(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】スパッタリング装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20230131BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/34 C
(21)【出願番号】P 2019097254
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】水野 雄介
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-052251(JP,A)
【文献】特開2008-202072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0278523(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ面を水平方向に向けた起立姿勢でターゲットが配置される真空チャンバと、間隔を存してターゲットの外周縁部を囲うように設置される防着板とを備えるスパッタリング装置において、
鉛直方向にのびる防着板の部分は、円筒状の軸部とこの軸部の外筒面に所定ピッチで形成されたねじ山部とで構成され、
軸部をその軸線回りに回転する駆動手段を備えることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記軸部に、鉛直方向にのびる縦孔と、この縦孔に連通し、径方向外方かつ鉛直方向上方に向けてのびて開口する横孔とが形成されていることを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ねじ山部の鉛直方向下方で且つターゲットの下端より下方に位置させて、前記縦孔に通じる回収容器が設けられていることを特徴とする請求項2記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ面を水平方向に向けた起立姿勢でターゲットが配置される真空チャンバと、間隔を存してターゲットの外周縁部を囲うように設置される防着板とを備えるスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のスパッタリング装置(所謂縦型のスパッタリング装置)は、比較的面積の大きい矩形のガラス基板(以下、「基板」という)表面に、ITO膜、IGZO膜といった透明導電膜を製品歩留まりよく成膜するために従来から利用されている。このものでは、通常、ターゲットの周囲に間隔を存して、アノードとしても機能する板枠状の防着板が配置される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
基板表面にITO膜を成膜する場合には、真空チャンバ内に、その成膜面をスパッタ面に対向させた姿勢で基板を設置した後、真空雰囲気の真空チャンバ内に希ガスを導入し、ITO製のターゲットに電力投入してプラズマ雰囲気を形成する。すると、プラズマ中の希ガスのイオンによりターゲットがスパッタリングされ、ターゲットのスパッタ面から所定の余弦則に従い飛散したスパッタ粒子が基板表面に付着、堆積してITO膜が成膜される。このとき、ターゲットの周囲に位置する防着板の表面(即ち、水平方向を向く面)にもまた、スパッタ粒子が付着、堆積する。
【0004】
ここで、スパッタ粒子が付着する防着板の表面は、ターゲット表面からみて所定の余弦則による直接のスパッタ粒子の付着(入射)を受けない領域にある。このため、防着板の表面には、主として反跳したスパッタ粒子が付着、堆積することになる。このようにして形成されるITO膜は、通常、外力からの影響に弱くて脆いので、これが、何らかの原因で黄色の粉状体(イエローパウダー)となって飛散する場合がある。このとき、粉状体は、防着板の板面から水平成分を持って飛散してその自重で下落していく一方で、ターゲットと基板との間には、成膜条件等に応じて水平方向に所定の間隔が設けられているが、その一部が基板表面に付着することがあり、これが製品歩留まりを低下させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、ターゲットの周囲に配置される防着板から飛散する粉状体の基板表面への付着を可及的に抑制できるようにしたスパッタリング装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、スパッタ面を水平方向に向けた起立姿勢でターゲットが配置される真空チャンバと、間隔を存してターゲットの外周縁部を囲うように設置される防着板とを備える本発明のスパッタリング装置は、鉛直方向にのびる防着板の部分が、円筒状の軸部とこの軸部の外筒面に所定ピッチで形成されたねじ山部とで構成され、軸部をその軸線回りに回転する駆動手段を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、プラズマ中の希ガスのイオンによりターゲットがスパッタリングされると、駆動手段により回転される防着板の部分の表面、具体的には、ねじ山部や露出する軸部の表面にも、主として反跳したスパッタ粒子が付着、堆積する。そして、これが、何らかの原因で黄色の粉状体となって飛散する。このとき、ねじ山部の表面(即ち、水平方向に対して傾斜した面)から飛散する粉状体は、起立姿勢の防着板の板面から飛散するものとは異なり、殆ど水平方向の成分を持たないので、基板表面まで到達する粉状体を可及的に少なくできる。しかも、ねじ山部の各山部のうち、鉛直方向下方に位置する領域から飛散した粉状体がその直下に位置する各山部で受け止められ、この受け止められた粉状体は、回転するねじ山部に沿って鉛直方向下方へと送られるようになり、飛散した粉状体が真空チャンバに浮遊することが抑制される。結果として、ターゲットの周囲に配置される防着板から飛散する粉状体の基板表面への付着を可及的に抑制できる。
【0009】
本発明において、前記軸部に、鉛直方向にのびる縦孔と、この縦孔に連通し、径方向外方かつ鉛直方向上方に向けてのびて開口する横孔とを形成することが好ましい。これによれば、ねじ山部の各山部で受け止められた粉状体の少なくとも一部は、横孔から縦孔を経てターゲットより下方に位置する真空チャンバ内の空間へと速やかに送られるため、ねじ山部に沿って粉状体を下方へと送る際に、ねじ山部から粉状体が飛び散って真空チャンバに浮遊することをより一層抑制できる。この場合、前記ねじ山部の鉛直方向下方で且つターゲットの下端より下方に位置させて、前記縦孔に通じる回収容器が設けられていれば、真空チャンバ内のクリーニング時に、粉状体の回収が容易にでき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態のスパッタリング装置を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、基板を矩形の輪郭を持つガラス基板(以下「基板Sw」という)とし、基板Swの表面にITO膜を成膜する場合を例に、本発明の実施形態のスパッタリング装置について説明する。
【0012】
図1を参照して、SMは、本実施形態のスパッタリング装置であり、スパッタリング装置SMは、真空チャンバ1を備える。以下においては、鉛直方向をZ軸方向、水平方向のうち
図1の左右方向をX軸方向とし、また、「上」「下」といった方向を示す用語は、
図1を基準として説明する。
【0013】
真空チャンバ1の下壁には、ターボ分子ポンプやロータリーポンプなどから構成される真空ポンプユニットPuに通じる排気管11が接続され、真空チャンバ1内を所定圧力(例えば1×10-5Pa)まで真空排気できるようにしている。真空チャンバ1の側壁上部には、アルゴンガス等の希ガスからなるスパッタガス(酸素ガスや窒素ガス等の反応性ガスも含まれる)のガス源(図示省略)に連通するガス導入管12が接続されている。ガス導入管12には、マスフローコントローラ13が介設されており、真空チャンバ1内にスパッタガスを所定流量で導入できるようになっている。
【0014】
真空チャンバ1内には、ITO製のターゲット2がそのスパッタ面を水平方向に向けた起立姿勢で配置されている。ターゲット2にはまた、DC電源等から構成されるスパッタ電源Eからの出力が接続され、ターゲット2に負の電位を持った所定電力が投入されるようになっている。尚、ターゲット2のスパッタ面と背向する側には図示省略する公知の磁石ユニットが設けられ、スパッタ面前方に漏洩磁場を発生させることで、スパッタ面前方で電離した電子等を捕捉してターゲット2から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化できるようにしている。
【0015】
上記スパッタリング装置SMは、ゲートバルブGvを介して真空チャンバ1内のターゲット2と対向する位置に基板Swを搬送する基板搬送装置3を備える。基板搬送装置3は、基板Swをその成膜面を水平方向に向けた起立姿勢で保持するキャリア31と、キャリア31をX軸方向に搬送可能なキャリア搬送手段32とで構成される。キャリア搬送手段32は、真空チャンバ1内にX軸方向に所定間隔で列設された回転自在な複数個のローラ(図示省略)と、これらのローラに摺動自在に係合する、キャリア31が固定されるスライダ32aとを備え、図示省略のモータにより各ローラを回転駆動することで、スライダ32aがX軸方向に移動するようになっている。キャリア搬送手段32としては、これに限らず、公知のものを利用できる。
【0016】
上記スパッタリング装置SMは、ターゲット2の外周縁部を所定の間隔を存して囲うように設置される、アース接地の金属製の防着板4を更に備える。防着板4は、ターゲット2の上下に夫々配置されてX軸方向にのびる第1部分4aと、ターゲット2の左右に夫々配置されてZ軸方向にのびる第2部分4bとで構成されている。本実施形態では、各第1部分4aと各第2部分4bとが互いに分離させた形態を有するが、一体に形成することもできる。第1部分4aは、所定の幅を持つ板状の部材で構成され、第1部分4aのX軸方向の長さは、ターゲット2のX軸方向の幅より長くなるように設定されている。
【0017】
図2も参照して、第2部分4bは、所定の直径dを有する円筒状の軸部41と、この軸部41の外筒面41aに所定のピッチPc及び高さで螺旋状に形成されたねじ山部42とを備える。ねじ山部42は、ターゲット2の上下方向の長さと同等以上となるように設定され、ねじ山部42の各山部421が、水平面に対して対称な断面形状を持ち、かつ、その頂部421aが鋭角(尖った形状)となるようにしている。この場合、軸部41の直径d、ねじ山部42のピッチPcや各山部421の高さhは、ターゲット2のスパッタ面の面積等を考慮して適宜設定される。
【0018】
軸部41の下端は、真空チャンバ1の底壁を貫通してその下方に突出し、この突出した部分は、モータ5に接続されている。そして、スパッタリングにより成膜時、モータ5によって第2部分4bがその軸線回りに回転されるようにしている。第2部分4bを回転するときの回転速度は、後述するように、各山部421に落下した粉状体Pwを効率よく下方へと送ることができるように適宜設定される。ねじ山部42の鉛直方向下方で且つターゲット2の下端より下方の真空チャンバ1の底部には、ねじ山部42に沿って鉛直方向下方に送られた粉状体Pwを回収する回収容器51が配置されている。また、軸部41には、鉛直方向にのびる縦孔41bと、この縦孔41bに連通し、径方向外方かつ鉛直方向上方に向けてのび、ねじ山部42の各山部421の斜面421bにて開口する横孔41cとが形成されている。更に、軸部41には、縦孔41bの下端から径方向外方かつ鉛直方向下方に向けてのびて回収容器51を臨む他の横孔41dが形成されている。
【0019】
上記スパッタリング装置SMを用いて基板Sw表面にITO膜を成膜する場合、真空チャンバ1内に、基板Swの成膜面がターゲット2のスパッタ面に対向する位置に基板Swを設置し、真空チャンバ1内を所定の真空度(例えば、1×10-5Pa)まで真空排気した後、アルゴンガスを所定流量で導入すると共にスパッタ電源Eからターゲット2に負の電位を持つ電力を投入してターゲット2をスパッタリングすると、ターゲット2から所定の余弦則に従いスパッタ粒子が飛散する。ターゲット2から飛散したスパッタ粒子は基板Sw表面に付着、堆積してITO膜が成膜される。このような成膜中、防着板4の第2の部分4bにねじ山部42や露出する軸部41の外筒面41aにも、主として反跳したスパッタ粒子が付着し、この付着したスパッタ粒子が、何らかの原因で黄色の粉状体Pwとなって飛散する。
【0020】
ここで、本実施形態では、比較的多くの反跳したスパッタ粒子が付着する第2部分4bの外表面は、その外周面が尖ったねじ山部42で形成されているため、反跳したスパッタ粒子は、水平面に対して傾斜した山部421の斜面421b,421cや、谷部422に位置する軸部41の外筒面41aに付着、堆積するようになる。そして、堆積したものから粉状体Pwが飛散するとき、上記従来例の如く起立姿勢の防着板の板面から飛散するものとは異なり、特にねじ山部42の各山部421から飛散するものは殆ど水平方向の成分を持たない。このため、基板Sw表面まで到達する前に鉛直方向下方に落下し、基板Sw表面に到達する粉状体Pwを可及的に少なくできる。また、各山部421のうち鉛直方向下方に位置する斜面421c(谷部422に位置する軸部41の外筒面41aを含む)から飛散した粉状体Pwはその直下に位置する各山部421で受け止められるようになる。この受け止められた粉状体Pwは、回転するねじ山部42に沿ってターゲット2より下方に位置する回収容器51へと順次送られ、このとき、粉状体Pwの一部は、横孔41cから縦孔41bを経て、ターゲット2より下方に位置する回収容器51へと速やかに送られる。これにより、飛散した粉状体Pwが真空チャンバ1内に浮遊することが抑制され、その結果、ターゲット2の周囲に配置される防着板4の第2部分4bから飛散する粉状体Pwの基板Sw表面への付着を可及的に抑制できる。この場合、第2部分4bから飛散した粉状体Pwが回収容器51に集めて回収されるため、真空チャンバ1内のクリーニング時に粉状体Pwの回収が容易にでき、有利である。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、ITO製のターゲット2を用いてITO膜を成膜する場合を例に説明したが、これに限らず、IGZO製のターゲットを用いてIGZO膜を成膜する場合や、例えばタンタルやタングステン等の高融点金属製のターゲットを用いて高融点金属膜を成膜する場合にも本発明を好適に適用することができる。このようなIGZO膜や高融点金属膜を成膜する場合も、防着板4に付着したスパッタ粒子が粉状体Pwとなって飛散することがあり、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0022】
また、上記実施形態では、ねじ山部42の各山部421が、水平面に対して対称な断面形状を持つものを例に説明したが、ねじ山部42の形態は、基板Sw表面に到達する粉状体Pwを可及的に少なくできると共に、その一部を各山部42で受け止められるものであれば、これに限定されるものではない。
図3に示す変形例に係るものでは、上記実施形態のねじ山部42の山部421にて、鉛直方向上側の部分(
図3中、二点鎖線で示す部分)を切除することで、各山部421が略水平な上面421dを持つ、非対称な断面形状としている。これによれば、ねじ山部42の鉛直方向下側の斜面421cから飛散した粉状体Pwを受け止め易くでき、しかも、上面42bに付着したものから飛散した紛状体Pwの大部分は、上面42bに戻るようになり、飛散した粉状体Pwが真空チャンバ1内に浮遊することがより一層抑制され、有利である。
【0023】
更に、上記実施形態では、真空チャンバ1の底部に配置した回収容器51で粉状体Pwを一旦受け止め、真空チャンバ1を大気開放したときに、回収容器51から粉状体Pwを回収できるようにしたものを例に説明したが、これに限定されるものでない。例えば、回収容器51に排出管を介して吸引手段を接続し、真空チャンバ1を大気開放することなく、回収容器51に集められた粉状体Pwを真空チャンバ1外に排出するようにしてもよい。
【0024】
上記実施形態では、1枚の基板Swと1枚のターゲット2とが対向配置されているが、基板Swの面積が比較的大きく、複数枚のターゲット2が間隔を存してX軸方向に並設される場合にも本発明を適用することができる。この場合、並設方向に隣接するターゲット2間の隙間に第2部分4bを配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0025】
Pw…粉状体、SM…スパッタリング装置、Sw…基板、1…真空チャンバ、2…ターゲット、4…防着板、4b…防着板4の第2部分(鉛直方向にのびる防着板の部分)、41…軸部、41a…外筒面、41b…縦孔、41c…横孔、42…ねじ山部、5…回転モータ(駆動手段)。