(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20230207BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230207BHJP
H10K 10/00 20230101ALI20230207BHJP
H10K 85/20 20230101ALI20230207BHJP
H10N 10/855 20230101ALI20230207BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20230207BHJP
H10N 10/856 20230101ALI20230207BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K3/04
H10K10/00
H10K85/20
H10N10/855
H10N10/01
H10N10/856
(21)【出願番号】P 2019532536
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(86)【国際出願番号】 JP2018026930
(87)【国際公開番号】W WO2019021908
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2017143824
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】野々口 斐之
(72)【発明者】
【氏名】河合 壯
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-033170(JP,A)
【文献】特開2013-098299(JP,A)
【文献】特開2015-035599(JP,A)
【文献】特開2014-239092(JP,A)
【文献】特表2016-536256(JP,A)
【文献】特開2013-141631(JP,A)
【文献】NISH, Adrian, et al.,Highly selective dispersion of single-walled carbon nanotubes using aromatic polymers,NATURE TECHNOLOGY,2007年10月01日,Vol.2,p.640-646
【文献】BERTON, Nicolas, et al.,Copolymer-Controlled Diameter-Selective Dispersion of Semiconducting Single-Walled Carbon Nanotubes,CHEMISTRY OF MATERIALS,2011年,Vol.23,p.2237-2249
【文献】GOMULYA, Widianta, et al.,Semiconducting Single-Walled Carbon Nanotubes on Demand by Polymer Wrapping,ADVANCED MATERIALS,2013年04月25日,Vol.25,p.2948-2956
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、下記式(1)
【化1】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
または下記式(2)
【化2】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、Xは2価の芳香族基であり、nは3以上の整数である)
で表される導電性ポリマーと、を含
むカーボンナノチューブ複合体であって、
上記カーボンナノチューブの90質量%以上が半導体性カーボンナノチューブであ
り、
上記カーボンナノチューブ複合体100質量%におけるカーボンナノチューブの含有量は65~85質量%であることを特徴とする、カーボンナノチューブ複合体。
【請求項2】
上記導電性ポリマーは、下記式(3)
【化3】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
で表されることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項3】
上記カーボンナノチューブの95質量%以上が半導体性カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項4】
p型ドーパントまたはn型ドーパントをさらに含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体と溶媒とを含むことを特徴とする、インク。
【請求項6】
カーボンナノチューブを、下記式(1)
【化4】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
または下記式(2)
【化5】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、Xは2価の芳香族基であり、nは3以上の整数である)
で表される導電性ポリマーを含む溶媒中に分散させる分散工程と、
上記分散工程によって得られたカーボンナノチューブ分散液
を遠心分離し、得られた上清を回収することにより、当該カーボンナノチューブ分散液から、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを90質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離する分離工程と、を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項7】
上記導電性ポリマーは、下記式(3)
【化6】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
で表されることを特徴とする、請求項6に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項8】
上記分離工程において、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを95質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離することを特徴とする、請求項6または7に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【請求項9】
上記カーボンナノチューブ複合体に、p型ドーパントまたはn型ドーパントを接触させるドーピング工程を含むことを特徴とする、請求項6~8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱電変換素子、電界効果トランジスタ、センサー、集積回路、整流素子、太陽電池、触媒、またはエレクトロルミネッセンス等の分野に利用可能である材料として、カーボンナノチューブが注目されている。カーボンナノチューブに代表されるカーボン系の熱電変換材料は、軽量であることおよび炭素-炭素結合に由来する構造のしなやかさから、持ち運びが可能でフレキシブルな熱電変換デバイスの材料と考えられている。
【0003】
例えば、カーボンナノチューブと導電性高分子との複合体が熱電変換材料として提案されている。特許文献1には、導電性高分子と熱励起アシスト剤とを含有する熱電変換材料が開示されている。また、特許文献2には、カーボンナノチューブおよび共役高分子を含有する熱電変換材料が開示されている。非特許文献1には、PEDOTおよびポリ(スチレンスルホン酸)の複合体(PEDOT:PSS)またはメソ-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィン(TCPP)と、カーボンナノチューブとを利用した複合材料が記載されている。非特許文献2では、共役多価電解質を用いることによってp型およびn型のカーボンナノチューブ複合体を得ることが記載されている。また、非特許文献3では、ポリフルオレン誘導体を用いて得られた半導体性カーボンナノチューブフィルムの熱電変換特性が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/047730号(2013年4月4日公開)
【文献】国際公開第2013/065631号(2013年5月10日公開)
【非特許文献】
【0005】
【文献】Moriarty, G. P. et al., Energy Technol. 1, 265-272, 2013
【文献】Mai, C.-K. et. al.,Energy Environ. Sci. 8,2341-2346,2015
【文献】Avery, A. D. et. al.,Nature Energy 1, 16033,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来技術は、ゼーベック係数、導電率および出力因子等の熱電変換特性が十分ではなく、改善の余地があった。
【0007】
本発明の一態様は、優れた熱電変換特性を有するカーボンナノチューブ複合体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究を行った結果、特定の構造を有する導電性ポリマーを用いることによって半導体性カーボンナノチューブを高純度で含有するカーボンナノチューブ複合体を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の態様を含む。
【0009】
<1>カーボンナノチューブと、下記式(1)
【0010】
【化1】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
または下記式(2)
【0011】
【化2】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、Xは2価の芳香族基であり、nは3以上の整数である)
で表される導電性ポリマーと、を含み、上記カーボンナノチューブの90質量%以上が半導体性カーボンナノチューブであることを特徴とする、カーボンナノチューブ複合体。
【0012】
<2>上記導電性ポリマーは、下記式(3)
【0013】
【化3】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
で表されることを特徴とする、<1>に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【0014】
<3>上記カーボンナノチューブの95質量%以上が半導体性カーボンナノチューブであることを特徴とする、<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【0015】
<4>p型ドーパントまたはn型ドーパントをさらに含むことを特徴とする、<1>~<3>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体。
【0016】
<5><1>~<4>のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ複合体と溶媒とを含むことを特徴とする、インク。
【0017】
<6>カーボンナノチューブを、下記式(1)
【0018】
【化4】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
または下記式(2)
【0019】
【化5】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、Xは2価の芳香族基であり、nは3以上の整数である)
で表される導電性ポリマーを含む溶媒中に分散させる分散工程と、上記分散工程によって得られたカーボンナノチューブ分散液から、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを90質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離する分離工程と、を含むことを特徴とするカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【0020】
<7>上記導電性ポリマーは、下記式(3)
【0021】
【化6】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
で表されることを特徴とする、<6>に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【0022】
<8>上記分離工程において、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを95質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離することを特徴とする、<6>または<7>に記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【0023】
<9>上記カーボンナノチューブ複合体に、p型ドーパントまたはn型ドーパントを接触させるドーピング工程を含むことを特徴とする、<6>~<8>のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の一態様によれば、優れた熱電変換特性を有するカーボンナノチューブ複合体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1のカーボンナノチューブフィルムの赤外スペクトルを示した図である。
【
図2】比較例1のカーボンナノチューブフィルムの赤外スペクトルを示した図である。
【
図3】実施例1~4のカーボンナノチューブフィルム、並びに比較例2および3のカーボンナノチューブフィルムの熱電変換特性を示した図である。
【
図4】実施例5のp型カーボンナノチューブフィルム、実施例6のn型カーボンナノチューブフィルムおよび比較例4のp型カーボンナノチューブフィルムの熱電変換特性を示した図である。
【
図5】実施例1のカーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0027】
〔1.熱電変換特性に関する指標〕
まず、熱電変換特性に関する指標について説明する。
【0028】
<1-1.出力因子>
出力因子(パワーファクター)は、以下の式(i)によって求められる。
【0029】
PF=α2σ (i)
式(i)中、PFは出力因子、αはゼーベック係数、σは導電率を示す。
【0030】
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体においては、例えば、出力因子が310Kにて100μW/mK2以上であることが好ましく、200μW/mK2以上であることがより好ましく、400μW/mK2以上であることが特に好ましい。カーボンナノチューブ複合体の出力因子が310Kにて100μW/mK2以上であれば、従来のカーボンナノチューブ複合体と同等またはそれを上回る値であるため、好ましい。このような高出力のカーボンナノチューブ複合体を得るためには、ゼーベック係数または導電率のいずれか一方、もしくはその両方を向上させることが考えられる。
【0031】
<1-2.ゼーベック係数>
ゼーベック係数とは、ゼーベック効果を示す回路の、高温接合点と低温接合点との間の温度差に対する、開放回路電圧の比をいう(「マグローヒル科学技術用語大辞典 第3版」より)。ゼーベック係数は、例えば、ゼーベック効果測定装置(MMR Technologies社製)または後述する実施例で用いた熱電変換特性評価装置(アドバンス理工社製、ZEM-3)等を用いて測定することができる。ゼーベック係数の絶対値が大きいほど、熱起電力が大きいことを表す。
【0032】
また、ゼーベック係数は、カーボンナノチューブ等の電子材料の極性を判別するための指標となり得る。具体的には、例えば、ゼーベック係数が正の値を示す電子材料は、p型導電性を有しているといえる。これに対して、ゼーベック係数が負の値を示す電子材料は、n型導電性を有しているといえる。
【0033】
上記カーボンナノチューブ複合体においては、ゼーベック係数の絶対値が20μV/K以上であることが好ましく、30μV/K以上であることがより好ましく、40μV/K以上であることがさらに好ましい。
【0034】
<1-3.導電率>
導電率は、例えば、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)または後述する実施例で用いた熱電変換特性評価装置(アドバンス理工社製、ZEM-3)を用いた4探針法により測定することができる。
【0035】
上記カーボンナノチューブ複合体においては、導電率が10S/cm以上であることが好ましく、100S/cm以上であることがより好ましい。また、導電率が1500S/cm以下であることが好ましく、1000S/cm以下であることがより好ましい。導電率が上記範囲であれば、ゼーベック係数と導電率とのバランスが取れた高出力のカーボンナノチューブ複合体となるため、好ましい。
【0036】
<1-4.ZT>
熱電変換特性に関する別の指標としては、無次元性能指数ZTが挙げられる。ZTは以下の式(ii)によって求められる。
【0037】
ZT=PF・T/κ (ii)
式(ii)中、PFは出力因子(=α2σ)、Tは温度、κは熱伝導率を示す。ZTが大きいほど、優れた熱電変換材料であることを表している。式(ii)から、ZTを大きくするためには、出力因子、すなわちゼーベック係数の絶対値および導電率を大きくすることが好ましいことがわかる。
【0038】
また、式(ii)から、ZTを大きくするためには、熱伝導率は小さいほうが好ましいことがわかる。このことは、熱電変換材料が温度差を利用するものであることに対応している。熱電変換材料の熱伝導率が大きい場合、物質中の温度が容易に均一になってしまい、温度差を生じにくい。そのため、熱伝導率が大きい熱電変換材料は、効率的に発電することが困難となる傾向にある。
【0039】
〔2.カーボンナノチューブ複合体〕
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブと、下記式(1)
【0040】
【化7】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
または下記式(2)
【0041】
【化8】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、Xは2価の芳香族基であり、nは3以上の整数である)
で表される導電性ポリマーと、を含み、上記カーボンナノチューブの90質量%以上が半導体性カーボンナノチューブである。
【0042】
カーボンナノチューブには、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとが存在する。上記導電性ポリマーは、その構造および電子物性に起因し、半導体性カーボンナノチューブを選択性良く包み込む。そのため、溶媒中で半導体性カーボンナノチューブを選択性良く分散させる。その結果、上記導電性ポリマーを用いることによって半導体性カーボンナノチューブを高純度で含有するカーボンナノチューブ複合体が得られる。すなわち、カーボンナノチューブ複合体において、導電性ポリマーがカーボンナノチューブに絡みついた状態となっている。
【0043】
上記カーボンナノチューブ複合体は、熱電変換デバイス等として、様々な応用および用途が考えられる。上記カーボンナノチューブ複合体から構成される熱電変換デバイスは、柔軟性を有する。それゆえ、上記熱電変換デバイスは、人体および配管等の複雑な三次元表面に密着させることができ、体温および廃熱等を効率的に利用できる。
【0044】
上記カーボンナノチューブ複合体は、所望の形状に成形されていてもよい。例えば、上記カーボンナノチューブ複合体を集積させてフィルムの形状としてもよい。上記フィルムは、例えば、0.1μm~1000μmの厚みであってもよい。フィルムの密度は特に限定されないが、0.05~1.0g/cm3であってもよく、0.1~0.5g/cm3であってもよい。上記フィルムは、カーボンナノチューブ複合体同士が互いに絡み合うように不織布状の構造を形成し得る。そのため、前記フィルムは軽量であり、且つ、柔軟性を有している。このようなフィルムは熱電変換デバイスとして好適に利用できる。
【0045】
<2-1.カーボンナノチューブ>
上記カーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブを含んでいる。また、上記カーボンナノチューブの90質量%以上が半導体性カーボンナノチューブである。換言すれば、上記カーボンナノチューブ複合体に含まれるカーボンナノチューブを100質量%とすると、その90質量%以上が半導体性カーボンナノチューブである。
【0046】
公知の合成方法にて合成されたカーボンナノチューブまたは市販のカーボンナノチューブは、通常、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとを、約1:2の質量比にて含有する(Cambre, S. et al., ACS Nano, vol.4, no. 11, 6717-6724, 2010参照)。このようなカーボンナノチューブを用いて熱電変換材料を作製した場合、金属性カーボンナノチューブに起因し、熱伝導率が高く、且つゼーベック係数が低くなり得る。従って、金属性カーボンナノチューブの含有比率が多い場合、ZTが小さくなるため、十分な熱電変換特性を得られない。よって、上記カーボンナノチューブ複合体は、高純度にて半導体性カーボンナノチューブを含むことが好ましい。
【0047】
上述の特許文献1および2、並びに非特許文献1および2では、半導体性カーボンナノチューブの含有比率を高めることについて何ら言及されていない。従って、これらの文献に記載の先行技術では十分な熱電変換特性を引き出せていないと考えられる。
【0048】
金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとの質量比は、例えば、赤外分光法によって測定することができる。まず、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとの質量比に影響を与え得る物質(例えば、本発明の一実施形態にて用いられる導電性ポリマー)を含まないサンプルにおいて、赤外スペクトルを得る。これをコントロールの赤外スペクトルとする。当該サンプルには、上述のように1:2の質量比にて金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとが含有されていると考えられる。そして、金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとの質量比を知りたいサンプルの赤外スペクトルと、上記コントロールの赤外スペクトルとを比較し、金属性カーボンナノチューブのプラズモン共鳴由来の吸光度のバンドの大きさの変化を評価する。このバンドの大きさの変化の程度から、コントロールのサンプルと比べた金属性カーボンナノチューブの含有比率の変化量を算出することができる。これにより、所望のサンプルにおける金属性カーボンナノチューブと半導体性カーボンナノチューブとの質量比を決定することができる。
【0049】
半導体性カーボンナノチューブは、上記カーボンナノチューブ100質量%中、95質量%以上含まれることが好ましく、99質量%以上含まれることがより好ましく、99.9質量%以上含まれることがさらに好ましい。半導体性カーボンナノチューブの含有比率が高いほど、出力因子およびZTを向上させることができる。
【0050】
カーボンナノチューブの直径は、導電性ポリマーの構造等を考慮して適宜決定され得る。なお、カーボンナノチューブの直径とは、長手方向に垂直な断面における直径を意味する。例えば、カーボンナノチューブの直径は、1~5nmであることが好ましく、1~2nmであることがより好ましく、1~1.7nmであることがさらに好ましく、1~1.4nmであることが特に好ましい。カーボンナノチューブの直径が上記範囲であれば、後述の導電性ポリマーが吸着しやすい。なお、カーボンナノチューブの直径は、電子顕微鏡による観察または分光学的な方法等によって測定され得る。
【0051】
カーボンナノチューブは、バンドル(小さな束)を形成し得る。当該バンドルの直径は、5nm以下であることが好ましく、3nm以下であることがより好ましい。バンドルの直径が5nm以下であれば、カーボンナノチューブが良く分散していると考えられ、均一なドーピングが可能である。
【0052】
カーボンナノチューブは、単層の構造を有していても、多層(二層、三層、四層、またはそれよりも多層)の構造を有していてもよい。すなわち、上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(single-wall carbon nanotube:SWNT)であってもよいし、多層カーボンナノチューブ(multi-wall carbon nanotube:MWNT)であってもよい。ただし、多層カーボンナノチューブは、半導体性の層と金属性の層とを併せ持つ場合がある。よって、半導体性カーボンナノチューブの純度を高めるという観点からは、単層カーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0053】
上記カーボンナノチューブ複合体100質量%におけるカーボンナノチューブの含有量は、50~90質量%であることが好ましく、65~85質量%であることがより好ましい。カーボンナノチューブの含有量が上記範囲であれば、カーボンナノチューブ複合体においてカーボンナノチューブに起因する性能を十分に発揮することができる。
【0054】
<2-2.導電性ポリマー>
上記カーボンナノチューブ複合体は、下記式(1)
【0055】
【化9】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
または下記式(2)
【0056】
【化10】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、Xは2価の芳香族基であり、nは3以上の整数である)
で表される導電性ポリマーを含む。上記アルキル基はカーボンナノチューブに絡みつきやすいと考えられる。このような構造に加え、芳香族基の電子物性によっても上記導電性ポリマーは半導体性カーボンナノチューブに吸着しやすいと考えられる。それゆえ、上記導電性ポリマーは、半導体性カーボンナノチューブを選択性良く吸着し得る。上記導電性ポリマーとしては2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
なお、非特許文献3に記載のポリフルオレン誘導体は絶縁性である。そのため、非特許文献3では、ポリフルオレン誘導体を分散剤として用いた場合、導電率を改善するためにはポリフルオレン誘導体を除去しなければならない。これに対し、上記導電性ポリマーであれば、除去する必要はない。
【0058】
上記アルキル基の炭素数は、7~20であることがより好ましく、10~14であることがさらに好ましい。炭素数が上記範囲であれば、アルキル基がカーボンナノチューブに対して、より絡みつきやすい。
【0059】
半導体性カーボンナノチューブの分離効率が良好であるという観点からは、上記nは、5以上の整数であることが好ましい。nの上限は特に限定されないが、導電性ポリマーの溶解性が高いという観点からは、nは10以下の整数であることが好ましく、9以下の整数であることがより好ましい。
【0060】
また、上記導電性ポリマーは、上記式(1)または式(2)で表される繰り返し単位に加えて、任意の構造を有していてもよいが、上記式(1)または式(2)で表される繰り返し単位からなることが好ましい。
【0061】
上記X(2価の芳香族基)としては、2,1,3-ベンゾチアジアゾール骨格(ベンゾチアジアゾール骨格)、5-フルオロ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール骨格、5,6-ジフルオロ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール骨格、チエノ[3,4-c]ピロール-4,6-ジオン骨格(チエノピロールジオン骨格)、1,4,5,8-ナフタレンジカルボキシミド骨格、2,5-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-1,4-ジオン骨格(ジケトピロロピロール骨格)およびナフト[1,2-c:5,6-c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール骨格(ナフトビスチアジアゾール骨格)等が挙げられる。なお、本明細書において、2価の芳香族基とは、少なくとも1つの芳香環と2つの結合手とを有する構造を意図している。すなわち、2価の芳香族基は、2官能性の芳香族化合物に由来する構造を有するとも言える。上記導電性ポリマーが上記Xを有する場合、より好ましい電子物性を示す。Xは、ベンゾチアジアゾール骨格であることがより好ましい。すなわち、導電性ポリマーは下記式(3)
【0062】
【化11】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)で表されることがより好ましい。
【0063】
以上のことを考慮すると、導電性ポリマーは、下記式(4)
【0064】
【化12】
(式中、nは3以上の整数である)
または下記式(5)
【0065】
【化13】
(式中、nは3以上の整数である)
で表されることがさらに好ましい。
【0066】
カーボンナノチューブ複合体におけるカーボンナノチューブと導電性ポリマーとの質量比は用途によって調整すればよく、1:99~99:1であってもよい。熱電変換材料として用いる場合は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、導電性ポリマー1~40質量部であることが好ましく、10~35質量部であることがより好ましい。導電性ポリマーの含有比が上記範囲であれば、カーボンナノチューブに対して導電性ポリマーを薄く吸着させることができる。
【0067】
<2-3.p型ドーパントおよびn型ドーパント>
上記カーボンナノチューブ複合体は、p型ドーパントまたはn型ドーパントをさらに含んでいてもよい。これにより、上記カーボンナノチューブ複合体をp型熱電変換材料またはn型熱電変換材料とすることができる。
【0068】
本明細書において、p型ドーパントとは、ドーピングした対象のゼーベック係数が正の値となるドーパントを意味する。p型ドーパントとしては、例えば、チオシアン酸イオン(SCN-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、過マンガン酸イオン(MnO4
-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4
-)、ヨウ素酸イオン(IO3
-)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)、トリフルオロメタンスルホナートアニオン(TfO-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミンアニオン(TFSI-)、ヨウ化物イオン(I-)、臭化物イオン(Br-)、塩化物イオン(Cl-)、硝酸イオン(NO3
-)またはトシラートイオン(Tos-)の水素酸および金属塩が挙げられる。金属塩としては、銀塩および銅塩が挙げられる。
【0069】
本明細書において、n型ドーパントとは、ドーピングした対象のゼーベック係数が負の値となるドーパントを意味する。n型ドーパントとしては、例えば、ヒドロキシイオン(OH-)、アルコキシイオン(CH3O-、CH3CH2O-、i-PrO-およびt-BuO-等)、チオイオン(SH-およびアルキルチオイオン(CH3S-およびC2H5S-等))、シアヌルイオン(CN-)またはカルボキシイオン(CH3COO-等)のアルカリ金属塩と環状エチレンオキシドとの錯体が挙げられる。アルカリ金属塩に含まれるアルカリ金属としては、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン等が挙げられる。環状エチレンオキシドとしては、クラウンエーテルが挙げられる。
【0070】
これらのp型ドーパントまたはn型ドーパントに含まれるアニオンは、その非共有電子対に基づいて、ドーピングの対象となるナノ材料と相互作用するか、または化学反応を誘起すると推測される。
【0071】
〔3.インク〕
本発明の一実施形態に係るインクは、本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体と分散媒とを含む。この場合、当該インクは、分散媒に上記カーボンナノチューブ複合体(成形されていないカーボンナノチューブ複合体)を分散させたものであることが好ましい。例えば、上記インクを所望の部品に塗布し、次いで分散媒を除去することによって、当該部品に熱電変換機能を付与することができる。
【0072】
<3-1.分散媒>
上記分散媒は、カーボンナノチューブ複合体を分散させることができる分散媒であれば特に限定されない。分散媒としては、例えば、水および有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、トルエン、o-ジクロロベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、テトラヒドロフランおよびクロロホルム等が挙げられる。
【0073】
〔4.カーボンナノチューブ複合体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体の製造方法は、カーボンナノチューブを、下記式(1)
【0074】
【化14】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、nは3以上の整数である)
または下記式(2)
【0075】
【化15】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、炭素数4~24のアルキル基であり、Xは2価の芳香族基であり、nは3以上の整数である)
で表される導電性ポリマーを含む溶媒中に分散させる分散工程と、上記分散工程によって得られたカーボンナノチューブ分散液から、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを90質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離する分離工程と、を含む。なお、〔1.熱電変換特性に関する指標〕~〔3.インク〕にて既に説明した事項について、以下では説明を省略し、適宜、上述の記載を援用する。
【0076】
上記導電性ポリマーは、その構造および電子物性に起因し、半導体性カーボンナノチューブを選択性良く包み込む。そのため、分散工程にて、溶媒中で半導体性カーボンナノチューブを選択性良く分散させることができる。一方、金属性カーボンナノチューブは、導電性ポリマーに包み込まれた半導体性カーボンナノチューブに比べて分散しにくい。よって、分離工程において、金属性カーボンナノチューブを除去しやすいため、半導体性カーボンナノチューブを高純度で含有するカーボンナノチューブ複合体を分離することができる。
【0077】
<4-1.分散工程>
分散工程は、カーボンナノチューブを、上記式(1)または上記式(2)で表される導電性ポリマーを含む溶媒中に分散させる工程である。これにより、導電性ポリマーが半導体性カーボンナノチューブに吸着し、当該半導体性カーボンナノチューブは選択性良く分散される。
【0078】
溶媒としては、上記導電性ポリマーを溶解する溶媒であれば特に限定されないが、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-ジクロロベンゼン、テトラヒドロフランおよびクロロホルム等の有機溶媒が挙げられる。なかでも、溶媒極性の観点から、溶媒はトルエン、o-キシレン、m-キシレンまたはp-キシレンであることが好ましい。
【0079】
カーボンナノチューブを溶媒中に分散させる方法としては、例えば、均質化装置を用いる方法が挙げられる。均質化装置としては、例えば、撹拌ホモジナイザーおよび超音波ホモジナイザー等が挙げられる。より均一に分散させる観点から、超音波ホモジナイザーを用いてカーボンナノチューブを溶媒中に分散させることが好ましい。
【0080】
分散工程における温度は、欠陥導入を抑制するという観点から、0~10℃であることが好ましい。
【0081】
<4-2.分離工程>
分離工程は、上記分散工程によって得られたカーボンナノチューブ分散液から、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを90質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離する工程である。換言すれば、分離されたカーボンナノチューブ複合体に含まれるカーボンナノチューブを100質量%とすると、その90質量%以上が半導体性カーボンナノチューブである。すなわち、分離工程は、導電性ポリマーが吸着していない金属性カーボンナノチューブの大部分を除去する工程である。
【0082】
上記分離工程において、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを95質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離することが好ましい。半導体性カーボンナノチューブの純度を向上することによって、より優れた熱電変換特性を有するカーボンナノチューブ複合体を得ることができる。
【0083】
分離工程を行う方法は、半導体性カーボンナノチューブを高純度にて分離することができる方法であれば、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、遠心分離器を用いた方法が挙げられる。遠心分離器を用いて上記カーボンナノチューブ分散液を遠心分離することによって、金属性カーボンナノチューブの大部分を沈殿させて、半導体性カーボンナノチューブを高純度にて含む上清を分離することができる。この上清を回収することにより、カーボンナノチューブとして半導体性カーボンナノチューブを90質量%以上含むカーボンナノチューブ複合体を分離することができる。
【0084】
回収した上清から、さらに溶媒を除去してもよい。また、当該溶媒を上述の分散媒と置換することにより、本発明の一実施形態に係るインクを得てもよい。
【0085】
<4-3.成形工程>
上記製造方法は、分離工程によって得られたカーボンナノチューブ複合体を所望の形状(例えば、フィルム)に成形する成形工程を含んでいてもよい。カーボンナノチューブ複合体を所望の形状に成形する方法としては、例えば、カーボンナノチューブ複合体を集積させることにより、所望の形状に成形する方法が挙げられる。
【0086】
このような方法としては、カーボンナノチューブ複合体を含む分散液をメンブレンフィルター上で濾過することによってフィルムを成形する方法が挙げられる。具体的には、カーボンナノチューブ複合体を含む分散液を、0.1~2μm孔のメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、メンブレンフィルター上に集積したカーボンナノチューブ複合体を乾燥させることにより、フィルムを成形することができる。上記分散液は、上述の上清であってもよく、本発明の一実施形態に係るインクであってもよい。
【0087】
<4-4.ドーピング工程>
上記製造方法は、上記カーボンナノチューブ複合体に、p型ドーパントまたはn型ドーパントを接触させるドーピング工程を含んでいてもよい。これにより、上記カーボンナノチューブ複合体をp型熱電変換材料またはn型熱電変換材料とすることができる。
【0088】
成型工程の後にドーピング工程を行う方法としては、例えば、所望の形状に成形したカーボンナノチューブ複合体を、p型ドーパントまたはn型ドーパントを含む溶液に浸漬する方法、または、所望の形状に成形したカーボンナノチューブ複合体に、p型ドーパントまたはn型ドーパントを含む溶液を塗布する方法が挙げられる。
【0089】
上記p型ドーパントまたはn型ドーパントを含む溶液における溶媒は、水であってもよく有機溶媒であってもよい。当該溶媒は、好ましくは有機溶媒であり、より好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN-メチルピロリドン等である。これらの溶媒は、上述の浸漬または塗布を行った後のカーボンナノチューブ複合体を乾燥させることによって除去され得る。
【0090】
上記溶液におけるp型ドーパントまたはn型ドーパントの濃度は、求められる熱電特性に応じて調節すればよい。当該濃度は、例えば、0.001~1mol/Lであってもよく、0.01~0.1mol/Lであってもよい。
【0091】
また、分散工程または分離工程の前後にドーピング工程を行うこともできる。この場合は、上述の導電性ポリマーを含む溶媒、カーボンナノチューブ分散液、または分離工程によって回収された上清等にp型ドーパントまたはn型ドーパントを添加する方法を採用できる。
【0092】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下では、ポリ(シクロペンタジチオフェン)骨格を有する式(4)の化合物を、PCPDTと称し、ポリ(シクロペンタジチオフェン)骨格およびベンゾチアジアゾール骨格を有する式(5)の化合物を、PCPDTBTと称することもある。また、カーボンナノチューブをCNTと称することもある。
【0094】
〔物性の評価〕
<赤外スペクトル>
後述の実施例1および比較例1にて得られたフィルムについて、赤外顕微鏡(ブルカーオプティクス社製、HYPERION 2000)を用いたフーリエ変換赤外分光法によって吸光度を測定した。また、実施例1および比較例1においてPCPDTBTの代わりに1質量%のPluronic(登録商標)F127(BASF社製)を含む水溶液を用いてカーボンナノチューブを分散させたサンプルについても、同様に吸光度を測定した。当該サンプルは、未ソーティングのサンプル(コントロールのサンプル)として用いる。すなわち、当該サンプルには、金属性CNTと半導体性CNTが、約1:2の質量比にて含有されている。得られた赤外スペクトルを比較し、金属性CNTのプラズモン共鳴由来のバンドの減少から、半導体性CNTの分離の程度を評価した。
【0095】
<熱電変換特性>
(a)導電率
後述の実施例および比較例にて得られたフィルムについて、熱電変換特性評価装置(アドバンス理工社製、ZEM-3)を用いた4探針法によって導電率を測定した。測定温度は310K(37℃)であった。
【0096】
(b)ゼーベック係数
後述の実施例および比較例にて得られたフィルムのゼーベック係数を、熱電変換特性評価装置(アドバンス理工社製、ZEM-3)を用いて測定した。測定温度は310K(37℃)であった。
【0097】
(c)出力因子
後述の実施例および比較例にて得られたフィルムについて、上述の方法で得られた導電率σおよびゼーベック係数αを用いて、上述の式(i)により出力因子PFを算出した。
【0098】
〔ドーピングしていないCNT複合体の熱電変換特性(I)〕
<実施例1>
既報(Kettle, J. et. al., Solar Energy Materials and Solar Cells, Volume 95, Issue 8, Pages 2186-2193, 2011)を参考にして、PCPDTBTを合成した。得られたPCPDTBTは上述の式(5)においてn=5~10程度であった。PCPDTBT2.5mgを溶解させたトルエン20mLに、単層カーボンナノチューブ(Raymor社製、RN-020、直径約1.1~1.7nm)8mgを投入した。超音波ホモジナイザー(Qsonica社製、Q125)を用いて、上記単層カーボンナノチューブを上記トルエン中に約4℃で60分間分散させた。
【0099】
このように得られた分散液を、遠心分離機(久保田商事、テーブルトップ冷却遠心機 5500)によって60分間10000rpmで遠心分離した。遠心分離後の分散液から上清の70体積%を回収した。
【0100】
回収した上清を、0.2μm孔のメンブレンフィルター(メルクミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター JGWP02500)上に吸引濾過することにより、CNTフィルムを堆積させた。得られたCNTフィルムをPET製フィルム上に載せた状態で赤外スペクトルおよび熱電変換特性を測定した。
【0101】
図1は、実施例1のCNTフィルムの赤外スペクトルを示した図である。縦軸は正規化された吸光度を表し、横軸は光子エネルギーを表す。なお、横軸の0.1eV以下の、5、6、7、8、9は、それぞれ0.05、0.06、0.07、0.08、0.09を表す。また、横軸の0.1eVと1eVとの間の2、3、4、5、6、7、8、9は、それぞれ0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9を表す。黒い線(F127分散)はPluronic F127を用いた分散液から得られたデータを表し、グレーの線(PCPDTBT分散)はPCPDTBTを用いた分散液から得られたデータを表す。
図1において、F127分散では0.09eV未満の領域に金属性CNTのプラズモン共鳴由来のバンドが存在するが、これらのバンドがPCPDTBT分散ではほぼ消失していることがわかる。従って、実施例1のCNTフィルムに含まれるCNT100質量%に対して半導体性CNTが99質量%以上含まれていると考えられる。
【0102】
なお、半導体性CNTのバンド間遷移S11のピークから、CNTの直径分布の中心が1.0~1.2nmであることがわかる。
【0103】
また、市販の半導体性CNTでは、調製過程においてドーピングを受けているために、純度が高くてもプラズモン共鳴バンドが見られる(Morimoto, T., et al. ACS Nano, vol.8, no. 10, 9897-9904, 2014参照)。実施例1で得られた半導体性CNTは同様のプラズモン共鳴が観測限界以下であることから、半導体純度が極めて高いことのみならず、顕著なドーピングを受けていないことがわかる。すなわち、実施例1は従来よりもはるかに高品質な半導体性CNTを製造する方法と言える。
【0104】
図5は、実施例1のカーボンナノチューブフィルムの走査型電子顕微鏡像を示した図である。
図5で観察されるCNTの直径はいずれも5nm(分解能)以下である。一般的なCNTバンドルは20~30nmとされていることを考慮すると、CNTが良く分散されていることがわかる。すなわち、導電性ポリマーが選択性良く半導体性CNTに絡みつくことによって、半導体性CNTが良く分散されていると考えられる。
【0105】
<比較例1>
単層カーボンナノチューブとしてOCSiAl社製、Tuball(登録商標)(直径約1.75~1.85nm)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを得て、その赤外スペクトルおよび熱電変換特性を測定した。
【0106】
図2は、比較例1のCNTフィルムの赤外スペクトルを示した図である。縦軸および横軸は、
図1と同様である。黒い線(F127分散)はPluronic F127を用いた分散液から得られたデータを表し、グレーの線(PCPDTBT分散)はPCPDTBTを用いた分散液から得られたデータを表す。
図2から、F127分散における0.09eV未満の領域に存在する金属性CNTのプラズモン共鳴由来のバンドは、PCPDTBT分散ではわずかに(約15%程度)減少したにすぎないことがわかる。通常、市販のCNTにおける金属性CNTと半導体性CNTとの質量比が1:2であることを考慮すると、比較例1のCNTフィルムに含まれるCNT100質量%に対して半導体性CNTが80質量%程度含まれていると考えられる。
【0107】
<熱電変換特性の比較>
実施例1および比較例1の熱電変換特性の測定結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
表1から、半導体性CNTを高純度にて含む実施例1では、ゼーベック係数が飛躍的に向上しており、このCNTフィルムは半導体として振る舞っていることがわかる。
【0109】
〔ドーピングしていないCNT複合体の熱電変換特性(II)〕
<実施例2>
PCPDTBTの代わりにPCPDTを用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを得た。用いたPCPDTは上述の式(4)においてn=25~35程度であった。
【0110】
<実施例3>
CNTとして、Raymor社製RN-020の代わりにKH Chemicals社製HPを用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを得た。
【0111】
<実施例4>
CNTとして、Raymor社製RN-020の代わりにKH Chemicals社製HPを用いたこと以外は実施例2と同様にしてCNTフィルムを得た。
【0112】
<比較例2>
PCPDTBTの代わりにポリフルオレン骨格を有する下記式(6)で表される化合物(以下では、PFDとも称する)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてCNTフィルムを得た。用いたPFDは式(6)においてn=300~740程度であった。
【0113】
【化16】
<比較例3>
CNTとして、Raymor社製RN-020の代わりにKH Chemicals社製HPを用いたこと以外は比較例2と同様にしてCNTフィルムを得た。
【0114】
<熱電変換特性の比較>
実施例2~4、並びに比較例2および3について、得られたCNTフィルムをPET製フィルム上に載せて熱電変換特性を測定した。なお、図示しないが、CNTフィルムに含まれるCNT100質量%に対する半導体性CNTが、実施例2~4、並びに比較例2および3では90質量%以上であることを、実施例1と同様の方法にて確認した。
【0115】
図3は、実施例1~4、並びに比較例2および3のCNTフィルムの熱電変換特性を示した図である。
図3は、導電率σとゼーベック係数αとの関係を表している。なお、
図3の縦軸において、100以下の6、8はそれぞれ、60、80を表し、100と1000との間の2、4、6、8はそれぞれ、200、400、600、800を表し、1000以上の2は2000を表す。また、
図3の横軸において、0.1以下の6は0.06を表し、0.1と1との間の2、4、6はそれぞれ、0.2、0.4、0.6を表し、10以上の2は20を表す。
【0116】
図3から、実施例1および2は、比較例2に比べてゼーベック係数が高いことがわかる。また、半導体性CNTの純度は、実施例1>実施例2>比較例2であった。同様に、
図3から、実施例3および4は、比較例3に比べてゼーベック係数が高いことがわかる。半導体性CNTの純度は、実施例3>実施例4>比較例3であった。
【0117】
〔ドーピングしたCNT複合体の熱電変換特性〕
<実施例5>
0.01~4mg/mLのAgTFSI ブタノール溶液に、実施例1と同じ方法にて得られたCNTフィルムを5分間浸漬させた。その後、CNTフィルムを室温減圧下で60分乾燥させることにより、p型CNTフィルムを得た。得られたp型CNTフィルムをPET製フィルム上に載せた状態で熱電変換特性を測定した。
【0118】
<実施例6>
AgTFSI ブタノール溶液の代わりに0.005~0.075mol/mLのKOH/ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル ブタノール溶液を用いたこと以外は実施例2と同様にして、n型CNTフィルムを得た。得られたn型CNTフィルムをPET製フィルム上に載せた状態で熱電変換特性を測定した。
【0119】
<比較例4>
1質量%のPluronic(登録商標)F127(BASF社製)を含む水溶液中に、単層カーボンナノチューブ(Raymor社製、RN-020、直径約1.1~1.7nm)5mgを投入した。超音波ホモジナイザー(Qsonica社製、Q125)を用いて、上記単層カーボンナノチューブを上記水溶液中に約4℃で60分間分散させた。
【0120】
このように得られた分散液を、遠心分離機(久保田商事、テーブルトップ冷却遠心機 5500)によって60分間10000rpmで遠心分離した。遠心分離後の分散液から上清の70体積%を回収した。
【0121】
回収した上清を、0.2μm孔のメンブレンフィルター(メルクミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター JGWP02500)上に吸引濾過することにより、CNTフィルムを堆積させた。
【0122】
得られたCNTフィルムを0.01~4mg/mLのAgTFSI ブタノール溶液に5分間浸漬させた。その後、CNTフィルムを室温減圧下で60分乾燥させることにより、p型CNTフィルムを得た。得られたp型CNTフィルムをPET製フィルム上に載せた状態で熱電変換特性を測定した。当該p型CNTフィルムは、金属性CNTと半導体性CNTとを約1:2の質量比で含んでいた。
【0123】
<熱電変換特性の比較>
図4は、実施例5のp型CNTフィルム、実施例6のn型CNTフィルムおよび比較例4のp型CNTフィルムの熱電変換特性を示した図である。
図4の(a)は、実施例5のp型CNTフィルム、実施例6のn型CNTフィルムおよび比較例4のp型CNTフィルムにおける導電率σとゼーベック係数の絶対値|α|との関係を表す図である。なお、
図4の(a)において、縦軸の読み方は
図3と同様である。
図4の(a)から、PCPDTBTを用いて半導体性CNTの純度を向上させた場合、p型ドーピングおよびn型ドーピングのいずれにおいても、導電率の変化とともにゼーベック係数の絶対値が変化していることがわかる。
【0124】
図4の(b)は、実施例5のp型CNTフィルム、実施例6のn型CNTフィルムおよび比較例4のp型CNTフィルムにおける導電率σと出力因子PFとの関係を表す図である。
図4の(b)から、PCPDTBTを用いて半導体性CNTの純度を向上させると、導電率が100S/cm以上である場合において、p型ドーピングおよびn型ドーピングのいずれにおいても、高い出力因子が得られることがわかる。特に実施例5のp型CNTフィルムにおいて導電率が約100S/cmである場合、400μW/mK
2を超える出力因子が得られ、中には500μW/mK
2を超える出力因子を示すものもあった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、例えば、熱電変換材料に利用することができる。