(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】アンチグレアガラス基板
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20230208BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20230208BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20230208BHJP
C03C 17/42 20060101ALI20230208BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C03C15/00 B
C03C21/00 101
C03C17/30 B
C03C17/42
G02F1/1333
(21)【出願番号】P 2021194206
(22)【出願日】2021-11-30
(62)【分割の表示】P 2018053797の分割
【原出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2017057280
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】三代 均
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓子
(72)【発明者】
【氏名】玉田 稔
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001940(JP,A)
【文献】国際公開第2014/119453(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/026318(WO,A1)
【文献】特開2013-137383(JP,A)
【文献】米国特許第09435915(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0300304(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 -23/00
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有するガラス基板であり、前記第1の主面の表面にアンチグレア処理が施され、さらに防汚膜であるフッ素含有有機ケイ素化合物被膜が積層されたアンチグレアガラス基板であって、前記第1の主面の一部に前記アンチグレア処理が施されていない非アンチグレア処理部分を有し、前記非アンチグレア処理部分の表面粗さRaが10nm未満であり、前記アンチグレア処理が施されたアンチグレア処理部分と非アンチグレア処理部分とのガラス基板の板厚方向における高さの差が10μm以上200μm以下であり、ガラスの厚さが0.7mm以上である、アンチグレアガラス基板。
【請求項2】
第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有するガラス基板であり、前記第1の主面の表面にアンチグレア処理が施され、さらに防汚膜であるフッ素含有有機ケイ素化合物被膜が積層されたアンチグレアガラス基板であって、前記第1の主面の一部に前記アンチグレア処理が施されていない非アンチグレア処理部分を有し、前記非アンチグレア処理部分の表面粗さRaが10nm未満であり、前記アンチグレア処理が施されたアンチグレア処理部分と非アンチグレア処理部分とのガラス基板の板厚方向における高さの差が10μm以上100μm以下であり、ガラスの厚さが0.5mm以上である、アンチグレアガラス基板。
【請求項3】
前記アンチグレア処理部分における可視光領域の透過光のヘイズ率が2%以上30%以下である請求項1または2に記載のアンチグレアガラス基板。
【請求項4】
前記非アンチグレア処理部分の表面粗さRaが5nm以下である請求項1乃至3の何れか一項に記載のアンチグレアガラス基板。
【請求項5】
ガラス基板の板厚方向における高さが、前記アンチグレア処理部分よりも前記非アンチグレア処理部分が大きい請求項1乃至4の何れか一項に記載のアンチグレアガラス基板。
【請求項6】
ガラス基板の板厚方向における高さが、前記アンチグレア処理部分よりも前記非アンチグレア処理部分が小さい請求項1乃至4の何れか一項に記載のアンチグレアガラス基板。
【請求項7】
前記非アンチグレア処理部分と勾配部位が錐台形状をなしており、ガラス基板の板厚方向の断面形状において、前記錐台形状の側面とガラス基板の前記第1の主面とのなす角度Xが、90°<X≦150°である請求項1乃至6の何れか一項に記載のアンチグレアガラス基板。
【請求項8】
前記第1の主面の表面に低反射膜、フッ素含有有機ケイ素化合物被膜の順に積層されている請求項1乃至7の何れか一項に記載のアンチグレアガラス基板。
【請求項9】
前記ガラス基板は、アルミノシリケートガラスである請求項1乃至8の何れか一項に記載のアンチグレアガラス基板。
【請求項10】
前記ガラス基板は、化学強化ガラスである請求項1乃至9の何れか一項に記載のアンチグレアガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンチグレア性が付与されたガラス基板、すなわち、アンチグレアガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)装置等の表示装置の表示面側には、該表示装置の保護のため、透明基体で構成されたカバーが配置される。この透明基体には外観上の観点からガラス基板が用いられることが多い。しかしながら、表示装置上にこのようなガラス基板を設置した場合、ガラス基板を介して表示装置の表示画を視認しようとした際に、しばしば、周辺に置かれているものの映り込みが発生する場合がある。ガラス基板にそのような映り込みが生じると、表示画の視認者は、表示画を視認することが難しくなる上、不快な印象を受けるようになる。
【0003】
そこで、このような映り込みを抑制するため、例えば、ガラス基板の表面に、凹凸形状を形成するアンチグレア処理を施すことが試みられている。
また、このような表示装置においては、カバーをなすガラス基板表面に人の指等が触れる機会が多く、人の指等が触れた場合に、ガラス基板表面に脂等が付着し易い。そして、脂等が付着した場合には視認性に影響を及ぼすことから、アンチグレア処理が施されたガラス基板の表面に防汚処理が施されたものが用いられている。
【0004】
アンチグレア処理には、例えば、ガラス基板表面をエッチングする(例えば、特許文献1参照。)、ガラス基板表面に凹凸形状を有する膜を形成する(例えば、特許文献2参照。)等の手段が記載されている。
【0005】
LCD(Liquid Crystal Display)装置等が普及する中、新たな機能が要求されつつある。例えば、自動車や電車などの運転手の居眠り対策として運転者の状態をカメラで監視するシステムなどがインストルメントパネル、特に運転者の前に設置されるメーター等を収納するクラスター等に搭載されることがあり、その場合、カバーとなるガラス基板のうち、カメラ視野に当たる部分にはアンチグレア処理が施されていないことが必要となってきた。
【0006】
このようなアンチグレア処理が施された領域と施されていない領域とを備えたガラス基板に防汚処理を施した場合、これらの領域の境界に防汚剤が凝集し、十分な効果が得られないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/119453号
【文献】米国特許第8003194号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アンチグレア処理を施された面の一部分にアンチグレア処理が施されていない非アンチグレア領域を有し、防汚効果の優れたアンチグレアガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態に係るアンチグレアガラス基板は、第1の主面と、前記第1の主面に対向する第2の主面とを有するガラス基板であり、前記第1の主面の表面にアンチグレア処理が施され、さらに防汚膜であるフッ素含有有機ケイ素化合物被膜が積層されたアンチグレアガラス基板であって、前記第1の主面の一部に前記アンチグレア処理が施されていない非アンチグレア処理部分を有し、前記非アンチグレア処理部分の表面粗さRaが10nm未満であり、前記アンチグレア処理が施されたアンチグレア処理部分と非アンチグレア処理部分との、ガラス基板の板厚方向における高さの差が10μm以上200μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防汚剤が凝集することがなく、防汚性に優れた、非アンチグレア処理部分を有するアンチグレアガラス基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態のアンチグレアガラス基板を模式的に表した斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1におけるA-A´線に沿って切断した断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の別の実施形態のアンチグレアガラス基板を模式的に表した斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3におけるB-B´線に沿って切断した断面図である。
【
図5】
図5は、本発明のさらに別の実施形態のアンチグレアガラス基板を模式的に表した斜視図である。
【
図6】
図6は、
図5におけるC-C´線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えられる。
【0013】
[第1の実施形態]
本実施形態のアンチグレアガラス基板について
図1を用いて説明する。
図1は本実施形態のアンチグレアガラス基板を模式的に表した斜視図である。
図1に示すアンチグレアガラス基板10は、ガラス基板11の第1の主面にアンチグレア処理が施された構成である。
図1に示すガラス基板11において、上面が第1の主面、第1の主面に対向する下面が第2の主面である。本実施形態のアンチグレアガラス基板10は、ガラス基板11の第1の主面の表面にアンチグレア処理が施されたアンチグレア処理部分20と、ガラス基板11の第1の主面の表面にアンチグレア処理が施されていない非アンチグレア処理部分30とを備えている。また、ガラス基板11の第1の主面上には防汚膜12が設けられている。
本実施形態では、ガラス基板11の第1の主面に表面処理を施して、凹凸形状を形成することで、アンチグレアガラス基板10のアンチグレア処理部分20を形成する。上記の目的で実施する表面処理方法は特に限定されず、ガラス基板の主面に表面処理を施して、所望の凹凸形状を形成する方法を利用でき、一般的にはエッチングが用いられる。
【0014】
本実施形態のアンチグレアガラス基板10において、アンチグレア処理部分20は、ガラス基板11の第1の主面に表面処理を施して凹凸形状を形成することで、非アンチグレア処理部分30よりもヘイズ率が高くなっている。アンチグレア処理部分20のヘイズ率は、例えば、可視光領域の透過光のヘイズ率が0.5%~70%である。一方、非アンチグレア処理部分30は、例えば、可視光領域の透過光のヘイズ率が0.5%未満である。非アンチグレア処理部分30には前記したような表面処理による凹凸は形成されていない。以下、本明細書において、ヘイズ率と記載した場合、可視光領域の透過光のヘイズ率を指す。なお、ヘイズ率は、JIS K 7136(2000年)に基づいて測定できる。
【0015】
アンチグレア処理部分20のヘイズ率が上記範囲にあることにより、本実施形態のアンチグレアガラス基板が十分な防眩特性を有し、表示装置等のカバー部材やタッチパネルと一体化した基板としてより好ましく利用できる。また、アンチグレア処理部分20のヘイズ率は2%以上30%以下が好ましい。ヘイズ率が2%以上であれば、光の映りこみを、アンチグレア処理が施されていない基板に比べて目視で確認して有意に抑制できる。ヘイズ率が30%以下であると光の乱反射を抑制でき、表示装置のカバー部材やタッチパネルと一体化した基板として用いた場合に、表示装置の表示の視認性を十分に確保できる。ヘイズ率は、2%以上28%以下がより好ましく、5%以上26%以下がさらに好ましい。
上述した効果を奏するためには、ガラス基板11の第1の主面の表面に占める非アンチグレア処理部分30の面積比が20%以下であることが好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0016】
図2は、
図1におけるA-A´線に沿って切断した断面図である。
図2に示すように、本実施形態において、ガラス基板11の板厚方向における高さに着目した場合、アンチグレア処理部分20よりも非アンチグレア処理部分30のほうが高く、凸となっている。
本実施形態において、アンチグレア処理部分20と、非アンチグレア処理部分30とのガラス基板11の板厚方向における高さの差hが10μm以上200μm以下である。なお、本明細書において、アンチグレア処理部分20と、非アンチグレア処理部分30とのガラス基板の板厚方向における高さの差hとは、ガラス基板11の第1の主面上に防汚膜12が設けられた状態での両者の高さの差である。高さの差hが10μm未満の場合は、アンチグレア処理部分20と非アンチグレア処理部分30との境界において高さが不十分であり、アンチグレア処理部分20と非アンチグレア処理部分30との接続領域における角度が緩やかとなる。このため、アンチグレアガラス基板10の上面視において境界領域の外観が、その他のアンチグレア処理部分20及び非アンチグレア処理部分30と異なるように見え、汚れのような白曇りが視認されることがある。この白曇りは、アンチグレア処理が短時間であるが故に、アンチグレア処理に使用した薬剤とガラス基板11との反応が不均質となり生じうる。この接続領域に、さらに防汚剤を塗布すると防汚剤と接続領域との反応性の不均質のため、防汚剤の凝集が発生することがある。防汚剤が凝集すると接続領域において防汚剤の疎水基同士が結合してしまい、防汚剤として十分に機能しなくなる恐れがある。加えて、防汚剤が凝集することによる外観の低下も懸念される。高さの差hを10μm以上とすることで上記の問題を回避できる。但し、高さの差hが200μm超だと、指で触った時のさわり心地が悪い、境界が目立つため外観が悪くなる等の問題が生じる。高さの差hは10μm以上100μm以下が好ましい。
【0017】
アンチグレア処理部分20と、非アンチグレア処理部分30とのガラス基板の板厚方向における高さの差hは、例えば、株式会社キーエンス製レーザ顕微鏡VK-Xを使用して求められる。前記レーザ顕微鏡を使用して、アンチグレアガラス基板10のうち、アンチグレア処理部分20と、非アンチグレア処理部分30とを含むように、高さマッピングデータを取得し、このデータについて傾き補正を実施する。この傾き補正後の高さマッピングデータから、非アンチグレア処理部分30の平均高さを求め、続いて、非アンチグレア処理部分30の端面から1mm離れたアンチグレア処理部分20において平均高さを求め、最終的に、これらの平均高さの差分を求め、高さの差hを求められる。なお、高さの差hはこれに限定されず、触針式計測器なども使用できる。実施形態における高さhの算出については以降同様である。
【0018】
また、
図2に示すように、非アンチグレア処理部分30は、ガラス基板11の板厚方向における断面形状は、第1の主面側である底辺に比べて、最表面側である上辺が短い台形形状をなしている。非アンチグレア処理部分30と勾配部位は錐台形状をなしている。勾配部位とはアンチグレア処理部分20と平滑部分(非アンチグレア処理部分30)に挟まれた領域である。この錐台形状の側面とガラス基板11の第1の主面とのなす角度Xは90°<X≦150°が好ましい。これにより防汚剤の凝集を抑制できる。加えて、90°<Xであると指で触れた場合の違和感が少なくさわり心地が良く、X≦150°であると、非アンチグレア処理部分30の周囲の段差が目立ちにくいため好ましい。角度Xは、90°<X≦140°がより好ましく、100°≦X≦140°がより好ましく、120°≦X≦140°がさらに好ましい。角度Xは、実施例において後述するように、アンチグレア処理部分と平滑部分に挟まれた領域を勾配部位と定義し、その長さYを測定してh/Y=tan(X/180×π)となるXを計算することにより算出できる。
【0019】
なお、本実施形態において、ガラス基板11の第1の主面と防汚膜12との間に必要に応じて各種機能膜(図示せず)が設けられていてもよい。その場合は、アンチグレア処理部分20と、非アンチグレア処理部分30とのガラス基板の板厚方向における高さの差hは、ガラス基板11の第1の主面上に各種機能膜と防汚膜12が設けられた状態での両者の高さの差である。
このような機能膜としては、例えば、低反射膜が挙げられる。低反射膜の材料は特に限定されるものではなく、反射を抑制できる材料であれば各種材料を利用できる。例えば低反射膜としては、高屈折率層と低屈折率層とを積層した構成とできる。
高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。
十分な反射防止性能とするためには、低反射膜は複数の膜(層)が積層された積層体が好ましい。例えば該積層体は全体で2層以上6層以下の膜の積層が好ましく、2層以上4層以下の膜の積層がより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体が好ましく、高屈折率層と低屈折率層との層の数の総計が上記範囲であることが好ましい。
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されるものではなく、要求される反射防止の程度や生産性等を考慮して選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸化タンタル(Ta2O5)から選択された1種以上を好ましく利用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)を好ましく利用できる。高屈折率層としては生産性や、屈折率の程度から、特に酸化ニオブを好ましく利用できる。このため、低反射膜は、酸化ニオブ層と酸化ケイ素層との積層体がより好ましい。膜厚としては40nm以上500nm以下が好ましく、100nm以上300nm以下がより好ましい。
【0020】
また、ガラス基板11と防汚膜12との密着性を向上する目的で、ガラス基板11と防汚膜12との間に密着層(図示せず)を挿入してもよい。密着層を挿入する場合、防汚膜12を成膜する前に予めガラス基板11の第1の主面に形成しておけばよい。密着層としては、酸化ケイ素膜が好適に用いられる。膜厚としては2nm以上50nm以下が好ましく、5nm以上20nm以下がより好ましい。
【0021】
非アンチグレア処理部分30は、例えば、本実施形態のアンチグレアガラス基板が携帯用電子機器のカバーガラスに用いられる場合には、カメラの前面に設けられる領域や指紋センサーが設けられる領域、その他のセンサー用の保護部材として用いられる場合には、センシングのための可視光や電波が透過する領域に設けられるものである。そのため、本実施形態では、非アンチグレア処理部分30は表面粗さRaが10nm未満である。これは、カメラ機能、指紋センサー機能等に支障となることがないためである。非アンチグレア処理部分30は表面粗さRaが5nm以下であることが好ましい。非アンチグレア処理部分30の表面粗さRaの下限値は特に制限はないが、0.5nm以上が好ましく、1nm以上がより好ましい。
【0022】
非アンチグレア処理部分30は、例えば、ガラス基板11の第1の主面の表面に凹凸形状を形成する目的で表面処理を施す際に、非アンチグレア処理部分とする部分に保護フィルムを張り付けることで形成できる。貼り付ける保護フィルムは、ポリエチレン系フィルムやアクリル系フィルムにアクリル系の粘着剤を塗布したものなどが使用できる。他に印刷により、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリブチレンテレフタレート、エチレン酢酸ブチル重合体等の樹脂のマスキングを行ってもよい。アンチグレア処理部分20の形成後、これらの保護フィルムやマスキングは剥離する。非アンチグレア処理部分とする部分の、上面視における形状には特に制限はなく、円形、楕円形、三角形、長方形、正方形、台形など、適宜選択できる。非アンチグレア処理部分を所望の形状にするため、非アンチグレア処理部分に貼り付ける保護フィルムは、適宜形状を調整すればよい。非アンチグレア処理部分の大きさは、例えば、円形の場合、1mmφ以上50mmφ以下が好ましく、長方形など多角形の場合、一辺の長さが1mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0023】
アンチグレア処理部分20は、例えば、物理的或いは化学的な処理により、ガラス基板11の第1の主面の表面に凹凸形状を形成できる。具体的には、ガラス基板11の第1の主面にフロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体であるガラス基板11の第1の主面の表面を浸漬し、浸漬面を化学的に表面処理することで実施できる。特に、フッ化水素等の薬液を用いて化学的に表面処理するフロスト処理を施す方法では、被処理面にマイクロクラックが生じ難く、機械的強度の低下が生じ難いため、ガラス基板11の第1の主面の表面に凹凸形状を形成する表面処理方法として好ましく利用できる。
【0024】
また、このような化学的処理による方法以外にも、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス基板11の第1の主面の表面に吹きつけるいわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせたもので磨く等の物理的処理による方法も利用できる。
【0025】
このようにして凹凸を形成した後に、表面形状を整えるために、ガラス基板11の主面の表面を化学的にエッチングすることが一般的に行われている。こうすることで、エッチング量によりヘイズを所望の値に調整でき、サンドブラスト処理等で生じたクラックを除去でき、またギラツキを抑えられる。エッチングは、保護フィルムやマスクを付けたままでもよく、除去した後でもよいが、フロスト処理を行った際のガラスの除去量により、任意に選択できる。
【0026】
エッチングとしては、フッ化水素を主成分とする溶液に、被処理体であるガラス基板を浸漬する方法が好ましく用いられる。フッ化水素以外の成分としては、塩酸・硝酸・クエン酸などを含有してもよい。これらを含有することで、ガラスに入っているアルカリ成分とフッ化水素とが反応して析出反応が局所的に起きることを抑えられ、エッチングを面内均一に進行させられる。
【0027】
防汚膜12はフッ素含有有機ケイ素化合物等を使用できる。本実施形態で用いるフッ素含有有機ケイ素化合物としては、防汚性、撥水性、撥油性を付与するものであれば特に限定されず使用できる。例えば、市販のポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基及びポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物として、KP-801(商品名、信越化学社製)、KY178(商品名、信越化学社製)、KY-130(商品名、信越化学社製)、KY-185(商品名、信越化学社製)、オプツ-ル(登録商標)DSXおよびオプツールAES(いずれも商品名、ダイキン社製)、S-550(旭硝子社製)などが好ましく使用できる。防汚膜12の膜厚は特に限定されないが、1~20nmが好ましく、2~10nmがより好ましい。
【0028】
本実施形態のアンチグレアガラス基板10は、アンチグレア処理部分20と、非アンチグレア処理部分30とのガラス基板11の板厚方向における高さの差hが10μm以上200μm以下であるため、アンチグレア処理部分20と、非アンチグレア処理部分30との境界において防汚剤が凝集することがなく、良好な防汚効果が得られる。また段差部に生じる色むらが目立つことがないため好ましい。
【0029】
本実施形態において、例えば、ガラス基板11としては、用途に応じて、種々の形状、材料からなるものを使用できる。
形状としては、平坦部と屈曲部との両方を有する板であってもよく、板に限らずフィルム状であってもよい。
ガラス基板11は、透明であればよく、視認性の確保等の機能を損なわない限り、色を付与した基材でよい。
【0030】
ガラス基板11として、無機ガラスを用いる場合、その板厚は0.5mm以上5mm以下が好ましい。この下限値以上の板厚を備えたガラスであれば、高い強度と良好な質感を兼ね備えたアンチグレアガラス基板10を得られる利点がある。その板厚は、0.7mm以上3mm以下がより好ましく、1mm以上3mm以下がさらに好ましい。ガラス基板11の板厚は、均一でも不均一でもよい。厚さが不均一の場合、例えば、板厚方向断面視で台形や三角形、C字形状、S字形状といった形状でよく、特に制限はない。
【0031】
ガラス基板11およびアンチグレアガラス基板10のガラス組成の具体例としては、酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiO2を50~80%、Al2O3を0.1~25%、Li2O+Na2O+K2Oを3~30%、MgOを0~25%、CaOを0~25%およびZrO2を0~5%含むガラスが挙げられるが、特に限定されない。より具体的には、以下のガラスの組成が挙げられる。なお、例えば、「MgOを0~25%含む」とは、MgOは必須ではないが25%まで含んでもよい、の意である。
(i)酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiO2を63~73%、Al2O3を0.1~5.2%、Na2Oを10~16%、K2Oを0~1.5%、Li2Oを0~5%、MgOを5~13%及びCaOを4~10%を含むガラス。
(ii)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を50~74%、Al2O3を1~10%、Na2Oを6~14%、K2Oを3~11%、Li2Oを0~5%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrO2を0~5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス。
(iii)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を68~80%、Al2O3を4~10%、Na2Oを5~15%、K2Oを0~1%、Li2Oを0~5%、MgOを4~15%およびZrO2を0~1%含有するガラス。
(iv)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を67~75%、Al2O3を0~4%、Na2Oを7~15%、K2Oを1~9%、Li2Oを0~5%、MgOを6~14%およびZrO2を0~1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71~75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
(v)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を50~80%、Al2O3を2~25%、Li2Oを0~10%、Na2Oを0~18%、K2Oを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%およびZrO2を0~5%を含むガラス。
(vi)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を50~74%、Al2O3を1~10%、Na2Oを6~14%、K2Oを3~11%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrO2を0~5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス。
(vii)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を68~80%、Al2O3を4~10%、Na2Oを5~15%、K2Oを0~1%、MgOを4~15%およびZrO2を0~1%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が80%以下であるガラス。
(viii)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を67~75%、Al2O3を0~4%、Na2Oを7~15%、K2Oを1~9%、MgOを6~14%、CaOを0~1%およびZrO2を0~1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71~75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12~20%であるガラス。
(ix)酸化物基準のモル%で表示した組成が、SiO2を60~75%、Al2O3を0.5~8%、Na2Oを10~18%、K2Oを0~5%、MgOを6~15%、CaOを0~8%含むガラス。
(x)酸化物基準の質量%で表示した組成が、SiO2を63~75%、Al2O3を3~12%、MgOを3~10%、CaOを0.5~10%、SrOを0~3%、BaOを0~3%、Na2Oを10~18%、K2Oを0~8%、ZrO2を0~3%、Fe2O3を0.005~0.25%含有し、R2O/Al2O3(式中、R2OはNa2O+K2Oである)が2.0以上4.6以下であるガラス。
(xi)酸化物基準の質量%で表示した組成が、SiO2を66~75%、Al2O3を0~3%、MgOを1~9%、CaOを1~12%、Na2Oを10~16%、K2Oを0~5%含有するガラス。
【0032】
さらに、ガラスに着色を行い使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色剤を添加してもよい。例えば、可視域に吸収を持つ、Co、Mn、Fe、Ni、Cu、Cr、V、Bi、Se、Ti、Ce、Er、およびNdの金属酸化物である、Co3O4、MnO、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cu2O、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、TiO2、CeO2、Er2O3、Nd2O3等が挙げられる。
【0033】
また、ガラスとして着色ガラスを用いる場合、ガラス中に、酸化物基準のモル百分率表示で、着色成分(Co、Mn、Fe、Ni、Cu、Cr、V、Bi、Se、Ti、Ce、Er、およびNdの金属酸化物からなる群より選択される少なくとも1成分)を7%以下の範囲で含有してもよい。着色成分が7%を超えると、ガラスが失透しやすくなる。この含量は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。また、ガラス基材は、溶融の際の清澄剤として、SO3、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。
【0034】
ガラス基板11は、化学強化処理、物理強化処理のいずれを行ってもよいし、いずれも行わなくてもよいが、化学強化処理を行うことが好ましい。上述のような比較的、薄い無機ガラスを強化処理する場合、所望の強度を付与しやすいため化学強化処理された化学強化ガラスとすることが好ましい。ガラス基板11に化学強化処理をする場合は、アルミノシリケートガラスが好ましい。
【0035】
化学強化処理は、ガラスの表面にイオン交換処理を施し、圧縮応力を有する表面層を形成させる処理である。具体的には、化学強化用ガラスのガラス転移点以下の温度でイオン交換処理を行い、ガラス板表面付近に存在するイオン半径が小さな金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)を、イオン半径のより大きいイオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。
【0036】
[第2の実施形態]
本実施形態のアンチグレアガラス基板について
図3を用いて説明する。
図3は本実施形態のアンチグレアガラス基板を模式的に表した斜視図である。
図3に示すアンチグレアガラス基板40は、ガラス基板41の第1の主面にアンチグレア処理が施された構成である。
図3に示すガラス基板41において、上面が第1の主面、第1の主面に対向する下面が第2の主面である。本実施形態のアンチグレアガラス基板40では、ガラス基板41の第1の主面の表面にアンチグレア処理が施されたアンチグレア処理部分50と、ガラス基板41の第1の主面の表面にアンチグレア処理が施されていない非アンチグレア処理部分60とを備えている。本実施形態では、ガラス基板41の第1の主面上にアンチグレア膜42を設けることにより、アンチグレア処理部分50を形成する点で前記した第1の実施形態と異なる。本実施形態では、ガラス基板41の第1の主面上にアンチグレア膜42を設けなかった部分が非アンチグレア処理部分60となる。
【0037】
本実施形態におけるアンチグレア膜42は、表面に凹凸形状が形成された有機材料膜および無機材料膜を広く含む。アンチグレア膜42は、ガラス基板41の第1の主面の表面との密着性が良好であることが好ましい。また、アンチグレアガラス基板40の反射防止機能を向上するため、ガラス基板41よりも低屈折率であることが好ましい。
【0038】
本実施形態において、ガラス基板41の第1の主面上には防汚膜43が設けられている。なお、アンチグレアガラス基板40のアンチグレア処理部分50では、ガラス基板41の第1の主面上に設けられたアンチグレア膜42上に防汚膜43が設けられている。アンチグレアガラス基板40の非アンチグレア処理部分60では、ガラス基板41の第1の主面上に防汚膜43が直接設けられている。
【0039】
本実施形態のアンチグレアガラス基板40において、アンチグレア処理部分50は、ガラス基板41の第1の主面上にアンチグレア膜42を設けることにより、非アンチグレア処理部分60よりもヘイズ率が高くなっている。アンチグレア処理部分50のヘイズ率は、例えば0.5%~70%である。一方、非アンチグレア処理部分60のヘイズ率は、例えば0.5%未満である。
【0040】
図4は
図3におけるB-B´面を所定の方向から見た断面図である。本実施形態において、ガラス基板41の板厚方向における高さに着目した場合、アンチグレア処理部分50よりも非アンチグレア処理部分60のほうが低く、凹となっている。
本実施形態において、アンチグレア処理部分50と、非アンチグレア処理部分60とのガラス基板41の板厚方向における高さの差hが10μm以上200μm以下である。なお、本明細書において、アンチグレア処理部分50と、非アンチグレア処理部分60とのガラス基板の板厚方向における高さの差hとは、ガラス基板41の第1の主面上に防汚膜43が設けられた状態での両者の高さの差である。高さの差hが10μm未満の場合は、アンチグレア処理部分50と非アンチグレア処理部分60との境界において高さが不十分であり、アンチグレア処理部分50と非アンチグレア処理部分60との接続領域における角度が緩やかとなる。このため、アンチグレアガラス基板40の上面視において境界領域の外観が、その他のアンチグレア処理部分50及び非アンチグレア処理部分60と異なるように見え、汚れのような白曇りが視認されることがある。この白曇りは、アンチグレア処理が短時間であるが故に、アンチグレア処理に使用した薬剤とガラス基板41との反応が不均質となっている可能性がある。この接続領域に、さらに防汚剤を塗布すると防汚剤と接続領域との反応性の不均質のため、防汚剤の凝集が発生することがある。防汚剤が凝集すると接続領域において防汚剤の疎水基同士が結合してしまい、防汚剤として十分に機能しなくなる恐れがある。加えて、防汚剤が凝集することによる外観の低下も懸念される。高さの差hを10μm以上とすることで上記の問題を回避できる。但し、高さの差hが200μm超だと、指で触った時のさわり心地が悪い、境界が目立つため外観が悪くなる等の問題が生じる。高さの差hは10μm以上100μm以下が好ましい。
【0041】
また、
図4に示すように、非アンチグレア処理部分60は、ガラス基板41の板厚方向における断面形状は、ガラス基板41の第1の主面側の底辺に比べて、最表面側である上辺が長い逆台形形状をなしている。非アンチグレア処理部分60と勾配部位は逆錐台形状をなしている。この逆錐台形状の側面とガラス基板41の第1の主面とのなす角度Xは90°<X≦150°が好ましく、90°<X≦140°がより好ましい。これにより防汚剤の凝集を抑制できる。加えて、90°<Xであると指で触れた場合の違和感が少なくさわり心地が良く、X≦150°であると、非アンチグレア処理部分60の周囲の段差が目立ちにくいため好ましい。
【0042】
なお、本実施形態において、ガラス基板41の第1の主面と防汚膜43との間に必要に応じて各種機能膜(図示せず)が設けられていてもよい。アンチグレア処理部分50では、ガラス基板41の第1の主面上にアンチグレア膜42が設けられているが、各種機能膜はアンチグレア膜42上に設けられていてもよく、ガラス基板41の第1の主面とアンチグレア膜42との間に設けられていてもよい。各種機能膜を設ける場合は、アンチグレア処理部分50と、非アンチグレア処理部分60とのガラス基板41の板厚方向における高さの差hは、ガラス基板41の第1の主面上に、アンチグレア膜42、各種機能膜、および防汚膜43が設けられた状態での両者の高さの差である。
このような機能膜としては、例えば、低反射膜が挙げられる。低反射膜の材料は特に限定されるものではなく、反射を抑制できる材料であれば各種材料を利用できる。例えば低反射膜としては、高屈折率層と低屈折率層とを積層した構成とできる。
高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態であることが好ましい。
十分な反射防止性能とするためには、低反射膜は複数の膜(層)が積層された積層体が好ましい。例えば該積層体は全体で2層以上6層以下の膜の積層が好ましく、2層以上4層以下の膜の積層がより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体が好ましく、高屈折率層と低屈折率層との層の数の総計が上記範囲であることが好ましい。
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されるものではなく、要求される反射防止の程度や生産性等を考慮して選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸化タンタル(Ta2O5)から選択された1種以上を好ましく利用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)を好ましく利用できる。
高屈折率層としては生産性や、屈折率の程度から、特に酸化ニオブを好ましく利用できる。このため、低反射膜は、酸化ニオブ層と酸化ケイ素層との積層体がより好ましい。膜厚としては40nm以上500nm以下が好ましく、100nm以上300nm以下がより好ましい。
【0043】
非アンチグレア処理部分60は、例えば、本実施形態のアンチグレアガラス基板が携帯用電子機器のカバーガラスに用いられる場合には、カメラの前面に設けられる領域や指紋センサーが設けられる領域、その他のセンサー用の保護部材として用いられる場合には、センシングのための可視光や電波が透過する領域に設けられるものである。そのため、本実施形態では、非アンチグレア処理部分60は表面粗さRaが10nm未満である。これは、カメラ機能、指紋センサー機能等に支障となることがないためである。非アンチグレア処理部分60は表面粗さRaが5nm以下であることが好ましい。
【0044】
非アンチグレア処理部分60は、例えば、ガラス基板41の第1の主面にアンチグレア膜42を設ける際に、非アンチグレア処理部分60とする部分に保護フィルムを張り付けることで形成できる。貼り付ける保護フィルムはポリエチレン系、アクリル系フィルムにアクリル系の粘着剤を塗布したものなどが使用できる。他に印刷により、樹脂のマスキングを行ってもよい。非アンチグレア処理部分とする部分の、上面視における形状には特に制限はなく、円形、楕円形、三角形、長方形、正方形、台形など、適宜選択できる。非アンチグレア処理部分を所望の形状にするため、非アンチグレア処理部分に貼り付ける保護フィルムは、適宜形状を調整すればよい。非アンチグレア処理部分の大きさは、例えば、円形の場合、1mmφ以上50mmφ以下が好ましく、長方形など多角形の場合、一辺の長さが1mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0045】
アンチグレア処理部分50は、例えば、コーティングによってガラス基板41の第1の主面上にアンチグレア膜42を形成できる。アンチグレア膜42の屈折率は、アンチグレア膜42のマトリクスの材質、アンチグレア膜42の空隙率、マトリクス中への任意の屈折率を有する物質の添加等によって調整できる。例えば、アンチグレア膜42の空隙率を高くすることにより屈折率を低くできる。また、マトリクス中に屈折率の低い物質(中実シリカ粒子、中空シリカ粒子等)を添加することで、アンチグレア膜42の屈折率を低くできる。
【0046】
アンチグレア膜42は、シリカを主成分とすることが好ましいがそれに限らない。シリカを主成分とすれば、アンチグレア膜42の屈折率(反射率)が低くなりやすい。また、アンチグレア膜42の化学的安定性等も良好である。また、ガラス基板との密着性が良好である。本明細書中において、シリカを主成分とするとは、SiO2を50質量%以上含むことを意味するが、90質量%以上含むことが好ましい。
【0047】
シリカを主成分とする場合、アンチグレア膜42は、シリカのみから構成されてもよく、シリカ以外の成分を少量含んでもよい。その成分としては、Li、B、C、N、F、Na、Mg、Al、P、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co,Ni、Cu、Zn、Ga、Sr、Y、Zr、Nb、Ru、Pd、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pt、Au、Biおよびランタノイド元素より選ばれる1つもしくは複数のイオンおよびまたは酸化物等の化合物が挙げられる。
【0048】
シリカを主成分とするアンチグレア膜42としては、シリカ前駆体を含む塗布組成物から形成されるものや粒子としてシリカ粒子を含む塗布組成物から形成されるもの、その他シリカを主成分としない樹脂膜等により形成されたものが挙げられる。
【0049】
また、本実施形態において、アンチグレア膜42を設けた後に非アンチグレア処理部分60を形成してもよい。具体的には、レーザ処理、円柱の研磨砥石による研磨、またはアンチグレア処理部分50とする部分をマスキングした状態で、バフまたはブラシなどによる研磨を行い、アンチグレア膜42を除去することにより、非アンチグレア処理部分60を形成できる。但し、非アンチグレア処理部分60の表面粗さRaが大きいと、カメラ機能、指紋センサー機能等が十分に得られなくなる点に留意する必要がある。
【0050】
防汚膜43はフッ素含有有機ケイ素化合物等を使用できる。本実施形態で用いるフッ素含有有機ケイ素化合物としては、防汚性、撥水性、撥油性を付与するものであれば特に限定されず使用できる。例えば、市販のポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基及びポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物として、KP-801(商品名、信越化学社製)、KY178(商品名、信越化学社製)、KY-130(商品名、信越化学社製)、KY-185(商品名、信越化学社製)、オプツ-ル(登録商標)DSXおよびオプツールAES(いずれも商品名、ダイキン社製)、S-550(AGC製)などが好ましく使用できる。防汚膜43の膜厚は特に限定されないが、1~20nmが好ましく、2~10nmがより好ましい。
【0051】
本実施形態のアンチグレアガラス基板40は、アンチグレア処理部分50と、非アンチグレア処理部分60とのガラス基板41の板厚方向における高さの差hが10μm以上200μm以下であるため、アンチグレア処理部分50と、非アンチグレア処理部分60との境界において防汚剤が凝集することがなく、良好な防汚効果が得られる。また段差部に生じる色むらが目立つことがないため好ましい。
またガラス基板41としては、上述と同様のガラス基板が使用できる。
【0052】
[第3の実施形態]
本実施形態のアンチグレアガラス基板について
図5を用いて説明する。
図5は本実施形態のアンチグレアガラス基板を模式的に表した斜視図である。
図5に示すアンチグレアガラス基板70は、ガラス基板71の第1の主面にアンチグレア処理が施された構成である。
図5に示すガラス基板71において、上面が第1の主面、第1の主面に対向する下面が第2の主面である。本実施形態のアンチグレアガラス基板70では、ガラス基板71の第1の主面の表面にアンチグレア処理が施されたアンチグレア処理部分80と、ガラス基板71の第1の主面の表面にアンチグレア処理が施されていない非アンチグレア処理部分90とを備えている。また、ガラス基板71の第1の主面上には防汚膜73が設けられている。
本実施形態において、アンチグレア処理部分80、および非アンチグレア処理部分90の形成手順は特に限定されないが、例えば、以下の手順で形成できる。ガラス基板71の第1の主面全体に表面処理を施して、凹凸形状を形成する。この状態では、ガラス基板71の第1の主面全体がアンチグレア処理部分となる。この状態から、非アンチグレア処理部分となる部位に対し研磨処理を施す、具体的には、レーザ処理、円柱の研磨砥石による研磨、またはアンチグレア処理部分とする部分をマスキングした状態で、バフまたはブラシなどによる研磨を行うことで、非アンチグレア処理部分を形成できる。但し、非アンチグレア処理部分の表面粗さRaが大きいと、カメラ機能、指紋センサー機能等が十分に得られなくなる点に留意する必要がある。
【0053】
本実施形態のアンチグレアガラス基板70において、アンチグレア処理部分80は、非アンチグレア処理部分90よりもヘイズ率が高くなっている。アンチグレア処理部分80のヘイズ率は、例えば0.5%~70%である。一方、非アンチグレア処理部分90のヘイズ率は、例えば0.5%未満である。
【0054】
図6は
図5におけるC-C´面を所定の方向から見た断面図である。本実施形態において、ガラス基板71の板厚方向における高さに着目した場合、アンチグレア処理部分80よりも非アンチグレア処理部分90のほうが低く、凹となっている。
本実施形態において、アンチグレア処理部分80と、非アンチグレア処理部分90とのガラス基板71の板厚方向における高さの差hが10μm以上200μm以下である。なお、本明細書において、アンチグレア処理部分80と、非アンチグレア処理部分90とのガラス基板の板厚方向における高さの差hとは、ガラス基板71の第1の主面上に防汚膜73が設けられた状態での両者の高さの差である。高さの差hが10μm未満の場合は、アンチグレア処理部分80と非アンチグレア処理部分90との境界において高さが不十分であり、アンチグレア処理部分80と非アンチグレア処理部分90との接続領域における角度が緩やかとなる。このため、アンチグレアガラス基板70の上面視において境界領域の外観が、その他のアンチグレア処理部分80及び非アンチグレア処理部分90と異なるように見え、汚れのような白曇りが視認されることがある。この白曇りは、アンチグレア処理が短時間であるが故に、アンチグレア処理に使用した薬剤とガラス基板71との反応が不均質となっている可能性がある。この接続領域に、さらに防汚剤を塗布すると防汚剤と接続領域との反応性の不均質のため、防汚剤の凝集が発生することがある。防汚剤が凝集すると接続領域において防汚剤の疎水基同士が結合してしまい、防汚剤として十分に機能しなくなる恐れがある。加えて、防汚剤が凝集することによる外観の低下も懸念される。高さの差hを10μm以上とすることで上記の問題を回避できる。但し、高さの差hが200μm超だと、指で触った時のさわり心地が悪い、境界が目立つため外観が悪くなる等の問題が生じる。高さの差hは10μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0055】
また、
図6に示すように、非アンチグレア処理部分90は、ガラス基板71の板厚方向における断面形状は、ガラス基板71の第1の主面側に形成された凹部であって、第1の主面の高さより低い底辺に比べて、ガラス基板71の第1の主面と同じ高さである上辺が長い逆台形形状をなしている。非アンチグレア処理部分90と勾配部位は逆錐台形状をなしている。この逆錐台形状の側面とガラス基板71の第1の主面とのなす角度Xは90°<X≦150°が好ましく、90°<X≦140°がより好ましい。これにより防汚剤が凝集することを抑制できる。加えて、90°<Xであると指で触れた場合の違和感が少なくさわり心地が良く、X≦150°であると、非アンチグレア処理部分90の周囲の段差が目立ちにくいため好ましい。
【0056】
なお、本実施形態において、ガラス基板71の第1の主面と防汚膜73との間に必要に応じて各種機能膜(図示せず)が設けられていてもよい。各種機能膜を設ける場合は、アンチグレア処理部分80と、非アンチグレア処理部分90とのガラス基板71の板厚方向における高さの差hは、ガラス基板71の第1の主面上に、各種機能膜、および防汚膜73が設けられた状態での両者の高さの差である。
このような機能膜としては、たとえば、低反射膜が挙げられる。低反射膜の材料は特に限定されるものではなく、反射を抑制できる材料であれば各種材料を利用できる。例えば低反射膜としては、高屈折率層と低屈折率層とを積層した構成とできる。
高屈折率層と低屈折率層とは、それぞれ1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれ2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層とをそれぞれ2層以上含む場合には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した形態が好ましい。
十分な反射防止性能とするためには、低反射膜は複数の膜(層)が積層された積層体が好ましい。例えば該積層体は全体で2層以上6層以下の膜の積層が好ましく、2層以上4層以下の膜の積層がより好ましい。ここでの積層体は、上記の様に高屈折率層と低屈折率層とを積層した積層体が好ましく、高屈折率層と低屈折率層との層の数の総計が上記範囲であることが好ましい。
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されるものではなく、要求される反射防止の程度や生産性等を考慮して選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸化タンタル(Ta2O5)から選択された1種以上を好ましく利用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO2)を好ましく利用できる。
高屈折率層としては生産性や、屈折率の程度から、特に酸化ニオブを好ましく利用できる。このため、低反射膜は、酸化ニオブ層と酸化ケイ素層との積層体がより好ましい。膜厚としては40nm以上500nm以下が好ましく、100nm以上300nm以下がより好ましい。
【0057】
非アンチグレア処理部分90は、例えば、本実施形態のアンチグレアガラス基板が携帯用電子機器のカバーガラスに用いられる場合には、カメラの前面に設けられる領域や指紋センサーが設けられる領域、その他のセンサー用の保護部材として用いられる場合には、センシングのための可視光や電波が透過する領域に設けられるものである。そのため、本実施形態では、非アンチグレア処理部分90は表面粗さRaが10nm未満である。これは、カメラ機能、指紋センサー機能等に支障となることがないためである。非アンチグレア処理部分90は表面粗さRaが5nm以下であることが好ましい。
【0058】
防汚膜73はフッ素含有有機ケイ素化合物等を使用できる。本実施形態で用いるフッ素含有有機ケイ素化合物としては、防汚性、撥水性、撥油性を付与するものであれば特に限定されず使用できる。例えば、市販のポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基及びポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物として、KP-801(商品名、信越化学社製)、KY178(商品名、信越化学社製)、KY-130(商品名、信越化学社製)、KY-185(商品名、信越化学社製)、オプツ-ル(登録商標)DSXおよびオプツールAES(いずれも商品名、ダイキン社製)、S-550(AGC製)などが好ましく使用できる。防汚膜73の膜厚は特に限定されないが、1~20nmが好ましく、2~10nmがより好ましい。
【0059】
本実施形態のアンチグレアガラス基板70は、アンチグレア処理部分80と、非アンチグレア処理部分90とのガラス基板71の板厚方向における高さの差hが10μm以上200μm以下であるため、アンチグレア処理部分80と、非アンチグレア処理部分90との境界において防汚剤が凝集することがなく、良好な防汚効果が得られる。また段差部に生じる色むらが目立つことがないため好ましい。
またガラス基板71としては、上述と同様のガラス基板が使用できる。
【0060】
(実施例)
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例1~4、6、7、13、14は実施例、例5、8~12、15~17は比較例である。
【0061】
(1)試料作製
[例1]
以下の手順により、アンチグレアガラスサンプル1を製造した。
本例ではガラス基板に未強化の化学強化用ガラス(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標)サイズ:300mm×300mm、厚さ1.3mm。)を用いた。
【0062】
まず、耐酸性の保護フィルムを、ガラス基板のアンチグレア処理部分を形成しない側の主面(第2の主面)に貼合した。またガラス基板の主面のうち、アンチグレア処理部分を形成する側の主面(第1の主面)のほぼ中央部にφ20mmに切り出した耐酸性の保護フィルムをマスクとして貼った。
【0063】
次いで、このガラス基板を、3重量%のフッ化水素溶液に3分浸漬し、ガラス基板の第1の主面のうち、マスクを形成していない領域に付着した汚れを除去するとともに、前加工としてガラス基板の厚みを10μm除去した。さらに、ガラス基板を8重量%フッ化水素と8重量%フッ化カリウムとの混合溶液に3分間浸漬し、ガラス基板の第1の主面のうち、マスクを形成していない領域に対してフロスト処理を行った。フロスト処理後のガラス基板を、10重量%フッ化水素溶液に3分間浸漬(エッチング時間3分)してエッチング処理することで、ヘイズ率を15%に調整した。なお、ガラス基板の第1の主面のうち、φ20mmのマスクを貼った中央部が平滑部分、それ以外の部分がアンチグレア処理部分となる。以上より、未強化アンチグレアガラス基板を得た。
【0064】
その後、得られた未強化アンチグレアガラス基板の保護フィルム及びマスクを剥がし、化学強化処理を行った。450℃に加熱・溶解させた硝酸カリウム塩にエッチング処理後の未強化アンチグレアガラス基板を1時間浸漬した後、ガラス基板を溶融塩より引き上げ、室温まで1時間で徐冷することで化学強化されたアンチグレアガラス基板を得た。
【0065】
続いて、化学強化されたアンチグレアガラス基板の第1の主面に、低反射膜を形成した。低反射膜は、アンチグレアガラス基板の第1の主面に以下のように形成した。まず、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、酸化ニオブターゲット(AGCセラミックス社製、商品名NBOターゲット)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、ガラス基板の第1の主面上に、厚さ13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。
【0066】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に厚さ30nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
【0067】
次いでアルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、酸化ニオブターゲット(AGCセラミックス社製、商品名NBOターゲット)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記低屈折率層上に厚さ110nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。
【0068】
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、厚さ90nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)と酸化ケイ素(シリカ)が総計4層の低反射膜を、化学強化されたアンチグレアガラス基板上に形成した。
【0069】
引き続き、防汚膜形成処理を行った。まず、フッ素含有有機ケイ素化合物被膜(防汚膜)材料(信越化学社製、商品名:KY-185)を加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行って、フッ素含有有機ケイ素化合物被膜形成用組成物とした。
【0070】
次いで、上記フッ素含有有機ケイ素化合物被膜形成用組成物が入った加熱容器を270℃まで加熱した。270℃に到達した後、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。そして、真空チャンバ内に設置した上記低反射膜が積層された化学強化されたアンチグレアガラス基板の、低反射膜に対して、前記フッ素含有有機ケイ素化合物被膜形成用組成物が入った加熱容器と接続されたノズルから、フッ素含有有機ケイ素化合物被膜形成用組成物を供給し、成膜を行った。
【0071】
成膜の際には、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、化学強化されたアンチグレアガラス基板の低反射膜上に形成したフッ素含有有機ケイ素化合物膜の膜厚が10nmになるまで成膜を行った。フッ素含有有機ケイ素化合物膜の膜厚が10nmになった時点でノズルから原料の供給を停止し、その後真空チャンバから製造されたアンチグレアガラスサンプル1を取り出した。取り出されたアンチグレアガラスサンプル1は、ホットプレートに膜面を上向きにして設置し、大気中で150℃、60分間熱処理を行った。
【0072】
[例2]
前加工でガラス基板の厚みを80μm除去し、例1と同じヘイズ率となるよう、エッチング処理におけるエッチング条件を調整した以外は、例1と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル2を作製した。
【0073】
[例3]
前加工でガラス基板の厚みを15μm除去し、マスクを剥がさず保護フィルムを剥離した状態でフロスト処理後、マスクを剥がし、フッ化水素溶液でエッチング処理を行った以外は、例1と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル3を作製した。
【0074】
[例4]
前加工を実施せずに例1と同じヘイズ率となるよう、エッチング処理におけるエッチング条件を調整した以外は、例1と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル4を作製した。
【0075】
[例5]
前加工でガラス基板の厚みを5μm除去し、例3と同じヘイズ率となるよう、エッチング処理におけるエッチング条件を調整した以外は、例3と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル5を作製した。
【0076】
[例6]
ヘイズ率を25%に調整した以外は、例1と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル6を作製した。
【0077】
[例7]
前加工でガラス基板の厚みを15μm除去し、フロスト処理後、マスクを剥がし、フッ化水素溶液でエッチング処理を行った以外は、例6と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル7を作製した。
【0078】
[例8]
前加工でガラス基板の厚みを5μm除去し、例7と同じヘイズ率となるよう、エッチング処理におけるエッチング条件を調整した以外は、例7と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル8を作製した。
【0079】
[例9]
例1と同様に、ガラス基板に(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標)サイズ:300mm×300mm、厚さ1.3mm。)を用いた。ガラス基板のアンチグレア処理部分を形成しない側の主面(第2の主面)に、耐酸性の保護フィルムを貼合した。次いで、このガラス基板を、3重量%のフッ化水素溶液に浸漬し、ガラス基板表面に付着した汚れを除去した。さらに、ガラス基板を15重量%フッ化水素と15重量%フッ化カリウムとの混合溶液に3分間浸漬し、ガラス基板の保護フィルムを貼合していない側の主面(第1の主面)に対してフロスト処理を行った。上記フロスト処理後のガラス基板を、10重量%フッ化水素溶液に4分間浸漬(エッチング時間4分)してエッチング処理することで、ヘイズ率を15%に調整した。その後、エッチング処理後の面のほぼ中央部を、φ5mmの円柱形状の研磨砥石、ヌープ硬度が3000の酸化セリウムの研磨砥粒を用いて研磨を行ない、φ20mmの範囲を15μmの深さでエッチング処理後の面の除去を行った。その後、例1と同様に化学強化、低反射膜形成処理、防汚膜形成処理を行った。なお、エッチング処理後の主面(第1の主面)のうち、研磨によりエッチング処理した面を除去した中央部(ガラス除去部)が平滑部分、それ以外の部分がアンチグレア処理部分となる。以上より、アンチグレアガラスサンプル9を得た。
【0080】
[例10]
研磨による除去量を600μmの深さとした以外は、例9と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル10を作製した。
【0081】
[例11]
研磨による除去量を5μmの深さ、ガラス除去部の底面と側面の角度が160°になるような研磨砥石を用いた以外は、例9と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル11を作製した。
【0082】
[例12]
例9と同様の方法でエッチング処理まで行った。その後、エッチング処理を施した面(第1の主面)のほぼ中央部のφ20mmの範囲を除き、保護フィルムを貼り、#10000のセラミック砥粒を用いてテープで研磨を行い10μmの深さでエッチング処理を施した面の除去を行った。その後例1と同様に化学強化、低反射膜形成処理、防汚膜形成処理を行った。なお、エッチング処理後の主面のうち、保護フィルムを貼らなかったφ20mmの中央部が非アンチグレア処理部分、それ以外の部分がアンチグレア処理部分となる。以上より、アンチグレアガラスサンプル12を得た。
【0083】
[例13]
例1と同様の方法で予め化学強化したガラス基板(旭硝子株式会社製、商品名:ドラゴントレイル(登録商標)サイズ:300mm×300mm、厚さ1.3mm。)を用いた。ガラス基板のアンチグレア処理部分を形成する側の主面(第1の主面)のほぼ中央部にφ20mmに切り出した耐酸性のマスクを貼った。ついで、該ガラス基板の表面を炭酸水素ナトリウム水で洗浄した後、イオン交換水でリンスし、乾燥させた。次に、ガラス基板を表面温度が80℃になるようにオーブンで加熱し、中空シリカ微粒子分散液をスプレイ法にて、スプレイ圧力:0.4MPa、塗布液量:7mL/分、ノズル移動速度:750mm/分、スプレーピッチ:22mm、ノズル先端とガラス基板との距離:115mm、液滴径:6.59μmでガラス基板上に膜厚が10μmとなるように塗布し、ヘイズ率が10%のアンチグレア膜を形成した。その後、マスクを除去し、例1と同様の方法で低反射膜形成処理、防汚膜形成処理を行った。なお、アンチグレア膜を形成した側の主面のうち、マスクを貼ったφ20mmの中央部が平滑部分、それ以外の部分がアンチグレア処理部分となる。以上より、アンチグレアガラスサンプル13を得た。
【0084】
[例14]
アンチグレア膜の膜厚を50μmにして、ヘイズ率を8%とした以外は例13と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル14を作製した。
【0085】
[例15]
アンチグレア膜の膜厚を5μmにして、ヘイズ率を12%とした以外は例13と同様の条件でアンチグレアガラスサンプル15を作製した。
【0086】
[例16]
マスクを貼らず例13の方法と同様にアンチグレア膜の形成、低反射膜形成処理および防汚膜形成処理を行った。その後、例9と同様の方法で研磨を行い、アンチグレアガラスサンプル16を作製した。
【0087】
[例17]
例16と同様の方法でアンチグレア処理、低反射膜形成処理および防汚膜形成処理を行った。その後、例12と同様の方法で研磨を行い、アンチグレアガラスサンプル17を作製した。
【0088】
(2)評価方法
以下の例1~例17において得られたアンチグレアガラス基板の特性評価方法について以下に説明する。
【0089】
(表面形状の測定)
例1~例17で作製した防汚膜成膜後の試料の平滑部分の表面形状について、レーザ顕微鏡(キーエンス社製、商品名:VK-9700)を用いて、1000倍の倍率で平面プロファイルを測定した。そして、得られた平面プロファイルから、JIS B 0601(2001)に基づいて表面粗さRa、RMSの値を算出した。平滑部分のうち、Ra<10nmとなる部分を非アンチグレア処理部分と定義した。なお、アンチグレアガラスサンプル9~12、16、17は、平滑部分のRaは10nm未満とならず、非アンチグレア処理部分は得られなかった。
また、平滑部分の端点より2mm離れた領域をアンチグレア処理部分の代表部位とし、平滑部分との高低差(高さの差h)を得た。次に、アンチグレア処理部分の代表部位のRSmの二倍相当の領域にグリット状に区切ってRzを測定視野全体に対して算出し、アンチグレア処理部分の代表部位と同等のRzを有する領域をアンチグレア処理部位と定義した。アンチグレア処理部分と平滑部分に挟まれた領域を勾配部位と定義し、その長さYを測定した。そして、h/Y=tan(X/180×π)となるXを計算し、角度Xと定義した。
【0090】
(ヘイズ率)
例1~例17で製作した防汚膜成膜後の試料のアンチグレア処理部分における透過へイズ率の測定を行った。ヘイズ率の測定は、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製、型式:HZ-V3)を用いて行った。
【0091】
(透過率測定)
例1~例17で製作した防汚膜成膜後の試料の平滑部分における透過率の測定を行った。透過率の測定は島津製作所製紫外可視分光光度計SolidSpec-3700で実施した。
【0092】
(指紋拭取りテスト)
アンチグレア処理部分の防汚膜について以下の手順により指紋拭き取り性の確認を行った。各試料の段差部に同等の押しつけ力で、人口汗使用して指紋を付けた。その後、エタノールを付けたガーゼを用い、指紋が消えるまでの拭き取り回数を確認する拭き取り試験を実施した。10回以内で指紋拭き取れた場合を○とし、11回~50回の拭き取りで取れたものを△とし、50回拭き取りを実施しても取れなかった場合は×とした。
【0093】
(触り心地)
アンチグレア処理部分と平滑部分との境界付近について触り心地の評価を行った。10人による、1:とても良い、2:良い、3:問題ない、4:悪い、5:非常に悪い、の5段階評価の平均値で評価した。
【0094】
例1~17の評価結果を下記表に示す。
【0095】
【0096】
【0097】
表1および表2から分かるように、アンチグレア処理部分と平滑部分(非アンチグレア処理部分)との高低差が10μm未満である場合、同条件で拭き取り試験を行った場合、10回の拭き取りでは指紋を拭取りきることができず、特にアンチグレア処理部分と平滑部分(非アンチグレア処理部分)との接続領域付近で優れた防汚性能が得られていないことが確認できた。また、アンチグレア処理部分と平滑部分(非アンチグレア処理部分)との高低差が10μm未満であるアンチグレアガラスサンプルの接続領域は、汚れのような白曇りが確認された。一方で、角度Xが150°超であった場合では、通常よりは劣るが、防汚性能が得られていることがわかった。
【0098】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2017年3月23日出願の日本特許出願2017-057280に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0099】
10,40,70 アンチグレアガラス基板
11,41,71 ガラス基板
12,43,73 防汚膜
20,50,80 アンチグレア処理部分
30,60,90 非アンチグレア処理部分
42 アンチグレア膜