IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧 ▶ 前澤工業株式会社の特許一覧

特許7220740膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法
<>
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図1
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図2
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図3
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図4
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図5
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図6
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図7
  • 特許-膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】膜分離活性汚泥処理装置及び膜分離活性汚泥処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20230203BHJP
   C02F 3/12 20230101ALI20230203BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20230203BHJP
【FI】
C02F3/34 101B
C02F3/12 S
C02F1/44 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021082176
(22)【出願日】2021-05-14
(62)【分割の表示】P 2017089607の分割
【原出願日】2017-04-28
(65)【公開番号】P2021112744
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 克輝
(72)【発明者】
【氏名】石田 進
(72)【発明者】
【氏名】張 亮
(72)【発明者】
【氏名】円谷 輝美
(72)【発明者】
【氏名】三好 太郎
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-261711(JP,A)
【文献】特開2004-305884(JP,A)
【文献】特開2003-251379(JP,A)
【文献】特開平10-328692(JP,A)
【文献】特開2005-334877(JP,A)
【文献】特開2012-213698(JP,A)
【文献】特開2004-351382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00- 3/34、
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性処理および無酸素処理を行う単一の反応槽と、その反応槽の内部に配置された浸漬膜分離ユニットと、曝気手段とを有する膜分離活性汚泥処理装置であって、反応槽は、底部が反応槽の底面から離間して設けられた仕切板によって複数個の区画に分割され、その複数個の区画のうちの少なくとも一つの区画を、浸漬膜分離ユニットおよび曝気手段が配置された好気区画とし、その他の区画を無酸素状態で無酸素処理を行うための区画とする膜分離活性汚泥処理装置において、
前記その他の区画内にある無酸素状態の汚水を混合する手段として、仕切板の上端に切欠きを設けることを特徴とする膜分離活性汚泥処理装置。
【請求項2】
前記切欠きが前記仕切板の上端に複数形成されている、請求項1記載の膜分離活性汚泥処理装置。
【請求項3】
仕切板の上端に設けた切欠きが、深さの異なる切欠きを組み合わせたものである、請求項1又は2記載の膜分離活性汚泥処理装置。
【請求項4】
前記切欠きが、半楕円状の形状を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の膜分離活性汚泥処理装置。
【請求項5】
浸漬膜分離ユニットを配置した単一の反応槽内で好気性処理および無酸素処理を行う膜分離活性汚泥処理方法であって、浸漬膜分離ユニットの周囲を底部が反応槽の底面から離間して設けられた仕切板で区画し、浸漬膜分離ユニットの下方から曝気を行うことにより、浸漬膜分離ユニットが配置された区画内を好気状態に維持しつつ、その他の区画内で無酸素状態において無酸素処理を行う膜分離活性汚泥処理方法において、前記仕切板の上端に切欠きを設けることにより、前記その他の区画内にある無酸素状態の汚水を混合することを特徴とする膜分離活性汚泥処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離とともに窒素除去を効率的に行うことができる膜分離活性汚泥処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒素やリンといった栄養塩を含む下廃水を処理するにあたっては、汚水を反応槽に導入し活性汚泥と共に曝気・攪拌して生物処理を行う活性汚泥法が用いられている。特に近年は、この活性汚泥法によって処理された処理水から固形物を含まない清澄な処理水を得るため、反応槽内に膜分離装置を浸漬させ、処理水を膜分離して排出する膜分離活性汚泥法(Membrane Bioreactor(MBR)法)が多用されている。
【0003】
このような浸漬型の膜分離装置では、膜表面に汚泥が付着してファウリング(膜の目詰まり)が発生するのを防止するために、下部の散気管から空気を吹き込む必要があり、通常はほぼ連続的に散気を行っている。活性汚泥法においては、このような好気状態下では硝化細菌の作用により硝化が進行するが、一方で脱窒細菌による脱窒処理を行うためには槽内を無酸素状態にする必要がある。したがって、膜分離活性汚泥法においては、膜ろ過時の膜面洗浄と硝化処理のための散気の確保と、脱窒処理のための無酸素状態の確保の両立が必要であるが、これを実現する技術として、単一の反応槽内で好気処理(硝化処理)と無酸素処理(脱窒処理)を進行させる膜分離活性汚泥装置および方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
この特許文献1で提案された装置は、本願の図1に示すように、好気性処理および無酸素処理を行う単一の反応槽1と、その反応槽の内部に配置された浸漬膜分離ユニット2と、曝気手段4とを有する装置であって、反応槽1は、底部が反応槽の底面から離間して設けられた仕切板7によって複数個の区画に分割され、その複数個の区画のうちの少なくとも一つの区画を、浸漬膜分離ユニット2および曝気手段4が配置された好気区画とし、残りの区画を、好気状態から無酸素状態に、また、無酸素状態から好気状態に切り換えるための区画とし、かつ、反応槽内の液位が仕切板上端よりも高い状態と低い状態とに切り換えるための液位制御手段又は仕切板の高さ制御手段が設けられた、仕切板挿入型の膜分離活性汚泥処理装置(Baffled Membrane Bioreactor(B-MBR法))である。
【0005】
特許文献1の方法では、反応槽1内の液位が低水位(LWL:Low Water Level)になると原水ポンプ8がONとなり、液位が高水位(HWL:High Water Level)になると原水ポンプ8がOFFとなるよう設定して液位を変化させることにより、液位が仕切板より高い状態と、液位が仕切板より低い状態とが交互に作り出される(図1)。ここで、液位が仕切板より高い状態では、散気管4からのエアで槽全体に及ぶ循環流(膜ユニット収容区画から、仕切板7の上を越えてその他の区画に入り、該その他の区画内を下降し、仕切板7よりも下の領域を介して膜ユニット収容区画に戻る循環流)が形成される(図2)。このような循環流の形成により、膜分離ユニット収容区画において硝化処理により得られた硝酸態窒素を多く含む汚泥がその他の区画に移行し、仕切板7の内外で好気処理(硝化処理)が進行する(この時間帯を「硝化促進運転時間帯」という)。一方、液位が仕切板より低い状態では、膜分離ユニット収容区画とその他の区画の間で液の流通が分断され、その結果、該その他の区画では無酸素状態となり、無酸素処理(脱窒処理)が進行する(この時間帯を「脱窒促進運転時間帯」という)。このように、特許文献1の方法は、液位が仕切板より高い状態と低い状態とを交互に作り出すことにより、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯とが交互に繰り返される方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-261711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、窒素除去効率を更に向上させることが望まれていた。また、特許文献1の方法では、液位が仕切板より高い状態と低い状態とを交互に作り出すことにより、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯を切り替えていたため、各運転時間帯の切り替えに長時間を要していた。
【0008】
更に、下水処理においては、流入下水量の日間変動(流入排水量や汚濁物質の濃度変動)が大きく、一般に、大規模処理装置では日間平均値の0.5~1.5倍程度の変動があり、小規模処理装置では0.2~3倍程度の変動がある。このような日間の負荷変動に対し、特許文献1の方法では、効率的な硝化及び脱窒反応を行うことは困難であった。また、流入下水量の日間変動を小さくするためには、大容量の流量調整槽を設ける必要があった。
このような状況の下、特許文献1においては、反応槽内の循環流の流量を精度良く調節することについては何ら着目されておらず、また、反応槽内に設置する仕切板の上端形状についても何ら記載されていなかった。
【0009】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、窒素除去効率を更に向上させ、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯とを短時間で簡便に切り替えることができ、更には、流入下水量の日間の負荷変動に対しても高い適用性を示す仕切板挿入型の膜分離活性汚泥装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、従来の仕切板挿入型の膜分離活性汚泥処理法において窒素除去効率が十分でない原因について鋭意研究した。その結果、液位が仕切板より低い状態(脱窒促進運転時間帯)では、仕切板内外で液の流通が分断され、膜分離ユニットが配置されていない区画では循環流が発生しないために、脱窒反応に関与する、原水、硝化液(硝化処理後の硝酸性窒素を含む液)及び脱窒細菌の混合が十分に行われず、その結果として効率的な脱窒反応が進行しにくくなることを見出した。
【0011】
そして、反応槽内に循環水量調節手段を設けた膜分離活性汚泥処理装置を用いることにより、脱窒促進運転時間帯において、上記の十分な混合を達成するための少量の循環流量を確保でき、且つ、脱窒の障害となる溶存酸素(DO)を低いレベルに維持することができ、その結果、窒素除去効率が向上することに想到した。また、このような膜分離活性汚泥処理装置を用いることにより、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯とを短時間で簡便に切り替えることができ、更には、流入下水量の日間変動にも適用可能となり、効率的な脱窒反応の進行を達成できることに想到し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の(1)~(5)に関する。
(1)好気性処理および無酸素処理を行う単一の反応槽と、その反応槽の内部に配置された浸漬膜分離ユニットと、曝気手段とを有する膜分離活性汚泥処理装置であって、反応槽は、底部が反応槽の底面から離間して設けられた仕切板によって複数個の区画に分割され、その複数個の区画のうちの少なくとも一つの区画を、浸漬膜分離ユニットおよび曝気手段が配置された好気区画とし、その他の区画を無酸素状態で無酸素処理を行うための区画とする膜分離活性汚泥処理装置において、前記その他の区画内にある無酸素状態の汚水を混合する手段として、仕切板の上端に切欠きを設けることを特徴とする膜分離活性汚泥処理装置。
【0013】
(2)前記切欠きが前記仕切板の上端に複数形成されている、(1)に記載の膜分離活性汚泥処理装置。
(3)仕切板の上端に設けた切欠きが、深さの異なる切欠きを組み合わせたものである、(1)又は(2)に記載の膜分離活性汚泥処理装置。
(4)前記切欠きが、半楕円状の形状を有する、(1)~(3)のいずれかに記載の膜分離活性汚泥処理装置。
【0015】
(5)浸漬膜分離ユニットを配置した単一の反応槽内で好気性処理および無酸素処理を行う膜分離活性汚泥処理方法であって、浸漬膜分離ユニットの周囲を底部が反応槽の底面から離間して設けられた仕切板で区画し、浸漬膜分離ユニットの下方から曝気を行うことにより、浸漬膜分離ユニットが配置された区画内を好気状態に維持しつつ、その他の区画内で無酸素状態において無酸素処理を行う膜分離活性汚泥処理方法において、前記仕切板の上端に切欠きを設けることにより、前記その他の区画内にある無酸素状態の汚水を混合することを特徴とする膜分離活性汚泥処理方法。
【0016】
なお、本明細書において「無酸素状態」とは、完全な無酸素状態のみを意味するものではなく、脱窒菌の作用により硝酸態窒素を窒素分子に還元できる程度に酸素濃度が低い状態をも包含する意味で用いる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜分離ユニット収容区画以外の区画において、脱窒促進運転時間帯でも、脱窒反応に必要な原水、硝化液及び脱窒細菌の十分な混合をもたらす少量の循環流量を精度良く制御して確保することができるため、有機性汚水からの窒素除去効率を向上させることができる。また、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯とを短時間で簡便に切り替えることができ、更には、流入下水量の日間変動に適用可能となるため、効率的な膜分離活性汚泥処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来法(特許文献1)の膜分離活性汚泥処理装置を模式的に示す図である。
図2】仕切板挿入型の膜分離活性汚泥処理装置における循環水の流れを模式的に示す図である。
図3】従来法(特許文献1)の膜分離活性汚泥処理装置を模式的に示す側面図及び上面図である。
図4】本発明の膜分離活性汚泥処理装置を模式的に示す側面図及び上面図である。
図5】本発明の循環水量調節手段の別の実施態様を模式的に示す図である。
図6】本発明の循環水量調節手段の更に別の実施態様を模式的に示す図である。
図7】本発明の循環水量調節手段の更に別の実施態様を模式的に示す図である。
図8】本発明の循環水量調節手段の更に別の実施態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明に係る膜分離活性汚泥処理装置及び方法の実施態様を説明する。なお、図1図8において、同一機能を有する部材には、同一符号を付すものとする。
本発明の特徴は、後述する通り、仕切板挿入型の膜分離活性汚泥処理装置において循環水量調節手段を設けた点にあるが、まず本発明に係る膜分離活性汚泥処理装置および方法の一実施態様の全体構成について、図4に基づき説明する。
【0020】
図4の膜分離活性汚泥装置においては、単槽式の反応槽1に、浸漬型の膜分離ユニット2が設けられている。この膜分離ユニット2には反応槽1の外で吸引ポンプ3が接続されるとともに、膜分離ユニット2の下方に、膜洗浄および好気生物処理用の曝気手段4(散気装置)が設けられている。曝気手段4は、ブロワ5に接続され、ブロワ5からエア(空気)が供給される。
【0021】
膜分離ユニット2は、膜そのものとして汚れにくい素材を用いたものや、膜表面に汚れがつきにくくなるように、膜間に適当な隙間を有するものを用いることが好ましい。膜分離ユニット2には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などを用いて形成されたモジュールを用いることができる。経済性の観点からは、ろ過速度が高くコンパクト化が可能で、メンテナンスが容易である精密ろ過膜、限外ろ過膜を用いたモジュールが好ましい。膜の形状は平膜、中空糸膜等のものが用いられる。ここで用いられる浸漬型膜分離ユニット自体はこの分野において広く用いられており、市販もされている。
【0022】
反応槽1には、微生物を含有する汚泥が収容されており、この微生物が、有機物の分解菌、さらにはそれら微生物の分解菌として作用し、生物処理を行う。したがって、反応槽1は、汚泥が部分的に偏在することがないように、また、酸素が均一に供給されるように、内表面に角がないものや凹凸がないものが好ましい。この結果、反応槽1内では処理液の温度やpHが均一になり、安定に分解処理を進めることができる。また、汚泥に含有される微生物は、細菌類、酵母およびカビを含む真菌類など、溶解性有機物などの分解に寄与するもので、土壌、堆肥、汚泥など、自然界から集積培養および馴養によって取得される。またこの馴養液から分解に関与する主要な微生物群を単離して用いることも可能である。なお、これらの微生物を含有する汚泥自体はこの分野において周知である。
【0023】
反応槽1内の活性汚泥処理条件は、膜分離活性汚泥法で通常使用する周知の条件であればよいが、MLSS(Mixed Liquor Suspended Solid)濃度は、通常3000~20000mg/L、好ましくは5000~15000mg/Lであり、HRT(水理学的滞留時間)は、通常2~24時間、好ましくは4~8時間である。
【0024】
図4の反応槽1には、仕切板7が更に設けられている。仕切板7は、底部が反応槽の底面から離間して設けられており、膜分離ユニット2の横方向の周囲を囲包(上下は開放)しているが、膜分離ユニット2の周囲を実質的に取り囲むものであれば良い。仕切板7は槽壁と組合せて膜分離ユニット2の周囲を取り囲むものでもよく、反応槽1の槽壁と共働して矩形の領域を規定する2枚の平板状のものが好ましい。あるいは、膜分離ユニット2の周囲4面のうち、一面を仕切板7が、他の3面を槽壁で囲包するものや、仕切板7が膜分離ユニット2の全周囲を囲包するものでもよい。膜分離ユニット2の収容区画とその他の区画の容量比は、通常1:0.5~5であり、好ましくは1:1~3の範囲内となるよう設定する。
【0025】
なお、図4の具体例では、浸漬膜分離ユニットの収容区画(以下、「膜分離ユニット収容区画」とも言う)が1つだけであるが、大型の下水処理等の場合には、単位時間当たりの処理量を大きくするために、所望により、膜分離ユニット収容区画(好気区画)を複数設け、これらの各区画にそれぞれ膜分離ユニットを浸漬してもよい。この場合、膜分離ユニット収容区画以外の区画(以下、「その他の区画」とも言う)を複数設けることも可能であるが、1つの方が構造が単純で反応液の均一性も確保しやすいので好ましい。
【0026】
下水処理場等の汚水処理施設に流入した汚水は、前処理設備において砂やごみ等の分離・除去を行った後、原水として原水槽から原水ポンプにより反応槽1へと導入される。本発明において、原水は、膜分離ユニット収容区画以外の区画に供給するのが好ましい。これにより脱窒反応に必要な水素供与体が供給され、脱窒促進時間帯において脱窒反応が効率的に進行する。
【0027】
本発明の膜分離活性汚泥処理装置は、反応槽1内の液位を調節するための液位制御手段を有していてもよい。液位制御手段としては、例えば、反応槽内の液位、すなわち、液表面の位置を調べるレベルセンサーを設け、このレベルセンサーにより検出した液位に応じて、原水ポンプにより反応槽に供給する原水の流量を制御する手段が挙げられる。
【0028】
このような図4に示す構成により、反応槽1内で汚水が生物学的に処理され、散気管4からのエアによって、膜分離ユニット2の膜面に汚泥物質等が付着するのを防止しながら、膜分離ユニット2によって反応槽1内の処理液をろ過し、そのろ過水を吸引ポンプ3により吸引して槽外に取り出すことができる。図4の具体例においては、吸引ポンプ3でろ過圧を得ているが、反応槽内の水位と濾過水取り出し口との水位との差、すなわち自然水頭のみによって濾過圧を得てもよく、さらに原液側から加圧することによって濾過圧を得てもよい。
【0029】
本発明の特徴は、このような膜分離活性汚泥処理装置において、循環水量調節手段を設けた点にある。この循環水量調節手段により、散気管4からのエアにより槽内に形成される循環流の水量が調節される。ここで「循環流」とは、図2に示すように、仕切板内外が越流状態である場合に、膜分離ユニット収容区画から、仕切板7の上を越えてその他の区画に入り、その他の区画内を下降し、仕切板7よりも下の領域を介して膜ユニット収容区画に戻る液の流れである。該循環水量調節手段は、仕切板の上部又は上端に設けるのが好ましく、膜分離ユニット収容区画からその他の区画へ移動する循環流の水量を調節する手段であることが好ましい。
【0030】
以下に、本発明における循環水量調節手段を図4~8を参照しつつ説明するが、本発明の循環水量調節手段を理解するために、従来法(特許文献1の方法)の膜分離活性汚泥処理装置を図3に対比して示した。
本発明における循環水量調節手段の第1の実施態様は、循環水量調節板と、該循環水量調節板をスイングさせる(振り動かす)ための調節板移動手段を備えたスイング式循環水量調節装置である。具体的には、図4に示すような、循環水量調節板(以下、「スイング板」ともいう)20aと、該スイング板の長手方向の一辺を固定する固定部材21と、該スイング板20aをスイングさせるための調節板移動手段22を備えたスイング式循環水量調節装置である。また、図4の上図は、スイング板20a及び20bが仕切板上部を完全に覆い、循環流を遮断した場合における、本発明の膜分離活性汚泥処理装置の上面図である(図4の側面図において、右側の循環水量調節手段は省略し、上面図において、調節板移動手段22は省略した)。
【0031】
図4に示すスイング板20aは、その長手方向の二つの辺のうちの一辺が棒状の固定部材21に固定されている。また、スイング板20aは、調節板移動手段22と着脱可能なように連結しており、調節板移動手段22によりスイング板20aを上下に移動させスイングさせることにより、仕切板の上部において開度を調節することができる。
【0032】
ここで、スイング板の開度は、図4の側面図において、スイング板が仕切板上部を完全に覆い、循環流をほぼ完全に遮断した場合を開度0%とし、調節板移動手段22によりスイング板を上方向に移動させ、スイング板の下端部が反応槽内の液位よりも上位となった場合(全開の場合)を開度100%とし、固定部材を中心としたスイング板の移動角度に応じて0~100%の間で設定される。スイング板の開度は、例えば、反応槽内に溶存酸素計(DO計)を設置し、検出された溶存酸素濃度(DO値)に応じて調節することができる。
【0033】
スイング板は、膜分離ユニット収容区画から仕切板7の上を越えてその他の区画に入る循環流の水量を調節できるものであれば、矩形状、台形状、平板状等、どのような形状のものでもよい。図4に示すスイング板20aは、短手方向に湾曲した矩形状の調節板であり、調節板移動手段22方向(上方向)に湾曲した状態(凸状態)となるよう設置すると、仕切板上部において循環流の流れに沿った調節が可能となるため好ましい。
【0034】
スイング板の長手方向長さは、仕切板の上部全体を覆うよう仕切板上端とほぼ同じ長さものを使用できるが、仕切板上端の一部、例えば、仕切板上端の長さの1/5~1/2を覆う長さであってもよい。また、仕切板が反応槽内に複数個設置されている場合であっても、スイング板は全ての仕切板の上部を覆うよう設置する必要はなく、全ての仕切板の上端長さの一部、例えば、仕切板全体の上端長さの1/5~1/2に設置してもよい。スイング板の短手方向長さは、スイング板を調節板移動手段22により仕切板方向(下方向)に移動させた場合に、スイング板が仕切板上部を完全に覆い、循環流をほぼ完全に遮断可能となるような長さとするのが好ましい。また、スイング板の厚みは、循環流の制御に耐える強度を有する厚みであればよい。
【0035】
固定部材21としては、スイング板をスイング可能なように固定するものであれば特に限定されない。固定部材21としては、例えば、棒状の固定部材の側面にスイング板20aの長手方向の一辺を固定すると共に、棒状部材の両端を軸受を用いて回転可能なように反応槽の槽壁に連結させる構成とすることができる。あるいは、中空管と、その中空管の中を貫通する棒状部材を組み合わせた部材を使用し、スイング板20aの長手方向の一辺が該中空管の側面に固定されると共に、該中空管の中を貫通する棒状部材の両端が反応槽の槽壁に固定される構成とすることができる。このような構成とすることにより、スイング板20aの長手方向の一辺が固定部材に固定されたまま、調節板移動手段22によりスイング板20aを上下にスイングさせ、仕切板の上部を開閉することができる。
【0036】
固定部材21の両端を反応槽の槽壁に固定する位置は、循環水量の調節を効率的に行い、処理液による固定部材21の腐食を低減するという観点から、反応槽内の最高液位よりも上位とするのが好ましい。また、固定部材21の両端は、循環水量の調節を効率的に行うという観点から、仕切板7の真上よりも膜分離ユニット収容区画以外の区画方向にずらした位置に固定するのが好ましい。
【0037】
また、調節板移動手段22としては、スイング板を上下に移動可能なものであれば特に限定されないが、電動シリンダーや空気圧式又は油圧式シリンダー等の公知の駆動装置を使用することができる。
【0038】
図4に示す循環水量調節手段以外にも、様々な機構及び形状のものを使用することができる。例えば、図5に示すように、短手方向に曲折した矩形状のスイング板20cを使用することもできる。このようなスイング板を、調節板移動手段22方向(上方向)に曲折した状態(凸状態)となるように設置すると、仕切板上部において循環流の流れに沿った調節が可能となるため好ましい。なお、図5に示す循環水量調節手段は、スイング板が短手方向に曲折した形状であること以外は、図4に示す循環水量調節手段と同様の構成とし、同様の機能を達成することができる。
【0039】
このようなスイング式循環水量調節装置を用いることにより、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯を短時間に簡便に切り替えることが可能となる。また、膜分離ユニット収容区画以外の区画において、脱窒促進運転時帯でも、脱窒反応に必要な十分な混合をもたらす少量の循環水量を確保した上で、脱窒の障害となる溶存酸素(DO)を低いレベルに維持することが可能となり、有機性汚水からの窒素除去効率を向上させることができる。
【0040】
なお、硝化を促進させる時間帯(硝化促進運転時間帯)では、スイング板の開度を大きくして大きな循環水量を確保することにより、反応槽全体を好気状態に維持することができ、その結果、硝化反応を促進することができる。
【0041】
図4及び図5に示すスイング式の構成以外にも、スイング板(循環水量調節板)をヒンジ部材等を介して仕切板上端部に固定し、該スイング板を調節板移動手段に着脱可能なように連結させ、該調節板移動手段によりスイング板を転倒させることにより、仕切板の上部を開閉させる転倒式ダム構造の循環水量調節手段も使用できる。
【0042】
また、スイング板の代わりに、風船や中空シートのように、内部に空気を導入することにより膨張又は拡張させることのできる部材を仕切板の上端や上部に設置し、循環流を堰き止めることにより循環水量を調節する堰き止め方式の循環水量調節手段も使用できる。
【0043】
本発明における循環水量調節手段の第2の実施態様は、図6に示すような開口部31を有するスライド板30を備えた循環水量調節装置である。スライド板30は、同じく開口部32を有する仕切板7の上端付近に設置され、スライド板30を水平方向にスライドさせた場合に、スライド板30の開口部31と仕切板の開口部32の重なり具合を調節して、仕切板の開度(開口率)を調節することができる。
【0044】
ここで、スライド板の開度(開口率)は、図6において、仕切板の開口部とスライド板の開口部が重ならず、循環流をほぼ完全に遮断した場合を開度0%とし、開口部同士が完全に重なり全開となった場合を開度100%とし、全開した場合の開口総面積に対する開口部の総面積の割合として規定される。スライド板の開度(開口率)は、例えば、反応槽内に溶存酸素計(DO計)を設置し、検出された溶存酸素濃度(DO値)に応じて調節することができる。
【0045】
スライド板と仕切板の開口部の形状は矩形状、円状、楕円状等から適宜選択できる。また、スライド板全体の面積に占める全開口部の合計面積は、1/3~2/3程度とするのがよい。スライド板全体の形状は特に限定されないが、通常は、水平方向にスライドしやすい矩形状の板が使用できる。スライド板30は、複数のスライド板固定部材33を用いることにより、水平方向にスライド可能なように仕切板上端付近に固定することができる。スライド板の水平方向への移動はスライド板移動手段34を用いて行うことができ、スライド板移動手段34としては、例えば、電動シリンダーや空気圧式又は油圧式シリンダー等の公知の駆動装置を使用することができる。
【0046】
このようなスライド板を備えた循環水量調節装置を用いる場合には、反応槽内の液位運転水位を、図6に示すように、スライド板と仕切板の開口部上端よりも低く、スライド板と仕切板の開口部の下から約3分の1よりも高い範囲の運転水位とするのがよい。
【0047】
このようなスライド板を備えた循環水量調節装置を用いることにより、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯を短時間に簡便に切り替えることが可能となる。また、膜分離ユニット収容区画以外の区画において、脱窒促進運転時帯でも、脱窒反応に必要な十分な混合をもたらす少量の循環水量を確保した上で、脱窒の障害となる溶存酸素(DO)を低いレベルに維持することが可能となり、有機性汚水からの窒素除去効率を向上させることができる。
【0048】
なお、硝化を促進させる時間帯(硝化促進運転時間帯)では、スライド板の開口率が大きくなるよう調節することにより、反応槽全体を好気状態に維持して硝化反応を促進させることができる。
【0049】
本発明における循環水量調節手段の第3の実施態様は、図7に示すような、仕切板の上端に切欠き40を設けた仕切板である。切欠きの形状は、矩形、逆台形、逆三角形、半円及び半楕円等から適宜選択できる。また、1つの切欠きの幅と深さは、それぞれ、通常3~30cmであり、好ましくは5~25cmである。
【0050】
図7のような切欠きを有する仕切板を循環水量調節手段として用いる場合には、反応槽内の液位をA~Cの範囲(図7)で調節することにより、循環水量を精度良く微調整することが可能となる。具体的には、液位をA~Bの間の位置に調節した場合には、循環水量が大きくなり、反応槽全体を好気状態に維持して硝化反応を促進することができる(硝化促進運転時間帯)。液位をB~Cの間の位置に調節した場合には、循環水量を微調整することが可能となり、脱窒促進運転時間帯において、脱窒反応に必要な十分な混合をもたらす少量の循環水量を確保した上で、脱窒の障害となる溶存酸素(DO)を低いレベルに維持することが可能となり、効率的な脱窒反応を進行させることができる。また、液位をCよりも低い位置となるよう調節した場合には、仕切板内外が分断され、循環量のない状態とすることもできる。
【0051】
切欠きの形状は、図7に示すように複数の切欠き40がほぼ同じの幅及び深さを有する場合の他に、図8に示すように、異なる深さを有する半楕円状の複数の切欠き41a~41cを、一定の繰り返し順序で組み合わせた形状であってもよい。循環水量を効率的に微調節することが可能であれば、切欠きの形状は半楕円状に限られず、矩形状等どのような形状であってもよい。図8に示すような、異なる深さの切欠きを有する仕切板の場合には、1つの切欠きの幅は、通常3~30cmであり、好ましくは5~25cmである。また、切欠きの深さは、一番深い場合で、通常20~60cmであり、好ましくは30~50cmであり、これよりも浅い切欠きの深さは、脱窒促進運転時間帯に供給すべき循環水量に応じて、適宜設定することができる。
【0052】
図8のような、異なる深さの複数の切欠きを有する仕切板を循環水量調節手段として用いる場合には、反応槽内の液位をA~Eの範囲(図8)で調節することにより、循環水量を精度良く微調整することが可能となる。具体的には、液位をA~Bの間の位置に調節した場合には、循環水量が最大となり、反応槽全体を好気状態に維持して硝化反応を促進させることができる(硝化促進運転時間帯)。液位をB~Cの間の位置に調節した場合には循環水量が大きくなり、液位をC~Dの間の位置に調節した場合には循環水量が中程度となり、液位をD~Eの間の位置に調節した場合には循環水量が小さくなり、液位をEよりも低い位置となるよう調節した場合には、仕切板内外が分断され、循環量のない状態とすることもできる。
【0053】
従って、脱窒促進運転時間帯においては、液位を図8のB~Eの間の位置に調節することにより、必要とする循環水量となるよう循環水量を微調整することができ、その結果、脱窒促進運転時間帯において、脱窒反応に必要な十分な混合をもたらす少量の循環水量を確保した上で、脱窒の障害となる溶存酸素(DO)を低いレベルに維持することが可能となり、効率的な脱窒反応を進行させることができる。
【0054】
特許文献1の方法では、反応槽内に設置する仕切板の上端形状については特に記載されておらず、平坦な水平面から成る上端であると想定される。このような仕切板では、脱窒促進運転時間帯に必要とされる少量の循環流量を確保するためには、液位を仕切板上端から5mm~20mm程度の位置で制御する必要があり、流入下水量の変動、夾雑物の影響、生物膜の付着等により、循環流量を精度良く制御することは困難であった。これに対し、図7及び図8のような切欠きを有する仕切板を用いることにより、必要となる循環流量に応じた水位差を形成させることができ、循環水量を精度良く制御することができる。そのため、原水の流量調整槽が不要になり、流量調整槽を設置する場合でも容量を小さくすることができる。
【0055】
本発明の膜分離活性汚泥処理装置においては、前述の循環水量調節手段として、第1の実施態様であるスイング式の循環水量調節装置と、第3の実施態様である上端に切欠きを設けた仕切板を組み合わせて使用すると、更に精度良く効率的に循環水量を微調整することができる。この場合には、第1の実施態様で使用するスイング板(循環水量調節板)としては、仕切板方向(下方向)に最も移動させた場合に、仕切板上部を完全に覆い、循環流をほぼ完全に遮断すると共に、第3の実施形態である仕切板上端の切欠き部分を完全に塞ぐような大きさ又は形状とするのが望ましい。
【0056】
本発明の装置及び方法は、循環水量調節手段による循環水量の調節可能範囲が広いため、流入下水量の日間変動に応じて、原水の供給流量と膜ろ過流量の差を調節して液位を容易に制御することができる。具体的には、反応槽内の液位が高くなったら、膜ろ過流量を原水供給流量よりも多くし、液位が低くなったら原水供給流量を膜ろ過流量よりも多くするよう制御すればよい。反応槽の液位がそれらの中間の液位である場合には、原水供給流量と膜ろ過流量とがほぼ同じとなる様に運転する。例えば、流入下水量が多い時間帯では原水流量を増やす必要があり、膜ろ過流量が一定ならば反応槽内の液位は上昇するが、液位の上昇に合わせて膜ろ過流量を増加させれば、循環水量調節可能範囲で運転することが容易になる。
【0057】
本発明においては、特許文献1の方法のように、仕切板内外で液の越流状態と分断状態を作り出すために液位を大きく変動させる必要がないため、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯のそれぞれにおいて最適な循環水量となるように、原水を一定流量で連続的に反応槽に供給することが可能となる。このため、特別な原水供給装置や原水流量制御装置を設置する必要がないという利点がある。なお、本発明において「一定流量」とは、ある所定の時間において流量が一定であればよく、最適な流量とするために変更されることがあってもよい。
【0058】
本発明は、循環水量調節手段を設けた膜分離活性汚泥処理装置及び方法であれば、上記実施態様に限定されるものではなく、上記以外の処理条件および原水の前処理は、従来から周知の方法と同様の条件で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、窒素除去効率を更に向上させ、硝化促進運転時間帯と脱窒促進運転時間帯とを短時間で簡便に切り替えることができ、更には、流入下水量の日間の負荷変動に対しても高い適用性を示す仕切板挿入型の膜分離活性汚泥装置及び方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 反応槽
2 膜分離ユニット
3 吸引ポンプ
4 曝気手段
5 ブロワ
6 レベルセンサー
7 仕切板
8 原水ポンプ
9 原水槽
20a、20b、20c 循環水量調節板(スイング板)
21 固定部材
22 調節板移動手段
30 スライド板
31 スライド板開口部
32 仕切板開口部
33 スライド板固定部材
34 スライド板移動手段
40 切欠き
41a、41b、41c 切欠き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8