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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】医薬錠剤、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/20 20060101AFI20230208BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230208BHJP
【FI】
A61K9/20
A61K47/32
A61K47/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018542307
(86)(22)【出願日】2018-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2018029823
(87)【国際公開番号】W WO2019031560
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2017153172
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
(72)【発明者】
【氏名】小林 文香
(72)【発明者】
【氏名】竹内 洋文
(72)【発明者】
【氏名】竹内 淑子
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087074(JP,A)
【文献】国際公開第2010/097243(WO,A2)
【文献】特開2006-076971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬効成分、ポリビニルアルコール系樹脂、およびグリセリンを含有する、直接打錠法による医薬錠剤であって、
前記グリセリンの含有量が、前記ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、1~8重量部である医薬錠剤。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が2100~4000である、請求項1記載の医薬錠剤。
【請求項3】
医薬錠剤の引張強度が1.0MPa以上である、請求項1又は2記載の医薬錠剤。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が70~100モル%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬錠剤。
【請求項5】
実質的に水を含有しない、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬錠剤。
【請求項6】
薬効成分と、グリセリンを含浸させたポリビニルアルコール系樹脂とを含有する混合粉末を、直接打錠法により打錠して成形する医薬錠剤の製造方法であって、
前記グリセリンの含有量が、前記ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、1~8重量部である医薬錠剤の製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、直接打錠法により打錠して成形される医薬錠剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医薬品の剤形として、錠剤、カプセル剤、顆粒、粉末等の経口剤が最も汎用されている。その中の一つである錠剤は、一般的に打錠成形により製造される。かかる打錠成形の方法では、医薬としての有効成分(薬効成分)に各種の添加剤成分を混合した混合粉末を造粒して得られた顆粒を臼に充填し、あるいは当該混合粉末を直接、臼に充填し、杵で圧力をかけ、所望の大きさおよび形状に成形して、医薬錠剤となる。また、成形された錠剤は必要に応じてコーティングされる場合もある。
【0003】
有効成分以外に添加剤成分としては、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤などが挙げられる。これらの添加剤成分の中でも結合剤は、原料の粉体粒子同士を結びつけるために加えるものであり、錠剤の機械的強度に対して大きな影響力があり、適切な結合剤を選択しなければ、成形ができなかったり、成形後に砕けたりするという問題がある。一方で、錠剤は体内に入った時に崩壊しなければ有効成分が吸収され難いため、結合剤は有効成分の溶出速度にも影響する。
したがって、医薬錠剤に用いられる結合剤には、医薬錠剤の保存時における機械的強度と、医薬錠剤の服用時における溶出コントロールの両立が求められる。
【0004】
近年、医薬錠剤の製造方法として、直接打錠法が注目されている。直接打錠法は、有効成分(薬効成分)、結合剤、賦形剤、滑沢剤などの成分を固体状で混合し、造粒工程を経ずに、得られた混合物をそのまま打錠機で圧縮し、錠剤を製造する方法である。したがって、直接打錠法は、製造工程を短縮でき製造効率がよいので商業的生産の観点から大きな利点を有しており、また造粒工程に必要な水分を用いずに打錠できるので水分に不安定な有効成分(薬効成分)にも適用できるという利点をも有している。
【0005】
直接打錠法に用いる結合剤として、例えば特許文献1には、ポリビニルアルコール系(共)重合体からなる医薬用結合剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2013-87074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の結合剤と薬効成分を含有する混合物を直接打錠して製造された錠剤は、機械的強度がまだまだ満足できるものではなかった。
【0008】
そこで、本発明ではこのような背景下において、引張強度が高く、即崩壊性に優れる医薬錠剤、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
しかるに本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ポリビニルアルコール系樹脂を結合剤として用い、ポリビニルアルコール系樹脂と水以外の可塑剤とを組み合わせて含有させ、各配合成分を混合した混合粉末を直接打錠法により打錠して成形することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、薬効成分、ポリビニルアルコール系樹脂、および水以外の可塑剤を含有する、直接打錠法による医薬錠剤であって、可塑剤の含有量がポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、1~8重量部である医薬錠剤である。
【0011】
本発明の医薬錠剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が2100~4000であることが好ましく、医薬錠剤の引張強度が1.0MPa以上であることが好ましく、また前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が70~100モル%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の医薬錠剤は、前記可塑剤が25℃で液体の多価アルコールであることが好ましく、また実質的に水を含有しないことが好ましい。
【0013】
また本発明の要旨は、薬効成分と、水以外の可塑剤を含浸させたポリビニルアルコール系樹脂とを含有する混合粉末を、直接打錠法により打錠して成形する医薬錠剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の医薬錠剤は、引張強度が高いので成形時や搬送中などに破損し難くなり、また即崩壊性に優れるので服用時における溶出コントロールが容易である。また本発明の製造方法によれば、本発明の医薬錠剤を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
なお、本願明細書において、「(共)重合体」とは、重合体または共重合体を意味し、(メタ)アリルとはアリルあるいはメタリル、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリル、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートをそれぞれ意味する。
【0016】
本実施形態の医薬錠剤は、少なくとも薬効成分、ポリビニルアルコール系樹脂、および水以外の可塑剤を含有する。以下、ポリビニルアルコール系樹脂、可塑剤、薬効成分の順に説明する。
【0017】
〔ポリビニルアルコール系樹脂〕
本実施形態ではポリビニルアルコール(以下、PVAという。)系樹脂が結合剤として用いられ、本実施形態で用いられるPVA系樹脂としては、未変性のPVAや変性PVAが含まれる。
【0018】
変性PVAには、例えば、共重合変性PVAと後変性PVAとがある。その変性量としては、変性基の性質により異なるが、通常1~20モル%、好ましくは1~10モル%、特に好ましくは1~5モル%である。
上記の共重合変性PVAは、酢酸ビニルなどのビニルエステル系モノマーと、ビニルエステル系モノマーと共重合可能な他の不飽和単量体とを共重合させた後、ケン化することにより製造することができる。
【0019】
未変性のPVAは、通常、酢酸ビニルなどのビニルエステル系モノマーを重合して得られる重合体をケン化することにより製造することができる。
【0020】
未変性PVAであっても、あるいは共重合変性PVAであっても、ビニルエステル系モノマーの(共)重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。なかでも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。溶液重合の溶媒としては、通常はアルコールが用いられ、好ましくは炭素数1~3の低級アルコールが用いられる。
【0021】
得られた(共)重合体のケン化についても、従来より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわち、重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
ケン化は、通常、無水アルコール系溶媒の存在下で、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応により行うことが反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適である。
【0022】
ケン化反応の反応温度は、通常20~60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80~150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒も短時間、高ケン化度のものを得ることが可能である。
【0023】
また、ケン化後、得られたPVA系樹脂を、洗浄液で洗浄することが好ましい。
かかる洗浄液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられ、洗浄効率と乾燥効率の観点からメタノールが好ましい。
【0024】
また、洗浄方法としては、連続式でもよいが、通常はバッチ式が採用される。浴比(洗浄液の重量/PVA系樹脂の重量)は、通常、1~30であり、特に2~20が好ましい。浴比が大きすぎると、大きな洗浄装置が必要となり、コスト増につながる傾向があり、浴比が小さすぎると、洗浄効果が低下し、洗浄回数を増加させる傾向がある。
【0025】
洗浄時の温度は、通常、10~80℃であり、特に20~70℃が好ましい。温度が高すぎると、洗浄液の揮発量が多くなり、還流設備を必要とする傾向がある。温度が低すぎると、洗浄効率が低下する傾向がある。洗浄時間は、通常、5分間~12時間である。洗浄時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向があり、洗浄時間が短すぎると、洗浄が不十分となる傾向がある。また、洗浄回数は、通常、1~10回であり、特に1~5回が好ましい。洗浄回数が多すぎると、生産性が悪くなり、コストがかかる傾向がある。
【0026】
洗浄されたPVA系樹脂は、連続式またはバッチ式にて熱風などで乾燥される。乾燥温度(乾燥機内の温度)は、通常、50~150℃である。乾燥温度が高すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。乾燥時間は、通常、1~48時間である。乾燥時間が長すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となったり、高温乾燥を要したりする傾向がある。
【0027】
乾燥後のPVA系樹脂に含まれる溶媒の含有量は、通常、0~10重量%であり、より好ましくは0.1~5重量%、さらに好ましくは0.1~1重量%である。
【0028】
また、PVA系樹脂には、通常、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が含まれている。かかる酢酸のアルカリ金属塩の含有量は、PVA系樹脂に対して通常、0.001~2重量%、好ましくは0.005~1重量%であり、更に好ましくは0.01~0.1重量%である。
アルカリ金属塩の含有量が多すぎると、薬効成分の安定性が低下する傾向がある。アルカリ金属塩の含有量の調整方法としては、例えば、ケン化時に用いるアルカリ触媒の量を調節する方法、上記した洗浄工程にてエタノールやメタノールなどのアルコール類でPVA系樹脂を洗浄する方法などが挙げられる。
本実施形態で用いるPVA系樹脂のアルカリ金属塩の定量法としては、例えば、PVA系樹脂粉体を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定を行い、アルカリ金属塩の含有量を求める方法が挙げられる。
【0029】
ビニルエステル系モノマーと共重合可能な上記他の不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、そのモノ又はジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類;N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド;アリルトリメチルアンモニウムクロライド;ジメチルアリルビニルケトン;N-ビニルピロリドン;塩化ビニル;塩化ビニリデン;ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル;ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート;ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド等のポリオキシアルキレン(メタ)アクリルアミド;ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル;ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル等のポリオキシアルキレンビニルエーテル;ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン等のポリオキシアルキレンアリルアミン;ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレンビニルアミン;3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類あるいはそのアシル化物、ビニルエチレンカーボネート;2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン;グリセリンモノアリルエーテル;3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル;1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0030】
また、共重合変性PVAとして、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が挙げられる。かかるPVA系樹脂としては、例えば、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等を共重合して得られる、側鎖に1,2-ジオール結合を有するPVA系樹脂;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等を共重合して得られる側鎖にヒドロキシメチル基を有するPVA系樹脂が挙げられる。
上記の側鎖に1,2-ジオール結合を有するPVA系樹脂は、例えば、(a)ビニルエステル系モノマーと3,4-ジアセトキシ-1-ブテンとの共重合体をケン化する方法、(b)ビニルエステル系モノマーとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(c)ビニルエステル系モノマーと2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(d)ビニルエステル系モノマーとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法等により得られる。
【0031】
前記の後変性PVAは、未変性のPVAを後変性することにより製造することができる。かかる後変性の方法としては、未変性のPVAをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、リン酸エステル化またはオキシアルキレン化する方法等が挙げられる。
【0032】
本実施形態においては、PVA系樹脂として未変性PVA系樹脂を用いることが好ましい。
またPVA系樹脂は、上記の各種PVA系樹脂のうち1種を単独で使用し、または2種以上を混合して併用することができる。
【0033】
PVA系樹脂の平均ケン化度(JIS K 6726に準拠して測定)は通常、70~100モル%であり、好ましくは78~95モル%、特に好ましくは85~90モル%である。平均ケン化度が低すぎると水溶性が低下する傾向がある。
【0034】
PVA系樹脂の平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、200~4000であり、好ましくは500~4000、より好ましくは1000~4000、さらに好ましくは2100~4000、特に好ましくは2100~3800、最も好ましくは2200~3500である。かかる平均重合度が低すぎると、医薬錠剤の機械強度が低下する傾向にあり、平均重合度が高すぎると医薬錠剤の即崩壊性が低下する傾向にある。
【0035】
PVA系樹脂の形状は通常、粉末、顆粒などが挙げられ、粉末や顆粒が好ましい。また、PVA系樹脂の平均粒子径は、通常、1~200μm、好ましくは5~170μm、特に好ましくは10~150μmである。平均粒子径が小さすぎると飛散するなどして扱いが困難となる傾向があり、大きすぎると錠剤の強度が低下する傾向がある。
なお、本実施形態におけるPVA系樹脂の平均粒子径は、レーザー回折で粒径別の体積分布を測定し、積算値(累積分布)が50%になる50%粒子径である。
【0036】
本実施形態の医薬錠剤は、PVA系樹脂以外の結合剤を含有していてもよく、かかる結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン糊、アラビアゴム糊などが挙げられる。
PVA系樹脂以外の結合剤を用いる場合、結合剤中のPVA系樹脂の含有量は、好ましくは50重量%以上であり、特に好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上である。PVA系樹脂の含有量が少なすぎると、本発明の効果が得られ難くなる傾向がある。
【0037】
結合剤の含有量は、医薬錠剤中、通常、0.1~80重量%であり、好ましくは0. 5~50重量%、特に好ましくは1~10重量%である。結合剤の含有量が少なすぎると、錠剤の強度が不足する傾向があり、多すぎると有効成分の溶出率が低下する傾向がある。
【0038】
〔可塑剤〕
本実施形態で用いられる可塑剤は、水を除く可塑剤であり、医薬品に使用され得る可塑剤である。かかる可塑剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、分子量500~1000程度のポリエチレングリコールなどの常温(25℃)液体の多価アルコール、トリメチロールプロパン(固体)、分子量1500以上のポリエチレングリコールなどの常温(25℃)固体の多価アルコール、クエン酸トリエチルなどのカルボン酸エステルが挙げられる。中でも本発明の効果が得られ易い点で、可塑剤は常温で液体の多価アルコールが好ましく、特にグリセリンが好ましい。
これら可塑剤のうち1種または2種以上が用いられる。
【0039】
本実施形態においては、可塑剤を上記のPVA系樹脂に含浸させることが好ましい。そのため、本実施形態で用いられる可塑剤は、25℃にて液状であること、即ち融点が25℃以下であり、かつ沸点が25℃よりも高いことが好ましい。なお、25℃にて液状ではない可塑剤であっても、水または炭素数1~3の低級アルコールを溶媒として用い、25℃にて50重量%以上の濃度で溶解することができる可塑剤も本実施形態で用いる可塑剤として含めることができる。
可塑剤を上記のPVA系樹脂に含浸させる方法としては、特に限定されず、例えば、PVA系樹脂に可塑剤を徐々に添加して混合する方法、可塑剤の溶液にPVA系樹脂を添加して混合する方法などが挙げられる。
【0040】
本実施形態の医薬錠剤における可塑剤の含有量は、PVA系樹脂100重量部に対して、1~8重量部、好ましくは2~7重量部、特に好ましくは3~6重量部である。可塑剤の含有量が少なすぎると、錠剤の強度が不足する傾向があり、多すぎると有効成分の溶出率が低下する傾向がある。
【0041】
〔薬効成分〕
本実施形態の医薬錠剤に含まれる薬効成分とは、生理活性を示す医薬用成分や食品・健康食品における栄養成分である。薬効成分には、薬効成分単独のみならず、徐放化または苦味マスキングなどの目的でコーティングまたは造粒をおこなった薬効成分をも包含される。
薬効成分としては、例えば、解熱鎮痛消炎薬、滋養強壮保健薬、向精神薬、抗うつ薬、抗不安薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、中枢神経作用薬、脳代謝改善剤、脳循環改善剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、制吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、アレルギー用薬、抗ヒスタミン剤、歯科口腔用薬、強心剤、不整脈用剤、利尿薬、血圧降下剤、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、血液凝固阻止剤、高脂血症用剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、骨格筋弛緩薬、鎮けい剤、抗リウマチ薬、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、抗悪性腫瘍剤などが挙げられる。
【0042】
解熱鎮痛消炎薬としては、例えば、アセトアミノフェン、アスピリン、イブプロフェン、エテンザミド、塩酸ジフェンヒドラミン、dl-マレイン酸クロルフェニラミン、ジクロフェナクナトリウム、リン酸ジヒドロコデイン、サリチルアミド、アミノピリン、ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、トルフェナム酸、メフェナム酸、フルフェナム酸、ケトプロフェン、インドメタシン、ブコローム、ペンタゾシン、カフェインおよび無水カフェインなどが挙げられる。
【0043】
滋養強壮保健薬には、例えば、ビタミンA、ビタミンB1(ジベンゾイルチアミンおよびフルスルチアミン塩酸塩など)、ビタミンB2(酪酸リボフラビンなど)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシンなど)、ビタミンB12(酢酸ヒドロキソコバラミンおよびシアノコバラミンなど)、ビタミンC(アスコルビン酸およびL-アスコルビン酸ナトリウムなど)、ビタミンDおよびビタミンE(酢酸d-α-トコフェロールなど)などのビタミン;カルシウム、マグネシウムおよび鉄などのミネラル;タンパク、アミノ酸、オリゴ糖および生薬などが含まれる。
【0044】
向精神薬としては、例えば、クロルプロマジンおよびレセルピンなどが挙げられる。
抗うつ薬としては、例えば、アンフェタミン、イミプラミンおよび塩酸マプロチリンなどが例示される。
抗不安薬としては、例えば、ジアゼパム、アルプラゾラムおよびクロルジアゼポキシドなどが挙げられる。
催眠鎮静薬としては、例えば、エスタゾラム、ジアゼパム、ニトラゼパム、ペルラピンおよびフェノバルビタールナトリウムなどが例示される。
鎮痙薬には、例えば、臭化水素酸スコポラミン、塩酸ジフェンヒドラミンおよび塩酸パパベリンなどが含まれる。
【0045】
中枢神経作用薬としては、例えば、シチコリンなどが例示される。
脳代謝改善剤としては、例えば、塩酸メクロフェニキセートなどが挙げられる。
脳循環改善剤としては、例えば、ビンポセチンなどが挙げられる。
抗てんかん剤としては、例えば、フェニトインおよびカルバマゼピンなどが挙げられる。
交感神経興奮剤としては、例えば、塩酸イソプロテレノールなどが挙げられる。
【0046】
胃腸薬には、例えば、ジアスターゼ、含糖ペプシン、ロートエキス、セルラーゼAP3、リパーゼAPおよびケイヒ油などの健胃消化剤;塩化ベルベリン、耐性乳酸菌およびビフィズス菌などの整腸剤などが含まれる。
制酸剤としては、例えば:炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、沈降炭酸カルシウムおよび酸化マグネシウムなどが挙げられる。
抗潰瘍剤としては、例えば、ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、シメチジン、ファモチジンおよび塩酸ラニチジンなどが挙げられる。
【0047】
鎮咳去痰剤としては、例えば、塩酸クロペラスチン、臭化水素酸デキストロメルトファン、テオフィリン、グァヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシンおよびリン酸コデインなどが挙げられる。
制吐剤としては、例えば、塩酸ジフェニドールおよびメトクロプラミドなどが挙げられる。
呼吸促進剤としては、例えば、酒石酸レバロルファンなどが挙げられる。
気管支拡張剤としては、例えば、テオフィリンおよび硫酸サルブタモールなどが挙げられる。
アレルギー用薬としては、例えば、アンレキサノクスおよびセラトロダストなどが挙げられる。
抗ヒスタミン剤としては、例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、プロメタジン、塩酸イソチペンジルおよびdl-マレイン酸クロルフェニラミンなどが挙げられる。
【0048】
歯科口腔用薬としては、例えば、オキシテトラサイクリン、トリアムシノロンアセトニド、塩酸クロルヘキシジンおよびリドカインなどが例示される。
強心剤としては、例えば、ジゴキシンおよびカフェインなどが挙げられる。
不整脈用剤としては、例えば、塩酸プロカインアミド、塩酸プロプラノロールおよびピンドロールなどが含まれる。
利尿薬としては、例えば、フロセミド、イソソルピドおよびヒドロクロロチアジドなどが挙げられる。
【0049】
血圧降下剤としては、例えば、カプトプリル、塩酸デラプリル、塩酸ヒドララジン、塩酸ラベタロール、塩酸マニジピン、カンデサルタンシレキセチル、メチルドパおよびペリンドプリルエルブミンなどが挙げられる。
血管収縮薬としては、例えば、塩酸フェニレフリンなどが挙げられる。
冠血管拡張薬としては、例えば、塩酸カルボクロメン、モルシドミンおよび塩酸ペラパミルなどが挙げられる。
末梢血管拡張薬としては、例えば、シンナリジンなどが挙げられる。
血液凝固阻止剤としては、例えば、ジクマロールが挙げられる。
高脂血症用剤としては、例えば、セリバスタチンナトリウム、シンバスタチン、プラバスタチンナトリウムおよびアトルバスタチンカルシウム水和物などが挙げられる。
利胆剤としては、例えば、デヒドロコール酸およびトレピプトンなどが挙げられる。
【0050】
抗生物質には、例えば、セファレキシン、セファクロル、塩酸セフォチアムヘキセチル、セファドロキシル、セフィキシム、セフジトレンピボキシル、セフテラムピボキシルおよびセフポドキシミプロキセチルなどのセフェム系;アンピシリン、アモキシシリン、シクラシリンおよび塩酸ピプメシリナムなどのペニシリン系;ナリジクス酸およびエノキサシンなどのキノロン系:カルモナムナトリウムなどのモノバクタム系;ペネム系;およびカルバペネム系;などの各種抗生物質などが挙げられる。
化学療法剤としては、例えば、スルファメチゾールなどが挙げられる。
【0051】
糖尿病用剤としては、例えば、グリミジンナトリウム、グリピザイド、塩酸フェンフォルミン、塩酸ブフォルミン、メトフォルミン、塩酸メトフォルミン、トルブタミド、ボグリボース、塩酸ピオグリタゾン、グリベンクラミドおよびトログリダゾンなどが挙げられる。
骨粗しょう症用剤としては、例えば、イプリフラボンなどが挙げられる。
骨格筋弛緩薬としては、例えば、メトカルバモールなどが挙げられる。
【0052】
鎮けい剤としては、例えば、塩酸メクリジンおよびジメンヒドリナートなどが挙げられる。
抗リウマチ薬としては、例えば、メソトレキセートおよびブシラミンなどが挙げられる。
ホルモン剤としては、例えば、リオチロニンナトリウム、リン酸デキメタゾンナトリウム、プレドニゾロン、オキセンドロンおよび酢酸リュープロレリンなどが挙げられる。
アルカロイド系麻薬として、例えば、アヘン、塩酸モルヒネ、トコン、塩酸オキシコドン、塩酸アヘンアルカロイドおよび塩酸コカインなどが挙げられる。
サルファ剤としては、例えば、スルフィソミジンおよびスルファメチゾールなどが挙げられる。
痛風治療薬としては、例えば、アロプリノールおよびコルヒチンなどが挙げられる。
抗悪性腫瘍剤としては、例えば、5-フルオロウラシル、ウラシルおよびマイトマイシンなどが挙げられる。
【0053】
本実施形態の医薬錠剤における上記薬効成分の含有量は、バイオアベイラビリティーに応じて適宜調整され、医薬錠剤中、通常、0.01~99重量%である。薬効成分は、一般に医療、食品分野などで用いられる希釈剤などによって希釈されたものであってもよい。また、本実施形態の医薬錠剤には、1種または2種以上の薬効成分が含有される。
【0054】
〔その他の添加剤〕
本実施形態の医薬錠剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、pH調整剤、流動化剤、界面活性剤、着色剤、甘味剤、コーティング剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着材、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、分散剤、防湿剤、防腐剤等が挙げられる。
【0055】
賦形剤は、取り扱いに適した量とするために添加され、生理活性を持たない成分である。賦形剤としては、例えば、糖アルコール類、糖類、リン酸塩類、結晶セルロース類、デンプン類、ケイ酸類およびゼラチンなどから選ばれた1種または2種以上の賦形剤が用いられる。好ましい賦形剤としては、糖アルコール類や糖類が挙げられる。
糖アルコール類としては、例えば、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトールおよびマルチトールなどが挙げられる。糖類としては、例えば、白糖、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、トレハロース、麦芽糖およびオリゴ糖などが挙げられる。リン酸塩類としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウムなどが挙げられる。デンプン類としては、例えば、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチなどが挙げられる。ケイ酸類としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウムナトリウム、ケイ酸アルミニウムなどが挙げられる。
本実施形態の医薬錠剤における賦形剤の含有量は、医薬錠剤中、通常、0.01~99重量%である。
【0056】
滑沢剤は、粉体の流動性を向上させて、圧縮形成を容易にするために添加される成分である。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、硬化油、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。
本実施形態の医薬錠剤における滑沢剤の含有量は、医薬錠剤中、通常、0.01~2重量%、好ましくは0.05~1.5重量%、特に好ましくは0.1~1重量%である。
【0057】
崩壊剤は、体内の水分を吸収することにより膨張するなどして錠剤を崩壊させ、薬効成分の放出を容易にするために添加される成分である。崩壊剤としては、例えば、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、セルロースまたはその誘導体、およびデンプンまたはその誘導体等が挙げられる。
【0058】
pH調整剤としては、例えば、クエン酸およびその塩、リン酸およびその塩、炭酸およびその塩、酒石酸およびその塩、フマル酸およびその塩、酢酸およびその塩、アミノ酸およびその塩、コハク酸およびその塩、ならびに乳酸およびその塩などが挙げられる。
【0059】
流動化剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、酸化チタン、ステアリン酸、トウモロコシゲルおよび重質無水ケイ酸などが挙げられる。
【0060】
界面活性剤としては、例えば、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート類、リン酸水素ナトリウム類およびリン酸水素カリウム類などが挙げられる。
【0061】
着色剤としては、例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、食用黄色5号、食用黄色4号、アルミニウムキレート、酸化チタンおよびタルクなどが挙げられる。
【0062】
甘味剤としては、例えば、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチンおよびスクラロースなどが挙げられる。
【0063】
コーティング剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンアクリル酸エチル、メタクリル酸メチルコポリマー分散液、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、メタクリル酸コポリマー等が挙げられる。
【0064】
〔医薬錠剤〕
本実施形態の医薬錠剤は、上記した各種成分を配合し、直接(即ち造粒工程を経ずに)粉末を圧縮して成形する直接打錠法により得られる医薬用直接打錠剤である。本実施形態の医薬錠剤は、実質的に水を含有しないことが好ましい。これにより錠剤硬度の向上が可能となる。なお、「実質的に水を含有しない」とは、配合成分として水を含有させることはないという意味であり、各配合成分に含有される少量の水までを除外するものではない。
【0065】
直接打錠法(直接粉末圧縮法)は、製造工程が簡単であるため、院内製造に好適である。医薬錠剤の成形には、医薬品分野で通常用いられる打錠機が用いられ、例えば、ロータリー打錠機、単発式打錠機などが用いられる。
通常、直接打錠法では、薬効成分と一部の添加物を均一に混合した後、さらに滑択剤などの添加物を加えて均一に混合させた打錠用混合物を回転式打錠機などの打錠機に供給及び打錠して成形することによって医薬錠剤が製造される。
【0066】
本実施形態において、医薬錠剤は、薬効成分と、水以外の可塑剤を含浸させたポリビニルアルコール系樹脂とを含有する混合粉末を、直接打錠法により打錠して成形する。なお、医薬錠剤に含有させる全量の可塑剤をPVA系樹脂に含浸させてもよいし、一部の量の可塑剤をPVA系樹脂に含浸させ、残りの量の可塑剤を薬効成分と混合してもよい。
可塑剤をPVA系樹脂に含浸させる方法は、可塑剤が25℃で液体の場合は、その液体可塑剤を全量、容器に入れる。そこにPVA系樹脂を少量添加し、ヘラなどで可塑剤とPVA系樹脂をなじませる。均一になったら再びPVA系樹脂を少量添加し、同様の作業を繰り返し行い、可塑剤の含浸したPVA系樹脂を作成する。可塑剤が25℃で固体の場合は、可塑剤とPVA系樹脂を固体状のまま混合する。
【0067】
打錠成形に用いられる打錠機としては、例えば、株式会社畑鉄工所製「HT-APSS型」、「HT-AP-MS型」、「HT-X-SS型」、「HT-X-MS型」、株式会社菊水製作所製「VIRGO」、「AQUARIUS」、「LIBRA」などが挙げられる。
【0068】
打錠機で打錠する際の打錠圧は、20~300MPaであることが好ましく、より好ましくは50~250MPaである。打錠圧が前記範囲であると、実用上十分な成形性、錠剤強度が得られる。
【0069】
本実施形態の医薬錠剤の形状は特に限定されず、例えば、楕円体、円柱形、ドーナツ形、球形等の任意の形状を採用することができる。
また、本実施形態の医薬錠剤の大きさは、直径(一番長い径)が、好ましくは1~30mm、より好ましくは5~20mmである。厚みは、好ましくは1~10mm、より好ましくは2~8mmである。
【0070】
本実施形態の医薬錠剤は、引張強度が1.0MPa以上であることが好ましく、特に1.1MPa以上、更に1.2MPa以上であることが好ましい。引張強度が1.0MPa以上であれば、医薬錠剤の保管時において破損が起き難くなる。なお、引張強度の上限は、通常、10MPaである。
本実施形態において医薬錠剤の引張強度は、硬度計(岡田精工株式会社製、ロードセル式錠剤硬度計PC-30型)を用いて医薬錠剤の硬度を測定し、以下の式を用いて算出された値である。
T.S.=2P/(π×D×T)
T.S.:錠剤の引張強度(MPa)
P:錠剤の硬度(N)
D:錠剤の直径(mm)
T:錠剤の厚み(mm)
【0071】
医薬錠剤の引張強度を上記範囲に調整する方法としては、例えば、医薬錠剤に上記の可塑剤を含有させる方法、打錠機の打錠圧を適切に変更する方法等が挙げられる。
【0072】
また、本実施形態の医薬錠剤の崩壊時間は、第17改正日本薬局方崩壊試験法に準じて測定した崩壊時間が60秒以内であることが好ましく、より好ましくは1~50秒、特に好ましくは3~30秒である。崩壊時間が前記範囲であると、医薬錠剤を服用した際の溶出コントロールが容易である。
医薬錠剤の崩壊時間を上記範囲に調整する方法としては、例えば、打錠機の打錠圧を適切に変更する方法、崩壊剤を添加する等が挙げられる。
【0073】
また、本実施形態の医薬錠剤の水分含有量は、3重量%以下であることが好ましく、0.01~1重量%であることがより好ましい。水分含有量は乾燥減量測定法により測定できる。なお、上記したように配合成分として実質的に水を含有させないことにより、水分含有量を上記範囲とすることができる。
【実施例
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例中の「部」とあるのは重量基準である。
【0075】
また、下記実施例及び比較例中におけるPVA系樹脂の平均重合度およびケン化度はJIS K 6726に準拠して測定し、平均粒子径はレーザー回折で粒径別の体積分布を測定し、積算値(累積分布)が50%になる50%粒子径として求めた。
【0076】
〔実施例1〕
以下の方法により、錠剤を調製した。
PVA系樹脂(平均重合度2600、ケン化度88モル%、アルカリ金属塩の含有量0.03重量%、平均粒子径58μm)100部とグリセリン3.1部とを混合して、グリセリンを含浸させたPVA系樹脂を調製した。結晶マンニトール(三菱商事フードテック株式会社製「マンニットP」)、ステアリン酸マグネシウムを準備し、上記のグリセリンを含浸させたPVA系樹脂に、結晶マンニトール923部、ステアリン酸マグネシウム5.2部を加え、3時間混合することにより均一な混合粉体を調製した。
調製した混合粉体を0.2g秤量し、直径8mmの平型に入れ、200MPaで打錠機(岡田精工株式会社製「タブオール」)を用いてプレスして錠剤を得た。
【0077】
得られた錠剤について、引張強度および崩壊時間を測定した。
【0078】
<引張強度の測定>
硬度計(岡田精工株式会社製、ロードセル式錠剤硬度計PC-30型)を用いて錠剤の硬度を測定し、以下の式を用いて引張強度を算出した。
T.S.=2P/(π×D×T)
T.S.:錠剤の引張強度(MPa)
P:錠剤の硬度(N)
D:錠剤の直径(mm)
T:錠剤の厚み(mm)
【0079】
<崩壊時間の測定>
第17改正日本薬局方崩壊試験法を用いて上記で得られた錠剤の崩壊時間の測定を行った。
機器:崩壊試験器NT-200型(富山産業株式会社製)
溶液:蒸留水1000mL
溶液温度:37℃
【0080】
〔実施例2〕
実施例1において、各成分を表1の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、錠剤を調製し、引張強度および崩壊時間を測定した。
【0081】
〔比較例1〕
実施例1において、各成分を表1の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、錠剤を調製し、引張強度および崩壊時間を測定した。
【0082】
〔比較例2〕
実施例1において、各成分を表1の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、錠剤を調製し、引張強度および崩壊時間を測定した。
【0083】
【表1】
【0084】
表1の実施例1,2の結果から、可塑剤(グリセリン)を含浸させたPVA系樹脂を用いることにより、可塑剤(グリセリン)を配合しなかった比較例1よりも、引張強度が高く、即崩壊性に優れることが分かる。
また、可塑剤(グリセリン)を11.1部含有した比較例2は、引張強度が低く、崩壊にも時間がかかるものであった。
なお、上記実施例および比較例においては、薬効成分を配合しない錠剤にてモデル実験を行っているが、薬効成分を配合した医薬錠剤においても、上記実施例および比較例と同様の引張強度、崩壊時間が得られると推測される。
【0085】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2017年8月8日出願の日本特許出願(特願2017-153172)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の医薬錠剤は、引張強度が高く、即崩壊性に優れるので、医薬品または医薬部外品の経口投与用錠剤として、特に口腔内速崩壊性錠剤として好適に利用することができる。