(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-03
(45)【発行日】2023-02-13
(54)【発明の名称】誘電エラストマートランスデューサーの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02N 11/00 20060101AFI20230206BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
(21)【出願番号】P 2019566997
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2019000671
(87)【国際公開番号】W WO2019146429
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2018011629
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514285911
【氏名又は名称】千葉 正毅
(73)【特許権者】
【識別番号】510244754
【氏名又は名称】和氣 美紀夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】千葉 正毅
(72)【発明者】
【氏名】和氣 美紀夫
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昌克
(72)【発明者】
【氏名】大石 和弘
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-124875(JP,A)
【文献】特開2017-28769(JP,A)
【文献】特開2016-201995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電エラストマー層と、前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層と、を備える誘電エラストマートランスデューサーの製造方法であって、
前記誘電エラストマー層の引張側の応力歪み曲線が、歪みが0である状態を含む領域であり且つ傾きが相対的に大である小歪み高弾性率領域と、前記小歪み高弾性率領域に対して大歪み側に繋がり且つ傾きが相対的に小である低弾性率領域と、前記低弾性率領域に対して大歪み側に繋がり且つ傾きが相対的に大であるかまたは破断点を含む大歪み領域と、を有し、
前記一対の電極層を設ける前の前記誘電エラストマー層に、第1荷重以上の荷重を付与することにより前記低弾性率領域に含まれる大きさである第1張力を生じさせる伸長処理を1回以上行うことにより、前記誘電エラストマー層の弾性挙動におけるヒステリシスを縮小させる予備伸縮工程と、
前記予備伸縮工程の後に、前記誘電エラストマー層に前記第1荷重よりも小さい第2荷重を与えることにより、前記第1張力よりも小さい第2張力が生じた状態で、前記誘電エラストマー層を支持部材に固定する、誘電エラストマー層固定工程と、
を備える、誘電エラストマートランスデューサーの製造方法。
【請求項2】
前記予備伸縮工程における最終の前記伸長処理に引き続き、前記誘電エラストマー層の張力を前記第1張力から前記第2張力に単純減少させて、前記誘電エラストマー層固定工程を行う、請求項1に記載の誘電エラストマートランスデューサーの製造方法。
【請求項3】
前記予備伸縮工程においては、前記伸長処理を1回のみ行う、請求項1または2に記載の誘電エラストマートランスデューサーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電エラストマートランスデューサーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの変換効率に優れたトランスデューサーとして、誘電エラストマー層を有する誘電エラストマートランスデューサーが注目されている。この誘電エラストマートランスデューサーは、誘電エラストマー層の変形(伸縮及び収縮)を利用して、任意のエネルギーを他のエネルギーに変換する。
【0003】
たとえば、外力を受けた際の誘電エラストマー層の変形を用いて発電を行うことにより、力学的エネルギーを電気エネルギーに変換する場合、誘電エラストマートランスデューサーは、発電素子として機能する。また、一対の電極に電荷を付与した際の誘電エラストマー層の変形を利用して駆動力を発揮させる場合、誘電エラストマートランスデューサーは、アクチュエータとして機能する。
【0004】
誘電エラストマートランスデューサーの駆動効率や発電効率を高めるには、誘電エラストマー層の伸縮量を増大させることが好ましい。しかしながら、誘電エラストマー層は、金属等の固体や、液体とは異なる、非常に柔軟性に富んだ材質からなる。このため、誘電エラストマー層を顕著に伸縮させる場合に、動作の再現性が不確実になる場合があるという問題が判明しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、より再現性良く動作することが可能な誘電エラストマートランスデューサーの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供される誘電エラストマートランスデューサーの製造方法は、誘電エラストマー層と、前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層と、を備える誘電エラストマートランスデューサーの製造方法であって、前記誘電エラストマー層の引張側の応力歪み曲線が、歪みが0である状態を含む領域であり且つ傾きが相対的に大である小歪み高弾性率領域と、前記小歪み高弾性率領域に対して大歪み側に繋がり且つ傾きが相対的に小である低弾性率領域と、前記低弾性率領域に対して大歪み側に繋がり且つ傾きが相対的に大であるかまたは破断点を含む大歪み領域と、を有し、前記一対の電極層を設ける前の前記誘電エラストマー層に、第1荷重以上の荷重を付与することにより前記低弾性率領域に含まれる大きさである第1張力を生じさせる伸長処理を1回以上行うことにより、前記誘電エラストマー層の弾性挙動におけるヒステリシスを縮小させる予備伸縮工程と、前記予備伸縮工程の後に、前記誘電エラストマー層に前記第1荷重よりも小さい第2荷重を与えることにより、前記第1張力よりも小さい第2張力が生じた状態で、前記誘電エラストマー層を支持部材に固定する、誘電エラストマー層固定工程と、を備える。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記予備伸縮工程における最終の前記伸長処理に引き続き、前記誘電エラストマー層の張力を前記第1張力から前記第2張力に単純減少させて、前記誘電エラストマー層固定工程を行う。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記予備伸縮工程においては、前記伸長処理を1回のみ行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より再現性良く動作することが可能な誘電エラストマートランスデューサーを製造することができる。
【0011】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】誘電エラストマー層の応力ひずみ線図の一例を示すグラフである。
【
図2】本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーの製造方法の一例を示す説明図である。
【
図3】本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーの一例を示す斜視図である。
【
図5】実施例および比較例の応力ひずみ線図(長さ張力線図)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーに用いられる誘電エラストマー層の応力ひずみ線図の一例を示している。
【0015】
誘電エラストマー層は、エラストマー(ゴム状弾性を有する高分子化合物)のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。エラストマーの種類は、特に限定されないが、例えば、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー及びエネルギー線硬化性エラストマー等である。
【0016】
熱硬化性エラストマーの種類は、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコーンゴム系エラストマー、ウレタンゴム系エラストマー及びフッ素ゴム系エラストマー等である。
【0017】
熱可塑性エラストマーの種類は、特に限定されないが、例えば、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アミド系エラストマー及びエステル系エラストマー等である。塩化ビニル系エラストマーは、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)等である。
【0018】
エネルギー線硬化性エラストマーは、任意のエネルギー線のうちのいずれか1種類又は2種類以上を用いて硬化されるエラストマーである。エネルギー線の種類は、特に限定されないが、例えば、電波、紫外線、可視光線及び赤外線等であり、より具体的には、電磁波エネルギー線及び高エネルギー線等である。エネルギー線のうちの光(波長=200nm~700nm)の光源は、例えば、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、水銀蒸気アーク灯、キセノンアーク灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、エキシマーランプ、殺菌灯、発光ダイオード及びCRT光源等である。中でも、波長が300nm~450nmである光を発生させる超高圧水銀ランプ、水銀蒸気アーク灯、カーボンアーク灯及びキセノンアーク灯等が好ましい。電波は、産業科学医療用(ISM)として電波法により定められた周波数帯や、欧米などで使われる915MHz帯が挙げられる。高エネルギー線は、例えば、電子線、X線及び放射線等である。
【0019】
但し、誘電性エラストマー層は、上記したエラストマーと共に、他の材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいてもよい。この他の材料は、例えば、各種の添加剤等である。
【0020】
図1における横軸の歪みεは、たとえば帯状の誘電エラストマー層を長手方向に伸縮させる場合、長手方向における1次元の歪みである。誘電エラストマー層は、通常様々な形状とされ、伸縮方向は、1次元の場合、2次元以上の場合、等様々である。伸縮方向が2次元である場合、歪みεは、誘電エラストマー層の形状および伸縮方向から適切に決定される代表長さについての歪みである。
【0021】
発明者らの研究により、誘電エラストマー層の応力ひずみ線図は、小歪み高弾性率領域、低弾性率領域および大歪み領域を有するという知見が得られた。小歪み高弾性領域は、歪みεが0である状態を含み、傾きが相対的に大であり、言い換えると相対的に高弾性な領域である。低弾性率領域は、小歪み高弾性領域と比べて傾きが相対的に小であり、言い換えると相対的に低弾性な領域である。大歪み領域は、低弾性率領域に対して大歪み側に繋がる領域である。大歪み領域においては、たとえば低弾性率領域と比べて傾きが相対的に大である場合がある。あるいは、大歪み領域においては、たとえば低弾性率領域と比べて傾きが顕著には相違しないものの、破断点を含む場合がある。以降に説明する誘電エラストマートランスデューサーの製造方法においては、このような応力ひずみ線図を呈する誘電エラストマー層を用いることを前提とする。また、応力ひずみ線図の縦軸は、以降の説明における張力に相当する。
【0022】
図2は、本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーの製造方法を模式的に表す説明図である。同図においては、後述の誘電エラストマートランスデューサーA1に用いられる誘電エラストマー層11を用いた場合を説明する。なお、誘電エラストマー層11の形状は特に限定されず、後述の例においては、誘電エラストマー層11は円環形状である。この場合、誘電エラストマー層11の代表長さは、径方向寸法等であるが、同図においては、理解の便宜上、誘電エラストマー層11を帯状の形状で表し、長手方向(左右方向)に伸縮を行う場合を例に説明する。
【0023】
まず、同図(a)に示すように、誘電エラストマー層11の材料となる原反材料から、誘電エラストマー層11となるべき部分を取得しておく。この際の、誘電エラストマー層11の代表長さは、長さL0である。
【0024】
<予備伸縮工程>
次に、同図(b),(c)に示すように、予備伸縮工程を行う。予備伸縮工程においては、誘電エラストマー層11に第1荷重以上の荷重を付与することにより、第1張力を生じさせる伸長処理を1回以上行う。第1張力は、誘電エラストマー層に生じる歪みが、低弾性率領域に含まれる大きさである。図示された例においては、同図(b)に示すように、伸長処理を1回のみ行っている。この伸長処理により、誘電エラストマー層11の代表長さは、長さL1となる。
【0025】
次に、同図(c)に示すように、誘電エラストマー層11に付与する荷重を第1荷重よりも小さい第2荷重とする。これにより、誘電エラストマー層11には、第1張力よりも小さい第2張力が生じ、誘電エラストマー層11の代表長さは、長さL1よりも短く、且つ長さL0よりも長い長さL2となる。
【0026】
<誘電エラストマー層固定工程>
次に、同図(d)に示す誘電エラストマー層固定工程を行う。同工程においては、誘電エラストマー層11に第2張力が生じ、代表長さが長さL2である状態で、誘電エラストマー層11をたとえば支持部材2に固定する。これにより、誘電エラストマー層11は、第2荷重が解除された後も、支持部材2によって支持されることにより、第2張力を生じ、且つ代表長さが長さL2である状態が維持される。
【0027】
図3および
図4は、本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーの製造方法によって製造された誘電エラストマートランスデューサーの一例を示している。本実施形態の誘電エラストマートランスデューサーA1は、誘電エラストマー要素1および支持部材2を備えている。誘電エラストマートランスデューサーA1は、制御部3に接続され、従来公知の制御がなされることにより、駆動用途、発電用途、センサ用途等の様々な用途に用いられる。誘電エラストマートランスデューサーA1が駆動用途に用いられる場合、制御部3は、誘電エラストマー要素1を駆動させうる駆動電圧を印加する。
【0028】
誘電エラストマー要素1は、誘電エラストマー層11および一対の電極層12を有する。誘電エラストマー層11は、上述の材料からなり、上述の製造方法によって製造されている。一対の電極層12は、誘電エラストマー層11の両面に設けられている。
【0029】
電極層12は、導電性を有するとともに、誘電エラストマー層11の弾性変形に追従しうる弾性変形が可能な材質によって形成される。電極層12の材質としては、たとえば、炭素材料、導電性高分子化合物及び金属材料等の導電性材料のうちのいずれか1種類又は2種類以上を含んでいる。炭素材料は、例えば、黒鉛、フラーレン、カーボンナノチューブ(CNT)及びグラフェン等である。この炭素材料には、例えば、金属ドープ処理、金属内包処理及び金属鍍金処理等の処理のうちのいずれか1種類または2種類以上が施されていてもよい。導電性高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾチアゾールなどである。金属材料は、例えば、銀(Ag)、金(Au)及びアルミニウム(Al)等であり、合金でもよい。なお、一対の電極層12は、上述の予備伸縮工程および誘電エラストマー層固定工程を行う前に形成されてもよいし、これらの工程の後に形成されてもよい。
【0030】
本実施形態においては、誘電エラストマー層11は、円環形状であり、これに対応して、一対の電極層12は、円環形状である。ただし、電極層12の形状は、誘電エラストマー層11の形状と異なっていてもよい。
【0031】
支持部材2は、円環形状の誘電エラストマー要素1を、上下方向に伸長させた状態で支持するものである。支持部材2の材質は特に限定されず、たとえば絶縁性材料であるガラスエポキシ樹脂等が用いられる。支持部材2によって支持されることにより、誘電エラストマー要素1は、円錐台形状とされている。
【0032】
制御部3は、配線によって一対の電極層12に接続されている。
【0033】
図2に示す誘電エラストマートランスデューサーの製造方法によって製造される誘電エラストマートランスデューサーの効果について、誘電エラストマー層11の試料を用いた実施例および比較例を参照しつつ以下に説明する。
【0034】
誘電エラストマー層11の原反材料として、シリコーンゴムからなる試料を用意した。当該試料の材料として、KE-1950-10-A/B(信越化学工業株式会社製)を選択した。また、試料の形状は、JIS K 6251における厚さ1.0mmの2号ダンベル試験片の形状を採用した。
【0035】
<実施例>
長さL0を65mmに設定し、試料の両端を固定した。すなわち、固定箇所間の距離が、長さL0(65mm)である。
【0036】
予備伸縮工程では、長さL1を260mmに設定し、試料を伸長した。この場合、歪みεは、300%である。また、この際の引張速度は、100mm/minに設定した。この引張速度は、歪み速度に換算すると、154%/minに相当する。次いで、長さL2を75mmに設定し、試料を収縮させた。
【0037】
誘電エラストマー層固定工程では、長さL2の試料の両端を固定した。この際、支持部材2による固定は、上述した予備伸縮工程を行った試験機による固定に置き換えた。
【0038】
この後、実際の使用を想定した延伸の繰り返しを行った(繰り返し回数:2回)。この延伸では、試料を長さL3まで延伸した。長さL3は、225mmに設定した。すなわち、長さL3は、長さL1よりも短く、長さL2を基準とした場合の歪みは、200%である。
【0039】
<比較例>
実施例と同様に、長さL0を65mmに設定し、試料の両端を固定した。
【0040】
予備伸縮工程を行わず、75mmに設定された長さL2に試料を伸長させた。この後、実際の使用を想定した延伸の繰り返しを行った(繰り返し回数:2回)。この延伸では、試料を実施例と同様の長さL3まで延伸した。長さL3は、実施例と同様の225mmに設定した。
【0041】
<延伸結果>
図5は、実施例および比較例の延伸結果を示している。同図(a)は、実施例であり、同図(b)は、比較例である。
【0042】
同図(a)に示すように、実施例においては、長さL2に固定した時点(点P0)から、長さL3に延伸し(1回目:点P1)、その後長さL2に復帰させたところ(点P2)、試料に張力が生じていた。さらに、試料を長さL3に延伸し(2回目:点P3)、その後長さL2に復帰させたところ(点P4)、依然として試料に張力が生じていた。また、点P1と点P3とが、概ね一致し、点P2と点P4とが概ね一致する状態であった。点P4の状態から、試料の両端固定を解除すると、試料の長さは、長さL0(65mm)に概ね一致した。
【0043】
一方、同図(b)に示すように、比較例においては、長さL2に固定した時点(点P0')から、長さL3に延伸し(1回目:点P1')、その後長さL2に復帰させたところ(点P2')、試料の張力が0となっていた。さらに、試料を長さL3に延伸し(2回目:点P3')、その後長さL2に復帰させたところ(点P4’)、点P3’と同様に試料の張力が0であった。また、点P1’と点P3’とは、実施例の点P1および点P3と比較すると、互いに離間した状態であった。
【0044】
図5から理解されるように、実施例においては、誘電エラストマートランスデューサーA1の使用を想定した延伸の繰り返しの後においても、長さL2に復帰しても張力が維持されていた。これにより、誘電エラストマートランスデューサーA1が繰り返し使用されても、誘電エラストマー層11が不当に弛んでしまったり、生じる張力の大きさが意図せずに変化してしまうことを抑制することができる。また、点P1と点P3とが概ね一致することは、誘電エラストマートランスデューサーA1の挙動の再現性が高いことを意味する。
【0045】
比較例の誘電エラストマートランスデューサーにおいては、使用を想定した延伸が行われると、長さL2において張力が0となってしまった。すなわち、比較例が使用されると、誘電エラストマー層11が弛んでしまったり、生じる張力が大きく変化してしまう。このような比較例は、正確な動作が損なわれ、好ましくない。
【0046】
実施例における挙動の再現性の高さは、予備伸縮工程を行ったことによると考えられる。実施例では、実際の使用を想定した延伸における長さL3よりも長い長さL1まで、予備伸縮工程において伸ばされている。これにより、その後の使用を想定した延伸(長さL3)において、弛みが生じることを回避できたと考えられる。誘電エラストマートランスデューサーA1が発電素子やアクチュエータ等として実際に使用される場合、長さL3は、発電のための力学的エネルギーが外部から与えられる機構の具体的構成や、アクチュエータとしてのストロークが規定される機械構造等によって、予め設定されうる。予備伸縮工程においては、実際に生じうる長さL3よりも明らかに長い長さL1を設定して行うことが好ましい。
【0047】
なお、誘電エラストマー層11の材料は、シリコーンゴムに代表されるエラストマーである。このような材料は、変形に必要な力が変形の大きさによって決まる弾性と、変形に必要な力が変形の速さによって決まる粘性と、の双方の性質を有する。このような材質が用いられる誘電エラストマー層11は、シリコーンゴム以外の熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー及びエネルギー線硬化性エラストマー等からなるものであっても、上述した予備伸縮工程による挙動の再現性を向上させる効果が得られるものであると考えられる。
【0048】
本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーの製造方法および誘電エラストマートランスデューサーは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る誘電エラストマートランスデューサーの製造方法および誘電エラストマートランスデューサーの具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0049】
[付記1]
誘電エラストマー層と、前記誘電エラストマー層を挟む一対の電極層と、を備える誘電エラストマートランスデューサーの製造方法であって、
前記誘電エラストマー層の引張側の応力歪み曲線が、歪みが0である状態を含む領域であり且つ傾きが相対的に大である小歪み高弾性率領域と、前記小歪み高弾性率領域に対して大歪み側に繋がり且つ傾きが相対的に小である低弾性率領域と、前記低弾性率領域に対して大歪み側に繋がり且つ傾きが相対的に大であるかまたは破断点を含む大歪み領域と、を有し、
前記一対の電極層を設ける前の前記誘電エラストマー層に、第1荷重以上の荷重を付与することにより前記低弾性率領域に含まれる大きさである第1張力を生じさせる伸長処理を1回以上行うことにより、前記誘電エラストマー層の弾性挙動におけるヒステリシスを縮小させる予備伸縮工程と、
前記予備伸縮工程の後に、前記誘電エラストマー層に前記第1荷重よりも小さい第2荷重を与えることにより、前記第1張力よりも小さい第2張力が生じた状態で、前記誘電エラストマー層を支持部材に固定する、誘電エラストマー層固定工程と、
を備える、誘電エラストマートランスデューサーの製造方法。
[付記2]
前記予備伸縮工程における最終の前記伸長処理に引き続き、前記誘電エラストマー層の張力を前記第1張力から前記第2張力に単純減少させて、前記誘電エラストマー層固定工程を行う、付記1に記載の誘電エラストマートランスデューサーの製造方法。
[付記3]
前記予備伸縮工程においては、前記伸長処理を1回のみ行う、付記1または2に記載の誘電エラストマートランスデューサーの製造方法。