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  • 特許-高純度硫酸コバルト粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】高純度硫酸コバルト粉末
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/10 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
C01G51/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019053800
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152615
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】井上 聴憲
(72)【発明者】
【氏名】竹本 幸一
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-045131(JP,A)
【文献】特開平01-301526(JP,A)
【文献】特開2006-008463(JP,A)
【文献】特開2009-221084(JP,A)
【文献】特表2015-521984(JP,A)
【文献】PURATREM High Purity Inorganics,[online],2018年,[令和4年6月15日検索],インターネット<URL:https://www.strem.com/uploads/resources/documents/puratrem.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸コバルト及び不可避不純物からなる、硫酸コバルト粉末であって、
水分を除いた質量において、硫酸コバルトの含有量が99.998質量%以上であり、
不可避不純物として含まれるNiの含有量が10質量ppm未満であり、Naの含有量が0.3質量ppm未満である、硫酸コバルト粉末。
【請求項2】
硫酸コバルト及び不可避不純物からなる、硫酸コバルト粉末であって、
水分を除いた質量において、硫酸コバルトの含有量が99.998質量%以上であり、
不可避不純物として含まれるNaの含有量が0.3質量ppm以下であり、Clの含有量が2質量ppm以下であり、Feの含有量が0.5質量ppm以下であり、Niの含有量が10質量ppm以下であり、Cuの含有量が1質量ppm以下であり、Znの含有量が1質量ppm以下であり、Pbの含有量が0.1質量ppm以下である、硫酸コバルト粉末。
【請求項3】
請求項1~のいずれかに記載の硫酸コバルト粉末を、純水に溶解する工程、を含む、高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度硫酸コバルト粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの多重配線の配線材料として、コバルトを使用する技術が開発されている。コバルトによる配線形成の方法として、例えばめっきやCVDが使用される。コバルトめっきにおいては、高純度の硫酸コバルト溶液が使用される。
【0003】
特許文献1には、高純度の硫酸コバルト溶液の製造方法として、硫酸コバルト溶液に過酸化水素を添加した後、酸素を通気しながら水酸化ナトリウム水溶液を添加し、反応溶液のpHを所定範囲で維持して沈殿物を生成させて、高純度の硫酸コバルト溶液を製造する方法が開示されている。特許文献2には、高純度の硫酸コバルト溶液の製造方法として、コバルトを含有する塩化物溶液に対して溶媒抽出を行って、高純度の硫酸コバルト溶液を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-221084号公報
【文献】特許第5800254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の検討によれば、特許文献1の方法によれば、不純物が低減された硫酸コバルト溶液が製造できるが、水酸化ナトリウム水溶液を添加することによって、Feが低減できる一方で、Naの混入による汚染が発生することがわかった。
【0006】
また、本発明者の検討によれば、特許文献2の方法によれば、不純物が低減された硫酸コバルト溶液が製造できるが、抽出工程において、pH調整を行うためNa等による汚染が不可避であることがわかった。Na及びアルカリ金属等の可動イオンの混入は、LSIの多重配線の配線材料において、構成回路の電気的特性の変動要因となる可能性があるとされ、忌避される。
【0007】
したがって、本発明の目的は、Naによる汚染を回避しつつ、めっき液として使用可能な高純度の硫酸コバルト溶液を調製する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、高純度の硫酸コバルト溶液に代えて、後述する高純度の硫酸コバルト粉末を使用すれば、めっき液として使用可能な高純度の硫酸コバルト溶液を調製できることを見いだして、本発明に到達した。
【0009】
したがって、本発明は、次の(1)を含む。
(1)
硫酸コバルト及び不可避不純物からなる、硫酸コバルト粉末であって、
水分を除いた質量において、硫酸コバルトの含有量が99.998質量%以上である、硫酸コバルト粉末。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、高純度硫酸コバルト粉末を提供する。本発明の高純度硫酸コバルト粉末を使用すれば、Naによる汚染を回避しつつ、高純度の硫酸コバルト溶液を調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は高純度硫酸コバルト粉末(試料3)のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を具体的な実施の形態をあげて以下に詳細に説明する。本明細書において、特に指定のない限り、%及びppmは、それぞれ質量%及び質量ppmを意味する。
【0013】
[硫酸コバルト粉末]
好適な実施の態様において、本発明の硫酸コバルト粉末は、硫酸コバルト及び不可避不純物からなる、硫酸コバルト粉末であって、水分を除いた質量において、硫酸コバルトの含有量が99.998質量%以上である。
【0014】
本発明の硫酸コバルト粉末は、極めて高純度であるために、高純度の硫酸コバルト溶液を容易に調製することができる。このように、粉末の形態とすることで、めっき液となる硫酸コバルト溶液そのものよりも、嵩張ることなく、取り扱いが容易であり、輸送や保存の負担を大幅に低減することができる。
【0015】
[硫酸コバルトの含有量]
好適な実施の態様において、本発明の硫酸コバルト粉末における硫酸コバルトの含有量は、水分を除いた質量において、例えば99.997質量%以上、さらに好ましくは99.998質量%以上、さらに好ましくは99.9987質量%以上とすることができる。水分を除いた質量とは、硫酸コバルト結晶を、乾燥により無水物として測定した質量をいう。本明細書において、無水物である硫酸コバルト結晶の粉末における硫酸コバルト含有量(純度)は、不可避不純物としてNa、Cl、Fe、Ni、Cu、Zn、Pbの含有量の合計を、硫酸コバルト粉末の重量から差し引いた値である。ただし、測定限界値未満である元素の含有量は測定限界値として計算した値である。
【0016】
[不可避不純物]
不可避不純物とは、意図的に添加した成分ではなく、材料あるいは工程に由来して不可避的に混入した成分をいう。例えば、原料となる金属が5N品であれば、不可避不純物は最大0.001質量%含んでいることになる。不可避不純物の含有量は、例えば、後述する実施例において開示された手段によって、GDMS測定することによって、算出することができる。
【0017】
好適な実施の態様において、不可避不純物として含まれるNiの含有量が例えば10ppm以下、好ましくは9ppm以下とすることができる。
【0018】
好適な実施の態様において、不可避不純物として含まれるCuの含有量が例えば1ppm以下、好ましくは1ppm未満とすることができる。
【0019】
好適な実施の態様において、不可避不純物として含まれるPbの含有量が例えば0.1ppm以下、好ましくは0.1ppm未満とすることができる。
【0020】
好適な実施の態様において、不可避不純物として含まれる元素の含有量は、それぞれ以下の値とすることできる:
Na: 1ppm以下、好ましくは0.3ppm以下、さらに好ましくは0.26ppm以下;
Cl: 2ppm以下、好ましくは1.9ppm以下;
Fe: 0.5ppm以下、好ましくは0.4ppm以下、さらに好ましくは0.38ppm以下;
Zn: 1ppm以下、好ましくは1ppm未満。
【0021】
[粉末]
好適な実施の態様において、本発明の硫酸コバルトは粉末の形態となっている。好適な実施の態様において、粉末の粒径は、特に制約はないが、例えば50~300[μm]の範囲、あるいは100~200[μm]の範囲、あるいは200[μm]以下とすることができる。
【0022】
[硫酸コバルト粉末の製造]
好適な実施の態様において、本発明の硫酸コバルト粉末は、実施例において後述した手順によって製造することができる。得られる硫酸コバルト粉末は、濾別した結晶として得られるものであるために、これを機械粉砕等する必要が無く、そのために、高い純度を維持したまま、その後の硫酸コバルト溶液の調製等に、使用することができる。
【0023】
[硫酸コバルト溶液の調製]
好適な実施の態様において、本発明の硫酸コバルト粉末を、純水に溶解することによって、極めて簡易に、高純度の硫酸コバルト溶液を調製することができる。
【0024】
[好適な実施の態様]
好適な実施の態様において、本発明は、次の(1)以下を含む:
(1)
硫酸コバルト及び不可避不純物からなる、硫酸コバルト粉末であって、
水分を除いた質量において、硫酸コバルトの含有量が99.998質量%以上である、硫酸コバルト粉末。
(2)
不可避不純物として含まれるNaの含有量が0.3質量ppm以下であり、Clの含有量が2質量ppm以下であり、Feの含有量が0.5質量ppm以下であり、Niの含有量が10質量ppm以下であり、Cuの含有量が1質量ppm以下であり、Znの含有量が1質量ppm以下であり、Pbの含有量が0.1質量ppm以下である、(1)に記載の硫酸コバルト粉末。
(3)
不可避不純物として含まれるNiの含有量が10質量ppm未満であり、Naの含有量が0.3ppm未満である、(1)~(2)のいずれかに記載の硫酸コバルト粉末。
(4)
(1)~(3)のいずれかに記載の硫酸コバルト粉末を、純水に溶解する工程、を含む、高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【0025】
好適な実施の態様において、本発明は、上述した硫酸コバルト粉末、硫酸コバルト粉末の製造方法、高純度硫酸コバルト溶液の製造方法、高純度硫酸コバルト溶液、高純度硫酸コバルト溶液からなるコバルトめっき液、高純度硫酸コバルト溶液を使用してコバルトめっき液へコバルトイオンを補給する方法、を含む。
【実施例
【0026】
以下に、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。特に記載のない限り、%及びppmは、質量%及び質量ppmを意味する。
【0027】
[実施例1]
[コバルト精製]
3N5コバルトを原料として、硫酸浴電解精製により不純物を取り除く。このコバルト原料(試料1)の組成を後述のようにGDMS分析した。
【0028】
[硫酸浸出]
電解精製したコバルトを切粉状に加工した。これには、スパッタリングターゲット加工時に発生した切粉を使用しても良い。
コバルト1モルに対して0.5モルに相当する硫酸を含んだ希硫酸溶液を用意し、コバルト切粉を投入した。投入はpH電極を硫酸コバルト溶液中に浸漬してpHを測定しながら行い、硫酸コバルト溶液のpHが5.0以下に保たれるよう、硫酸を適宜滴下しながら行った。これによって、希硫酸溶液へコバルト切粉が溶解してゆき(硫酸浸出)、同時に、コバルト切粉の表面へ不純物金属が析出していった(置換反応)。これらの反応は約70℃の温度で、撹拌しながら、約120時間かけて行った。
【0029】
[残切粉の濾別]
硫酸浸出の後に、溶解せずに残ったコバルト切粉を、メンブレンフィルターを用いた濾過により分離し、硫酸コバルト水溶液を得た。
【0030】
[加熱処理]
得られた硫酸コバルト水溶液を100℃へ加熱した。加熱は撹拌しながら約3時間かけて実施した。ただし、硫酸コバルト水溶液は加熱乾固させることなく、コバルト濃度が約200g/Lとなったところで硫酸コバルト水溶液の加熱を終了した。コバルト濃度は分光光度計(エルマ、分光光度計AE-350)により測定することによって算出した。
【0031】
[結晶の濾別]
加熱終了後、20℃まで自然冷却した。冷却後、十分時間をおいて、それ以上析出しなくなったことを確認し、過飽和析出した結晶をメンブレンフィルターにて濾過した。濾別した結晶を80℃のホットプレートにて2時間乾燥して、高純度硫酸コバルト粉末を得た。得られた高純度硫酸コバルト粉末(試料3)の組成を後述のようにGDMS分析した。
なお、得られた濾液は、硫酸浸出に用いる希硫酸溶液へ添加して、その後の実験に供した。
【0032】
[高純度硫酸コバルト水溶液の調製]
得られた高純度硫酸コバルト粉末を純水に溶解した。溶解は純水に硫酸コバルト粉末を投入して20秒以内で完結し、コバルト換算で20~100g/Lの溶液を容易に調整可能であった。得られた硫酸コバルト溶液については、分光光度計(エルマ、分光光度計AE-350)により得られたコバルト濃度と、硫酸コバルト粉末投入量から算出したコバルト濃度に差異が無いことを確認した。
【0033】
[比較例1]
実施例1と同様の手順で、[コバルト精製]、[硫酸浸出]及び[残切粉の濾別]の工程を行って、硫酸コバルト水溶液を得た。
【0034】
[加熱処理]
得られた硫酸コバルト水溶液を100℃へ加熱した。加熱は撹拌しながら約4時間かけて実施し乾固させて、硫酸コバルト粉末(試料2)を得た。
【0035】
[試料1、2、3の組成分析]
得られた硫酸コバルト粉末(試料2)と、上述の試料1及び試料3の組成を、GDMS分析(装置名:V.G.Scientific VG9000、条件:フラットセル使用)によって測定した。得られた結果を、表1に示す。なお、表中において例えば「< 1」、あるいは「< 0.1」とは測定限界(1質量ppm、あるいは0.1質量ppm)未満であることを表す。
【0036】
【表1】
【0037】
試料1、2、3について、GDMS分析によって得られた値から計算された乾燥質量における硫酸コバルト粉末の純度は、小数点以下5桁目を四捨五入した値として、それぞれ99.9836質量%(試料1)、99.9972質量%(試料2)、99.9987質量%(試料3)であった。
【0038】
[SEM画像]
得られた高純度硫酸コバルト粉末(試料3)のSEM画像を、走査電子顕微鏡N-SEM(HITACHI C-3000N)によって撮影した。バーは、200μmである。図1のSEM画像から、高純度硫酸コバルト粉末の粒子径が100~200μm程度であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、高純度硫酸コバルト粉末を提供する。本発明は産業上有用な発明である。
図1