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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】反射防止膜付ガラス基板及び光学部品
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20230208BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20230208BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20230208BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20230208BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20230208BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20230208BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20230208BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
C03C3/064
C03C3/062
C03C3/066
C03C3/068
C03C3/097
G02B1/115
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019569176
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2019003151
(87)【国際公開番号】W WO2019151321
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2018015905
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018186777
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 安彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 晃男
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-056215(JP,A)
【文献】特開2014-095877(JP,A)
【文献】特開2016-218335(JP,A)
【文献】特開2008-249923(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118622(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/199738(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-23/00
G02B 1/10-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率(n)が1.68~2.00のガラスからなる板厚が0.01~2mmのガラス基板と、該ガラス基板の少なくとも一方の主表面上に設けられた反射防止膜と、を備えたことを特徴とする反射防止膜付ガラス基板であって、
前記ガラスは、酸化物基準の質量%表示で、下記組成を有する反射防止膜付ガラス基板。
Nb : 5%~65%、
BaO、TiO 、ZrO 、WO 、及びLn (LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である)からなる群から選ばれる少なくとも1種:0%~30%、
SiO : 15%~50%、
Li O+Na O+K O:2%~20%、
Li O/(Li O+Na O+K O):0.45以下
SiO とNb との合計が50%以上
【請求項2】
前記反射防止膜の、ナノインデンテーション法によって、バーコビッチ圧子を用い、荷重100μNでの測定した硬度が、3.0GPa~6.0GPaである請求項1に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項3】
前記反射防止膜を有する面の、リング オン リング(Ring on Ring)試験で測定した面強度が、ガラス基板の厚さ0.5mmへの換算値で600N~1200Nである請求項1又は2に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項4】
前記反射防止膜は、酸化チタン、酸化ニオブ及び酸化タンタルからなる群から選ばれる1種以上を含む高屈折率膜と、酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上からなる低屈折率膜とが交互に積層されてなる請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項5】
前記ガラスは、密度(d)が4.0g/cm以下であり、
かつガラスの粘性がlogη=2となる温度Tが800~1200℃である請求項1~4のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項6】
前記ガラスは、酸化物基準の質量%表示で、下記組成を有する請求項1~のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
: 0%~10%、
MgO: 0%~10%、
CaO: 0%~15%、
SrO: 0%~15%、
BaO: 0%~15%、
LiO: 0%~9%、
NaO: 0%~10%、
O: 0%~10%、
Al: 0%~5%、
TiO: 0%~15%、
WO: 0%~15%、
ZrO: 0%~15%、
ZnO: 0%~15%。
【請求項7】
前記ガラスは、失透温度が1200℃以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項8】
前記ガラスは、厚さ1mmのガラス板にしたときの、波長360nmにおける光の透過率(T360)が30%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項9】
前記ガラスは、ヤング率(E)が60GPa以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項10】
前記ガラスは、日本光学硝子工業会規格に準拠して測定される耐水性が等級2以上であり、耐酸性が等級1以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項11】
前記ガラスは、ガラス転移点(Tg)が500~700℃であり、アッベ数(v)が50以下であり、かつ50~350℃での熱膨張係数αが50~150×10-7/Kである、請求項1~10のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項12】
前記ガラス基板は一方の主表面の面積が8cm以上である請求項1~11のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項13】
前記ガラス基板の対向する主表面は両面に研磨が施され、前記ガラス基板を一方の主表面の面積が25cmのガラス板としたとき、そのガラス板のLTVが2μm以下である請求項1~12のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項14】
前記ガラスは、直径8インチの円形のガラス板としたとき、少なくとも一方の主表面の反りが50μm以下である請求項1~13のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項15】
前記ガラス基板の少なくとも一方の主表面の表面粗さRaが2nm以下である請求項1~14のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の反射防止膜付ガラス基板を有することを特徴とする光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜付ガラス基板及びこれを用いた光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェアラブル機器、例えばプロジェクター付きメガネ、眼鏡型やゴーグル型ディスプレイ、仮想現実拡張現実表示装置、虚像表示装置などに用いられるガラスとしては、画像の広角化、高輝度・高コントラスト化、導光特性向上、回折格子の加工容易性などの点から高屈折率(例えば、屈折率nが1.68以上)が求められ、また、軽量化のためにガラスの薄板化が求められる。また、従来、車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどの用途に、小型で撮像画角の広い撮像ガラスレンズが用いられており、このような撮像ガラスレンズに対しては、より小型で広い範囲を撮影するために、高屈折率が求められる。
【0003】
また、一般のガラスでは外光反射の低減や光透過率の向上を目的としてガラス表面、特に対向する一対の主表面の少なくとも一方の面に反射防止膜を設けることも行われる。
【0004】
一方で、ガラス板の一方の面に薄膜を形成すると、薄膜を有するガラス板の面とは反対側の面強度が低下することが知られており、その強度の低下を防ぐために、ガラス板と薄膜の間に有機化合物からなる絶縁膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2014/030599
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低反射膜を有するガラス板でも、低反射膜と反対側の面強度が低下することが知られている。膜の材料によって面強度の低下度合は異なるものの、その度合いが著しい場合には、成膜後の面強度が成膜前の半分程度になってしまう場合がある。
【0007】
また、上述したウェアラブル機器、仮想現実拡張現実表示装置、虚像表示装置などの用途では、ガラスの主表面にインプリントでパターン形成を施す等の加工が行われることがある。上述の用途で使用されるガラスでは、ガラス板の割れが発生しないことが望ましいが、強度の低いガラス板を用いた場合、上記加工に際して割れなどが発生するおそれがある。
また、一般に屈折率の高い組成のガラスは強度が低くなりやすい傾向がある。そのため、例えば屈折率1.68以上の高屈折率ガラスに成膜して光学特性を向上させた膜付ガラスの製造が困難になると予想されており、そのような部材の提供が危惧されている。
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、高屈折率で、優れた強度を有する反射防止膜付ガラス基板、及びこれを用いた光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特定の特性(例えば、屈折率が1.68以上)を有するガラスと反射防止膜とを組み合わせることで、所望の低反射特性を得ながらも、面強度を低下させず、かえって向上させることを見出し、上記課題を解決したものである。
【0010】
本発明の反射防止膜付ガラス基板は、屈折率(n)が1.68~2.00のガラスからなる板厚が0.01~2mmのガラス基板と、該ガラス基板の少なくとも一方の主表面上に設けられた反射防止膜と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の光学部品は、本発明の反射防止膜付ガラス基板を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反射防止膜付ガラス基板は、高屈折率であり、優れた強度を有する。そのため、高屈折率で高強度の光学部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】光学ガラスの反りを説明するための光学ガラスの模式的断面図である。
図2】本発明の一実施形態の反射防止膜付きガラス基板の反射特性を示す図である。
図3】本発明の実施例における各サンプルの面強度を測定するための試験方法を概念的に示す図であり、図3(A)は平面図、図3(B)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の反射防止膜付ガラス基板及び光学部品の実施形態について説明する。
本発明の反射防止膜付ガラス基板は、屈折率(n)が1.68以上2.00以下のガラスからなる板厚が0.01mm以上2mm以下のガラス基板と、反射防止膜とを備える。この反射防止膜は、ガラス基板の少なくとも一方の主表面上に配置される。反射防止膜は、ガラス基板の両方の主表面上に配置されてもよい。
【0015】
本発明の反射防止膜付ガラス基板は、反射防止膜の硬度(以下、膜硬度ともいう。)が、3.0GPa以上6.0GPa以下であることが好ましく、3.5GPa以上5.0GPa以下であることがより好ましい。この膜硬度は、ナノインデンテーション法によって、バーコビッチ(Berkovich)圧子を用い、反射防止膜を有する面に100μNの荷重で測定した値である。膜硬度が上記した範囲であることで、反射防止膜付ガラス基板の割れの起点となり得る反射防止膜面の破損を抑制し、反射防止膜付ガラス基板の加工や使用時の破損や割れなどを抑制できる。また、後述する組成のガラスにおいて、下記の好ましい面強度を実現し易い。
【0016】
本発明の反射防止膜付ガラス基板は、反射防止膜を有する面のリング オン リング(ROR:Ring on Ring)試験で測定した面強度が、ガラス基板の厚さ0.5mmに換算した値で、600N以上1200N以下であることが好ましい。面強度の0.5mm換算値は、700N以上1100N以下がより好ましく、750N以上950N以下がさらに好ましい。この面強度は、反射防止膜付ガラス基板の、反射防止膜を有する面の破壊強度(荷重)の平均値である。ROR試験による面強度は、反射防止膜付ガラス基板を、リング状の支持部(中心を基準とした直径30mm)の上に、互いの中心を一致させて反射防止膜を有する面をリング状の支持部に向けて載置し、反射防止膜付ガラス基板の中心上方から、直径10mm(中心を基準)のリング状の荷重部を、その中心が支持部の中心と一致するように押しつけて荷重をかけ、反射防止膜付ガラス基板が破壊した時点の荷重として測定することができる。なお、ROR試験による面強度の測定方法は、ASTM C1499-01 や DIN52292に準じた方法である。
【0017】
面強度のガラス基板の厚さ0.5mmへの換算は、実測した反射防止膜付ガラス基板におけるガラス基板厚さと基準厚さ(0.5mm)の比の二乗によって比例計算している。本発明の反射防止膜付ガラス基板は、反射防止膜を有する面の面強度の0.5mm厚換算の値が上記した範囲であることで、反射防止膜付ガラス基板が優れた強度を有し、加工や使用時の破損や割れなどを抑制できる。
【0018】
本発明の反射防止膜付ガラス基板は視感反射率が2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。視感反射率がかかる範囲であれば十分に映り込みを防止できる。視感反射率はJIS Z8701に基づいて規定される。なお、光源としてはD65光源を用いることができる。
【0019】
本発明の反射防止膜付ガラス基板は反射防止膜表面の表面粗さ(Ra)が、2.0nm以下であることが好ましい。Raが、2.0nm以下であると、反射防止膜表面での乱反射が抑制されてゴースト現象や歪を防止できる。Raは、より好ましくは1.7nm以下であり、さらに好ましくは1.4nm以下、さらにより好ましくは1.2nm以下、特に好ましくは1nm以下である。ここで、Raは、JIS B0601(2001年)で定義された算術平均粗さであり、本明細書では、2μm×2μmの正方形のエリアを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した値である。
【0020】
<ガラス基板>
本発明の反射防止膜付ガラス基板において、ガラス基板は、屈折率(n)が1.68~2.00のガラスからなる。nが1.68以上であるので、本発明の反射防止膜付ガラス基板は、ウェアラブル機器に用いると、画像の広角化、高輝度・高コントラスト化、導光特性向上、回折格子の加工容易性などを実現できるため好適である。また車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどの用途に用いられる小型で撮像画角の広い撮像レンズとしては、より小型で広い範囲を撮影するために好適である。nは好ましくは、1.70以上であり、より好ましくは1.73以上、さらに好ましくは1.74以上、よりさらに好ましくは1.75以上である。
【0021】
一方でnが2.00を超えるガラスは密度が高くなりやすく、また失透温度が高くなりやすい傾向がある。そのため、nは2.00以下であり、好ましくは1.90以下であり、より好ましくは1.85以下であり、さらに好ましくは1.83以下、よりさらに好ましくは1.82以下、特に好ましくは1.81以下、もっとも好ましくは1.80以下である。
【0022】
ガラスの屈折率は、測定対象のガラスを、例えば一辺が30mm、厚さが10mmの三角形状プリズムに加工し、屈折率計(Kalnew社製、機器名:KPR-2000等)により測定することができる。
【0023】
本発明の反射防止膜付ガラス基板において、ガラス基板は、厚さが0.01~2.0mmである。厚さが0.01mm以上であれば、ガラス基板ないし反射防止膜付ガラス基板の取り扱い時や加工時の破損が抑制される。また、反射防止膜付ガラス基板の自重によるたわみを抑えられる。厚さは、より好ましくは0.1mm以上であり、さらに好ましくは0.3mm以上であり、よりさらに好ましくは0.5mm以上である。一方で厚さが2.0mm以下であれば、反射防止膜付ガラス基板を用いた光学素子が軽量である。厚さは、より好ましくは1.5mm以下であり、さらに好ましくは1.0mm以下であり、よりさらに好ましくは0.8mm以下である。
【0024】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスの密度(d)は、4.0g/cm以下であることが好ましい。これにより、本発明の反射防止膜付ガラス基板は、ウェアラブル機器に用いられた場合にユーザーの装着感を好ましいものにでき、車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどに用いられた場合に、装置全体の重量を減量できる。dは好ましくは3.8g/cm以下であり、より好ましくは3.6g/cm以下、さらに好ましくは3.5g/cm以下、よりさらに好ましくは3.4g/cm以下である。
【0025】
一方で、ガラス基板表面に傷を付けにくくするためには、dは、2.0g/cm以上が好ましい。より好ましくは2.2g/cm以上、さらに好ましくは2.3g/cm以上であり、よりさらに好ましくは2.4g/cm以上である。ガラスの密度(d)はJIS Z8807(1976、液中で秤量する測定方法)に準じて測定することができる。
【0026】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスは、logη=2となる温度Tが800~1200℃の範囲となるガラスの粘性を有することが好ましい。ここで、logは常用対数(log10)を表し、ηはずり応力が0のときの粘度である。Tは溶解性の基準温度であり、ガラスのTが高すぎると、高温で溶解する必要が生じるため、高屈折率ガラスの場合、特に短波長側の可視光透過率が低下するおそれがある。Tは好ましくは1180℃以下であり、より好ましくは1150℃以下、さらに好ましくは1130℃以下、よりさらに好ましくは1110℃以下である。
【0027】
一方でTが低すぎると、粘性カーブが急峻になり、製造するにあたり粘性の制御が困難になる問題がある。本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスは、上記した範囲のTを有することで、製造特性を良好にできる。Tは好ましくは970℃以上であり、より好ましくは990℃以上、さらに好ましくは1010℃以上、よりさらに好ましくは1030℃以上である。
【0028】
粘度ηがlogη=2となる温度Tは、サンプルを加熱して、回転粘度計を用いて粘度を測定し、その粘度の測定結果を用いて求めることができる。
【0029】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスの失透温度は1200℃以下が好ましい。この特性を有すると、成形時におけるガラスの失透を抑制でき、成形性が良好である。失透温度は、より好ましくは1175℃以下、さらに好ましくは1150℃以下、さらにより好ましくは1125℃以下、特に好ましくは1100℃以下である。
【0030】
ここで、失透温度とは、加熱、溶融したガラスを自然放冷により冷却する際に、ガラス表面及び内部に長辺又は長径で1μm以上の結晶の認められない最も低い温度である。失透温度の測定は、具体的には、白金皿にサンプル約5gを入れ、1000℃~1400℃まで10℃刻みにてそれぞれ1時間保持したものを自然放冷により冷却した後、結晶析出の有無を顕微鏡により観察して、長辺又は長径で1μm以上の結晶の認められない最低温度を測定して失透温度と判断することができる。
【0031】
また、ウェアラブル機器では、可視光線の透過率の低下を抑えることが求められるが、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスは高温で溶解することによって400nmより短波長側で透過率が低下することがある。また、車載用カメラやロボットの視覚センサーでは、可視光では判別しにくい対象物を認識するために近紫外線画像を用いることがあり、その光学系に用いられるガラスには近紫外域での透過率が高いことが求められる。
【0032】
そのため、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスの、厚さ1mmのガラス板にしたときの、波長360nmにおける光の透過率(T360)は30%以上が好ましい。この特性を有すると、ウェアラブル機器や車載カメラに用いるガラスとして好適である。特に、ウェアラブル機器の中で画像や映像を表示させる導光体では、導波する光路長が長くなるため短波長側の光量ロスが大きくなってしまう。本発明では、用いられるガラスの短波長側の透過率が30%以上と高いため、上記のような短波長側での光量ロスが抑制されるので、可視域全体の透過率を低下させることなく所望とする色を再現しやすくなる。また、映像や画像の輝度が低下することが無い。T360は、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、さらにより好ましくは60%以上、特に好ましくは65%以上、もっとも好ましくは70%以上である。T360は、例えば、厚さ1mmの両表面を鏡面研磨したガラス板について、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製 U-4100等)を用いて測定できる。
【0033】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスのヤング率(E)は60GPa以上が好ましい。この特性を有すると、薄いガラス基板としてウェアラブル機器に用いた際や、レンズとして車載用カメラ、ロボット用視覚センサーなどに用いられた場合に、たわみが少ないという利点がある。特に、導光体ではメガネのフレームや表示装置に取り付けたときに、画像や映像のゴースト現象や歪みを防止できる。Eは、より好ましくは70GPa以上であり、さらに好ましくは80GPa以上、よりさらに好ましくは85GPa以上、特に好ましくは90GPa以上である。ガラスのヤング率は、例えば、縦20mm×横20mm×厚さ1mmの板状のサンプルを用い、超音波精密板厚計(OLYMPAS社製、MODEL 38DL PLUS等)を用いて測定することができる(単位:GPa)。
【0034】
本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスにおいて、日本光学硝子工業会規格であるJOGIS06-2008光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)に準拠して測定される耐水性(RW)は等級2以上が好ましい。RWは、具体的には、次のように測定される。粒径が420~600μmのガラス粉末について、100℃の純水80mL中に1時間浸漬したときの質量減少割合(%)を測定する。質量減少割合に応じて、所定の等級が付される。具体的には、質量減少割合が0.05%未満では等級1、0.05%以上0.10%未満では等級2、0.10%以上0.25%未満では等級3、0.25%以上0.60%未満では等級4、0.60%以上1.10%未満では等級5、1.10%以上では等級6とする。等級は数値の小さい方が、RWが良好であることを示す。
【0035】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスにおいて、JOGIS06-2008光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)に準拠して測定される耐酸性(RA)は等級1以上が好ましい。RAは、具体的には、次のように測定される。粒径が420~600μmのガラス粉末について、100℃の0.01規定の硝酸水溶液80mL中に1時間浸漬した時の質量減少割合(%)を測定する。質量減少割合に応じて、所定の等級が付される。具体的には、質量減少割合が0.20%未満では等級1、0.20%以上0.35%未満では等級2、0.35%以上0.65%未満では等級3、0.65%以上1.20%未満では等級4、1.20%以上2.20%未満では等級5、2.20%以上では等級6とする。等級は数値の小さい方が、RAが良好であることを示す。
【0036】
なお、耐水性(RW)及び耐酸性(RA)において所定の等級「以上」とは、当該等級より優れたことを表し、当該等級より小さい値の等級を表す。
【0037】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスのガラス転移点(Tg)は500~700℃の範囲が好ましい。本発明の光学ガラスは、上記した範囲のTgを有することで、プレス成型及びリドロー成形における成形性が良好である。Tgは、より好ましくは520℃~680℃であり、さらに好ましくは540℃~660℃、さらにより好ましくは560℃~640℃、特に好ましくは570℃~620℃である。Tgは、例えば示差熱膨張計(TMA)を用いて、JIS R3103-3(2001年)により測定できる。
【0038】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスのアッベ数(v)は、50以下であることが好ましい。具体的には、本発明の反射防止膜付ガラス基板を導光板のような用途に適用する場合は、上記した範囲の低いvを有することで、ウェアラブル機器の光学設計が容易になり、色収差の改善もしやすくなるので、きれいな画像や映像を再現できる。vは、より好ましくは46以下であり、さらに好ましくは42以下、よりさらに好ましくは38以下、特に好ましくは34以下である。ガラスのアッベ数の下限は特に限定しないが、概ね10以上、具体的には15以上、より具体的には20以上であることが多い。
【0039】
ガラスのアッベ数は例えば、上記屈折率測定に使用したサンプルを用いて、v=(n-1)/(n-n)により算出する。nはヘリウムd線、nは水素F線、及びnは水素C線に対する屈折率である。これらの屈折率も上記した屈折率計を使用して測定することができる。
【0040】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスの、50~350℃における熱膨張係数(α)は50~150(×10-7/K)の範囲が好ましい。本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスは、上記した範囲のαを有することで、周辺部材との膨張マッチングが良好である。αは、より好ましくは60~135(×10-7/K)であり、さらに好ましくは70~120(×10-7/K)、さらにより好ましくは80~105(×10-7/K)、特に好ましくは90~100(×10-7/K)である。
【0041】
熱膨張係数(α)は、示差熱膨張計(TMA)を用いて30~350℃の範囲における線熱膨張係数を測定し、JIS R3102(1995年)により30~350℃の範囲における平均線熱膨張係数を求めることができる。
【0042】
本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラス基板の、一方の主表面の面積は8cm以上が好ましい。この面積が8cm以上であれば、多数の光学素子を配置でき生産性が向上する。この面積はより好ましくは30cm以上であり、さらに好ましくは170cm以上であり、よりさらに好ましくは300cm以上であり、特に好ましくは1000cm以上である。一方で面積が6500cm以下であればガラス基板の取り扱いが容易になり、ガラス基板ないし反射防止膜付ガラス基板の取り扱い時や加工時の破損を抑制できる。この面積はより好ましくは4500cm以下であり、さらに好ましくは4000cm以下であり、よりさらに好ましくは3000cm以下であり、特に好ましくは2000cm以下である。
【0043】
本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラス基板の、一方の主表面の25cmにおけるLTV(Local Thickness Variation)は2μm以下が好ましい。この範囲の平坦度を有することで、ガラス基板の当該一方の主表面にインプリント技術等を用いて所望形状のナノ構造を形成でき、また所望の導光特性を得ることができる。特に、導光体では光路長の差異によるゴースト現象や歪みを防止できる。LTVは、より好ましくは1.8μm以下であり、さらに好ましくは1.6μm以下であり、よりさらに好ましくは1.4μm以下であり、特に好ましくは1.2μm以下である。
【0044】
ガラス基板のLTVは以下のように測定することができる。ガラス基板の板厚を非接触レーザ変位計(例えば、黒田精工製ナノメトロ社製)により、50mm×50mm×1mmの板状のサンプルについて、3mm間隔で測定し、LTVを算出する。
【0045】
本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスを直径8インチの円形のガラス板としたときの反りは50μm以下が好ましい。ガラス板の反りが50μm以下であれば、一方の主表面にインプリント技術等を用いて所望形状のナノ構造を形成でき、また所望の導光特性が得られる。複数の導光体を得ようとするとき、品質の安定したものが得られる。ガラス板の反りはより好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下であり、特に好ましくは20μm以下である。
【0046】
また、ガラスを直径6インチの円形のガラス板としたときの反りは30μm以下が好ましい。ガラス板の反りは30μm以下であれば、一方の主表面にインプリント技術等を用いて所望形状のナノ構造を形成でき、また所望の導光特性が得られる。複数の導光体を得ようとするとき、品質の安定したものが得られる。ガラス板の反りはより好ましくは20μm以下であり、さらに好ましくは15μm以下であり、特に好ましくは10μm以下である。
【0047】
図1は、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラスをガラス板G1としたときの断面図である。「反り」とは、ガラス板G1の一方の主表面G1Fの中心を通り、その一方の主表面G1Fに対して直交する任意の断面において、ガラス板G1の基準線G1Dとガラス板G1の中心線G1Cとの垂直方向の距離の最大値Bと最小値Aとの差Cである。
【0048】
前記直交する任意の断面とガラス板G1の一方の主表面G1Fとの交線を、底線G1Aとする。前記直交する任意の断面とガラス板G1の他の一方の主表面G1Gとの交線を、上線G1Bとする。ここで、中心線G1Cは、ガラス板G1の板厚方向の中心を結んだ線である。中心線G1Cは、底線G1Aと上線G1Bとの後述するレーザ照射の方向に対しての中点を求めることにより算出される。
【0049】
基準線G1Dは、以下のように求められる。まず、自重の影響をキャンセルする測定方法のもとに、底線G1Aを算出する。該底線G1Aから、最小自乗法により直線を求める。求められた直線が、基準線G1Dである。自重による影響をキャンセルする測定方法としては公知の方法が用いられる。
【0050】
例えば、ガラス板G1の一方の主表面G1Fを3点支持し、レーザ変位計によりガラス板G1にレーザを照射し、任意の基準面からの、ガラス板G1の一方の主表面G1F及び他の一方の主表面G1Gの高さを測定する。
【0051】
次に、ガラス板G1を反転させ、一方の主表面G1Fを支持した3点に対向する他の一方の主表面G1Gの3点を支持し、任意の基準面からの、ガラス基板G1の一方の主表面G1F及び他の一方の主表面G1Gの高さを測定する。
【0052】
反転前後における各測定点の高さの平均を求めることで自重による影響がキャンセルされる。例えば、反転前に、上述のとおり、一方の主表面G1Fの高さを測定する。ガラス板G1を反転後、一方の主表面G1Fの測定点に対応する位置で、他の一方の主表面G1Gの高さを測定する。同様に、反転前に、他の一方の主表面G1Gの高さを測定する。ガラス板G1を反転後、他の一方の主表面G1Gの測定点に対応する位置で、一方の主表面G1Fの高さを測定する。反りは、例えば、レーザ変位計(例えば、黒田精工製ナノメトロ社製の非接触レーザ変位計)により測定される。
【0053】
また、本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラス基板において、一方の主表面の表面粗さRaは2nm以下が好ましい。この範囲のRaを有することで、一方の主表面にインプリント技術等を用いて所望形状のナノ構造を形成でき、また所望の導光特性が得られる。特に、導光体では界面での乱反射が抑制されてゴースト現象や歪を防止できる。Raは、より好ましくは1.7nm以下であり、さらに好ましくは1.4nm以下、さらにより好ましくは1.2nm以下、特に好ましくは1nm以下である。ここで、表面粗さRaは、JIS B0601(2001年)で定義された算術平均粗さであり、本明細書では、2μm×2μmの正方形のエリアを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した値である。ここで、反射防止膜付ガラス基板が一方の主表面にのみ反射防止膜を有する場合、ナノ構造の形成されるのは、反射防止膜を有する主表面と反対側の主表面であるので、主表面の表面粗さRaが上記範囲であることが好ましい。
【0054】
[ガラス成分]
次に、本実施形態のガラスが含有し得る各成分の組成範囲の一実施形態について詳細に説明する。本明細書において、各成分の含有量は、特に断りのない限り、酸化物基準のガラス母組成の全質量に対する質量%で示す。また、本発明で使用されるガラスにおいて、「実質的に含有しない」とは、不可避不純物を除き含有しないことを意味する。不可避不純物の含有量は、本発明において0.1%以下である。
【0055】
本発明で使用されるガラスにおける高屈折率かつ光透過率が良好であって、さらに溶解性が高いという特性を満たす母組成としては、例えば、酸化物基準の質量%表示で、ガラス形成成分として、SiO、B及びPからなる群から選ばれる少なくとも1種を5~80質量%、修飾酸化物としてMgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、LiO、NaO、KO、CsO、Ln(LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を合計で5~70質量%、中間酸化物としてAl、TiO、ZrO、WO、Bi、TeO、Ta、Nbからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を合計で0~50質量%、を含有する組成が挙げられる。
【0056】
このようなガラスの組成としては、具体的には、(1)La-B系、(2)SiO系、(3)P系のガラスが挙げられる。なお、ガラス組成における含有量の説明で、単に「%」との表記は、特に説明をしている場合を除き「質量%」を意味する。
【0057】
(1)La-B系としては、例えば、母組成の合計を100%としたとき、Laを5~70%、Bを5~70%含有するガラスが例示できる。
【0058】
La成分を5%以上含有することで、所望の高屈折率にでき、且つ分散を小さく(アッベ数を大きく)できる。La成分の含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上とする。
他方で、La成分の含有量を70%以下にすることで、ガラスの溶融性の低下を抑えられ、ガラスの耐失透性を高められる。La成分の含有量は、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下とする。
【0059】
は、ガラス形成成分であり、Bの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、5~70%が好ましい。
成分を5%以上含有することで、ガラスの耐失透性を高められ、且つガラスの分散を小さくできる。B成分の含有量は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。
他方で、B成分の含有量を70%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くでき、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B成分の含有量は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である。
【0060】
SiOは、ガラス形成成分である。SiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~15%である。SiOを含有することで、ガラスに高い強度とクラック耐性を付与し、ガラスの安定性及び化学的耐久性を向上できる。SiOの含有量は、好ましくは2%以上であり、より好ましくは4%以上であり、さらに好ましくは6%以上である。一方、SiOの含有量が15%以下で、高い屈折率を得るための成分を含有できる。SiOの含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下である。
【0061】
MgOは任意成分である。MgOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%が好ましい。MgO成分を含有することで、ガラスの機械的強度を向上できる。MgOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。MgOの含有量が20%以下であれば失透温度を低くし、好ましい製造特性が得られる。MgOの含有量は、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。
【0062】
CaOは任意成分である。CaOの含有量は、母組成の合計100%としたとき、0~30%が好ましい。CaO成分を含有することで、ガラスの化学的耐久性を向上できる。CaOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。CaOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。CaOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。
【0063】
SrOは任意成分である。SrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%が好ましい。SrO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。SrOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。SrOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。SrOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0064】
BaOは任意成分である。BaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~40%が好ましい。BaO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。BaOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上である。BaOの含有量が40%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。BaOの含有量は、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0065】
ZnOは任意成分である。ZnOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%が好ましい。ZnO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。ZnOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。ZnOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。ZnOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0066】
LiOは任意成分である。LiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~15%が好ましい。LiOを含有させると、強度(Kc)及びクラック耐性(CIL)を向上できる。LiOの含有量は、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。一方、LiOの含有量が15%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。LiOの含有量は好ましくは10%以下であり、より好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0067】
NaOは任意成分である。NaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。NaOの含有量が20%以下であれば良好なクラック耐性が得られる。NaOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、特に好ましくは5%以下である。本実施形態のガラスがNaOを含有する場合、失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られ、その含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。
【0068】
Oは任意成分である。KOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。KOの含有量が20%以下であれば良好なクラック耐性が得られる。KOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。KOを含有する場合、失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。その含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。
【0069】
また、本実施形態のガラスにおいては、任意成分としてアルカリ金属成分(LiO、NaO、KO)を含有できる。LiO+NaO+KOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。LiO+NaO+KOが2%以上であれば、Tが低くなり易く、溶解温度が低くなり着色を抑えられる。LiO+NaO+KOは、好ましくは4%以上であり、より好ましくは6%以上である。また、LiO+NaO+KOの含有量を20%以下にすることで失透温度を下げ好ましい製造特性が得られる。LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。「LiO+NaO+KO」はLiO、NaOおよびKOからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属酸化物成分の合量を示すものである。
【0070】
本実施形態のガラスにおいて、アルカリ金属成分のなかでも、LiOは、ガラスの強度を向上させる成分であるが、その量が多いとTが低くなり易く失透し易くなる。そこで、本実施形態のガラスでは、酸化物基準の質量%による比の値で、LiO/(LiO+NaO+KO)は0.45以下が好ましい。この割合を0.45以下とすることで、Tが高くなりやすく、失透し難くなりガラスの易成形性が向上する。この割合は、より好ましくは0.4以下であり、さらに好ましくは0.35以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0071】
CsOは任意成分である。CsOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。CsOの含有量が0%超であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。本実施形態のガラスがCsOを含有する場合、その含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上である。一方、CsOの含有量が20%以下であれば良好なクラック耐性が得られる。CsOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。
【0072】
Ln(LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)は任意成分である。Lnの合量としての含有量は、母組成の合計を100%としたとき、5~55%である。Lnを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Lnの合量としての含有量は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上であり、特に好ましくは25%以上である。
また、Lnの含有量が55%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。そのため、合量としての含有量は、好ましくは55%以下であり、より好ましくは45%以下であり、さらに好ましくは35%以下であり、特に好ましくは30%以下である。
【0073】
Alは任意成分である。Alの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~35%である。Alを含有させると、ガラスの強度を高めるとともにガラスの安定性を向上できる。Alの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上である。
また、Alの含有量が35%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。Alの含有量は、好ましくは20%以下であり、よりAlの含有量10%以下であり、さらにAlの含有量8%以下である。
【0074】
TiOは任意成分である。TiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~35%である。TiOを含有させると、ガラスの屈折率を高めるとともにガラスの安定性を向上できる。TiOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは7%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、TiOの含有量が35%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。TiOの含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。
【0075】
ZrOは任意成分である。ZrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。ZrOを含有させると、ガラスの屈折率を高めるとともに化学耐久性を向上できる。ZrOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、ZrOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。ZrOの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下である。
【0076】
WOは任意成分である。WOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。WOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。WOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、WOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。WOの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下である。
【0077】
Biは任意成分である。Biの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。Biを含有させる、ガラスの屈折率を向上できる。Biの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、Biの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。Biの含有量は、好ましくは35%以下であり、より好ましくは25%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。
【0078】
TeOは任意成分である。TeOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。TeOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。TeOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上である。
また、TeOの含有量が30%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。TeOの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下である。
【0079】
Taは任意成分である。Taの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。Taを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Taの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上である。
また、Taの含有量が30%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Taの含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは10%以下である。
【0080】
Nbは任意成分である。Nbの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~35%である。Nbを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Nbの含有量は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。
また、Nbの含有量が35%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Nbの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは25%以下である。
La-B系の好ましい組成としては、酸化物基準の質量%表示で、La:20~35%、B:10~20%、SiO:0~10%、CaO:5~15%、ZnO:0~5%、TiO:5~15%、ZrO:5~10%、Nb:15~25%、As:0~2%、Sb:0~2%を含有する高屈折率ガラス組成物が例示できる。
【0081】
(2)SiO系としては、例えば、SiOを10~50%含有し、高屈折率成分としてNb、Ta、LiO、SrO、BaO、TiO、ZrO、WO、Bi、TeO及びLn(LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種を30%以上含有するガラスが例示できる。
【0082】
SiOは、ガラス形成成分である。SiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、10~50%である。SiOの含有量が10%以上で、ガラスの粘性がlogη=2となる温度Tを好ましい範囲にし、ガラスに高い強度とクラック耐性を付与し、ガラスの安定性及び化学的耐久性を向上できる。SiOの含有量は、好ましくは15%以上であり、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、よりさらに好ましくは29%以上である。一方、SiOの含有量が45%以下で、高い屈折率を得るための成分を含有できる。SiOの含有量は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。
【0083】
Nbは、任意成分である。Nbの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、5%以上とすることでガラスの屈折率を高めるとともに、アッベ数(v)を小さくできる。Nbの含有量は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。
【0084】
また、Nbの含有量が70%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Nbの含有量は、好ましくは65%以下であり、より好ましくは60%以下であり、さらに好ましくは55%以下であり、さらにより好ましくは50%以下である。
【0085】
Taは任意成分である。Taの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。Taの含有量は、1%以上とすることで屈折率を向上できる。Taの含有量は、より好ましくは5%以上である。
また、Taの含有量が30%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。Taの含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは10%以下である。
【0086】
また、本実施形態のガラスにおいては、任意成分としてアルカリ金属成分(LiO、NaO、KO)を含有できる。LiO+NaO+KOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~20%である。LiO+NaO+KOが2%以上であれば、Tが低くなり易く、溶解温度が低くなり着色を抑えられる。LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは4%以上であり、より好ましくは6%以上である。また、LiO+NaO+KOの含有量を20%以下にすることで失透温度を下げ、好ましい製造特性が得られる。LiO+NaO+KOの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。
【0087】
本実施形態のガラスにおいて、アルカリ金属成分のなかでも、LiOは、ガラスの強度を向上させる成分であるが、その量が多いとTが低くなり易く失透し易くなる。そこで、本実施形態のガラスでは、酸化物基準の質量%による比の値で、LiO/(LiO+NaO+KO)は0.45以下が好ましい。この割合を0.45以下とすることで、Tが高くなりやすく、失透し難くなりガラスの易成形性が向上する。この割合は、より好ましくは0.4以下であり、さらに好ましくは0.35以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0088】
以下に示すアルカリ土類金属成分(MgO、CaO、SrO、BaO)の合量(RO)とアルカリ金属成分(LiO、NaO、KO)の合量(R’O)との関係が、RO>2×R’Oを満たす場合には、LiO/(LiO+NaO+KO)は0.75以上でもよい。
【0089】
また、本実施形態のガラスでLiOやNaOのアルカリ金属酸化物を含有するものは、LiイオンをNaイオン又はKイオンに、NaイオンをKイオンに置換することで、化学的に強化できる。すなわち、化学強化処理すれば、光学ガラスの強度を向上させることができる。
【0090】
LiOは任意成分である。LiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~15%が好ましい。LiOを含有させると、強度(Kc)及びクラック耐性(CIL)を向上できる。LiOの含有量は、より好ましくは0.5%以上であり、さらに好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。一方、LiOの含有量が15%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。LiOの含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、よりさらに好ましくは5%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
本実施形態のガラスを化学強化する場合には、LiOの含有割合は、1.0%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましく、3.5%以上が特に好ましい。
【0091】
NaOは、任意成分であり、失透を抑制し、Tgを低くする成分である。NaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0%以上10%以下である。NaOを含有させると、優れた失透抑制効果が得られる。一方、NaOは、多すぎると、強度及びクラック耐性が低下し易い。本発明のガラスがNaOを含有する場合、その含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましい。また、NaOの含有量は、9%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましい。
本実施形態のガラスを化学強化する場合には、NaOの含有割合は、1.0%以上が好ましく、1.5%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましく、3.5%以上が特に好ましい。
【0092】
Oは、任意成分であり、ガラスの溶融性を向上させる成分であるとともに、失透を抑制する成分である。KOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0%以上10%以下である。KOを含有させると、失透抑制効果が向上される。一方、KOは、多すぎると、密度が増加し易い。KOの含有量は、0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。また、KOの含有量は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましい。
【0093】
MgOは、任意成分である。MgOは、ガラスの溶融性を向上させ、失透を抑制し、ガラスのアッベ数や屈折率等の光学恒数を調整する成分である。一方、MgOの量が多くなると、かえって失透を促進してしまう。そのため、MgOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0%以上10%以下が好ましい。MgOの含有量は、8%以下がより好ましく、6%以下が特に好ましい。また、MgOの含有割合は、0.3%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。
【0094】
CaOは、任意成分である。CaOは、失透を抑制する成分であるが、CaOの量が多いと、クラック耐性が低下し易い。そのため、CaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0%以上15%以下が好ましい。CaOの含有量は、12%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。また、CaOの含有量は、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。
【0095】
SrOは任意成分である。SrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%が好ましい。SrO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上させることができる。SrOの含有量は、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。この含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。SrOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、特に好ましくは5%以下である。
【0096】
BaOは任意成分である。BaOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~50%が好ましい。BaO成分を含有することで、ガラスの屈折率を向上させることができる。より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上である。この含有量が50%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。BaOの含有量は、より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。
【0097】
TiOは任意成分である。TiOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~35%である。TiOを含有させると、ガラスの屈折率を向上させ、ガラスの安定性を向上できる。TiOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは1.5%以上であり、さらに好ましくは2.0%以上であり、よりさらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは7%以上であり、もっとも好ましくは10%以上である。
また、TiOの含有量が35%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。TiOの含有量は、好ましくは25%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。
【0098】
ZrOは任意成分である。ZrOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。ZrOを含有させると、ガラスの屈折率を向上させ、化学耐久性を向上できる。ZrOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3.0%以上であり、さらに好ましくは3.5%以上であり、よりさらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、ZrOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。ZrOの含有量は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。
【0099】
WOは任意成分である。WOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。WOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。WOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、WOの含有量が30%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。WOの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下である。
【0100】
Biは任意成分である。Biの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~55%である。Biを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。Biの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。
また、Biの含有量が55%以下であれば失透温度が低くなり、ガラスの着色を抑えられる。Biの含有量は、好ましくは45%以下であり、より好ましくは42%以下であり、さらに好ましくは35%以下であり、よりさらに好ましくは25%以下であり、特に好ましくは15%以下である。
【0101】
TeOは任意成分である。TeOの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、0~30%である。TeOを含有させると、ガラスの屈折率を向上できる。TeOの含有量は、好ましくは1%以上であり、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、特に好ましくは15%以上である。
また、TeOの含有量が30%以下であれば失透温度を低くできる上、原料コストを下げられる。TeOの含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下である。
【0102】
Ln(LnはY、La、Gd、Yb、及びLuからなる群から選ばれる1種以上である。)を含有することで、ガラスの屈折率を向上できる。Lnの含有量は、母組成の合計を100%としたとき、好ましくは1%以上であり、より好ましくは3%以上であり、さらに好ましくは5%以上であり、特に好ましくは10%以上である。一方、Lnの含有量が、母組成の合計を100%としたとき、55%以下であれば失透温度が低くなり、好ましい製造特性が得られる。Lnの含有量は、合計で、好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、特に好ましくは15%以下である。
【0103】
は、任意成分である。Bは、Tgを低くし、ガラスの強度やクラック耐性などの機械的特性を向上させる成分であるが、Bの量が多いと屈折率が低下し易い。そのため、Bの含有割合は、0%以上10%以下が好ましい。Bの含有割合は、8.5%以下がより好ましく、6.5%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。また、Bの含有割合は、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。
【0104】
Alは、任意成分である。Alは、化学的耐久性を向上させる成分であるが、Alが多くなると、ガラスが失透し易くなる。そのため、Alの含有割合は0%以上5%以下が好ましい。Alの含有割合は3%以下がより好ましく、2%以下が特に好ましい。またAlの含有割合は0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。
【0105】
ZnOは、任意成分であり、ガラスの強度やクラック耐性などの機械的特性を向上させる成分である。一方、ZnOの量が多いと失透し易くなるため、その含有割合は0%以上15%以下が好ましい。ZnOの含有割合は、13%以下がより好ましく、12%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましい。また、ZnOの含有割合は、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましい。
【0106】
Laは、任意成分である。Laは、ガラスの屈折率を向上させる成分であるが、Laの量が多すぎると機械的特性が低下する。そのため、Laの含有割合は、0%以上30%以下が好ましい。Laの含有割合は、20%以下がより好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、8%以下がよりさらに好ましい。Laは、実質的に含有しないことが好ましい。
【0107】
Asは、有害な化学物質であるため、近年使用を控える傾向にあり、環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、実質的に含有しないことが好ましい。
【0108】
さらに本実施形態のガラスには、Sb及びSnOのうちの少なくとも一種が含有されることが好ましい。これらは必須の成分ではないが、屈折率特性の調整、溶融性の向上、着色の抑制、透過率の向上、清澄、化学的耐久性の向上などの目的で添加できる。これらの成分を含有させる場合、合計で、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0109】
さらに本実施形態のガラスには、Fが含有されることが好ましい。Fは必須ではないが、溶解性の向上、透過率の向上、清澄性向上などの目的で添加できる。Fを含有させる場合は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0110】
SiO系の好ましい組成(SiO系組成A)としては、酸化物基準の質量%表示で、Nb:5%~65%、BaO、TiO、ZrO、WO、及びLn(LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である)からなる群から選ばれる少なくとも1種を0%~30%、SiO:15%~50%、LiO+NaO+KOが2%~20%であり、LiO/(LiO+NaO+KO)が0.45以下を含有する高屈折率ガラス組成物が例示できる。当該高屈折率ガラスの具体的な組成としては、B:0%~10%、MgO:0%~10%、CaO:0%~15%、SrO:0%~15%、BaO:0%~15%、LiO:0%~9%、NaO:0%~10%、KO:0%~10%、Al:0%~5%、TiO:0%~15%、WO:0%~15%、ZrO:0%~15%、ZnO:0%~15%である。
【0111】
また、SiO系の別の好ましい他の組成(SiO系組成B)としては、酸化物基準の質量%表示で、SiO:25~40%、RO:0~10%、R’O:0~20%、LiO/R’O≦0.45、Ln:0~30%、Nb:20~55%を含有する高屈折率ガラス組成物が例示できる。また、SiO系の別の好ましい組成(SiO組成C)としては、酸化物基準の質量%表示で、SiO:15~30%、Nb:40~65%、RO:0~10%、R’O:0~20%、LiO/R’O≦0.45である高屈折率ガラス組成物が例示できる。別の好ましい組成(SiO系組成D)としては、酸化物基準の質量%表示で、SiO:25~40%、CaO:0~5%、SrO:3~10%、BaO:5~15%、LiO:4~8%、NaO:0.3~3%、RO>2×R’O、LiO/R’O:0.65~0.95、TiO:3~15%、ZrO:3~8%、Nb:10~30%を含有する高屈折率ガラス組成物が例示できる。
【0112】
(3)P系としては、例えば、Pを10~70質量%含有し、高屈折率成分としてNb、Ta、LiO、SrO、BaO、TiO、ZrO、WO、Bi、TeO及びLn(LnはY、La、Gd、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種である。)からなる群から選ばれる少なくとも1種を1%以上含有するガラスが例示できる。
【0113】
はガラスを構成するガラス形成成分であり、ガラスに製造可能な安定性を持たせ、ガラス転移点と液相温度を小さくする作用が大きい。しかし、Pの含有量が、母組成の合計を100%としたとき、10%未満であると十分な効果が得られない。Pの含有量は、好ましくは12%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上である。また、Pの含有量が70%以下であれば、良好な化学的耐久性が得られる。Pの含有量は、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下、特に好ましくは50%以下である。
【0114】
なお、高屈折率成分については、上記(2)SiO系ガラスと同一であるため、重複する説明は省略する。
【0115】
本発明で使用されるガラスの組成及び特性を例示すると表1のものである。表1に示すのは、上記SiO系組成に該当するガラスである。なお、表1における各ガラスの物性は上述した方法により測定した値であり、失透粘性は、失透温度におけるガラスの粘度を回転粘度計によって測定した値である。
【0116】
【表1】
【0117】
<反射防止膜>
本発明の反射防止膜付ガラス基板は、ガラス基板の少なくとも一方の主表面上に反射防止膜を有する。反射防止膜は、ガラス基板の一方の主表面上のみに備えられてよく、両方の主表面上に備えられてもよい。ガラス基板の強度は、様々な要素で変化するものであるが、本発明で重要とする屈折率によっても変化する。一般的に、ガラスの屈折率が高くなれば、その強度は低下する傾向がある。しかし、本発明では屈折率1.68以上のガラス基板に反射防止膜を被覆し、反射防止膜付きガラス基板とすることで、その強度をガラス基板のみの強度よりも強くできた。特に膜硬度を制御することにより、好ましい強度に調整も可能である。
【0118】
反射防止膜の材料は特に限定されるものではなく、光の反射を抑制できる材料であれば各種材料を使用できる。例えば、反射防止膜としては、ガラス基板よりも屈折率の低い材料を単層で成膜したものを適用できる。高屈折率膜と低屈折率膜とを交互に積層した構成とすることで、より低反射性を実現できる。ここでいう高屈折率膜とは、波長550nmでの屈折率が1.9以上の膜であり、低屈折率層膜とは、波長550nmでの屈折率が1.6以下の膜である。
【0119】
高屈折率膜と低屈折率膜とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率膜と低屈折率膜とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率膜と低屈折率膜とを交互に積層した形態であることが好ましい。反射防止膜は高屈折率膜と低屈折率膜以外に、波長550nmでの屈折率が1.6を超え1.9未満の中屈折率膜を有していてもよい。
【0120】
特に反射防止性能を高めるためには、反射防止膜は複数の層が積層された積層体であることが好ましく、例えば該積層体は全体で2層以上8層以下の層が積層されていることが好ましく、2層以上6層以下の層が積層されていることがより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率膜と低屈折率膜とを積層した積層体であることが好ましく、高屈折率層、低屈折率層各々の層数を合計したものが上記範囲であることが好ましい。
【0121】
高屈折率膜の材料としては、インジウム、ジルコニウム、セリウム、チタン、タンタル、ニオブ、スズ等の酸化物が挙げられる。具体的には、In、ZrO、CeO、TiO、Ta、Nb、SnO等を使用することができる。
【0122】
低屈折率膜の材料としては、シリカ、アルミニウム又はニッケルの酸化物(SiO、Al、NiO等)や、カルシウム、マグネシウム又はイットリウムのフッ化物(MgF、CaF、Y等)、硫化マグネシウム(MgSなど)を使用することができる。
【0123】
高屈折率膜及び低屈折率膜の材料は各々の屈折率が上記の好ましい範囲となるように、上記材料の1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。高屈折率膜及び低屈折率膜はそれぞれ、上記した屈折率の範囲であれば、添加物を含有していても構わない。また、高屈折率膜の材料と低屈折率膜の材料を所定の比率で混合して使用し、所望の屈折率の膜を形成してもよい。また、中屈折率膜の材料も、その屈折率が上記の好ましい範囲となるように、例えば、上記材料の1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0124】
中でも、生産性や、屈折率の程度の点から、前記高屈折率膜が酸化チタン、酸化ニオブ及び酸化タンタルからなる群から選ばれる1種以上からなる膜であり、前記低屈折率膜が酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムからなる群から選ばれる1種以上からなる膜であることがより好ましい。
【0125】
反射防止膜の膜厚は、0.01μm以上3μm以下であることが好ましい。これにより上記した面強度及び膜硬度を実現し、反射防止膜付ガラス基板に優れた強度を付与することができる。なお、本発明の反射防止膜付ガラス基板がその両主表面に反射防止膜を有する場合、反射防止膜の膜厚は両主表面の反射防止膜の膜厚の合計が上記範囲であることが好ましい。
【0126】
反射防止膜は、真空蒸着法、プラズマを用いたイオンアシスト蒸着法、スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、イオンプレーティング法などによって成膜することができる。
【0127】
真空蒸着法は、たとえば真空槽などを用い、真空中で膜材料を抵抗加熱、電子銃加熱、高周波誘導加熱などを用いて蒸発させ、レンズ、基板に積層する方法である。イオンアシスト蒸着法は、抵抗加熱、電子銃加熱、高周波誘導加熱により蒸発させられた膜材料の原子や分子が基板上に物理吸着する際に、イオンガンを用いてイオンを照射することで、膜材料の原子や分子をよりエネルギー的に活性化させる方法である。例えば、蒸着法を用いる場合、ガラス基板は、回転ドームに保持させて回転しながら蒸着することで、より均一な膜が得られる。さらに、ガラス基板はシースヒーター等によって加熱することが好ましい。
【0128】
蒸着によって形成される膜の膜厚は、水晶振動子膜厚モニター等によって測定することができる。蒸着法では、例えば、成膜温度(基板の温度)、抵抗加熱あるいは電子銃の出力(成膜パワー)、真空槽内のガス圧などによって、膜硬度を調節できる。また、イオンアシスト蒸着法では、イオンガンによって照射するイオンの照射量の調節によっても、膜硬度を調節できる。
【0129】
プラズマを用いた成膜方法として、イオンプレーティング法は、抵抗加熱、電子銃加熱、高周波誘導加熱により蒸発させられた膜材料の原子や分子をプラズマにより、イオン化し、且つ、電界を与えることでこのイオンを基板に衝突させる方法である。
【0130】
スパッタ法は、数百eV~数十keVのエネルギーの粒子をターゲット原子に核衝突させ、ターゲット原子をはじき出すことで基板、レンズまでその原子を輸送する方法である。スパッタ法は、一般的に真空蒸着法より高い密度の膜の形成し易い利点や、膜と基板、レンズとの密着性が高い利点がある。反射防止膜をスパッタ法で成膜する場合も成膜条件により、膜硬度を調節することができる。
【0131】
上記した中でも、所望の光学特性(制御性)、膜硬度や耐久性を得るために、真空蒸着法、イオンアシスト蒸着法あるいはスパッタ法を用いることが好ましい。
【0132】
[反射防止膜付ガラス基板の製造方法]
本発明の反射防止膜付ガラス基板に用いられるガラス基板は、例えば以下のように製造される。すなわち、まず、上記所定のガラス組成となるように原料を秤量し、均一に混合する。作製した混合物を白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融する。その後、金坩堝、白金坩堝、白金合金坩堝、強化白金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1200~1400℃の温度範囲で2~10時間溶融し、脱泡、撹拌などにより均質化して泡切れ等を行った後、金型に鋳込んで徐冷する。これによりガラスが得られる。
【0133】
さらに、このガラスを溶融し、溶融ガラスをフロート法、フュージョン法、ロールアウト法といった成型方法によって板状に成形することでガラス基板が得られる。
【0134】
上記のように製造されるガラスの残留泡は、1kg当たり10個(10個/kg)以下が好ましく、7個/kg以下がより好ましく、5個/kg以下がさらに好ましく、3個/kg以下が特に好ましい。上記した方法でガラス基板を成形する場合、残留泡が10個/kg以下であれば、泡の含まれないガラス基板を効率よく成形できる。また、残留泡が内部に包まれる最小サイズの円の直径を残留泡の個々の大きさとしたとき、残留泡の個々の大きさは80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましく、20μm以下が特に好ましい。
【0135】
また、前記直径を残留泡の縦方向の長さLとし、この直径と垂直に交わる直線で残留泡の最大長さとなる直線の長さを残留泡の横方向の長さLとしたとき、残留泡の形状を縦横比で表すとL/Lは0.90以上が好ましく、0.92以上がより好ましく、0.95以上がさらに好ましい。L/Lが0.90以上であれば、残留泡は真円(真球)に近い状態となり、例え残留泡が含まれていたとしても、楕円の残留泡と比べるとガラスの強度低下が抑えられ、ガラス基板を作製するときに、残留泡が起点となる割れの発生を抑制できる。また、ガラス基板に残留泡が存在しても、楕円の残留泡と比べるとガラス基板に入射する光の異方散乱が抑えられる効果も有する。残留泡の大きさや形状は、レーザ顕微鏡(キーエンス社製:VK-X100)によって測定された値から得られる。
【0136】
次いで、上記で得られたガラス基板の少なくとも一方の主表面上に反射防止膜を上述の蒸着法やスパッタ法などの方法で成膜して、反射防止膜付ガラス基板を得る。
【実施例
【0137】
(実施例1)
SiO系のガラスで高屈折率成分としてNbを含有し、ガラス成分中のSiOとNbとの合計含有量が50質量%以上であるSi-Nb系のガラスを用いて次のようにガラス基板を作製した。上記Si-Nb系のガラスの酸化物等の原料を溶融し、板状に成形してガラス基板(厚さ:0.3mm)を得た。ついで、以下の手順により、ガラス基板の一方の主表面に、反射防止膜をイオンアシスト蒸着法により成膜して、反射防止膜付ガラス基板を得た。なお、上述した方法で測定したガラスの各物性は次のとおりである。
【0138】
屈折率(n):1.78、密度(d):3.3g/cm、ガラスの粘性がlogη=2となる温度T:1080℃、失透温度:1065℃、厚さ1mmのガラス板にしたときの、波長360nmにおける光の透過率(T360):74%、ヤング率(E):60GPa、耐水性:等級1級、耐酸性:等級1級、ガラス転移点(Tg):592℃、アッベ数(v):27、50~350℃での熱膨張係数α:80×10-7/K、LTV:1.1、反り(直径8インチの円形のガラス板として):45μm。
【0139】
本実施例1で製造した反射防止膜は、可視域光線の反射を防止する広帯域の反射防止膜であり、ガラス基板上に、SiOからなる薄膜(低屈折率膜)とTiOからなる薄膜(高屈折率膜)とを、ガラス基板側から第1層から第6層まで交互に積層した6層の多層膜からなる。得られた反射防止膜付ガラス基板の反射特性(視感反射率)を、日立ハイテクノロジーズ社製 U-4100等)によって測定した。その結果を図2に示す。ただし、反射特性の測定に当たっては、反射防止膜を有していない非膜面側の反射を除去した。また、反射防止膜を形成する各高屈折率膜及び低屈折率膜の膜厚は表2のようであった。
【0140】
【表2】
【0141】
上記で得られた反射防止膜付ガラス基板における反射防止膜の膜硬度、反射防止膜付ガラス基板の反射防止膜を有する主表面の面強度及び耐酸性を以下の装置及び方法で測定した。また、反射防止膜付ガラス基板の反射防止膜の膜表面粗さ(Ra)及び反射防止膜付ガラス基板の反りを上述した方法で測定した。ただし、表面粗さ(Ra)の測定エリアは、2μm×2μmであり、反りは直径8インチの円形のガラス板として測定した。
これらの測定結果を表3に示す。
【0142】
[膜硬度]
膜硬度は、ナノインデンテーション法によって、バーコビッチ圧子を用い、反射防止膜を有する面上に上記バーコビッチ圧子を荷重100μNで接触させて測定した。測定は、ナノインデンター(型番:ESF-5000 Plus、ELIONIX社製)を用いて行った。
【0143】
[面強度]
図3(A)及び図3(B)はROR(Ring on Ring)と呼ばれるガラス板の面強度試験方法を概念的に示す図で、図3(A)は平面図、図3(B)は側面図である。図3(A)及び3(B)に示すように、リング状の支持部Sの上に、中心を一致させて、反射防止膜付ガラス基板のサンプルGを、反射防止膜を有する面を支持部S側に向けて載置した。そして、反射防止膜付ガラス基板の上から直径10mm(中心を基準)のリング状の荷重部Lを、その中心が支持部Sの中心と一致するように押しつけて荷重をかけ、反射防止膜付ガラス基板が破壊した時点の荷重を測定した。支持部Sの直径は30mm(支持部Sの中心を基準)とした。このような測定を、同じ厚さかつ同じ構成の20~30枚の低反射膜付ガラス基板について行い、これらの破壊荷重の平均値を各サンプルGの面強度とした。さらに、得られた面強度の平均値を用い、下記式によって0.5mm換算の値(面強度)とした。なお、面強度の測定装置は、ミネベア社製の引張圧縮試験機を用いた。
【0144】
0.5mm換算の面強度(N)=Bav×(0.5/T)
ただし、上記式において、Bavは反射防止膜付ガラス基板が破壊した時点の荷重の平均値(N)を表し、Tは上記で実測した反射防止膜付ガラス基板におけるガラス基板の板厚(mm)を表す。
【0145】
[耐酸性]
反射防止膜付ガラス基板の耐酸性は、基板を、80℃に加熱したピラニア洗浄液(HSO:H=4:1(質量比))に10分間浸漬し、浸漬後に膜の剥離や変色がみられない場合を○、剥離又は変色が見られた場合を×として評価した。
【0146】
(実施例2)
イオンアシスト蒸着法におけるアシストするイオンの照射量を実施例1における2/3倍で照射した以外は、実施例1と全く同様に実施することにより反射防止膜付ガラス基板を得た。得られた反射防止膜付ガラス基板の反射特性(視感反射率)を実施例1と同様の方法で測定したところ、実施例1と同等であった。
【0147】
(実施例3)
イオンアシスト蒸着法におけるアシストするイオンの照射量を実施例1における1/3倍で照射した以外は、実施例1と全く同様に実施することにより反射防止膜付ガラス基板を得た。得られた反射防止膜付ガラス基板の反射特性を実施例1と同様の方法で測定したところ、実施例1と同等であった。
【0148】
実施例2、3で得られた反射防止膜付ガラス基板について、膜硬度、面強度(0.5mm厚換算値)、耐酸性、反り、及び膜表面粗さ(Ra)を実施例1と同様に測定し、それらの結果を表3に示す。
【0149】
(比較例)
実施例1と同様のガラス基板であって、反射防止膜形成していないガラス基板について、面強度(0.5mm厚換算値)、耐酸性、反り、及びを表面粗さ(Ra)を、実施例1と同様の方法で測定し、それらの結果を表3に示す。
【0150】
【表3】
【0151】
(実施例4~6)
実施例1と同様のガラス基板の一方の主表面に反射防止膜をスパッタリング法により成膜して、反射防止膜付きガラス基板を得た。反射防止膜は積層数、材料および膜厚は表2に記載のものと同様となるように成膜した。実施例4~6で、成膜圧力を低、中、高に変化させて成膜したものである。実施例4の成膜圧力を基準としたとき、実施例5は実施例4の2倍の成膜圧力、実施例6は実施例4の2.67倍の成膜圧力とした。
【0152】
実施例4~6で得られた反射防止膜付ガラス基板について、膜硬度、面強度(0.5mm厚換算値)、耐酸性、反り、及び膜表面粗さ(Ra)を実施例1と同様に測定し、それらの結果を表4に示す。
【0153】
【表4】
【0154】
上記実施例1~6ではSiOとNbとを合計で50質量%含まれたSiO系のガラス組成のガラス基板に反射防止膜を被覆したが、表1に記載されたガラス組成のガラス基板に反射防止膜を形成しても同様な結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の反射防止膜付ガラス基板は、高屈折率ガラスを使用しているにも関わらず、優れた強度を備えるため、ウェアラブル機器、車載用、ロボット搭載用の導光板や光学フィルタ等の光学部品として好適である。
なお、2018年1月31日に出願された日本特許出願2018-15905号及び2018年10月1日に出願された日本特許出願2018-186777号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0156】
G1:ガラス板、G1F: ガラス板の一方の主表面、G1G: ガラス板の他方の主表面、G1C: ガラス板の中心線、G1D: ガラス板の基準線、G1A:主表面G1Fに対して直交する任意の断面と主表面G1Fとの交線、G1B:主表面G1Gに対して直交する任意の断面と主表面G1Gとの交線、A:基準線G1Dと中心線G1Cと垂直方向の距離の最小値、B:基準線G1Dと中心線G1Cと垂直方向の距離の最大値、C:最大値Bと最小値Aとの差
図1
図2
図3