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特許7223548気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法
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  • 特許-気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法 図1
  • 特許-気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法 図2
  • 特許-気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法 図3
  • 特許-気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法 図4
  • 特許-気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20230209BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/44 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018195095
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020064928
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優哉
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一樹
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-238772(JP,A)
【文献】特開2015-146369(JP,A)
【文献】特開2010-067686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスが流通しているグローブボックス内に配置した反応炉内から成膜後の基板を取り出すために反応炉を開放する際の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法において、前記反応炉内に配置した基板への成膜操作を終了した後、前記反応炉を開放する前に、前記反応炉内のガスを排気する排気部からの排気操作を継続しながら、前記反応炉内にパージガスを導入する供給操作を行うことにより、前記反応炉内のガスをパージガスに置換し、前記排気操作と前記供給操作を反応炉開放時にも継続することを特徴とする気相成長装置における反応炉内のガス置換方法。
【請求項2】
前記排気部は、該排気部を流れるガスのコンダクタンスを調整するコンダクタンス調整手段を備え、パージガス供給部から反応炉内へのパージガスの供給量に合わせて排気部のコンダクタンスを調整することを特徴とする請求項1記載の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法。
【請求項3】
前記反応炉内のガスをパージガスに置換して昇圧した後、反応炉を開放するまでの間に、反応炉内の圧力を低下させることなくグローブボックス内の圧力と同等に保持することを特徴とする請求項1又は2記載の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法。
【請求項4】
前記気相成長装置は、基板上に化合物半導体を形成する化合物半導体形成用の気相成長装置であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法。
【請求項5】
前記気相成長装置は、MOCVD装置であることを特徴とする請求項4記載の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法。
【請求項6】
前記パージガスの積算供給量が前記反応炉の内容量よりも多く、かつ、前記反応炉内から排出される反応性ガスの濃度が許容濃度以下になるまで前記反応炉内のガスをパージガスに置換するガス置換操作を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法に関し、詳しくは、反応炉への基板の出し入れを行う際に、反応炉内を反応性ガス雰囲気から不活性ガス雰囲気に置換する気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気相成長装置は、反応炉内に設置した基板をあらかじめ設定された温度に加熱するとともに、前記反応炉内に原料ガスを供給することにより、前記基板上に半導体結晶を成長させるもので、基本的に、反応炉内への基板の設置、反応炉の閉塞及び反応炉内の減圧、反応炉内への反応性ガスの供給及び基板の加熱、反応性ガスを供給しながらの原料ガスの供給、結晶成長後の原料ガスの供給停止、反応性ガスを供給しながらの反応炉内の降温、不活性ガスを供給して反応炉内のガスを置換、反応炉内の昇圧、反応炉の開放、反応炉からの基板の取り出し及び新たな基板の設置といった手順を繰り返すバッチ式の装置である。また、前記反応炉は、該反応炉を覆う形状を有するグローブボックス内に収容されており、グローブボックス内に大気圧より高い圧力で窒素等の不活性ガスを流通させることにより、反応炉内への大気の侵入を防止している。
【0003】
このような気相成長装置では、半導体基板へのパーティクルの混入の防止、1回の半導体結晶成長に必要な時間の短縮が求められており、従来から様々な対策が提案されている。例えば、均圧弁を設けるとともに、複数の弁を適宜開閉し、反応炉内の圧力をグローブボックス内の圧力と同じ圧力にしてから反応炉を開放することにより、パーティクルの発生を抑制することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5079902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された気相成長装置では、反応炉を開放する際に、排気弁や均圧弁を開閉する操作を行うため、通常時と異なるガスの流れが生じることから、パーティクルが発生するおそれがあった。また、反応炉周囲の温度に対して反応炉内の温度が高い状態で反応炉を開放すると、温度差によってガスの対流が生じるため、これに起因してパーティクルが発生するおそれもあった。特に、反応炉からの排気部となる排気系の配管からガスが逆流することによって、より多くのパーティクルが発生するおそれがあった。
【0006】
そこで本発明は、パーティクルの発生を抑えて反応炉内のガス置換を行うことができる気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法は、不活性ガスが流通しているグローブボックス内に配置した反応炉内から成膜後の基板を取り出すために反応炉を開放する際の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法において、前記反応炉内に配置した基板への成膜操作を終了した後、前記反応炉を開放する前に、前記反応炉内のガスを排気する排気部からの排気操作を継続しながら、前記反応炉内にパージガスを導入する供給操作を行うことにより、前記反応炉内のガスをパージガスに置換し、前記排気操作と前記供給操作を反応炉開放時にも継続することを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の気相成長装置における反応炉内のガス置換方法は、前記排気部が、該排気部を流れるガスのコンダクタンスを調整するコンダクタンス調整手段を備え、前記パージガス供給部から反応炉内へのパージガスの供給量に合わせて排気部のコンダクタンスを調整することを特徴としている。
【0009】
また、前記反応炉内のガスをパージガスに置換して昇圧した後、反応炉を開放するまでの間に、反応炉内の圧力を低下させることなくグローブボックス内の圧力と同等に保持することを特徴としている。
【0010】
特に、前記気相成長装置が、基板上に化合物半導体を形成する化合物半導体形成用の気相成長装置であり、さらに、前記気相成長装置が、MOCVD装置であることを特徴としている。
【0011】
加えて、前記パージガスの積算供給量が前記反応炉の内容量よりも多く、かつ、前記反応炉内から排出される反応性ガスの濃度が許容濃度以下になるまで前記反応炉内のガスをパージガスに置換するガス置換操作を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法によれば、排気部からの排気を継続して行っているので、排気部を構成する排気配管からのガスの逆流を生じることがなくなり、パーティクルの発生を抑制することができ、反応炉内へのパーティクルの侵入を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法を実施可能な気相成長装置の一形態例を示す説明図である。
図2】反応炉における成膜操作中の状態を示す説明図である。
図3】同じく反応炉を開放した状態を示す説明図である。
図4】本発明の気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法におけるガス置換用プログラムの一例を示すフローチャートである。
図5】1回の成膜操作における反応炉内へのパージガス及び反応性ガスの供給状態と、反応炉内の温度変化及び圧力変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至図5は、本発明の気相成長装置における反応炉内ガスの置換方法を説明するための図であって、図1は、本発明を実施可能な気相成長装置の一形態例を示している。本形態例に示す気相成長装置は、基板上に半導体結晶を成長させるための反応炉11と、該反応炉11を覆うグローブボックス12と、反応炉11及びグローブボックス12にそれぞれ接続された複数のガス供給系統及びガス排気系統とを備えている。
【0015】
ガス供給系統としては、パージガスや反応性ガスを供給弁13及び流量調節器14を介して反応炉11に各種ガスを供給する反応炉用ガス供給経路15と、窒素ガスを窒素供給弁16を介してグローブボックス12内に供給するグローブボックス用ガス供給経路17とが設けられている。通常、前記パージガスとしては、窒素やアルゴンといった不活性ガスが用いられており、反応性ガスとしては、基板上に半導体結晶を成長させる際に使用するガスであって、半導体結晶の種類に応じて、水素、アンモニア、ケイ素化合物、有機金属化合物などが用いられている。
【0016】
グローブボックス12のガス排気系統としては、開閉弁18及び自動弁19を介してグローブボックス12内から窒素ガスを排気するグローブボックス用ガス排気経路20が設けられており、前記自動弁19は、グローブボックス12内の圧力を検出するグローブボックス圧力計21で検出した圧力に応じて開度が調節され、グローブボックス12内の圧力を大気圧より僅かに高い圧力に調節して外部からグローブボックス12内への大気の侵入を防止するようにしている。
【0017】
一方、反応炉11のガス排気系統としては、反応炉11内からガスを排気するための常圧排気経路22及び真空排気経路23を有しており、常圧排気経路22には、反応炉11内の圧力が常圧に上昇したときに開く常圧排気弁24が設けられている。また、真空排気経路23には、反応炉11内を減圧状態にするための真空ポンプ25が設けられるとともに、反応炉11内を減圧する際に開弁する減圧弁26と、排気系内の圧力を検出する排気圧力計27の検出圧力に応じて真空排気経路22におけるガスコンダクタンスを調整するための排気調整弁28とが設けられている。
【0018】
図2及び図3に示すように、反応炉11には、基板を出し入れするための開閉蓋11aが設けられており、基板の出し入れを行うとき以外には、図2に示すように、開閉蓋11aは閉じられており、基板の出し入れを行う際には、図3に示すように、開閉蓋11aが開いた状態になる。通常、反応炉11内は、ガス排気系統からの排気が行われており、反応炉11内に供給されたパージガスや反応性ガスは、常圧排気経路22又は及び真空排気経路23から排気されている。ガスの排気を止めた状態で開閉蓋11aを開くと、ガス排気系統とグローブボックス12内との圧力差や温度差により、図3に矢印Aで示すように、ガス排気系統内のガスが逆流することがあり、パーティクルの発生原因となる。
【0019】
そこで、反応炉11の開閉蓋11aを開くときには、基板への半導体結晶成長を行う自動成長プログラムに組み込まれたガス置換操作を行ってから開閉蓋11aを開くようにしている。このガス置換操作は、図4に示すように、まず、ステップ51にて反応炉(リアクタ)11内にパージガスとして不活性ガスのみが流入しているかを確認する。この時点で反応性ガスが反応炉11内に供給されている場合は、成膜操作が完全に終了していないことを示している。
【0020】
ステップ51で反応炉11内に不活性ガスのみが流入していることが確認できたらステップ52に進み、不活性ガスの流入積算値とあらかじめ設定された規定値とを比較し、流入積算値が規定値を超えたらステップ53に進む。前記規定値は、反応炉11の内容量より大きな値に設定されており、あらかじめシミュレーションなどを行って選定した最適値を前記規定値として設定することができる。
【0021】
ステップ52で不活性ガスの流入積算値が規定値を超えたときには、ステップ53で反応炉11の温度が反応炉蓋開閉可能温度、本形態例では150℃未満になっているかを確認する。そして、反応炉11の温度が反応炉蓋開閉可能温度未満になっていたときには、ステップ54で自動成長プログラムが実行中ではないこと、すなわち、一連の成膜操作が終了していることを確認することで、反応炉11の開閉蓋11aを開くことが可能となる。前記反応炉蓋開閉可能温度は、反応炉周辺部材の耐熱温度に影響され、例えば、60~600℃の範囲となるが、これに限るものではない。
【0022】
図5は、1回当たりの成膜操作における反応炉11内の温度、圧力、供給ガスの推移を示すもので、まず、基板を設置後に反応炉11を開閉蓋11aで密封し、反応炉11内の圧力を所定の成膜操作圧力(本例では10kPa)に減圧した状態で、反応炉11内に不活性ガス(窒素)及び反応性ガス(水素、アンモニア)を供給した状態で基板の加熱を開始する(昇温過程)。基板が所定の温度、この場合は1000℃に昇温した状態で所定の半導体結晶の薄膜が成長する(成膜過程)。
【0023】
所定の薄膜が成長したときに基板の加熱を終了し、各ガスを流したまま反応炉11内の温度を下げていく(降温過程)。反応炉11内の温度がある程度の温度(本例では265℃)まで低下したら、反応性ガスの供給を停止し、不活性ガスのみを反応炉11内に供給し、反応炉11内の反応性ガスをパージして不活性ガス雰囲気にするガス置換を行う(降温+置換過程)。
【0024】
続いて不活性ガスを供給するとともに、反応炉11内の真空排気量を減少させることにより、反応炉11内の圧力を充圧して所定圧力(本例では100kPa(略大気圧))まで上昇させる(充圧過程)。例えば、反応炉11内の圧力が低いときには排気調整弁28を全開状態として反応炉11内のガスを真空ポンプ25によって排気し、不活性ガスの供給によって反応炉11内の圧力が上昇してきたときに、排気調整弁28を徐々に閉方向に作動させてガスの流れを規制することによって真空ポンプ25による排気量を減少させ、反応炉11内の圧力が常圧に上昇したときに排気調整弁28を全閉状態にするとともに、常圧排気弁24を全開状態にして反応炉11からの排気を常圧排気経路22から行う。
【0025】
このようにして供給された不活性ガスを反応炉11を通して常圧排気経路22から排気することにより、反応炉11内の圧力を所定圧力まで昇圧することができる。反応炉11内が所定圧力に充圧されたら、反応炉11及びグローブボックス12に供給するガス流量を適宜調節して反応炉11内の圧力とグローブボックス12内の圧力とを同等とすることにより、ガスの流れを生じることなく開閉蓋11aを開くことができ、薄膜を成長させた基板を取り出して新たな基板を設置する(リアクタ開過程)。再び開閉蓋11aを閉じて反応炉11を密閉した後、反応性ガスの供給を再開するとともに、反応炉11内の減圧を開始し、最初の昇温過程に戻って同様の過程を繰り返す。
【0026】
各過程において反応炉11への不活性ガスの供給操作と、反応炉11からの排気操作とを常時行うことにより、排気部からのガスの逆流を防止でき、パーティクルが発生して反応炉11内に流入することがなくなる。また、反応炉11内の充圧や減圧を行う際に、排気圧力計27の検出圧力に応じて真空排気経路22におけるガスコンダクタンスを調整することにより、反応炉11内からのガスの排出を円滑に行うことができ、ガス流量の変動に伴うパーティクルの発生を回避することができる。
【0027】
さらに、反応炉11内を充圧した後、反応炉内の圧力を低下させる減圧パージを行うことも従来は行われているが、本発明では、反応炉11内を充圧状態を保持するようにしているので、減圧パージに要する時間が不要になり、1回のサイクルの時間を短縮できる。これにより、パーティクルの発生を回避するとともに、時間短縮を図ることができ、従来に比べて高品質な半導体結晶を効率よく製造することができる。
【0028】
特に、基板上に化合物半導体を形成する化合物半導体形成用の気相成長装置、例えば、MOCVD装置では、反応性ガスとして有機金属化合物を使用するので、本発明ではパーティクルの発生を確実に防止できるとともに、1サイクルの成長時間の短縮を図ることができる。さらに、パージガスとなる不活性ガスの積算供給量を、前記反応炉11の内容量よりも多く、かつ、前記反応炉内から排出される反応性ガスの濃度が許容濃度以下になるまで反応炉11内のガスを不活性ガスに置換するガス置換操作を行うことにより、開閉蓋11aを開いたときに、反応炉11からグローブボックス12内に有害な反応性ガスが流出することを確実に防止できる。
【符号の説明】
【0029】
11…反応炉、11a…開閉蓋、12…グローブボックス、13…供給弁、14…流量調節器、15…反応炉用ガス供給経路、16…窒素供給弁、17…グローブボックス用ガス供給経路、18…開閉弁、19…自動弁、20…グローブボックス用ガス排気経路、21…グローブボックス圧力計、22…常圧排気経路、23…真空排気経路、24…常圧排気弁、25…真空ポンプ、26…減圧弁、27…排気圧力計、28…排気調整弁
図1
図2
図3
図4
図5