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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】液体浸透方法、及び液体浸透装置
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20230208BHJP
   B27K 3/02 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B27K5/00 F
B27K3/02 A
B27K3/02 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019088451
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2020183077
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡一
(72)【発明者】
【氏名】金山 公三
(72)【発明者】
【氏名】梅村 研二
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 清春
(72)【発明者】
【氏名】加門 真一
(72)【発明者】
【氏名】小島 始男
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-35401(JP,B2)
【文献】特開平2-219602(JP,A)
【文献】実公昭47-4950(JP,Y1)
【文献】特公昭45-5672(JP,B2)
【文献】特開2010-234767(JP,A)
【文献】特開2010-111101(JP,A)
【文献】特開2002-283305(JP,A)
【文献】特開平1-182001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 1/00 - 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体に液体を浸透させる液体浸透方法であって、
前記多孔質体が格納され、前記液体が充填された半開放系のチャンバーにおいて、前記液体にキャビテーションを発生させるキャビテーション生成工程を包含し、
前記半開放系のチャンバーは、前記多孔質体を格納する格納室と、前記格納室に一端部が接続されるとともに、他端部が大気に開放された、開閉可能なバルブが設けられた開放管とを備えるものであり、
前記キャビテーション生成工程の前に、
前記多孔質体を前記格納室に格納する格納工程と、
前記格納室の空間を前記液体で満たすとともに、前記開放管の前記一端部と前記他端部との間に前記液体の液面が形成されるように、前記半開放系のチャンバーに前記液体を充填する液体充填工程と、
を実行する液体浸透方法。
【請求項2】
前記キャビテーション生成工程は、前記半開放系のチャンバーを打撃して前記液体に衝撃波を発生させる打撃工程を包含する請求項1に記載の液体浸透方法。
【請求項3】
前記打撃工程は、前記衝撃波において前記液体が最初に正圧となる期間の継続時間をTp1、前記衝撃波において前記液体が最初に負圧となる期間の継続時間をTn1としたとき、前記衝撃波が以下の式(1):
Tn1/Tp1 ≧ 2 ・・・(1)
を満たすように実行される請求項2に記載の液体浸透方法。
【請求項4】
前記格納工程の前に、前記多孔質体に前記液体を減圧注入する前処理工程を実行する請求項1~3の何れか一項に記載の液体浸透方法。
【請求項5】
前記格納工程において、前記多孔質体を前記格納室に格納した後、前記開放管を一時的に閉鎖して前記格納室内で前記多孔質体周辺を減圧することにより前記多孔質体の内部を負圧状態としてから、前記液体充填工程において、前記格納室に前記液体を充填することにより前記多孔質体に前記液体を減圧注入し、その後、前記多孔質体周辺を常圧に戻す請求項1~3の何れか一項に記載の液体浸透方法。
【請求項6】
前記多孔質体に前記液体を減圧注入する前に、前記多孔質体に小型化処理、及び/又はインサイジング処理を施す請求項4又は5に記載の液体浸透方法。
【請求項7】
前記多孔質体は、木質系材料である請求項1~6の何れか一項に記載の液体浸透方法。
【請求項8】
多孔質体に液体を浸透させる液体浸透装置であって、
前記多孔質体を格納する半開放系のチャンバーと、
前記半開放系のチャンバーに前記液体を充填する液体充填手段と、
前記液体にキャビテーションを発生させるキャビテーション生成手段と、
を備え
前記半開放系のチャンバーは、前記多孔質体を格納する格納室と、前記格納室に一端部が接続されるとともに、他端部が大気に開放された、開閉可能なバルブが設けられた開放管とを備える液体浸透装置。
【請求項9】
前記キャビテーション生成手段は、前記半開放系のチャンバーを打撃して前記液体に衝撃波を発生させる打撃部を含む請求項8に記載の液体浸透装置。
【請求項10】
前記多孔質体は、木質系材料である請求項8又は9に記載の液体浸透装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体に液体を浸透させる液体浸透方法、及び液体浸透装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木材等の多孔質体に所望の機能を付与ないし向上させるために、防腐剤、防虫剤、不燃剤等の改質剤を水溶液として多孔質体に浸透させる様々な液体浸透方法が用いられている。このような液体浸透方法として、液体中に多孔質体を浸漬させる方法、加圧注入法、減圧注入法が知られている。例えば、加圧注入法は、多孔質体を浸漬した液体に高い圧力をかけることで、多孔質体と周囲の液体との間の圧力差により、多孔質体内部への液体の浸透を促進することができ、効率のよい液体浸透方法として知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、液体に浸漬した木材に向けて衝撃波を照射する液体浸透方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2の液体浸透方法では、衝撃波が木材内部の気泡に衝突して凝縮させることにより、木材内部への液体の浸透を促進することができ、短時間での液体の浸透が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-234767号公報
【文献】特開平1-182001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の加圧注入法では、液体にかけた高い圧力によって、内部に液体が浸透する前に多孔質体が圧潰して、凹みや割れ等の欠点が生じる場合がある。このような多孔質体の圧潰は、液体が均一に浸透し難い木材等において生じ易いものである。
【0006】
特許文献2の液体浸透方法は、木材を浸漬した液体に連続して高い圧力をかけるものではないが、衝撃波による液体の圧力変化が木材の外形へ及ぼす影響は考慮されておらず、木材が圧壊する虞が依然としてあった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、多孔質体の圧壊を抑制しながら、多孔質体に液体を浸透させることができる液体浸透方法、及び液体浸透装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明にかかる液体浸透方法の特徴構成は、
多孔質体に液体を浸透させる液体浸透方法であって、
前記多孔質体が格納され、前記液体が充填された半開放系のチャンバーにおいて、前記液体にキャビテーションを発生させるキャビテーション生成工程を包含することにある。
【0009】
本構成の液体浸透方法によれば、多孔質体が格納され、液体が充填された半開放系のチャンバーにおいて、液体にキャビテーションを発生させるキャビテーション生成工程を包含するため、木材の通導部における閉鎖した有縁壁孔等、多孔質体の内部に液体の浸透を阻害する浸透阻害部が存在しても、浸透阻害部近傍でキャビテーション気泡が崩壊するときに生じるマイクロジェットによって浸透阻害部を貫通させ、多孔質体への液体の浸透を促進することができる。また、従来の加圧注入法のように多孔質体の周辺を正圧にすることにより液体を浸透させようとすると、多孔質体の圧潰が問題となるが、本構成の液体浸透方法によれば、多孔質体内外の圧力差を低く抑えつつ、キャビテーションが発生するような圧力変化、即ち、正圧と負圧が交互に負荷されるため、多孔質体の圧壊を抑制しながら液体を浸透させることが可能である。
【0010】
本発明にかかる液体浸透方法において、
前記キャビテーション生成工程は、前記半開放系のチャンバーを打撃して前記液体に衝撃波を発生させる打撃工程を包含することが好ましい。
【0011】
本構成の液体浸透方法によれば、キャビテーション生成工程が半開放系のチャンバーを打撃して液体に衝撃波を発生させる打撃工程を包含することにより、簡易且つ安価で安全な手法によりキャビテーションを発生させることが可能となる。
【0012】
本発明にかかる液体浸透方法において、
前記打撃工程は、前記衝撃波において前記液体が最初に正圧となる期間の継続時間をTp1、前記衝撃波において前記液体が最初に負圧となる期間の継続時間をTn1としたとき、前記衝撃波が以下の式(1):
Tn1/Tp1 ≧ 2 ・・・(1)
を満たすように実行されることが好ましい。
【0013】
本構成の液体浸透方法によれば、衝撃波が式(1)を満たすように打撃工程が実行されることにより、キャビテーション気泡が生じ易い低圧条件が長期間継続する。この結果、キャビテーション気泡が大きなサイズに成長することで、多孔質体への液体の浸透をさらに促進することができる。
【0014】
本発明にかかる液体浸透方法において、
前記半開放系のチャンバーは、前記多孔質体を格納する格納室と、前記格納室に一端部が接続されるとともに、他端部が大気に開放された開放管とを備えるものであり、
前記キャビテーション生成工程の前に、
前記多孔質体を前記格納室に格納する格納工程と、
前記格納室の空間を前記液体で満たすとともに、前記開放管の前記一端部と前記他端部との間に前記液体の液面が形成されるように、前記半開放系のチャンバーに前記液体を充填する液体充填工程と、
を実行することが好ましい。
【0015】
本構成の液体浸透方法によれば、半開放系のチャンバーが格納室と、格納室に一端部が接続されるとともに、他端部が大気に開放された開放管とを備えるものであり、多孔質体を格納室に格納し、格納室の空間を液体で満たすとともに、開放管の一端部と他端部との間に液体の液面が形成されるように、半開放系のチャンバーに液体を充填することにより、格納室内の液体は、圧力が急変したときに開放管を通じて格納室を出入りでき、且つ開放管内と格納室内とで粘性抵抗を受ける。よって、格納室内の液体の圧力は、正圧にも負圧にもなりやすく、特に負圧の持続時間が長いものとなる。この結果、本構成の液体浸透方法では、衝撃波のエネルギーを多孔質体に効果的に伝えつつ、キャビテーションの発生を促進でき、さらに多孔質体の圧壊も抑制することができる。
【0016】
本発明にかかる液体浸透方法において、
前記格納工程の前に、前記多孔質体に前記液体を減圧注入する前処理工程を実行することが好ましい。
【0017】
本構成の液体浸透方法によれば、格納工程の前に多孔質体に液体を減圧注入する前処理工程を実行することにより、減圧注入によって予め多孔質体内部の比較的深部にある浸透阻害部にまで液体を浸透させた状態でキャビテーション生成工程を実行することができる。この結果、液体充填工程において多孔質体を単に液体に浸漬するだけでは液体が浸透し難い箇所に、キャビテーション気泡の崩壊時に生じるマイクロジェットが到達しやすくなり、マイクロジェットによる浸透の促進がより効果的なものとなる。
【0018】
本発明にかかる液体浸透方法において、
前記格納工程において、前記多孔質体を前記格納室に格納した後、前記開放管を一時的に閉鎖して前記格納室内で前記多孔質体周辺を減圧することにより前記多孔質体の内部を負圧状態としてから、前記液体充填工程において、前記格納室に前記液体を充填することにより前記多孔質体に前記液体を減圧注入し、その後、前記多孔質体周辺を常圧に戻すことが好ましい。
【0019】
本構成の液体浸透方法によれば、格納工程において、多孔質体を格納室に格納した後、開放管を一時的に閉鎖して格納室内で多孔質体周辺を減圧することにより多孔質体の内部を負圧状態としてから、液体充填工程において、格納室に液体を充填することにより多孔質体に液体を減圧注入し、その後、多孔質体周辺を常圧に戻すことにより、減圧注入法によって予め多孔質体内部の比較的深部にある浸透阻害部にまで液体を浸透させた状態でキャビテーション生成工程を実行することができる。この結果、液体充填工程において多孔質体を単に液体に浸漬するだけでは液体が浸透し難い箇所に、キャビテーション気泡の崩壊時に生じるマイクロジェットが到達しやすくなり、マイクロジェットによる浸透の促進がより効果的なものとなる。また、減圧注入法と、キャビテーション生成工程とを、単一の格納室内で実行することにより、装置をコンパクト化することができる。
【0020】
本発明にかかる液体浸透方法において、
前記多孔質体に前記液体を減圧注入する前に、前記多孔質体に小型化処理、及び/又はインサイジング処理を施すことが好ましい。
【0021】
本構成の液体浸透方法によれば、多孔質体に液体を減圧注入する前に、多孔質体に小型化処理、及び/又はインサイジング処理を施すことにより、液体の減圧注入に要する処理時間を短縮することができる。
【0022】
本発明にかかる液体浸透方法において、
前記多孔質体は、木質系材料であることが好ましい。
【0023】
本構成の液体浸透方法によれば、液体が均一に浸透し難く、周囲の液体との圧力差により圧壊し易い木質系材料において、圧壊を抑制しながら液体の浸透を促進することができる。
【0024】
上記課題を解決するための本発明にかかる液体浸透装置の特徴構成は、
多孔質体に液体を浸透させる液体浸透装置であって、
前記多孔質体を格納する半開放系のチャンバーと、
前記半開放系のチャンバーに前記液体を充填する液体充填手段と、
前記液体にキャビテーションを発生させるキャビテーション生成手段と、
を備えることにある。
【0025】
本構成の液体浸透装置によれば、多孔質体を格納する半開放系のチャンバーと、半開放系のチャンバーに液体を充填する液体充填手段と、液体にキャビテーションを発生させるキャビテーション生成手段とを備えることにより、木材の通導部における閉鎖した有縁壁孔等、多孔質体の内部に液体の浸透を阻害する浸透阻害部が存在しても、多孔質体を格納し、液体を充填した半開放系のチャンバーにおいて、浸透阻害部近傍でキャビテーション気泡が崩壊するときに生じるマイクロジェットによって浸透阻害部を貫通させ、多孔質体への液体の浸透を促進することができる。また、従来の加圧注入法のように多孔質体の周辺を正圧にすることにより液体を浸透させようとすると、多孔質体の圧潰が問題となるが、本構成の液体浸透装置によれば、多孔質体内外の圧力差を低く抑えつつ、キャビテーションが発生するような圧力変化、即ち、正圧と負圧が交互に負荷されるため、多孔質体の圧壊を抑制しながら液体を浸透させることが可能である。
【0026】
本発明にかかる液体浸透装置において、
前記半開放系のチャンバーは、前記多孔質体を格納する格納室と、前記格納室に一端部が接続されるとともに、他端部が大気に開放された開放管とを備えることが好ましい。
【0027】
本構成の液体浸透装置によれば、半開放系のチャンバーが格納室と、格納室に一端部が接続されるとともに、他端部が大気に開放された開放管とを備えることにより、格納室内の液体は、圧力が急変したときに開放管を通じて格納室を出入りでき、且つ開放管内と格納室内とで粘性抵抗を受ける。よって、格納室内の液体の圧力は、正圧にも負圧にもなりやすく、特に負圧の持続時間が長いものとなる。この結果、本構成の液体浸透装置では、衝撃波のエネルギーを多孔質体に効果的に伝えつつ、キャビテーションの発生を促進でき、さらに多孔質体の圧壊も抑制することができる。
【0028】
本発明にかかる液体浸透装置において、
前記キャビテーション生成手段は、前記半開放系のチャンバーを打撃して前記液体に衝撃波を発生させる打撃部を含むことが好ましい。
【0029】
本構成の液体浸透装置によれば、キャビテーション生成手段が半開放系のチャンバーを打撃して液体に衝撃波を発生させる打撃部を含むことにより、簡易且つ安価で安全な手法によりキャビテーションを発生させることが可能となる。
【0030】
本発明にかかる液体浸透装置において、
前記多孔質体は、木質系材料であることが好ましい。
【0031】
本構成の液体浸透装置によれば、液体が均一に浸透し難く、周囲の液体との圧力差により圧壊し易い木質系材料において、圧壊を抑制しながら液体の浸透を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明に係る液体浸透装置の構成図である。
図2図2は、本発明に係る液体浸透方法の工程図である。
図3図3は、本発明に係る液体浸透方法の工程図である。
図4図4は、半開放系のチャンバーにおけるモデル実験の圧力の時間変化を示すグラフである。
図5図5は、密閉系のチャンバーにおけるモデル実験の圧力の時間変化を示すグラフである。
図6図6は、キリを用いた場合のキャビテーション生成工程での1回の打撃による圧力の時間変化を示すグラフである。
図7図7は、ベイヒバを用いた場合のキャビテーション生成工程での1回の打撃による圧力の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の液体浸透方法、及び液体浸透装置について説明する。ただし、本発明は、以下の構成に限定されることを意図しない。
【0034】
<液体浸透装置>
図1は、液体浸透装置1の構成図である。液体浸透装置1は、防腐剤、防虫剤、不燃剤等の改質剤溶液や水等の液体(以下、単に「液体」と称する。)を、液体が均一に浸透し難い多孔質体へ浸透させるために用いられる。液体が均一に浸透し難い多孔質体としては、例えば、木材、集成材、合板、単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)、パーティクルボード、ファイバーボード、及び木材・プラスチック複合材(WPC:Wood-Plastic Composites)等の木質系材料、農産物、食品、セラミックス、ポーラス金属、並びに繊維強化材料前駆体等が挙げられる。液体浸透装置1は、チャンバー10、液体充填手段である給液ポンプ20、及びキャビテーション生成手段30を備え、さらに任意の構成として、減圧ポンプ40、及び圧力計50を備えている。
【0035】
チャンバー10は、多孔質体を格納する格納室11と開放管12とを有する。格納室11は、バルブV1、V2、及びV3を閉じることで密閉可能な金属製の容器であり、本発明の液体浸透方法において、多孔質体を格納し、液体に浸漬するために用いられる。開放管12は、一端部が格納室11に接続された管部13として形成されており、管部13の他端部は屈曲して上行した後に大気に開放されたポット部14に接続されている。本発明において、格納室11が管部13を有する開放管12のみを介して大気に開放された状態を、「半開放系」と称する。図1に示す液体浸透装置1では、チャンバー10は、管部13に設けられているバルブV1を開き、格納室11の底部に接続する管路に設けられたバルブV2、及び格納室11の頂部に接続する管路に設けられたバルブV3を閉じることで、半開放系となる。また、バルブV1、V2、及びV3を全て閉じることで、密閉系となる。
【0036】
給液ポンプ20は、液体を収容したタンク(不図示)から、チャンバー10へ液体を供給する。給液ポンプ20を駆動することにより、格納室11の内部だけではなく、開放管12の内部へも液体を供給することができる。本発明では、格納室11の空間を液体で満たすとともに、開放管12において、管部13の格納室11への接続端からポット部14の開放端までの間に液面を形成した状態を、「半開放系のチャンバーに液体を充填した状態」とする。このとき、半開放系のチャンバー10に充填された液体は、常圧になる。
【0037】
キャビテーション生成手段30は、打撃部31と被打撃部32とを有する。打撃部31は、ポールガイドに沿って下方へ自由落下する錘、又は動力によって上下動するハンマー等によって構成することができ、格納室11の頂部外側に取り付けられた被打撃部32を打撃する。この打撃によって、打撃部31は、チャンバー10内に充填された液体に衝撃波を発生させることができる。このとき、打撃部31は、発生する衝撃波により液体が最初に負圧となる期間(以下、「初期負圧期間」と称する。)において、最小圧力が蒸気圧以下となるように被打撃部32を打撃することが好ましい。液体を充填した半開放系のチャンバー10では、開放管12を介して大気に開放した状態で液面が形成されているため、最小圧力が蒸気圧以下となるように被打撃部32を打撃しても、バルブV1、V2、及びV3を全て閉じて密閉した場合に比べて、発生する衝撃波の最大到達圧力が緩和され、且つ液体の圧力が負圧になりやすい。この結果、多孔質体内外の圧力差が低く抑えられ、且つ正圧と負圧が交互に負荷されるように圧力が変化するため、多孔質体の圧壊が抑制される。
【0038】
一般に、キャビテーションは、液体中の微細な気泡核が低圧領域において、キャビテーション気泡として発達することで発生するが、その発生条件として、局所圧力が蒸気圧より低いこと、及び気泡核が十分成長できる滞在時間がとれることが知られている。液体を充填した半開放系のチャンバー10では、格納室11内の液体は、圧力が急変したときに開放管12を通じて格納室11を出入りでき、且つ開放管12内と格納室11内とで粘性抵抗を受ける。よって、格納室11内の液体の圧力は、正圧にも負圧にもなりやすく、特に負圧の持続時間が長いものとなる。この結果、キャビテーション生成手段30により発生させた衝撃波のエネルギーを多孔質体に効果的に伝えつつ、格納室11内の液体にキャビテーションを発生させ、さらに多孔質体の圧壊も抑制することができる。
【0039】
キャビテーション気泡は圧力が回復すると崩壊するが、固体壁近傍で崩壊する場合にマイクロジェットを生じて固体壁に打撃を与えることが知られている。そのため、液体浸透装置1では、多孔質体の内部に液体の浸透を阻害する固体壁(以下、「浸透阻害部」と称する。)が存在しても、キャビテーション生成手段30によってキャビテーションを発生させることで、浸透阻害部近傍まで浸透した液体中で生じるマイクロジェットにより浸透阻害部を貫通させ、多孔質体への液体の浸透を促進することができる。浸透阻害部としては、例えば、針葉樹の木材では、水分通導を担う仮道管の有縁壁孔が閉鎖してペクチン質等が沈着することで生じる閉鎖壁孔等がある。
【0040】
打撃部31は、衝撃波において液体が最初に正圧となる期間(以下、「初期正圧期間」と称する。)の継続時間(以下、「初期正圧継続時間」と称する。)をTp1、初期負圧期間の継続時間(以下、「初期負圧継続時間」と称する。)をTn1としたとき、衝撃波が以下の式(1):
Tn1/Tp1 ≧ 2 ・・・(1)
を満たすように被打撃部32を打撃することが好ましく、以下の式(2):
Tn1/Tp1 ≧ 4 ・・・(2)
を満たすように被打撃部32を打撃することがより好ましく、以下の式(3):
Tn1/Tp1 ≧ 7.5 ・・・(3)
を満たすように被打撃部32を打撃することがさらに好ましい。式(1)の条件を満たすことにより、初期負圧継続時間が十分に長くなるためキャビテーション気泡が大きなサイズに成長しやすくなり、気泡の崩壊によって浸透阻害部をより強力に打撃し貫通することによって多孔質体への液体の浸透をさらに促進することができる。
【0041】
打撃部31による打撃は、チャンバー10内に充填された液体に衝撃波を繰り返し発生させるように、複数回実行されることが好ましい。1回の打撃では浸透阻害部を貫通できない場合にも、打撃部31による打撃を複数回実行することで、繰り返し発生するキャビテーションによって浸透阻害部を貫通し、多孔質体の内部へ液体を浸透させることができる。また、多孔質体の内部の異なる深さに複数の浸透阻害部が存在する場合、例えば、木材の仮道管に複数の閉鎖壁孔が生じている場合等には、衝撃波を繰り返し発生させるように打撃部31による打撃を複数回実行すると、各衝撃波に伴うキャビテーションによって深さの異なる浸透阻害部を順に貫通することができ、より効果的に液体の浸透を促進することができる。
【0042】
減圧ポンプ40は、格納室11内部を減圧するポンプであり、減圧注入法による多孔質体への液体の注入に用いられる。多孔質体を格納した後、格納室11を減圧ポンプ40により減圧してから液体を充填することで、減圧注入法を実施することができる。半開放系のチャンバー10に液体を充填するときに、減圧注入法を実施しておくことで、予め多孔質体内部の比較的深部にある浸透阻害部にまで液体を浸透させた状態とすることが可能となるため、キャビテーション生成手段30を用いた多孔質体への液体の浸透促進がより効果的なものとなる。格納室11と減圧ポンプ40との間には、格納室11を減圧ポンプ40に接続する管路と、格納室11を大気への開放端に接続する管路とに切り替える切替バルブV4が設けられている。
【0043】
<液体浸透方法>
液体浸透装置1において実行される液体浸透方法を説明する。図2図3は、本発明に係る液体浸透方法の工程図である。本発明に係る液体浸透方法は、キャビテーション生成工程(図3(a)~(b))を実行することにより、多孔質体内部への液体の浸透を促進させるものであるが、さらに任意の工程として、キャビテーション生成工程の実行前に、半開放系のチャンバー10に多孔質体が格納され、液体が充填された状態とするために、格納工程(図2(a))、及び液体充填工程(図2(b)~(c))を実行することができる。特に、格納工程、及び液体充填工程では、キャビテーションによる浸透の促進をより効果的なものとするために、減圧注入法によって予め多孔質体内部の比較的深部にある浸透阻害部にまで液体を浸透させた状態とすることが好ましい。
【0044】
先ず、格納工程では、図2(a)に示すように、格納室11内に多孔質体Wを格納して固定した後、開放管12に設けられたバルブV1、及び給液ポンプ20に接続する管路に設けられたバルブV2を閉じ、減圧ポンプ40に接続する管路に設けられたバルブV3のみを開けた状態とし、減圧ポンプ40を稼働させることにより格納室11内を一定期間負圧状態に維持する。これにより多孔質体内部から空気を排出させることができる。
【0045】
次に、液体充填工程では、減圧ポンプ40の稼働による負圧状態を維持したまま、図2(b)に示すように、給液ポンプ20に接続する管路に設けられたバルブV2を開いて給液ポンプ20を稼働させることにより、負圧の状態にある格納室11に多孔質体全体が浸漬するまで液体を注入する。続けて切替バルブV4を減圧ポンプ40に接続する管路から大気への開放端に接続する管路に切り替えることで、格納室11の内部を常圧に戻してから、減圧ポンプ40を停止する。この状態を一定期間維持することで、多孔質体内部に液体を浸透させることができる。その後、液体充填工程では、給液ポンプ20を稼働させて格納室11の空間を液体で満たすことで格納室11内の全ての空気を排出する。さらに図2(c)に示すように、バルブV3を閉じ、開放管12に設けられたバルブV1を開放する。
【0046】
常圧において格納室11から開放管12へ流入した液体が、管部13を満たしてポット部14に液面を形成した後に、図3(a)に示すように、給液ポンプ20を停止してバルブV2を閉じることで、液体浸透装置1は、半開放系のチャンバー10に液体を充填した状態となる。この状態において、キャビテーション生成工程では、図3(b)に示すように、打撃部31である錘を落下させて被打撃部32を打撃することにより、チャンバー10内部の液体に衝撃波を発生させる。打撃部31による打撃は、発生する衝撃波が、初期負圧期間において最小圧力が蒸気圧以下となり、前述の式(1)を満たすように調整されることが好ましい。このとき図3(b)に示すようにバルブV1が開放されているため、格納室11内の液体は、圧力が急変したときに開放管12を通じて格納室11を出入りでき、且つ開放管12内と格納室11内とで粘性抵抗を受けるので、格納室11内の液体の圧力は、正圧にも負圧にもなりやすく、特に負圧の持続時間が長いものとなる。そのため、上記条件を満たすよう発生させた衝撃波は、そのエネルギーが多孔質体内部の浸透阻害部に効果的に伝えられつつ、格納室11内の液体、特に、浸透阻害部近傍まで浸透した液体にキャビテーションを発生させることになる。キャビテーションの発生により、多孔質体内部では、浸透阻害部近傍まで浸透した液体中でマイクロジェットが生じて浸透阻害部を貫通するため、多孔質体への液体の浸透を促進することができる。また、格納室11内の液体の圧力が正圧にも負圧にもなりやすいことで、上記条件を満たすよう発生させた衝撃波によって、正圧と負圧とが交互に負荷されるため、多孔質体の圧壊も抑制されることになる。キャビテーション生成工程では、図3(b)に示す打撃部31による打撃を、複数回繰り返して実行することが好ましい。1回の打撃では浸透阻害部を貫通できない場合にも、打撃部31による打撃を複数回実行することで、繰り返し発生するキャビテーションによって浸透阻害部を貫通し、多孔質体の内部へ液体を浸透させることができる。また、多孔質体の内部の異なる深さに複数の浸透阻害部が存在する場合、例えば、木材の仮道管に複数の閉鎖壁孔が生じている場合等には、衝撃波を繰り返し発生させるように打撃部31による打撃を複数回実行すると、各衝撃波に伴うキャビテーションによって深さの異なる浸透阻害部を順に貫通することができ、より効果的に液体の浸透を促進することができる。
【0047】
以上の手順により液体浸透方法が終了する。なお、格納工程、及び液体充填工程における減圧注入は、キャビテーション生成工程における多孔質体への液体の浸透をより効果的にするために、予め多孔質体内部の比較的深部にある浸透阻害部にまで液体を浸透させた状態とするための処理であり、本発明に係る液体浸透方法において必須の処理ではない。減圧注入を行わず、単に半開放系のチャンバー10に液体を充填した状態とするために格納工程、及び液体充填工程を実行するには、図2(a)、(b)に示す各工程において、切替バルブV4を常に大気への開放端に接続するよう変更することで、格納室11内を減圧せずに給液ポンプ20で格納室11に送液するだけでよい。また、キャビテーション生成工程の実行前に、多孔質体内部の比較的深部にある浸透阻害部にまで液体を浸透させた状態とするためには、格納工程、及び液体充填工程において減圧注入を行うことに替えて、格納工程の前に、予め多孔質体を液体に浸漬する前処理工程をチャンバー10とは別の容器において実行してもよい。前処理工程においても、多孔質体周辺を減圧することにより多孔質体の内部を負圧状態としてから多孔質体を液体に浸漬し、その後、多孔質体周辺を常圧に戻すことで減圧注入を行ってよい。なお、多孔質体へ液体を減圧注入する場合、小型化処理、及びインサイジング処理等の減圧注入に要する時間を短縮するための処理を、減圧注入の実行前に多孔質体に施しておくことが好ましい。
【実施例
【0048】
<モデル実験>
半開放系のチャンバーへの打撃により、チャンバーに格納された多孔質体の内部でキャビテーションが発生することを、モデル実験によって確認した。モデル実験では、多孔質体に浸透させる液体として水を用いた。図4は、半開放系のチャンバーにおけるモデル実験の圧力の時間変化を示すグラフである。図5は、密閉系のチャンバーにおけるモデル実験の圧力の時間変化を示すグラフである。
【0049】
モデル実験に使用するチャンバーは、平均内径2.4cm、高さ31cmの金属製容器で格納室を構成し、格納室内に圧力計を設けた。開放管として、格納室側壁から外方へ向けて内径9mm、長さ90cmのビニールホースを、水が流通可能なように取り付けた。開放管に空気が入らないよう、その末端をポットに溜めた水中に浸漬した状態を保持した。さらに、多孔質体内部の流路を模した模擬管として、格納室側壁に内径4mm、長さ1mのABS樹脂管を水が流通可能なように取り付け、模擬管の末端に圧力計を設けた。
【0050】
半開放系のチャンバーにおける打撃の影響を確認するために、管部に設けたバルブを開いて、格納室、及び開放管の管部を水で満たし、ポット部に液面を形成すように22℃の水を注水した。注水後の格納室内の初期圧力は、0.1MPaであった。半開放系のチャンバーに水を充填した状態で、円柱形状の金属製錘(2kg)を高さ15cmから自由落下させて、格納室の頂部外側に取り付けた金属製円柱である被打撃部を打撃し、格納室内の圧力計、及び模擬管末端の圧力計で圧力を測定した。また、模擬管末端では、打撃後のキャビテーション気泡の発生の有無を観察した。図4(a)は、格納室内の圧力計の測定値を示すグラフであり、図4(b)は、模擬管末端の圧力計の測定値を示すグラフである。
【0051】
密閉系のチャンバーにおける打撃の影響を確認するために、管部に設けたバルブを閉じて、格納室を満たすように22℃の水を注水した。注水後の格納室内の初期圧力は、0.4MPaであった。密閉系のチャンバーに水を充填した状態で、半開放系のチャンバーと同様に格納室に打撃を与え、格納室内の圧力計、及び模擬管末端の圧力計で圧力を測定し、模擬管末端でキャビテーション気泡の発生の有無を観察した。図5(a)は、格納室内の圧力計の測定値を示すグラフであり、図5(b)は、模擬管末端の圧力計の測定値を示すグラフである。測定条件は、半開放系、及び密閉系の何れも、大気圧0.1MPa、気温23~24℃、相対湿度70~72%であった。
【0052】
モデル実験の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
半開放系のチャンバーでの打撃では、格納室における圧力の時間波形(図4(a))、及び模擬管末端における圧力の時間波形(図4(b))の何れでも、衝撃波の発生が確認された。初期正圧継続時間Tp1に対する初期負圧継続時間Tn1の比(Tn1/Tp1)は、格納室において5.3となり前述の式(1)を満たし、初期負圧期間が長時間継続することが確認された。また、模擬管末端では、初期正圧継続時間Tp1に対する初期負圧継続時間Tn1の比(Tn1/Tp1)が8.0となり前述の式(1)を満たし、初期負圧期間中にキャビテーション気泡の発生が観察された。このように、格納室における圧力の時間波形が前述の式(1)を満たす場合、多孔質体内部の浸透阻害部を模した模擬管末端でも圧力の時間波形が前述の式(1)を満たし、模擬管末端付近の圧力が水蒸気圧を下回る時間が、キャビテーション気泡を観察できるまでに成長させる程度に長くなった。従って、少なくとも格納室における圧力の時間波形が前述の式(1)を満たせば、模擬管末端付近でのキャビテーションの発生が促されると考えられる。
【0055】
一方、密閉系のチャンバーでの打撃では、格納室における圧力の時間波形(図5(a))、及び模擬管末端における圧力の時間波形(図5(b))の何れでも、衝撃波の発生が確認されたが、初期正圧継続時間Tp1に対する初期負圧継続時間Tn1の比(Tn1/Tp1)は、格納室において0.6となり前述の式(1)を満たさず、初期負圧期間が短いことが確認された。また、模擬管末端では、初期正圧継続時間Tp1に対する初期負圧継続時間Tn1の比(Tn1/Tp1)が1.2となり前述の式(1)を満たさず、キャビテーション気泡の発生も観察されなかった。
【0056】
以上から、半開放系のチャンバーでは、打撃により生じる衝撃波の水撃によって多孔質体への水の浸透が促進されるだけではなく、格納室における圧力の時間波形が前述の式(1)を満たすことで、多孔質体内部の浸透阻害部付近でキャビテーションの発生が促され、キャビテーション気泡の崩壊に伴うマイクロジェットによっても水の浸透が促進されることが示唆された。
【0057】
次に、本発明の液体浸透装置を使用し、多孔質体に浸透させる液体として水を用い、種々の条件にて本発明の液体浸透方法を実施した。以下、実施例として説明する。
【0058】
<実施例1~10>
繊維方向を長手方向にとった寸法15mm×15mm×150mmのキリの心材(実施例1~4)、及びベイヒバの心材(実施例5~10)を、送風乾燥機にて105℃で全乾状態にしたものを供試多孔質体として用いた。供試多孔質体の全乾密度は、実施例1~4の平均値が0.279g/cm、実施例5~10の平均値が0.492g/cmであった。
【0059】
[液体浸透方法]
前処理工程、及びキャビテーション生成工程を順に実行した。また、供試多孔質体の飽水状態での体積(Vs)を測定するために、キャビテーション生成工程の実行後に飽水処理を行った。
前処理工程:
供試多孔質体の全乾状態での質量(m0)を測定後、内径2.9cm、高さ55cmのポリカーボネート樹脂製容器に供試多孔質体を格納して、容器内を0.8kPaに減圧した。減圧状態を60分間維持した後に、容器内に22~24℃の水を注入した。以降の手順では、注水開始時を基準時点として、処理時間を示す。基準時点から6秒後、供試多孔質体の全体が浸漬した状態で注水を停止し、常圧になるまで容器内に空気を導入した。その後、供試多孔質体の全体が浸漬した状態を維持し、基準時点から10分後、供試多孔質体を容器から取り出して、前処理工程後の質量(mi)を測定した。
【0060】
キャビテーション生成工程:
本発明の液体浸透装置を用い、キャビテーション生成工程を実行した。液体浸透装置のチャンバーは、平均内径2.4cm、高さ34cmの金属製容器で格納室を構成した。開放管は、格納室側壁に水が通流可能に取り付けた内径4mmのABS樹脂管3cmと金属製バルブ5.5cmを直結して水平方向に8.5cm延伸させた後、金属製バルブから内径4mmのABS樹脂管を上方に3.8cm延伸させて管部を構成し、管部の上端に接続したスチレン樹脂製のポットでポット部を構成した。
【0061】
キャビテーション生成工程では、前処理後の供試多孔質体を、基準時点から10分30秒後に格納室に格納し、その後、基準時点から11分10秒後までに、格納室、及び開放管の管部を水で満たし、ポット部に液面を形成すように22~24℃の水を155cm注水した。液体浸透装置が半開放系のチャンバーに水を充填した状態となった後、基準時点から12分後から42分後までの間に、20秒間隔で打撃工程を3回実行した後に2分20秒間待機する処理を1セットとし、この処理を10セット繰り返し実行した。打撃工程では、円柱形状の金属製錘(2kg)を打撃手段として、高さ80cmから自由落下させ、格納室の頂部外側に取り付けた金属製円柱である被打撃部を打撃した。基準時点から42分後、格納室から供試多孔質体を取り出して、キャビテーション生成工程後の質量(mw)を測定した。また、キャビテーション生成工程の実行中は、液体浸透装置の圧力計により、格納室内に充填された水の圧力を計測した。図6(a)は、キリを用いた実施例1におけるキャビテーション生成工程での1回の打撃による圧力の時間変化を示すグラフであり、図7(a)は、ベイヒバを用いた実施例5におけるキャビテーション生成工程での1回の打撃による圧力の時間変化を示すグラフである。
【0062】
飽水処理:
キャビテーション生成工程後の供試多孔質体を密閉容器に格納し、供試多孔質体の全体が水に浸漬するように容器内に水を充填した。浸漬開始から3日後、飽水状態となった供試多孔質体を取り出して、飽水状態での体積(Vs)を測定した。
【0063】
<比較例1~10>
繊維方向を長手方向にとった寸法15mm×15mm×150mmのキリの心材(比較例1~4)、及びベイヒバの心材(比較例5~10)を、送風乾燥機にて105℃で全乾状態にしたものを供試多孔質体として用いた。供試多孔質体の全乾密度は、比較例1~4の平均値が0.279g/cm、比較例5~10の平均値が0.491g/cmであった。
【0064】
[液体浸透方法]
前処理工程、及びキャビテーション生成工程を順に実行した。また、供試多孔質体の飽水状態での体積(Vs)を測定するために、キャビテーション生成工程の実行後に飽水処理を行った。
前処理工程:
実施例1~10と同様の装置、及び手順により、前処理工程を実行した。
【0065】
キャビテーション生成工程:
実施例1~10に用いた液体浸透装置において、開放管の管部に設けたバルブを、各打撃工程において実行3秒前に閉じ、実行3秒後に開いた。それ以外はバルブを常に開放し、実施例1~10と同様の手順により、キャビテーション生成工程を実行した。図6(b)は、キリを用いた比較例1におけるキャビテーション生成工程での1回の打撃による圧力の時間変化を示すグラフであり、図7(b)は、ベイヒバを用いた比較例5におけるキャビテーション生成工程での1回の打撃による圧力の時間変化を示すグラフである。
【0066】
飽水処理:
実施例1~10と同様の装置、及び手順により、飽水処理を実行した。
【0067】
<比較例11~20>
繊維方向を長手方向にとった寸法15mm×15mm×150mmのキリの心材(比較例11~14)、及びベイヒバの心材(比較例15~20)を、送風乾燥機にて105℃で全乾状態にしたものを供試多孔質体として用いた。供試多孔質体の全乾密度は、比較例11~14の平均値が0.274g/cm、比較例15~20の平均値が0.492g/cmであった。
【0068】
[液体浸透方法]
前処理工程、及びキャビテーション生成工程を順に実行した。また、供試多孔質体の飽水状態での体積(Vs)を測定するために、キャビテーション生成工程の実行後に飽水処理を行った。
前処理工程:
実施例1~10と同様の装置、及び手順により、前処理工程を実行した。
【0069】
キャビテーション生成工程:
基準時点から12分後から42分後までの間に、打撃工程を実行することなく、供試多孔質体を格納室内で水に浸漬したままにした。それ以外は、実施例1~10と同様の装置、及び手順により、キャビテーション生成工程を実行した。
【0070】
飽水処理:
実施例1~10と同様の装置、及び手順により、飽水処理を実行した。
【0071】
<空隙充填率>
本発明の特徴構成を有する液体浸透方法によって水を浸透させた供試多孔質体(実施例1~10)、及び、発明の特徴構成を有しない液体浸透方法によって水を浸透させた供試多孔質体(比較例1~20)について、木材実質の密度をρw、水の密度をρlとし、液体浸透方法の実施時に測定した供試多孔質体の全乾状態での質量m0、前処理工程後の質量mi、及び飽水状態での体積Vsを用いて、前処理工程での供試多孔質体への水注入量の指標となる前処理工程後の空隙充填率φiを、下記の式(4)より算出した。
空隙充填率φi[%] = 100 × (mi-m0) / {ρl×(Vs - m0/ρw)} ・・・(4)
さらに、液体浸透方法の実施時に測定した供試多孔質体の全乾状態での質量m0、キャビテーション生成工程後の質量mw、及び飽水状態での体積Vsを用いて、下記の式(5)よりキャビテーション生成工程後の空隙充填率φwを算出し、キャビテーション生成工程での供試多孔質体への水注入量の指標として、キャビテーション生成工程での空隙充填率の変化φw-φiを得た。
空隙充填率φw[%] = 100 × (mw-m0) / {ρl×(Vs - m0/ρw)} ・・・(5)
【0072】
<平均体積膨潤率>
供試多孔質体の全乾状態での体積(33750mm)をV0とし、飽水状態での体積をVsとして、下記の式(6)より各供試多孔質体について飽和状態での体積膨潤率を算出し、キリを用いた実施例1~4、比較例1~4、及び比較例11~14、並びにベイヒバ材を用いた実施例5~10、比較例5~10、及び比較例15~20について、平均値を求めた。
体積膨潤率[%] = 100 × (Vs-V0) / V0 ・・・(6)
【0073】
キリを用いた実施例1~4、比較例1~4、及び比較例11~14の測定結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
ベイヒバ材を用いた実施例5~10、比較例5~10、及び比較例15~20の測定結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
前処理工程後の空隙充填率φiは、前処理工程での供試多孔質体への水注入量に対応し、供試多孔質体毎の水の浸透し易さのばらつきを示す。キリを用いた実施例1~4、比較例1~4、及び比較例11~14の間で、前処理工程後の空隙充填率φiに大きな差異はなく、供試多孔質体間で水の浸透し易さに大きなばらつきは無かったことが確認された。ベイヒバ材を用いた実施例5~10、比較例5~10、及び比較例15~20の間でも、前処理工程後の空隙充填率φiに大きな差異はなく、供試多孔質体間で水の浸透し易さに大きなばらつきは無かったことが確認された。
【0078】
キャビテーション生成工程での空隙充填率の変化φw-φiは、キャビテーション生成工程での供試多孔質体への水注入量の指標となる。キリを用いた場合、半開放系で打撃工程を実行した実施例1~4では9.2~10.6%となり、密閉系で打撃工程を実行した比較例1~4では9.5~10.7%となり、実施例1~4と比較例1~4との間でほとんど差異が見られなかった。これに対して、打撃工程を実行しなかった比較例11~14では4.6~5.4%となり、打撃工程を実行した実施例1~4、及び比較例1~4よりも小さいものであった。このことから、キリを用いた場合、キャビテーション生成工程において打撃工程を実行することで、多孔質体への水の浸透を促進できることが確認された。また、打撃工程の実行による浸透促進効果は、半開放系と密閉系とで差がないことが確認された。
【0079】
また、ベイヒバを用いた場合も、キャビテーション生成工程での空隙充填率の変化φw-φiは、半開放系で打撃工程を実行した実施例5~10では5.7~8.1%となり、密閉系で打撃工程を実行した比較例5~10では6.1~7.4%となり、実施例5~10と比較例5~10との間でほとんど差異が見られなかった。これに対して、打撃工程を実行しなかった比較例15~20では4.1~5.6%となり、打撃工程を実行した実施例5~10、及び比較例5~10よりも小さいものであった。このことから、ベイヒバを用いた場合も、キャビテーション生成工程において打撃工程を実行することで、多孔質体への水の浸透を促進できることが確認された。また、打撃工程の実行による浸透促進効果は、半開放系と密閉系とで差がないことが確認された。ただし、ベイヒバを用いた場合は、キリを用いた場合に比べて打撃工程の実行による浸透促進効果は小さかった。これは、キリと比べてベイヒバの浸透阻害部が分厚く貫通し難かったためと考えられる。
【0080】
図6、及び図7に示す打撃による圧力の時間変化を示すグラフにおいて、最大到達圧力は、衝撃波による水撃のエネルギーの指標となる。キリを用いた場合の半開放系(図6(a))と密閉系(図6(b))とを比較すると、密閉系での最大到達圧力がより大きかった。ベイヒバを用いた場合の半開放系(図7(a))と密閉系(図7(b))との比較でも、密閉系での最大到達圧力がより大きかった。密閉系での最大到達圧力が大きくなるのは、密閉系では水撃のエネルギーがチャンバー外へ逃げにくいためと考えられる。このような半開放系と密閉系とでの最大到達圧力の相違からは、半開放系での水注入量よりも密閉系での水注入量が大きくなることが予想される。しかしながら、上述のように、測定値に基づいて算出したキャビテーション生成工程での空隙充填率の変化φw-φiからは、半開放系と密閉系とで水注入量に差がないことが確認されている。このことから、密閉系では、衝撃波による水撃のエネルギーによって多孔質体への水の浸透が促進されるが、半開放系では、衝撃波による水撃のエネルギーだけではなく、キャビテーションによっても多孔質体への水の浸透が促進されていると考えられる。
【0081】
半開放系において、キャビテーションにより多孔質体への水の浸透が促進されていることは、初期正圧継続時間Tp1に対する初期負圧継続時間Tn1の比(Tn1/Tp1)が、図6(a)に示す半開放系の実施例1で5.0、図7(a)に示す半開放系の実施例5で4.3であり、何れも前述の式(1)を満たして、キャビテーション気泡が大きなサイズに成長し易い状態であることからも推察される。なお、密閉系でのTn1/Tp1は、図6(b)に示す密閉系の比較例1で1.8、図7(b)に示す密閉系の比較例5で0であり、何れも前述の式(1)を満たしておらず、キャビテーションが発生し難い状態であると考えられる。
【0082】
平均体積膨潤率は、供試多孔質体の圧壊による圧縮変形量に対応して小さくなる。キリを用いた場合、半開放系で打撃工程を実行した実施例1~4は、打撃工程を実行しなかった比較例11~14と比較して、平均体積膨潤率に大きな差異が見られなかった。これに対して、密閉系で打撃工程を実行した比較例1~4は、打撃工程を実行しなかった比較例11~14と比較して、平均体積膨潤率が小さいものであった。このことから、キリを用いた場合、密閉系では、キャビテーション生成工程において供試多孔質体が圧壊しているが、半開放系では、キャビテーション生成工程における供試多孔質体の圧壊が抑制されることが確認された。半開放系において供試多孔質体の圧壊が抑制されたのは、多孔質体内外の圧力差を低く抑えつつ、多孔質体外部に正圧と負圧が交互に負荷されるためであると考えられる。
【0083】
また、ベイヒバを用いた場合は、半開放系で打撃工程を実行した実施例5~10は、打撃工程を実行しなかった比較例15~20と比較して、平均体積膨潤率に大きな差異が見られなかった。これに対して、密閉系で打撃工程を実行した比較例5~10は、打撃工程を実行しなかった比較例15~20と比較して、平均体積膨潤率が小さいものであった。このことから、ベイヒバを用いた場合も、密閉系では、キャビテーション生成工程において供試多孔質体が圧壊しているが、半開放系では、キャビテーション生成工程における供試多孔質体の圧壊が抑制されることが確認された。
【0084】
以上から、本発明の液体浸透装置を用いて本発明の液体浸透方法を実施すれば、キリ、及びベイヒバに対して圧壊を抑制しながら、水の浸透を促進することが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の液体浸透方法、及び液体浸透装置は、木材、農産物、食品、セラミックス、ポーラス金属、及び繊維強化材料前駆体等の多孔質体へ液体を浸透させる液体浸透処理に利用することができ、木材への防腐性、防虫性、不燃性、強度特性、耐候性、耐久性の付与のための改質剤を浸透させる処理や、繊維強化材料前駆体へ樹脂を浸透させる処理等への利用に適する。
【符号の説明】
【0086】
1 液体浸透装置
10 チャンバー(半開放系のチャンバー)
11 格納室
12 開放管
20 給液ポンプ(液体充填手段)
30 キャビテーション生成手段
31 打撃部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7