(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】基板パターンフィリング組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230201BHJP
C11D 7/24 20060101ALI20230201BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20230201BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 651B
C11D7/24
C11D7/26
C11D7/32
(21)【出願番号】P 2021555352
(86)(22)【出願日】2020-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2020060533
(87)【国際公開番号】W WO2020212389
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019079906
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】堀場 優子
(72)【発明者】
【氏名】久保木 博子
(72)【発明者】
【氏名】長原 達郎
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021664(WO,A1)
【文献】特開2013-042093(JP,A)
【文献】特開2013-042094(JP,A)
【文献】特開2020-010015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/24
C11D 7/26
C11D 7/32
H01L 21/308
H01L 21/027
B08B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒を含んでなる基板パターンフィリング組成物;ここで
(A)第一の溶質は、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボニル基の少なくともいずれか一つを有する。ただし第一の溶質が一分子あたりに有するヒドロキシ基は最大で1つである;
(B)第二の溶質は、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボニル基の少なくともいずれか一つを有する。ただし第二の溶質が一分子あたりに有するヒドロキシ基は最大で1つである;
(A)第一の溶質と(B)第二の溶質は異なる物質であ
る。
【請求項2】
基板パターンにフィリングされた基板パターンフィリング組成物から膜が形成され、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質が、それぞれ独立に気化することで基板パターンから前記膜が除去されることを特徴とする請求項1に記載の組成
物。
【請求項3】
(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質において、それぞれ独立に、アミノ基および又はカルボニル基は炭化水素環または複素環における環の一部であり、ヒドロキシ基は炭化水素環または複素環における環に直接付加される、請求項1または2に記載の組成
物。
【請求項4】
(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質の分子量が、それぞれ独立に80~300である請求項1~3
のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記基板パターンフィリング組成物の質量を基準として、(A)第一の溶質と(B)第二の溶質の質量の和が1~40質量%である請求項1~4
のいずれか一項に記載の組成
物。
【請求項6】
(C)溶媒が有機溶媒を含んでなり、有機溶媒がアルコール類、アルカン類、エーテル類、乳酸エステル類、芳香族炭化水素類、ケトン類、アミド類、およびラクトン類からなる群から選択される少なくとも1つを含んでなる請求項1~5
のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒の一気圧における沸点bp
A、bp
Bおよびbp
Cが、bp
A>bp
B>bp
Cを満たすことを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成
物。
【請求項8】
(A)第一の溶質が式(A)で表され、(B)第二の溶質が式(B)で表される請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物:
【化1】
Cy
11およびCy
12は、それぞれ独立に飽和または不飽和の炭化水素環または複素環であり;
C
n1はそれぞれ炭素であり、n1は10~19の整数であり、C
n1の余った結合手はHと結合しており;
C
n1はそれぞれ独立に-C
n1R
n1-、-C
n1R
n1R
n1’-、-C
n1(OH)-、-C
n1(=O)-、-N
n1H-、および又は-N
n1R
n1-に置換しても良く;
R
n1およびR
n1’はそれぞれ独立にC
1~5アルキル、-NH
2および又はC
1~5アミノアルキルであり、R
n1および又はR
n1’は他のR
n1、R
n1’および又はC
n1と結合して環を形成しても良く;
n
11、n
12およびn
13は、それぞれ独立に0または1である:
【化2】
Cy
21およびCy
22は、それぞれ独立に飽和または不飽和の炭化水素環または複素環であり;
C
n2はそれぞれ炭素であり、n2は20~29の整数であり、C
n2の余った結合手はHと結合しており;
C
n2はそれぞれ独立に-C
n2R
n2-、-C
n2R
n2R
n2’-、-C
n2(OH)-、-C
n2(=O)-、-N
n2H-、および又は-N
n2R
n2-に置換しても良く;
R
n2およびR
n2’はそれぞれ独立にC
1~5アルキル、-NH
2および又はC
1~5アミノアルキルであり、R
n2および又はR
n2’は他のR
n2、R
n2’および又はC
n2と結合して環を形成しても良く;
n
21、n
22およびn
23は、それぞれ独立に0または1である。
【請求項9】
(A)第一の溶質および(B)第二の溶質が、それぞれ独立に、無水フタル酸、カフェイン、メラミン、1,4-ベンゾキノン、樟脳、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリアジン、1-アダマンタノール、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ボルネオール、(-)-ボルネオール、(±)-イソボルネオール、1,2-シクロヘキサンジオン、1,3-シクロヘキサンジオン、1,4-シクロヘキサンジオン、3-メチル-1,2-シクロペンタンジオン、(±)-カンファーキノン、(-)-カンファーキノン、(+)-カンファーキノン、または1-アダマンタンアミンのいずれかである請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
さらに(D)第三の溶質を含んでな
る、請求項1~
9のいずれか一項に記載の組成
物。
【請求項11】
(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒の25℃1気圧における飽和蒸気圧vp
A
、vp
B
およびvp
C
が、vp
A
<vp
B
<vp
C
を満たす;
前記組成物がさらに(E)第四の溶質を含んでなり、(D)第三の溶質および(E)第四の溶質の1気圧における沸点bp
D
、bp
E
とすると、bp
C
<bp
E
<bp
D
<bp
B
<bp
A
を満たす;又は
前記組成物がさらに(E)第四の溶質を含んでなり、(D)第三の溶質および(E)第四の溶質の25℃1気圧における飽和蒸気圧をvp
D
、vp
E
とすると、vp
A
<vp
B
<vp
D
<vp
E
<vp
C
を満たす、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
基板パターンフィリング組成物を適用する前に、基板パターンが洗浄液で洗浄され、基板上に存在する液を置換するために使用されることを特徴とする請求項1~
11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
(F)その他の添加物をさらに含んでなる、請求項1~
12のいずれか一項に記載の組成物;
ここで、(F)その他の添加物は、界面活性剤、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、抗真菌剤、酸、および又は塩基を含んで
なる。
【請求項14】
(A)第一の溶質と(B)第二の溶質の質量比が99:1~1:99である;
前記基板パターンフィリング組成物の質量を基準として、(C)溶媒の質量が30~99質量%である;又は
(A)第一の溶質と(B)第二の溶質の質量の和と比較して、(F)その他の添加物が0~20質量%である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物がフィリングするパターンが存在する基板の表面がSi、Ge、SiGe、Si
3N
4、TaN、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3、SiON、HfO
2、T
2O
5、HfSiO
4、Y
2O
3、GaN、TiN、TaN、Si
3N
4、NbN、Cu、Ta、W、Hf、Alからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1~
14のいずれか一項に記載の組成
物。
【請求項16】
請求項1~
15のいずれか一項に記載の組成物を基板パターンにフィリングして膜を形成し、前記膜を気化することで除去することを含んでなるデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板パターンフィリング組成物およびその使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置等のデバイス(電子部品)の製造において、成膜、リソグラフィやエッチングなどを得てウェハ表面に微細な凹凸パターンを形成し、その後、ウェハ表面を清浄なものとする工程が知られる。LSIの高集積化のニーズのため、素子は微細化される傾向にあり、上記のような凹凸パターンは幅をより狭く、アスペクト比がより高くしたいというニーズがある。凹凸パターンを形成したウェハ表面の洗浄には、イオン交換水(DIW)や有機溶媒等の洗浄液を供給して、汚染物質を除去する技術が知られる。しかし、凹凸パターンが非常に微細であると、汚染物質を除去した後の乾燥処理の際に、洗浄液の表面張力や毛細管現象によってパターン倒れが発生する問題が存在する。
【0003】
このような状況の中、洗浄液等を昇華性物質を含む充填用処理剤で置換し、昇華性物質を昇華させることでパターン倒れを防ぎつつパターンを清浄にする試みが存在する。特許文献1は、昇華性物質を一度加熱して融解させた充填用処理剤を凹凸パターンに滴下することで洗浄液と置換し、充填用処理剤を冷却することで昇華性物質を凹凸パターンに析出させる技術を提供する。特許文献2は、冷却等により昇華性物質の溶媒に対する溶解度を低下させることで凝固させ、これを昇華することで除去する技術を提供する。特許文献3は、ギャップフィリング化合物を用いたパターン形成方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-42094公報
【文献】WO2019/021664
【文献】WO2017/174476
【非特許文献】
【0005】
【文献】東芝レビュー Vol.59 No.8(2004)、第22~25頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、いまだ改良が求められる1以上の課題が存在すると考えた。それらは例えば以下が挙げられる;基板パターンを清浄に洗浄できない;基板パターンの洗浄の際にパターン倒れが生じる;微細な基板パターンにフィリングできない;微細な基板パターン上に膜を形成できない;加熱せずに膜形成できない;加熱および又は減圧が膜を除去するために必要である;組成物中の溶質が気化することにより基板パターンから膜を除去することができない;溶媒を先に気化させ、その後に段階的に溶質を気化させることができない;除去後の基板パターンに残存する溶質の量が多い;固形成分の溶媒への溶解性が低い;基板パターン洗浄のプロセスから膜を除去するための工程が複雑である;基板パターン洗浄の際に基板パターンの付近の他の層や構成へのダメージがある;歩留まりが悪い;組成物の安定性が低い。
本発明は、上述のような技術背景に基づいてなされたものであり、(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒を含んでなる基板パターンフィリング組成物およびその使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による基板パターンフィリング組成物は、(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒を含んでなる。(A)第一の溶質は、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボニル基の少なくともいずれか一つを有する。ただし第一の溶質が一分子あたりに有するヒドロキシ基は最大で1つである。(B)第二の溶質は、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボニル基の少なくともいずれか一つを有する。ただし第二の溶質が一分子あたりに有するヒドロキシ基は最大で1つである。(A)第一の溶質と(B)第二の溶質は異なる物質である。
本発明による基板パターンフィリング組成物は、(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒の一気圧における沸点bpA、bpBおよびbpCが、bpA>bpB>bpCを満たすことが、好適な一形態である。
本明細書は、本発明による基板パターンフィリング組成物を、基板パターンにフィリングして膜を形成し、同膜を気化することで除去することを含んでなるデバイスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の基板パターンフィリング組成物を用いることで、以下の1または複数の効果を望むことが可能である。
基板パターンを清浄に洗浄することが可能である;基板パターンの洗浄の際にパターン倒れを抑制することが可能である;微細な基板パターンにフィリングすることが可能である;微細な基板パターン上に膜を形成することが可能である;加熱せずに膜形成することが可能である;加熱および又は減圧を行わなくても膜を除去することが可能である;組成物中の溶質が気化することで基板パターンから膜を除去することが可能である;溶媒を先に気化させ、その後に段階的に溶質を気化させることにより基板パターン倒れを抑制することが可能である;除去後の基板パターンに残存する溶質の量を低減することが可能である;固形成分の溶媒への溶解性が良好な組成物を得ることができる;基板パターン洗浄のプロセスから膜を除去するための工程を減らすことが可能である;基板パターンの付近の他の層や構成へのダメージを低減することが可能である;歩留まりが良い;組成物の安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明によるパターン形成方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について詳細に説明すると以下の通りである。
【0011】
定義
本明細書において、特に限定されて言及されない限り、本パラグラフに記載の定義や例に従う。
単数形は複数形を含み、「1つの」や「その」は「少なくとも1つ」を意味する。ある概念の要素は複数種によって発現されることが可能であり、その量(例えば質量%やモル%)が記載された場合、その量はそれら複数種の和を意味する。
「および/または」は、要素の全ての組み合わせを含み、また単体での使用も含む。
「~」または「-」を用いて数値範囲を示した場合、これらは両方の端点を含み、単位は共通する。例えば、5~25モル%は、5モル%以上25モル%以下を意味する。
「Cx~y」、「Cx~Cy」および「Cx」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂を構造式で示す際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
温度の単位は摂氏(Celsius)を使用する。例えば、20度とは摂氏20度を意味する。
添加剤は、その機能を有する化合物そのものをいう(例えば、塩基発生剤であれば、塩基を発生させる化合物そのもの)。その化合物が、溶媒に溶解または分散されて、組成物に添加される態様もあり得る。本発明の一形態として、このような溶媒は(C)溶媒またはその他の成分として本発明にかかる組成物に含有されることが好ましい。
【0012】
基板パターンフィリング組成物
本発明にかかる基板パターンフィリング組成物は、特定の(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒を含んでなる。さらには、必要に応じてその他の成分を含んでなる。
本発明において基板パターンとは、基板が加工されてできたパターンを意味し、基板上の別の膜や層から形成されるパターンは含まない。例えば、ベアウェハ上にレジストパターンが形成されている態様は、本発明の基板パターンに含まれない。基板パターンフィリング組成物とは、基板パターンのパターン間にフィリングする(溢れることは許容される)組成物を意味し、その後に膜を形成する態様がより好適である。
各成分について以下に説明する。
【0013】
(A)第一の溶質、(B)第二の溶質
本発明にかかる(A)第一の溶質は、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボニル基の少なくともいずれか一つを有する。ただし第一の溶質が一分子あたりに有するヒドロキシ基は最大で1つである。(B)第二の溶質は、アミノ基、ヒドロキシ基またはカルボニル基の少なくともいずれか一つを有する。ただし第二の溶質が一分子あたりに有するヒドロキシ基は最大で1つである。(A)第一の溶質と(B)第二の溶質は異なる物質である。
好適には、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質は、それぞれ独立に五員環または六員環の炭化水素環または複素環を含んでなる。本発明の一態様として、基板パターンフィリング組成物から形成された膜が後に気化する際に、(B)第二の溶質が(A)第一の溶質よりも先に気化する態様が好ましい。
【0014】
本発明の一態様として、本発明に係る基板パターンフィリング組成物は基板パターンにフィリングされて、膜が形成される。(C)溶媒が先に気化し、固形成分が膜を形成し、その後に固形成分が気化することで膜が除去されることが好適である。固形成分として、(A)第一の溶質と(B)第二の溶質がそれぞれ独立に気化することが、より好適である。気化の好適な態様は、昇華である。好適には昇華は、固形成分の一部が固相から気相に直接変化することである。より好適には昇華は、固形成分の実質的な全てが固相から気相に直接変化することである。また、別の一形態として、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質は、常温で固相から液相を経ずに気相となる昇華点を持つ物質である。好ましい別の一形態として、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質は、常圧で加熱したときに固相から液相を経て気相になる物質で、融点をもち、融点未満で緩やかに昇華する物質であっても良い。
【0015】
好適には、基板パターンフィリング組成物から形成された膜を除去する際、加熱および又は減圧は行われない。ここで言う加熱とは、より好適には70℃以上、さらに好適には80℃以上、よりさらに好適には90℃以上の加熱であり、上限はより好適には200℃以下、さらに好適には170℃以下、よりさらに好適には150℃以下である。ここで言う減圧とは、より好適には80kPa以下、さらに好適には50kPa以下、よりさらに好適には20kPa以下であり、下限はより好適には1kPa以上、さらに好適には5kPa以上、よりさらに好適には10kPa以上である。また、本発明において上記の膜を除去する際、特許文献1に記載のような冷却の工程を必須としないという点も、本発明の有利な点である。本発明の別の一態様として、膜の除去に気体の吹きかけを必須としないという点も、本発明の有利な点である。ここで言う気体とは、大気、Ar、窒素ガスが挙げられ、例えば、湿度や酸素濃度を低減した気体を使うことが挙げられる。
【0016】
基板パターンを清浄なものにするために、基板パターンに残存する量を低減させる観点から、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質は気化しやすい物質が望ましい。このような特性を持つ固形成分の残存量をより低減させるために、加熱工程を加えることも可能である。本発明の一形態として、基板パターンフィリング組成物から形成された膜を除去する際に、加熱することが可能であり、条件として35~150℃(より好ましくは35~120℃、さらに好ましくは40~110℃、さらに好ましくは40~100℃)、10~180秒間(より好ましくは10~120秒間、さらに好ましくは10~90秒間)が挙げられる。
【0017】
本発明の一態様として、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質において、それぞれ独立に、アミノ基および又はカルボニル基は炭化水素環または複素環における環の一部であり、ヒドロキシ基は炭化水素環または複素環における環に直接付加される。すなわち、カルボキシル基を有する化合物は、この形態では(A)第一の溶質および(B)第二の溶質に該当しない。好適には、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質は、それぞれ独立にかご型の立体構造の母骨格を有する。かご型の立体構造は、例えば1,4-Diazabicyclo[2.2.2]octane(以下、DABCO)が挙げられる。分子量と比して、かさ高さを抑制できる点が有利である。別の一態様として、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質において、それぞれ独立に、アミノ基が環に直接付加される態様も好適である。例えば、1-アダマンタンアミンは、かご型の立体構造の母骨格を有し、アミノ基は環の一部ではなく、環に直接付加される。
【0018】
本発明の好適な一態様として、それぞれ独立に(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質は、一分子あたりに有するアミノ基が1~5つ(より好適には1~4つ、さらに好適には2~4つ)、カルボニル基が1~3つ(より好適には1~2つ)、および又はヒドロキシ基が1つである。アミノ基はC=N-(イミノ基)のように、窒素原子の結合手が二重結合に使用される態様も含む。アミノ基の数は一分子中に存在する窒素原子の数で数える。一分子中にアミノ基、カルボニル基またはヒドロキシ基のいずれか1種類を有する形態が、本発明の好適な一態様である。別の一態様として、一分子中にカルボニル基とアミノ基を有することも好適である。
【0019】
本発明の一態様として、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質の分子量は、それぞれ独立に80~300(好ましくは90~200)である。理論に拘束されないが、分子量が大きすぎると、気化の際にエネルギーが必要になり本発明にかかる方法に適さないと考えられ得る。
【0020】
本発明の好適な一態様として、基板パターンフィリング組成物の質量を基準として、(A)第一の溶質と(B)第二の溶質の質量の和は1~40質量%(より好適には1~30質量%、さらに好適には2~20質量%)である。理論に拘束されないが、溶質の量が少なすぎると、膜の形成が困難になり、基板パターン倒れを抑制する効果が少なくなると考えられる。
好適には(A)第一の溶質と(B)第二の溶質の質量比は99:1~1:99(より好適には95:5~5:95、さらに好適には90:10~10:90、よりさらに好適には80:20~20:80)である。別の好適な本発明の態様として、(A)第一の溶質に対する(B)第二の溶質の質量比が0.5~20(より好適には1~20、さらに好適には5~20)であってもよい。
【0021】
本発明の一態様として、(A)第一の溶質は式(A)で表される。
【化1】
Cy
11およびCy
12は、それぞれ独立に飽和または不飽和の炭化水素環または複素環である。好適にはCy
11およびCy
12は共に飽和または不飽和の炭化水素環または複素環であり、より好適にはCy
11およびCy
12は共に飽和の炭化水素環または複素環である。ここで言う複素環は、環を形成するC
n1が置換されることで複素環になっても良い。
C
n1はそれぞれ炭素であり、n1は10~19の整数である(すなわち、C
10、C
11、・・・C
19)。C
n1の余った結合手はHと結合している。
C
n1はそれぞれ独立に-C
n1R
n1-、-C
n1R
n1R
n1’-、-C
n1(OH)-、-C
n1(=O)-、-N
n1H-、および又は-N
n1R
n1-に置換しても良い。ただし、少なくとも1つのC
n1は上記の少なくともいずれか1つによって置換される。当然であるが存在しない要素は、このただし書きの条件から除外される。例えばn
11=n
12=0のとき、C
10~C
14のいずれか少なくとも1つが置換される。隣り合うC
n1が同時に置換されないことが好適である。
R
n1およびR
n1’はそれぞれ独立にC
1~5アルキル(好適にはC
1~4、より好適にはC
1~3)、-NH
2および又はC
1~5アミノアルキル(好適にはC
1~4、より好適にはC
1~3、さらに好適にはC
1)であり、R
n1および又はR
n1’は他のR
n1、R
n1’および又はC
n1と結合して環を形成しても良い。R
n1およびR
n1’が他のR
n1、R
n1’および又はC
n1と結合して環を形成する態様が好適である。
n
11、n
12およびn
13は、それぞれ独立に0または1である。好適にはn
11=0である。好適にはn
12=1である。好適にはn
13=1である。
【0022】
本発明の一態様として、(B)第二の溶質は式(B)で表される。
【化2】
Cy
21、Cy
22、R
n2、R
n2’、n
21、n
22およびn
23の定義、例および説明は、それぞれ独立にCy
11、Cy
12、R
n1、R
n1’、n
11、n
12およびn
13と同様である。
C
n2の定義、例および説明は、それぞれ独立にC
n1と同様である。n2は20~29の整数である(すなわち、C
20、C
21、・・・C
29)。n2(20~29)の例および説明は、それぞれ独立にn1(10~19)と対応する。
【0023】
本発明の一態様として、下記化合物は式(A)で表され得る。この場合、Cy
11は飽和の六員の炭化水素環であり、n
11=0、n
12=1である。C
12は-C
12R
12R
12’-で置換される。R
12はメチル(C
1アルキル)であり、R
12’はイソプロピル(C
3アルキル)である。R
12’はC
15と結合し環を形成する。C
13は-C
13(=O)-、C
14は-C
14(=O)-に置換される。下記化合物は一分子あたりカルボニル基を2つ有する。全体として下記化合物は、かご型の立体構造の母骨格を有する。
【化3】
【0024】
本発明の一態様として、下記化合物は式(B)で表され得る。この場合、Cy
21は飽和の六員の炭化水素環であり、n
21=0、n
22=1である。C
20は-N
20R
20-、C
22は-N
22R
22-、C
24は-N
24R
24-に置換される。R
20はアミノメチル(C
1)であり、R
22およびR
24はメチル(C
1)である。R
20、R
22およびR
24は結合して環を形成する。下記化合物は一分子あたりアミノ基を4つ有する。全体として下記化合物は、かご型の立体構造の母骨格を有する。
【化4】
【0025】
本発明の一態様として、下記化合物は式(A)で表され得る。この場合、Cy
11は飽和の六員の炭化水素環である(後の置換で複素環になる)。n
11=0、n
12=1である。C
12は-C
12R
12R
12’-、C
14は-C
14R
14-、C
10は-C
10R
10-に置換される。R
12は-NH
2であり
、R
12’はエチル(C
2)であり、R
14およびR
10はメチル(C
1)である。R
12’、R
14およびR
10は結合して環を形成する。下記化合物は一分子あたりアミノ基を1つ有する。全体として下記化合物は、かご型の立体構造の母骨格を有する。
【化5】
【0026】
本発明の一態様として、下記化合物は式(B)で表され得る。この場合、Cy
21は不飽和の六員の炭化水素環(フェニル)であり、Cy
22は飽和の五員の炭化水素環である(後の置換で複素環になる)。n
21=n
22=1、n
23=0である。C
26は-C
26(=O)-、C
28は-C
28(=O)-に置換される。下記化合物は一分子あたりカルボニル基を2つ有する。全体として下記化合物は、構造式を平面的に記載でき、かご型の立体構造の母骨格を有さない。
【化6】
【0027】
本発明の範囲を限定しないが、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質の具体例として、それぞれ以下のものが挙げられる。すなわち、これらはそれぞれ独立に、無水フタル酸、カフェイン、メラミン、1,4-ベンゾキノン、樟脳、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリメチル-1,3,5-トリアジン、1-アダマンタノール、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ボルネオール、(-)-ボルネオール、(±)-イソボルネオール、1,2-シクロヘキサンジオン、1,3-シクロヘキサンジオン、1,4-シクロヘキサンジオン、3-メチル-1,2-シクロペンタンジオン、(±)-カンファーキノン、(-)-カンファーキノン、(+)-カンファーキノン、1-アダマンタンアミンのいずれかである。
【0028】
本発明の範囲を限定しないが、(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質の具体例を構造で表すと以下である。
【化7】
【0029】
(A)第一の溶質は単一の種類の化合物からなり、複数種によって発現しない。例えば、無水フタル酸とカフェインが同時に(A)第一の溶質として組成物に含まれる態様は本発明の範囲外である。なお、無水フタル酸が(A)第一の溶質として、カフェインが(B)第二の溶質として組成物に含まれる態様は、本発明の組成物の範囲に含まれうる。
ただし、具体例で挙げられた中で光学異性体のものは、混合物で使用しても良い。
(B)第二の溶質、および後述の(D)第三の溶質、(E)第四の溶質についても同様である。
【0030】
(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質は、微量の不純物が混ざることを排除しない。例えば、(A)第一の溶質が無水フタル酸の場合、(A)第一の溶質の全量を基準にして不純物(無水フタル酸以外)が2質量%以下存在することを許容する(好適には1質量以下、より好適には0.1質量%以下、さらに好適には0.01質量%以下)。
【0031】
(C)溶媒
本発明による基板パターンフィリング組成物は、(C)溶媒を含んでなる。(C)溶媒は有機溶媒を含んでなることが好ましい。本発明の一形態として、(C)溶媒は揮発性を有する。水と比較してより気化しやすいことが好適である。本発明の一態様として、スピンドライで気化する溶媒が好適である。例えば、(C)溶媒は1気圧における沸点が、50~200℃であることが好ましく、60~170℃であることがより好ましく、70~150℃であることがさらに好ましい。(C)溶媒は、少量の純水を含むことも許容される。純水を含まない(0質量%)ことが、本発明の好適な一形態である。本明細書において純水とは、好適にはイオン交換水である。
本発明の好適な一態様として、基板パターンフィリング組成物に含まれる成分(添加物を含む)は(C)溶媒に溶解する。この態様をとる基板パターンフィリング組成物は、埋め込み性能および又は膜の均一性が良いと考えられる。
【0032】
有機溶媒の例としては、メタノール(MeOH)、エタノール(EtOH)、イソプロパノール(IPA)等のアルコール類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のアルカン類、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)等の乳酸エステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等、を挙げることができる。前記エーテル類として、その他にエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類を挙げることができる。
これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
好ましい一態様として、(C)溶媒が含む有機溶媒は、MeOH、EtOH、IPA、THF、PGEE,ベンゼン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、これらのいかなる組合せから選ばれる。(C)溶媒が含む有機溶媒は、より好ましくは、MeOH、EtOH、IPA、PGEE、アセトン、これらのいかなる組合せから、さらに好ましくは、MeOH、EtOH、IPA、PGEEから選ばれる。有機溶媒が2種の組合せである場合、その体積比は、好ましくは20:80~80:20であり、より好ましくは30:70~70:30、さらに好ましくは40:60~60:40である。
【0033】
本発明の一態様として、基板パターンフィリング組成物の質量を基準として、(C)溶媒の質量は30~99質量%(好ましくは50~95質量%、より好ましくは80~95質量%、さらに好ましくは85~95質量%)である。
【0034】
(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒の一気圧における沸点bpA、bpBおよびbpCとすると、bpA>bpB>bpCを満たすことが、本発明の一態様である。また、(A)第一の溶質、(B)第二の溶質、および(C)溶媒の25℃1気圧における飽和蒸気圧vpA、vpBおよびvpCとすると、vpA<vpB<vpCを満たすことが、本発明の一態様である。理論に拘束されないが、このような関係を満たす組成を用いることにより、組成物を基板パターンに適用した際に、(C)溶媒が揮発することで固形成分からなる膜が形成され、その後に(B)第二の溶質、(A)第一の溶質と順に気化すると考えられる。なお、これらの状態変化は全体としての傾向を意味し、完全に切り離されて行われる必要はなく、一部が重複しても良い。先に気化する物質が気化熱を奪うことで、全体として段階的な気化を可能にする態様もあり得る。膜中から(B)第二の溶質が先に気化することにより、急激な膜の消失を避け、基板パターンとの相互作用が小さくなると考えられる。また、(B)第二の溶質が気化した後の膜は、(A)第一の溶質の低密度の膜が残ると考えられる。この低密度の膜は低密度であるため、気化に際して基板パターンに与える力が少なくなると考えられる。このために、常温(20~27℃、好ましくは23~25℃)において180秒間静置したときに、気化する成分であることが好ましい。
【0035】
bpAおよび又はbpBは、100~300℃であることが好ましく、150~295℃であることがより好ましい。bpCは、50~170℃であることが好ましく、50~150℃であることより好ましく、60~140℃であることがさらに好ましい。
【0036】
(D)第三の溶質、(E)第四の溶質
本発明にかかる基板パターンフィリング組成物は、(D)第三の溶質をさらに含んでも良い。また、さらに(E)第四の溶質を含んでも良い。これらは、基板パターンにフィリングされた基板パターンフィリング組成物から形成された膜に固形成分として残る。これらは、この膜からそれぞれ独立に気化する。
(D)第三の溶質、(E)第四の溶質の具体例は、上述の(A)第一の溶質および又は(B)第二の溶質の具体例と同様である。
(D)第三の溶質および(E)第四の溶質の沸点をbpD、bpEとし、25℃1気圧における飽和蒸気圧をvpD、vpEとすると、好適にはbpC<bpE<bpD<bpB<bpAを満たす。また、vpA<vpB<vpD<vpE<vpCを満たすことも好適である。理論に拘束されないが、この関係を満たすことによって、組成物から形成された膜から(E)第四の溶質、(D)第三の溶質、(B)第二の溶質、(A)第一の溶質、の順で気化すると考えられる。
好適には(A)第一の溶質と(D)第三の溶質の質量比は99:1~1:99(より好適には95:5~5:95、さらに好適には90:10~10:90、よりさらに好適には80:20~20:80)である。好適には(A)第一の溶質と(E)第四の溶質の質量比は99:1~1:99(より好適には95:5~5:95、さらに好適には90:10~10:90、よりさらに好適には80:20~20:80)である。
【0037】
(F)その他の添加物
本発明にかかる基板パターンフィリング組成物は、(F)その他の添加物をさらに含んでもよい。(F)その他の添加物は、界面活性剤、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、抗真菌剤、酸、または塩基を含んでなる。(F)その他の添加物は揮発性が高いものが望ましい。(F)その他の添加物は、固形成分である(A)第一の溶質や(B)第二の溶質がプロセス中で気化する時、またはその前後で気化することが望ましい。
(A)第一の溶質と(B)第二の溶質の質量の和と比較して、(F)その他の添加物は0~20質量%(好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%)である。(F)その他の添加物を含まないこと(0質量%)も、本発明の好適な態様である。
【0038】
(F)その他の添加物に含まれ得る界面活性剤には、塗布性を向上させることが期待できる。界面活性剤としては任意のものを用いることができる。本発明に用いることができる界面活性剤の例としては、(F-1)陰イオン界面活性剤、(F-2)陽イオン界面活性剤、または(F-3)非イオン界面活性剤を挙げることができ、より具体的には(F-1)アルキルスルホネート、アルキルベンゼンスルホン酸、およびアルキルベンゼンスルホネート、(F-2)ラウリルピリジニウムクロライド、およびラウリルメチルアンモニウムクロライド、ならびに(F-3)ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、およびポリオキシエチレンアセチレニックグリコールエーテルが好ましい。これらの界面活性剤は、例えば、非イオン界面活性剤の例としては、日本乳化剤社製の非イオンアルキルエーテル系界面活性剤等が市販されている。
【0039】
また、本発明による基板パターンフィリング組成物は、(F)その他の添加物として、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤および/または抗真菌剤を含んでもよい。これらの薬剤はバクテリアまたは菌類が経時した基板パターンフィリング組成物中で繁殖するのを防ぐために用いられる。これらの例には、フェノキシエタノール、イソチアゾロン等のアルコールが包含される。日本曹達株式会社から市販されているベストサイド(商品名)は有効な防腐剤、抗真菌剤、および殺菌剤である。典型的には、これらの薬剤は基板パターンフィリング組成物の性能には影響を与えないものであり、通常基板パターンフィリング組成物の全質量を基準として1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下の含有量とされる。
【0040】
また、本発明による基板パターンフィリング組成物は、(F)その他の添加物として、酸、塩基を含んでいてもよい。酸または塩基は、処理液のpHを調整したり、各成分の溶解性を改良するために用いられる。明確性のために説明するが、1つの基板パターンフィリング組成物において、(F)その他の添加物は、上記の(A)~(E)の成分とは別の化合物である。
用いられる酸または塩基は本発明の効果を損なわない範囲で任意に選択できるが、例えばカルボン酸、アミン類、アンモニウム塩が挙げられる。これらには、脂肪酸、芳香族カルボン酸、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、アンモニウム化合物類が包含され、これらは任意の置換基により置換されていてもよい。より具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0041】
基板パターン形成方法
以下、本発明の一実施形態にかかる基板パターン形成方法を、図を参照しつつ、説明する。基板パターンを形成させる方法は、ドライエッチング等の公知の方法から任意に選択することができる。このような基板パターンを形成させる方法は、例えば非特許文献1などにも記載されている。
【0042】
本発明の基板パターン形成方法には、種々の前処理を組み合わせることができる。
図1(a)は、基板1上に、塗布炭素膜(塗布C膜、Spin On Carbon膜とも言う)層2が形成され、その上にシリコン含有反射防止膜(Si-ARCとも言う)層3が形成され、その上にレジストパターン4が形成された状態を示す。
用いられる基板は、特に限定されないが、例えば半導体基板(例えば、シリコンウェハーなど)、LCD、PDPなどのガラス基板などが挙げられる。基板には、導電膜、配線、半導体などが形成されていてもよい。
塗布炭素膜は、スピンコートなどの従来公知の方法により塗布し、プリベークを行い、成膜できる。また、CVD(化学的気相成長)法やALD(原子層堆積)法によって、成膜してもよい。
シリコン含有反射防止膜層は、スピンコートにより塗布し、プリベークを行い、成膜できる。このようなシリコン含有反射防止膜層により、断面形上および露光マージンを改善することができる。また、シリコン含有反射防止膜層はエッチングマスクとして用いるので、例えば、エッチング耐性を有するものが好ましい。
【0043】
レジストパターンの形成は、公知の方法を組み合わせて用いることが可能である。例えば、特許文献3に記載がある。
【0044】
レジストパターンをマスクとして、下方にある膜(中間層)をエッチングしてマスクとする工程を段階的に行っても良く、レジストパターンをマスクとして直接基板をエッチングしても良い。中間層のエッチングはドライエッチングでもウェットエッチングでも良い。
【0045】
図1(b)は基板がドライエッチングされギャップ5が形成された状態を示す。ドライエッチングのガス種は特に限定されないが、通常フロン系のガスが使用される。ドライエッチングした後に、残留物6(デブリ)がパターン間に残っている。
【0046】
図1(c)は洗浄液7で基板パターンを洗浄する状態を示す。洗浄液7の適用方法は公知の手段を用いることが可能であり、例えば塗布、滴下および液浸が挙げられる。これらのいずれかの組合せであっても良い。洗浄工程によって、残留物8が取り除かれる。
【0047】
図1(d)は、基板パターンに本発明の基板パターンフィリング組成物9が充填された状態を示す。
図1(c)の液体が残されている状態で、本発明の組成物が適用(好ましくは塗布、滴下、液浸)される。塗布方法は特に限定されないが、例えば、基板を1~500rpmで回転させつつ基板表面に組成物を滴下し広げる方法、基板を静止して基板表面に組成物を滴下した後で基板を1~500rpmで回転させ組成物を広げる方法、基板を浸漬させる方法、または噴霧または吹き付けにより供給することにより行うことができる。この中でも、基板を1~500rpmで回転させつつ基板表面に滴下し広げる方法、基板を静止して基板表面に滴下した後で基板を1~500rpmで回転させ組成物を広げる方法が好ましい。このとき、前記液体の少なくとも一部が置換されて、組成物が基板パターンに充填される。本発明の効果を十分に発現させるためには、充分に置換されることが好ましい。
【0048】
上記工程の後に、基板を500rpmより早く、5000rpm以下で回転させても良い。この回転によって、本組成物の有機溶媒や水は余剰分が基板から無くなるが、(A)第一の溶質および(B)第二の溶質の少なくとも一部が残留する。組成物の全てがパターン間からなくならないため、パターン倒れを防ぐことができると考えられる。
【0049】
ここで、本発明の一形態として次のものが挙げられる。本発明の基板パターン形成方法において、基板パターンフィリング組成物を適用(好適には塗布)する前に、事前に形成された基板パターンが洗浄液で洗浄され、基板上に存在する液を本発明の基板パターンフィリング組成物で置換することができる。事前に形成された基板パターンは洗浄処理が行われる前の状態であり、パターン表面に残留物(デブリ等)が残っていることがある。基板上に存在する液は、例えば、洗浄液である。洗浄は複数ステップであってもよく、例えば無機物を溶解・除去する洗浄液(酸、アルカリ等)を適用した後に、本発明の基板パターンフィリング組成物と相溶性が高い洗浄液(イオン交換水、有機溶媒)を適用しても良い。基板上に存在する液を置換とは、基板パターンフィリング組成物が適用される前に存在する液を置き換えることを意味する。好適には基板パターン内に残る液が充分に置換されることが好ましい。
【0050】
図1(e)は、充填された組成物が除去され、パターン10が形成されている状態を示す。
組成物の除去は、加熱、減圧、風乾、静置、またはこれらの組み合わせによって行うことも可能である。これらの除去方法は、パターン形状を損なわなければ、いずれの方法を用いてもよい。加熱時間は、特に限定されないが、好ましくは10~180秒間であり、より好ましくは10~120秒間であり、さらに好ましくは10~90秒間である。減圧時間は特に限定されないが、0.5~60分間であることが好ましく、0.5~10分間がより好ましい。減圧はデシケーターやオイルポンプを使用することで条件制御できる。また、風乾による組成物の除去は、パターンを気流中に保持することで行うことができる。このとき、気流は陽圧によるものであっても陰圧によるものであってもよい。具体的には、ガスを吹き付けによって気流を生じさせることができる。このような場合、用いられるガスは特に限定されず、空気などを用いることもできるが、不活性ガスであることが好ましい。具体的には、アルゴンガス、窒素ガスなどを用いることが好ましい。気流の流速は特に限定されず、組成物の除去が行われるように適切に選択される。上記の組成物の除去において、雰囲気または気流を形成する気体の湿度が低いことが好ましく、例えば湿度を10%以下とすることができ、5%以下とすることが好ましく、1%以下とすることがより好ましく、0.1%以下とすることが特に好ましい。
【0051】
本発明の基板パターン形成方法は、微細なパターンであっても倒壊率を抑制することが可能である。例えば、中部が底部および又は頂部よりも細くなるようになったピラー(円柱)は倒壊しやすいが、このようなピラーパターン構造であっても倒壊率を抑制して洗浄することが可能である。
【0052】
壁構造であるラインスペース構造のパターンは、ピラーパターンより倒壊しにくいと考えられるが、本発明の基板パターン形成方法を使用することでより倒壊率を下げることが可能である。
ここで、
図1(e)に示すように、基板に形成されたパターンの線幅をx、深さ方向の長さをyとする。パターンのアスペクト比は、y/xで表される。本発明が有効に適用できるパターンとして、yは0.01~6μm以下であり、好ましくは0.05~5μmであり、より好ましくは0.1~3μmである。アスペクト比は、好ましくは5~25であり、より好ましくは15~22である。
【0053】
基板
本発明において基板としては、半導体ウェハ、液晶表示装置用ガラス基板、有機EL表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用ガラス基板、太陽電池用基板、等が挙げられる。基板は非加工基板(例えばベアウェーハ)であっても、被加工基板(例えばパターン基板)であっても良い。基板は複数の層が積層されることで構成されても良い。好ましくは、基板の表面は半導体である。半導体は酸化物、窒化物、金属、これらのいずれかの組合せのいずれから構成されていても良い。また、好ましくは、基板の表面はSi、Ge、SiGe、Si3N4、TaN、SiO2、TiO2、Al2O3、SiON、HfO2、T2O5、HfSiO4、Y2O3、GaN、TiN、TaN、Si3N4、NbN、Cu、Ta、W、Hf、Alからなる群から選ばれる。
【0054】
デバイス
本発明による基板を、さらに加工することでデバイスを製造することができる。デバイスとしては、半導体素子、液晶表示素子、有機EL表示素子、プラズマディスプレイ素子、太陽電池素子が挙げられる。デバイスとは、好ましくは半導体である。これらの加工は公知の方法を使用することができる。デバイス形成後、必要に応じて、基板をチップに切断し、リードフレームに接続し、樹脂でパッケージングすることができる。このパッケージングされたもの一例が半導体である。
【0055】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。なお、本発明の態様はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
実施例組成物1の調製例1
第一の溶質として1-アダマンタンアミン、第二の溶質として樟脳を、それぞれ10質量%となるように、IPA溶媒に添加する。容器に蓋をして一晩攪拌し、溶液を得る。溶質が溶解していることが目視で確認できる。溶液をポアサイズ0.1μmのフィルターでろ過し、実施例組成物1を得る。
【0057】
実施例組成物2~21の調製例2~21、比較例組成物1~8の比較調製例1~8
表1に記載のよう溶質、量または溶媒を変更した以外は調製例1と同様にして、実施例組成物2~21および比較例組成物1~8を得る。それぞれについて、攪拌後に溶質が溶解していることが目視で確認できる。
【0058】
昇華性の評価
コータ・デベロッパRF3(SOKUDO)に300mmベアシリコンウェハを投入する。コーターカップに移動したウェハ上に各組成物を10cc滴下し、1,500rpm・20秒間スピンコートする。その後コーターカップ内で静置し、120秒間を上限として目視で観察する。コーターカップ内の気温は約21~23℃である。
各サンプルの昇華性を以下の評価基準で評価する。結果を表1に記載する。
A:組成物中の固形成分による膜が形成されているが、120秒以内に膜が気化して消失することを確認する。
B:組成物中の固形成分による膜が形成されているが、120秒経過後も膜が消失しないことを確認する。
Bと評価されるサンプルウェハを、さらにホットプレートで加熱(100℃90秒間)し目視で観察する。昇華性を以下の基準で評価する。
B1:加熱後に膜が消失することを確認する。
B2:加熱後に膜が消失せず、残ることを確認する。
【表1】
上記表中()内の数字は、組成物全体を基準とした溶質の質量%を意味する。
以降、組成物を昇華性がAと評価されたもの(A群)と、B(B1,B2)と評価されたもの(B群)に分け、評価を行う。
【0059】
(A群)残膜の評価
上記の昇華性を評価した後のサンプルを用いる。
M-2000エリプソメーター(J.A Woollam)でウェハ上の膜厚を測定する。エリプソメーター測定において、本試験由来の残膜と自然酸化膜が重なった2層モデルを立てて、残膜膜厚のみを算出する。
各サンプルの残膜を以下の評価基準で評価する。結果を表2に記載する。
A:残膜膜厚が1nm未満である。
B:残膜膜厚が1nm以上である。または、また、結晶粒により測定光が散乱し残膜膜厚が測定できない。
【0060】
(A群)倒壊率の評価
ピラーパターンがパターニングされた300mmシリコンウエハ(Interuniversity Microelectronics Centre(imec)より提供)を用いる。ピラー(円柱)は、頂部の直径が約31nm、底部の直径が約67nm、高さ約590nmであり、ピッチ80nmのピラーパターンがウェハ全面に形成されている。
各組成物を評価するために、上記のウェハを約5cm角にカットする。カットしたウェハをMS-A150スピンコータ(ミカサ)にセットする。ウェハに各組成物を2cc滴下し、1,000rpm20秒でスピンコートする。即座にウェハを取り出し、クリーンルーム内の実験机の上に、約120秒間静置する。クリーンルームの気温は常温(約23℃)で制御されている。
上記の処理の後、各ウェハを上面からSEM(SU8200、日立ハイテクノロジーズ)で観察する。ピラーパターンが倒壊している部分の面積を、観察した全面積で割ることで倒壊率を算出する。結果を表2に記載する。
A:倒壊率が5%未満である。
B:倒壊率が5%以上である。
【0061】
総合判定
残膜と倒壊率が共にAのものを好適とする。それ以外を不適とする。結果を表2に記載する。
【表2】
上記表中()内の数字は、組成物全体を基準とした溶質の質量%を意味する。
【0062】
(B群)昇華による残膜の評価
上記の昇華性を評価した後のサンプルを用いる。測定方法、評価基準は上記の(A群)残膜の評価と同様である。結果を表3に記載する。
【0063】
(B群)昇華による倒壊率の評価
上記の(A群)倒壊率の評価で使用するピラーパターンがパターニングされた300mmシリコンウエハ(imec)を用いる。
各組成物を評価するために、上記のウェハを約5cm角にカットする。カットしたウェハをMS-A150スピンコータにセットする。ウェハに各組成物を2cc滴下し、1,000rpm20秒でスピンコートする。即座にウェハを取り出し、ウェハをホットプレートで100℃90秒間加熱する。この処理の後の、測定方法、評価基準は上記の倒壊率の評価と同様である。結果を表3に記載する。
【0064】
総合判定
残膜と倒壊率が共にAのものを好適とする。それ以外を不適とする。結果を表3に記載する。
【表3】
上記表中()内の数字は、組成物全体を基準とした溶質の質量%を意味する。
【符号の説明】
【0065】
1.基板
2.塗布炭素膜層
3.シリコン含有反射防止膜層
4.レジストパターン
5.ギャップ
6.残留物
7.洗浄液
8.残留物
9.本発明による基板パターンフィリング組成物
10.パターン