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特許7222928フライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】フライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230208BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20230208BHJP
   C11B 3/02 20060101ALI20230208BHJP
   C11B 3/10 20060101ALI20230208BHJP
   C11B 3/14 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/02
C11B3/02
C11B3/10
C11B3/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019569010
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2019001617
(87)【国際公開番号】W WO2019151007
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018015952
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】境野 眞善
(72)【発明者】
【氏名】堀 竜二
(72)【発明者】
【氏名】荒井 尚志
(72)【発明者】
【氏名】牧田 成人
(72)【発明者】
【氏名】岡部 遼
(72)【発明者】
【氏名】佐野 貴士
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316254(JP,A)
【文献】特開2002-238455(JP,A)
【文献】国際公開第2010/050449(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/064569(WO,A1)
【文献】特開2015-119728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
C11B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材のフライ調理時のフライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法であって、
食用油脂に調製油を添加する工程を含み、
前記調製油は、
油糧原料から得られる粗原油の精製工程において、順に、
(1)脱ガム工程、
(2)実施又は未実施の脱酸工程、
(3)実施又は未実施の脱色工程、及び
(4)脱臭工程
を経たものであり、
前記調製油の前記(3)の工程後の、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.030以上であることを特徴とする、前記抑制方法。
【請求項2】
前記吸光度差が0.045以上である、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項3】
前記脱臭工程は、
水蒸気の使用量が0.1質量%以上10質量%以下、
脱臭温度が180℃以上300℃以下、及び
脱臭時間が10分以上240分以下
の条件で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項4】
前記油糧原料は、大豆、菜種、パーム果肉、オリーブ及びグレープシードから選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項5】
前記食用油脂は、大豆油、菜種油、パーム系油脂、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、綿実油、米油及び紅花油から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項6】
前記フライ調理用油脂組成物中の前記調製油が、0.05質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項7】
前記調製油由来のリン分が前記フライ調理用油脂組成物中0.01質量ppm以上10質量ppm以下となるように前記食用油脂に添加することを特徴とする、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項8】
前記(3)が実施の脱色工程である、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項9】
前記フライ調理用油脂組成物が、シリコーンを含む、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項10】
食材のフライ調理時のフライ調理用油脂組成物の着色抑制剤であって、
前記着色抑制剤は、調製油を含み、
前記調製油は、
油糧原料から得られる粗原油の精製工程において、順に、
(1)脱ガム工程、
(2)実施又は未実施の脱酸工程、
(3)実施又は未実施の脱色工程、及び
(4)脱臭工程
を経たものであり、
前記調製油の前記(3)の工程後の、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.030以上であることを特徴とする、前記着色抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法に関し、より詳細には粗原油の精製工程を調整した調製油を使用することを特徴とする前記抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆油、菜種油等の食用油脂を用いて食材をフライ調理すると、加熱操作、食材や雰囲気中の酸素や水分の影響によって、食用油脂が着色する。食用油脂の着色が進行すると、フライ品の品質が悪化するため、食用油脂を長時間使用することができない。
【0003】
食用油脂で揚げ物を調理する際の加熱着色を抑制する先行技術として、特許文献1は、精製された食用油脂に圧搾油及び/又は抽出油、脱ガム油などのリン由来成分を添加することにより揚げ物用油脂組成物の加熱耐性を向上させる方法を提案する。特許文献1の発明によれば、揚げ物用油脂組成物の加熱安定性を向上させ、特に加熱着色及び加熱臭の抑制をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-050234号公報(加熱耐性に優れた揚げ物用油脂組成物の製造方法)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特許文献1のリン分を用いる方法とは異なる方法で、食材を油脂組成物でフライ調理した時の油脂組成物の着色を抑制する方法を新規に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討した結果、精製工程を特定の条件に調整して得られる調製油を食用油脂に添加することにより上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、フライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法であって、
食用油脂に調製油を添加する工程を含み、
前記調製油は、油糧原料から得られる粗原油の精製工程において、順に、
(1)脱ガム工程、
(2)実施又は未実施の脱酸工程、
(3)実施又は未実施の脱色工程、及び
(4)脱臭工程
を経たものであり、
前記調製油の前記(3)の工程後の、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が0.030以上であることを特徴とする、前記抑制方法に関する。
【0007】
特許文献1は、圧搾油や抽出油のような粗原油、脱ガム油、脱酸工程のみを除いた粗精製油のような中間的油脂を記載するものの、本発明で規定するような吸光度差を示す調製油は全く開示されていない。
【0008】
前記吸光度差は、0.045以上であることが好ましい。
【0009】
前記脱臭工程は、水蒸気の使用量が0.1質量%以上10質量%以下、脱臭温度が180℃以上300℃以下、及び脱臭時間が10分以上240分以下の条件で実施されることが好ましい。
【0010】
前記油糧原料は、大豆、菜種、及びパーム果肉から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0011】
前記食用油脂は、大豆油、菜種油、パーム系油脂、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、綿実油、米油及び紅花油から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0012】
前記フライ調理用油脂組成物中の前記調製油は、0.05質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記抑制方法において、前記調製油由来のリン分が前記フライ調理用油脂組成物中0.01質量ppm以上10質量ppm以下となるように前記食用油脂に添加してもよい。
【0014】
前記(3)は、特に実施の脱色工程である。
【0015】
前記フライ調理用油脂組成物が、シリコーンを含むことが好ましい。
【0016】
本発明は、また、フライ調理用油脂組成物の着色抑制剤であって、
前記着色抑制剤は、調製油を含み、
前記調製油は、
油糧原料から得られる粗原油の精製工程において、順に、
(1)脱ガム工程、
(2)実施又は未実施の脱酸工程、
(3)実施又は未実施の脱色工程、及び
(4)脱臭工程
を経たものであり、
前記調製油の前記(3)の工程後の、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.030以上であることを特徴とする、前記着色抑制剤を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法、及びフライ調理用油脂組成物の着色抑制剤によれば、フライ調理用油脂組成物を例えば20時間のような長時間、食材のフライ調理に用いても、油脂組成物の着色は、前記調製油を添加していない対照油の着色と比べて有意に抑制される。この着色の抑制は、油脂組成物の延命に大いに寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。本発明の加熱時におけるフライ調理用油脂組成物の着色の抑制方法(以下、本発明の方法という)は、食用油脂に調製油を添加する工程を含む。前記食用油脂は、フライ調理用油脂組成物のベース油となるものである。食用油脂は、通常、精製油である。前記食用油脂の例は、大豆油、菜種油、パーム油、パーム核油、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、グレープシード油、綿実油、紅花油、亜麻仁油、ゴマ油、米油、落花生油、ヤシ油等の植物油脂、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂等の動物油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリド並びにこれらに分別、水素添加、エステル交換等を施した加工油脂が挙げられる。これらの食用油脂は、一種単独でも二種以上の併用でもよい。食用油脂は、大豆油、菜種油、パーム系油脂、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、綿実油、米油及び紅花油から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、大豆油、菜種油及びパーム系油脂から選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。食用油脂は、大豆油、菜種油、パーム系油脂、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、綿実油、米油及び紅花油の含有量の合計が、60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、75質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。ここでいうパーム系油脂とは、パーム油及びパーム油の加工油脂を意味する。
【0019】
前記食用油脂は、好ましくは融点が10℃以下、より好ましくは0℃以下である。なお、本明細書で、融点は、上昇融点を意味する。上昇融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に則って測定することができる。
【0020】
前記食用油脂の前記フライ調理用油脂組成物に対する含有量は、通常、80質量%以上でよく、好ましくは88質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは93質量%以上である。食用油脂の含有量の上限は特にないが、食用油脂と調製油の合計が100質量%以下である。
【0021】
前記調製油は、油糧原料から得られる粗原油の精製工程において、順に、(1)脱ガム工程、(2)実施又は未実施の脱酸工程、(3)実施又は未実施の脱色工程、及び(4)脱臭工程を経たものである。
【0022】
前記油糧原料の例は、大豆、菜種、パーム果肉、コーン、オリーブ、グレープシード、ゴマ、紅花、ひまわり、綿実、米、落花生、パーム核、ヤシ、亜麻仁等を含む。前記油糧原料は、大豆、菜種、及びパーム果肉から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、大豆及び菜種から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0023】
上記粗原油は、上記油糧原料を圧搾抽出及び/又は溶剤抽出にかけることにより得られる。圧搾抽出は、油糧原料に高圧を加えて細胞中の油分を搾り取ることにより行うものである。圧搾抽出は、ゴマのような比較的油分の高い油糧原料に向いている。溶剤抽出は、油糧原料を圧扁もしくは圧搾抽出後の残渣に溶剤を接触させ、油分を溶剤溶液として抽出し、得られる溶液から溶剤を留去して油分を得ることにより行う。溶剤抽出は、大豆のような油分の少ない油糧原料に向いている。溶剤には、ヘキサン等の有機溶剤が使用される。
【0024】
(1)の脱ガム工程は、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程である。本発明において、脱ガム工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、水の使用量は、粗原油に対して、通常、1質量%以上5質量%以下、好ましくは1.5質量%以上3質量%以下である。適宜、シュウ酸、クエン酸、リン酸等の酸の水溶液からなる脱ガム助剤を添加してもよい。脱ガム温度は、通常、40℃以上95℃以下でよく、好ましくは60℃以上95℃以下である。粗原油に水蒸気又は水を加えて攪拌することにより、ガム質が水和して水溶性となり、水層へ移る。撹拌時間は、通常、1分以上60分以下である。この水層は遠心分離機等で分離除去され、脱ガム油が得られる。
【0025】
(2)の脱酸工程は、炭酸ナトリウムや苛性ソーダといったアルカリの水溶液で処理することにより油分中に含まれる遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。本発明において、脱酸工程の処理条件は、特に制限されず、汎用の条件を使用可能である。例えば、3質量%以上40質量%以下のアルカリ水溶液を、脱ガム油に対して、通常、0.1質量%以上5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上3質量%以下となるように添加する。脱酸温度は、通常、20℃以上120℃以下でよく、好ましくは35℃以上95℃以下である。油脂に不溶の上記セッケン分は、遠心分離機等で分離除去され、脱酸油が得られる。
【0026】
好ましくは、(2)の脱酸工程は、実施しないことである。
【0027】
前記脱酸工程は、アルカリを用いない物理的精製法でもよい。物理的精製法には、水蒸気蒸留法や分子蒸留法がある。
【0028】
(3)の脱色工程は、油分中に含まれる色素を減圧下で、活性白土、活性炭等へ吸着させて除去する工程である。脱色工程は、通常、無水下で行われるが、水の存在下で行ってもよい。通常の精製工程における脱色工程の条件は、活性白土の使用量が油脂に対して、0.05質量%以上5質量%以下であり、脱色温度が60℃以上120℃以下であり、そして、脱色時間が5分以上120分以下である。脱色工程で色素の付着した活性白土等は、減圧濾過等により除去され、脱色油が得られる。
【0029】
本発明においては、活性白土の使用量が脱ガム油又は脱酸油に対して0.05質量%以上2質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以上0.6質量%以下であることがさらにより好ましい。また、脱色温度は、70℃以上120℃以下であることが好ましく、75℃以上110℃以下であることがより好ましい。またさらに、脱色時間は、5分以上80分以下であることが好ましく、5分以上60分以下であることがより好ましい。このような条件下で緩和な脱色工程を実施するか、又は未実施とすると、本発明で規定する範囲の吸光度差を有する調製油が容易に得られる。
【0030】
(4)の脱臭工程は、減圧下で水蒸気蒸留することによって油分中に含まれる有臭成分を除去する工程である。通常の精製条件の脱臭工程は、油脂に対して水蒸気の使用量が0.1質量%以上10質量%以下、脱臭温度が180℃以上300℃以下、減圧度150Pa以上1000Pa以下、脱臭時間10分以上240分以下で行う。なお、本発明においては水蒸気の使用量は、脱ガム油、脱酸油又は脱色油に対して、好ましくは0.3質量%以上8質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以上5質量%以下である。脱臭温度は、好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは230℃以上300℃以下、さらに好ましくは240℃以上280℃以下である。減圧度は、温度に依存するが、好ましくは200Pa以上800Pa以下である。また、脱臭時間は、脱臭温度及び減圧度に依存するが、好ましくは20分以上240分以下である。特に、脱臭工程は、水蒸気の使用量が脱ガム油、脱酸油又は脱色油に対して、0.3質量%以上5質量%以下、脱臭温度が240℃以上280℃以下、そして脱臭時間が20分以上240分以下の強化した精製条件にて行うことにより、フライ調理用油脂組成物の加熱時のにおいを抑制することができる。
【0031】
前記調製油の前記(3)の工程後の、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が0.030以上であり、0.045以上であることが好ましく、0.065以上であることがより好ましい。前記吸光度差が0.030以上であることにより、高い着色の抑制効果が得られるとともに食用油脂に対する調製油の添加量を抑えることができる。前記吸光度差の上限は、通常、2.0以下であり、好ましくは1.5以下であり、より好ましくは1.0以下である。
【0032】
なお、(2)が実施又は未実施の脱酸工程、且つ、(3)が実施の脱色工程の場合、前記吸光度差は、前記脱色油の算出値を意味する。(2)が実施の脱酸工程、且つ、(3)が未実施の脱色工程の場合、前記吸光度差は、前記脱酸油の算出値を意味する。(2)が未実施の脱酸工程、且つ、(3)が未実施の脱色工程の場合、前記吸光度差は、前記脱ガム油の算出値を意味する。
【0033】
前記フライ調理用油脂組成物中の前記調製油は、通常、0.05質量%以上20質量%以下でよく、好ましくは0.05質量%以上12質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上12質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上10質量%以下であり、さらにより好ましくは0.25質量%以上7質量%以下である。
【0034】
前記調製油は、調製油由来のリン分が油脂組成物中、好ましくは0.01質量ppm以上10質量ppm以下、さらに好ましくは0.1質量ppm以上10質量ppm以下となるように添加されてもよい。
【0035】
上記フライ調理用油脂組成物は、シリコーンを含むことが好ましい。シリコーンは、通常、フライ調理用の食用油脂に配合される種類のシリコーンを用いることができる。シリコーンの25℃における動粘度は、10cSt以上1200cSt以下であることが好ましく、80cSt以上1200cSt以下であることがより好ましく、400cSt以上1200cSt以下であることがさらに好ましく、900cSt以上1100cSt以下であることが特に好ましい。前記シリコーンは、フライ調理用油脂組成物中に0.5質量ppm以上10質量ppm以下含まれることが好ましく、1質量ppm以上5質量ppm以下含まれることがより好ましく、2質量ppm以上4質量ppm以下含まれることがさらに好ましく、3質量ppm含まれることが特に好ましい。
【0036】
上記フライ調理用油脂組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、食用油脂に添加される汎用の助剤を添加することができる。そのような助剤の例には、トコフェロール等の抗酸化剤;香料;乳化剤等が挙げられる。
【0037】
上記フライ調理用油脂組成物は、食材や調理方法に応じて、例えば140℃以上200℃以下の温度にて、フライ調理に用いることができる。フライ食品の例として、唐揚げ、コロッケ、天ぷら、野菜や魚介類の素揚げ、カツ、フリッター、揚げ菓子又は揚げパン、揚げ麺等が挙げられる。
【0038】
本発明は、また、フライ調理用油脂組成物の着色抑制剤であって、
前記着色抑制剤は、調製油を含み、
前記調製油は、
油糧原料から得られる粗原油の精製工程において、順に、
(1)脱ガム工程、
(2)実施又は未実施の脱酸工程、
(3)実施又は未実施の脱色工程、及び
(4)脱臭工程
を経たものであり、
前記調製油の前記(3)の工程後の、イソオクタンを対照とした波長660nmの吸光度から波長750nmの吸光度を引いた吸光度差が、0.030以上であることを特徴とする、前記着色抑制剤を提供する。前記調製油の内容は、上記抑制方法で説明したものと同じなので、説明を省略する。
【0039】
前記着色剤抑制剤中の前記調製油の担体(希釈剤)は、通常、食用油脂であり、その具体例は、前記フライ調理用油脂組成物のベース油で例示したものと同様である。前記着色抑制剤に適宜添加される助剤の例には、酸化防止剤、消泡剤、乳化剤、香料、生理活性物質等が挙げられる。
【0040】
前記着色抑制剤中の前記調製油の含有量は、通常、5質量%以上100質量%以下でよく、好ましくは10質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上100質量%以下である。
【0041】
本発明による着色の抑制効果は、例えば以下の方法で評価可能である。
1.色調の測定
AOCS Cc13j-97に準じて、ロビボンド自動比色計を用いてロビボンドセルに入れた試験油又は対照油の色度を室温下で測定する。得られた色度Y値とR値から色調(Y+10R)を求める。
【0042】
2.着色抑制率の算定
対照油の色調を基準とした試験油の着色抑制率を、以下に示す式:
【数1】
で算出する。
【0043】
本発明によれば、本発明に従う調製油を含まない対照油を基準とした着色抑制率は、調製油の添加量、食材、フライ調理温度等に応じて変わるが、通常、5~40%程度となる。
【実施例
【0044】
以下に、本発明の実施例を示すことにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、各表のリン分(質量ppm)については、検出限界未満を「0」と表記した。また、各表の油脂組成物リン分(質量ppm)は、調製油のリン分と添加量から算出した値である。
〔調製例〕精製油及び調製油の調製
表1に示す精製油を用意し、そして表1に示す精製工程の特徴に従って調製油を調製した。
【0045】
【表1】
【0046】
上記精製油及び調製油の吸光度差の算出及びリン分の測定は、以下の方法により行った。
(吸光度差)
対照用及び測定用石英セル(1cm)にイソオクタン(分光分析用試薬、和光純薬工業株式会社製)を入れ、紫外可視分光光度計(製品名「SHIMADZU UV-2450」、株式会社島津製作所製)を用いて600~750nmの範囲でベースライン補正を行った。次に、測定用石英セルに試験油脂を入れ吸光度を測定した。750nmにおける吸光度をゼロとしたときの660nmにおける吸光度(吸光度差)を記載した。
【0047】
(リン分)
試験油脂をキシレンで希釈し、ICP発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製)で分析した。また、定量にあたっては、CONOSTAN(登録商標) Oil Analysis Standard(SCP SCIENCE社製)を使用した。
【0048】
〔実施例1~4〕調製油の脱色工程変更試験
(1)フライ調理用油脂組成物の調製
ベース油となる上記精製菜種油に、表2に示す調製油を2又は3質量%となるように添加することによりフライ調理用油脂組成物を調製した。以降、ベース油を対照油といい、ベース油に調製油を添加した油脂組成物を試験油という。
【0049】
(2)フライ調理試験
上記試験油及び対照油のフライ調理試験を以下の手順で行った。なお、対照油のフライ調理試験も試験毎に行った。他の実施例でも同様である。
【0050】
まず、フライ調理試験の揚げ種として、以下の加工食品:
唐揚げ:製品名「若鶏唐揚げ(GX388)」(味の素冷凍食品株式会社製)、
ポテトコロッケ:製品名「NEWポテトコロッケ60(GC080)」(約60g/個、味の素冷凍食品株式会社製)を用意した。
【0051】
電気フライヤー(製品名:FM-3HR、マッハ機器株式会社製)に、試験油又は対照油を3.4kg投入し、180℃の揚げ温度まで昇温した。昇温後、電気フライヤーに、唐揚げ又はポテトコロッケを以下に示す要領で投入して、揚げ調理を1日10時間で延べ20時間行った。
【0052】
(フライ条件)
唐揚げ:揚げ質量400g/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数5回/日(1日目及び2日目に実施)、
ポテトコロッケ:揚げ数量5個/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数2回/日(1日目のみ実施)
【0053】
(3)油脂組成物の着色抑制の効果の評価
フライ調理試験後の試験油及び対照油をサンプリングして、以下の方法で着色抑制の効果を評価した。
1.色調の測定
AOCS Cc13j-97に準じて、ロビボンド自動比色計(Lovibond(登録商標)PFXi-880、The Tintometer Ltd.製)を用いて、ロビボンドセル(W600/OG/1 inch)に入れた試験油又は対照油の色度を室温下で測定した。得られた色度Y値とR値から色調(Y+10R)を求めた。
【0054】
2.着色抑制率の算定
対照油の色調を基準とした試験油の着色抑制率を、以下に示す式:
【数2】
で算出した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
対照油(脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程及び脱臭工程を通常の条件で行った精製菜種油)を用いた比較例1では、20時間のフライ調理試験後の色調が28であった。一方、本発明に従う調製油1を添加した試験油を用いた実施例1では、色調が25に抑えられた。すなわち、本発明により、着色が10.7%抑制されたことになる。本発明に従う調製油2、3又は5を添加した試験油を用いた実施例2~4でも、14.7~20.6%の着色抑制率が達成された。これらの実施例の油脂組成物のリン分が0~0.084質量ppmと極めて低いことから、実施例の着色抑制効果は、特許文献1に示すようなリン分によるものではない。以上のことから、本発明に従って、実施又は未実施の脱色工程後の吸光度差を有するように調製された調製油には、フライ調理時の油脂組成物の着色を抑制する効果があることが判明した。
【0057】
〔実施例5〕調製油の脱臭工程変更試験(1)
本発明に使用する調製油が、その精製工程において脱臭工程を経ることが必須か否かを試験するために、脱色及び脱臭工程を経ていない調製油4(比較例4)、及び脱色工程を経ていないが脱臭工程を経ている調製油6(実施例5)をベース油に1.6質量%になるよう添加した試験油を調製した。これらの試験油のフライ調理試験及び評価を実施例1と同じ手順で実施した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
比較例4に示すように、本発明で規定する吸光度差を有するように調製されているが、脱臭工程を経ていない調製油4を含む試験油では、対照油に比べてフライ調理試験後の着色の促進が認められた。一方、実施例5に示すように、本発明で規定する吸光度差を有するように調製され、かつ脱臭工程にかけられている調製油6を含む試験油では、フライ調理試験後の着色が顕著に抑制された。以上のことから、本発明に用いる調製油は、脱臭工程を経ていることが必要であることが判明した。
【0060】
〔実施例6~9〕調製油の脱臭工程変更試験(2)
本発明に使用する調製油の脱臭工程における精製条件を検討するために、緩和な脱臭工程を経た調製油9、通常の脱臭工程を経た調製油10、及び、強化した脱臭工程を経た調製油11及び12をベース油に2.0質量%になるように添加した試験油を調製した。これらの試験油のフライ調理試験及び評価を実施例1と同じ手順で実施した。結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、いずれの脱臭条件においても、フライ調理試験後の試験油の着色は抑制された。また、精製工程の脱臭工程条件を強化するほど、試験油の着色抑制率が良化した。
【0063】
〔実施例10~12〕調製油の脱酸工程変更試験
本発明に使用する調製油が、その精製工程において脱酸工程を経ることが必須か否かを試験するために、本発明が規定する吸光度差を有するが脱酸工程を経ていない調製油13~15をベース油に2質量%になるよう添加した試験油を調製した。これらの試験油のフライ調理試験及び評価を実施例1と同じ手順で実施した。結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5に示すように、本発明に従って一定の吸光度差を有する調製油であれば、脱酸工程の実施の有無に関わらず本発明の効果は得られた。実施例7と実施例11を比較すると脱酸工程を未実施とすることでより着色抑制効果が高いことがわかる。実施例10~12の高い着色抑制率には、調製油に含まれるリン分による効果も反映されたものと考えられる。
【0066】
〔実施例13~16〕調製油の添加量変更試験
本発明のフライ調理用油脂組成物中の調製油の添加量を変更する試験を行った。具体的には、粗原油の精製工程において脱色工程を実施しない調製油7を表6に示す添加量でベース油に添加した試験油を調製した。これらの試験油のフライ調理試験及び評価を実施例1と同じ手順で実施した。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
表6に示すように、本発明に従う調製油を添加した試験油を用いてフライ調理を行うと、フライ調理試験後の油脂組成物の着色は、対照油と比べて有意に抑制された。実施例13~16の結果から、フライ調理用油脂組成物中の調製油は0.3質量%以上6質量%以下で効果が得られ、特に、0.5質量%以上6質量%以下でより高い効果が得られ、0.5質量%以上1.5質量%以下で特に高い効果が得られた。
【0069】
〔実施例17~20〕ベース油変更試験
実施例13~16において、ベース油を変更する試験を行った。具体的には、調製油7又は8を表7に示すベース油に2.0質量%となるように添加した試験油を調製した。これらの試験油のフライ調理試験及び評価を実施例1と同じ手順で実施した。結果を表7に示す。
【0070】
【表7】
【0071】
表7に示すように、ベース油を菜種油から、大豆油、パームオレイン、又は、これらの調合油に変更しても、フライ調理試験後の油脂組成物の着色を抑制することができた。実施例18と実施例19を比較すると、シリコーンを含むフライ調理用油脂組成物において、顕著な着色の抑制効果が得られることがわかる。
【0072】
〔実施例21〕調製油の油糧原料の変更試験(1)
調製油の油糧原料を菜種から大豆に変更する試験を行った。大豆由来で脱色工程未実施の調製油17をベース油に10質量%となるように添加した試験油を調製した。また、通常の精製工程を経た大豆油(調製油16)を精製菜種油に10質量%となるように添加した比較例14の対照油を調製した。この試験油及び対照油のフライ調理試験及び評価を実施例1と同じ手順で実施した。結果を表8に示す。
【0073】
【表8】
【0074】
表8に示すように、調製油の油糧原料を菜種から大豆に変更しても、フライ調理試験後の油脂組成物の着色を抑制することができた。
【0075】
〔実施例22~23〕調製油とクロロフィル色素の併用添加試験
本発明に従う調製油にさらにクロロフィル色素を添加した試験を行った。本発明が規定する吸光度差を有するが脱酸工程を経ていない調製油13をベース油に2質量%になるよう添加した試験油を調製した(実施例22)。本発明が規定する吸光度差を有するが脱酸工程を経ていない調製油13をベース油に2質量%添加し、さらにクロロフィル色素(製品名「ニチノーカラーG-AO」、日農化学工業株式会社製)をベース油に8.4質量ppmになるよう添加した試験油を調製した(実施例23)。対照として、精製菜種油からなる対照油を用意した(比較例15)。実施例の試験油、及び比較例の対照油について、フライ調理試験及び評価を実施例1と同一の操作で行った。結果を表9に示す。
【0076】
【表9】
【0077】
表9の実施例22と実施例23との対比から、本発明に従う調製油とクロロフィル色素を併用添加することで、フライ調理試験後の油脂組成物の着色がより顕著に抑制された。
【0078】
〔実施例24〕調製油の油糧原料の変更試験(2)
本発明に従う調製油の油種としてエキストラヴァージンオリーブオイルを用いて実験を行った。エキストラヴァージンオリーブオイルは、「AJINOMOTOオリーブオイルエクストラバージン」(株式会社J-オイルミルズ製)を用いた。この調製油は、脱ガム、脱酸及び脱臭工程を実施するが、脱色工程を実施せず、そして本発明が規定する吸光度差は0.178であった。この調製油をベース油(精製菜種油)に3質量%となるように添加することにより試験油を調製した。対照として、精製菜種油からなる対照油を用意した(比較例16)。実施例24の試験油、及び比較例16の対照油に対して、フライ調理試験を以下のフライ条件にて1日10時間で延べ30時間行った。
(フライ条件)
唐揚げ:揚げ質量400g/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数5回/日(1~3日目)
ポテトコロッケ:揚げ数量5個/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数2回/日(1日目のみ実施)
その他のフライ調理試験及び評価の条件は、実施例1と同一の操作とした。結果を表10に示す。
【0079】
【表10】
【0080】
表10に示すように、フライ調理試験後の油脂組成物の色調は、比較例16で78、そして実施例24で65となった。すなわち、実施例24のフライ調理試験後の油脂組成物の着色は、比較例16よりも7.1%抑制された。この結果から、油種がオリーブオイルからなる調製油を含む試験油においても、フライ調理試験後の油脂組成物の着色を抑制する効果があることが判明した。
【0081】
〔実施例25〕調製油の油糧原料の変更試験(3)
調製油の油種としてグレープシードオイルを用いて実験を行った。グレープシードオイルは、「COOPグレープシードオイル」(株式会社J-オイルミルズ製)を用いた。該グレープシードオイルは、脱ガム、脱酸、脱色、及び脱臭工程を経ており、脱臭工程後の前記吸光度差が0.322、そしてリン分が0.1質量ppmであった。該グレープシードオイルの脱臭工程後の吸光度差は、脱臭処理によって脱臭工程前よりも小さくなる。したがって、本発明が規定する吸光度差は0.322以上であった。ベース油(精製菜種油)に前記調製油を1.5質量%の配合比にて添加することにより試験油を調製した(実施例25)。この試験油のリン分は、0.001質量ppmであった。対照として、精製菜種油からなる対照油(比較例17)を用意した。比較例17の対照油、及び実施例25の試験油に対して、フライ調理試験を以下のフライ条件にて1日8時間で延べ32時間行った。
(フライ条件)
唐揚げ:揚げ質量400g/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数4回/日(1~4日目)
ポテトコロッケ:揚げ数量5個/回、揚げ時間5分/回、揚げ回数2回/日(1日目のみ実施)
その他のフライ調理試験及び評価の条件は、実施例1と同一の操作とした。
【0082】
比較例17では、フライ調理試験後の油脂組成物の色調は103となったが、実施例25では、フライ調理試験後の油脂組成物の色調は87となった。すなわち、実施例25の試験油は、比較例17の対照油に対して15.5%の着色抑制効果が認められた。この結果から、グレープシードオイルは、それを含むフライ用油脂組成物のフライ調理試験後の着色を抑制する効果があることが判明した。