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特許7221127吸光分析装置、及び、吸光分析装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】吸光分析装置、及び、吸光分析装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20230206BHJP
【FI】
G01N21/3504
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019085100
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180912
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】志水 徹
(72)【発明者】
【氏名】坂口 有平
(72)【発明者】
【氏名】南 雅和
【審査官】古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-113664(JP,A)
【文献】特開2018-096974(JP,A)
【文献】特開2010-151624(JP,A)
【文献】特開平09-196846(JP,A)
【文献】特開平05-264452(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0034792(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0213380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 21/75 - G01N 21/83
G05D 7/00 - G05D 7/06
G05D 9/00 - G05D 11/16
G05D 21/00 - G05D 22/02
G05D 24/00 - G05D 29/00
C23C 16/00 - C23C 16/56
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを透過した光の強度を検出する検出器と、
前記ガスの全圧を測定する全圧センサと、
前記検出器の出力値と予め設定されたゼロ基準値とに基づき吸光度を算出する吸光度算出部と、
ゼロ校正時に前記検出器の測定領域に存在する干渉ガスの分圧と前記吸光度算出部で算出される吸光度との関係を示す分圧-吸光度関係データを記憶する分圧-吸光度関係記憶部と、
前記測定領域に既知の濃度の前記干渉ガスが存在する既知濃度状態において、前記全圧センサで測定された全圧と前記濃度とに基づいて、前記干渉ガスの分圧である干渉ガス分圧を算出する分圧算出部と、
前記干渉ガス分圧と前記分圧-吸光度関係データとに基づいて、前記干渉ガスの吸光度である干渉ガス吸光度を推定する吸光度推定部と、
前記干渉ガス吸光度と前記既知濃度状態における前記検出器の出力値とに基づいて、前記ゼロ基準値を更新するゼロ校正を行う校正部とを具備することを特徴とする吸光分析装置。
【請求項2】
前記校正部が、前記ゼロ基準値を以下の数1から算出されるIに更新するゼロ校正を行うものである請求項1記載の吸光分析装置。
【数1】
I:前記既知濃度状態で検出される前記検出器の出力値
A:前記干渉ガス吸光度
【請求項3】
前記吸光度算出部が、前記検出器の出力値、前記ゼロ基準値、及び、予め設定されたスパン吸光度に基づき規格化吸光度を算出するものであり、
前記分圧-吸光度関係記憶部が、ゼロ校正時に前記検出器の測定領域に存在する干渉ガスの分圧と前記吸光度算出部で算出される規格化吸光度との関係を示す分圧-規格化吸光度関係データを記憶するものであり、
前記分圧算出部が、前記測定領域に既知の濃度を有する前記干渉ガスが所定分圧で存在する第1分圧状態、及び、前記所定分圧と異なる分圧で存在する第2分圧状態において、それぞれ前記干渉ガス分圧を算出するものであり、
前記吸光度推定部が、前記各干渉ガス分圧と前記分圧-規格化吸光度関係データとに基づいて、前記第1分圧状態及び前記第2分圧状態における前記干渉ガスの規格化吸光度である干渉ガス規格化吸光度を推定するものであり、
前記校正部が、前記各干渉ガス規格化吸光度と前記第1分圧状態及び前記第2分圧状態における検出器の出力値とに基づいて、前記ゼロ基準値を更新するゼロ校正と前記スパン吸光度を更新するスパン校正とを行うものである請求項1記載の吸光分析装置。
【請求項4】
前記校正部が、前記スパン吸光度を以下の数2から算出されるAsに更新するスパン校正と、前記ゼロ基準値を以下の数2及び数3から算出されるIに更新するゼロ校正と、を行うものである請求項3記載の吸光分析装置。
【数2】
【数3】
r1:前記第1分圧状態における干渉ガス規格化吸光度
r2:前記第2分圧状態における干渉ガス規格化吸光度
:前記第1分圧状態で検出される検出器の出力値
:前記第2分圧状態で検出される検出器の出力値
【請求項5】
ガスを透過した光の強度を検出する検出器と、前記ガスの全圧を測定する全圧センサと、前記検出器の出力値と予め設定されたゼロ基準値とに基づき吸光度を算出する吸光度算出部とを備える吸光分析装置に用いられるプログラムであって、
ゼロ校正時に前記検出器の測定領域に存在する干渉ガスの分圧と前記吸光度算出部で算出される吸光度との関係を示す分圧-吸光度関係データを記憶する分圧-吸光度関係記憶部と、
前記測定領域に既知の濃度の前記干渉ガスが存在する既知濃度状態において、前記全圧センサで測定された全圧と前記濃度とに基づいて、前記干渉ガスの分圧である干渉ガス分圧を算出する分圧算出部と、
前記干渉ガス分圧と前記分圧-吸光度関係データとに基づいて、前記干渉ガスの吸光度である干渉ガス吸光度を推定する吸光度推定部と、
前記干渉ガス吸光度と前記既知濃度状態における前記検出器の出力値とに基づいて、前記ゼロ基準値を更新するゼロ校正を行う校正部としての機能をコンピュータに備えさせる、吸光分析装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光分析装置、及び、吸光分析装置用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造ラインに組み込まれ、成膜装置のチャンバ等へ供給される材料ガスの濃度を測定する吸光分析装置として、ガスを透過する光の強度を検出する検出器と、当該ガスの全圧を測定する全圧センサとを備えたものがある。
【0003】
なお、前記検出器は、例えば、ガスに光を照射する光源と、光源から射出された光の波長のうちで材料ガスが吸収する波長(以下、測定波長ともいう)の光を透過するフィルタと、ガスを透過した測定波長の光の強度を検出する受光部と、を備えた構造になっている。
【0004】
ところで、前記従来の吸光分析装置において、検出器をゼロ校正する場合には、検出器の測定領域に測定波長の光を吸収するガス(以下、干渉ガスともいう)が存在しない状態を作り出す必要がある。このため、従来の吸光分析装置においては、検出器を真空引きしたり、検出器を測定波長の光を吸収しないガス(例えば、Nガス)によってパージすることにより、前記状態を作り出して検出器のゼロ校正を行っていた。
【0005】
しかし、前記従来の吸光分析装置が組み込まれる半導体製造ラインによっては、プロセス上の理由により、前記状態を作り出すことができない場合があり、この場合、検出器をゼロ校正できない。なお、吸光分析装置は、検出器をゼロ校正できない状態が長期間続くと、ドリフトの影響が大きくなり、測定精度が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-224307号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、吸光分析装置において、検出器の測定領域に干渉ガスが存在していても、ゼロ校正できるようにすることを主な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る吸光分析装置は、ガスを透過した光の強度を検出する検出器と、前記ガスの全圧を測定する全圧センサと、前記検出器の出力値と予め設定されたゼロ基準値とに基づき吸光度を算出する吸光度算出部と、前記検出器の測定領域に存在する干渉ガスの分圧と前記吸光度算出部で算出される吸光度との関係を示す分圧-吸光度関係データを記憶する分圧-吸光度関係記憶部と、前記測定領域に既知の濃度を有する前記干渉ガスが存在する既知濃度状態において、前記全圧センサで測定された全圧と前記濃度とに基づいて、前記干渉ガスの分圧である干渉ガス分圧を算出する分圧算出部と、前記干渉ガス分圧と前記分圧-吸光度関係データとに基づいて、前記干渉ガスの吸光度である干渉ガス吸光度を推定する吸光度推定部と、前記干渉ガス吸光度と前記既知濃度状態における前記検出器の出力値とに基づいて、前記ゼロ基準値を更新するゼロ校正を行う校正部とを具備することを特徴とするものである。
【0009】
このようなものであれば、測定領域に既知の濃度を有する干渉ガスが存在する既知濃度状態において、全圧センサで測定された全圧と前記濃度とに基づいて、当該干渉ガスの分圧である干渉ガス分圧を算出し、当該干渉ガス分圧と予め記憶した当該干渉ガスの分圧と吸光度との関係を示す分圧-吸光度関係データとに基づいて、当該干渉ガスの吸光度である干渉ガス吸光度を推定し、当該干渉ガス吸光度と前記既知濃度状態における検出器の出力値に基づいて、ゼロ基準値を更新するゼロ校正するように構成したので、検出器の測定領域に干渉ガスが存在しない状態を作り出さなくても、ゼロ校正を行うことができる。その結果、プロセスを停止させることなく、定期的に検出器をゼロ校正できるようになり、吸光分析装置の分析精度を低下させることなく維持できる。
【0010】
なお、本発明のゼロ校正時に用いられる干渉ガスとは、検出器の測定波長に吸収を有するものであり、既知の濃度を有するものである。
【0011】
また、前記校正部の具体的な構成としては、前記校正部が、前記ゼロ基準値を以下の数1から算出されるIに更新するゼロ校正を行うものが挙げられる。
【数1】
ここで、Iは前記既知濃度状態で検出される検出器の出力値、Aは前記干渉ガス吸光度である。
【0012】
また、前記検出器のゼロ校正に加えてスパン校正を行う場合には、前記吸光度算出部が、前記検出器の出力値、前記ゼロ基準値、及び、予め設定されたスパン吸光度に基づき規格化吸光度を算出するものであり、前記分圧-吸光度関係記憶部が、前記検出器の測定領域に存在する干渉ガスの分圧と前記吸光度算出部で算出される規格化吸光度との関係を示す分圧-規格化吸光度関係データを記憶するものであり、前記分圧算出部が、前記測定領域に既知の濃度を有する前記干渉ガスが所定分圧で存在する第1分圧状態、及び、前記所定分圧と異なる分圧で存在する第2分圧状態において、それぞれ前記干渉ガス分圧を算出するものであり、前記吸光度推定部が、前記各干渉ガス分圧と前記分圧-規格化吸光度関係データとに基づいて、前記第1分圧状態及び前記第2分圧状態における前記干渉ガスの規格化吸光度である干渉ガス規格化吸光度を推定するものであり、前記校正部が、前記各干渉ガス規格化吸光度と前記第1分圧状態及び前記第2分圧状態における検出器の出力値とに基づいて、前記検出器の前記ゼロ基準値を更新するゼロ校正と前記検出器の前記スパン吸光度を更新するスパン校正とを行うようにすればよい。
【0013】
このようなものであれば、検出器の測定領域に干渉ガスが存在しない状態を作り出さなくても、ゼロ校正ができるだけでなくスパン校正もできる。その結果、プロセスを停止させることなく、定期的に検出器をゼロ校正できるようになり、吸光分析装置の分析精度を低下させることなく維持できる。
【0014】
また、前記検出器の具体的な構成としては、前記校正部が、前記スパン吸光度を以下の数2から算出されるAsに更新するスパン校正と、前記ゼロ基準値を以下の数2及び数3から算出されるIに更新するゼロ校正と、を行うものが挙げられる。
【数2】
【数3】
ここで、Ar1は前記第1分圧状態における干渉ガス規格化吸光度、Ar2は前記第2分圧状態における干渉ガス規格化吸光度、Iは前記第1分圧状態で検出される検出器の出力値、Iは前記第2分圧状態で検出される検出器の出力値である。
【0015】
また、本発明に係る吸光分析装置用プログラムは、ガスを透過した光の強度を検出する検出器と、前記ガスの全圧を測定する全圧センサと、前記検出器の出力値と予め設定されたゼロ基準値とに基づき吸光度を算出する吸光度算出部とを備える吸光分析装置に用いられるものであって、前記検出器の測定領域に存在する干渉ガスの分圧と前記吸光度算出部で算出される吸光度との関係を示す分圧-吸光度関係データを記憶する分圧-吸光度関係記憶部と、前記測定領域に既知の濃度を有する前記干渉ガスが存在する既知濃度状態において、前記全圧センサで測定された全圧と前記濃度とに基づいて、前記干渉ガスの分圧である干渉ガス分圧を算出する分圧算出部と、前記干渉ガス分圧と前記分圧-吸光度関係データとに基づいて、前記干渉ガスの吸光度である干渉ガス吸光度を推定する吸光度推定部と、前記干渉ガス吸光度と前記既知濃度状態における前記検出器の出力値とに基づいて、前記検出器の前記ゼロ基準値を更新するゼロ校正を行う校正部としての機能を発揮させるものである。
【0016】
このように構成した吸光分析装置によれば、検出器の測定領域に干渉ガスが存在しない状態を作り出すことなくても、検出器をゼロ校正できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る吸光分析装置が接続された気化装置を示す模式図である。
図2】実施形態に係る検出器を示す模式図である。
図3】実施形態に係る検出器の変形例を示す模式図である。
図4】実施形態に係る吸光分析装置を示すブロック図である。
図5】実施形態に係る吸光分析装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る吸光分析装置を図面に基づいて説明する。
【0019】
本発明に係る吸光分析装置は、例えば半導体製造ライン等に組み込まれて用いられるものである。具体的には、吸光分析装置は、半導体製造ラインの気化装置で生成されてチャンバへ供給されるガスの濃度を測定するために用いられるものである。そこで、以下の実施形態においては、気化装置に設けられた状態の吸光分析装置を説明する。
【0020】
<実施形態> 先ず、本実施形態に係る気化装置100について詳細を説明する。気化装置100は、所謂希釈式(流量式)のものである。具体的には、図1に示すように、気化装置100は、液体又は固体の材料を貯留する気化タンク10と、気化タンク10にキャリアガスを供給するキャリアガス供給路L1と、材料が気化した材料ガスを気化タンク10から導出してチャンバCHへ供給する材料ガス導出路L2と、キャリアガス供給路L1及び材料ガス導出路L2を接続する迂回流路L3と、材料ガスを希釈する希釈ガスを材料ガス導出路L2に供給する希釈ガス供給路L4と、チャンバCHへ材料ガスを供給する材料ガス供給モードとチャンバCHへキャリアガスのみを供給するキャリアガス供給モードとを切り替えるための切替機構20と、を具備している。
【0021】
前記キャリアガス供給路L1には、キャリアガスの流量を制御する第1流量制御機器MFC1が設けられている。第1流量制御機器MFC1は、例えば、熱式の流量センサと、ピエゾバルブ等の流量調整弁と、CPUやメモリ等を備えた制御回路とを具備したマスフローコントローラである。なお、キャリアガス供給路L1は、既知の濃度の干渉ガスを含むキャリアガスを供給するように構成されている。
【0022】
前記材料ガス導出路L2には、後述する吸光分析装置200が設けられている。なお、具体的には、吸光分析装置200は、材料ガス導出路L2の希釈ガス供給路L3との接続箇所よりも下流側に設けられている。
【0023】
前記希釈ガス供給路L4には、希釈ガスの流量を制御する第2流量制御機器MFC2が設けられている。第2流量制御機器MFC2は、第1流量制御機器MFC1と同様、例えば、熱式の流量センサと、ピエゾバルブ等の流量調整弁と、CPUやメモリ等を備えた制御回路とを具備したマスフローコントローラである。
【0024】
前記切替機構20は、バルブ切替信号を受け付けて開閉する複数のバルブV1~V4を有している。そして、例えば、ユーザが、切替機構20のバルブV1~V4を予め設定したタイミングで開閉することにより、材料ガス供給モード又はキャリアガス供給モードへ切り替えられるようになっている。
【0025】
具体的には、前記切替機構20は、キャリアガス供給路L1における迂回流路L3との接続箇所よりも下流側に設けられた第1バルブV1と、材料ガス導出路L2における迂回流路L3との接続箇所よりも上流側に設けられた第2バルブV2と、迂回流路L3に設けられた第3バルブV3と、希釈ガス供給路L4に設けられた第4バルブV4と、を備えている。
【0026】
そして、前記切替機構20は、第1バルブV1、第2バルブV2、及び、第4バルブV4を開くと共に第3バルブV3を閉じることにより、材料ガス導出路L2からチャンバCHへ材料ガスが供給される材料ガス供給モードに切り替わるように構成されている。
【0027】
一方、前記切替機構20は、第1バルブV1、第2バルブV2、及び、第4バルブV4を閉じると共に第3バルブV3を開くことにより、材料ガス導出路L2からチャンバCHへキャリアガスのみが供給されるキャリアガス供給モードに切り替わるように構成されている。
【0028】
なお、前記気化装置100は、材料ガス供給モードへ切り替えられると、吸光分析装置200によって測定される材料ガスの濃度が予め定められた設定濃度に近づくように、第1流量制御装置MFC1及び第2流量制御装置MFCをフィードバック制御する図示しない濃度制御部を備えている。
【0029】
次に、本実施形態に係る吸光分析装置200について説明する。前記吸光分析装置200は、材料ガス導出路L2に設置された全圧センサ30及び検出器40と、検出器40の出力値に基づき吸光度を算出する吸光度算出部50と、制御部60と、を備えている。なお、検出器40は、全圧センサ30よりも下流側に設置されている。
【0030】
前記全圧センサ30は、材料ガス導出路L2を流れるガスの全圧を測定するものである。
【0031】
前記検出器40は、材料ガス導出路L2を流れるガスを透過した光の強度を検出するものである。具体的には、検出器40は、図2に示すように、材料ガス導出路L2を流れるガスに光を照射する光源41と、光源41から射出された光の波長のうちで材料ガス(測定対象ガス)が吸収する波長(以下、測定波長ともいう)の光を透過するフィルタ42と、フィルタ42を透過した測定波長の光の強度を検出する受光部43と、を備えている。なお、検出器40は、材料ガス導出路L2における光源41から射出された光が透過する領域を測定領域Zとした場合、測定領域Zの一方側に光源41が配置され、測定領域Zの他方側にフィルタ42及び受光部43が配置されている。また、光源41と材料ガス導出路L2との間、及び、フィルタ42と材料ガス導出路L2との間には、それぞれ窓部材44が設けられている。これにより、光源41、フィルタ42及び受光部43が、材料ガス導出路L2を流れるガスと直接接触しないようになっている。そして、検出器40は、測定領域Zに存在するガスを透過した光の強度を示す受光部43の出力信号を出力値として出力する。
【0032】
なお、前記検出器40は、図3に示すように、測定領域Zの他方側にフィルタ42及び受光部43に加えて、材料ガスが吸収しない波長の光を透過するリファレンス用フィルタ42rと、リファレンス用フィルタ42rを透過した波長の光の強度を検出するリファレンス用受光部43rと、を備えるものであってもよい。この場合、検出器40の出力値として、受光部43の出力信号とリファレンス用受光部43rの出力信号との比を用いることもできる。
【0033】
また、前記吸光度算出部50は、検出器40の出力値と予め設定されたゼロ基準値とに基づき吸光度を算出するものである。ここで、ゼロ基準値は、干渉ガスが存在しない状態で検出される検出器40の出力値である。なお、吸光度算出部50は、具体的には、次の数4に基づき吸光度Aを算出する。
【数4】
ここで、Iは検出器の出力値、Iはゼロ基準値である。
【0034】
前記制御部60は、ゼロ校正実施信号を受付けた場合に、ゼロ基準値を更新するゼロ校正を行うものである。なお、制御部60は、気化装置100がキャリアガス供給モードに切り替えられた状態、言い換えれば、材料ガス導出路L2からチャンバCHへ既知の濃度の干渉ガスを含むキャリアガスが供給されている状態でゼロ校正を行うようになっている。具体的には、制御部60は、気化装置100がキャリアガス供給モードに切り替えられた後、圧力等が十分に安定した時点で気化装置100から制御部60へ送信されるゼロ校正実施信号を受付けてゼロ校正を行うものである。
【0035】
具体的には、前記制御部60は、全圧センサ30及び検出器40に接続されたものであり、CPU、メモリ、ADコンバータ、DAコンバータ、入力部等を有したコンピュータである。そして、制御部60は、前記メモリに格納されたプログラムをCPUによって実行することによって、図4に示すように、分圧-吸光度関係記憶部61、既知濃度記憶部62、分圧算出部63、吸光度推定部64、校正部65等としての機能を発揮するように構成されている。
【0036】
前記分圧-吸光度関係記憶部61は、ゼロ校正時に検出器40の測定領域Zに存在する干渉ガスの分圧と吸光度算出部50で算出される吸光度との関係を示す分圧-吸光度関係データを記憶するものである。なお、本実施形態の分圧-吸光度関係記憶部61は、吸光分光装置200の出荷前に取得した干渉ガスの分圧と吸光度との関係を示す分圧-吸光度関係データを記憶する。
【0037】
前記既知濃度記憶部62は、干渉ガスの既知の濃度を記憶するものである。本実施形態の既知濃度記憶部62は、キャリアガス供給路L1から供給されるキャリアガスに含まれる干渉ガスの既知の濃度を記憶するものである。なお、前記濃度は、0~100%から選択されるいずれの値であってもよい。
【0038】
前記分圧算出部63は、検出器40の測定領域Zに既知の濃度を有する干渉ガスが存在する既知濃度状態において、全圧センサ30で測定された全圧と、既知濃度記憶部62に記憶された干渉ガスの既知の濃度とに基づいて、干渉ガスの分圧である干渉ガス分圧を算出するものである。なお、本実施形態の分圧算出部53は、ゼロ校正実施信号を受付けた場合に干渉ガス分圧を算出する。
【0039】
前記吸光度推定部64は、分圧算出部63で算出された干渉ガス分圧と、分圧-吸光度関係記憶部61に記憶された分圧-吸光度関係データとに基づいて、干渉ガスの吸光度である干渉ガス吸光度を推定するものである。なお、本実施形態の吸光度推定部64は、キャリアガスに含まれる干渉ガス吸光度を推定する。
【0040】
前記校正部65は、吸光度推定部54で推定された干渉ガス吸光度と、測定領域Zに既知の濃度の干渉ガスが存在する既知濃度状態において、当該検出器40で検出される出力値とに基づいて、ゼロ基準値を更新するゼロ校正を行うものである。具体的には、校正部65は、吸光度推定部64で推定された干渉ガス吸光度Aと、前記既知濃度状態で検出される検出器40の出力値Iと、を前記数1に代入してIを算出し、ゼロ基準値を当該Iに更新するゼロ校正を行うものである。なお、本実施形態の校正部65は、吸光度推定部64で推定された干渉ガス吸光度Aと、ゼロ校正実施信号受付時に検出された検出器40の出力値Iと、を前記数1に代入してIを算出し、ゼロ基準値を当該Iに更新するゼロ校正を行う。
【0041】
次に、本実施形態に係る吸光分析装置200の校正動作を説明する。
【0042】
先ず、吸光分析装置200が、気化装置100からゼロ校正実施信号を受付ける(ステップS1)。そうすると、分圧算出部63が、全圧センサ30で測定されるキャリアガスの全圧を取得すると共に、校正部65が、検出器40で検出された検出値を取得する(ステップS2)。
【0043】
次に、分圧算出部63は、取得した全圧と、既知濃度記憶部62に記憶されたキャリアガスに含まれる干渉ガスの既知の濃度とに基づいて、キャリアガスに含まれる干渉ガスの分圧である干渉ガス分圧を算出する(ステップS3)。
【0044】
次に、吸光度推定部64が、分圧算出部53で算出された干渉ガス分圧と、分圧-吸光度関係記憶部61に記憶された分圧-吸光度関係データとに基づいて、キャリアガスに含まれる干渉ガスの吸光度である干渉ガス吸光度を推定する(ステップS4)。
【0045】
そして、校正部65は、取得した検出部40の出力値Iと、吸光度推定部64で推定された干渉ガス吸光度Aと、を前記数1に代入してIを算出し、ゼロ基準値を当該Iに更新するゼロ校正を行う(ステップS5)。
【0046】
このようなものであれば、気化装置100からチャンバCHへキャリアガス又は材料ガスのいずれかを常時供給し続けるようなプロセスであったとしても、気化装置100がキャリアガス供給モードに切り替えられた状態において、検出器40のゼロ校正を行うことができる。その結果、吸光分析装置200の測定精度を維持できる。
【0047】
なお、本実施形態の検出器40のゼロ校正を行う場合には、吸光分析装置200が設置される材料ガス導出路L2に対し、既知の濃度の干渉ガスが含まれるガスが流れる状態を作り出せばよい。
【0048】
よって、次のような変形例であっても検出器40のゼロ校正を行うことができる。すなわち、例えば、希釈ガス供給路L4からキャリアガスと同成分の希釈ガスが供給されるようにする。そして、切替機構20によって、チャンバCHに対し、材料ガスが供給される材料ガス供給モードと、希釈ガスのみが供給される希釈ガス供給モードとに切り替えられるように構成する。このようなものであっても、気化装置100を希釈モード供給モードへ切り替えることにより、材料ガス導出路L2からチャンバCHに対し、既知の濃度の干渉ガスが含まれる希釈ガスが流れる状態を作り出すことができ、検出器40のゼロ校正を行うことができる。
【0049】
さらに、切替機構20によって、チャンバCHに対し、材料ガスが供給される材料ガス供給モードとキャリアガス及び希釈ガスが既知の割合で混合された混合ガスが供給される混合ガス供給モードとに切り替えられるように構成する。このようなものであっても、気化装置200を混合ガス供給モードへ切り替えることにより、材料ガス導出路L2からチャンバCHに対し、既知の濃度の干渉ガスが含まれる混合ガスが流れる状態を作り出すことができ、検出器40のゼロ校正を行うことができる。
【0050】
なお、前記実施形態においては、材料ガス導出路L2からチャンバCHへ既知の濃度の干渉ガスを含むガスが流れている状態でゼロ校正を行っているが、例えば、材料ガス導出路L2に当該ガスを流した後に、全圧センサ30の上流側及び検出器40の下流側を図示しない開閉弁等によって封止し、この状態でゼロ校正を行うこともできる。
【0051】
<その他の実施形態> その他の実施形態として、吸光度算出部50が、検出器40の出力値、予め設定されたゼロ基準値、及び、予め設定されたスパン吸光度に基づき規格化吸光度を算出するものであり、校正部65が、ゼロ基準値を更新するゼロ校正に加えて、スパン吸光度を更新するスパン校正を行うものが挙げられる。なお、この場合、吸光度算出部50は、具体的には、次の数5に基づき規格化吸光度Arを算出する。
【数5】
ここで、Iは検出器の出力値、Iはゼロ基準値、Asはスパン吸光度である。
【0052】
具体的には、前記実施形態において、気化装置100をキャリアガス供給モードへ切り替えた状態において、材料ガス導出路L2へ干渉ガスが所定分圧になる条件でキャリアガスが供給される第1分圧状態と、材料ガス導出路L2へ干渉ガスが前記所定分圧と異なる分圧になる条件でキャリアガスが供給される第2分圧状態とを作り出す。具体的には、キャリアガス供給路L1から供給されるキャリアガスの圧力を変えたり、キャリアガス供給路L1から供給されるキャリアガスに含まれる干渉ガスの濃度を変えて、前記第1分圧状態及び前記第2分圧状態を作り出す。
【0053】
また、分圧-吸光度関係記憶部61に、ゼロ校正時に測定領域Zに存在する干渉ガスの分圧と吸光度算出部50で算出される規格化吸光度との関係を示す分圧-規格化吸光度関係データを記憶する。
【0054】
そして、分圧算出部62が、第1分圧状態及び第2分圧状態において、それぞれ前記干渉ガス分圧を算出し、吸光度推定部63が、各干渉ガス分圧と分圧-規格化吸光度関係データとに基づいて、第1分圧状態及び第2分圧状態における干渉ガスの規格化吸光度である干渉ガス規格化吸光度を推定し、校正部65が、各干渉ガス規格化吸光度と第1分圧状態及び第2分圧状態における検出器40の出力値とに基づいて、ゼロ基準値を更新するゼロ校正と、スパン吸光度を更新するスパン校正とを行うようにすればよい。
【0055】
具体的には、校正部65は、第1分圧状態における検出器40の出力値 と干渉ガス規格化吸光度 r1 と、第2分圧状態における検出器40の出力値 と干渉ガス規格化吸光度 r2 と、を数2及び数3に代入してIとAsとを算出し、ゼロ基準値を当該Iに更新するゼロ校正と、スパン吸光度を当該Asに更新するスパン校正を行うようにすればよい。
【0056】
また、その他の実施形態としては、気化装置100が、材料ガス導出路L2へ既知の濃度の干渉ガスを供給する干渉ガス供給路を別途備えるものであってもよい。この場合、干渉ガスは、既知の濃度のものであれば、どのようなガスであってもよい。例えば、干渉ガスは、材料ガスと同成分のガスであってもよく、キャリアガスと同成分のガスであってもよく、その他の校正用ガスであってもよい。
【0057】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
100 気化装置
10 気化タンク
L1 キャリアガス供給路
L2 材料ガス導出路
L3 迂回流路
L4 希釈ガス供給路
20 切替機構
MFC1 第1流量制御機器
MFC2 第2流量制御機器
200 吸光分析装置
30 全圧センサ
40 検出器
50 吸光度算出部
60 制御部
61 分圧―吸光度関係記憶部
62 既知濃度記憶部
63 分圧算出部
64 吸光度推定部
65 校正部
図1
図2
図3
図4
図5