(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】繊維積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20230206BHJP
A47L 13/16 20060101ALI20230206BHJP
B01D 39/14 20060101ALI20230206BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20230206BHJP
B03C 3/28 20060101ALI20230206BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20230206BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20230206BHJP
D04H 1/495 20120101ALI20230206BHJP
【FI】
B32B5/26
A47L13/16 A
A47L13/16 C
B01D39/14 E
B01D39/16 A
B01D39/16 E
B03C3/28
B32B3/30
D04H1/4374
D04H1/495
(21)【出願番号】P 2017530820
(86)(22)【出願日】2016-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2016071411
(87)【国際公開番号】W WO2017018317
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2019-05-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2015146873
(32)【優先日】2015-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城谷 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】白石 育久
【合議体】
【審判長】藤原 直欣
【審判官】山崎 勝司
【審判官】當間 庸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-92954(JP,A)
【文献】特開2014-12913(JP,A)
【文献】特開2013-194333(JP,A)
【文献】特開2007-14638(JP,A)
【文献】特開平4-180808(JP,A)
【文献】特開2009-195845(JP,A)
【文献】特開平7-100316(JP,A)
【文献】国際公開第2011/019022(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/073451(WO,A1)
【文献】特開2008-25081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面を有し、第1繊維集合体で構成される第1繊維層と、
前記第1主面上に配置される繊維層であって、第2繊維集合体で構成される第2繊維層と、
を含み、
前記第1繊維層と前記第2繊維層とは接触して積層され、
前記第1主面及び前記第2繊維層における前記第1繊維層側の主面の少なくともいずれか一方は、第1表面凹凸を有し、
前記第1表面凹凸は界面で構成され、
前記第1表面凹凸を構成する凸部の高さが0.1mm以上5mm以下であり、
第2繊維層の目付は、第1繊維層よりも小さく、かつ0.5~30g/m
2であり、
通気度が100cc/cm
2/s以上であり、
前記第1繊維層は、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂またはポリウレタン系樹脂からなる繊維を含む繊維で構成さ
れ、
前記第1繊維層の厚みT
1
と前記第2繊維層の厚みT
2
との比T
1
/T
2
が4~25である繊維積層体。
【請求項2】
前記第1表面凹凸を構成する凸部の密度が3個/cm
2以上である、請求項1に記載の繊維積層体。
【請求項3】
少なくとも前記第1主面は、前記第1表面凹凸を有する、請求項1又は2に記載の繊維積層体。
【請求項4】
前記第2繊維層における前記第1繊維層とは反対側の主面が第2表面凹凸を有し、該第2表面凹凸を構成する凸部の高さが0.05mm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【請求項5】
前記第2表面凹凸を構成する凸部の密度が3個/cm
2以上である、請求項4に記載の繊維積層体。
【請求項6】
嵩密度が0.1g/cm
3以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【請求項7】
前記第1繊維集合体及び前記第2繊維集合体は、不織繊維集合体である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【請求項8】
前記不織繊維集合体は、ポリオレフィン系樹脂繊維を含む、請求項
7に記載の繊維積層体。
【請求項9】
前記第2繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径が0.5~2μmである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【請求項10】
JIS T 8151に準拠して測定される捕集効率及び圧力損失がそれぞれ85%以上、10Pa以下であり、かつ、下記式:
QF値=-ln(1-捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)
に従って算出されるQF値が0.6以上である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【請求項11】
帯電処理されている、請求項1~
10のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【請求項12】
濾材である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【請求項13】
清掃用具である、請求項1~
11のいずれか1項に記載の繊維積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾材などとして好適に用いることのできる繊維積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エアー濾材(エアーフィルタ)、マスク等に代表される濾材として、不織布のような繊維層を用いたものや、複数の繊維層を含む積層体を用いたものが知られている。
【0003】
例えば特許第5205650号明細書(特許文献1)には、平均繊維径0.6~1.8μm、厚さ0.03~0.1mmのポリオレフィン系不織布である繊維層Aと、平均繊維径5~60μm、厚さ0.15~1.5mmであるポリオレフィン系繊維層である繊維層Bとで構成される2層構造を有し、密度、繊維層Aと繊維層Bとの厚み比、及び通気度が所定の範囲であるエアー濾材用積層体が開示されている。特許文献1の記載によれば、この積層体は、高い通気度と捕集効率を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、濾材等に用いることのできる繊維体の通気性能及び捕集性能の改善を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示す繊維積層体を提供する。
[1] 第1主面を有し、第1繊維集合体で構成される第1繊維層と、
前記第1主面上に配置される繊維層であって、第2繊維集合体で構成される第2繊維層と、
を含み、
前記第1主面及び前記第2繊維層における前記第1繊維層側の主面の少なくともいずれか一方は、第1表面凹凸を有し、
前記第1表面凹凸を構成する凸部の高さが0.1mm以上である、繊維積層体。
【0007】
[2] 前記第1表面凹凸を構成する凸部の密度が3個/cm2以上である、[1]に記載の繊維積層体。
【0008】
[3] 少なくとも前記第1主面は、前記第1表面凹凸を有する、[1]又は[2]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0009】
[4] 前記第2繊維層における前記第1繊維層とは反対側の主面が第2表面凹凸を有し、該第2表面凹凸を構成する凸部の高さが0.05mm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0010】
[5] 前記第2表面凹凸を構成する凸部の密度が3個/cm2以上である、[4]に記載の繊維積層体。
【0011】
[6] 嵩密度が0.1g/cm3以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0012】
[7] 前記第1繊維層の厚みT1と前記第2繊維層の厚みT2との比T1/T2が4~25である、[1]~[6]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0013】
[8] 前記第1繊維集合体及び前記第2繊維集合体は、不織繊維集合体である、[1]~[7]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0014】
[9] 前記不織繊維集合体は、ポリオレフィン系樹脂繊維を含む、[8]に記載の繊維積層体。
【0015】
[10] 前記第2繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径が0.5~2μmである、[1]~[9]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0016】
[11] 通気度が100cc/cm2/s以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0017】
[12] JIS T 8151に準拠して測定される捕集効率及び圧力損失がそれぞれ85%以上、10Pa以下であり、かつ、下記式:
QF値=-ln(1-捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)
に従って算出されるQF値が0.6以上である、[1]~[11]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0018】
[13] 帯電処理されている、[1]~[12]のいずれかに記載の繊維積層体。
[14] 濾材である、[1]~[13]のいずれかに記載の繊維積層体。
【0019】
[15] 清掃用具である、[1]~[13]のいずれかに記載の繊維積層体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、通気性能及び捕集性能に優れる繊維体を提供することができる。本発明に係る繊維体(繊維積層体)は、エアー濾材、マスク等の濾材に適している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る繊維積層体の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る繊維積層体の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の第3実施形態に係る繊維積層体の一例を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の第4実施形態に係る繊維積層体の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の第5実施形態に係る繊維積層体の一例を示す概略断面図である。
【
図6】実施例1に係る繊維積層体の一断面の卓上顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、第1主面を有し、第1繊維集合体で構成される第1繊維層と、第1主面上に配置される繊維層であって、第2繊維集合体で構成される第2繊維層とを含み、第1繊維層の第1主面(内側主面)及び第2繊維層における第1繊維層側の第1主面(内側主面)の少なくともいずれか一方が表面凹凸を有する繊維積層体に関する。以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る繊維積層体の一例を示す概略断面図である。
図1に示される繊維積層体は、第1繊維集合体で構成される第1繊維層1と、その第1主面11上に配置され、第2繊維集合体で構成される第2繊維層2とを含む。第1繊維層1は、第2繊維層2側の主面である第1主面(内側主面)11と、それに対向する、第2繊維層2とは反対側の主面である第2主面(外側主面)12とを有する。第2繊維層2は、第1繊維層1側の主面である第1主面(内側主面)21と、それに対向する、第1繊維層1とは反対側の主面である第2主面(外側主面)22とを有する。
【0024】
第1繊維層1の第1主面11は表面凹凸で構成されており、その上に第2繊維層2が積層されている。第2繊維層2は、全面又はおよそ全面にわたって第1繊維層1の第1主面11と接している。従って、第2繊維層2の第1主面21もまた、第1繊維層1の第1主面11が有する表面凹凸の転写型(又はおよそ転写型)である表面凹凸を有している。すなわち、第1繊維層1と第2繊維層2との界面は、凹凸で構成されている。本明細書では、第1繊維層1の第1主面11及び/又は第2繊維層2の第1主面21が有し得る表面凹凸を総称して、「第1表面凹凸」ともいう。
【0025】
図1に示される繊維積層体において第2繊維層2は、その第2主面22も表面凹凸を有している。本明細書では、第2繊維層2の第2主面(外側主面)22が有し得る表面凹凸を「第2表面凹凸」ともいう。
図1に示される繊維積層体において第1繊維層1は、その第2主面12も表面凹凸を有している。本明細書では、第1繊維層1の第2主面(外側主面)12が有し得る表面凹凸を「第3表面凹凸」ともいう。
【0026】
図1に示される繊維積層体によって例示されるとおり、本実施形態に係る繊維積層体(後述する他の実施形態においても同様。)は、第1繊維層1の第1主面11及び第2繊維層2の第1主面21の少なくともいずれか一方が第1表面凹凸を有していることを1つの特徴としている。本実施形態に係る繊維積層体によれば、高い通気性能と高い捕集性能とを兼備することができる。本実施形態に係る繊維積層体は、エアー濾材、マスク等の濾材用として好適に用いることができる。本実施形態に係る繊維積層体は、例えば人用のマスクに適用した場合には、高通気性能(低圧力損失)を有することから、息苦しさを感じにくく長期着用性(長期間着用しても息苦しさ等の不快感を感じにくい性質)に優れるとともに、高い捕集性能を有することから、ウイルスや粉塵、埃、ハウスダスト、花粉、黄砂等の気体中の異物を効果的に捕集することができる。また例えば産業用のエアー濾材に適用した場合には、高通気性能を有することから、濾過(異物除去)の処理速度を高めることができるとともに、高い捕集性能を有することから、粉塵、埃等のエアー中の異物を高い捕集効率で、及び/又は高い捕集容量で捕集することができる。
【0027】
また本実施形態に係る繊維積層体(後述する他の実施形態においても同様。)は、第2繊維層2の第2主面22の第2表面凹凸を利用して、人体や、被服その他の物品に付着した、例えば上述のような異物を除去するためのワイパーに代表される清掃用具としても用いることが可能である。
【0028】
なお本発明において、第1表面凹凸を有する主面は、その少なくとも一部において第1表面凹凸を有していればよく、そのすべてが第1表面凹凸で構成されている必要はない。第2及び第3表面凹凸についても同様である。ただし、通気性能と捕集性能をより高める観点からは、第1表面凹凸を有する主面は、そのすべてが(又はおよそそのすべてが)第1表面凹凸で構成されていることが好ましい。第2及び第3表面凹凸についても同様である。
【0029】
以下、本実施形態(第1実施形態)に係る繊維積層体についてさらに詳細に説明する。
(1)第1繊維層
第1繊維層1は第1繊維集合体で構成される層であり、第1主面(内側主面)11(第2繊維層2側の主面)は第1表面凹凸を有し、第2主面(外側主面)12は、第3表面凹凸を有する。第1主面11は、好ましくは第1表面凹凸からなり、第2主面12は、好ましくは第3表面凹凸からなる。第1主面11の第1表面凹凸は第2繊維層2との界面を形成する表面であり(従って第2繊維層の第1主面21も第1表面凹凸を有する。)、2つの繊維層の界面が凹凸で構成されることにより、繊維積層体の捕集性能及び通気性能を高めることができる。また第3表面凹凸を有することは、捕集性能及び通気性能のさらなる向上に有利となる。第1主面(内側主面)11及び第2主面(外側主面)12が有する凸部は、規則的に存在していてもよいしランダムに存在していてもよい。当該凸部の形状は特に制限されず、例えば円錐状、円柱状、角錐状、起毛状等であり得る。
【0030】
繊維積層体の捕集性能を高める観点から、第1主面(内側主面)11が有する第1表面凹凸を構成する凸部の高さは、0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.3mm以上(例えば0.4mm以上)である。当該凸部の高さは、通常5mm以下であり、好ましくは3mm以下(例えば2mm以下)である。当該凸部が低すぎてその高さが0.1mm未満であり、第1主面11が比較的平滑であると、捕集性能の向上が認められないか、又は不十分となる。当該凸部が高すぎると繊維積層体の機械的強度の面で不利となる。また繊維積層体の捕集性能を高める観点から、第1表面凹凸における凸部の密度は、3個/cm2以上であることが好ましく、10個/cm2以上であることがより好ましい。当該凸部の密度は、通常50個/cm2以下であり、典型的には30個/cm2以下である。当該凸部の密度が過度に大きいと繊維積層体の通気性能に悪影響を与え得る。凸部の高さ及び密度は、卓上顕微鏡を用いて実施例の項に記載の方法に従って測定される。第3表面凹凸を構成する凸部の高さ及び密度はそれぞれ、第1繊維層1の第1表面凹凸を構成する凸部の高さ及び密度と同様であることができる。
【0031】
第1繊維層1を構成する第1繊維集合体は織布で構成されていてもよいが、不織繊維集合体であることが好ましい。中でも、第1繊維集合体は、メルトブロー不織繊維集合体であることがより好ましい。メルトブロー法を用いることにより、嵩密度が小さくて通気性能に優れ、第1表面凹凸、さらには第3表面凹凸を有する不織繊維集合体を容易にかつ低コストで製造することができる。メルトブロー法には、一般的なメルトブロー紡糸装置を用いることができる。
【0032】
メルトブロー法を用いる場合、第1繊維層1は、ノズルから噴射された繊維流を捕集体の凹凸面で捕集することによって得られる繊維ウェブとして製造される。すなわち、捕集面の凹部(又は貫通部)に繊維が侵入し固化することで、第1繊維集合体の一方の主面又は両方の主面に凹凸が付与される。捕集体としては、凸部又は凹部を複数(又は多数)設けた金属製捕集体、メッシュを有する金網、針布等であることができる。中でも、一般にコンベアネットと呼ばれる立体的な構造のネットを用いることが好ましく、これにより第1表面凹凸、さらには第3表面凹凸を有する不織繊維集合体をより容易に製造することができる。
【0033】
第1表面凹凸を構成する凸部は、起毛状の突起部であってもよい。この起毛状の突起部は、好ましくは剛直性を有するものである。上記捕集体としてコンベアネット等のネットを用いると、当該凸部は起毛状の突起となりやすい。後述するように繊維積層体は、予め作製した第1繊維集合体(第1繊維層1)の第1主面11上に、メルトブロー法等により第2繊維集合体を形成する繊維を吹き付けることによって製造することができるが、第1表面凹凸を構成する凸部が起毛状の突起部であると、第1繊維層1と第2繊維層2との接合力が高くなり、これにより繊維積層体の耐久性を高めることができる。
【0034】
第1繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径(第1平均繊維径)は、好ましくは5~50μmであり、より好ましくは7~25μmである。第1平均繊維径が当該範囲であると、繊維積層体にした後においても第1表面凹凸、さらには第3表面凹凸の形状を維持できる程度の剛直性を第1繊維集合体(第1繊維層1)に付与することができる。また第1平均繊維径を上記範囲とすることは、繊維積層体の通気性能と捕集性能とのバランスを向上させるうえでも有利である。第1平均繊維径が小さすぎると通気性能が低下しやすい。第1平均繊維径が大きすぎると捕集性能が低下しやすい。
【0035】
第1繊維集合体を構成する繊維は通常、熱可塑性樹脂からなる繊維を含む。熱可塑性樹脂の具体例は、ポリオレフィン系樹脂(低密度、中密度又は高密度ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリC2-4オレフィン系樹脂等);スチレン系樹脂(耐熱ポリスチレン等);ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂のようなポリC2-4アルキレンアリレート系樹脂等);ポリアミド系樹脂(ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612のような脂肪族ポリアミド系樹脂、半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンイソフタルアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリp-フェニレンテレフタルアミドのような芳香族ポリアミド系樹脂等);ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネート等);ポリウレタン系樹脂;セルロース系樹脂(セルロースエステル等)を含む。中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく用いられ、ポリオレフィン系樹脂がより好ましく用いられる。第1繊維集合体を構成する繊維は2種以上の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂の中でも好ましく用いられるのは、ポリプロピレンである。ポリオレフィン系樹脂、とりわけポリプロピレンであれば、後述する帯電処理により容易に帯電させることができるので、帯電により濾過性能(捕集性能)がより高められた繊維積層体をより容易に得ることができる。第1繊維集合体を構成する繊維がポリプロピレンを含む場合において、当該繊維はポリプロピレンのみで構成されていてもよいし、ポリプロピレン以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。後者の場合、ポリプロピレンの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0037】
第1繊維集合体を構成する繊維は、慣用の添加剤、例えば、安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等)、抗菌剤、消臭剤、香料、着色剤(染顔料等)、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤等を含有していてもよい。添加剤は、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0038】
ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、230℃、21.18N荷重)は、好ましくは400g/10分以下であり、より好ましくは200g/10分以下である。MFRが400g/10分を超えると、ノズルから吐出された繊維流が容易に細化されてしまい、高い平均繊維径を保つことが難しくなる場合がある。ノズルからの樹脂吐出性の観点から、ポリプロピレンのMFRは、好ましくは10g/分以上である。
【0039】
ポリエステル系樹脂の固有粘度は、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8~1.5である。また、ポリアミド系樹脂の相対粘度は、好ましくは2以上、好ましくは2.2~3.0である。このような樹脂を用いることにより、高い平均繊維径を有するメルトブロー不織繊維集合体の製造が容易となる。
【0040】
第1繊維集合体がメルトブロー不織繊維集合体である場合において、繊維積層体にした後においても第1表面凹凸、さらには第3表面凹凸の形状を維持できる程度の剛直性を示す第1繊維集合体を形成するためには、メルトブロー繊維流の繊維が細化する前の太い状態で、かつ繊維が固化する前に捕集面に繊維を到達させることが好ましい。繊維流が固化した後に凹凸を有する捕集面からきれいに剥離する必要があるため、捕集面を冷却することが必要になる場合がある。
【0041】
また、上述の剛直性を示す第1繊維集合体を形成するためには、繊維流の捕集距離を短くするか、又は樹脂粘度を高くするなどして繊維径を太くすることにより、固化するまでの時間を長くすることが好ましい。捕集距離は例えば5~100cmであり、好ましくは10~60cmである。樹脂粘度は、使用する樹脂及び溶融温度にもよるが、例えば10~100Pa・sであり、好ましくは20~50Pa・sである。
【0042】
第1繊維層1(第1繊維集合体)の目付W1は、通気性能及び捕集性能(異物の捕集効率及び/又は捕集容量)の観点から、好ましくは5~100g/m2であり、より好ましくは10~50g/m2以上である。目付W1が小さすぎると十分な濾過性能が得られにくい。目付W1が大きすぎると良好な通気性能が得られにくい。繊維積層体における第1繊維層1の密度(嵩密度)D1は、通気性能の観点から、好ましくは0.005~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.01~0.2g/cm3である。密度D1が大きすぎると通気性能が低下するおそれがある。密度D1が小さすぎると十分な濾過性能が得られにくく、また繊維積層体の機械的強度が低下するおそれがある。
【0043】
繊維積層体における第1繊維層1の厚みT1は、通気性能及び捕集性能(異物の捕集効率及び/又は捕集容量)の観点から、好ましくは0.3~5mmであり、より好ましくは0.4~3mmである。厚みT1を上記範囲にすることにより、上述の剛直性を示す第1繊維層1が得られやすくなり、また良好な通気性能及び捕集性能(捕集容量を含む。)を得ることができる。
【0044】
通気性能と捕集性能とのバランスの観点から、第1繊維層1(第1繊維集合体)の通気度は、フラジール形法による通気度で、好ましくは100~1000cc/cm2/sであり、より好ましくは110~800cc/cm2/sであり、さらに好ましくは120~500cc/cm2/s(例えば130~400cc/cm2/s)である。第1繊維層1の通気度が低すぎると繊維積層体の通気性能が不十分となりやすい。第1繊維層1の通気度が高すぎると十分な捕集性能が得られにくい。
【0045】
(2)第2繊維層
第2繊維層2は、第2繊維集合体で構成される層であり、第1主面(内側主面)21(第1繊維層1側の主面)は第1表面凹凸を有することができ、第2主面(外側主面)22は、第2表面凹凸を有することができる。第1主面21は、好ましくは第1表面凹凸からなり、第2主面22は、好ましくは第2表面凹凸からなる。繊維積層体の捕集性能及び通気性能を高める観点からは、本実施形態のように、少なくとも第1繊維層1の第1主面11が第1表面凹凸を有することが好ましく、第1繊維層1の第1主面11及び第2繊維層2の第1主面21の双方が第1表面凹凸を有することがより好ましい。また、第2繊維層2の第2主面22が第2表面凹凸を有していると、捕集性能及び通気性能の向上に有利となる。第2繊維層2の第1主面(内側主面)21及び第2主面(外側主面)22が有する凸部は、規則的に存在していてもよいしランダムに存在していてもよい。第2凸部の形状は特に制限されず、例えば円錐状、円柱状、角錐状、起毛状等であり得る。
【0046】
第2繊維層2の第1主面(内側主面)21が有する凸部の高さ及び密度については、第1繊維層1の第1主面(内側主面)11が有する凸部についての上の記述が引用される。
【0047】
繊維積層体の捕集性能を高める観点から、第2主面22の第2表面凹凸を構成する凸部の高さは、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、さらに好ましくは0.2mm以上(例えば0.3mm以上)である。当該凸部の高さは、通常5mm以下であり、好ましくは3mm以下(例えば2mm以下)である。当該凸部が低すぎてその高さが0.05mm未満であり、第2主面22が平滑であると、捕集性能の向上が認められないか、又は不十分となる。当該凸部が高すぎると繊維積層体の機械的強度の面で不利となる。また繊維積層体の捕集性能を高める観点から、第2表面凹凸における凸部の密度は、3個/cm2以上であることが好ましく、10個/cm2以上であることがより好ましい。当該凸部の密度は、通常50個/cm2以下であり、典型的には30個/cm2以下である。当該凸部の密度が過度に大きいと繊維積層体の通気性能に悪影響を与え得る。
【0048】
第2繊維層2を構成する第2繊維集合体は織布で構成されていてもよいが、好ましくは不織繊維集合体である。中でも、第2繊維集合体は、メルトブロー不織繊維集合体であることがより好ましい。メルトブロー法によれば、所望の平均繊維径を有する繊維からなる第2繊維集合体(第2繊維層2)を、熱エンボス等の別途の熱融着工程や接着剤等を用いた接着工程を実施することなく、予め作製された第1繊維層1上に積層、あるいはさらに密着させることが容易となる。
【0049】
第2繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径(第2平均繊維径)は、第1繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径(第1平均繊維径)よりも小さいことが好ましい。具体的には、第2平均繊維径は、好ましくは0.5~2μmであり、より好ましくは0.7~1.5μmである。第2平均繊維径が当該範囲であることにより、繊維積層体の捕集性能を高めることができ、また繊維積層体の通気性能と捕集性能とのバランスを向上させることができる。第2平均繊維径が小さすぎることは通気性能の点で不利となり得る。第2平均繊維径が大きすぎることは捕集性能の点で不利となり得る。
【0050】
第2繊維集合体を構成する繊維材質の具体例は、第1繊維集合体と同様であることができる。中でも、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましく用いられ、ポリオレフィン系樹脂がより好ましく用いられる。第2繊維集合体を構成する繊維は2種以上の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。ポリオレフィン系樹脂の中でも好ましく用いられるのは、ポリプロピレンである。ポリオレフィン系樹脂、とりわけポリプロピレンであれば、後述する帯電処理により容易に帯電させることができるので、帯電により濾過性能(捕集性能)がより高められた繊維積層体をより容易に得ることができる。
【0051】
第2繊維集合体を構成する繊維がポリプロピレンを含む場合において、当該繊維はポリプロピレンのみで構成されていてもよいし、ポリプロピレン以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。後者の場合、ポリプロピレンの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0052】
第2繊維集合体を構成する繊維は、慣用の添加剤、例えば、安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等)、抗菌剤、消臭剤、香料、着色剤(染顔料等)、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤等を含有していてもよい。添加剤は、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0053】
ポリプロピレンのメルトフローレート(MFR、230℃、21.18N荷重)は、好ましくは500g/10分以上であり、より好ましくは700g/10分以上である。MFRが500g/10分未満の場合、ノズルから吐出された繊維流が容易に細化されにくく、低い平均繊維径を保つことが難しくなる場合がある。ノズルからの樹脂吐出性の観点から、ポリプロピレンのMFRは、好ましくは2000g/分以下である。
【0054】
第2繊維集合体がメルトブロー不織繊維集合体である場合において、第2繊維集合体を構成する繊維の第2平均繊維径は、繊維流の捕集距離を第1繊維集合体製造時に比べて長くするなど、メルトブロー条件を調整することによって制御できる。
【0055】
第2繊維層2(第2繊維集合体)の目付W2は、第1繊維層1(第1繊維集合体)よりも小さいことが好ましく、通気性能及び捕集性能(異物の捕集効率及び/又は捕集容量)の観点から、好ましくは0.5~30g/m2であり、より好ましくは1~10g/m2以上である。目付W2が小さすぎると十分な捕集性能が得られにくい。目付W2が大きすぎると良好な通気性能が得られにくい。繊維積層体における第2繊維層2の密度(嵩密度)D2は、通気性能の観点から、好ましくは0.007~0.4g/cm3であり、より好ましくは0.015~0.3g/cm3である。密度D2が大きすぎると通気性能が低下するおそれがある。密度D2が小さすぎると十分な捕集性能が得られにくい。
【0056】
繊維積層体における第2繊維層2の厚みT2は、第1繊維層1の厚みよりも小さいことが好ましく、通気性能及び捕集性能(異物の捕集効率及び/又は捕集容量)の観点から、好ましくは0.01~2mmであり、より好ましくは0.03~1mm、さらに好ましくは0.03~0.5mm(例えば0.1mm以下)である。厚みT2を当該範囲にすることにより、通気性能と捕集性能とのバランスが良好となる。
【0057】
(3)繊維積層体
本実施形態に係る繊維積層体においては、表面凹凸を備えるだけでなく、通気性能と捕集性能とのより高度なバランスを付与するために、第1繊維層1と第2繊維層2との厚み比、目付比及び密度(嵩密度)比の少なくとも1つ(好ましくは2以上、より好ましくはすべて)を適切に調整することが好ましい。第1繊維層1の厚みT1と第2繊維層2の厚みT2との比T1/T2は、好ましくは4~25であり、より好ましくは6~20である。また、第1繊維層1の目付W1と第2繊維層2の目付W2との比W1/W2は、好ましくは3~20であり、より好ましくは4~15である。第1繊維層1の密度(嵩密度)D1と第2繊維層2の密度(嵩密度)D2との比D1/D2は、好ましくは0.2~0.99であり、より好ましくは0.3~0.8である。
【0058】
繊維積層体の厚み(全体の厚み)は、機械的強度及び取扱性の観点から、好ましくは0.4~7mmであり、より好ましくは0.5~5mmである。捕集性能、機械的強度及び取扱性の観点から、繊維積層体の目付(全体としての目付)は、5.5~120g/m2であり、より好ましくは10~60g/m2以上である。通気性能の観点から、繊維積層体の密度(全体としての密度(嵩密度))は、好ましくは0.005~0.5g/cm3であり、より好ましくは0.01~0.2g/cm3であり、さらに好ましくは0.1g/cm3以下(例えば0.01~0.1g/cm3)である。
【0059】
通気性能及び捕集性能とのバランスの観点から、繊維積層体の通気度は、フラジール形法による通気度で、好ましくは80~1000cc/cm2/sであり、より好ましくは100cc/cm2/s以上(例えば100~800cc/cm2/s)であり、さらに好ましくは110~500cc/cm2/s(例えば120~400cc/cm2/s)である。繊維積層体の通気度が高すぎると十分な捕集性能が得られにくい。
【0060】
本実施形態に係る繊維積層体は例えば濾材して好適に用いることができ、JIS T 8151に準拠して測定される捕集効率が85%以上、さらには90%以上となり得る。また本実施形態に係る繊維積層体は、JIS T 8151に準拠して測定される圧力損失が10Pa以下、さらには5Pa以下となり得る。さらに本実施形態に係る繊維積層体は、濾材性能を表すQF値が0.6以上、さらには0.8以上、なおさらには0.9以上(例えば1以上)となり得る。QF値の定義は、実施例の項に記載のとおりである。
【0061】
繊維積層体は、予め作製した第1繊維集合体(第1繊維層1)の第1主面11上に、メルトブロー法等により第2繊維集合体を形成する繊維を(好ましくは薄く)吹き付けることによって製造することができる。この方法によれば、第1主面11上に吹き付けられた繊維群は第1主面11上で、その表面に密着した状態(又は多くの部分が密着した状態)で固化するので、第1繊維層1と第2繊維層2との接合強度が良好な繊維積層体を得ることができる。これにより、上述のように、熱エンボス等の別途の熱融着工程や接着剤等を用いた接着工程が不要となる。熱融着による第1繊維層1と第2繊維層2との接合や、接着剤等の介在層の存在は、繊維積層体の通気性能を低下させやすい。
【0062】
予め作製した第1繊維集合体(第1繊維層1)の第1主面11上に、メルトブロー法等により第2繊維集合体(第2繊維層2)を(好ましくは薄く)形成する方法においては、第2繊維層2が有する第1表面凹凸及び第2表面凹凸の形状は、概して第1表面凹凸を反映したものとなることが多い。ただし、第2繊維層2が有する第1表面凹凸及び第2表面凹凸の形状は、そのすべてにおいて第1表面凹凸を反映したものである必要はない。
【0063】
本発明に係る繊維積層体は、捕集性能をさらに向上させるために、帯電処理がなされたもの(帯電性が付与されたもの)であってもよい。「帯電」とは、繊維積層体が電気を帯びている状態を指し、好適にはその表面電荷密度(ファラデーケージ[静電電荷量計]を用いて測定される電荷量を測定面積で除した値)が1.0×10-10クーロン/cm2以上、より好適には1.5×10-10クーロン/cm2以上、さらに好適には2.0×10-10クーロン/cm2以上である。
【0064】
繊維積層体に帯電性を付与する方法としては、摩擦、接触により電荷を付与する方法、活性エネルギー線(例えば電子線、紫外線、X線等)を照射する方法、コロナ放電、プラズマ等の気体放電を利用する方法、高電界を利用する方法、水等の極性溶媒を用いたハイドロチャージング法などの適宜のエレクトレット化処理が挙げられる。中でも、比較的に低い電力量で高い帯電性が得られることから、コロナ放電法、ハイドロチャージング法が好ましく、厚み方向に均一に帯電性を付与できることから、ハイドロチャージング法がより好ましい。
【0065】
ハイドロチャージング法では、例えば、水、有機溶媒等の極性溶媒(排水処理等の生産性の観点からは、好ましくは水)を、繊維積層体に噴霧したり、噴霧しながら振動させたりすることによって帯電させる。繊維積層体に衝突させる極性溶媒の圧力は、好ましくは0.1~5MPa、より好ましくは0.5~3MPaであり、下部からの吸引圧力は、好ましくは500~5000mmH2O、より好ましくは1000~3000mmH2Oである。ハイドロチャージングの処理時間は、好ましくは0.01~5秒、より好ましくは0.02~1秒である。ハイドロチャージング法を施した後の帯電させた繊維積層体は、例えば40~100℃、好ましくは50~80℃の温度で乾燥させることが好ましい。
【0066】
コロナ放電法に用いる装置及び条件は特に制限されず、例えば直流高電圧安定化電源を用い、例えば電圧を印加する電極間の直線距離:5~70mm(好ましくは10~30mm)、印加電圧:-50~-10kV及び/又は10~50kV(好ましくは-40~-20kV及び/又は20~40kV)、温度:常温(20℃)~100℃(好ましくは30~80℃)、処理時間:0.1~20秒(好ましくは0.5~10秒)の条件で行うことができる。
【0067】
本実施形態に係る繊維積層体は、濾材として好適に用いることができる。濾材の具体例は、人用のマスク、産業用濾材(例えば産業用エアー濾材)を含む。
【0068】
(他の実施形態)
図2~5を参照して、本発明の他の実施形態に係る繊維積層体について説明する。なお以下では、
図1に示される繊維積層体と異なる点についてのみ述べることとし、その他の点については第1実施形態についての上の記述が引用される。
【0069】
図2に示される繊維積層体は、第1繊維層1の第2主面12が比較的平滑な面(例えば凸部の高さが0.1mm未満である面)で構成されていること以外は
図1に示される繊維積層体と同様の構成を有している。
【0070】
図3に示されるように、第1繊維層1の第1表面凹凸と第2繊維層2の第1表面凹凸とは全面にわたって接触している必要はなく、第1繊維層1と第2繊維層2との間に両者が接触していない部分を有していてもよい。例えば、第2繊維層2の第1主面21の少なくとも一部に第1表面凹凸が形成されており、この領域において第1表面凹凸と第2繊維層2の第1表面凹凸とが接触している態様を挙げることができる。
【0071】
上述のように本発明においては、第1繊維層1の第1主面11及び第2繊維層2の第1主面21の少なくともいずれか一方に第1表面凹凸を有していればよく、例えば
図4に示されるように、第1繊維層1のみが第1表面凹凸を有する形態や、
図5に示されるように、第2繊維層2のみが第1表面凹凸を有を有する形態であってもよい。
【0072】
以上の実施形態においても、第1実施形態と同様、高い通気性能と高い捕集性能とを兼備することが可能である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における各物性値の測定方法は次のとおりである。
【0074】
〔1〕目付(g/m2)
JIS L 1913「一般不織布試験方法」に準じて、繊維積層体全体としての目付、及び第1繊維層、第2繊維層の各層の目付を測定した。
【0075】
〔2〕厚み(mm)
卓上顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製の「Miniscope TM3030」)を用いて、繊維積層体断面の50倍写真を撮影した。断面の露出にあたっては、カッターを用いて上から下に向かって押し切って(繊維積層体を切断した後、カッターを下から上に戻す操作を行うことなく)繊維積層体を切断した。得られた写真に基づき、第2繊維層の第2表面凹凸の凸部頂点から繊維積層体の裏面(第1繊維層の第2主面、凹凸がある場合は凸部頂点)までの厚み方向距離を任意の10か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定し、これらの平均値を、「繊維積層体の厚み」とした。また、上記写真に基づき、第1繊維層の第1表面凹凸(第1主面)の凸部頂点から繊維積層体の裏面(第1繊維層の第2主面、凹凸がある場合は凸部頂点)までの厚み方向距離を任意の10か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定し、これらの平均値を、「第1繊維層の厚み」とした。「繊維積層体の厚み」から「第1繊維層の厚み」を差し引いて、「第2繊維層の厚み」とした。
【0076】
〔3〕密度(嵩密度)(g/cm3)
上記〔1〕で得られた目付値を上記〔2〕で得られた厚みで除することにより、繊維積層体全体としての密度、及び第1繊維層、第2繊維層の各層の密度を求めた。
【0077】
〔4〕凸部の高さ(mm)
上記〔2〕で得られた写真に基づき、第1表面凹凸の凸部を除いた第1繊維層の表面から繊維積層体の裏面(第1繊維層の第2主面、凹凸がある場合は凸部頂点)までの厚み方向距離を任意の5か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定し、これらの平均値を求めた。上記〔2〕で得られた「第1繊維層の厚み」から当該平均値を差し引いて、第1繊維層における「第1表面凹凸の凸部の高さ」とした。
【0078】
また、上記〔2〕で得られた写真に基づき、第1表面凹凸(第1繊維層側の表面凹凸)の凸部を除いた第2繊維層の表面から第2繊維層の第2表面凹凸の凸部頂点までの厚み方向距離を任意の5か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定し、これらの平均値を求めた。上記〔2〕で得られた「第2繊維層の厚み」から当該平均値を差し引いて、第2繊維層における「第1表面凹凸の凸部の高さ」とした。
【0079】
なお、第2繊維層における「第2表面凹凸の凸部の高さ」は次のようにして測定される。上記〔2〕で得られた写真に基づき、第2表面凹凸の凸部を除いた第2繊維層の表面から繊維積層体の裏面(第1繊維層の第2主面、凹凸がある場合は凸部頂点)までの厚み方向距離を任意の5か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定し、これらの平均値を求める。上記〔2〕で得られた「繊維積層体の厚み」から当該平均値を差し引いて、第2繊維層における「第2表面凹凸の凸部の高さ」とする。
【0080】
〔5〕凸部の密度(個/cm2)
卓上顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製の「Miniscope TM3030」)を用いて、繊維積層体のMD方向に平行な断面の50倍写真を撮影した。断面の露出にあたっては、カッターを用いて上から下に向かって押し切って(繊維積層体を切断した後、カッターを下から上に戻す操作を行うことなく)繊維積層体を切断した。第1繊維層の第1表面凹凸の凸部頂点から繊維積層体の裏面(第1繊維層の第2主面、凹凸がある場合は凸部頂点)までの厚み方向距離を任意の10か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定し、これらの平均値の1/3の間隔(高さ)の位置に、厚み方向に垂直な線を引いた。この線から飛び出している凸部の1cm当たりの数を「MD凸部数」とした。CD方向に平行な断面についても同様に測定を行って「CD凸部数」を得た。そして、「MD凸部数」と「CD凸部数」との積として、第1繊維層における「第1表面凹凸の凸部の密度」を求めた。
【0081】
また、上で得られた写真に基づき、第2繊維層が有する第1表面凹凸の凸部頂点から第2繊維層の第2主面(凹凸がある場合は凸部を除いた面)までの厚み方向距離を任意の10か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定したこと以外は上記と同様にして、第2繊維層における「第1表面凹凸の凸部の密度」を求めた。
【0082】
なお、第2繊維層における「第2表面凹凸の凸部の密度」は次のようにして測定される。第2繊維層が有する第2表面凹凸の凸部頂点から第2繊維層の第1主面(凹凸がある場合は凸部を除いた面)までの厚み方向距離を任意の10か所(ただし、隣り合う2か所は、1mmの間隔を有する。)について測定し、これらの平均値の1/3の間隔(高さ)の位置に、厚み方向に垂直な線を引く。この線から飛び出している凸部の1cm当たりの数を「MD凸部数」とする。CD方向に平行な断面についても同様に測定を行って「CD凸部数」を得る。そして、「MD凸部数」と「CD凸部数」との積として、第2繊維層における「第2表面凹凸の凸部の密度」を求める。
【0083】
〔6〕平均繊維径(μm)
走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製の「Miniscope TM3030」)を用いて、第1繊維層、第2繊維層の表面を500倍に拡大した写真を撮影した。写真中の任意の100本の繊維の径を測定し、これらの平均値を平均繊維径とした。ただし、融着した繊維は繊維径を明確に測定できないため対象外とした。
【0084】
〔7〕通気性能
JIS L 1913「一般不織布試験方法」のフラジール形法に準拠して、繊維積層体の通気度(cc/cm2/s)を測定した。
【0085】
〔8〕捕集性能
〔8-1〕捕集効率(%)及び圧力損失(Pa)
JIS T 8151に準拠し、繊維積層体を11cmφの大きさに切り出してこれを濾過部8.6cmφの試料台にセットし(濾過面積:58.1cm2)、風量20L/分、面速度5.7cm/秒でNaCl粒子(平均粒径:0.1μm)を濾過したときの捕集効率(%)及び圧力損失(Pa)を測定した。
【0086】
〔8-2〕QF値
上記〔8-1〕で得られた捕集効率及び圧力損失から、下記式:
QF値=-ln(1-捕集効率(%)/100)/圧力損失(Pa)
に基づきQF値を算出した。
【0087】
<実施例1>
ポリプロピレン〔MFR(230℃、21.18N荷重)=30g/10分〕を溶融押出してノズル孔から吐出させ、熱風により細化させた繊維流を、コンベアネットが巻き付けられたロール上に捕集することにより、メルトブロー不織繊維集合体である第1表面凹凸を有する目付20.0g/m2の第1繊維集合体(第1繊維層)を得た。上記メルトブロー法の具体的条件は次のとおりである。
【0088】
・孔径:0.4mm、
・孔間隔:1.50mm、
・紡糸温度:260℃、
・単孔吐出量:0.3g/分・孔、
・噴出熱風の温度:260℃、
・噴出熱風の流量:13Nm3/min(1m)、
・ノズルからコンベアネットまでの距離:32cm、
・コンベアネットの種類:バランスタイプ(幅ピッチ5mm×長さピッチ5mm×厚み5mm、1mmφ)。
【0089】
次に、ポリプロピレン〔MFR(230℃、21.18N荷重)=700g/10分〕を用い、下記条件に従って、第1繊維層の第1表面凹凸上にメルトブロー不織繊維集合体である第1表面凹凸及び第2表面凹凸を有する目付2.7g/m2の第2繊維集合体(第2繊維層)を形成して、繊維積層体を得た。
【0090】
・孔径:0.3mm、
・孔間隔:0.75mm、
・紡糸温度:215℃、
・単孔吐出量:0.036g/分・孔、
・噴出熱風の温度:215℃、
・噴出熱風の流量:10Nm3/min(1m)、
・ノズルからコンベアネットまでの距離:11cm。
【0091】
実施例1で得られた繊維積層体の一断面の卓上顕微鏡写真を
図6に示す。第1繊維層が第1表面凹凸を有し、第2繊維層が第1表面凹凸及び第2表面凹凸を有することがわかる。第1表面凹凸を構成する凸部は、起毛状の凸部であった(実施例2~6においても同様。)。
【0092】
次に、得られた繊維積層体に対してハイドロチャージング法により帯電処理を施した。ハイドロチャージング法の具体的条件は次のとおりである。
【0093】
・使用溶媒:水、
・水の圧力:0.4MPa、
・吸引圧力:2000mmH2O、
・処理時間:0.042秒(処理幅14mm、速度20m/min)。
【0094】
<実施例2>
ノズルからコンベアネットまでの距離を15cmに変更したこと、及び目付を15.0g/m2としたこと以外は実施例1と同様にして第1繊維集合体(第1繊維層)を得た。その後は、実施例1と同様にして繊維積層体を製造した。
【0095】
<実施例3>
コンベアネットの種類をバランスタイプ(幅ピッチ2.5mm×長さピッチ3mm×厚み4mm、0.8mmφ)に変更したこと、及びノズルからコンベアネットまでの距離を20cmに変更したこと以外は実施例1と同様にして第1繊維集合体(第1繊維層)を得た。その後は、実施例1と同様にして繊維積層体を製造した。
【0096】
<実施例4>
第1繊維層の目付を10g/m2としたこと以外は実施例2と同様にして繊維積層体を製造した。
【0097】
<実施例5>
ノズルからコンベアネットまでの距離を25cmに変更したこと、及び目付を30.0gm2としたこと以外は実施例3と同様にして第1繊維集合体(第1繊維層)を得た。その後は、実施例3と同様にして繊維積層体を製造した。
【0098】
<実施例6>
第2繊維層の形成において、ノズルからコンベアネットまでの距離を40cmに変更したこと以外は実施例1と同様にして繊維積層体を製造した。この繊維積層体において、第2繊維層の第1主面(第1繊維層側表面)が有する凸部は、高さが最高でも0.005mmであった。
【0099】
<比較例1>
第1繊維層の形成において、コンベアネットの種類を200メッシュの平織ステンレス金網に変更したこと以外は実施例1と同様にして繊維積層体を製造した。この繊維積層体において、第1繊維層の第1主面(第2繊維層側表面)、及び第2繊維層の第1主面(第1繊維層側表面)が有する凸部は、高さが最高でも0.005mmであり、実施例の繊維積層体に比べて、圧力損失が高く、またQF値が高いものであった。
【0100】
実施例及び比較例で得られた繊維積層体について、上記〔1〕~〔8〕を測定した。結果を表1に示す。なお、通気度、捕集効率、圧力損失及びQF値は帯電処理後の値である。
【0101】
【符号の説明】
【0102】
1 第1繊維層、2 第2繊維層、11 第1繊維層の第1主面(第2繊維層側の主面)、12 第1繊維層の第2主面(第2繊維層とは反対側の主面)、21 第2繊維層の第1主面(第1繊維層側の主面)、22 第2繊維層の第2主面。