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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】小麦粉含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20230203BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20230203BHJP
   A23L 7/109 20160101ALN20230203BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L5/00 Z
A23L7/109 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018157872
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020028279
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】金谷 正也
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195764(JP,A)
【文献】特開2009-055896(JP,A)
【文献】特開平6-209722(JP,A)
【文献】特開2014-221024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を含有する原料粉及び水を含む生地を成形し、成形生地を調製する工程、
前記成形生地の表面を加熱処理し、表面加熱成形生地を調製する工程、
前記表面加熱成形生地を、水を含む浸漬液に浸漬し、浸漬成形生地を調製する工程、
を含み、
前記成形生地が、『主軸〔A〕〔B〕〔C〕からなる楕円体において、〔A〕≦〔B〕=〔C〕であり、〔A〕≧mm、且つ〔A〕+〔B〕=14mmである楕円体』の一つを内包できる大きさである部位又は形状を有し、
前記表面の加熱処理が、蒸気処理、及び/又は熱風処理であり、
前記表面加熱成形生地を浸漬液に浸漬する時間が、8時間以上である
小麦粉含有食品の製造方法。
【請求項2】
前記生地において、原料粉の質量に対する加水量が25~38質量%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記表面加熱成形生地の歩留りが、前記成形生地の質量に基づいて75~105質量%である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記浸漬成形生地の水分が、60質量%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉を含む生地を任意の形状に成形し、イーストや膨張剤等による生地の膨化を伴わずに、茹で調理、焼き調理等の加熱調理を行なう小麦粉含有食品を製造する方法に関し、特に、通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地であっても、容易に調理できる小麦粉含有食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉を含む食品は、麺類、麺皮類、パン類、菓子類等、多数知られている。それらは、様々な形状に成形され、加熱調理されて提供される。例えば麺類や麺皮類(うどん、ひやむぎ、そうめん、そば、中華麺、パスタ、餃子、ワンタン、シュウマイの皮等)は、線状、皮状、粒状、餅状等の様々な形状、並びに様々な太さ、及び大きさに生地が成形され、茹で調理、焼き調理、蒸し調理等の加熱調理によって、成形生地から容易に喫食可能な状態(以下、可食状態と称する)に調理される。一般的に加熱調理により可食状態に調理可能な大きさは、経験的に知られている。例えば、麺類や麺皮類において生地を極端に太くしたり、厚くしたりする成形を行った場合、通常の調理方法では、成形生地を可食状態まで調理することが困難になることが知られており、伊勢うどんのような極太サイズの麺類では、成形生地から可食状態まで茹で時間が1時間以上かかる場合がある。さらに、成形生地の大きさをより厚く又は太くした場合(例えば、超極太サイズの生麺)は、どれだけ長時間茹でても中心部分まで茹で上げて、可食状態の食品とすることができなくなってくる。これは、表面部分から中心部までの厚み(太さ)がありすぎるために、茹で調理により中心部分をα化に必要となる水分含量まで高めることができず、中心部分のα化が困難となる一方で、長時間の茹で調理に耐えきれずに表面部分が茹で崩れてしまうためと考えられる。また、茹で調理に変えて焼き調理、蒸し調理等の他の加熱調理手段を選択しても、生地表面部から中心部までの距離(厚み)が過大な成形生地を加熱調理することは非常に困難(実質調理不可能)であった。
【0003】
麺類においては、従来から、加熱調理前の処理として、麺線を水等に浸漬して高水分化することで、茹で時間を短縮する技術、いわゆる早茹で麺の技術が知られている。例えば、特許文献1では、表面およびその近傍のみがα化された麺類を、最長で5分間、食塩、糖類および多糖類からなる群より選択される1種以上を含む水溶液ならびに/もしくは油脂を塗布もしくは噴霧する工程に供するか、または該水溶液ならびに/もしくは油脂へ浸漬する工程に供することを特徴とする麺類の製造方法が開示されている。また、特許文献2では、麺を茹でて表面をα化する茹で工程と、茹でた麺を水漬して麺の含水率を高くする水漬工程と、麺を有機酸に接触させて麺線のphを6以下とする有機酸接触工程とからなる早茹で麺の製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、調理済み麺類における保存中の老化を抑制する目的で、加工澱粉5~40質量%を含む原料粉から製造された生麺類をpH調整した浸漬液に15分以上浸漬させた後に加熱調理する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-221024号公報
【文献】特開2008-061556号公報
【文献】特開2015-195764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示された手法は通常サイズの麺線をより短時間で茹で調理すること、すなわち通常調理での品質を維持しながら茹で時間(調理時間)の短縮を図るものであり、調理困難なほど極太の麺線を調理可能とすることは想定されていない。例えば、特許文献1では、表面およびその近傍のみがα化された麺類を、最長で5分間、浸漬等の工程に供することを特徴とするが、表面およびその近傍のみがα化されていても、浸漬時間が5分を超える場合には麺線が軟化して食感が損なわれることが開示されている。
また、特許文献3においても、例えば製造例5として開示されている通り、通常に調理可能な麺線を対象とした改良技術であることがわかる。そして、特許文献3の手法では、麺線が太くなるに従い浸漬時間がより長時間必要となり、浸漬中に麺線が脆くなり、さらには崩壊してしまう場合がある。
【0006】
このように、通常の調理手段では、極太の麺線状の生地や肉厚の麺皮状の生地を、食品としての品質を維持しながら可食状態に調理する技術は存在しなかった。したがって、本発明の目的は、小麦粉を含む生地を任意の形状に成形し、茹で調理、焼き調理等の加熱調理を行なう小麦粉含有食品を製造する方法であって、通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地であっても、容易に調理できる小麦粉含有食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、小麦粉を含有する原料粉及び水を含む生地を成形し、成形生地を調製する工程、前記成形生地の表面を加熱処理し、表面加熱成形生地を調製する工程、前記表面加熱成形生地を、水を含む浸漬液に浸漬し、浸漬成形生地を調製する工程、を含み、前記成形生地が、『主軸〔A〕〔B〕〔C〕からなる楕円体において、〔A〕≦〔B〕=〔C〕であり、〔A〕≧mm、且つ〔A〕+〔B〕=14mmである楕円体』の一つを内包できる大きさである部位又は形状を有し、前記表面の加熱処理が、蒸気処理、及び/又は熱風処理であり、前記表面加熱成形生地を浸漬液に浸漬する時間が、8時間以上である小麦粉含有食品の製造方法によって達成される。なお、本発明において、「小麦粉含有食品」は、小麦粉を含み、イーストや膨張剤等の生地を膨化させる材料を含まない生地を線状、棒状、皮状、短冊状、粒状、小片状、団子状、丸餅状、角餅状、不定形状等の任意の形状に成形し、茹で調理、焼き調理等の加熱調理を行なう小麦粉含有食品であって、通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地から得られる小麦粉含有食品を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、小麦粉を含む生地を任意の形状に成形し、茹で調理、焼き調理等の加熱調理を行なう小麦粉含有食品を製造する方法において、通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地であっても、容易、且つ短時間(可食状態とする調理工程に要する時間が短い)に調理することができる小麦粉含有食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の小麦粉含有食品の製造方法は、小麦粉を含有する原料粉及び水を含む生地を成形し、成形生地を調製する工程、前記成形生地の表面を加熱処理し、表面加熱成形生地を調製する工程、前記表面加熱成形生地を、水を含む浸漬液に浸漬し、浸漬成形生地を調製する工程、を含み、前記成形生地が、『主軸〔A〕〔B〕〔C〕からなる楕円体において、〔A〕≦〔B〕=〔C〕であり、〔A〕≧2.5mm、且つ〔A〕+〔B〕=14mmである楕円体』の一つを内包できる大きさである部位又は形状を有し、前記表面の加熱処理が、蒸気処理、及び/又は熱風処理であり、前記表面加熱成形生地を浸漬液に浸漬する時間が、8時間以上である。これにより、通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地であっても、前記浸漬液に浸漬する工程において、成形生地の中心部分まで浸漬液を十分に浸透させ、水分を上昇させることができる。この状態の浸漬成形生地であれば、その後、茹で調理、焼き調理、蒸し調理等の加熱調理により、これまで調理が困難であった小麦粉含有食品を可食状態まで短時間に容易に調理することができる。
【0010】
上記規定の楕円体を内包できる大きさの成形生地は、一般的な太さ又は厚みの麺類、麺皮類等とは異なり、通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地である。したがって、このような成形生地を可食状態にするためには本発明の方法が必要になる。前記楕円体としては、主軸〔A〕2.5mm〔B〕11.5mm〔C〕11.5mmの楕円体、主軸〔A〕3mm〔B〕11mm〔C〕11mmの楕円体、主軸〔A〕4mm〔B〕10mm〔C〕10mmの楕円体、主軸〔A〕5mm〔B〕9mm〔C〕9mmの楕円体、主軸〔A〕6mm〔B〕8mm〔C〕8mmの楕円体、主軸〔A〕7mm〔B〕7mm〔C〕7mmの楕円体(球体)等が挙げられる。前記主軸〔A〕は3mm以上が好ましい。前記成形生地の形状は、前記楕円体が内包できれば特に制限はなく、例えば、線状、棒状、皮状、短冊状、粒状、小片状、団子状、丸餅状、角餅状、不定形状等が挙げられる。
【0011】
本発明において、前記成形生地を調製する工程は、常法に従って行なうことができる。例えば、小麦粉を含有する原料粉、水、及びその他の材料をミキサーで混捏して得た生地を、製菓・製パン用機器や製麺用機器等の機械を用いて、又は手作業で所望の形状の成形生地に成形する。中心部まで十分にα化させるためには、生地作製の段階で加水量を増やして高加水生地とする方が有利であるとも考えられるが、本発明の方法では通常の加水量であっても、又低加水の生地であっても、可食状態にすることが可能である。本発明において、前記生地における原料粉の質量に対する加水量は、成形工程前の生地状態が、手で軽く握って纏まる程度に調整することが好ましく、具体的には、通常25~40質量%であり、25~38質量%であることが好ましい。本発明において、加水量は、その他の材料の内、液状の材料(液卵、液糖等)の水分も含むものとする。
【0012】
本発明において、小麦粉以外の原料粉としては、そば粉、米粉、ソルガム粉、トウモロコシ粉、大麦粉等の小麦粉以外の穀粉;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的に加工を施した加工澱粉;粉末グルテン;大豆粉(全脂、脱脂)、繊維状又は粒状大豆たん白、おから等の大豆加工品等が挙げられる。本発明においては、原料粉中の小麦粉は、50質量%以上が好ましい。また、前記成形生地のその他の材料としては、食用油脂;糖類;アラニン、グリシン、リジン等のアミノ酸;グルタミン酸ナトリウム、食塩等の調味料;増粘剤;乳化剤;色素;香料;かんすい;アルコール製剤;牛乳、チーズ、カゼイン、脱脂粉乳等の乳製品;乾燥卵(全卵、卵黄、卵白)、液卵(全卵、卵黄、卵白)等の卵製品が挙げられる。
【0013】
本発明の製造方法においては、前記成形生地の表面の加熱処理を蒸気処理、及び/又は熱風処理で行なうことにより、前記成形生地の表層部において、小麦粉中の澱粉が適度にα化し、且つ小麦粉中のたん白質が適度に変性した保護層を有する表面加熱成形生地を得る。前記加熱処理では、成形生地の表層部の澱粉を適度にα化し、且つたん白質を適度に変性させることが重要である。その点、熱媒体が気体(蒸気処理では気体の水である水蒸気が熱媒体)である蒸気処理や熱風処理は、成形生地の表層部に対して効果的に作用し、生地内部への熱の浸透が遅いため有効であると考えられる。一方で、熱媒体が液体となる茹で処理や熱湯シャワー処理は、処理の過程で液体の水が生地表層部から内部に吸収・浸透するために、熱の伝達が表層部に留まるように制御するのが難しく、当該工程における加熱処理の手段としては不向きである。前記加熱処理は、バッチ式でも、連続式でも良く、製造規模等に応じて選択することができる。加熱処理温度は、適度な澱粉のα化及び適度なたん白質の変性が可能であれば特に制限はない。例えば、蒸気処理の場合の蒸気温度は、100~120℃が好ましく、熱風処理の場合は、110~140℃が好ましい。加熱処理時間は、前記成形生地の大きさ、形状等に応じて、適宜調節することができる。
【0014】
前記成形生地の表面を加熱処理する工程における、生地内部への熱の浸透度合いは、表面加熱成形生地の歩留りによりある程度把握することができる。言い換えれば、表面加熱成形生地の歩留りを目安として、前記成形生地の形状や大きさに応じた加熱処理の条件を設定・管理することができる。そして、表面加熱成形生地の歩留りが一定の範囲となるように加熱処理を行うことで、成形生地の表層部において、小麦粉中の澱粉がより適度にα化され、且つ小麦粉中のたん白質がより適度に変性した保護層を有する表面加熱成形生地を得ることができる。前記表面加熱成形生地の歩留りは、前記成形生地の質量に基づいて、75~105質量%、好ましくは90~105質量%、より好ましくは95~105質量%であることが望ましい。前記表面加熱成形生地の歩留りが、上記規定より高い場合は、生地内部に水分が浸透するような条件で処理された可能性があり、熱の伝達が生地の表層部に留まっていない可能性が示唆され、また上記規定より低い場合は、生地の表層部だけでなく、生地内部の水分が失われるほど生地内部に熱が伝達している可能性が示唆される。なお、表面加熱成形生地の歩留りは、成形生地の質量と、その表面を加熱処理した表面加熱成形生地の質量を測定し、前記成形生地の質量に対する、前記表面加熱成形生地の質量の百分率を算出することによって求めることができる。
【0015】
本発明の製造方法において、加熱処理の終了後に、熱の浸透を生地の表層部にとどめるため、表面加熱成形生地を冷却する工程を設けることができる。前記冷却工程は、静置冷却処理、風冷処理、水冷処理等の冷却手段により実施できる。静置冷却処理は、室温又は室温以下の低温環境下に静置して冷却する処理であり、自然冷却又は放置冷却と称することもある。風冷処理は、室温又は室温以下に冷却されて供給される風を、直接又は間接的に接触させることにより冷却する処理である。水冷処理は、流水下又は浸漬等により、常温水又は冷却水と直接又は間接的に接触させることにより冷却する処理である。静置冷却処理や風冷処理では、表面加熱成形生地にビニールシート等の覆いをして、生地表層部の過度の乾燥を防止することがより好ましい。また風冷処理では、供給される風量を調整し、生地表層部の過度の乾燥を防止することがより好ましい。前記冷却工程は、冷却効率や、生地表面の過度の乾燥を防止することができる点から水冷処理とするのが好ましく、水冷処理は流水下で実施するのがより好ましい。なお浸漬による水冷処理は、後工程である浸漬工程(前記表面加熱成形生地を、水を含む浸漬液に浸漬し、浸漬成形生地を調製する工程)で用いる浸漬液の温度を調整することで、浸漬工程の中に冷却工程を含めることができる。
【0016】
次いで、本発明においては、得られた前記表面加熱成形生地を、水を含む浸漬液に8時間以上浸漬し、浸漬成形生地を調製する工程により、成形生地の中心部分まで浸漬液を十分に浸透させ、水分を上昇させる。前記表面加熱成形生地が、表層部において、小麦粉中の澱粉が適度にα化し、且つ小麦粉中のたん白質が適度に変性した保護層を有するので、8時間以上の浸漬時間であっても、成形生地が崩壊してしまうことがない。浸漬液としては、水、又は水に、リン酸、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等の食品に使用可能な有機酸又は無機酸、及び/又はそれらの塩等のpH調整剤、アルコール等の防腐剤、食塩、アミノ酸、しょうゆ、糖類等の着味又は調味料等を溶解させた水溶液を用いることができる。浸漬温度は、特に制限はないが、5~35℃が好ましく、10~25℃がさらに好ましい。浸漬時間は、8時間以上であれば、特に制限はないが、少なくとも生地中の水分量の増加割合が緩やかになっていることが必要であり、生地中の水分量が飽和状態(それ以上水分量を高められない状態、吸水が困難な状態を指す)に達するまで浸漬を行うことが好ましい。浸漬時間は、表面加熱成形生地の大きさの影響もあるが、好ましくは10時間以上、より好ましくは12時間以上であり、最長でも72時間の浸漬を行えば十分である。そして生地中の水分量が飽和状態となった後は、食品衛生上の問題が生じない限り、浸漬工程を継続することが可能であり、浸漬状態での流通も可能である。本発明において、前記浸漬成形生地の水分は、60質量%以上が好ましく、60~80質量%がさらに好ましく、60~75質量%が特に好ましい。また、前記浸漬成形生地の歩留りは、前記成形生地の質量に基づいて、120~280質量%が好ましく、150~260質量%がさらに好ましく、180~240質量%が特に好ましい。生地の水分は、加熱乾燥法(例えば「衛生試験法・注解2015」公益社団法人日本薬学会編を参照)により求めることができる。なお、浸漬工程は、バッチ式でも、連続式でも良く、製造規模等に応じて選択することができる。さらに、浸漬工程を、前記表面加熱成形生地を前記浸漬液と共に、ポリ袋等の密閉容器に包装した状態で行なってもよい。このような方法であれば、流通・保管(常温又は冷蔵)中に浸漬工程が可能になるため、工場設備を利用する製造時間を短縮することができる。
【0017】
本発明の小麦粉含有食品の製造方法においては、前記浸漬液に浸漬する工程において得られた浸漬成形生地を、続けて茹で調理、焼き調理、蒸し調理等の加熱調理を施すことで可食状態とすることができる。浸漬成形生地は、中心部に至るまで水分が十分に高くなっているので、「茹でる」、「蒸す」、「煮る」、「焼く」、「炒める」、「揚げる」等の任意の加熱調理手段を選択することが可能であり、さらには中心部まで十分に加熱するのに要する時間も短くて済むので短時間調理が可能である。また、表面加熱成形生地は、長時間の浸漬処理中に表面が溶け崩れる等の品質劣化が生じにくいので、浸漬液と共に密封包装した状態で保管・流通させ、浸漬工程を保管・流通過程で実施することも可能である。このように、前記浸漬成形生地を包装容器に充填した状態で流通させれば、飲食店や家庭において、上記の加熱調理により容易に可食状態まで調理することが可能であり、短時間で温かい状態で提供又は喫食することができる。さらに、本発明の浸漬成形生地は、任意の調理手段により容易に可食状態とすることができるので、餅、団子等の代替食品としての利用、あるいは鍋物や炒め物の具材としての利用が可能であり、小麦粉を利用した食品の応用範囲の拡大に貢献可能な技術である。
【実施例
【0018】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
[実施例A1~A5、比較例A比1~A比3]
1.成形生地Aの調製
中力小麦粉100部、並塩1部、加水34部の配合でミキサーにて混捏し、そぼろ状生地を得た。この生地をロール式圧延成形機にて、帯幅220mm、厚み10mmの帯状に成形したものを包丁裁断機で10mm幅に裁断して角棒状成形生地A(幅10mm、厚み10mm、長さ220mm)を調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(実施例A1~A5)
1.で調製した角棒状成形生地Aに以下の各表面加熱処理を施した。次いで、浸漬液として水を用い12時間の浸漬を行い、各実施例の浸漬成形生地を得た。これらを茹で機にて10分間茹で上げ、水洗冷却、水切りを行った。これに、出し汁をかけて、うどん風の食品として喫食評価した。全ての実施例で良好な可食状態であった。
A1:セイロにて2分間蒸煮処理した後、水冷却した。
A2:トンネル型コンベヤ移行式熱風加熱装置(生蒸気と蒸気エロフィン)100℃設定にて、20秒間処理した後、箱取りして室温冷却した。
A3:トンネル型コンベヤ移行式熱風加熱装置(電気ヒーター)にて90℃、30秒間処理した後、箱取りして室温冷却した。
A4:トンネル型ネットコンベヤ移行式蒸気吹き付け装置にて上下方向から蒸気を3秒間噴射による加熱後、水シャワー冷却した。
A5:金網板に乗せ、ガスジェットオーブン110℃設定にて30秒間処理した後、風冷した。
3.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(比較例A比1~A比3)
1.で調製した角棒状成形生地Aを用いて、以下の各表面加熱処理、浸漬処理を施し、可食状態になり得るか評価した。
A比1:角棒状成形生地Aを茹で釜にて5秒間茹で処理し、水洗冷却した後、浸漬液として水を用い12時間の浸漬を行った。浸漬槽から取り出そうとしたが、ふやけて柔らかく、形状が崩れてしまった。
A比2:角棒状成形生地Aを茹で釜にて2分間茹で処理し、水洗冷却した後、浸漬液として水を用い8時間の浸漬を行った。次いで、これを茹で機にて90分間茹でたが、芯が固く煮えていなく、喫食に適さなかった。また、外観も煮崩れがかなり発生していた。
A比3:角棒状成形生地Aをセイロにて5分間蒸煮処理し、水洗冷却して後、浸漬液として水を用い6時間の浸漬を行った。次いで、これを90分間茹でたが、芯が固く煮えていなく、喫食に適さなかった。また、外観も煮崩れがかなり発生していた。
【0019】
参考例B1~B4、参考例B比1]
1.成形生地Bの調製
準強力小麦粉100部、並塩1部、粉末かんすい0.2部、グリシン1部、加水32部の配合でミキサーにて混捏し、そぼろ状生地を得た。この生地をロール式圧延成形機にて厚み3mmの帯状に成形した。これをロータリー式裁断機にて幅40mm、長さ150mmに裁断して短冊状成形生地Bを調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例B1~B4)
1.で調製した短冊状成形生地Bに以下の各表面加熱処理を施した。次いで、浸漬液として水を用い12時間の浸漬を行い、各参考例の浸漬成形生地を得た。これを、野菜炒めの具材として用いて、炒め調理を行い喫食評価した。全ての参考例で良好な可食状態であった。
B1:セイロにて2分間蒸煮処理した後、水洗シャワー冷却した。
B2:トンネル型コンベヤ移行式蒸気加熱装置にて2分間加熱処理した。
B3:トンネル型コンベヤ移行式熱風加熱装置(生蒸気と蒸気エロフィン)にて85℃、60秒間処理した。次いで、風冷で粗熱を除去した後、箱に仮取りして室温冷却した。
B4:トンネル型ネットコンベヤ移行式蒸気吹き付け装置にて3秒間加熱処理した。
3.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例B比1)
1.で調製した短冊状成形生地Bを用いて、下記の表面加熱処理、浸漬処理を施し、可食状態になり得るか評価した。
B比1:短冊状成形生地Bをコンベヤ移行式熱湯シャワー装置にて10秒間加熱処理した後、浸漬液として水を用い浸漬を行なった。12時間後浸漬槽から取り出そうとしたが、ふやけて柔らかく、形状が崩れてしまった。
【0020】
[実施例C1~C5、比較例C比1]
1.成形生地Cの調製
準強力小麦粉90部、加工タピオカでん粉10部、並塩1部、加水36部の配合でミキサーにて混捏し、そぼろ状生地を得た。この生地を押し出し成形機で厚み4mmの麺帯状に成形したものをカットして縦150mm、横40mmの短冊状成形生地Cを調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(実施例C1~C3)
1.で調製した短冊状成形生地Cをセイロにて2分間蒸煮処理することにより表面加熱処理した後、水冷した。次いで、浸漬液として和風調味液を用いて12時間の浸漬を行い、実施例C1~C3の浸漬成形生地を得た。これに以下の処理を行い各実施例の加工食材を製造した。これを、割り箸を挟むように2枚1セットにした後、炭火で両面を焼き目が付く程度に焼いて喫食評価した。全ての実施例で良好な可食状態であった。
C1:茹で機にて茹で上げ、水洗冷却した後、1個毎にナイロン袋包装した。
C2:セイロにて蒸し上げ、冷却した後、1個毎にナイロン袋包装した。
C3:1個毎にレトルト用包材に包装し、93℃、30分間のレトルト処理を行った。
3.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(実施例C4)
1.で調製した短冊状成形生地Cをセイロにて2分間蒸煮処理することにより表面加熱処理した後、水冷した。次いで、浸漬液として有機酸水溶液(浸漬後の生地pHが5.0以下となる有機酸濃度とした)を用いて24時間の浸漬を行い、実施例C4の浸漬成形生地を得た。これを茹で機にて茹で上げ、水洗冷却した後、1個毎に耐熱性のある袋に包装し、93℃、30分間の加熱殺菌を行い、茹で加工食材を調製した。これを、焼き網で両面に焼き色が付く程度に加熱して喫食評価した。良好な可食状態であった。
4.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(実施例C5)
2.と同様に表面加熱処理、浸漬処理を行った後、ザルにて液切りした後、1個毎にナイロン袋包装して冷凍庫にて緩慢凍結し、保管した。10日後、これをけんちん鍋の具材として加熱した汁鍋に投入し、喫食評価した。良好な可食状態であった。
5.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(比較例C比1)
1.で調製した短冊状成形生地Cを用いて、下記の表面加熱処理、浸漬処理を施し、可食状態になり得るか評価した。
C比1:短冊状成形生地Cを茹で釜にて5秒間茹で処理し、水洗冷却した。次いで、浸漬液として和風調味液を用いて12時間の浸漬を行った。浸漬槽より取り出そうとしたが、ふやけて柔らかく、形状が崩れてしまった。
【0021】
参考例D1~D6]
1.成形生地Dの調製
準強力小麦粉45部、中力小麦粉45部、加工タピオカでん粉10部、粉末油脂3部、並塩1部、酢酸Na系静菌剤1部、酒精(75度)2部、加水31部の配合でミキサーにて混捏し、おから状生地を得た。この生地をロール圧延成形機で麺帯状に成形したものをカットして縦150mm、横50mm、厚み3mmの短冊状成形生地Dを調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例D1及びD2)
1.で調製した短冊状成形生地Dをトンネル型コンベヤ移行式蒸気加熱装置にて30秒間加熱することにより表面加熱処理した後、上水シャワー冷却した。次いで、浸漬液として和風調味液を用いて8時間の浸漬を行い、参考例D1及びD2の浸漬成形生地を得た。これを茹で機にて茹で上げ、水洗冷却、水切りを行い、短冊状茹で処理品Dを得た。この短冊状茹で処理品Dを10枚毎にナイロン袋包装して茹で加工食材(参考例D1)を製造した。また、短冊状茹で処理品Dを乳酸水溶液でpH4.0に調整した後、10枚毎にレトルト用包材に包装して、93℃、30分間のレトルト処理を行い、レトルト処理茹で加工食材(参考例D2)を製造した。これらを焼き網で両面に焼き色が付く程度に加熱して喫食評価した。いずれの参考例も良好な可食状態であった。
3.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例D3)
1.で調製した短冊状成形生地Dをセイロにて2分間蒸煮処理することにより表面加熱処理した後、水洗冷却した。次いで、浸漬液として用いる和風調味液と共に1枚毎にナイロン袋包装して、12時間室温にて浸漬処理を行った後、冷凍庫に移し、そのまま冷凍保管した。喫食評価は、けんちん鍋の具材として冷凍状態で投入し、煮込んだ状態で行った。良好な可食状態であった。
4.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例D4)
1.で調製した短冊状成形生地Dをセイロにて150秒間蒸煮処理することにより表面加熱処理した後、水冷した。次いで、浸漬液として和風調味液を用いて12時間の浸漬を行い、これを液切りし、レトルト用包材に包装して、93℃、30分間のレトルト処理を行い、常温保存可能食品を製造した。これに、焼き網で両面を軽く炙り、海苔を巻いて喫食評価した。良好な可食状態であった。
5.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例D5)
1.で調製した短冊状成形生地Dをトンネル型コンベヤ移行式蒸気加熱装置にて150秒間加熱することにより表面加熱処理した後、風冷した。次いで、浸漬液として有機酸でpH調整した液(浸漬後の生地pHが5.0以下となる有機酸濃度とした)を用いて8時間の浸漬を行い、これを液切りし、1枚毎に耐熱性のある袋に包装して93℃、35分間の蒸気加熱処理を行い、常温保管可能製品を製造した。これを、野菜炒めの具材として用いて、炒め調理を行い喫食評価した。良好な可食状態であった。
6.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例D6)
1.で調製した短冊状成形生地Dをトンネル型ネットコンベヤ移行式蒸気吹き付け装置にて10秒間加熱することにより表面加熱処理した後、風冷した。次いで、浸漬液として醤油系調味液を用いて8時間の浸漬を行い、参考例D6の浸漬成形生地D6を得た。これをジェットオーブンにて焼成処理した後、包装して冷凍保管した。喫食評価は、けんちん鍋の具材として冷凍状態で投入し、煮込んだ状態で行った。良好な可食状態であった。
【0022】
参考例E1及びE2]
1.成形生地Eの調製
大麦粉50部、デュラム小麦粉40部、加工タピオカでん粉10部、並塩1部、酢酸Na系静菌用製剤1部、加水32部の配合でミキサーにて混捏し、おから状生地を得た。この生地を押し出し成形機により厚み2.5mmの麺帯状に成形したものをカットして幅20mm、長さ20mmの小片状成形生地Eを調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例E1)
1.で調製した小片状成形生地Eをセイロにて40秒間蒸煮処理することにより表面加熱処理した後、水洗冷却した。次いで、浸漬液として野菜果汁含有調味液を用いて12時間の浸漬を行い、参考例E1の浸漬成形生地を得た。これを茹で機にて茹で上げ、水洗冷却した後、ナイロン袋包装(150g/袋)して汁物用具材を製造した。これを、豚汁の具材として用いて喫食評価した。良好な可食状態であった。
3.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例E2)
1.で調製した小片状成形生地Eをセイロにて30秒間蒸煮処理することにより表面加熱処理した後、水洗冷却した。次いで、浸漬液としてブイヨンスープ調味液を用いて12時間の浸漬を行い、参考例E2の浸漬成形生地を得た。これをセイロにて蒸し上げ、水洗冷却した後、適量のスープと共にレトルト用包材に包装(固形分50g/袋)して、93℃、30分間のレトルト処理を行い、レトルト加工食品を製造した。これを、耐熱容器に移し入れ、電子レンジで温めて喫食評価した。良好な可食状態であった。
【0023】
参考例F1、参考例F比1]
1.成形生地F1の調製
内麦薄力粉100部、加水30部の配合でミキサーにて混捏し、そぼろ状生地を得た。この生地をロール式圧延成形機にて、帯幅220mm、厚み3mmの帯状に成形した後、鯛型の打ち抜き型(最大長50mm)を使用して鯛型状成形生地F1を調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例F1)
1.で調製した鯛型状成形生地F1をトンネル型コンベヤ移行式蒸気加熱装置にて150秒間加熱することにより表面加熱処理した後、風冷した。次いで、浸漬液として和風調味液を用いて48時間の浸漬を行い、参考例F1の浸漬成形生地を得た。これをレトルト用包材に包装して93℃、30分間のレトルト処理を行い、鍋用具材を製造した。これを、寄せ鍋の具材として用いて喫食評価した。良好な可食状態であった。
3.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例F比1)
1.で調製した鯛型状成形生地F1を茹で釜にて5秒間茹で処理した後、風冷した。次いで、浸漬液として和風調味液を用いて48時間の浸漬を行った。浸漬槽から取り出そうとしたが、ふやけて柔らかく、形状が崩れてしまった。
【0024】
参考例F2]
1.成形生地F2の調製
内麦薄力粉100部、加水30部の配合でミキサーにて混捏し、そぼろ状生地を得た。この生地を押し出し成形機で厚み3mmの麺帯状に成形した後、星型の打ち抜き型(最大長30mm)を使用して星型状成形生地F2を調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(参考例F2)
1.で調製した星型状成形生地F2をトンネル型コンベヤ移行式蒸気加熱装置にて150秒間加熱することにより表面加熱処理した後、風冷した。次いで、浸漬液として和風調味液を用いて48時間の浸漬を行い、参考例F2の浸漬成形生地を得た。これをレトルト用包材に包装して93℃、30分間のレトルト処理を行い、鍋用具材を製造した。これを、寄せ鍋の具材として用いて喫食評価した。良好な可食状態であった。
【0025】
[実施例G1~G3]
1.成形生地Gの調製
中力小麦粉100部、並塩1部、加水25部の配合でミキサーにて混捏し、おから状生地を得た。この生地をロール式圧延成形機にて、帯幅220mm、厚み10mmの帯状に成形したものを包丁裁断機で10mm幅に裁断して角棒状成形生地G(幅10mm、厚み10mm、長さ220mm)を調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(実施例G1~G3)
1.で調製した角棒状成形生地Gに以下の各表面加熱処理を施した。次いで、浸漬液として水を用い12時間の浸漬を行い、各実施例の浸漬成形生地を得た。これを茹で機にて20分間茹で上げ、水洗冷却、水切りを行い、1本毎にナイロン袋包装して茹で加工食材を製造した。これを、湯通しした後、出し汁をかけて、うどん風の食品として喫食評価した。実施例G1及びG2は成形生地Aで実施した実施例A1~A5と比較してやや劣るが、良好な可食状態であった。また、実施例G3は実施例G1及びG2より劣るが、許容範囲の可食状態であった。
G1:セイロにて2分間蒸煮処理した後、水冷却した。
G2:トンネル型ネットコンベヤ移行式蒸気吹き付け装置にて3秒間加熱処理した後、水冷却した。
G3:ガスジェットオーブン110℃設定にて90秒間加熱処理した。
【0026】
[実施例H1]
1.成形生地Hの調製
中力小麦粉100部、並塩1部、加水40部の配合でミキサーにて混捏し、そぼろ状生地を得た。この生地をロール式圧延成形機にて、帯幅220mm、厚み10mmの帯状に成形したものを連続包丁裁断機で10mm幅に裁断して角棒状成形生地H(幅10mm、厚み10mm、長さ220mm)を調製した。
2.表面加熱処理、浸漬処理、及び可食状態の評価(実施例H1)
1.で調製した角棒状成形生地Hをガスジェットオーブン(110℃設定)にて40秒間の表面加熱処理に供した後、浸漬液として水を用い12時間の浸漬を行い、実施例H1の浸漬成形生地を得た。次いで、これを茹で機にて90分間茹で上げ、水洗冷却、水切りを行った。茹で上げ後の表面は若干茹で溶けがみられた。これに出し汁をかけて、うどん風の食品として喫食評価した。実施例A1~A5と比較して劣るが、許容範囲の可食状態であった。
【0027】
上記実施例の結果を表1にまとめた。
【0028】
【表1】
【0029】
以上の実施例から、小麦粉を含有する原料粉及び水を含む生地を成形し、成形生地を調製する工程、前記成形生地の表面を加熱処理し、表面加熱成形生地を調製する工程、前記表面加熱成形生地を、水を含む浸漬液に浸漬し、浸漬成形生地を調製する工程を含み、前記表面の加熱処理が、蒸気処理、及び/又は熱風処理であり、前記表面加熱成形生地を浸漬液に浸漬する時間が、8時間以上である小麦粉含有食品の製造方法であれば、前記成形生地が、『主軸〔A〕〔B〕〔C〕からなる楕円体において、〔A〕≦〔B〕=〔C〕であり、〔A〕≧mm、且つ〔A〕+〔B〕=14mmである楕円体』の一つを内包できる大きさである部位又は形状を有する通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地であっても、容易、且つ短時間に調理することができることが示唆された。一方、表面加熱処理を茹で処理で行った比較例A比1、A比2、C比1、F比1、熱水シャワーで行なったB比1では、良好な可食状態にできなかった。これは、熱媒体が液体であるため、成形生地の表層部のみ適度に熱処理することが困難であるためと考えられた。また、浸漬時間が6時間である比較例A比3では、良好な可食状態にはできなかった。これは、浸漬成形生地の水分が中心部まで十分に上昇せず、加熱調理が困難であるためと考えられた。また、成形生地において、原料粉の質量に対する加水量が25質量%である実施例G1及びG3、並びに加水量が40質量%の実施例H1では、同様な原料粉、生地形状で、加水量が34質量%のである実施例A1~A5と比較して、最終的にやや劣った可食状態の食品が得られた。したがって、前記生地において、原料粉の質量に対する加水量は、25~38質量%であることが好ましいことが示唆された。さらに、実施例、比較例の各工程における歩留り及び水分の分析結果から、表面加熱成形生地の歩留りは、成形生地の質量に基づいて75~105質量%であることが好ましく、浸漬成形生地の水分は、60質量%以上であることが好ましいことが示唆された。
【0030】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、小麦粉を含む生地を線状、棒状、皮状、短冊状、粒状、小片状、団子状、丸餅状、角餅状、不定形状等の任意の形状に成形し、イーストや膨張剤等による生地の膨化を伴わずに、茹で調理、焼き調理等の加熱調理を行なう小麦粉含有食品を製造する方法において、通常の調理手段では、中心部まで十分にα化が困難な部位又は形状を有する成形生地であっても、茹で調理だけでなく、焼き調理や蒸し調理等の加熱調理によって短時間に容易に調理することができる製造方法を提供できるので、小麦粉を利用した食品の応用範囲の拡大に貢献することができる。