(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】粒状試料の分析方法及び分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/36 20060101AFI20230207BHJP
G01N 15/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
G01N1/36
G01N15/00 Z
(21)【出願番号】P 2018063109
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌弘
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090182(JP,A)
【文献】特開2002-350731(JP,A)
【文献】特開2006-234835(JP,A)
【文献】特開2013-246001(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0084159(US,A1)
【文献】特開2017-090183(JP,A)
【文献】特開平11-064188(JP,A)
【文献】特開平02-151749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 15/00-15/14
G01N 23/00-23/2276
G01N 27/60-27/70
G01N 27/92
G01N 33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状試料が樹脂材料に埋込み固定されてなる試料埋込樹脂の観測表面に存在する粒状試料を、分析装置で分析する方法であって、
試料埋込樹脂の観測表面内で該
観測表面の外縁近傍に、少なくとも三点の位置検出用マーキングを付し、
先の分析の終了後、前記試料埋込樹脂を分析装置から取り出し、後の分析時に、前記試料埋込樹脂を分析装置に再度配置し、観測表面内における先の分析時の分析対象箇所を、前記位置検出用マーキングを用いて検出し、
先の分析時に、試料埋込樹脂の観測表面に設定した座標系における少なくとも三点の位置検出用マーキングの初期座標を記録し、
後の分析時に、分析装置に再度配置した試料埋込樹脂の観測表面内の少なくとも三点の位置検出用マーキングの再配置座標の、前記初期座標に対するずれより、前記分析対象箇所を検出し、
前記再配置座標の、前記初期座標からの前記ずれを変換行列により求める、粒状試料の分析方法。
【請求項2】
先の分析時に、少なくとも三点の位置検出用マーキングをいずれも、観測表面内で前記分析対象箇所から外れた位置に付す、請求項1に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項3】
少なくとも三点の位置検出用マーキングをいずれも、前記観測表面内で該観測表面の外縁からの最短距離が2mm以内にある位置に付す、請求項1又は2に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項4】
少なくとも三点の位置検出用マーキングを、前記観測表面内にて互いに10mm以上の距離で離れた位置に付す、請求項1~3のいずれか一項に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項5】
前記観測表面内にて、少なくとも三点の位置検出用マーキングから選択した三点の位置検出用マーキングの少なくとも一組で、三点の位置検出用マーキングを結んで描かれる三角形が正三角形にならない位置に、位置検出用マーキングを付す、請求項1~4のいずれか一項に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項6】
前記観測表面の形状が円形である、請求項1~5のいずれか一項に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項7】
前記試料埋込樹脂が円柱状である、請求項1~6のいずれか一項に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項8】
少なくとも三点の位置検出用マーキングをいずれも、観測表面から窪む凹形状とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項9】
前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子である、請求項1~8のいずれか一項に記載の粒状試料の分析方法。
【請求項10】
粒状試料が樹脂材料に埋込み固定されてなる試料埋込樹脂の観測表面に存在する粒状試料を分析する分析装置であって、
当該分析装置に配置された試料埋込樹脂について、当該試料埋込樹脂の観測表面内で該
観測表面の外縁近傍に付された少なくとも三点の位置検出用マーキングの位置情報を記録するとともに、前記観測表面内の分析対象箇所を分析する
手段、
前記試料埋込樹脂と同一の試料埋込樹脂が当該分析装置に再度配置された場合、前記位置検出用マーキングの記録された前記位置情報に基き、前記試料埋込樹脂の前記観測表面内の前記分析対象箇所を検出する
手段、
前記少なくとも三点の位置検出用マーキングの位置情報として、試料埋込樹脂の観測表面に設定した座標系における少なくとも三点の位置検出用マーキングの初期座標を記録する
手段、
前記試料埋込樹脂と同一の試料埋込樹脂が当該分析装置に再度配置された場合、当該分析装置に再度配置した前記試料埋込樹脂の前記観測表面内の少なくとも三点の位置検出用マーキングの再配置座標の、前記初期座標に対するずれより、前記分析対象箇所を検出する
手段、並びに、
前記再配置座標の、前記初期座標からの前記ずれを変換行列により求める
手段を
備える、粒状試料の分析装置。
【請求項11】
前記観測表面の形状が円形である試料埋込樹脂に用いられる、請求項10に記載の粒状試料の分析装置。
【請求項12】
円柱状の試料埋込樹脂に用いられる、請求項10又は11に記載の粒状試料の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微小な粒状試料を樹脂材料に埋め込んで固定した試料埋込樹脂を、所定の分析装置に配置し、その試料埋込樹脂の観測表面に存在する粒状試料を分析する方法及び、粒状試料の分析装置に関するものであり、特に、観測表面内における所定の分析対象箇所の再度の分析を容易に行うことを可能にする技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、鉱石、スラグ、汚泥、粉塵もしくは、電気電子機器等のリサイクル原料その他の粒状試料の元素含有量、粒度分布、単体分離度などを計測するに際しては、事前に当該粒状試料を樹脂材料に埋め込んで固定して、円柱状その他の形状の試料埋込樹脂を作製した後、この試料埋込樹脂を分析装置にセットし、試料埋込樹脂の端面等の観測表面内の極めて小さな面積を占める所定の分析対象箇所を分析することが一般的である。
【0003】
このような分析装置の一例としては、鉱物解析システム(Mineral Liberation Analyzer、MLA)がある。この鉱物解析システムは、SEM-EDSをベースとして鉱石粒子の解析を行うものであり、特に鉱物資源の分野で用いられている。主に鉱物解析システムでの分析に供するための試料埋込樹脂の作製方法は、特許文献1等に記載されている。
【0004】
なお、粒状試料の分析に関するものではないが、特許文献2には、「集束した荷電粒子ビームを試料表面に走査しながら照射し、試料表面から放出される荷電粒子を検出して得られる試料表面の顕微鏡像を観察して所望の分析箇所を決定する試料表面の微小部分の元素分析方法であって、所望の分析箇所の近傍に顕微鏡像により確認できる印を付した試料を上記方法を実施する装置に配置し、分析前の顕微鏡像を観察して印と所望の分析箇所との相対的位置関係を記録し、次に、分析を開始し、途中、分析を一時的に中断して顕微鏡像により印と実際の分析箇所との相対的位置関係を確認して分析前に記録した印と分析箇所との相対的位置関係と比較することにより、所望の分析箇所と実際の分析箇所との位置ずれを把握し、位置ずれに基づいて試料と荷電粒子ビームとの相対的位置関係を修正した後に分析を再開することにより所望の分析箇所を分析すること」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-50918号公報
【文献】特開平2-151749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、かかる粒状試料の分析では、試料埋込樹脂の観測表面内の所定の分析対象箇所を一度分析し、その分析が終了して試料埋込樹脂を分析装置から取り出した後に、それと同じ分析対象箇所について再度分析することが必要になる場合がある。
【0007】
この場合、従来は、初めの分析を終了する際に、
図3に右向きの矢印で示すように、分析対象箇所Apが存在する領域について、倍率を段階的に下げた複数の像を残しておき、再度の分析時に、それを目安として、同図に左向きの矢印で示すように倍率を上げて、当該分析対象箇所Apを探し出すという作業を行っていた。
【0008】
しかしながら、初めの分析時と再度の分析時とでは、それぞれ
図4(a)及び(b)に示すように、試料ホルダー11内での試料埋込樹脂1のセット位置や試料埋込樹脂1の観測表面1aの周方向の向きが異なるものになるので、再度の分析の際に、観測表面1a内の所定の小さな分析対象箇所Apを探し出すことは極めて困難であった。特に、視野の一面に、粒状試料2の類似した形状の粒子が分布しているものでは、初めの分析時と同じ分析対象箇所Apについての再度の分析が不能になることが多い。
また初めの分析の際に、その後の再度の分析が必要になることを予測していなければ、一般に上述した作業は行わず、この場合、同じ分析対象箇所Apの再分析はできない。
【0009】
なおここで、特許文献2に記載された「微小部分の分析方法」は、そもそも上述したような粒状試料を対象としたものではない。また特許文献2では、比較的長時間にわたる分析の間に生じ得る位置ずれを防止して荷電粒子ビームを所望の位置に照射することを目的としていて、試料を装置から一旦取り出した後に装置に再度配置して分析する場合における同一の分析対象箇所を検出することについては何ら着目されていない。
【0010】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、試料埋込樹脂の観測表面内における所定の分析対象箇所の再度の分析を容易に行うことができる粒状試料の分析方法及び分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の粒状試料の分析方法は、粒状試料が樹脂材料に埋込み固定されてなる試料埋込樹脂の観測表面に存在する粒状試料を、分析装置で分析する方法であって、試料埋込樹脂の観測表面内で該観測表面の外縁近傍に、少なくとも三点の位置検出用マーキングを付し、先の分析の終了後、前記試料埋込樹脂を分析装置から取り出し、後の分析時に、前記試料埋込樹脂を分析装置に再度配置し、観測表面内における先の分析時の分析対象箇所を、前記位置検出用マーキングを用いて検出し、先の分析時に、試料埋込樹脂の観測表面に設定した座標系における少なくとも三点の位置検出用マーキングの初期座標を記録し、後の分析時に、分析装置に再度配置した試料埋込樹脂の観測表面内の少なくとも三点の位置検出用マーキングの再配置座標の、前記初期座標に対するずれより、前記分析対象箇所を検出し、前記再配置座標の、前記初期座標からの前記ずれを変換行列により求めるというものである。
【0012】
ここで好ましくは、先の分析時に、少なくとも三点の位置検出用マーキングをいずれも、観測表面内の分析対象箇所から外れた位置に付す。
また好ましくは、少なくとも三点の位置検出用マーキングをいずれも、前記観測表面内で該観測表面の外縁からの最短距離が2mm以内にある位置に付す。
そしてまた好ましくは、少なくとも三点の位置検出用マーキングを、前記観測表面内にて互いに10mm以上の距離で離れた位置に付す。
【0013】
この発明の粒状試料の分析方法では、前記観測表面内にて、少なくとも三点の位置検出用マーキングから選択した三点の位置検出用マーキングの少なくとも一組で、三点の位置検出用マーキングを結んで描かれる三角形が正三角形にならない位置に、位置検出用マーキングを付すことが好適である。
【0014】
この発明の粒状試料の分析方法では、前記観測表面の形状が円形であることがある。また、前記試料埋込樹脂は円柱状である場合がある。
【0015】
なお、上述した粒状試料の分析方法では、少なくとも三点の位置検出用マーキングをいずれも、観測表面から窪む凹形状とすることができる。
【0016】
この発明の粒状試料の分析方法では、前記粒状試料を構成する粒子が鉱石粒子であることが好適である。
【0017】
また、この発明の粒状試料の分析装置は、粒状試料が樹脂材料に埋込み固定されてなる試料埋込樹脂の観測表面に存在する粒状試料を分析する分析装置であって、当該分析装置に配置された試料埋込樹脂について、当該試料埋込樹脂の観測表面内で該観測表面の外縁近傍に付された少なくとも三点の位置検出用マーキングの位置情報を記録するとともに、前記観測表面内の分析対象箇所を分析する手段、前記試料埋込樹脂と同一の試料埋込樹脂が当該分析装置に再度配置された場合、前記位置検出用マーキングの記録された前記位置情報に基き、前記試料埋込樹脂の前記観測表面内の前記分析対象箇所を検出する手段、前記少なくとも三点の位置検出用マーキングの位置情報として、試料埋込樹脂の観測表面に設定した座標系における少なくとも三点の位置検出用マーキングの初期座標を記録する手段、前記試料埋込樹脂と同一の試料埋込樹脂が当該分析装置に再度配置された場合、当該分析装置に再度配置した前記試料埋込樹脂の前記観測表面内の少なくとも三点の位置検出用マーキングの再配置座標の、前記初期座標に対するずれより、前記分析対象箇所を検出する手段、並びに、前記再配置座標の、前記初期座標からの前記ずれを変換行列により求める手段を備えるものである。
【0018】
この発明の粒状試料の分析装置は、前記観測表面の形状が円形である試料埋込樹脂に用いられることがあり、また、円柱状の試料埋込樹脂に用いられることがある。
【発明の効果】
【0019】
この発明の粒状試料の分析方法によれば、試料埋込樹脂の観測表面内に、少なくとも三点の位置検出用マーキングを付し、先の分析の終了後に分析装置から取り出した試料埋込樹脂を、後の分析時に分析装置に再度配置するとともに、先の分析時の分析対象箇所を、前記位置検出用マーキングを用いて検出することにより、分析対象箇所を容易く、また比較的短時間のうちに探し出すことができるので、当該分析対象箇所の再分析が容易になる。
また、この発明の粒状試料の分析装置によれば、試料埋込樹脂の観測表面内に付された少なくとも三点の位置検出用マーキングの位置を記録するとともに、前記観測表面内の分析対象箇所を分析し、それと同一の試料埋込樹脂が当該分析装置に再度配置された場合に、前記位置検出用マーキングの位置の記録に基き、前記試料埋込樹脂の前記観測表面内の前記分析対象箇所を検出することにより、分析対象箇所の再分析を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の一の実施形態に係る粒状試料の分析方法に用いることのできる試料埋込樹脂の一例を示す斜視図である。
【
図2】この発明の一の実施形態に係る粒状試料の分析方法で分析対象箇所を検出する手法を示す、試料ホルダーにセットされた試料埋込樹脂の先の分析時と後の分析時のそれぞれにおける観測表面の平面図である。
【
図3】従来の方法で分析対象箇所を検出する手法を示す、観測表面の倍率の異なる領域の像の模式図である。
【
図4】試料ホルダーにセットされた試料埋込樹脂の先の分析時と後の分析時のそれぞれにおける観測表面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る粒状試料の分析方法では、
図1に例示するような試料埋込樹脂1を用いることができる。この試料埋込樹脂1は、粒径が不均一な粒子からなり、複数種類の単体及び/又は化合物を含む分析対象の粒状試料2と、粒状試料2が埋め込まれて固定された樹脂材料3とを有するものである。
【0022】
粒状試料2および樹脂材料3を有する試料埋込樹脂1は一般には、図示しない円筒状等の所定の容器に収容されて、それ自身が円柱状等の形状を有する。試料埋込樹脂1は、たとえば、後述の粒状試料2を液体状樹脂材料とともに容器内に投入し、所定の方法にて粒状試料2を液体状樹脂材料中に分散させた後、液体状樹脂材料を加熱等により硬化させて固体の樹脂材料3とすることにより作製することができる。
なお以下の説明では、特に必要でない限り符号は省略することがある。
【0023】
(粒状試料)
分析の対象とする粒状試料は、鉱石、スラグ、汚泥、粉塵もしくは、電気電子機器を含むそのリサイクル原料等に対して所定の処理を施すこと等によって、比較的小さい粒子となったものとすることができる。このような粒状試料は通常、組成および粒径の意図的な均一化が行われていないので、組成が異なるとともに粒径も異なる不均一な多種類の粒子からなる。
【0024】
なかでも、鉱石粒子からなる粒状試料を対象とする場合、このような鉱石粒子は銅鉱石を含むことがあり、これには、たとえば、輝銅鉱、銅藍、黄銅鉱、班銅鉱、硫砒銅鉱、ブロシャン銅鉱等が含まれ得る。銅鉱石以外にも黄鉄鉱、磁鉄鉱、ケイ酸塩鉱物、輝水鉛鉱、金粒子等も含まれ得る。なおケイ酸塩鉱物としては、正長石、曹長石、斜長石、白雲母、黒雲母、石英等がある。
【0025】
スラグからなる粒状試料を対象とする場合、スラグ自体がSiO2、CaO、Al2O3、FeO及びFe3O4等を含む複雑な組成を持ち、さらにスラグ中にマット粒子やメタル粒子を含む場合がある。
電気電子機器からなる粒状試料の場合、基板に含まれる樹脂部や回路を構成する金属部、難燃剤部等の様々な組成を持つ粒子が存在する。
汚泥、粉塵に至っては単一の組成となっている場合はまず無い。
【0026】
粒状試料を構成する粒子の粒径は、たとえば1μm~700μm、典型的には20μm~200μmの範囲で、比較的全体的に分布していて不均一である。なお、粒度分布計で測定できる粒径は、たとえば0.243μm~2000μmである場合があるが、上述したような粒状試料の粒径はこの範囲で不均一に分布している。
【0027】
(樹脂材料)
上述した粒状試料を埋め込んで固定するための樹脂材料としては様々なものを用いることができるが、たとえば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができ、このなかでも、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂が好ましい。
【0028】
(分析方法)
ここでは、試料埋込樹脂1の観測表面1aに存在する粒状試料2の分析を、分析装置を用いて少なくとも二回行うこととする。
そのうちの時間的に先の分析では、
図2(a)に示すように、分析装置の所定の試料ホルダー11に試料埋込樹脂1をセットして、たとえば観測表面1a内における所定の分析対象箇所Apの粒状試料2の元素含有量、粒度分布、単体分離度などを計測する。先の分析が終了した後、試料埋込樹脂1を、試料ホルダー11から取り外すとともに分析装置から取り出す。
なお一般には、先の分析の際に後の分析の必要性が認識されていないこともあり、先の分析の結果を確認した後等に事後的に後の分析が必要になる場合がある。それ故に、先の分析の際もしくは前に後の分析を行う意図がなかったとしても、結果として、先と後の少なくとも二回の分析が行われていれば、ここでいう「少なくとも二回」の分析が行われたものとする。またそれにより、先の分析の際に、後の分析で行う分析を予め行っておくことは難しく、後述するような後の分析および、そのための分析装置への粒状試料2の再度のセットが必要になる場合が少なくない。
【0029】
そして、先の分析よりも時間的に後の分析では、分析装置の試料ホルダー11に上記の試料埋込樹脂1を再びセットし、試料埋込樹脂1の当該観測表面1a内において先の分析時と同じ分析対象箇所Apについて再度、所定の計測を行うことがある。
後の分析では、試料ホルダー11における試料埋込樹脂1のセット位置が先の分析時と同じにはならないので、観測表面1a内の小さな分析対象箇所Apを探し出すことが困難になる。
図2に示すところでは、
図2(b)に示す後の分析時の試料埋込樹脂1のセット位置は、
図2(a)に示す先の分析時のセット位置に対し、図の下方側にずれており、また反時計回りに約90°回転した向きとなっている。
【0030】
このことに対し、この実施形態では、時期的に遅くとも、先の分析が終了して試料埋込樹脂1を分析装置から取り出す前、一般には先の分析より前に予め、試料埋込樹脂1の観測表面1a内に、少なくとも三点の位置検出用マーキングMcを付し、後の分析時に、これらの位置検出用マーキングMcを基準として、分析対象箇所Apを検出する。それにより、後の分析で分析対象箇所Apを、短時間で容易に探し出すことができる。また、再分析に備えて試料埋込樹脂1を分析装置に留めておくことが不要になるので、分析装置のスループットが向上する。
【0031】
特に、先述した鉱石粒子からなる粒状試料等では、樹脂材料中に数万粒もの鉱物粒子が存在することもあり、そのなかから特定の一粒の鉱物粒子を探し出すことは、当該鉱物粒子をより詳しく調べるために必要となることが多々あったものの、これまでは極めて困難であった。たとえば、数十ppm以下のAuを含む鉱物から作成した粒状試料中にAuを含む鉱物粒子は通常、数粒から数十粒しかなく、再分析ではそれを見つけ出して、共存している鉱物との位置関係やプロセスの反応経過を追いかける必要がある。このような同じ粒子をさまざまな視点から何度も分析する必要があるが、これまでは多数回の分析が終了するまで分析装置からの粒状試料の交換ができず、他の粒状試料の分析ができなくなって分析が滞るという問題があった。
これに対し、この実施形態によれば、上述したような数万粒もの鉱物粒子のなかの特定の鉱物粒子であっても容易に探し出すことができる他、その粒状試料を一旦分析装置から取り出して、その後に分析装置に再度配置した場合にも、特定の鉱物粒子の検出を短時間のうちに簡単に行うことができる。
【0032】
なお、先の分析の前、後の分析の後、及び/又は、先の分析と後の分析との間に、試料埋込樹脂1を用いた他の分析を行うことも可能である。また後の分析では、一般には先の分析時のものと同じ分析装置を用いるが、先の分析時のものと異なる分析装置を用いてもよい。この実施形態では、上述した構成を有することにより、先の分析と後の分析とで異なる分析装置を用いた場合であっても、先の分析時の分析対象箇所の再分析を、後の分析で容易に行うことができる。
【0033】
観測表面1a内に位置検出用マーキングMcを付すタイミングは、先の分析が終了して試料埋込樹脂1を分析装置から取り出す前であればいずれの時期でもよく、たとえば先の分析よりも前とすることも可能であるが、先の分析の間で計測等を行う前又は行った後とすることが一般的である。
この場合、少なくとも三点の位置検出用マーキングMcはいずれも、先の分析時の分析対象箇所Apから外れた位置、つまり粒状試料2の粒子が存在しない樹脂材料部分の位置に付すことが好ましい。分析対象箇所Apに位置検出用マーキングMcが存在すると、位置検出用マーキングMcが、分析しようとする分析対象箇所Apと重なってしまうことが懸念され、当該位置検出用マーキングMcの形状等によっては位置検出用マーキングMcが分析作業を阻害することも考えられる。たとえば凸状の位置検出用マーキングMcが分析対象箇所Apに存在すると、その位置検出用マーキングMcの影ができて、分析できない部分が生じる可能性がある。
【0034】
またこの場合、後の分析時に位置検出用マーキングMcを用いて分析対象箇所Apを検出するに当っては、単純に位置検出用マーキングMcを目視の目印として使用することもできるが、より高い精度で短時間のうちに検出するとの観点から、観測表面1a上に座標系を設定することが好ましい。
【0035】
より具体的には、先の分析時に、試料埋込樹脂1の観測表面1a上に設定した直交座標系等の座標系で、少なくとも三点の位置検出用マーキングMcそれぞれの先の分析時の座標としての初期座標(たとえばx座標及びy座標)と、分析対象箇所Apの先の分析時の座標とを記録しておく。その上で、後の分析時に、試料埋込樹脂1を分析装置に再度配置した後、観測表面1a内の少なくとも三点の位置検出用マーキングMcの後の分析時の座標としての再配置座標の、上記の初期座標からのずれを、たとえば回転移動及び平行移動の変換行列によって数学的に求める。そして、当該ずれを分析対象箇所Apに対して適用することで、分析対象箇所Apの後の分析時の座標を算出することができる。このような数学的な処理によれば、後の分析時に分析対象箇所Apをより一層容易に検出することができる。
【0036】
ここで、三点の位置検出用マーキングMcを結んで描かれる三角形が正三角形にならない場合は、あらゆる位置の分析対象箇所Apを、三点の位置検出用マーキングMcの座標から一意的に検出することができる。それ故に、三点の位置検出用マーキングMcは、それらを結んで描かれる三角形が正三角形にならない位置に付すことが好ましい。四点以上の位置検出用マーキングMcを付す場合は、それらの位置検出用マーキングMcから選択した少なくとも一組の三点の位置検出用マーキングMcが、正三角形の頂点にならなければ、たとえば他の点の形状・態様を変更するなどして区別することで、当該三点の位置検出用マーキングMcを用いて、分析対象箇所Apの検出を一意的に検出可能である。
【0037】
一方、三点の位置検出用マーキングMcを結んで描かれる三角形が正三角形になる場合は、たとえばそれらの位置検出用マーキングMcのうちの一点もしくは二点の形状・態様を残りのものの形状等と変更しておくこと等により、試料埋込樹脂1のセット位置の向きを確認でき、これによって、あらゆる位置の分析対象箇所Apを一意的に検出することができる。
【0038】
少なくとも三点の位置検出用マーキングMcがあれば、上述したようにして位置検出用マーキングMcの座標から、分析対象箇所Apを検出することができるので四点以上でもよいが、実際に使用する位置検出用マーキングMcは一般に三点であることや、それら以外の位置検出用マーキングMcとの区別が必要であることを考慮すると、位置検出用マーキングMcは三点とすることが特に好適である。
【0039】
少なくとも三点の位置検出用マーキングMcは全て、観測表面1a内で観測表面1aの外縁からの最短距離が2mm以内にある位置に付すことが好ましい。位置検出用マーキングMcと観測表面1aの外縁との最短距離が長すぎると、位置検出用マーキングMcが観測表面1aの中央付近に存在することになるので、たとえば上述したような座標系を用いた分析対象箇所Apの検出等でその検出精度が低下する懸念がある。また、観測表面1a内の観測の対象となる中央部全体に分散している粒状試料の特定の粒子に、位置検出用マーキングMcが重なることを避けることも望ましい。この観点から、位置検出用マーキングMcと観測表面1aの外縁との最短距離は、1mm以内とすることがより一層好ましい。
図示のような円形の観測表面1aでは、観測表面1aの上記の外縁はその円形の観測表面1aの円周の周縁を意味するので、位置検出用マーキングMcは、円形の観測表面1aの周縁と、観測表面1aよりも上記の最短距離分だけ半径が小さい仮想円の周縁との間(当該仮想円の周縁上を含む。)に付すことが好適である。
また位置検出用マーキングMcは、その全体が観測表面1a内に収まるものとしつつ、できるだけ観測表面1aの外縁に近い場所に付すこともできる。
【0040】
なお、先に述べた特許文献2で想定されているような電子顕微鏡等の装置では、一枚の写真として観察できる領域の大きさが限られており、通常2~5mm角程度である。このような装置を用いる場合で、上述したように観測表面1aの外縁近傍に位置検出用マーキングMcを付すと、その位置検出用マーキングMcを確認するためにステージを移動させる必要がある。そして、特許文献2では、比較的長時間にわたる分析の間に生じ得る位置ずれを防止することを目的としているので、その目的を達成するには、観測表面1aの外縁近傍の位置検出用マーキングMcを確認する度に、分析の最中に分析を中断してステージを何度も移動させることが必要になり、位置ずれの防止に多大な時間を要し実用的ではないのみならず、機械的な再現誤差が大きくなり、微小部の分析精度を逆に低下させるとも考えられる。
一方、この実施形態では、後の分析の開始前に、位置検出用マーキングMcを一度でも確認すればよいので、マーキングの位置確認のためのステージの移動が不要であり、それに起因する上記のような問題は生じない。
【0041】
試料埋込樹脂1の観測表面1a内で、少なくとも三点の位置検出用マーキングMcは互いに、好ましくは10mm以上の距離、より好ましくは15mm以上の距離で離れた位置に付すことができる。位置検出用マーキングMc間の離隔距離がこれよりも短く、位置検出用マーキングMcどうしが近すぎると、位置再現の誤差が大きくなり、目的粒子を見つけ出すのに時間がかかってしまうか、あるいは目的粒子が見つけ出せないおそれがある。
なおここでは、少なくとも三点の位置検出用マーキングMcのうちから選択したいずれの二点も上記の距離で離れていることを意味し、また、位置検出用マーキングMcは観測表面1a内に付すことから、観測表面1aの外縁より内側にあることが前提である。
【0042】
なお、上述したような位置検出用マーキングMcと観測表面1aの外縁との最短距離や、位置検出用マーキングMc間の離隔距離を測定するに際し、観測表面1a内で位置検出用マーキングMcがある程度の面積を有する大きさである場合は、位置検出用マーキングMcの中央を基準とする。
【0043】
位置検出用マーキングMcは、たとえば、観測表面1aから窪む凹形状、又は、観測表面1aから突出する凸形状とすることができるだけでなく、構成元素の蒸着や、他の部分と区別できる模様もしくは色彩等といったように、何らかの方法で他の部分から区別可能な様々な態様であればよい。分析装置により位置検出用マーキングMcを識別させる場合は、その分析装置で識別可能な態様とする。
【0044】
凹形状の位置検出用マーキングMcは、観測表面1a上に圧子等の鋭利な先端を押し付けることにより形成することができる。たとえば、ビッカース硬度計の先端に三つの圧子が固定された治具を取り付けて、これを観測表面1aに水平に押し込み、三点の凹形状の位置検出用マーキングMcを一度に形成する。凸形状の位置検出用マーキングMcは、観測表面1a上を、所定の形状及び位置関係の貫通穴を設けたマスクで被覆し、その上から樹脂等を吹き付けることで形成可能である。印刷機で観測表面1aに印刷することにより、位置検出用マーキングMcを形成してもよい。その形状等は識別できるものであれば特に問わない。
【0045】
なお、試料埋込樹脂1の観測表面1aは分析に先立ち再研磨を施すことがあるので、上述した態様のなかでは、当該研磨によっても残存するような凹形状の位置検出用マーキングMcが好ましい。
【0046】
位置検出用マーキングMcの平面形状は特に問わず、様々な形状とすることができるが、予め所定の形状と規定しておくことが好ましい。平面視の形状が予め規定された位置検出用マーキングMcを用いることにより、粒状試料2が隙間なく分布していることが多い観測表面1aで、位置検出用マーキングMcが粒状試料2と重なって付された場合であっても、当該位置検出用マーキングMcを、一般に不定形である粒状試料2から識別することが可能になる。
【0047】
以上に述べた分析方法では、位置検出用マーキングMcの形成や、位置検出用マーキングMcを用いた座標計算を含む分析対象箇所Apの検出等は、手作業で行っても分析対象箇所Apの再分析が十分容易になるが、それらの機能を分析装置に組み込んで自動化することにより再分析をさらに容易に行うことが可能になる。
【0048】
なお、分析対象箇所Apの検出精度は、位置検出用マーキングMc間の距離や位置検出用マーキングMcの形成態様、分析装置固有の機械的誤差などで決まるが、仮にそのような誤差により分析対象箇所Apを正確に検出できなかった場合でも、誤差の範囲内で分析対象箇所Apの近傍を特定することができるので、視野を少し広げて観察すれば分析対象箇所Apを探し出すことは容易である。
【0049】
(分析装置)
この発明の一の実施形態に係る粒状試料の分析装置は、好ましくは、電子銃を用いて表面分析する装置であって上述したような分析方法を有効に実行し得るものであり、例えばSEM、AES、EPMA、鉱物解析システム(Mineral Liberation Analyzer、MLA)等の、粒状試料が樹脂材料に埋込み固定されてなる試料埋込樹脂の観測表面に存在する粒状試料を分析するための装置である。
【0050】
具体的には、この実施形態の分析装置は、その内部等に試料埋込樹脂が配置された後、試料埋込樹脂の観測表面内に付された少なくとも三点の位置検出用マーキングの位置情報を記録する動作及び、観測表面内の分析対象箇所を分析する動作、ならびに、位置検出用マーキングの記録された位置情報に基いて前記分析対象箇所を検出する動作を、好ましくは自動で行い得るものである。
【0051】
この分析装置で、時間的に先及び後の少なくとも二回の分析を行わせるに当っては、先の分析の際に、分析装置が、試料埋込樹脂の観測表面内の位置検出用マーキングを記録するとともに、観測表面内の分析対象箇所を分析する。次いで、試料埋込樹脂を分析装置から取り出した後、その試料埋込樹脂と同一の試料埋込樹脂を分析装置に再度配置して行う後の分析の際に、分析装置が、先の分析で用いた試料埋込樹脂と同一の試料埋込樹脂が再度配置されたことを認識し、先の分析時に記録された位置検出用マーキングの位置情報に基いて、試料埋込樹脂の観測表面内の先の分析における分析対象箇所を検出する。
それにより、分析対象箇所の再分析が飛躍的に容易になる。
【実施例】
【0052】
次に、この発明の粒状試料の分析方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0053】
鉱物粒子からなる粒状試料を樹脂材料中に埋め込み固定した円柱状の試料埋込樹脂で、その端面である観測表面における二万個の粒子を分析した。その一週間後に、そのうちの特定の粒子について再度、別の観点から分析することが必要になった。
当該試料埋込樹脂の観測表面には、初めの分析の際に予め、三点の位置検出用マーキングを付すとともに、その座標データを取得していたので、後の再分析の際に、これらの位置検出用マーキングと座標データを用いて、特定の粒子の箇所を検出したところ、一時間程度で検出および再分析が終了した。
【符号の説明】
【0054】
1 試料埋込樹脂
1a 観測表面
2 粒状試料
3 樹脂材料
11 試料ホルダー
Ap 分析対象箇所
Mc 位置検出用マーキング