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特許7222743ゼオライト触媒及び該ゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造方法
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  • 特許-ゼオライト触媒及び該ゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】ゼオライト触媒及び該ゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/70 20060101AFI20230208BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20230208BHJP
   C07C 1/24 20060101ALI20230208BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20230208BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20230208BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20230208BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230208BHJP
【FI】
B01J29/70 Z
C01B39/48
C07C1/24
C07C11/04
C07C11/06
C07C11/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019021320
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2019136702
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2018024199
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 博暁
(72)【発明者】
【氏名】原 雅寛
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-048326(JP,A)
【文献】特許第7039807(JP,B2)
【文献】特開2013-245163(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090751(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0118518(US,A1)
【文献】特表2013-517319(JP,A)
【文献】特開平06-015182(JP,A)
【文献】特開平03-293038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 33/20 - 39/54
C07C 1/24
C07C 11/04 - 11/08
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともCON型ゼオライトと、アルカリ土類金属を含みケイ素を含まない物質及びケイ素を含みアルカリ土類金属を含まない物質の混合物と、を含有し、低級オレフィン製造、p-キシレンの製造、エチルベンゼンの製造、クメンの製造、軽質炭化水素の芳香族化、水素化分解、水素化脱ろう、及びアルカンの異性化のいずれかに用いられるゼオライト触媒。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属がカルシウムである、請求項1に記載のゼオライト触媒。
【請求項3】
低級オレフィンを生成する反応に用いられる触媒である、請求項1又は2に記載のゼオライト触媒。
【請求項4】
メタノール及び/ 又はジメチルエーテルを含む原料に、請求項1~のいずれか1項
に記載のゼオライト触媒を接触させる工程、を備える低級オレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼオライト触媒、及び該ゼオライト触媒を用いた低級オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン、プロピレン、ブテンといった低級オレフィンを製造する方法としては、従来からナフサのスチームクラッキングや減圧軽油の流動接触分解が一般的に実施されており、近年ではエチレンと2-ブテンを原料としたメタセシス反応やメタノールおよび/またはジメチルエーテルを原料としたMTO(メタノール to オレフィン)プロセスが知られている。
【0003】
一方で、近年の天然ガスの価格低下によって、天然ガスに含まれるエタンを原料としたエタンクラッキングによるエチレン生産が急激に拡大している。しかしながら、エタンクラッキングではナフサのスチームクラッキングとは異なり、炭素数3以上の炭化水素であるプロピレン、ブタジエンやブテン等がほとんど生成しないことから、炭素数3以上の炭化水素、特にプロピレンとブタジエンが不足するという状況が顕在化しつつある。
そこで、プロピレン等の炭素数3以上のオレフィンを選択的に製造することができ、かつエチレンの生成量が抑制された製造方法として、安価な石炭や天然ガスから合成されるメタノールおよび/またはジメチルエーテルを原料とするMTOプロセスが注目されている。
【0004】
例えば特許文献1や非特許文献1に開示されているように、メタノールおよび/またはジメチルエーテルを原料として、CON型構造を有するゼオライト(CIT-1ゼオライト)を活性成分として含む触媒を使用することにより、プロピレンとブテンを高収率で製造することができ、更に、プロピレン製造時のエチレンの副生を抑制することができる。
また、工業的に使用する際には、バインダーで成形した成形触媒が用いられ、バインダーとしてはアルミナ等が知られている(例えば特許文献2)。さらに、その他の添加剤を用いることもあり、例えば特許文献3に開示されているように、MFI型等のゼオライトにアルカリ土類金属を添加することで、触媒寿命が向上することが知られている。しかしながら、CON型ゼオライトに関して、バインダーやその他添加剤が触媒性能に及ぼす効果については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-245163号公報
【文献】特開2008-080301号公報
【文献】特開昭59-097523号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】ACS Catal., 5, 4268-4275(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、長時間に亘って高い原料転化率を維持可能なゼオライト触媒、及び、当該ゼオライト触媒を用いて長時間に亘って安定的に低級オレフィンを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく研究を進め、少なくともCON型ゼオライトと、アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物及び/又は混合物と、を含有するゼオライト触媒を、低級オレフィンの製造に用いることで、長時間に亘って高い原料転化率を維持可能であることを見出し、発明を完成させた。
本発明は、以下の要旨を含む。
【0009】
[1]少なくともCON型ゼオライトと、アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物及び/又は混合物と、を含有するゼオライト触媒。
[2]前記アルカリ土類金属がカルシウムである、[1]に記載のゼオライト触媒。
[3]前記アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物及び/又は混合物が化合物である、[1]または[2]に記載のゼオライト触媒。
[4]前記アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物及び/又は混合物が混合物である、[1]または[2]に記載のゼオライト触媒。
[5]低級オレフィンを生成する反応に用いられる触媒である、[1]~[4]のいずれかに記載のゼオライト触媒。
[6]メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料に、[1]~[5]のいずれかに記載のゼオライト触媒を接触させる工程、を備える低級オレフィンの製造方法。
【0010】
本明細書において、低級オレフィンとは、エチレン、プロピレン及びブテンを意味する。言い換えれば炭素数2から4のオレフィンである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長時間に亘って高い原料転化率を維持可能なゼオライト触媒、及び、当該ゼオライト触媒を用いて長時間に亘って安定的に低級オレフィンを製造する方法を提供することができる。また、低級オレフィンを製造する際に必要となる触媒再生の回数を減少し、生産効率を向上させることができる。
また、本発明のゼオライト触媒の用途としては特に制限はないが、低級オレフィン製造、p-キシレンの製造、エチルベンゼン、クメンの製造、軽質炭化水素の芳香族化、水素化分解、水素化脱ろう、アルカンの異性化、自動車排ガス浄化などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例の低級オレフィンの製造IIにおける、メタノール転化率を示すグラフである。
図2】実施例の低級オレフィンの製造IIにおける、C2-C4オレフィン選択率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本発明の一実施形態は、低級オレフィン生成用ゼオライト触媒であり、該ゼオライト触媒は、少なくともCON型ゼオライトと、アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物及び/又は混合物と、を含有する。
【0015】
CON型ゼオライトは、その構成単位として、2つの12員環構造と、1つの10員環構造が交差した形状を有する3次元細孔構造を有するゼオライトである。この12員環構造を有するCON型ゼオライトは、8員環構造のみで構成されるCHA型ゼオライトや、10員環構造のみで構成されるMFI型ゼオライトと比較して、反応生成物の細孔内拡散
が有利となる。また、CON型ゼオライトは、12員環構造と10員環構造がジグザグに交差する構造をとり、3方向の細孔が1箇所で交差しないため、インターセクションのスペースが小さく、反応によるコークが生成しにくく、反応活性の顕著な低下を招きにくいと考えられ、触媒寿命が長いという利点がある。
【0016】
CON型ゼオライトは、特に限定されるものではないが、好ましくは結晶性メタロシリケートである。前記メタロシリケートを構成する元素としては、特に限定はされないが、例えばアルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0017】
具体的に好ましくは、構成元素としてAlを含有する結晶性アルミノシリケートや、Gaを含有する結晶性ガロシリケートが挙げられる。これらのゼオライトは、ゼオライト骨格内のAlやGaが酸点となり、触媒反応の活性点として働くため、触媒活性に優れる。
【0018】
また、CON型ゼオライトは、後述する原料ゲル中にホウ素化合物を添加することによって得られやすくなることから、Bを構成元素として含んでいてもよい。このような例としては、構成元素としてAlとBを含む結晶性ボロアルミノシリケートや、構成元素がGaとBを含む結晶性ガロボロシリケート等が挙げられる。
【0019】
前記結晶性アルミノシリケート、結晶性ガロシリケートの場合、その構成元素の比率としては特に限定されるものではないが、そのSi/Alモル比、またはSi/Gaモル比は、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、特に好ましくは50以上、とりわけ好ましくは100以上であり、通常5000以下、好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下である。
【0020】
また、前記結晶性ボロアルミノシリケート、結晶性ガロボロシリケートの場合、その構成元素の比率としては特に限定されるものではないが、結晶性アルミノシリケート、結晶性ガロシリケートと同様、そのSi/Alモル比、またはSi/Gaモル比は、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、特に好ましくは50以上、とりわけ好ましくは100以上であり、通常5000以下、好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下である。また、Si/Bモル比は、通常1以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、通常5000以下、好ましくは1000以下、さらに好ましくは100以下である。
【0021】
CON型ゼオライトのイオン交換サイトは、特に限定されず、H型であっても、金属イオンで交換されたものであってもよい。ここで、金属イオンとは、具体的にはアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン等である。
【0022】
本実施形態で用いられるゼオライトのBET比表面積は、特に限定されるものではなく、通常200m/g以上、好ましくは250m/g以上、より好ましくは300m/g以上であって、通常2000m/g以下、好ましくは1500m/g以下、より好ましくは1000m/g以下である。
また、ゼオライトの細孔容積は、特に限定されるものでなく、通常0.1ml/g以上、好ましくは0.2ml/g以上であって、通常3ml/g以下、好ましくは2ml/g以下である。
【0023】
本実施形態で用いられるゼオライトの平均粒子径は、特に限定されるものではなく、通常10μm以下、好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下、特に好ましくは700nm以下である。また通常20nm以上、好ましくは40nm以上である。
【0024】
CON型ゼオライトは、ACS Catal., 5, 4268-4275(2015)に記載の方法など公知の方法で合成したものなどを用いることができる。
【0025】
CON型ゼオライトは一般的に水熱合成法によって調製することが可能である。例えば水にホウ素源、アルミニウム源、ガリウム源およびシリカ源等を加えて均一なゲルを生成させ、これに構造規定剤、好ましくはN,N,N-トリメチル-(-)-cis-ミルタニルアンモニウムハイドロキサイドを加えて攪拌し、得られた原料ゲルを加圧加熱容器中で120~200℃に保持して結晶化させる。結晶化の際に、必要に応じて種結晶を添加してもよく、製造性の面では種結晶を添加する方が、操作性が向上する点で好ましい。次いで結晶化した原料ゲルを濾過および洗浄した後、固形分を100~200℃で乾燥し、引続き400~900℃で焼成することによって、ゼオライト粉末として得ることができる。
【0026】
ここで、ホウ素源としてはホウ酸、ホウ酸ナトリウム、酸化ホウ素等の1種または2種以上を用いることができる。アルミニウム源としては硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、擬ベーマイト、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム等の1種または2種以上を用いることができる。ガリウム源としては硝酸ガリウム、硫酸ガリウム、リン酸ガリウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、水酸化ガリウム等の1種または2種以上を用いることができる。シリカ源としては、フュームドシリカ、シリカゾル、シリカゲル、二酸化珪素、水ガラスなどのシリケートやテトラエトキシオルソシリケートやテトラメトキシシランなどの珪素のアルコキシド、珪素のハロゲン化物等の1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
CON型ゼオライトは、合成時に構成元素の量(Al,Ga,B等)を調整することで、含有金属量を調整することができる。また、構成元素の一部をスチーミングや酸処理等により除去して含有量を調整したものを用いることもできる。
【0028】
本発明のゼオライト触媒は、このCON型ゼオライトと、アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物及び/又は混合物(以下、単に化合物/混合物と表記する。)を含む。当該化合物/混合物はアルカリ土類金属とケイ素の両方を含むものであれば特段限定されず、化合物としてはケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ストロンチウム、ケイ酸バリウム、ウォラストナイト、タルク、アタパルジャイト、セピオライトなどがあげられる。このうち、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ストロンチウム、ウォラストナイトなどが化合物の添加効果と活性のバランスが優れていることから好ましい。また、混合物としてはコロイダルシリカ、フュームドシリカ、溶融シリカ、シリカゲルとアルカリ土類金属の塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ケイ酸塩、酸化物、水酸化物などがあげられる。アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムがあげられ、好ましくはカルシウム、ストロンチウムであり、特に好ましくはカルシウムである。当該化合物/混合物を含むことにより、アルカリ土類金属がゼオライトの酸点を修飾し、またケイ素がゼオライトの格子欠陥を修復し、触媒寿命が向上すると考えられる。同じ化合物の中にアルカリ土類金属およびケイ素があることにより、添加効果がより優れていると考えられる。また混合物であっても、コロイダルシリカに代表される細かい粒子であると、優れた添加効果を得ることができる。
【0029】
該化合物/混合物は、特に限定されないが、例えばゼオライトと共に混練・押出成形し、焼成するなどしてゼオライト触媒となる。この時該化合物/混合物は、ゼオライト触媒におけるバインダーとしても機能し、その含有量は特段限定されないが、ゼオライト100重量部に対して通常5重量部以上、好ましくは10重量部以上、また通常500重量部以下、好ましくは400重量部以下である。なお、上記化合物/混合物以外のバインダー
(その他のバインダーともいう)を用いてもよい。その他のバインダーとしては、γ-アルミナ、アルミナゾル、ベーマイト、粘土などがあげられる。
また、該化合物/混合物中のアルカリ土類金属とケイ素との重量比は特段限定されないが、通常1:100~10:1であり、好ましくは1:20~5:1である。
【0030】
本実施形態のゼオライト触媒は、低級オレフィンを製造する際に用いられる。原料としてはメタノール、ジメチルエーテルがあげられるがこれに限定されず、目的とするオレフィンの種類によって適宜選択することができる。
メタノールおよびジメチルエーテルの製造由来は特に限定されない。例えば、石炭および天然ガス、ならびに製鉄業における副生物由来の水素/COの混合ガスの水素化反応により得られるもの、植物由来のアルコール類の改質反応により得られるもの、発酵法により得られるもの、再循環プラスチックや都市廃棄物等の有機物質から得られるもの等が挙げられる。このとき各製造方法に起因するメタノールおよびジメチルエーテル以外の化合物が任意に混合した状態のものをそのまま用いてもよいし、精製したものを用いてもよい。
なお、反応原料としては、メタノールのみを用いてもよく、ジメチルエーテルのみを用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。メタノールとジメチルエーテルを混合して用いる場合、その混合割合に制限はない。
【0031】
以下に、上記触媒および原料を用いる低級オレフィンの製造方法について、原料がメタノール及び/又はジメチルエーテルである場合を例示して説明する。
本発明の別の実施形態である製造方法は、メタノール及び/又はジメチルエーテルを含む原料に、上記ゼオライト触媒を接触させる工程、を備える。本実施形態における反応様式としては、メタノール及び/又はジメチルエーテル供給原料が反応域において気相であれば特に限定されず、流動床反応装置、移動床反応装置または固定床反応装置を用いた公知の気相反応プロセスを適用することができる。固定床反応装置の場合、特に附帯設備を含めた設備費、触媒コスト、運転管理の点で有利である。
また、バッチ式、半連続式または連続式のいずれの形態でも行われ得るが、連続式で行うのが好ましく、その方法は、単一の反応器を用いた方法でもよいし、直列または並列に配置された複数の反応器を用いた方法でもよい。
【0032】
なお、流動床反応器に前述の触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と混合して充填してもよい。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量は特に制限はない。なお、この粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径であることが好ましい。
また、反応器には、反応に伴う発熱を分散させることを目的に、反応基質(反応原料)を分割して供給してもよい。
【0033】
反応器に供給する全供給成分中の、メタノールとジメチルエーテルの合計濃度(基質濃度)に関して特に制限はないが、メタノールとジメチルエーテルの和は、全供給成分中、90モル%以下が好ましい。更に好ましくは10モル%以上70モル%以下である。
【0034】
反応器内には、メタノール及び/又はジメチルエーテルの他に、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水、パラフィン類、メタン等の炭化水素類、芳香族化合物類、および、それらの混合物など、反応に不活性な気体(希釈剤とも称する。)を存在させることができるが、この中でも水(水蒸気)が共存しているのが、分離が良好であることから好ましい。
このような希釈剤としては、反応原料に含まれている不純物をそのまま使用してもよいし、別途調製した希釈剤を反応原料と混合して用いてもよい。また、希釈剤は反応器に入
れる前に反応原料と混合してもよいし、反応原料とは別に反応器に供給してもよい。
【0035】
反応温度の下限としては、通常約200℃以上、好ましくは250℃以上、より好ましくは300℃以上であり、反応温度の上限としては、通常750℃以下、好ましくは700℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が低く、未反応原料が多く残る傾向となり、更に低級オレフィンの収率も低下する。一方で反応温度が高すぎると触媒の安定活性が得られにくく低級オレフィンの収率が著しく低下する。なお、ここで、反応温度とは、触媒層入口の温度をさす。
【0036】
反応圧力の上限は通常5MPa(絶対圧、以下同様)以下、好ましくは2MPa以下であり、より好ましくは1MPa以下、特に好ましくは0.7MPa以下である。また、反応圧力の下限は特に制限されないが、通常0.1kPa以上、好ましくは7kPa以上、より好ましくは50kPa以上である。反応圧力が高すぎるとパラフィン類や芳香族化合物等の好ましくない副生成物の生成量が増え、低級オレフィンの収率が低下する傾向がある。反応圧力が低すぎると反応速度が遅くなる傾向がある。
【0037】
反応器出口ガス(反応器流出物)としては、反応生成物である低級オレフィン、副生成物および希釈剤を含む混合ガスが得られる。該混合ガス中の低級オレフィン濃度は通常5~95重量%である。
反応条件によっては反応生成物中に未反応原料としてメタノールおよび/またはジメチルエーテルが含まれるが、メタノールおよび/またはジメチルエーテルの転化率が100%になるような反応条件で反応を行うのが好ましい。それにより、反応生成物と未反応原料との分離が容易に、好ましくは不要になる。
副生成物としては炭素数が5以上のオレフィン類、パラフィン類、芳香族化合物および水が挙げられる。
【0038】
反応器出口ガスとしての、反応生成物である低級オレフィン、未反応原料、副生成物および希釈剤を含む混合ガスは、公知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行えばよい。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
[実施例1]
水酸化ナトリウム0.4kg、30wt%N,N,N-トリメチル-(-)-cis-ミルタニルアンモニウムハイドロキサイド水溶液23.6kgおよび水24.4kgを混合し、これにホウ酸0.4kgおよび硫酸アルミニウム0.08kgを加えて撹拌した後に、シリカ源としてCataloidSI-30を32.6kg加えて十分に撹拌した。さらに種結晶としてBEA型ゼオライトを0.2kg加えて、撹拌することにより原料ゲルを調製した。
【0040】
得られた原料ゲルをオートクレーブに仕込み、170℃、4日間加熱した。生成物を濾過、水洗した後、100℃で乾燥させ、白色粉末を得た。生成物のX線回折(XRD)パターンから、得られた生成物がCON型ゼオライトであることを確認した。誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)により元素分析を行ったところ、Si/Al比は270、Si/B比は25であった。乾燥後に、空気雰囲気下、600℃で6時間焼成し、ナトリウム型ゼオライト粉末を得た。
【0041】
得られた粉末を1N硝酸アンモニウム水溶液中で80℃、1時間のイオン交換を行い、その後濾過した。濾過した粉末を再び1N硝酸アンモニウム水溶液中で80℃、1時間の
イオン交換を行い、その後、濾過、乾燥してアンモニウム型のCON型ゼオライトを得た。
アンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)400gと、ウォラストナイト(NYCO社製)100gとを混合し、さらに適量のメチルセルロース、脱塩水を加えて混練し、これらの混合体を得た。この混合体を押出機にて押出成形し乾燥した後600℃で焼成し、成形体を得た。
【0042】
[実施例2]
実施例1で得られたアンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)2.0gと、ケイ酸カルシウム(SIGMA-ALDRICH社製)0.5gとを混合し、さらに適量のメチルセルロース、脱塩水を加えて混練し、これらの混合体を得た。この混合体を乾燥した後600℃で焼成し、成形体を得た。
【0043】
[実施例3]
実施例1で得られたアンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)400gと、溶融シリカ(アドマテックス社製)100gと、炭酸カルシウム(和光純薬工業社製)25gを混合し、さらに適量のメチルセルロース、脱塩水を加えて混練し、これらの混合体を得た。この混合体を乾燥した後600℃で焼成し、成形体を得た。
【0044】
[実施例4]
実施例1で得られたアンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)400gと、イオン交換処理したコロイダルシリカ(日産化学工業社製)490gと、炭酸カルシウム(和光純薬工業社製)25gを混合し、さらに適量のメチルセルロース、脱塩水を加えて混練し、これらの混合体を得た。この混合体を乾燥した後600℃で焼成し、成形体を得た。
【0045】
[実施例5]
実施例1で得られたアンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)400gと、コロイダルシリカ(扶桑化学工業社製)500gと、炭酸カルシウム(和光純薬工業社製)25gを混合し、さらに適量のメチルセルロース、脱塩水を加えて混練し、これらの混合体を得た。この混合体を乾燥した後600℃で焼成し、成形体を得た。
【0046】
[比較例1]
実施例1で得られたアンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)2.0gに適量のメチルセルロース、脱塩水を加えて混練し、これらの混合体を得た。この混合体を乾燥した後600℃で焼成し、成形体を得た。
【0047】
[比較例2]
実施例1で得られたアンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)250gと、アルミナ(日揮触媒化成社製)63gと、炭酸カルシウム(和光純薬工業社製)16gとを混合し、さらに適量のメチルセルロース、脱塩水を加えて混練し、これらの混合体を得た。この混合体を押出機にて押出成形し乾燥した後600℃で焼成し、成形体を得た。
【0048】
[比較例3]
実施例1で得られたアンモニウム型のCON型ゼオライト(Si/Al=270)2500gと、炭酸カルシウム(和光純薬工業社製)156gとを混合し、さらに適量の結晶性セルロース、脱塩水を加えて造粒した。乾燥後、600℃で焼成し、成形体を得た。
【0049】
【表1】
【0050】
<低級オレフィンの製造I>
実施例1~3、比較例1~3で得られたゼオライト触媒を用いて、低級オレフィンの製造を行った。実施例1、2はアルカリ土類金属とケイ素を含む化合物を用い、実施例3はアルカリ土類金属とケイ素を含む混合物を用いている。比較例1はゼオライトにアルカリ土類金属を含む化合物もケイ素を含む化合物も併用しない場合、比較例2はゼオライトとアルカリ土類金属を含む化合物を併用するが、ケイ素を含む化合物の代わりにアルミニウムを含む場合、比較例3はアルカリ土類金属を含む化合物のみを併用する例となる。
反応には、固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英反応管に、実施例1~3、比較例1~3で得られたゼオライト触媒をゼオライト相当量が50mgとなるようにそれぞれ充填した。メタノール50モル%、窒素50モル%の混合ガスをメタノールの重量空間速度が10時間-1となるように反応器に供給し、500℃、0.1MPa(絶対圧)で反応を行った。反応開始から1時間毎にガスクロマトグラフィーで生成物の分析を行った。表2に反応開始から15時間後のコーク量を測定した結果を示す。尚、コーク量測定は島津製作所社製TGA-50を用いて行った。He流通下室温で30分保持した後、550℃まで昇温し30分保持した。その後、流通ガスをHeからAirに切り替え600℃まで昇温し120分保持した。コーク量は(Air流通時の重量減少量)/(測定終了後の重量)として定義した。
【0051】
【表2】
【0052】
<低級オレフィンの製造II>
実施例1、3、4、5、比較例2、3で得られたゼオライト触媒を用いて、低級オレフィンの製造を行った。
反応には、固定床流通反応装置を用い、内径24mmのSUS反応管に、実施例1、3、比較例2、3で得られたゼオライト触媒46gをそれぞれ充填した。メタノール25モル%、水50モル%、窒素24モル%、1-ヘキセン1モル%の混合ガスをメタノールの重量空間速度が1.5時間-1となるように反応器に供給し、500℃、0.2MPa(絶対圧)で反応を行った。反応開始から2時間毎にガスクロマトグラフィーで生成物の分析を行った。表3にそれぞれのゼオライト触媒の触媒寿命、C2-C4オレフィン選択率を示す。また、図1にメタノール転化率のグラフを、図2にC2-C4オレフィン選択率のグラフを示す。なお、触媒寿命はメタノール転化率が95%以上を維持する時間、C2-C4オレフィン選択率はメタノール転化率が95%以上を維持する時間におけるC2-C4オレフィン選択率の平均として定義した。
【0053】
【表3】
【0054】
低級オレフィンの製造Iに示すように、実施例1~3のアルカリ土類金属とケイ素を含むゼオライト触媒を使用して反応を行ったところ、比較例1のアルカリ土類金属とケイ素を含まないゼオライト触媒や、比較例2、3のアルカリ土類金属のみを含むゼオライト触媒を使用して反応を行った時と比較して、コーク量が少なかった。つまり、実施例に係わるゼオライト触媒は、コーキングによる失活が起こりにくく、触媒寿命が長いといえる。中でも、アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物を含有するゼオライト触媒を用いた実施例1、2については特にコーク量が少なかった。
また、低級オレフィンの製造IIに示すように、実施例1、3、4、5のゼオライト触媒を使用して寿命評価を行ったところ、長時間に亘って高い原料転化率を維持しており、触媒寿命が長かった。低級オレフィンの製造IIにおいても、アルカリ土類金属とケイ素を含む化合物を含有するゼオライト触媒を用いた実施例1が長時間に亘って高い原料転化率を維持しており、触媒寿命が長かった。また、コロイダルシリカを用いた実施例4,5も長時間に亘って高い原料転化率を維持しており、触媒寿命が長かった。
図1
図2