(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-06
(45)【発行日】2023-02-14
(54)【発明の名称】活性炭の前処理方法および、金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20230207BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20230207BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20230207BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230207BHJP
B09B 3/00 20220101ALI20230207BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230207BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20230207BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20230207BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C22B23/00 102
B01D15/00 G
B01D15/00 M
B01J20/20 B
B01J20/30
B09B3/00 ZAB
B09B3/70
C22B3/24
C22B3/26
C22B7/00 C
(21)【出願番号】P 2019072060
(22)【出願日】2019-04-04
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 直樹
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-152592(JP,A)
【文献】特開平09-227967(JP,A)
【文献】特開2016-164297(JP,A)
【文献】特開2014-162982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01D 15/00-15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭の前処理方法であって、
コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを取り出す過程で、前記金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用されるとともに、鉄を含有する活性炭について、
前記吸着に使用するに先立ち、前記活性炭を、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む洗浄液で洗浄する、活性炭の前処理方法。
【請求項2】
前記洗浄液が、前記金属含有溶液に含まれる金属イオンと同種の金属イオンを含む、請求項1に記載の活性炭の前処理方法。
【請求項3】
洗浄後の活性炭の鉄含有量が、20質量ppm以下である、請求項1又は2に記載の活性炭の前処理方法。
【請求項4】
洗浄前の洗浄液のコバルトイオン及び/又はニッケルイオンの濃度を、1g/L~100g/Lとする、請求項1~3のいずれか一項に記載の活性炭の前処理方法。
【請求項5】
洗浄前の洗浄液のpHを0~7とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の活性炭の前処理方法。
【請求項6】
前記金属含有溶液が、溶媒抽出を経た後の金属含有溶液であり、前記除去対象物質が、前記溶媒抽出で用いられた有機物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の活性炭の前処理方法。
【請求項7】
コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを回収する金属回収方法であって、
溶媒抽出により前記金属含有溶液を得る抽出工程と、抽出工程の後、前記金属含有溶液中の有機物を、請求項1~6のいずれか一項に記載の活性炭の前処理方法で得られた活性炭で吸着させる吸着工程とを含む金属回収方法。
【請求項8】
前記金属含有溶液が、コバルト又はニッケルのいずれかを含み、
前記吸着工程の後、前記金属含有溶液を電解液として電解を行う電解工程をさらに含む請求項7に記載の金属回収方法。
【請求項9】
前記金属含有溶液が、リチウムイオン電池廃棄物に湿式処理を施して得られる請求項7又は8に記載の金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを取り出す過程で、前記金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用される活性炭の前処理方法および、金属回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、特定の物質を除去すること等の目的で、活性化ないし賦活処理を施した多孔質の炭素を主成分とするものであり、種々の用途に広く用いられている。
たとえば、活性炭は、所定の金属が溶解した金属含有溶液から、そこに含まれる除去対象物質を吸着することに使用される場合がある。
【0003】
これに関連して、特許文献1には、「前工程から水相に随伴された酸および/または抽出時にこの水相中に生成した酸をイオン交換膜を用いた透析により除去すること」が記載されている。ここで、「透析に供される水相」である「原液は透析装置に供給する前に活性炭等で有機相をできるだけ除去する」ことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、「精製塩化クロム溶液中に含まれる微量の有機溶媒、たとえばトリノルマルオクチルアミンは、活性炭(粉末)を塩化クロム溶液1l当り1gの割合で加え、温度20~60℃で30分程かきまぜたのち活性炭に吸着させて除去するかまたは粒状活性炭を充填塔につめ、塩化クロム溶液を通過させることによって除去した。塩化クロム溶液を電解するにあたり、・・・」との記載がある。
【0005】
特許文献3には、「鉱石を溶解させた溶液から溶媒抽出法により元素を回収するさい、溶媒抽出による水層に硫黄、活性炭等から選択される1種以上を加えて前記水層に含まれる溶媒を除去すること」が記載されている。
【0006】
特許文献4には、「有価金属を含有する水溶液を有機溶媒で溶媒抽出する工程と、前記溶媒抽出で得られた抽出後液に含まれる前記有機溶媒中の抽出剤を、活性炭で除去する工程と、を含む有価金属を含有する水溶液の処理方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-235102号公報
【文献】特開昭50-152914号公報
【文献】特開2003-220302号公報
【文献】特開2016-108588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、活性炭には、比較的微量ながらも鉄が含まれるものがある。活性炭中のこのような鉄は、通常の使用では特に問題にならないことが多い。
しかしながら、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを取り出す過程で、活性炭を、金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用する場合は、活性炭中の鉄が金属含有溶液中に溶出し、このことが高純度のコバルト及び/又はニッケルを得ることの障害になる。
【0009】
この明細書では、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用される活性炭で、その金属含有溶液から取り出すコバルト及び/又はニッケルの純度の低下を抑制することができる活性炭の前処理方法および、金属回収方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この明細書で開示する活性炭の前処理方法は、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを取り出す過程で、前記金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用されるとともに、鉄を含有する活性炭について、前記吸着に使用するに先立ち、前記活性炭を、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む洗浄液で洗浄することにある。
【0011】
この明細書で開示する金属回収方法は、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを回収するものであって、溶媒抽出により前記金属含有溶液を得る抽出工程と、抽出工程の後、前記金属含有溶液中の有機物を、上記の活性炭の前処理方法で得られた活性炭で吸着させる吸着工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0012】
上記の活性炭の前処理方法によれば、金属含有溶液から取り出すコバルト及び/又はニッケルの純度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】金属回収方法の一例として、リチウムイオン電池廃棄物からコバルト及びニッケルを回収する過程を示すフロー図である。
【
図2】
図1に示す金属回収方法への、一の実施形態に係る活性炭の前処理方法の適用例を示すフロー図である。
【
図3】
図2のより具体的な適用例を示すフロー図である。
【
図4】
図2のより具体的な他の適用例を示すフロー図である。
【
図5】
図2のより具体的なさらに他の適用例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、上述した活性炭の前処理方法の実施の形態について詳細に説明する。
<活性炭の前処理方法>
一の実施形態に係る活性炭の前処理方法は、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを取り出す過程で、金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用される活性炭を対象とする。この活性炭には鉄が含まれる。ここでは、活性炭から鉄を取り除くため、金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用する前に、活性炭を、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む洗浄液で洗浄する。
【0015】
(活性炭)
活性炭としては、金属が溶解した溶液に含まれる除去対象物質を吸着させる吸着材として通常用いられているものとすることができる。この実施形態では、たとえば、木材、椰子殻その他の炭素質原料を多孔質原料に変化させる賦活処理等の物理法又は、化学薬品を用いた化学法等により製造された一般的な活性炭を対象とすることができる。
【0016】
活性炭には、たとえば自然由来その他の理由で、鉄を含有するものがある。この実施形態は、鉄を含有する活性炭に対して適用されるものである。活性炭(後述する洗浄前の活性炭)中の鉄の含有量は、たとえば0.001質量%~1質量%、典型的には0.01質量%~0.03質量%である場合がある。
【0017】
活性炭は、たとえば後述する金属回収方法のような、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを取り出す途中で、金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に用いられる。このとき、上述したように、活性炭に鉄が含まれると、当該活性炭で除去対象物質を吸着した後の金属含有溶液に鉄が溶出して含まれる。金属含有溶液に鉄が含まれる場合、最終的に得られるコバルト及び/又はニッケルの純度が低下する。これを防止するべく活性炭から鉄を十分に取り除くため、この実施形態では、後述する活性炭の前処理方法を行う。
なお、詳細については後述するが、活性炭で吸着させる金属含有溶液中の除去対象物質は、金属含有溶液を得るためにその前段階に行われた溶媒抽出で使用された有機物である場合がある。
【0018】
(金属含有溶液)
活性炭を使用する金属含有溶液は、少なくとも、コバルトイオン及びニッケルイオンのうちの一種の金属イオンを含むものであればよい。金属含有溶液中のコバルトイオン濃度及び/又はニッケルイオン濃度は、たとえば1g/L~100g/L、典型的には30g/L~70g/Lである場合がある。この濃度は、金属含有溶液がコバルトイオン及びニッケルイオンの両方を含む場合は、それらの合計濃度を意味する。
金属含有溶液は、たとえば硫酸酸性溶液である場合があり、典型的には、後述するように、リチウムイオン電池廃棄物に湿式処理を施して得られるものとすることができる。
【0019】
(洗浄)
ここでは、上述したような活性炭は、金属含有溶液中の除去対象物質の吸着に使用される前に、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む洗浄液を用いて洗浄される。これにより、活性炭に含まれる鉄が洗浄液中に溶け出して、活性炭から鉄が有効に除去される。
【0020】
上記の洗浄液により活性炭中の鉄が除去される理由は、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンと鉄のセメンテーション反応によるものと考えられる。すなわち、活性炭中の鉄よりも貴な金属であるコバルトないしニッケルは、卑な金属である鉄によって還元析出する一方で、卑な金属である鉄は、貴な金属であるコバルトないしニッケルにより酸化されて液中に溶出する。したがって、これによれば、洗浄操作により、鉄が溶出するとともに、コバルトイオン及び/又はニッケルイオンがメタルとして析出すると考えられる。但し、このような理論には限定されない。
【0021】
この場合、活性炭には鉄の代わりにコバルト及び/又はニッケルが含まれることがある。活性炭を使用する金属含有溶液が、それと同種の金属イオン(つまりコバルト及び/又はニッケル)を含むものであれば、活性炭中のコバルト及び/又はニッケルが、当該金属含有溶液に溶出しても特に問題が生じない。したがって、活性炭の洗浄に用いる洗浄液は、金属含有溶液に含まれる金属イオンと同種の金属イオンを含むことが好適である。具体的には、金属含有溶液が、コバルトイオン及びニッケルイオンのうち、実質的にコバルトイオンだけを含むものである場合は、洗浄液はそれと同種であるコバルトイオンだけを含むものとすることができる。または、金属含有溶液が、コバルトイオン及びニッケルイオンのうち、実質的にニッケルイオンだけを含むものである場合は、洗浄液はそれと同種であるニッケルイオンだけを含むものとすることができる。あるいは、金属含有溶液が、コバルトイオン及びニッケルイオンの両方を含むものである場合は、洗浄液はコバルトイオン及びニッケルイオンの少なくとも一方を含むものとすることができる。
【0022】
洗浄液は、たとえば硫酸酸性溶液とすることができ、洗浄前の洗浄液のpHは、好ましくは0~7、より好ましくは1~6とする。洗浄前の洗浄液のpHが高すぎると、酸化物や水酸化物として沈殿するおそれがある。一方、洗浄前の洗浄液のpHが低すぎると、たとえば、得られる電解液のpHが下がり、電流効率が下がること等が懸念される。なお、洗浄後の洗浄液のpHは、たとえば2~5程度になることがある。
【0023】
洗浄前の洗浄液のコバルトイオン及び/又はニッケルイオンの濃度は、1g/L~100g/Lとすることが好ましく、さらに10g/L~90g/Lとすることがより一層好ましい。この濃度は、洗浄液がコバルトイオン及びニッケルイオンの両方を含む場合は、それらの合計濃度を意味する。洗浄前の洗浄液のコバルトイオン及び/又はニッケルイオンの濃度を高くしすぎた場合は、結晶が析出する可能性がある。これに対し、当該濃度を低くしすぎた場合は、セメンテーションによる鉄の除去が不十分になる懸念がある。洗浄後の洗浄液のコバルトイオン及び/又はニッケルイオンの濃度は、たとえば10~90g/L程度になる場合がある。
【0024】
このような洗浄により、当該洗浄後の活性炭中の鉄の含有量は、好ましくは20質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下とする。なお、洗浄後の活性炭中のコバルト及び/又はニッケルの含有量は、両方含む場合はそれらの合計で、たとえば10質量ppm~200質量ppmになることがある。
【0025】
なお、上述した洗浄の操作は、たとえば、活性炭を洗浄液に浸漬させるとともに、撹拌して又は撹拌せずに洗うことにより行うことができる。あるいは、活性炭を円筒状等のカラムに充填し、そのカラム内に洗浄液を通して通液することにより、洗浄してもよい。
【0026】
<金属回収方法>
コバルトイオン及び/又はニッケルイオンを含む金属含有溶液からコバルト及び/又はニッケルを取り出す金属回収方法の一例として、
図1にリチウムイオン電池廃棄物からコバルト及びニッケルを回収する際の各工程を示す。
【0027】
図1に例示するところでは、リチウムイオン電池廃棄物に湿式処理が施されて、各種金属が溶解した酸性溶液を得た後、その酸性溶液に対して、溶媒抽出によりマンガンイオン及びアルミニウムイオンを抽出するMn-Al抽出工程を行う。その後、Mn-Al抽出工程で得られる抽出後液から、溶媒抽出によりコバルトイオンを抽出するCo抽出工程、ならびに、Co抽出工程の抽出残液から、溶媒抽出によりニッケルイオンを抽出するNi抽出工程を行う。
【0028】
(リチウムイオン電池廃棄物)
リチウムイオン電池廃棄物は、携帯電話その他の種々の電子機器、自動車等の様々な機械ないし装置で使用され得るリチウムイオン電池で、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄もしくは回収された廃棄物である。リチウムイオン電池廃棄物には、Mn、Ni及びCoを含有するリチウム金属塩である正極活物質の他、C(カーボン)、Fe及びCuを含む負極材や、正極活物質が、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)、リチウムイオン電池廃棄物の周囲を包み込む外装としてのアルミニウムを含む筐体が含まれることがある。具体的には、リチウムイオン電池廃棄物には、正極活物質を構成するLi、Ni、Co及びMnのうちの一種の元素からなる単独金属酸化物および/または、二種以上の元素からなる複合金属酸化物、並びに、Al、Cu、Fe、C等が含まれ得る。
【0029】
(前処理)
リチウムイオン電池廃棄物は前処理として、たとえば、加熱施設にて所定の温度及び時間で加熱する焙焼処理や、焙焼後にローター回転式もしくは衝撃式の破砕機等を用いる破砕処理、破砕後の粉粒体を所定の目開きの篩で篩分けする篩別処理等が施されたものであってもよい。このような前処理を得ることにより、リチウムイオン電池廃棄物は、アルミニウム箔と正極活物質を結着させているバインダーが分解されるとともに、AlやCu等が除去される他、電池正極材成分が湿式処理の浸出で溶解しやすい形態となる。
【0030】
(湿式処理)
湿式処理では一般に、上述したリチウムイオン電池廃棄物を、硫酸もしくは塩酸その他の鉱酸などの酸で浸出させる。ここでは、リチウムイオン電池廃棄物に含まれる金属の溶解を促進させるため、過酸化水素水を添加してもよい。それにより、リチウムイオン電池廃棄物中の金属が溶解した浸出後液が得られる。必要に応じて、この浸出後液に対して、中和もしくは硫化等を行い、たとえばFe、Al、Cu等を除去することができる。これを酸性溶液とすることができる。
【0031】
(Mn-Al抽出工程)
Mn-Al抽出工程では、溶媒抽出により、酸性溶液からマンガンイオン及びアルミニウムイオンを抽出して除去する。ここでは、酸性溶液に対して、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用して溶媒抽出することができる。燐酸エステル系抽出剤としては、たとえばジ-2-エチルヘキシルリン酸(商品名:D2EHPA又はDP8R)等が挙げられる。オキシム系抽出剤は、アルドキシムやアルドキシムが主成分のものが好ましい。具体的には、たとえば2-ヒドロキシ-5-ノニルアセトフェノンオキシム(商品名:LIX84)、5-ドデシルサリシルアルドオキシム(商品名:LIX860)、LIX84とLIX860の混合物(商品名:LIX984)、5-ノニルサリチルアルドキシム(商品名:ACORGAM5640)等がある。
【0032】
(Co抽出工程)
Co抽出工程では、Mn-Al抽出工程で得られる抽出後液に対して、好ましくはホスホン酸エステル系抽出剤を使用して溶媒抽出を行って、コバルトイオンを溶媒に抽出する。ホスホン酸エステル系抽出剤としては、ニッケルイオンとコバルトイオンの分離効率の観点から2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名:PC-88A、Ionquest801)が好ましい。この際に、pHを、好ましくは4.5~5.5、より好ましくは4.8~5.2とする。溶媒抽出後のコバルトイオンを含有する抽出剤(有機相)に対しては逆抽出を行って、コバルトイオンを水相に移動させる。
【0033】
(Co電解工程)
Co抽出工程の逆抽出で水相として得られる逆抽出後液は、Co電解工程で電解液として用いて、そこから電解採取によってコバルトが回収される。
【0034】
(Ni抽出工程)
Ni抽出工程では、Co抽出工程での溶媒抽出の抽出残液に対して、好ましくはカルボン酸系抽出剤を使用して溶媒抽出を行い、ニッケルイオンを分離する。カルボン酸系抽出剤としては、たとえばネオデカン酸、ナフテン酸等があるが、なかでもニッケルの抽出能力の理由によりネオデカン酸が好ましい。溶媒抽出後のニッケルイオンを含有する抽出剤(有機相)に対して、逆抽出を行い、ニッケルイオンを水相に移動させる。
【0035】
(Ni電解工程)
Ni電解工程では、Ni抽出工程の逆抽出で得られる水相である逆抽出後液を電解液とし、そこから電解採取によってニッケルを回収する。
【0036】
(吸着工程)
以上のようなリチウムイオン電池廃棄物からコバルト及びニッケルを回収する過程等で、先に述べた活性炭の前処理方法による吸着工程は、
図2に示すように、溶媒抽出により金属含有溶液を得る抽出工程の後に行うことができる。抽出工程の後に得られる金属含有溶液は、抽出工程での溶媒抽出で用いた有機物が若干残留していることがあり、全有機炭素量(Total Organic Carbon、TOC)がやや多い傾向にある。このような金属含有溶液に対して活性炭を用いて、そこに含まれる除去対象物質としての有機物を除去することが望ましい。抽出工程の後に得られる金属含有溶液のTOCは、たとえば10mg/L~50mg/Lである場合がある。吸着工程を経ることにより、TOCを、5mg/L以下、好ましくは1mg/L以下とすることができる。
【0037】
より具体的には、
図3、
図4又は
図5に示す態様等を挙げることができる。
図3では、Co抽出工程の逆抽出で得られるコバルトイオンを含む逆抽出後液を、金属含有溶液とし、該逆抽出後液をCo電解工程に供する前に吸着工程を行うというものである。また
図4では、Ni抽出工程の逆抽出で得られるニッケルイオンを含む逆抽出後液を、金属含有溶液とし、該逆抽出後液をNi電解工程に供する前に吸着工程を行うこととする。
【0038】
上述した逆抽出後液は、そこに有機物が含まれることに起因して、そのままCo電解工程又はNi電解工程で電解採取に用いると、電気コバルト又は電気ニッケルの形状の悪化、不純物の混入を招くことが懸念される。したがって、逆抽出後液を金属含有溶液として吸着工程を行い、活性炭に有機物を吸着させて除去することが好ましい。
【0039】
図5では、Mn-Al抽出工程でマンガンイオン及びアルミニウムイオンを溶媒抽出した後に得られる抽出後液を、金属含有溶液としている。そしてここでは、この金属含有溶液に対してCo抽出工程及びNi抽出工程をこの順序で行っている。このようにMn-Al抽出工程とCo抽出工程との間に、吸着工程を行うことも可能である。
【実施例】
【0040】
次に、上述した活性炭の前処理方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0041】
(試験例1)
有機物(25%VA-10)と接触させたニッケル溶解液(水相)について、活性炭50g/Lで該有機物を除去して、ニッケル溶解液(処理後Ni液(1))を得た。
表1に示すように、有機物(25%VA-10)と接触後のニッケル溶解液(活性炭との接触前)は、TOCが12mg/Lであり、Fe<1mg/Lであった。
活性炭50g/Lで有機物除去を行ったニッケル溶解液(処理後Ni液(1))では、TOCが2mg/Lに低減されているも、Feが3mg/L検出された。
【0042】
一方、上記のニッケル溶解液(活性炭との接触前)と同じ量及び組成のニッケル溶解液で、活性炭を洗浄した後、その洗浄後の活性炭を用いて、別のニッケル溶解液から有機物を除去した。その結果、有機物除去後のニッケル溶解液(処理後Ni液(2))の鉄濃度は、Fe<1mg/Lであることが確認できた。ここでは、活性炭がニッケル溶解液(活性炭との接触前)で洗浄されたことにより、この活性炭で有機物の吸着処理をしたニッケル溶解液(処理後Ni液(2))では、TOCが2mg/LになるとともにFe<1mg/Lとなり、Fe濃度が上がらずにTOCを除去することができた。つまり、金属含有溶液としてのニッケル溶解液中のFe濃度を上昇させることなしに、該ニッケル溶解液から、除去対象物質である有機物を吸着除去することができた。
【0043】
【0044】
また、上述したニッケル溶解液(処理後Ni液(1))及びニッケル溶解液(処理後Ni液(2))のそれぞれを電解液として、200A/m2で電解を行った。それにより得られたNiメタルのFe品位を表2に示す。
表2から、ニッケル溶解液(処理後Ni液(2))を電解液として作製したNiメタルは、ニッケル溶解液(処理後Ni液(1))を用いた場合のNiメタルと比べて、Fe品位が低く、高純度であった。
【0045】
【0046】
(試験例2)
有機物(25%PC-88A)と接触させたコバルト溶解液(活性炭との接触前)について、活性炭50g/Lで有機物を除去して、コバルト溶解液(処理後Co液(1))を得た。
表3に示すように、有機物(25%PC-88A)と接触後のコバルト溶解液(活性炭との接触前)は、TOCが50mg/Lであり、Fe<1mg/Lであった。
活性炭50g/Lで有機物除去を行ったコバルト溶解液(処理後Co液(1))では、TOCが4mg/Lに低減されているも、Feが7mg/L検出された。
【0047】
一方、上記のコバルト溶解液(活性炭との接触前)と同じ量及び組成のコバルト溶解液で、活性炭を洗浄した後、その洗浄後の活性炭を用いて、別のコバルト溶解液から有機物を除去した。その結果、有機物除去後のコバルト溶液(処理後Co液(2))のFe<1mg/Lであることを確認した。より詳細には、コバルト溶解液(処理後Co液(2))では、TOCが4mg/LになるとともにFe<1mg/Lとなり、Fe濃度が上がらずに、TOCを除去することができた。つまり、金属含有溶液としてのコバルト溶解液中のFe濃度を上昇させることなしに、該コバルト溶解液から、除去対象物質である有機物を吸着除去することができた。
【0048】
【0049】
また、上述したコバルト溶解液(処理後Co液(1))及びコバルト溶解液(処理後Co液(2))のそれぞれを電解液として、200A/m2で電解を行った。それにより得られたCoメタルのFe品位を表4に示す。
表4から、コバルト溶解液(処理後Co液(2))を電解液として作製したCoメタルは、コバルト溶解液(処理後Co液(1))を用いた場合のCoメタルと比べて、Fe品位が低く、高純度であった。
【0050】
【0051】
以上より、活性炭の所定の洗浄により、金属含有溶液からの高純度のコバルト及び/又はニッケルの取出しに寄与できることが解かった。