(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】卵加熱調理食品用調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20230201BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20230201BHJP
【FI】
A23L27/10 C
A23L15/00 Z
(21)【出願番号】P 2018114205
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-03-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】東 和美
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 浩平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】岸 さくら
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-079694(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0067283(US,A1)
【文献】特開2010-051249(JP,A)
【文献】特開2016-096814(JP,A)
【文献】特開2002-119251(JP,A)
【文献】日本食品標準成分表 第七訂,第2章 17 調味料及び香辛料類,2015年,https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/06/22/1365343_1-0217r10.pdf,[検索日2022年1月27日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 15/00
A23L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香辛料100gあたり20mgより多くの鉄分を含む香辛料、酸味料、及び、澱粉又は加工澱粉を含む、卵加熱調理食品用調味料であって、前記卵加熱調理食品が、
オムレツ、卵焼き、厚焼き卵、フラン、スクランブルエッグ、プリン、又はキッシュであり、
前記香辛料が、タラゴン、ディル、バジル、パセリ、タイム、マジョラム、チャイブ、ターメリック、クミンシード、ローレル、オレガノ、パクチー、セイボリー、及びセージからなる群より選択される1種以上である、調味料。
【請求項2】
卵加熱調理食品において、鉄分を含む香辛料による卵の変色を抑制するための調味料であって、酸味料及び澱粉又は加工澱粉を含
み
前記卵加熱調理食品が、オムレツ、卵焼き、厚焼き卵、フラン、スクランブルエッグ、プリン、又はキッシュであり、
前記香辛料が、タラゴン、ディル、バジル、パセリ、タイム、マジョラム、チャイブ、ターメリック、クミンシード、ローレル、オレガノ、パクチー、セイボリー、及びセージからなる群より選択される1種以上である、調味料。
【請求項3】
前記澱粉又は前記加工澱粉が、α化されたものである、請求項1
又は2に記載の調味料。
【請求項4】
前記加工澱粉が、リン酸架橋澱粉又はヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の調味料。
【請求項5】
前記澱粉又は前記加工澱粉を、前記酸味料1質量部に対して3質量部以上含む、請求項1~
4のいずれか1項に記載の調味料。
【請求項6】
粉末の形態である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵加熱調理食品用調味料に関しており、特に、鉄分を含む香辛料が配合された卵加熱調理食品用調味料に関している。
【背景技術】
【0002】
従来、卵を加熱調理して作製する食品は、レストランでも家庭でも広く親しまれている。その調理方法も多岐にわたっており、特許文献1には、少なくとも二種類の加熱条件が異なる茹で卵裁断物と酸性水中油型乳化状調味料とを混合してある卵加工食品が記載されており、当該酸性水中油型乳化状調味料を混合することで、卵中の硫化水素に基づく硫化黒変が消失する旨が記載されている。また、種々の香辛料を使用して卵を加熱調理することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鉄分を含む香辛料を卵の加熱調理に使用すると、卵中の硫黄分と鉄分とが反応して硫化鉄が生じるため、卵加熱調理食品全体の色が黒緑色になりやすく、卵らしい黄色にはならない。加熱前の卵液のpHを下げると、卵加熱時の色調の変化を抑えることができるが、この場合には、卵液が固まりにくく成形性が悪くなり、ふっくらとした食品を作製することができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、鉄分を含む香辛料に加えて、酸味料及び澱粉又は加工澱粉を使用することで、卵加熱時の色調の変化が抑制され、かつ良好な成形性が維持された卵加熱調理食品を作製できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示す卵加熱調理食品用調味料、及び、卵加熱調理食品において、鉄分を含む香辛料による卵の変色を抑制するための調味料を提供するものである。
〔1〕鉄分を含む香辛料、酸味料、及び、澱粉又は加工澱粉を含む、卵加熱調理食品用調味料。
〔2〕卵加熱調理食品において、鉄分を含む香辛料による卵の変色を抑制するための調味料であって、酸味料及び澱粉又は加工澱粉を含むことを特徴とする、調味料。
〔3〕前記香辛料が、タラゴン、ディル、バジル、パセリ、タイム、マジョラム、チャイブ、ターメリック、クミンシード、ローレル、オレガノ、パクチー、セイボリー、及びセージからなる群より選択される1種以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の調味料。
〔4〕前記澱粉又は前記加工澱粉が、α化されたものである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の調味料。
〔5〕前記加工澱粉が、リン酸架橋澱粉又はヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の調味料。
〔6〕前記澱粉又は前記加工澱粉を、前記酸味料1質量部に対して3質量部以上含む、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の調味料。
〔7〕粉末の形態である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の調味料。
〔8〕前記食品が、オムレツ、卵焼き、厚焼き卵、フラン、スクランブルエッグ、プリン、又はキッシュである、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の調味料。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、鉄分を含む香辛料に加えて、酸味料及び澱粉又は加工澱粉を使用することにより、卵加熱時の色調の変化を抑えつつ、卵加熱調理食品の成形性を維持することができる。したがって、卵らしい黄色の色調を有しつつ、容易に成形可能な卵加熱調理食品を作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の卵加熱調理食品用調味料は、鉄分を含む香辛料、酸味料、及び、澱粉又は加工澱粉を含むことを特徴としている。本明細書に記載の「卵加熱調理食品」とは、卵(特に鶏卵)を原料とする食品であって、その殻を取り除き、他の食材又は他の調味料を任意で添加して加熱することにより作製される食品のことをいう。前記食品は、特に限定されないが、例えば、オムレツ、卵焼き、厚焼き卵、フラン、スクランブルエッグ、プリン、又はキッシュなどの卵液を加熱して作製する食品であってもよい。
【0008】
本明細書に記載の「鉄分を含む香辛料」とは、胡椒のような汎用されている他の香辛料と比較して多くの鉄分を含む香辛料のことをいう。前記香辛料は、例えば、香辛料100gあたり約20mg以上の鉄分を含む香辛料であってもよく、具体的には、タラゴン、ディル、バジル、パセリ、タイム、マジョラム、チャイブ、ターメリック、クミンシード、ローレル、オレガノ、パクチー、セイボリー、及びセージからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0009】
本明細書に記載の「酸味料」とは、酸味を付与したり、酸化を防止したり、pHを低下させたりするために通常使用される食品添加物のことをいう。前記酸味料としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、前記酸味料は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、及び乳酸、並びにこれらの塩からなる群より選択される1種以上であってもよい。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明の調味料を卵液に添加すると、前記酸味料の働きで卵液のpHが低下するため、卵の加熱時に硫化鉄が生成しにくくなると考えられる。
【0010】
本発明の調味料に含まれる「澱粉」又は「加工澱粉」としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができ、例えば、前記澱粉又は前記加工澱粉は、α化されたものであってもよく、β化されたものであってもよい。また、前記加工澱粉は、リン酸架橋澱粉又はヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であってもよい。前記澱粉又は前記加工澱粉が卵液中に添加されると、卵液のpHの低下により成形性が損なわれるような場合であっても、pH低下前の水準まで成形性を改善することができる。
【0011】
本明細書に記載の「成形性」とは、加熱調理時の卵液の固まりやすさのことをいい、卵液の成形性が高いと、前記加熱調理食品の成形が容易になる。前記澱粉又は前記加工澱粉の配合量は、所望の成形性が発揮できる限り特に制限されないが、例えば、前記酸味料1質量部に対して約3質量部以上であってもよく、好ましくは前記酸味料1質量部に対して約5質量部以上である。このような範囲の比率で前記澱粉又は前記加工澱粉が含まれていると、よりふっくらとした外観の卵加熱調理食品を作製することができる。
【0012】
本発明の調味料の形態は、特に限定されないが、例えば、粉末、顆粒、及びブロック状などの固体であってもいいし、ゼリー状又は液状であってもよい。本発明の調味料は、そのまま又は水に溶いて、加熱前の卵液へと添加され得る。本発明の調味料添加後の卵液のpHは、例えば7.0以下であってもよく、好ましくは5.5~6.8である。本発明の調味料添加後の卵液のpHがこのような範囲であると、前記卵加熱調理食品の色が、特に卵らしい鮮やかな黄色になり、かつ、前記澱粉又は前記加工澱粉の働きによって所望の成形性も担保され得る。
【0013】
好ましい態様では、前記澱粉又は前記加工澱粉は、α化リン酸架橋澱粉及びα化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉などの水分を内包しやすい加工澱粉である。このような加工澱粉は、前記加熱調理食品にふんわりとした食感をもたらすことができ、また、当該加工澱粉は、空気中の湿気を吸収しやすいため、本発明の調味料の形態が粉末又は顆粒であった場合に、それを流動性の高い状態に維持することができる。
【0014】
ある態様では、本発明は、卵加熱調理食品において、鉄分を含む香辛料による卵の変色を抑制するための調味料にも関しており、当該調味料は、前述したような酸味料及び澱粉又は加工澱粉を含んでいる。この調味料は、前記香辛料と一緒に又は別々に、加熱前の卵液へと添加され得る。
【0015】
本発明の各調味料は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤をさらに含んでもよい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
〔実施例1~13及び比較例1~3〕
後掲の表1に示す原料を混合して、粉末状の卵加熱調理食品用調味料を調製した。そして、各調味料を30mLの水に溶き、撹拌した卵3個分の卵液(約165mL)と混合してpHを測定した。また、粉末状の前記卵加熱調理食品用調味料をアルミ製密閉容器に入れ、50℃で5日間保管後に外観を観察し、次の基準で吸湿性を評価した。
(吸湿性)
◎:軽く振ったときに粉末が流動する状態
〇:軽くコツコツと衝撃を与えたときに粉末が流動する状態
△:かなり強い衝撃を与えたときに粉末が流動する状態
×:かなり強い衝撃を与えても粉末が流動しない状態
【0017】
実施例又は比較例の各調味料を30mLの水に溶き、撹拌した卵3個分の卵液(約165mL)と混合して、常法によりオムレツを作製した。すなわち、フライパンに大匙1の油を入れて中火で熱し、各調味料を混合した卵液を全量入れて2分程度ゆっくりと菜箸で混ぜ、周囲が固まってきたら紡錘形に整えることを試みた。作製したオムレツの色及び成形性を、5名のパネルが次の基準で評価した。
(オムレツの色)
◎:卵らしい鮮やかな黄色
〇:明るい黄色
△:ややくすんだ黄色
×:緑黒いくすんだ黄色(比較例1を基準とする)
(オムレツの成形性)
◎:非常に成形しやすい
〇:成形しやすい
△:時間がかかるがオムレツの形に整う
×:オムレツの形に成形できない(比較例2を基準とする)
【0018】
上述のpH測定の結果、吸湿性評価の結果、並びに、オムレツの色及び成形性評価の結果を、以下の表1に示す。
【表1】
(*1) キャッサバ由来。
(*2) ワキシーコーンスターチ由来。
(*3) 馬鈴薯由来。
(*4) 食塩、グラニュー糖、きのこパウダー、調味料、種実パウダー、及びその他の香辛料を含む。
【0019】
タラゴンなどの鉄分を多く含む香辛料を配合した調味料を使用すると、オムレツの色が緑黒いくすんだ黄色になってしまった(比較例1)。また、このような香辛料に加えてクエン酸を配合すると、オムレツの色は卵らしい鮮やかな黄色になったが、今度は成形性が悪くなり、オムレツの形に整えることができなかった(比較例2及び3)。一方、タラゴンなどの鉄分を多く含む香辛料に加えて、クエン酸及びα化リン酸架橋澱粉を配合すると、オムレツの色は卵らしい鮮やかな黄色になり、かつオムレツの形に非常に成形しやすくなった(実施例1)。クエン酸に代えてリンゴ酸又は酒石酸を使用した場合や、α化リン酸架橋澱粉に代えてα化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉又はβ化澱粉を使用した場合でも、同様に色及び成形性の良好なオムレツを作製することができた(実施例2~5)。特に、α化リン酸架橋澱粉又はα化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を使用すると、ふっくらとした外観で、かつふんわりとした食感のオムレツを作製することができた(実施例1~4)。各種澱粉類による成形性向上効果は、他の多糖類であるデキストリンを使用しても奏されなかった(比較例3)。
【0020】
クエン酸の量を増やすとオムレツの色調が改善される代わりに成形性が低下する傾向があるものの、α化リン酸架橋澱粉を配合することで、オムレツの形に整えることができる程度の成形性を担保することができた(実施例6~8)。そして、α化リン酸架橋澱粉の量を増やすと卵液が固まりやすくなって成形性が向上する傾向があり(実施例9及び10)、この量を適宜調整するとことで、ふっくらとしたオムレツを作製することができた(実施例1~3)。酸味料及び澱粉又は加工澱粉の組み合わせによる上述した効果は、香辛料の種類や量を変更しても同様に発揮された(実施例11~13)。
【0021】
以上より、鉄分を含む香辛料に加えて、酸味料及び澱粉又は加工澱粉を使用すると、卵加熱時の色調の変化を抑えつつ、卵加熱調理食品の成形性を維持することができることがわかった。したがって、卵らしい黄色の色調を有しつつ、容易に成形可能な卵加熱調理食品を作製することが可能となる。