ、高濃度高カロリーで、安定かつ風味の良い組成物を得ることができる。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供するものである。
[1] 乳清たんぱく質を90質量%以上含むたんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、及び0.01~2.0質量%のペクチンを含有する酸性液状栄養組成物。
[2] 前記乳清たんぱく質が、加水分解されていない、[1]に記載の酸性液状栄養組成物。
[3] 前記乳清たんぱく質が、乳清たんぱく質濃縮物、乳清たんぱく質ミセル、乳清たんぱく質分離物からなる群から選択される、[2]に記載の酸性液状栄養組成物。
[4] 前記酸性液状栄養組成物が加熱済みである、[1]~[3]のいずれか1に記載の酸性液状栄養組成物。
[5] pHが3~5である、[1]~[4]のいずれか1に記載の酸性液状栄養組成物。
[6] 前記ペクチンがエステル化度70%以上の高メトキシルペクチンである、[1]~[5]のいずれか1に記載の酸性液状栄養組成物。
[7] 前記たんぱく質の含量が0.5~20g/100mLである、[1]~[6]のいずれか1に記載の酸性液状栄養組成物。
[8] エネルギー含量が1~10kcal/mLである、[1]~[7]のいずれか1に記載の酸性液状栄養組成物。
[9] 前記たんぱく質中のペプチド含有量は、実質的に0質量%である、[1]~[8]のいずれかに記載の酸性液状栄養組成物。
[10] 前記たんぱく質中のカゼイン含有量は、実質的に0質量%である、[1]~[9]のいずれかに記載の酸性液状栄養組成物。
[11] 実質的に0質量%以上0.1質量%未満の有機酸モノグリセリドまたはポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、[1]~[10]のいずれかに記載の酸性液状栄養組成物。
[12] 有機酸モノグリセリドおよびポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、実質的に0質量%である、[1]~[11]のいずれかに記載の酸性液状栄養組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、乳清たんぱく質を90質量%以上含むたんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、食物繊維、及び0.01~2.0質量%のペクチンを含有する酸性液状栄養組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0015】
本発明は、乳清たんぱく質を90質量%以上含むたんぱく質、脂質、糖質、食物繊維、及び0.01~2.0質量%のペクチンを含有する酸性液状栄養組成物である。
【0016】
たんぱく質は、乳清たんぱく質が含まれていれば、その種類、並びに精製度などに制限がない。乳清たんぱく質は、乳清たんぱく質が含まれている原料、例えば、ホエイパウダー、ホエイたんぱく質濃縮物(WPC、WPI)、ホエイ、ホエイたんぱく質ミセル、ホエイたんぱく質濃縮物を用いることができる。乳清たんぱく質は、好ましくは、加水分解されていないものである。すなわち、本発明の酸性液状栄養組成物には、ペプチドが含まれないことが好ましい。本発明の酸性液状栄養組成物には、カゼインもほとんど含まれていない。本発明の効果を損なわない量であれば、ペプチドおよびカゼイン等が含まれていてもよい。
【0017】
本発明の酸性液状栄養組成物における乳清たんぱく質の含有量は、好ましくは0.5~20質量%である。乳清たんぱく質の含有量は、より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは2~12質量%、さらにより好ましくは3~10質量%、特に好ましくは5~10質量%である。乳清たんぱく質の含有量を0.5質量%以上とすることで、本発明の効果が奏される。また、乳清たんぱく質の含有量を20質量%以下とすることで、乳化安定性が高められる。すなわち、酸性液状栄養組成物の分離や沈殿が抑制される。
【0018】
本発明の酸性液状栄養組成物におけるたんぱく質全体の90質量%以上は、乳清たんぱく質である。乳清たんぱく質がたんぱく質全体の90質量%以上を占めていると、本発明の効果が奏される。乳清たんぱく質の含有量は、たんぱく質全体の92質量%以上が好ましく、94質量%以上がより好ましく、96質量%以上がさらにより好ましく、98質量%以上が最も好ましい。
【0019】
本発明の酸性液状栄養組成物は、高濃度タイプ、すなわち濃厚タイプの流動食に応用することができる。例えば、たんぱく質含量は、好ましくは0.5~20g/100mLである。たんぱく質含量は、より好ましくは1~15g/100mL、さらに好ましくは2~12g/100mL、さらにより好ましくは3~10g/100mL、特に好ましくは5~10g/100mLである。また、例えば、酸性液状栄養組成物のエネルギー含量は、好ましくは1~10kcal/mL、より好ましくは1~5kcal/mL、さらに好ましくは1~3kcal/mL、特に好ましくは1~2kcal/mLである。
【0020】
脂質は、公知の脂質原料を使用することができ、その種類、並びに精製度などに制限がない。脂質原料は、市販の食用油脂などを使用することができ、例えば、動物油脂、植物油脂、魚油、などである。
【0021】
本発明の酸性液状栄養組成物における脂質の含有量は、好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは1~8質量%、さらにより好ましくは2~6質量%、特に好ましくは3~5質量%である。脂質の含有量を0.5質量%以上とすることで、本発明の酸性液状栄養組成物の栄養価が高まる。脂質の含有量が10質量%以下であれば、本発明の酸性液状栄養組成物の風味の低下が避けられる。
【0022】
糖質は、公知の糖質原料を使用することができ、その種類、並びに精製度などに制限がない。糖質原料は、市販の糖質原料などを使用することができ、例えば、単糖類、二糖類などの少糖類、デンプン、デキストリンなどである。
【0023】
本発明の酸性液状栄養組成物における糖質の含有量は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらにより好ましくは15~30質量%、特に好ましくは15~25質量%である。糖質の含有量を5質量%以上とすることで、本発明の酸性液状栄養組成物の栄養価が高まる。糖質の含有量が50質量%以下であれば、本発明の酸性液状栄養組成物の風味の低下が避けられる。
【0024】
食物繊維は、公知の食物繊維を使用することができ、その種類、並びに精製度などに制限がない。食物繊維原料は、市販の原料などを使用することができ、例えば、難消化性デキストリン、ポリデキストロースなどの水溶性食物繊維である。
【0025】
本発明の酸性液状栄養組成物における食物繊維の含有量は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.2~10質量%、さらにより好ましくは0.3~5質量%、特に好ましくは0.4~1質量%である。食物繊維の含有量を0.1質量%以上とすることで、本発明の酸性液状栄養組成物の栄養価が高まる。また、食物繊維の含有量を20質量%以下とすることで、食物繊維由来の機能性を享受できる。
【0026】
本発明の酸性液状栄養組成物には、安定剤の少なくとも一部としてペクチンが含有される。ペクチンは、公知のペクチン原料を使用することができ、特に、エステル化度70%以上の高メトキシルペクチン(HMペクチン)が好ましい。また、HMペクチンと同様に電荷の反発作用のある原料、例えば、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどは、ペクチンの代替として使用することができる。本発明の効果を損なわない量であれば、有機酸モノグリセリドやポリグリセリン脂肪酸エステル等が含まれていてもよい。
【0027】
本発明の酸性液状栄養組成物におけるペクチンの含有量は、0.01~20質量%とすることができる。ペクチンの含有量は、好ましくは0.02~10質量%、より好ましくは0.03~5質量%、最も好ましくは、0.01~2.0質量%である。ペクチンの含有量は、0.05~1質量%としてもよい。ペクチンの含有量を0.01質量%以上とすることで、本発明の効果を奏する。また、ペクチンの含有量を2.0質量%以下とすることで、本発明の酸性液状栄養組成物は飲みやすい形態となる。
【0028】
本発明の酸性液状栄養組成物は、加熱処理済みであることが、保存や流通の観点から好ましい。加熱処理は、公知の常温流通可能な流動食や栄養食品と同等の条件で行うことができる。加熱処理は、例えば、110~150℃1~60秒でのUHT殺菌とすることができる。加熱条件は、好ましくは120~150℃1~30秒、より好ましくは120~145℃1~30秒である。
本発明の酸性液状栄養組成物は、酸性であるので、風味が爽やかで摂取しやすい。本発明の酸性液状栄養組成物のpHは、好ましくは3~5であり、より好ましくは3.5~4.5であり、最も好ましくは3.8~4.2である。
【0029】
本発明の酸性液状栄養組成物には、ビタミン、ミネラルなどの公知の食品原料や食品添加物を任意に添加することができる。
【0030】
本発明の酸性液状栄養組成物の形態として、「流動食」が挙げられる。「流動食」は、経口、経管的に投与される食品組成物に適用され、主に胃腸系疾患の患者や高齢者等に対して効率的に栄養を補給する。「流動食」は、特に入院患者における術前・術後の栄養管理に使用される場合が多い。こうした流動食は、高濃度、高カロリーであることが必要である。さらに「流動食」は、消化吸収も良く、蛋白質、脂質、糖質の3大栄養素とビタミン類、ミネラル類がバランスよく配合されていることが好ましい。
【0031】
なお、本発明の酸性液状栄養組成物は、流動食としての一般的な粘度(3~500mPa・s(20℃))を有していることが好ましい。本発明の酸性液状栄養組成物の粘度は、より好ましくは5~100mPa・s(20℃)であり、さらに好ましくは7~75mPa・s(20℃)であり、特に好ましくは20~50mPa・s(20℃)である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「%」表示は特に明記する場合を除き質量%を示すものとする。
【0033】
[試験例]
1600mLの温水(60℃)に、加水分解処理をしていない乳清たんぱく質濃縮物226.5g、粉末デキストリン(松谷化学社TK-16)726g、植物性油脂121.5g、難消化性デキストリン(松谷化学社パインファイバーC)27g、ミネラル混合物(クエン酸含有)62.2g、ビタミン混合物2.3g、香料0.3gを添加した。同様の組成で6種類調製した。それぞれに、安定剤としてのHMペクチン(CPケルコ社YM115-LJ、エステル化度72%)を、所定の濃度となるように加えて組成物原料を得た。
【0034】
各組成物原料を、TKホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて予備乳化した後、水を添加して総量を3000mLに調製した。これらの6種類の予備乳化物における各成分の組成は表1の通りである。HMペクチンの濃度は、0%(試験例1)、0.5%(試験例2)、0.6%(試験例3)、0.8%(試験例4)、1.0%(試験例5)、1.2%(試験例6)とした。
【0035】
【0036】
試験例1~6の予備乳化物に対し、高圧ホモジナイザー(GEAプロセスエンジニアリング株式会社製)を用いて2段階均質化処理を施した。2段階均質化処理における単位面積当たりの質量は、一段目50kg/cm2、二段目200kg/cm2とした。この2段階均質化処理を計2回行い、125℃5秒間の加熱殺菌を経て、試験例1~6の酸性液状栄養組成物を得た。
【0037】
試験例1~6の酸性液状栄養組成物のpHは4.0であった。試験例1~6の酸性液状栄養組成物は、エネルギー含量が1.6kcal/mLであり、たんぱく質濃度6g/100mLであった。試験例1~6の酸性液状栄養組成物は、たんぱく質の100質量%が乳清たんぱく質である。ペプチドおよびカゼインは、試験例1~6の酸性液状栄養組成物に含有されていない。しかも、試験例1~6の酸性液状栄養組成物は、安定剤としてHMペクチンを含有しているので風味が良好である。
【0038】
試験例1~6の酸性液状栄養組成物を、40℃で2週間保存した。その結果、安定剤としてのHMペクチンの添加量が0%の試験例1では分離、離水が発生した。これに対し、0.5~1.2%のHMペクチンを含有する試験例2~6では、分離、離水が発生しなかった。
【0039】
【0040】
[実施例1]
26000mLの温水(60℃)に、乳清たんぱく質濃縮物4500g、HMペクチン90g、液体デキストリン16200g、ショ糖600g、植物性油脂2340g、難消化性デキストリン940g、ミネラル混合物1850g、ビタミン混合物53g、香料415gを添加し、ホモミキサーを用いて予備乳化した。得られた予備乳化物に水を添加して、総量を60000mLに調製した。
【0041】
予備乳化物に対し、高圧ホモジナイザーを用いた2段階均質化処理を2回施した。1回目の処理における単位面積当たりの質量は、一段目50kg/cm2、二段目300kg/cm2とした。2回目の処理における単位面積当たりの質量は、一段目50kg/cm2、二段目200kg/cm2とした。さらに、125℃5秒間の加熱殺菌を行って、実施例1の酸性液状栄養組成物を得た。
【0042】
実施例1の酸性液状栄養組成物のpHは4.0であった。実施例1の酸性液状栄養組成物は、エネルギー含量が1.6kcal/mLであり、たんぱく質濃度6g/100mL(うち、たんぱく質における乳清たんぱく質の割合は100%)、粘度は25mPa・s(20℃)であった。
実施例1の酸性液状栄養組成物は、喉越しが良く、良好な風味であった。この酸性液状栄養組成物を25℃で保存して、8ヶ月後に開封した。開封された酸性液状栄養組成物には、分離や沈殿は発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、風味が良く安定した物性で、乳化安定性の高く(分離や沈殿が起こりにくく)、長期保存可能な酸性液状栄養組成物を提供することができる。