IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧 ▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧

<>
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図1
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図2
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図3
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図4
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図5A
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図5B
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図6
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図7
  • 特許-酸化還元活性を有する核酸分子 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】酸化還元活性を有する核酸分子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20230206BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230206BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230206BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
G01N33/53 M
C12Q1/68
C12M1/34 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018169691
(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2020039300
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智彦
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一典
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/141291(WO,A1)
【文献】特開2017-200472(JP,A)
【文献】Biomacromolecules,2018年04月09日,vol.19, p.2082-2088
【文献】Talanta,2009年,vol.80, p.459-465
【文献】Biochemistry,2009年,vol.48, p.7817-7823
【文献】Analytical Chemistry,2014年,vol.86, p.9489-9495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルオキシダーゼ活性を有するDNAであって,配列番号3~30のいずれか1つに記載の塩基配列からなるDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAのコンジュゲートであって,請求項1に記載のDNAの3’末端若しくは5’末端又はその近辺のヌクレオチドと他の物質が結合しているコンジュゲート。
【請求項3】
前記他の物質が,ヘミンである,請求項に記載のコンジュゲート。
【請求項4】
前記他の物質が,核酸,タンパク質若しくはペプチド,リガンド化合物,又は固相である,請求項に記載のコンジュゲート。
【請求項5】
前記核酸,前記タンパク質若しくはペプチド,又は前記リガンド化合物が,標的物質又は固相に結合可能である,請求項に記載のコンジュゲート。
【請求項6】
前記核酸,前記タンパク質若しくはペプチド,又は前記リガンド化合物が,標的物質に結合することにより請求項1に記載のDNAがDNA/ヘミン複合体を形成可能となるように,前記核酸,前記タンパク質若しくはペプチド,又は前記リガンド化合物と請求項1に記載のDNAとが結合している請求項に記載のコンジュゲート。
【請求項7】
請求項1に記載のDNA又は請求項~請求項のいずれか1項に記載のコンジュゲート,及びヘミン含むキット。
【請求項8】
標的物質検出用である,請求項に記載のキット。
【請求項9】
請求項3に記載のコンジュゲートであって,当該コンジュゲートを構成するヘミンとDNAがDNA/ヘミン複合体を形成している,DNA/ヘミン複合体コンジュゲート。
【請求項10】
請求項1に記載のDNA又は請求項~請求項のいずれか1項に記載のコンジュゲートと,ヘミンとを含有する,DNA/ヘミン複合体。
【請求項11】
請求項1に記載のDNA又は請求項4又は請求項に記載のコンジュゲートに,ヘミンを接触させることを含む,DNA/ヘミン複合体の製造方法。
【請求項12】
ペルオキシド構造を有する化合物を,請求項に記載のDNA/ヘミン複合体コンジュゲート又は請求項10に記載のDNA/ヘミン複合体と反応させることを含む,ヒドロキシル化合物の生成方法。
【請求項13】
サンプル中の標的物質のレベルの測定方法又は存在の検出方法であって:
サンプルを請求項に記載のコンジュゲートに接触させること;
更にヘミンを該サンプルと接触させた該コンジュゲートに接触させること;及び
該サンプル中に含まれる標的物質により,該コンジュゲートと該ヘミンから形成されたDNA/ヘミン複合体を測定又は検出することを含み,
ここで,DNA/ヘミン複合体の測定値が当該標的物質のレベルを表し,又はDNA/ヘミン複合体が検出された場合には当該標的物質が存在することを表す方法。
【請求項14】
DNA/ヘミン複合体の測定又は検出が,DNA/ヘミン複合体におけるヘミンの酸化作用を利用して行われる,請求項13に記載の方法。
【請求項15】
DNA/ヘミン複合体の測定又は検出が,DNA/ヘミン複合体が結合している導電性電極の電位,又はDNA/ヘミン複合体のペルオキシダーゼ活性により行われる,請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電極と,前記電極上に配置された検知層とを有し,
前記検知層が請求項のいずれか1項に記載のコンジュゲートを含む,検知電極。
【請求項17】
請求項16に記載の検知電極を有するバイオセンサと,
前記バイオセンサへの電圧印加を制御する,制御部と,
前記バイオセンサへの電圧印加により得られる,電子の電極への移動に基づく電流を検出する,検出部と,
前記電流値から測定対象物の含有量を算出する,演算部と,
前記算出された測定対象物の含有量を出力する出力部とから構成される測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ペルオキシダーゼ活性に優れるDNA-ヘム複合体を与える核酸分子及び当該核酸分子とヘムとの複合体,当該核酸分子を利用したヘムの定量方法,及び当該複合体をペルオキシダーゼとして利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄-ポリフィン錯体であるヘムは,四重鎖DNA構造(G-カルテット構造)を有するDNA/RNAと結合し複合体を形成することが知られている(非特許文献1)。ヘミンと複合体を形成することで,ヘミン単体と比較してペルオキシダーゼ活性を向上させるいくつかのG-カルテット構造を持つDNAアプタマーとして,EAD2(ctgggagggagggaggga:配列番号1)やG3A3 (gggaaagggaaagggaaaggg:配列番号2)が報告されている(非特許文献2及び非特許文献3)。
【0003】
分子を認識する一本鎖DNAはアプタマーとよばれ,配列を改変することにより分子との結合能を向上させることが行われている。一本鎖DNAはフレキシビリティが高く,その立体構造を予測することが不可能である。そのため配列の改変にはランダムに塩基配列を変える方法が採用されている。ランダムに配列を選択する場合,塩基の種類が4種類であることから,n個の長さを持つアプタマーのバリエーションは4のn乗種類が考えられる。アプタマーが数十塩基からなる場合にはすべてを合成して評価することは不可能である。そのため,リガンドとなる核酸を選別した上で,PCRを用いて指数関数的に増幅し,この過程をシステマティックに複数回繰り返すことによって,至適結合配列を持つ核酸分子を同定するプロセスであるSELEX法(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)が用いられている。
【0004】
ペルオキシダーゼ活性を向上させるために,既報のG-カルテット構造を持つDNAの配列を改変する場合,ヘミンと複合体を形成することでペルオキシダーゼ活性を示すG-カルテット構造を持つDNAアプタマーの開発においては,結合能ではなくペルオキシダーゼ活性でのスクリーニングが必要であることから,SELEX法は原理的に用いることはできない。そのため,DNAマイクロアレイ上に,ランダムにデザインした1000種類以上のDNAを並べて,活性を評価し,高いペルオキシダーゼ活性を有するDNAアプタマーをスクリーニングしたことが報告されている(非特許文献4)。この報告によれば,7番目の核酸がグアニンであることが望ましく,first loopを構成する核酸は2個よりは1個が良いことが示されている。しかし,得られた中で最もペルオキシダーゼ活性が高いc-Myc改変体(TGAGGGGTGGGAGGGGCGGGAA:配列番号82)でもオリジナルのc-Mycの2倍以下の活性しかなく,かつ,EAD2を超える活性を有する改変体は得られていなかった(非特許文献4)。
【0005】
その他のペルオキシダーゼ活性の増大化を目指したアプタマーとして,特許文献1が公開されている。
【0006】
このことから,ランダムに変異を入れる手法でペルオキシダーゼ活性の高いDNA配列を得るには限界があることが予想される一方で,他にペルオキシダーゼ活性の高いDNA配列を得る方法も提案されていなかった。また,DNA-ヘム複合体が酵素のペルオキシダーゼに匹敵するほどの十分に高いペルオキシダーゼ活性を与えることが実現できるかどうかも不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-200472号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Travascio,P.,Li,Yら,Chem.Biol.;5:505-17(1998).
【文献】Cheng,X.ら,Biochemistry;48:7817-7823(2009).
【文献】Wang,Z.ら,ACS Appl.Mater.Interfaces;8:827-833(2016).
【文献】Kaneko,N.ら,Anal.Chem.;85:5430-5435).
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは,これまで報告されていたヘミン担体もしくは核酸分子-ヘム複合体より高いペルオキシダーゼ活性を有する核酸分子-ヘム複合体を得ることを目的とする。
【0010】
本発明者らは,これまでのヘム結合核酸配列の設計方法に限界があることから,独自にコンピュータ内での進化模倣アルゴリズムを用いてG-カルテット構造を持つDNAアプタマーの配列の設計と活性測定を複数回繰り返すことを試みた結果,これまで報告されていたものよりも高いペルオキシダーゼ活性をもたらすG-カルテット構造を持つDNAアプタマーの設計に成功した。具体的には,本発明者らは,(1)アプタマー配列を設計し,(2)設計されたアプタマーを合成し,(3)合成したアプタマーとヘミンとの複合体を形成させてペルオキシダーゼ活性を測定し,(4)活性の順位づけを行い,(5)次世代に残す配列を選択し,(6)選択された配列に基づき変異を導入(配列の交差,点変異導入)することで次世代のアプタマーを設計し,以後(2)~(5)を複数回繰り返すことにより,最初に設計された親配列と比較して非常に高いペルオキシダーゼ活性を与える配列を見出した。
【0011】
一態様において,本発明はヘミンと結合することにより,高い酸化能を示すDNA(以下,「G4DNAzyme」という)に関する。本発明のG4DNAzymeは,5’-nGGGn1n2n3n4n5GGGn6n7n8n9n10GGGn11n12n13GGGn-3’(配列番号83)で表される配列からなる(ただし,n1n2n3n4n,n6n7n8n9n10,及びn11n12n13の全てがAAAの場合を除く)。ここで,n及びnは,それぞれ,p個及びq個のヌクレオチドが結合した構造(ポリヌクレオチド)を表し,nX(Xは自然数)は,以下において定義される1個のヌクレオチドを表す。
【0012】
前記配列において,n及びnは,それぞれ,p個及びq個のヌクレオチドが結合したポリヌクレオチドを表す。ここで,各ヌクレオチドはA,T,G,又はCから選択され,p及び/又はqが2以上の場合,n及び/又はnポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは同一である必要はなく,各ヌクレオチドは同一又は異なっていてもよい。また,nとnの配列も同一又は異なっていてもよい。p及びqは,0以上の整数を表し,好ましくは,0以上2以下である。
【0013】
n1n2n3n4n5(以下,「n1~n5」という)は,それぞれ独立して,A,T,又はCであるか又は存在しないが,n1~n5中に少なくとも3個のヌクレオチドは存在する。すなわち,n1~n5のうち,0個以上2個以下のヌクレオチドが存在せず,好ましくは,2個のヌクレオチドが存在しない。n1~n5の例としては,AAA,TAA,AAT,ACA,ATA,TAC,及びACTを挙げることができる。
【0014】
n6n7n8n9n10(以下,「n6~n10」という)は,それぞれ独立して,A,T,若しくはCであるか又は存在しないが,n6~n10のうち少なくとも2個のヌクレオチドは存在する。すなわち,n6~n10のうち,0個以上3個以下のヌクレオチドが存在せず,好ましくは2個又は3個のヌクレオチドが存在しない。n6~n10の例としては,TAA,AAC,AAT,TCA,及びACが挙げられる。
【0015】
n11n12n13(以下,「n11~n13」という)は,それぞれ独立して,A,T,若しくはCであるか又は存在しないが,n11~n13のうち少なくとも1個のヌクレオチドは存在する。すなわち,n11~n13のうち,0個以上2個以下のヌクレオチドは存在せず,好ましくは,2個のヌクレオチドが存在しない。n11~n13の例としては,AAA,A,T,又はCが挙げられる。
【0016】
本発明のG4DNAzymeは,好ましくは,配列番号3~81のいずれか1つに記載の塩基配列からなり,更に好ましくは,配列番号3~30のいずれか1つに記載の塩基配列からなる。
【0017】
G4DNAzymeは,ヘミンに配位する方向に応じて,アンチパラレル,パラレル,ハイブリッドの構造を有することが知られている。パラレルでは,4本の全てのG4が同じ3’→5’(又は5’→3’)の向きでヘミンに配位している。アンチパラレルでは,4本のG4のうち2本が3’→5’の向きでヘミンに配位し,残りの2本が逆向き(5’→3’の向き)でヘミンに配位している。ハイブリッドでは,4本のG4のうち,一本のみ他の三本とは異なる向き(例えば,3’→5’が3本,5’→3’が1本)でヘミンに配位している。本発明のG4DNAzymeは,いずれの形式でヘミンに配位していてもよい。
【0018】
また,G4DNAzymeは,1分子,2分子(ダイマー),又は4分子(テトラマー)が一つのDNA(G4DNAzyme)/ヘミン複合体に含まれることが知られている。本発明のG4DNAzymeは,1,2,又は4分子のいずれでヘミンに配位していてもよく,好ましくは,複数分子でヘミンに配位する。
【0019】
別の態様において,本発明は,前記G4DNAzymeが他の物質と結合したコンジュゲートに関する。本コンジュゲートは,前記G4DNAzymeのループ部分(n1~n5,n6~n10,及び/若しくはn11~n13),あるいはその3’若しくは5’末端又はその近辺(n若しくはn)において他の物質と結合することができる。他の物質との結合は,前記G4DNAzymeが当該他の物質と直接結合していてもよいし,リンカーや互いに結合性を示す2種類の物質を介して結合していてもよい。
【0020】
例えば,G4DNAzymeをヘミンと直接結合させることにより,DNA(G4DNAzyme)/ヘミン複合体が得られることが知られている(Zhaoyin Wangら,(2016)ACS Appl.Mater.Interfaces8:827-833)。よって,当該他の物質がヘミンである,ヘミンG4DNAzymeコンジュゲートは本発明のコンジュゲートに含まれる。本コンジュゲートにおいて,ヘミンとG4DNAzymeは,DNA/ヘミン複合体を形成していなくてもよいし,DNA/ヘミン複合体を形成していてもよい。
【0021】
また,G4DNAzymeを固相に固定化させて,そのペルオキシダーゼ活性を利用できることが知られている。このような固相としては,アレイ,ビーズ,及びプレート等の他,金電極などの電極も含まれる。G4DNAzymeが電極に固定化されている場合,複合体を形成するヘミンの酸化能力を当該電極における電流として検出することができる(Naoto Kanekoら(2013)Anal. Chem.,85:5430-5435;Hisakage Funabashi(2016)Electrochemistry,84(5):290-295参照)。
【0022】
また,前記他の物質としては,核酸,タンパク質若しくはペプチド,又はリガンド化合物を用いることもできる。一例として,これらの核酸,タンパク質若しくはペプチド,リガンド化合物は,特定の結合パートナーと特異的に結合する物質であることができる。この場合,これらの核酸,タンパク質若しくはペプチド,リガンド化合物と当該結合パートナーとの特異的結合を利用して,任意の所望の場所にG4DNAzymeを結合させることができる。例えば,G4DNAzymeにビオチン又はストレプトアビジンを結合させ,足場(固相)にそれぞれストレプトアビジン又はビオチンを結合させておくことにより,ストレプトアビジン-ビオチン相互作用によって,G4DNAzymeを当該足場(固相)に結合させることができる。
【0023】
あるいは,他の物質である,核酸,タンパク質若しくはペプチド,又はリガンド化合物は,検出対象の物質(標的物質)と特異的に結合可能であってもよい。この場合,好ましくは,G4DNAzymeと当該核酸,タンパク質若しくはペプチド,又はリガンド化合物は,G4DNAzymeがヘミンと結合できないように結合しており,かつ,標的物質と当該核酸,タンパク質若しくはペプチド,又はリガンド化合物が結合することにより,G4DNAzymeがヘミンと結合可能となる。すなわち,一態様において,本発明は,標的物質に結合することによりG4DNAzymeがG4DNAzyme/ヘミン複合体を形成可能となるように,前記核酸,前記タンパク質若しくはペプチド,又は前記リガンド化合物とG4DNAzymeとが結合しているコンジュゲートに関する。このようなG4DNAzymeと他の物質との結合物の構造は既に報告されている(H.Funabashi(2016)上掲;WO2011/016565;及びItamar Willnerら(2008)Chemical Society Reviews,37:1153-1165参照)。一例として,G4DNAzymeをコードする塩基配列を有する核酸(Gq)と該配列と相補的な塩基配列を有する核酸(Gq’)が標的核酸(Target)と相補的な塩基配列を有する核酸(Target’)を介して結合している核酸(Gq’-Target’-Gq)は,標的核酸の不存在下ではGqとGq’が相補鎖を形成してGqは不活性となるが,標的存在下では標的とTarget’との結合により,GqとGq’の相補鎖が解離して,Gqが活性立体構造を取ることができる。
【0024】
本発明のG4DNAzyme及びコンジュゲートは,必要に応じてDNA(G4DNAzyme)/ヘミン複合体を形成していてもよい。あるいは,本発明は,本発明の本発明のG4DNAzyme又はコンジュゲート及びヘミンを含むキットとすることができる。本発明のコンジュゲートが標的物質に結合することによりG4DNAzymeがG4DNAzyme/ヘミン複合体を形成可能となるばあい,本発明のキットは標的物質検出用とすることができる。本発明のキットは,必要に応じて,使用説明書,パッケージ,及び/または各薬剤を格納する容器などを備えていてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のG4DNAzymeは,ヘミンと結合することにより高いペルオキシダーゼ活性を示すことから,各種標的物質の検出やペルオキシダーゼを利用した工業的化合物生産や有害物質の分解などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】進化模倣アルゴリズムを用いたG-カルテット構造を持つDNAアプタマー配列の設計を示す模式図である。
図2】進化模倣アルゴリズムを用いて設計したG-カルテット構造を持つDNAアプタマーの各ラウンドでの活性を示すグラフである。
図3】EAD2よりも活性の高いG4(46本)での出現回数を示す。
図4】オリゴDNAの電気泳動像を示す写真である。
図5A】円二色性スペクトルによる構造解析の結果を示すグラフである。
図5B】円二色性スペクトルによる構造解析の結果を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態に係る検知電極を模式的に表した図である。
図7】測定装置の筐体内に収容された主な電子部品の構成を示した図である。
図8】制御コンピュータによる測定処理のフローである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のG4DNAzymeは,本技術分野に周知の核酸合成技術を利用して製造することができる。また,ヘミンは,商業的に販売されているものから入手することができる。本発明のコンジュゲートは,本発明のG4DNAzymeに当業者周知の核酸と他の物質との結合手法を用いて所望の物質を結合させることにより得ることができる。例えば,DNA(G4DNAzyme)へのヘミンの結合は既に報告された方法(Zhaoyin Wangら,(2016)上掲)に従って得ることができる。また,他の物質が核酸の場合には,必要に応じてリンカー配列を介して,一本の核酸配列として設計し,合成することによりコンジュゲートを得ることができる。また,タンパク質又はペプチドとの結合は,予め末端の核酸に当該タンパク質若しくはペプチド又はリンカー構造が結合したプライマーを用いてオリゴDNAを合成するか,又は,DNAの末端の核酸にターミナルトランスフェラーゼを利用して当該タンパク質若しくはペプチド又はリンカー構造が結合したヌクレオチドを付加することにより,得ることができる。
【0028】
よって,一態様において,本発明は,本発明のG4DNAzyme又はコンジュゲートに,ヘミンを接触させることを含む,DNA/ヘミン複合体の製造方法に関する。本発明のDNAは,緩衝液中(pH7.5~8.5),金属イオン存在下,90~98℃で1~10分間熱処理した後,20~30℃まで20~40分かけて冷却することによりG-カルテット構造を有するG4DNAzymeを形成させることができる。得られたG4DNAzyme溶液を緩衝液中のヘミン溶液と混合して,20~30℃で20~60分静置することにより,DNA/ヘミン複合体を得ることができる。金属イオンとしては,銀,鉛,銅,鉄,亜鉛,ニッケル, バリウム,カルシウム,ナトリウム,及びカリウムのイオンを挙げることができ,好ましくはカリウムイオンである。
【0029】
別の態様において,本発明は,ペルオキシド構造を有する化合物を,本発明のDNA/ヘミン複合体と反応させることを含む,ヒドロキシル化合物の生成方法に関する。ペルオキシド構造を有する化合物としては,好ましくは,過酸化水素である。本方法は,有用化合物生産目的の他,有害物質の重合沈殿除去の目的で用いることができる。例えば,汚染物質の一つであるビスフェノールA(BPA)などのフェノール系化合物の重合沈殿除去にペルオキシダーゼが利用できることが報告されている。具体的には,緩衝液中のフェノール及びDNA/ヘミン複合体に過酸化水素を添加することにより,フェノールを沈殿させることができる。0.45μmメンブレンフィルターを用いて重合した沈殿物を減圧濾去することにより,沈殿したフェノールを除去することができる。
【0030】
さらに別の態様において,本発明は,本発明のコンジュゲートを利用したサンプル中の標的物質のレベルの測定方法又は存在の検出方法に関する。より具体的には,本発明は,サンプル中の標的物質のレベルの測定方法又は存在の検出方法であって,
サンプルを本発明のコンジュゲートに接触させること;
更にヘミンを該サンプルと接触させた該コンジュゲートに接触させること;及び
該サンプル中に含まれる標的物質により,該コンジュゲートと該ヘミンから形成されたDNA/ヘミン複合体を測定又は検出することを含み,
ここで,DNA/ヘミン複合体の測定値が当該標的物質のレベルを表し,又はDNA/ヘミン複合体が検出された場合には当該標的物質が存在することを表す方法に関する。
【0031】
本方法において用いる本発明のコンジュゲートは,標的物質に結合することによりG4DNAzymeがG4DNAzyme/ヘミン複合体を形成可能となるように,前記核酸,前記タンパク質若しくはペプチド,又は前記リガンド化合物とG4DNAzymeとが結合しているコンジュゲートである。サンプルとコンジュゲートとの接触は,好ましくは緩衝液中,20℃~30℃,静置又は撹拌条件下で,数分~数日間行われる。その後,必要に応じて,緩衝液中(pH7.5~8.5),金属イオン存在下,90~98℃で1~10分間熱処理した後,20~30℃まで20~40分かけて冷却することによりG-カルテット構造を形成させてもよい。ヘミンとの接触は,得られたサンプル接触済みコンジュゲートにヘミン溶液を添加し,20~30℃で20~60分静置することにより行うことができ,これによりDNA(G4DNAzyme)/ヘミン複合体を形成させることができる。形成したG4DNAzyme/ヘミン複合体の測定又は検出は,ヘミンの酸化作用を利用して行うことができる。
【0032】
例えば,G4DNAzyme/ヘミン複合体の測定又は検出は,G4DNAzyme/ヘミン複合体が結合している導電性電極の電位を利用して行うことができる。ヘミンは,電極上の電子を奪って還元状態となり,過酸化水素を還元して酸化状態に戻る。例えば,微分パルスボルタンメトリにおいて,基準電極に対するピーク陰極電流が検出された場合,G4DNAzyme/ヘミン複合体が存在すると検出されたことを意味する。また,微分パルスボルタンメトリにおいて,基準電極に対するピーク陰極電流の強さは,G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在量の指標とすることができる。すなわち,ピーク陰極電流の強さからG4DNAzyme/ヘミン複合体のレベルを測定することができる。
【0033】
あるいは,G4DNAzyme/ヘミン複合体の測定又は検出は,G4DNAzyme/ヘミン複合体のペルオキシダーゼ活性を利用して行うことができる。この方法では,反応処理後の溶液をペルオキシダーゼの基質と反応させて,当該基質の発色などを測定又は検出する。色素の発色が検出された場合,G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在が検出されたことを意味する。また,色素の発色の強度は,G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在量の指標とすることができる。すなわち,色素の発色の強度からG4DNAzyme/ヘミン複合体のレベルを測定することができる。当該基質の発色は,G4DNAzyme/ヘミンが存在することを意味し,発色の程度がG4DNAzyme/ヘミン存在量の指標となる。ペルオキシダーゼの基質は多数知られており,例えば,3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine(TMB),3,3’-Diaminobendizine(DAB),及びDAB10-Acetyl-3,7-dihydroxyphenoxazineなどの色素前駆体が知られている。
【0034】
本明細書において,「測定」とは,主にはその量を測定することを意図しているが,ここでいう量とは絶対量である必要はなく,量の指標となる相対的な数値を含む。「レベル」も絶対量又は濃度である必要はなく,量的な意味を持つ指標であればその単位は問わない。よって,測定値そのものをレベルとして使用することもできる。また,「検出」とは,存在の有無の決定を意図している。本発明の方法において,測定するか検出するかは,その目的に応じて適宜設定することができる。
【0035】
(検知電極)
図6は,本発明の実施形態に係る検知電極を模式的に表した図である。検知電極100は電極101と,上記電極101上に配置された検知層102とを有している。なお,検知電極100は,電極101の片側の主面上に検知層102を有しているが本発明の実施形態に係る検知電極としては上記に制限されず,電極の両側の主面に検知層が配置されていてもよい。
本発明の実施形態に係る検知電極としては,言い換えれば,電極の少なくとも一部の表面に検知層が配置されていればよい。
【0036】
電極としては特に制限されず,一般に電気化学セル用として使用される電極が使用できる。電極としては例えば,金(Au),白金(Pt),銀(Ag),及び,パラジウム(Pd)等の金属材料;グラファイト,カーボンナノチューブ,グラフェン,及び,メソポーラスカーボン等の炭素材料;等が使用できる。
【0037】
検知層102は,すでに説明したコンジュゲートを含有する。検知層102がコンジュゲートを含有する形態としては特に制限されないが,上記コンジュゲートが電極上に固定されていることが好ましい。
コンジュゲートを電極上に固定する方法としては特に制限されず,公知の方法が使用できる。例えば,金属電極にスルフィド結合(チオエーテル結合),及び,ジスルフィド結合等を用いて固定化すればよい。
【0038】
(バイオセンサ)
本発明の実施形態に係る検知電極は測定試料に含まれる検出対象物質の含有量を測定するためのバイオセンサに使用できる。バイオセンサは,少なくとも2つ以上の電極を有し,そのうちの少なくとも1つが,本発明の実施形態に係る検知電極(典型的には作用極として用いる)である。他方の電極としては,対極であることが好ましい。
【0039】
対極としては,バイオセンサの対極として一般的に使用できるものであれば特に制限されないが,例えば,スクリーン印刷により製膜したカーボン電極,物理蒸着(PVD,例えばスパッタリング)によって製膜した金属電極,化学蒸着(CVD)によって成膜した金属電極,及び,スクリーン印刷により製膜した銀/塩化銀電極等が使用できる。
さらに,バイオセンサは,3つ以上の電極を有していてもよく,その場合,少なくとも1つが参照極であることが好ましい,参照極としては,例えば,銀/塩化銀電極等が使用できる。
【0040】
(装置)
次に,図面を用いて,本発明の実施形態に係る測定装置について説明する。ここでは,測定装置の一形態について例示したが,本発明の測定装置は以下の形態には限定されない。
【0041】
図7には,測定装置200の筐体内に収容された主な電子部品の構成を示した。制御コンピュータ218,ポテンショスタット219,電力供給装置211が,筐体内に収容された基板201上に配置されている。
制御コンピュータ218は,ハードウェア的には,CPU(中央演算処理装置)のようなプロセッサと,メモリ(RAM(Random Access Memory),及び,ROM(Read Only Memory))等の記録媒体と,通信ユニットを含んでおり,プロセッサが記録媒体に記憶されたプログラムをRAMにロードして実行することによって,出力部210,制御部212,演算部213及び検出部214を備えた装置として機能する。なお,制御コンピュータ218は,半導体メモリ(例えば,フラッシュメモリ),及び,ハードディスク等のような,補助記憶装置を有していてもよい。
【0042】
制御部212は,バイオセンサ217への電圧印加のタイミング,及び,印加電圧値等を制御する。電力供給装置211は,バッテリ216を有しており,制御部コンピュータ218及びポテンショスタット219に動作用の電力を供給する。なお,電力供給装置211は,筐体の外部に置くこともできる。
【0043】
ポテンショスタット219は,作用極(すでに説明した検知電極)の電位を他の電極(例えば,対極,及び/又は,参照電極)に対して一定にしたり,印加する電圧を掃引したりすることができ,制御部212によって制御され,端子CR,Wを用いてバイオセンサ217の典型的には対極と作用極と(図示していない)の間に所定の電圧を印加し,典型的には端子Wで得られる作用極の応答電流を測定し,応答電流の測定結果を検出部214に送る。
【0044】
演算部213は検出された電流値から,測定試料中における測定対象物の含有量の演算を行い,記憶する。出力部210は,表示部215との間でデータ通信を行い,演算部213による測定対象物の濃度含有量の演算結果を表示部215に送信する。表示部215は,例えば,測定装置200から受信された測定対象物の含有量の演算結果を所定のフォーマットで表示画面に表示することができる。
【0045】
図8には,制御コンピュータ218による測定処理のフローを示した。
制御コンピュータ218のCPU(制御部212)は,測定の開始指示を受け付けると,制御部212は,ポテンショスタット219を制御して,作用極(検知電極)への所定の電圧を印加し,又は,掃引電圧を印加し,作用極からの応答電流の測定を開始する(ステップS01)。なお,測定装置へのバイオセンサ217の装着の検知を,含有量の測定開始指示としてもよい。
【0046】
次に,ポテンショスタット219は,電圧印加によって得られる応答電流,すなわち,試料内の測定対象物に由来する電子の電極への移動に基づく電荷移動律速電流,例えば,電圧印加から1~20秒後の定常電流を測定し,検出部214へ送る(ステップS02)。
【0047】
演算部213は,電流値に基づいて演算処理を行い,試料中における測定対象物の含有量を算出する(ステップS03)。例えば,制御コンピュータ218の演算部213は,検出された応答電流に対応する測定対象の含有量の検量線データを予め保持しており,この検量線を用いて測定対象物の含有量を算出する。
【0048】
出力部210は,測定対象物の含有量の算出結果を,表示部215との間に形成された通信リンクを通じて表示部ユニット215へ送信する(ステップS04)。その後,制御部212は,測定対象物の含有量を表示部に表示し,測定を終了する。
【0049】
以下,実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお,本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【実施例
【0050】
(実施例1) 高いペルオキシダーゼ活性を示すG4ヘミンのスクリーニング
(1)G-カルテット構造を持つDNAアプタマーの設計
ペルオキシダーゼ活性を示すG-カルテット構造を持つDNAアプタマーとして知られている中で最も高い活性を示すEAD-2(ctgggagggagggaggga:配列番号1)ならびにG3A3 (gggaaagggaaagggaaaggg:配列番号2)の配列をスタートとして進化模倣アルゴリズムを用いてG-カルテット構造を持つDNAアプタマーの配列の第1世代の10本をデザインした。設計したDNAアプタマーはHPLC精製グレードのオリゴDNAをユーロフィンジェノミクス株式会社に委託して合成されたものを使用した。第2世代以降は,(3)合成したアプタマーを用いてヘミンとの複合体を形成させペルオキシダーゼ活性を測定,(4)活性の順位付け,(5)次世代に残す配列選択,(6)変異導入(配列の交差,点変異導入)を行うことで次世代のアプタマーの設計を行った(図1)。
【0051】
(2)G-カルテット構造を持つDNAアプタマーのペルオキシダーゼ活性の測定(スクリーニング)
(2-1)ヘミンG4オリゴDNAの複合体の調製
50μM合成オリゴDNAの調製:ユーロフィンジェノミクス株式会社において合成したオリゴDNA(乾燥粉末)は50μMとなるようにTE buffer(10mmol/L Tris-HCl(pH8.0),1mmol/L EDTA (pH8.0))で希釈し,4℃で保管した。
400μMヘミン溶液の調製:Hemin(ferriprotoporphyrin IX chloride)(Sigma Aldrich(St.Louis, MO,USA))をDMSOに終濃度400μMとなるように溶解し,保管した。
反応溶液の調製:4mlの500mM KCl 4mlと0.4mlの1M Tris-HCl緩衝液(pH8.0)と超純水29.6mlを混合して作成した。
【0052】
4μlの50μM合成オリゴDNAと34μlの反応溶液を混合し,95℃で5分間熱処理した後に25℃まで30分かけて冷却することでG-カルテット構造(以降G4)を形成させた。その後,2μlの400μMヘミン溶液を加え,室温で30分間インキュベートした。
【0053】
(2-2)ペルオキシダーゼ活性測定
96穴プレートにヘミンG4オリゴDNAの複合体溶液5μlと195μlのTMB溶液(マイクロウェル用)(和光純薬 Cat.no.208-17371)を添加し混合した。マイクロプレートリーダー(MTP-880Lab;コロナ電気株式会社)を用いて630nmの吸収の時間変化を30秒おきに10分間計測し,時間あたりの吸光度変化(dABS/min)を求めた。反応液中のG4オリゴDNAとヘミンの終濃度はそれぞれ0.125μMと0.5μMとなる。
【0054】
(2-3)結果
第1世代から第7世代のヘミンG4オリゴDNAの活性を比較した結果を図2及び表1に示す。この結果から,出発点であるEAD2より高い活性を示す配列が46本得られた。またもう一つの出発点であるG3A3よりも高い活性を示すオリゴも28本得られた。
【0055】

【表1A】
【0056】
【表1B】
【0057】
EAD2よりも高い活性を示すG4オリゴDNAにおけるそれぞれのループの配列の出現回数を図3示す。その結果,第一ループはAAAが18/46,TAAが15/46,ATAが4/6,第2ループについてはTAAが17/46,AACが11/46,AATが11/46の出現回数を示した。また,第三ループについてはAが14/46, Tが16/46,Cが10/46,AAAが6/46であった。
【0058】
(実施例2) 高いペルオキシダーゼ活性を示したG4オリゴDNAの詳細な特性検討
(1)電気泳動による構造解析
(1-1)電気泳動
20μlの4μM G4オリゴDNA溶液,5μl Novex Hi-Density TBE Sample Buffer(5×)(Thermo Fisher Scientific),10μlの滅菌水を混合した。この混合液10μlをゲル濃度20%のTBE-PAGE miniゲル,15Well(テフコ株式会社)に加え,180V定電圧を140分印可して電気泳動を行った。その後,SYBR Gold Nucleic Acid Gel Stain(Thermo Fisher Scientific)を用いて核酸染色し,青色トランスイルミネーターを用いてバンドを検出し,デジタルカメラでゲルの撮影を行った。分子量マーカーとしてTracklt 10bp DNA Ladder (Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0059】
(1-2)結果
電気泳動の結果を図4に示す。高いペルオキシダーゼ活性を示したG4オリゴDNAのうち,配列6-07は高い分子量の複合体のバンドが観察されたが,他のG4オリゴDNAは複合体のバンドは観察されなかった。出発点で用いたEAD2も複合体のバンドが見られた。このことから,配列6-07とEAD2はオリゴマーを形成していることが示された。
【0060】
(2)CD(Circular Dichroism:円二色性)スペクトルによる構造解析
(2-1)円二色性スペクトル解析
円二色性スペクトル解析により,G4オリゴDNAがGカルテット構造を有するかどうかを判断できる。CDスペクトル測定において260nmにおける正のピークと240nmにおける負のピークが観察されればパラレル型G4,290nmにおける正のピークと260nmにおける負のピークが観察されればアンチパラレル型G4が形成されていると考えられる。高いペルオキシダーゼ活性増幅係数を持つ,配列7-02,7-01,5-04,7-08,4-02,6-07について円二色性スペクトル解析を行った。
【0061】
G4オリゴDNAの複合体の調製:6μlの50μM合成オリゴDNAと143μlの反応溶液を混合し,95℃で5分間熱処理した後に25℃まで30分かけて冷却することでG-カルテット構造(以降G4)を形成させた。その後,1μlの滅菌水を加え,室温で30分間インキュベートした。
【0062】
得られたサンプルは,円偏光二色性分光計(J-725型,日本分光)を用いて220nmから320nmの円偏光二色性分光について測定した。測定条件は,以下のとおりとした:
Resolution:データ間隔 0.2nm
Band width:バンド幅 1.0nm
Sensivity: Standard
Response:レスポンス2sec
走査速度 50nm/min
積算回数 20回
【0063】
(2-2)結果
結果を図5に示す。出発物質として用いた,EAD2は295nm付近に負のピーク,265nm付近に正のピークが認められた。これはパラレル型Gカルテット構造が形成されていることを示すものである。G3A3については295nm付近に正のピーク,265nm付近に負のピークが認められた。これはアンチパラレル型Gカルテット構造が形成されていることを示すものである。一方で,配列7-02,7-01,5-04,7-08,4-02,6-07については,240nm付近に負のピーク,265nm付近と290nm付近に正のピークをしめしがことから,設計の親配列であるEAD2,G3A3とは異なり,ハイブリット型Gカルテット構造もしくはパラレル型とアンチパラレル型が混在している構造を有していることが示された。設計の親配列であるEAD2,G3A3とは異なり,ハイブリット型Gカルテット構造もしくはパラレル型とアンチパラレル型が混在している構造を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のDNAは,ヘムと結合して高いペルオキシダーゼ活性を発揮することから,ペルオキシダーゼ活性を利用した各種用途,例えば,標的物質の検出や有害物質の分解などに用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
【配列表】
0007220865000001.app