(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
H01F 10/16 20060101AFI20230131BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20230131BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20230131BHJP
【FI】
H01F10/16
H01F41/18
H01L43/08 B
(21)【出願番号】P 2020553991
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042628
(87)【国際公開番号】W WO2020090914
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2018204303
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】タム キム コング
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】青野 雅広
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恭伸
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-238925(JP,A)
【文献】特開2006-107625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 10/16
H01F 41/18
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く45at%以下含有し、
当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を10vol%以上42vol%以下含有し、
厚さが20nm以上80nm以下であることを特徴とする面内磁化膜。
【請求項2】
CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなることを特徴とする請求項1に記載の面内磁化膜。
【請求項3】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の面内磁化膜。
【請求項4】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く45at%以下含有し、
当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を10vol%以上42vol%以下含有しており、
前記面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm
2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項5】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
結晶構造が六方最密充填構造である非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く45at%以下含有し、
当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を10vol%以上42vol%以下含有してなり、
前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは20nm以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項6】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることを特徴とする請求項4または5に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項7】
前記面内磁化膜は、CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなることを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項8】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4~7のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項9】
前記面内磁化膜の1層あたりの厚さは、5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項4~8のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の面内磁化膜または請求項4~9のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層。
【請求項11】
請求項10に記載のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、
金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、
当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを60at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く40at%以下含有し、
当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物を10vol%以上40vol%以下含有し、
形成する前記面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm
2以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットに関し、詳細には、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板を加熱して行う成膜(以下、加熱成膜と記すことがある。)を行わずに実現することができるCoPt-酸化物系の面内磁化膜、CoPt-酸化物系の面内磁化膜多層構造およびハードバイアス層に関するとともに、前記CoPt-酸化物系の面内磁化膜、前記CoPt-酸化物系の面内磁化膜多層構造または前記ハードバイアス層に関連する、磁気抵抗効果素子およびスパッタリングターゲットに関する。前記CoPt-酸化物系の面内磁化膜および前記CoPt-酸化物系の面内磁化膜多層構造は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層に用いることができる。
【0002】
保磁力Hcが2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるハードバイアス層であれば、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層と比べて同等程度以上の保磁力および残留磁化を有していると考えられる。なお、本願において、ハードバイアス層とは、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(以下、フリー磁性層と記すことがある。)にバイアス磁界を加える薄膜磁石のことである。
【背景技術】
【0003】
現在多くの分野で磁気センサが用いられているが、汎用的に用いられている磁気センサの1つに磁気抵抗効果素子がある。
【0004】
磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(フリー磁性層)と、該磁性層(フリー磁性層)にバイアス磁界を加えるハードバイアス層と、を有してなり、ハードバイアス層には、所定以上の大きさの磁界を安定的にフリー磁性層に印加できることが求められている。
【0005】
したがって、ハードバイアス層には、高い保磁力および残留磁化が求められる。
【0006】
しかしながら、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力は、2kOe程度であり(例えば、特許文献1の
図7)、これ以上の保磁力の実現が望まれている。
【0007】
また、単位面積当たりの残留磁化は、2memu/cm2程度以上であることが望まれている(例えば、特許文献2の段落0007)。
【0008】
これらに対応できる可能性のある技術として、例えば特許文献3に記載の技術がある。特許文献3に記載の技術は、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)とハードバイアス層との間に設けたシード層(Ta層と、そのTa層の上に形成され、面心立方(111)結晶構造または六方最密(001)結晶構造を有する金属層とを含む複合シード層)により、長手方向に容易軸を向かせるように磁性材料を配向させ、ハードバイアス層の保磁力の向上を試みた手法である。しかしながら、ハードバイアス層に望まれる前記磁気特性を満たしていない。また、この手法では、保磁力向上のため、センサ積層体とハードバイアス層との間に設けたシード層を厚くする必要がある。このため、センサ積層体中のフリー磁性層への印加磁場が弱くなるという問題も抱える構造である。
【0009】
また、特許文献4には、ハードバイアス層に用いる磁性材にFePtを用いることや、Pt又はFeシード層を有するFePtハードバイアス層、及びPt又はFeのキャッピング層が記載されており、この特許文献4では、焼なまし温度が約250~350℃である焼なましの間に、シード層及びキャッピング層内のPt又はFe、ならびにハードバイアス層内のFePtが互いに混ざり合う構造が提案されている。しかしながら、このハードバイアス層の形成に必要な加熱工程においては、既に積層されている他の膜への影響を考慮する必要があり、この加熱工程は可能な限り避けるべき工程である。
【0010】
特許文献5では、焼なまし温度の最適化が行われて、焼なまし温度を200℃程度まで下げることが可能であることが示され、ハードバイアス層の保磁力が3.5kOe以上であることが示されているが、単位面積当たりの残留磁化は1.2memu/cm2程度であり、ハードバイアス層に望まれている前記磁気特性を満たしていない。
【0011】
なお、特許文献6には、長手記録用磁気記録媒体が記載されており、その磁性層は、六方最密充填構造を有する強磁性結晶粒と、それを取り巻く主に酸化物からなる非磁性粒界とからなるグラニュラ構造であるが、このようなグラニュラ構造が磁気抵抗効果素子のハードバイアス層へ用いられた事例は無い。また、特許文献6に記載の技術は、磁気記録媒体の課題である信号対雑音比の低減を目的としており、磁性層の層間に非磁性層を用いて磁性層を多層化させているが、その上下の磁性層同士は反強磁性結合を有しており、磁性層の保持力の向上には適さない構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-283016号公報
【文献】特表2008-547150号公報
【文献】特開2011-008907号公報
【文献】米国特許出願公開第2009/027493A1号公報
【文献】特開2012-216275号公報
【文献】特開2003-178423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
実際の磁気抵抗効果素子への適用を視野に入れた場合、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)およびハードバイアス層は、できるだけ薄くすることが好ましく、また、加熱成膜は行わないことが好ましい。
【0014】
この条件を満たした上で、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力(2kOe程度)および単位面積当たりの残留磁化(2memu/cm2程度)を上回るハードバイアス層を得るためには、現状のハードバイアス層に用いられている元素や化合物とは異なる元素や化合物を探索していく必要があると本発明者は考え、また、酸化物をCoPt系の面内磁化膜に適用することが有望であるのではないかと本発明者は考えた。また、酸化物を適用したCoPt系の面内磁化膜を非磁性中間層を用いて多層化することも有望であるのではないかと本発明者は考えた。
【0015】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜、面内磁化膜多層構造およびハードバイアス層を提供することを課題とし、併せて、前記面内磁化膜、前記面内磁化膜多層構造または前記ハードバイアス層に関連する、磁気抵抗効果素子およびスパッタリングターゲットを提供することも補足的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下の面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットにより、前記課題を解決したものである。
【0017】
即ち、本発明に係る面内磁化膜は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜であって、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く45at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を10vol%以上42vol%以下含有し、厚さが20nm以上80nm以下であることを特徴とする面内磁化膜である。
【0018】
本願において、ハードバイアス層とは、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層にバイアス磁界を加える薄膜磁石のことである。
【0019】
また、本願において、面内磁化膜の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜の厚さを乗じた値のことである。
【0020】
前記面内磁化膜は、CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなるように構成してもよい。
【0021】
ここで、結晶粒界とは、結晶粒の境界のことである。
【0022】
前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むものを用いてもよい。
【0023】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第1の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く45at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を10vol%以上42vol%以下含有しており、前記面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0024】
ここで、本願において、非磁性中間層とは、面内磁化膜同士の間に配置される非磁性層のことである。
【0025】
また、本願において、強磁性結合とは、非磁性中間層を挟んで隣り合う磁性層(ここでは、前記面内磁化膜)のスピンが平行(同じ向き)になっているときに働く交換相互作用に基づく結合のことである。
【0026】
また、本願において、面内磁化膜多層構造の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の厚さの合計の値を乗じた値のことである。
【0027】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第2の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、結晶構造が六方最密充填構造である非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く45at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を10vol%以上42vol%以下含有してなり、前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは20nm以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0028】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることが好ましい。
【0029】
前記面内磁化膜多層構造において、前記面内磁化膜は、CoPt合金結晶粒と前記酸化物の結晶粒界とからなるグラニュラ構造を有してなるように構成してもよい。
【0030】
前記面内磁化膜多層構造において、前記酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含むものを用いてもよい。
【0031】
本発明に係るハードバイアス層は、前記面内磁化膜または前記面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層である。
【0032】
本発明に係る磁気抵抗効果素子は、前記ハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子である。
【0033】
本発明に係るスパッタリングターゲットは、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを60at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く40at%以下含有し、当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物を10vol%以上40vol%以下含有し、形成する前記面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【0034】
ここで、室温成膜とは、基板加熱をせずに成膜することを意味する。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに実現することができる面内磁化膜、面内磁化膜多層構造およびハードバイアス層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るCoPt-酸化物系の面内磁化膜10を、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20を、磁気抵抗効果素子24のハードバイアス層26に適用している状態を模式的に示す断面図。
【
図3】薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を模式的に示す斜視図。
【
図4】走査透過電子顕微鏡を用いて撮像して取得した観察像の一例(実施例45の観察像)。
【
図5】実施例45の面内磁化膜の厚さ方向に行った(
図4中の黒線に沿って行った)線分析(元素分析)の結果。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る面内磁化膜10を、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14に適用している状態を模式的に示す断面図である。なお、
図1においては、下地層(面内磁化膜10は下地層の上に形成される)の記載は省略している。
【0038】
ここでは、磁気抵抗効果素子12としてトンネル型磁気抵抗効果素子を念頭に置いて
図1に示す構成の説明を行うが、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、トンネル型磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用に限定されるわけではなく、例えば巨大磁気抵抗効果素子、異方性磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用も可能である。
【0039】
磁気抵抗効果素子12(ここでは、トンネル型磁気抵抗効果素子)は、非常に薄い非磁性トンネル障壁層(以下、バリア層54)によって分離された2つの強磁性層(フリー磁性層16、ピン層52)を有する。ピン層52は、隣接する反強磁性層(図示せず)との交換結合により固定されることなどによって、その磁化方向が固定されている。フリー磁性層16は、外部磁界が存在する状態で、その磁化方向を、ピン層52の磁化方向に対して自由に回転させることができる。フリー磁性層16が外部磁界によってピン層52の磁化方向に対して回転すると、電気抵抗が変化するため、この電気抵抗の変化を検出することで、外部磁界を検出することができる。
【0040】
ハードバイアス層14は、フリー磁性層16にバイアス磁界を加えて、フリー磁性層16の磁化方向軸を安定させる役割を有する。絶縁層50は電気的な絶縁材料で形成されており、センサ積層体(フリー磁性層16、バリア層54、ピン層52)を垂直方向に流れるセンサ電流が、センサ積層体(フリー磁性層16、バリア層54、ピン層52)の両側のハードバイアス層14に分流するのを抑制する役割を有する。
【0041】
図1に示すように、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層16にバイアス磁界を加えることができる。ハードバイアス層14は、本第1実施形態に係る面内磁化膜10のみで構成されており、面内磁化膜10の単層で構成されている。
【0042】
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、酸化物を含有し、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力と比べて同等程度以上の保磁力(2.00kOe以上の保磁力)および単位面積当たりの残留磁化(2.00memu/cm2以上)を有する単層の面内磁化膜である。具体的には、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、CoPt-酸化物系の面内磁化膜であり、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く45at%以下含有し、当該面内磁化膜の全体に対して前記酸化物を10vol%以上42vol%以下含有し、厚さが20nm以上80nm以下である。
【0043】
なお、本願では、金属Coを単にCoと記載し、金属Ptを単にPtと記載し、金属Ruを単にRuと記載することがある。また、他の金属元素についても同様に記載することがある。
【0044】
(1-1)面内磁化膜10の構成成分
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、前述したように、金属成分としてCoおよびPtを含有し、また、酸化物を含有する。
【0045】
金属Coおよび金属Ptは、スパッタリングによって形成される面内磁化膜において、磁性結晶粒(微小な磁石)の構成成分となる。
【0046】
Coは強磁性金属元素であり、面内磁化膜中の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して55at%以上95at%未満としている。また、同様の点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して55at%以上80at%以下であることが好ましく、65at%以上75at%以下であることがより好ましい。
【0047】
Ptは、所定の組成範囲でCoと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。一方、スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくして、面内磁化膜の保磁力を大きくするという機能を有する。面内磁化膜の保磁力を大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を調整するという観点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して5at%より多く45at%以下としている。また、同様の点から、本実施形態に係る面内磁化膜中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜中の金属成分の合計に対して20at%以上40at%以下であることが好ましく、25at%以上35at%以下であることがより好ましい。
【0048】
本第1実施形態に係る面内磁化膜10が含有する酸化物は、Ti、Si、W、B、Mo、Ta、Nbの酸化物のうちの少なくとも1種を含む。そして、面内磁化膜10中において、前記のような酸化物からなる非磁性体によって、CoPt合金磁性結晶粒同士が仕切られており、グラニュラ構造が形成されている。即ち、このグラニュラ構造は、CoPt合金結晶粒とその周囲を取り囲む前記酸化物の結晶粒界とからなる。
【0049】
したがって、面内磁化膜10中の酸化物の含有量を多くした方が磁性結晶粒同士の間を確実に仕切りやすくなり、磁性結晶粒同士を独立させやすくなるので好ましい。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量を、10vol%以上にしており、また、同様の観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量は、12.5vol%以上であることが好ましく、15vol%以上であることがより好ましい。
【0050】
ただし、面内磁化膜10中の酸化物の含有量が多くなりすぎると、酸化物がCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)中に混入してCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶性に悪影響を与えて、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)においてhcp以外の構造の割合が増えるおそれがある。この観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量を、42vol%以下にしており、また、同様の観点から、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量は、37.5vol%以下であることが好ましく、35vol%以下であることがより好ましい。
【0051】
したがって、本第1実施形態においては、面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量を、10vol%以上42vol%以下にしており、また、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中に含まれる酸化物の含有量は、12.5vol%以上37.5vol%以下であることが好ましく、15vol%以上35vol%以下であることがより好ましい。
【0052】
後述する実施例で実証しているように、酸化物としてWO3またはMoO3を含むと、面内磁化膜10の保磁力Hcが大きくなるので、酸化物としてWO3またはMoO3を含むことが好ましい。
【0053】
なお、現状の面内磁化膜では、CoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)同士を仕切る粒界材料として、Cr、W、Ta、B等の単体元素が用いられているため、粒界材料が、ある程度、CoPt合金に固溶すると考えられる。このため、現状の面内磁化膜のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)は、結晶性に悪影響を受けて飽和磁化および残留磁化が低減していると考えられ、現状の面内磁化膜は、その保磁力Hcおよび残留磁化の値が悪影響を受けていると考えられる。
【0054】
一方、本第1実施形態に係る面内磁化膜10においては、粒界材料が酸化物であるので、粒界材料がCr、W、Ta、B等の単体元素の場合と比べて、粒界材料がCoPt合金に固溶しにくい。このため、本第1実施形態に係る面内磁化膜10中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の飽和磁化および残留磁化は大きくなり、また、本第1実施形態に係る面内磁化膜10の保磁力Hcおよび残留磁化は大きくなる。このことは、後述する実施例で実証している。
【0055】
(1-2)面内磁化膜10の厚さ
後述する実施例で実証しているように、CoPt-WO3面内磁化膜の厚さ(非磁性中間層を設けない単層の場合)が20nmを下回ると、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満となり(比較例7)、CoPt-WO3面内磁化膜の厚さ(非磁性中間層を設けない単層の場合)が80nmを上回ると、保磁力Hcが2.00kOeを下回る(比較例8、9)ので、CoPt-WO3面内磁化膜が単層である本第1実施形態に係る面内磁化膜10の厚さは、20nm以上80nm以下に設定している。
【0056】
ただし、後述する実施例で実証しているように、単層のCoPt-WO3面内磁化膜の厚さが20~40nmのとき保磁力Hcが大きくなり(実施例9、12、13)、20~30nmのとき保磁力Hcが特に大きくなる(実施例9、12)ので、本第1実施形態に係る面内磁化膜の厚さは、20~40nmであることが好ましく、20~30nmであることがより好ましい。
【0057】
(1-3)面内磁化膜10の保磁力および残留磁化
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力と比べて同等程度以上の保磁力(2.00kOe以上の保磁力)および同等程度以上の単位面積当たりの残留磁化(2.00memu/cm2以上)を有する単層の面内磁化膜である。
【0058】
後述する第2実施形態で詳述するように、本第1実施形態に係る面内磁化膜10を、非磁性中間層22(
図2参照)を介在させて多層化することにより、残留磁化の値を維持したまま、保磁力をさらに向上させることができる。このことは、後述する実施例で実証している。
【0059】
(1-4)下地膜
本第1実施形態に係る面内磁化膜10を形成する際に用いる下地膜としては、面内磁化膜10の磁性粒子(CoPt合金粒子)と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金からなる下地膜が適している。
【0060】
積層する面内磁化膜(CoPt-酸化物)10の磁性結晶粒(CoPt合金粒子)を整然と面内配向させるため、用いるRu下地膜またはRu合金下地膜の表面には、(10.0)面または(11.0)面が多く配置されるようにすることが好ましい。
【0061】
なお、本発明に係る面内磁化膜を形成する際に用いる下地膜は、Ru下地膜またはRu合金下地膜に限定されるわけではなく、得られる面内磁化膜のCoPt磁性結晶粒を面内配向させ、かつ、CoPt磁性結晶粒同士の磁気的な分離を促進させることができる下地膜であれば使用可能である。
【0062】
(1-5)スパッタリングターゲット
本第1実施形態に係る面内磁化膜10を作製する際に用いるスパッタリングターゲットは、磁気抵抗効果素子12のハードバイアス層14の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜10を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、金属Co、金属Ptおよび酸化物を含有してなり、当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを60at%以上95at%未満含有し、金属Ptを5at%より多く40at%以下含有し、当該スパッタリングターゲットの全体に対して前記酸化物を10vol%以上40vol%以下含有し、形成する面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上である。後述する「(J)作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の組成分析」に記載しているように、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-酸化物系の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成とはずれが生じるので、前記したスパッタリングターゲットに含まれる各元素の組成範囲は、そのずれを考慮して設定した組成範囲であり、本第1実施形態に係る面内磁化膜10に含まれる各元素の組成範囲とは一致していない。
【0063】
このスパッタリングターゲットの構成成分(金属Co、金属Ptおよび酸化物)についての説明は、前記「(1-1)面内磁化膜10の構成成分」に記載した面内磁化膜の構成成分についての説明と同様であるので、説明は省略する。
【0064】
(1-6)面内磁化膜10の形成方法
本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、前記「(1-5)スパッタリングターゲット」に記載したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、所定の下地膜(前記「(1-4)下地膜」に記載した下地膜)の上に成膜して形成する。なお、この成膜過程で加熱することは不要であり、本第1実施形態に係る面内磁化膜10は、室温成膜で形成することが可能である。
【0065】
(2)第2実施形態
図2は、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20を、磁気抵抗効果素子24のハードバイアス層26に適用している状態を模式的に示す断面図である。
【0066】
以下、本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20について説明するが、面内磁化膜10の構成成分、面内磁化膜10の保持力および残留磁化、面内磁化膜10を形成する際に用いる下地膜、面内磁化膜10を作製する際に用いるスパッタリングターゲット、および面内磁化膜10の形成方法については、すでに「(1)第1実施形態」において説明を行っているので、説明は省略する。
【0067】
図2に示すように、本発明の第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20は、第1実施形態に係る面内磁化膜10を複数備え、さらに、その複数の第1実施形態に係る面内磁化膜10同士の間に、非磁性中間層22を備えており、面内磁化膜10が非磁性中間層22を介して複数積み重ねられた構造になっている。
【0068】
面内磁化膜多層構造20において、面内磁化膜10の1層当たりの厚さは、標準的には5nm以上30nm以下である。また、面内磁化膜10の総厚(合計の厚さ)は、残留磁化Mrtを2meum/cm2以上にする観点から、20nm以上にしている。また、面内磁化膜10の総厚(合計の厚さ)の上限に関しては、後述するように、非磁性中間層22が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜10同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜10の総厚(合計の厚さ)が大きくなっても、理論上は保磁力Hcは小さくならず、上限はない。実際に、後述する実施例によって、少なくとも総厚(合計の厚さ)が100nmまでは、保磁力Hcが2kOe以上となることを確認している。また、面内磁化膜多層構造20における面内磁化膜10の1層当たりの厚さに関しては、保磁力Hcをより大きくする観点から、5nm以上15nm以下であることが好ましく、10nm以上15nm以下であることがより好ましい。
【0069】
本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20は、磁気抵抗効果素子24のハードバイアス層26として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層28にバイアス磁界を加えることができる。
【0070】
非磁性中間層22は、第1実施形態に係る面内磁化膜10同士の間に介在して、面内磁化膜10を分離し、面内磁化膜10を多層化する役割を有する。面内磁化膜10を非磁性中間層22を介在させて多層化することにより、残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させることができる。
【0071】
非磁性中間層22が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜10同士は、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性中間層22が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜10同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜10は、残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させることができる。
【0072】
したがって、本第2実施形態に係る面内磁化膜多層構造20は良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0073】
非磁性中間層22に用いる金属は、CoPt合金磁性結晶粒の結晶構造を損なわないようにする観点から、CoPt合金磁性結晶粒と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)の金属にする。具体的には、非磁性中間層22としては、面内磁化膜10中のCoPt合金磁性結晶粒の結晶構造と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金を好適に用いることができる。
【0074】
非磁性中間層22に用いる金属がRu合金の場合の添加元素としては、具体的には例えば、Cr、Pt、Coを用いることができ、それらの金属の添加量の範囲は、Ru合金が六方最密充填構造hcpとなる範囲とするのがよい。
【0075】
アーク溶解を行ってRu合金のバルクサンプルを作製し、X線回折装置(XRD:((株)リガク製 SmartLab)によってX線回折のピーク解析を行ったところ、RuCr合金においては、Crの添加量が50at%のときに、六方最密充填構造hcpとRuCr2の混相が確認されたので、非磁性中間層22にRuCr合金を用いる場合、Crの添加量は50at%未満とするのが適当であり、40at%未満とすることが好ましく、30at%未満とすることがより好ましい。また、RuPt合金においては、Ptの添加量が15at%のときに、六方最密充填構造hcpとPt由来の面心立方構造fccの混相が確認されたので、非磁性中間層22にRuPt合金を用いる場合、Ptの添加量は15at%未満とするのが適当であり、12.5at%未満とすることが好ましく、10at%未満とすることがより好ましい。また、RuCo合金においては、Coの添加量に関わらず六方最密充填構造hcpを形成するが、Coを40at%以上添加すると磁性体となるため、Coの添加量は40at%未満とするのが適当であり、30at%未満とすることが好ましく、20at%未満とすることがより好ましい。
【0076】
また、非磁性中間層22の厚さは、0.3nm以上3nm以下が好ましい。後述する実施例で実証しているように、金属RuまたはRu合金からなる厚さ0.3nm以上3nm以下の非磁性中間層を用いることにより、面内磁化膜10の保磁力Hcを15%程度向上させることができる。ただし、厚さ0.3nm以上3nm以下の非磁性中間層であれば、面内磁化膜10の保磁力Hcを向上させる効果はほぼ同じであるので、材料コスト低減の観点および磁気抵抗効果素子への適用のしやすさの観点(厚さが薄い方が、磁気抵抗効果素子へ適用しやすくなる。)から、非磁性中間層22の厚さは、0.3nm以上1.5nm以下がより好ましく、0.3nm以上0.6nm以下が特に好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、CoPt-酸化物系の面内磁化膜について、本発明を裏付けるための実施例および比較例について記載する。以下の(A)では、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成比について検討しており、以下の(B)では、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物(WO3)の体積比について検討しており、以下の(C)では、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さについて検討しており、以下の(D)では、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物の種類について検討している。また、以下の(E)~(I)では、非磁性中間層によるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の多層化について記載している。
【0078】
また、以下の(J)では、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt-酸化物系の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成とのずれの程度を確認するために、実施例45、47、50、52のCoPt-WO3系の面内磁化膜を取り上げて、組成分析を行った。その結果、面内磁化膜の組成と当該面内磁化膜を作製するのに用いたスパッタリングターゲットの組成との間にずれが生じることが判明した。そのため、実際に組成分析を行った実施例45、47、50、52以外のCoPt-酸化物系の面内磁化膜の組成については、実施例45、47、50、52の組成分析結果から判明した組成のずれを考慮して、作製に用いたスパッタリングターゲットの組成から算出し、各実施例におけるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の組成とした。
【0079】
<(A)CoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成比についての検討(実施例1~7、比較例1、2)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成を変化させて実験データを取得した。形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜は単層であり、非磁性中間層は設けていない。具体的には以下の通りである。
【0080】
Si基板上に、Ru下地膜を、株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wを用いてスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜を同装置を用いてスパッタリング法により厚さ50nmとなるように形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。なお、本願の実施例および比較例においてスパッタリングの際に用いたスパッタリング装置は株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wであるが、以下では装置名の記載は省略する。
【0081】
形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分であるCoとPtの合計に対するPtの含有割合を、5.7at%から50.5at%まで5.6at%刻みで変化させてサンプルを作製し、データを取得した。
【0082】
作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜のヒステリシスループを振動型磁力計(VSM:(株)玉川製作所製 TM-VSM211483-HGC型)(以下、振動型磁力計と記す。)により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の膜厚50nmを乗じて、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表1に示す。
【0083】
【0084】
表1からわかるように、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が10~45at%、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の全体に対する酸化物(WO3)の体積比が31.0vol%で、かつ、厚さが50nmであり、本発明の範囲に含まれる実施例1~7は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0085】
一方、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が5.7at%であり、本発明の範囲に含まれない比較例1は、保磁力Hcが1.47kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満である。また、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が50.5at%であり、本発明の範囲に含まれない比較例2は、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.62memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満である。
【0086】
<(B)CoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物(WO3)の体積比についての検討(実施例8~11、比較例3~6)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物(WO3)の体積比を変化させて実験データを取得した。形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜は単層であり、非磁性中間層は設けていない。具体的には以下の通りである。
【0087】
Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0088】
形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物(WO3)の体積比を、0vol%から51.8vol%まで、5.2vol%または10.4vol%(または10.5vol%)の刻み幅で変化させてサンプルを作製し、データを取得した。
【0089】
作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の膜厚30nmを乗じて、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表2に示す。
【0090】
【0091】
表2からわかるように、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の全体に対する酸化物(WO3)の体積比が10~42vol%、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が22.5at%で、かつ、厚さが30nmであり、本発明の範囲に含まれる実施例8~11は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0092】
一方、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の全体に対する酸化物(WO3)の体積比が0vol%であり、本発明の範囲に含まれない比較例3は、保磁力Hcが1.34kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満である。また、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の全体に対する酸化物(WO3)の体積比が4.9vol%であり、本発明の範囲に含まれない比較例4は、保磁力Hcが1.59kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満である。また、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の全体に対する酸化物(WO3)の体積比が46.6vol%であり、本発明の範囲に含まれない比較例5は、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.77memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満である。また、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の全体に対する酸化物(WO3)の体積比が51.8vol%であり、本発明の範囲に含まれない比較例6は、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.53memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満である。
【0093】
<(C)CoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さについての検討(実施例9、12~17および比較例7~9)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さを変化させて実験データを取得した。形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3は単層であり、非磁性中間層を設けていない。具体的には以下の通りである。
【0094】
Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3をスパッタリング法により形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0095】
スパッタリングの際には、スパッタ時間を変化させて、得られるCoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さを、10nmから100nmまで10nm刻みで変化させてサンプルを作製し、データを取得した。
【0096】
ここで、各サンプルの面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さは、スパッタレートとスパッタ時間から算出することができる。スパッタレートについては、成膜した面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さとスパッタ時間との関係を事前に測定して算出した。この際、面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さは、触針式段差計(BRUKER製 DektakXT)を用い、触針に100μNの負荷を加えて膜付着部と未付着部を通過させ、通過させた際の膜厚方向の高さの差を求めて算出した。さらに、各サンプルの面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の垂直断面をTEM(透過電子顕微鏡)(日立ハイテクノロジーズ製 H-9500)で観察して膜厚の確認を行った。
【0097】
作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の膜厚を乗じて、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表3に示す。
【0098】
【0099】
表3からわかるように、CoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さが20~80nmであり、本発明の範囲に含まれる実施例9、12~17は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0100】
実施例9、12~17のうち、CoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さが20~40nmである実施例9、12、13は、保磁力Hcが3.5kOe以上と大きい。また、厚さが薄い方が、磁気抵抗効果素子への適用もしやすくなり、また、材料費も低減される。したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さは20~40nmであることが好ましいと考えられる。
【0101】
一方、CoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さが10nmであり、本発明の範囲に含まれない比較例7は、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.26memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満である。また、CoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さが90nmであり、本発明の範囲に含まれない比較例8は、保磁力Hcが1.78kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満である。また、CoPt-酸化物系の面内磁化膜(Co-22.5Pt)-20.5vol%WO3の厚さが100nmであり、本発明の範囲に含まれない比較例9は、保磁力Hcが1.49kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満である。
【0102】
<(D)CoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物の種類についての検討(実施例10、18~23)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物の種類を種々変更して実験データを取得した。形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜は単層であり、非磁性中間層は設けていない。具体的には以下の通りである。
【0103】
Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0104】
形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物の種類を種々変更してデータを取得した。用いた酸化物は、WO3、B2O3、MoO3、Nb2O5、SiO2、Ta2O5、TiO2である。
【0105】
作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の膜厚30nmを乗じて、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表4に示す。
【0106】
【0107】
表4からわかるように、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の酸化物として、WO3、B2O3、MoO3、Nb2O5、SiO2、Ta2O5、TiO2を用いた実施例10、18~23は、組成が(Co-22.5Pt)-30~31vol%酸化物で、かつ、厚さが30nmであり、本発明の範囲に含まれるが、いずれも、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0108】
酸化物としてWO3を用いた実施例10および酸化物としてMoO3を用いた実施例19においては、作製したCoPt-酸化物系の面内磁化膜の保磁力が3kOeを超えており、CoPt-酸化物系の面内磁化膜において用いる酸化物として好ましい。
【0109】
<(E)非磁性中間層(金属Ru単体からなるスパッタリングターゲットを用いて作製した非磁性中間層)によるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の多層化についての検討(実施例24~30)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さ方向の中間位置に、金属Ru単体からなるスパッタリングターゲットを用いて作製した非磁性中間層(以下、金属Ru非磁性中間層と記すことがある。)を設けて、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を多層化(2層化)させて実験データを取得した。その際、設ける金属Ru非磁性中間層の厚さを0nmから3.0nmの範囲で変化させてデータの取得を行った。具体的には以下の通りである。
【0110】
Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した後、その上に金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、さらにその上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、いずれも室温成膜で行った。
【0111】
金属Ru非磁性中間層の厚さを、0nm、0.3nm、0.6nm、1.2nm、1.8nm、2.4nm、3.0nmと変化させてサンプルを作製し、データを取得した。
【0112】
作製した多層化サンプルのヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の保磁力Hc(kOe)および単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、作製した多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の合計の膜厚60nmを、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)に乗じて、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表5に示す。なお、実施例24は、非磁性中間層を設けていない実施例であり、非磁性中間層を設けて面内磁化膜を多層化した実施例25~30と対比するための参考実施例という位置づけの実施例である。
【0113】
【0114】
表5からわかるように、金属Ru非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例25~30は、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcがいずれも15%程度以上向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、実施例24(面内磁化膜が単層)とほぼ同等である。
【0115】
したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を、金属Ru非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持したまま、保磁力Hcを15%程度以上向上させることができると考えられる。
【0116】
また、金属Ru非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例25~30においては、金属Ru非磁性中間層の厚さが0.3~3.0nmの範囲で変化しているが、保磁力Hc(kOe)および単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、ほぼ同等である。
【0117】
したがって、金属Ru非磁性中間層の厚さは、0.3~3.0nmの範囲であれば、多層化したCoPt-酸化物系の面内磁化膜への効果(保磁力Hcおよび残留磁化Mrtの点での効果)は同等であると考えられる。
【0118】
<(F)非磁性中間層(Ru合金層)によるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の多層化についての検討(実施例24、31~36)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さ方向の中間位置に、Ru合金(Ru-25Cr-25Co)からなるスパッタリングターゲットを用いて作製した非磁性中間層(以下、Ru合金非磁性中間層と記すことがある。)を設けて、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を多層化(2層化)させて実験データを取得した。その際、設けるRu合金非磁性中間層の厚さを0nmから3.0nmの範囲で変化させてデータの取得を行った。具体的には以下の通りである。
【0119】
Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した後、その上にRu合金非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、さらにその上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、いずれも室温成膜で行った。
【0120】
Ru合金非磁性中間層の厚さを、0nm、0.3nm、0.6nm、1.2nm、1.8nm、2.4nm、3.0nmと変化させてサンプルを作製し、データを取得した。
【0121】
作製した多層化サンプルのヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の保磁力Hc(kOe)および単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、作製した多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の合計の膜厚60nmを、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)に乗じて、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表6に示す。なお、実施例24は、非磁性中間層を設けていない実施例であり、非磁性中間層を設けて面内磁化膜を多層化した実施例31~36と対比するための参考実施例という位置づけの実施例である。
【0122】
【0123】
表6からわかるように、Ru合金非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例31~36は、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcがいずれも11%程度以上向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、実施例24(面内磁化膜が単層)とほぼ同等である。
【0124】
したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を、Ru合金非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持したまま、保磁力Hcを11%程度以上向上させることができると考えられる。
【0125】
また、Ru合金非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例31~36においては、Ru合金非磁性中間層の厚さが0.3~3.0nmの範囲で変化しているが、保磁力Hc(kOe)および単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、ほぼ同等である。
【0126】
したがって、Ru合金非磁性中間層の厚さは、0.3~3.0nmの範囲であれば、多層化したCoPt-酸化物系の面内磁化膜への効果(保磁力Hcおよび残留磁化Mrtの点での効果)は同等であると考えられる。
【0127】
なお、非磁性中間層が金属Ru非磁性中間層である実施例25~30の保磁力Hcと、非磁性中間層がRu合金非磁性中間層である実施例31~36の保磁力Hcとを比べると、差はわずかであるが、非磁性中間層が金属Ru非磁性中間層である実施例25~30の保磁力Hcの方が大きいことが、表5および表6から読み取れるので、非磁性中間層としては、金属Ru非磁性中間層の方がRu合金非磁性中間層よりも適していると考えられる。
【0128】
<(G)非磁性中間層(金属Cr単体からなるスパッタリングターゲットを用いて作製した非磁性中間層)によるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の多層化についての検討(実施例24、比較例10~15)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さ方向の中間位置に、金属Cr単体からなるスパッタリングターゲットを用いて作製した非磁性中間層(以下、金属Cr非磁性中間層と記すことがある。)を設けて、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を多層化(2層化)させて実験データを取得した。その際、設ける非磁性中間層の厚さを0nmから3.0nmの範囲で変化させてデータの取得を行った。具体的には以下の通りである。
【0129】
Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した後、その上に金属Cr非磁性中間層を形成し、さらにその上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜をスパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成した。この成膜過程では基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0130】
金属Cr非磁性中間層の厚さを、0nm、0.3nm、0.6nm、1.2nm、1.8nm、2.4nm、3.0nmと変化させてサンプルを作製し、データを取得した。
【0131】
作製した多層化サンプルのヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の保磁力Hc(kOe)および単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、作製した多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の合計の膜厚60nmを、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)に乗じて、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表7に示す。なお、実施例24は、非磁性中間層を設けていない実施例であり、非磁性中間層を設けて面内磁化膜を多層化した比較例10~15と対比するための参考実施例という位置づけの実施例である。
【0132】
【0133】
表7からわかるように、金属Cr非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った比較例10~15は、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcがいずれも50%以上減少している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、実施例24(面内磁化膜が単層)と比べて、49%程度以上増加している。
【0134】
したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を、金属Cr非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を49%程度以上増大させることができる一方、保磁力Hcは50%以上減少してしまうと考えられる。
【0135】
また、金属Cr非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った比較例10~15においては、金属Cr非磁性中間層の厚さが0.3~3.0nmの範囲で変化しているが、保磁力Hc(kOe)および単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、ほぼ同等である。
【0136】
したがって、金属Cr非磁性中間層の厚さは、0.3~3.0nmの範囲であれば、多層化したCoPt-酸化物系の面内磁化膜への効果(保磁力Hcおよび残留磁化Mrtの点での効果)は同等であると考えられる。
【0137】
以上説明したように、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を金属Ru非磁性中間層で多層化した場合は、実施例25~30に示すように、実施例24(面内磁化膜が単層)と比べて保磁力Hcが15%程度以上向上し、Ru合金非磁性中間層で多層化した場合は、実施例31~36に示すように、実施例24(面内磁化膜が単層)と比べて保磁力Hcが11%程度以上向上しているが、金属Cr非磁性中間層で多層化した場合は、比較例10~15に示すように、実施例24(面内磁化膜が単層)と比べて保磁力Hcが50%以上減少している。この理由は、金属RuおよびRu-25Cr-25Co合金の結晶構造は、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の磁性粒子(CoPt合金粒子)と同じ結晶構造である六方最密充填構造hcpであるのに対し、金属Crの結晶構造は、体心立方構造bccであるためと考えられる。
【0138】
<(H)非磁性中間層(金属Ru単体層)によるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の多層化における面内磁化膜1層の厚さの検討(実施例24、37~40)>
Ru下地膜の上に形成するCoPt-酸化物系の面内磁化膜を、厚さ方向に2等分、4等分、6等分、12等分する位置に、厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層を設けて、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の合計の厚さが60nmとなるように、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を多層化させて実験データを取得した。具体的には以下の通りである。
【0139】
Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが30nmとなるようにスパッタリング法により形成した後、その上に厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、さらにその上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが30nmとなるようにスパッタリング法により形成して、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の合計の厚さが60nmとなるように形成した(実施例37)。
【0140】
また、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが15nmとなるようにスパッタリング法により形成した後、その上に厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、さらにその上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが15nmとなるようにスパッタリング法により形成した後、その上に厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の合計の厚さが60nmとなるまで同様に成膜を繰り返して、厚さ15nmのCoPt-酸化物系の面内磁化膜が4層積み重ねられた多層化サンプルを作製した(実施例38)。
【0141】
また、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが10nmとなるようにスパッタリング法により形成した後、その上に厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、さらにその上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが10nmとなるようにスパッタリング法により形成した後、その上に厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の合計の厚さが60nmとなるまで同様に成膜を繰り返して、厚さ10nmのCoPt-酸化物系の面内磁化膜が6層積み重ねられた多層化サンプルを作製した(実施例39)。
【0142】
また、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ30nmとなるように形成し、その上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが5nmとなるようにスパッタリング法により形成した後、その上に厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、さらにその上にCoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが5nmとなるようにスパッタリング法により形成した後、その上に厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層をスパッタリング法により形成し、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の合計の厚さが60nmとなるまで同様に成膜を繰り返して、厚さ5nmのCoPt-酸化物系の面内磁化膜が12層積み重ねられた多層化サンプルを作製した(実施例40)。
【0143】
これらの成膜過程では基板加熱を行っておらず、いずれも室温成膜で行った。
【0144】
作製した多層化サンプルのヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の保磁力Hc(kOe)および単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、作製した多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の合計の膜厚60nmを、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化Mr(memu/cm3)に乗じて、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。それらの結果を、次の表8に示す。なお、実施例24は、非磁性中間層を設けていない実施例であり、非磁性中間層を設けて面内磁化膜を多層化した実施例37~40と対比するための参考実施例という位置づけの実施例である。
【0145】
【0146】
表8からわかるように、金属Ru非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例37~40は、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcがいずれも13%程度以上向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、実施例24(面内磁化膜が単層)とほぼ同等である。
【0147】
したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜を、金属Ru非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持したまま、保磁力Hcを13%程度以上向上させることができると考えられる。
【0148】
また、1層当たりの面内磁化膜の厚さが15nmで4層構造の実施例38の保磁力Hcは3.66kOeであり、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcが55%程度向上している。
【0149】
また、1層当たりの面内磁化膜の厚さが10nmで6層構造の実施例39の保磁力Hcは3.04kOeであり、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcが29%程度向上している。
【0150】
また、1層当たりの面内磁化膜の厚さが30nmで2層構造の実施例37の保磁力Hcは2.76kOeであり、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcが17%程度向上している。
【0151】
また、1層当たりの面内磁化膜の厚さが5nmで12層構造の実施例40の保磁力Hcは2.68kOeであり、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例24と比べて、保磁力Hcが14%程度向上している。
【0152】
したがって、面内磁化膜を複数層にした場合、1層当たりの厚さは5~30nmが好ましく、7.5~25nmがより好ましく、10~20nmが特に好ましい。ただし、実施例9、12~17、比較例7の結果からわかるように、面内磁化膜の総厚(合計の厚さ)が20nmを下回ると、単位面積当たりの残留磁化Mrtの値が2.00memu/cm2を下回るので、面内磁化膜の合計の厚さが20nm以上であることが前提である。
【0153】
<(I)非磁性中間層(金属Ru単体層)によるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の多層化における面内磁化膜1層の厚さの追加検討および面内磁化膜多層構造における面内磁化膜の総厚についての検討(実施例41~53、比較例16、17)>
前段落に記載したように、面内磁化膜を複数層にした場合、保磁力Hcの観点から、1層当たりの厚さは5~30nmが好ましく、7.5~25nmがより好ましく、10~20nmが特に好ましい。この点をさらに検討するため、金属Ru非磁性中間層によるCoPt-酸化物系の面内磁化膜の多層化における面内磁化膜1層の厚さの追加検討を行った。また、前記(H)における面内磁化膜多層構造についての検討では、面内磁化膜の総厚が60nmの実施例のみであったので、面内磁化膜の総厚を30nm、100nmにした面内磁化膜多層構造についても検討した。また、面内磁化膜の総厚を100nmにした面内磁化膜多層構造においては、面内磁化膜における酸化物(WO3)の含有量を31.0vol%にした場合と10.1vol%にした場合について検討した。
【0154】
非磁性中間層としては、前記(H)と同様に、厚さ2.0nmの金属Ru非磁性中間層を設けて、各面内磁化膜多層構造を作製した。また、前記(H)と同様に、成膜過程では基板加熱を行っておらず、いずれも室温成膜で行った。
【0155】
各面内磁化膜多層構造の作製における具体的な手順は、前記(H)と同様に行った。また、多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の保磁力Hc(kOe)の測定および多層化サンプルに含まれる面内磁化膜の単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)の測定も、前記(H)と同様に行った。
【0156】
それらの測定結果を、次の表9~11に示す。表9は面内磁化膜の総厚が30nmの場合についての測定結果であり、表10は面内磁化膜の総厚が100nm、面内磁化膜の酸化物(WO3)含有量が31.0vol%の場合についての測定結果であり、表11は面内磁化膜の総厚が100nm、面内磁化膜の酸化物(WO3)含有量が10.1vol%の場合についての測定結果である。
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
表9からわかるように、金属Ru非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例41~43(面内磁化膜の合計厚さは30nm)は、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の実施例10と比べて、保磁力Hcが3~11%程度向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrtは、実施例10(面内磁化膜が単層)とほぼ同等である。
【0161】
したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが30nmの場合、金属Ru非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrtを維持したまま、保磁力Hcを3~11%程度向上させることができると考えられる。
【0162】
また、表10からわかるように、金属Ru非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例44~48(面内磁化膜の合計厚さが100nmで、面内磁化膜の酸化物(WO3)含有量が31.0vol%)は、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の比較例16と比べて、保磁力Hcが2倍以上に向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrtは、比較例16(面内磁化膜が単層)とほぼ同等か、最大でも12%小さくなる程度である。
【0163】
したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが100nmで、その酸化物(WO3)含有量が31.0vol%である場合、金属Ru非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrtをほぼ維持したまま、保磁力Hcを2倍以上に向上させることができると考えられる。
【0164】
また、表11からわかるように、金属Ru非磁性中間層を設けて面内磁化膜の多層化を行った実施例49~53(面内磁化膜の合計厚さが100nmで、面内磁化膜の酸化物(WO3)含有量が10.1vol%)は、非磁性中間層を設けておらず面内磁化膜が単層の比較例17と比べて、保磁力Hcが2倍以上に向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrtは、比較例17(面内磁化膜が単層)とほぼ同等か、最大でも12%小さくなる程度である。
【0165】
したがって、CoPt-酸化物系の面内磁化膜の厚さが100nmで、その酸化物(WO3)含有量が10.1vol%の場合、金属Ru非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrtをほぼ維持したまま、保磁力Hcを2倍以上に向上させることができると考えられる。
【0166】
また、面内磁化膜の合計厚さが30nmである実施例41~43は、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持しつつ保持力を向上させる観点において、いずれも良好であるが、その中でも、実施例41(面内磁化膜の1層の厚さが15nm)および実施例42(面内磁化膜の1層の厚さが10nm)が特に良好である。
【0167】
面内磁化膜の合計厚さが100nmで、その酸化物(WO3)含有量が31.0vol%である実施例44~48は、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持しつつ保持力を向上させる観点において、いずれも良好であるが、その中でも、実施例45(面内磁化膜の1層の厚さが25nm)、実施例46(面内磁化膜の1層の厚さが12.5nm)および実施例47(面内磁化膜の1層の厚さが10nm)がより良好であり、実施例46および実施例47が特に良好である。
【0168】
面内磁化膜の合計厚さが100nmで、その酸化物(WO3)含有量が10.1vol%である実施例49~53は、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持しつつ保持力を向上させる観点において、いずれも良好であるが、その中でも、実施例50(面内磁化膜の1層の厚さが25nm)、実施例51(面内磁化膜の1層の厚さが12.5nm)および実施例52(面内磁化膜の1層の厚さが10nm)がより良好であり、実施例51および実施例52が特に良好である。
【0169】
したがって、前記(H)で記載した「面内磁化膜を複数層にした場合、保磁力Hcの観点から、1層当たりの厚さは5~30nmが好ましく、7.5~25nmがより好ましく、10~20nmが特に好ましい」点は、実施例41~53の結果からも裏付けられた。
【0170】
また、実施例41~43の結果から、面内磁化膜の合計厚さが30nmである場合について、面内磁化膜の多層化の効果を確認することができた。実施例44~53の結果から、面内磁化膜の合計厚さが100nmである場合について、面内磁化膜の多層化の効果を確認することができた。
【0171】
<(J)面内磁化膜の組成分析(実施例45、47、50、52)>
実施例45、47、50、52の面内磁化膜の組成分析を行った。以下、行った組成分析の手法の手順について概要を説明した後、各手順の内容を具体的に説明する。
【0172】
[手順の概要]面内磁化膜の厚さ方向に組成分析のための線分析を行い、面内磁化膜の厚さ方向断面の線分析実施箇所から、組成の変動の少ない箇所を選び出す(手順1~4)。そして、その組成の変動の少ない箇所に含まれる任意の測定点を中心として、面内磁化膜の面内方向の100nmの範囲(測定点は167点)について組成分析のための線分析を行う(手順5)。そして、検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度の平均値を算出して、面内磁化膜の組成を決定する(手順6)。以下、手順1~6の内容を具体的に説明する。
【0173】
[手順1]組成分析の対象となる面内磁化膜を面内方向と直交する方向(面内磁化膜の厚さ方向)に、平行な2面で切断するとともに、得られた2つの平行な切断面の間の距離が100nm程度となるまで、FIB法(μ-サンプリング法)により薄片化処理を行う。この薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を、
図3に模式的に示す。
図3に示すように、薄片化サンプル80の形状は概ね直方体形状である。前記2つの平行な切断面の間の距離が100nm程度であり、直方体形状の薄片化サンプル80の面内方向の1辺の長さは100nm程度であるが、他の2辺の長さは、走査透過電子顕微鏡による観察が可能であれば、適宜に定めてよい。
【0174】
[手順2]手順1で得られた薄片化サンプル80の切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)を、100nmの長さを2cmまで拡大観察可能な(20万倍まで拡大観察可能な)走査透過電子顕微鏡を用いて撮像し、観察像を取得する。得られる観察像は長方形であるが、観察対象の面内磁化膜の最上面と切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)とが交わる部位の線が、長方形の観察像の長手方向になるように撮像する。得られた観察像の一例(実施例45の観察像)を
図4に示す。面内磁化膜の観察像の取得においては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製HD-2700を用いた。
【0175】
[手順3]手順2で得られた観察像から、面内磁化膜に含まれる任意の点を選び(
図4において黒丸82で示す)、その点から、観察像の長手方向に左右10nmの位置に点をそれぞれ付す(
図4において白丸84で示す)。そして、黒丸82の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行うとともに、白丸84の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行って、3つの直線(黒丸の点を通る厚さ方向の1つの直線および白丸の点を通る厚さ方向の2つの直線)について、面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のための線分析を行う。この元素分析のための線分析を行うに際し、前記3直線の線分析の走査範囲を、面内磁化膜の厚さ方向の全範囲(組成分析の対象が面内磁化膜多層構造の場合は、最上層の面内磁化膜から最下層の面内磁化膜までの全範囲)とすることができるように、1つの黒丸82の点および2つの白丸84の点を選び出すことが必要である。
【0176】
面内磁化膜の組成分析においては、元素分析手法としてエネルギー分散型X線分析法(EDX)を採用し、元素分析装置として株式会社堀場製作所製EMAX Evolutionを用いた。そして、具体的な分析条件を次のようにした。即ち、X線検出器をSiドリフト検出器とし、X線取出角を24.8°とし、立体角を約2.2srとし、各元素に応じ一般的に適切な分光結晶を用い、測定時間2秒/点とし、走査点間隔を0.6nmとし、照射ビーム径を約0.2nmφとした。以下、本段落に記載の条件を、「手順3の分析条件」と記すことがある。
【0177】
図4(実施例45の観察像)中の黒線(黒丸の点を通る面内磁化膜の厚さ方向の線)に沿って行った線分析(元素分析)の結果を
図5に示す。
図5において、縦軸は各元素についての検出強度、横軸は走査位置である。
図5内の凡例に示す各元素は、十分な検出強度を確認できた元素であり、この実施例45の場合、十分な検出強度を確認できた元素は、Co、Pt、W、O、Ruであった。また、この実施例45の組成分析においては、Co、Oの検出にはKα1線を選択し、Pt、Ru、Wの検出にはLα1線を選択した。また、各検出強度においては、事前に測定したブランク測定における検出強度を差し引く補正を施した。
図4の線分析の最終端(最下端)は、Si基板である。この箇所は理論上Siおよび表面酸化によるO以外は検出されない。そのため、この箇所で検出されたSi、O以外の検出値は当該装置における不可避な検出誤差値と考えられるので、この値より検出強度が大きな値を示した場合にのみ、当該元素の存在を示すものとした。
【0178】
実施例45は面内磁化膜多層構造であり、組成が(Co-20Pt)-30vol%WO3であるスパッタリングターゲットを用いて、1層あたりの厚さが25nmである面内磁化膜を成膜するととともに、その面内磁化膜の間に位置するように、金属Ru非磁性中間層を、面内磁化膜の層間に2nmずつ設ける成膜を行った。金属Ru非磁性中間層の成膜に際しては、組成が100at%Ruであるスパッタリングターゲットを用いた。
【0179】
図5に示す線分析の結果からわかるように、面内磁化膜においては主にCo、Pt、W、Oが確認され、非磁性中間層においては主にRuが確認された。金属Ru非磁性中間層においては面内磁化膜の構成元素に基づく検出強度が一部確認されるが、これは、成膜中におけるスパッタ熱によって、上下に隣り合う各層の元素が僅かに拡散しているためである。しかしながら、面内磁化膜および非磁性中間層の各主要元素の分布をみる限り、おおよそ設計した通りの成膜が行われていることが確認できた。
【0180】
[手順4]手順3で行った線分析(面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のために行った線分析)の結果から、組成の変動の少ない測定点の集合箇所を選び出す。組成の変動の少ない測定点の集合箇所は、次の条件a~cを満たす測定点の集合箇所のことである。
【0181】
条件a) 手順3で行った3つの直線の線分析のうちのいずれかについての測定点であって、CoおよびPtの検出強度の合計が1000カウントを超える測定点であること。
【0182】
条件b)当該測定点でのCoおよびPtの検出強度の合計をXカウント、当該測定点での測定を行った後の次の測定点(当該測定点から0.6nm下方に離れて隣り合う測定点)でのCoおよびPtの検出強度の合計をYカウントとしたとき、
Y/X-1<0.05
を満たすこと。
【0183】
条件c)条件aおよびbを満たす5点以上の連続する測定点であること。
【0184】
条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、5点以上の連続する測定点であるので、0.6nm×4=2.4nm以上の直線領域となる。したがって、条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、2.4nm以上の範囲で、安定してCoおよびPtのうちの少なくともいずれか一方が検出される直線領域である。
【0185】
[手順5]手順4で選び出した測定点の集合から任意の1つの測定点を選択して、面内磁化膜の組成分析のための基準点とする(
図4において二重白丸86で示す)。そして、その基準点を中心として、組成分析を行う面内磁化膜の面内方向(
図4の観察像の長手方向)に左右50nmの直線領域(合計で100nmの直線領域であり、
図4において白破線88で示す。)について、手順3の分析条件と同様の分析条件で、組成分析を行う。この組成分析では、100nmの直線領域について、線分析を、走査点間隔0.6nmで行うので、合計で167点の測定点における分析結果が得られる。
【0186】
[手順6]検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度(カウント数)の平均値を算出する。検出された各元素の検出強度(カウント数)の平均値の比が、当該面内磁化膜の各元素の組成比となる。
【0187】
なお、EDXにおける分析においては、酸素(O)等の軽元素の蛍光X線が、白金(Pt)等の重元素の蛍光X線に吸収されることは避けられないが、本発明に係る面内磁化膜においては、酸素(O)等の軽元素と白金(Pt)等の重元素とが混在する。このため、酸素(O)に関しては、酸化物として存在する金属(実施例45ではW)が全て適切に酸化した状態(実施例45ではWO3)になっているものとして、当該面内磁化膜の組成を決定した。
【0188】
また、実施例18では面内磁化膜にホウ素(B)酸化物(B2O3)を用いているが、ホウ素(B)は酸素(O)よりも原子番号の小さい軽元素であるため、EDXにおける分析では検出することができない。このため、実施例18における面内磁化膜の組成は、CoおよびPtの組成比は確定できるが、B2O3の含有量は確定できない。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明に係る面内磁化膜、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、磁気抵抗効果素子、およびスパッタリングターゲットは、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに実現することができ、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0190】
10…面内磁化膜
12、24…磁気抵抗効果素子
14、26…ハードバイアス層
16、28…フリー磁性層
20…面内磁化膜多層構造
22…非磁性中間層
50…絶縁層
52…ピン層
54…バリア層
80…薄片化サンプル
82…黒丸(面内磁化膜に含まれる任意の点)
84…白丸(黒丸82から観察像の長手方向に左右10nmの位置の点)
86…二重白丸(面内磁化膜の組成分析のための基準点)
88…白破線(二重白丸86(基準点)から観察像の長手方向に左右50nmの直線領域