(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】ビスマスの精製方法
(51)【国際特許分類】
C22B 30/06 20060101AFI20230202BHJP
C22B 9/05 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C22B30/06
C22B9/05
(21)【出願番号】P 2019051764
(22)【出願日】2019-03-19
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】小野 瑛基
(72)【発明者】
【氏名】武井 琢真
(72)【発明者】
【氏名】薄井 正治郎
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-011355(JP,A)
【文献】実開昭58-110057(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物を形成する不純物を含有するビスマス溶湯に塩素ガスを吹き込むことで前記ビスマス溶湯を塩化処理する工程を有し、
前記ビスマス溶湯を溶解温度として400℃以上に加熱した後、前記溶解温度から30℃以上下げる
ことで、前記ビスマス溶湯の表面に固体の塩化物を形成し、
前記塩素ガスは、表面が前記固体の塩化物で覆われた前記ビスマス溶湯に吹き込まれることを特徴とするビスマスの精製方法。
【請求項2】
前記塩化物は前記塩素ガスの吹き込み位置の上を覆うことを特徴とする請求項
1に記載のビスマスの精製方法。
【請求項3】
前記塩化物は、前記ビスマス溶湯の表面積の33%以上を覆うことを特徴とする請求項
1または2に記載のビスマスの精製方法。
【請求項4】
塩化物を形成する不純物が、鉛、銀、亜鉛、およびマグネシウムの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一項に記載のビスマスの精製方法。
【請求項5】
前記塩素ガスは、前記ビスマス溶湯の表面を基準として200mm以上の深さから前記ビスマス溶湯に吹き込まれることを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載のビスマスの精製方法。
【請求項6】
前記ビスマス溶湯が貯留される炉の中央にランスを配置し、
前記ランスの端部を前記ビスマス溶湯の表面を基準として200mm以上の深さに沈め、
前記ランスから前記塩素ガスを前記ビスマス溶湯に吹き込む請求項1から5のいずれか一項に記載のビスマスの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスマスの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熔鉱炉から得られる粗鉛に電解処理および塩化処理などを行うことでビスマスを精製する方法が知られている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塩化処理においては、ビスマス溶湯に塩素ガスを吹き込むことで鉛などの不純物を除去し、ビスマスアノードを精製する。ビスマスアノードの生産能力を向上させるためには、塩化処理において塩素ガスとビスマス溶湯との反応効率を高めることが重要である。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑み、塩化処理における反応効率の向上が可能なビスマスの精製方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るビスマスの精製方法は、塩化物を形成する不純物を含有するビスマス溶湯に塩素ガスを吹き込むことで前記ビスマス溶湯を塩化処理する工程を有し、前記ビスマス溶湯を溶解温度として400℃以上に加熱した後、前記溶解温度から30℃以上下げることで、前記ビスマス溶湯の表面に固体の塩化物を形成し、前記塩素ガスは、表面が前記固体の塩化物で覆われた前記ビスマス溶湯に吹き込まれることを特徴とする。
【0007】
この場合において、前記塩素ガスは、表面が塩化物で覆われた前記ビスマス溶湯に吹き込まれてもよい。
【0008】
また、前記塩化物は前記塩素ガスの吹き込み位置の上を覆ってもよい。
【0009】
また、前記塩化物は、前記ビスマス溶湯の表面積の33%以上を覆ってもよい。
【0010】
また、塩化物を形成する不純物が、鉛、銀、亜鉛、およびマグネシウムの少なくとも1種以上でもよい。
【0011】
また、前記塩素ガスは、前記ビスマス溶湯の表面を基準として200mm以上の深さから前記ビスマス溶湯に吹き込まれてもよい。前記ビスマス溶湯が貯留される炉の中央にランスを配置し、前記ランスの端部を前記ビスマス溶湯の表面を基準として200mm以上の深さに沈め、前記ランスから前記塩素ガスを前記ビスマス溶湯に吹き込んでもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るビスマスの精製方法によれば、塩化処理における反応効率の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1はビスマスの精製方法を例示する図である。
【
図2】
図2(a)は炉を例示する断面図であり、
図2(b)は炉を例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における塩化物を形成する不純物を含有するビスマス溶湯は、ビスマスを多く含む原料であって塩化物を形成する不純物を含有するものであれば、限定はされないが、1例として、鉛電解殿物から塩化物を形成する不純物を含有するビスマス溶湯ができる工程を以下に説明する。
【0015】
図1はビスマスの精製方法を例示する図である。
図1に示すように、ビスマスの精製方法は、鉛電解工程、還元炉による還元処理、揮発炉による揮発工程、塩化炉による塩化処理、ビスマス電解工程および溶解炉による処理を順に行う。塩化処理のために、溶融して得られるものが、ビスマス溶湯である。そして、鉛電解殿物には、鉛をはじめとして塩化処理によって塩化物を作る不純物が含まれている。このような工程における塩化物を形成する不純物を含有するビスマス溶湯の組成の例としては、ビスマス(Bi)70~95%、その他の不純物が5~30%であり、その中でも、鉛(Pb)は5~20%である。本発明における塩化物を形成する不純物としては、鉛(Pb)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)および亜鉛(Zn)などがあげられる。なお、塩化処理後のビスマス(Bi)から溶湯を鋳造し、電解工程、および溶解炉による製品のインゴットが得られる。
【0016】
鉛電解工程では、熔鉱炉から得られる粗鉛を電解処理することで、鉛電解殿物が得られる。一般に鉛電解殿物には、銅鉱石などに由来する鉛(Pb)分、ビスマス分、アンチモン(Sb)分、および貴金属などが含まれる。電解液として例えばスルファミン酸溶液を用い、アノード電極に粗鉛板、カソード電極にSUS板を用いる。
【0017】
鉛電解殿物を乾燥炉で乾燥させる。乾燥後の鉛電解殿物を還元炉で還元し、メタルにする。還元の条件として、例えばコークスを鉛電解殿物に添加する。
【0018】
メタルを揮発炉に投入し、ソーダ処理を行うことでメタル中の砒素を砒酸ナトリウム(Na3AsO4)として除去する。ソーダ処理後、メタルを例えば630~680℃の溶湯とする。溶湯の表面の滓に空気を吹き付けることで、アンチモンをSb2O3として揮発させ、回収する。
【0019】
メタルを塩化炉に投入し、塩素ガスをビスマス溶湯に吹き込むことで塩化処理を行う。
【0020】
図2(a)は炉を例示する断面図であり、
図2(b)は炉を例示する平面図である。塩化炉10はこの形状に限定されるものではなく、平面が楕円または矩形などでもよい。また、塩化炉10の大きさも限定されず、例えば円形の炉では直径が0.5mから数m、深さが1mから数mである。このような大きさの塩化炉10にビスマス溶湯12が貯蔵される。
【0021】
ランス14の一端はビスマス溶湯12内に沈められ、ランス14を通じてビスマス溶湯へと塩素ガスが吹き込まれる。ランス14の直径は例えば7mmである。ランス14は例えば塩化炉10の中央に位置する。ランス14の端部の位置、すなわち塩素ガスの吹き込み位置はビスマス溶湯の表面から深さ200mm以上、300mm以下の位置である。
【0022】
塩化処理において、ビスマス溶湯中の鉛が塩素と反応し塩化物(塩化鉛(PbCl2)16)が発生する。塩化鉛16は膜状であり、ビスマス溶湯の表面を覆う。ビスマス溶湯の表面積(上面の面積)のうち33%以上が塩化鉛16に覆われる。また、塩化鉛16は、ランス14の周囲に形成され、塩素ガスの吹き込み位置の上側を覆う。
【0023】
塩化処理においてはビスマス溶湯の温度を制御する。例えば塩化鉛16の固体が発生した後、温度を溶解温度として400℃以上など塩化鉛16の融点以上まで上昇させる。これにより塩化鉛16が液状化してビスマス溶湯12の表面に膜を形成する。その後、温度を溶解温度から30℃以上下げることで、
図2(a)および
図2(b)のように、膜状で固体の塩化鉛16がビスマス溶湯の表面に形成される。塩化鉛16はビスマス溶湯を覆う蓋として機能するため、塩素ガスがビスマス溶湯12から外部へと拡散しにくくなり、塩化処理の反応効率が向上する。
【0024】
塩化処理により塩化滓およびビスマス(Bi)アノードが得られる。塩化滓は鉛および銀などを含み、Biアノードから除去される。BiアノードにBi電解工程を行うことで、Biの電着物およびAgの殿物が得られる。
【0025】
電着物を溶解炉に投入し、Biのインゴットを製造する。以上の工程によりビスマスを精製することができる。また、殿物は、公知の方法で有価金属として回収される。
【0026】
本実施形態によれば、塩化処理において、ビスマス溶湯12を溶解温度として400℃以上に加熱した後、溶解温度から30℃以上下げる。これによりビスマス溶湯12の表面を覆う塩化鉛16を形成する。塩化鉛16が蓋となり、塩素ガスがビスマス溶湯12中にとどまることで、塩化処理の反応効率が向上する。
【0027】
塩化鉛16は塩素ガスの吹き込み位置の上を覆うことが好ましい。例えば塩化鉛16がランス14の周囲45mmの幅を覆う。これによりランス14から吹き込まれる塩素ガスの拡散が塩化鉛16により抑制され、反応効率がより上昇する。
【0028】
塩化鉛16はビスマス溶湯12の表面積の33%以上を覆うことが好ましい。塩素ガスがビスマス溶湯12から離脱しにくくなり、反応効率が向上する。塩化鉛16がビスマス溶湯12の表面すべてを覆うことで、反応効率はより上昇する。
【0029】
複数の塩化鉛16がビスマス溶湯12の表面に浮いてもよいし、1つの塩化鉛16が形成されてもよい。
図2(a)および
図2(b)に示すように、大型かつ穴の少ない塩化鉛16が形成されることが好ましい。塩素ガスの離脱をより効果的に抑制し、反応効率がさらに向上する。塩化処理におけるビスマス溶湯12の温度を500℃以上から500℃未満へと変化させることで、
図2(a)および
図2(b)のような塩化鉛16を形成することができる。ビスマス溶湯12の溶融状態を維持するため、温度は330℃以上に維持する。
【0030】
塩素ガスの吹き込み位置、すなわちランス14の端部は、ビスマス溶湯12の表面を基準として例えば深さ200mm以上に位置することが好ましい。塩素ガスとビスマス溶湯12との接触が促進され、反応効率が上昇する。
【0031】
ビスマス溶湯12はビスマス以外に鉛などの成分を含む。例えば、鉛電解処理から揮発処理までの工程で残存する鉛がビスマス溶湯12に含有される。また、ビスマス溶湯12は、鉛以外に、例えば銀、亜鉛(Zn)およびマグネシウム(Mg)などを含有することがある。これらの不純物は塩化滓などとして除去される。
【0032】
ビスマス溶湯12の原料としては鉛電解殿物以外でもよい。ビスマス溶湯12の鉛含有量が小さい場合、または鉛を含有しない場合、ビスマス溶湯12に鉛を添加してもよい。これらの鉛が塩素ガスと反応して塩化鉛16を形成する。
【実施例】
【0033】
本発明の実施例として、鉛電解澱物から得られたビスマス溶湯の例について説明する。本実施例のビスマス溶湯には、ビスマスが80%、鉛が19%、その他が1%の組成のものを用いた。
【0034】
塩化処理において、ビスマス溶湯12を510~530℃に加熱した後、490℃としたことによりビスマス溶湯12の表面を覆う塩化鉛16が形成された。塩化鉛16が蓋となり、塩素ガスがビスマス溶湯12中にとどまることで、塩化処理の反応効率が向上する。なお、塩素ガスの吹き込み位置、すなわちランス14の端部は、ビスマス溶湯12の表面を基準として深さ300mmに位置させた。
【0035】
塩化鉛16は塩素ガスの吹き込み位置の上をランス14の周囲45mmの幅を覆っていた。これによりランス14から吹き込まれる塩素ガスの拡散が塩化鉛16により抑制され、反応効率がより上昇する。
【0036】
また、塩化鉛16はビスマス溶湯12の表面積の約50%を覆っていた。その結果、塩素ガスがビスマス溶湯12から離脱しにくくなり、反応効率が覆わない操業と比べて2割程度向上した。
【0037】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 塩化炉
12 ビスマス溶湯
14 ランス
16 塩化鉛