(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-08
(45)【発行日】2023-02-16
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂製歯車
(51)【国際特許分類】
C08L 59/04 20060101AFI20230209BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230209BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230209BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20230209BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20230209BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20230209BHJP
C08G 2/10 20060101ALI20230209BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C08L59/04
C08L23/26
C08L71/02
C08K3/26
C08K5/103
C08K5/01
C08G2/10
F16H55/06
(21)【出願番号】P 2021053955
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2022-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】森 文哉
(72)【発明者】
【氏名】門間 智宏
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特許第5847261(JP,B1)
【文献】特開2021-006596(JP,A)
【文献】特開2014-105278(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083983(WO,A1)
【文献】特開2014-095000(JP,A)
【文献】特開2017-160332(JP,A)
【文献】特開2016-145278(JP,A)
【文献】特開平11-051154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 2/00-2/38
F16H 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリオキサンを主モノマー(a)(全モノマーの80~99.9モル%)とし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)とし、重合触媒(c)に下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用して共重合を行った反応生成物に、塩基性失活剤(d)を添加し、溶融混練処理して、前記重合触媒(c)を失活させて得られる(A)ポリアセタール共重合体100質量部に対して、
(B)不飽和カルボン酸、不飽和脂肪酸の酸無水物及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種によってオレフィン系重合体が変性された変性オレフィン系重合体0.5質量部以上10質量部以下と、
(C)1級アミノ基又は2級アミノ基を有し、数平均分子量が400以上500,000以下であるアルキレングリコール系重合体0.01質量部以上5質量部以下と、
(D)BET比表面積が15m
2/g以下であり、下記規定による平均粒子径が50nm以上200nm以下であり、表面未処理であり、立方体状である炭酸カルシウム0.1質量部以上20質量部以下と、
(E)2価以上4価以下の多価アルコールの部分エステル0.1質量部以上10質量部以下と、
(F)アルファオレフィンオリゴマー0.1質量部以上10質量部以下と、
を含有させる、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法
により製造される、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる、樹脂製歯車。
H
m[M
1
x・M
2
yO
Z]・nH
2O ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、M
1はP及びSiより選ばれる1種又は2種の元素から成る中心元素を示す。M
2はW、Mo及びVより選ばれる1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕
[平均粒子径]
走査型電子顕微鏡を用いて30,000倍で拡大観察し、対象粒子の長径と短径を測定したときの長径と短径との算術平均値であり、かつ、100サンプルの粒子径の算術平均値
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂とも称され、POM樹脂と略される。)は、バランスのとれた機械的性質を有し、耐摩擦・摩耗特性、耐薬品性、耐熱性、電気特性等に優れるため、自動車、電気・電子製品等の分野で広く利用されている。かかる分野における要求特性は次第に高度化しつつあり、その一例として、一般物性と共に摺動特性の一層の向上が望まれている。かかる摺動特性とは、耐摩擦・摩耗特性であり、そのような特性の更なる向上を図るため、種々の添加剤を添加したPOM樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、歯車は、一般に、歯車同士の噛み合いにより、回転動力を伝達する機能を有する。そして、歯車の回転時において、歯車同士が噛み合う接触面には、高い接触面圧がかかることから、使用が長時間継続されるとやがて疲労し損傷に至る。従って、歯車に要求される性能としては、耐摩擦・摩耗特性のみならず、疲労に対する耐久性が挙げられる。
特許文献1に記載のPOM樹脂組成物は、摺動特性については優れているものの、樹脂製歯車の材料としては更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、摺動特性、特に耐摩耗性に優れ、かつ、歯車に適用した場合において疲労耐久性に優れるポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂製歯車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)トリオキサンを主モノマー(a)(全モノマーの80~99.9モル%)とし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)とし、重合触媒(c)に下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用して共重合を行った反応生成物に、塩基性失活剤(d)を添加し、溶融混練処理して、前記重合触媒(c)を失活させて得られる(A)ポリアセタール共重合体100質量部に対して、
(B)不飽和カルボン酸、不飽和脂肪酸の酸無水物及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種によってオレフィン系重合体が変性された変性オレフィン系重合体0.5質量部以上10質量部以下と、
(C)1級アミノ基又は2級アミノ基を有し、数平均分子量が400以上500,000以下であるアルキレングリコール系重合体0.01質量部以上5質量部以下と、
(D)BET比表面積が15m2/g以下であり、平均粒子径が50nm以上200nm以下であり、表面未処理であり、立方体状である炭酸カルシウム0.1質量部以上20質量部以下と、
(E)2価以上4価以下の多価アルコールの部分エステル0.1質量部以上10質量部以下と、
(F)アルファオレフィンオリゴマー0.1質量部以上10質量部以下と、
を含有させる、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法。
Hm[M1
x・M2
yOZ]・nH2O ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、M1はP及びSiより選ばれる1種又は2種の元素から成る中心元素を示す。M2はW、Mo及びVより選ばれる1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕
【0007】
(2)前記(1)に記載のポリアセタール樹脂組成物の製造方法により製造される、ポリアセタール樹脂組成物。
【0008】
(3)前記(2)に記載のポリアセタール樹脂組成物を成形してなる、樹脂製歯車。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、摺動特性、特に耐摩耗性に優れ、かつ、歯車に適用した場合において疲労耐久性に優れるポリアセタール樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂製歯車を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の製造方法は、トリオキサンを主モノマー(a)(全モノマーの80~99.9モル%)とし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)とし、重合触媒(c)に下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用して共重合を行った反応生成物に、塩基性失活剤(d)を添加し、溶融混練処理して、重合触媒(c)を失活させて得られる(A)ポリアセタール共重合体100質量部に対して、(B)不飽和カルボン酸、不飽和脂肪酸の酸無水物及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種によってオレフィン系重合体が変性された変性オレフィン系重合体0.5質量部以上10質量部以下と、(C)1級アミノ基又は2級アミノ基を有し、数平均分子量が400以上500,000以下であるアルキレングリコール系重合体0.01質量部以上5質量部以下と、(D)BET比表面積が15m2/g以下であり、平均粒子径が50nm以上200nm以下であり、表面未処理であり、立方体状である炭酸カルシウム0.1質量部以上20質量部以下と、(E)2価以上4価以下の多価アルコールの部分エステル0.1質量部以上10質量部以下と、(F)アルファオレフィンオリゴマー0.1質量部以上10質量部以下と、を含有させることを特徴としている。
Hm[M1
x・M2
yOZ]・nH2O ・・・一般式(1)
〔一般式(1)中、M1はP及びSiより選ばれる1種又は2種の元素から成る中心元素を示す。M2はW、Mo及びVより選ばれる1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。〕
【0011】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の製造方法においては、(A)ポリアセタール共重合体100質量部に対して、(B)~(F)成分を所定量含有させることで、摺動特性、特に耐摩耗性に優れ、かつ、歯車に適用した場合において疲労耐久性に優れるポリアセタール樹脂組成物が得られる。上記の特許文献1より、摺動特性に優れるのは、主として(B)~(F)成分が寄与していると考えられる。一方、歯車に適用した場合に疲労耐久性に優れることについては、(B)~(F)成分の添加のみでは実現し得ないことから、所定の製造方法によって得られる(A)ポリアセタール共重合体が寄与していると考えられる。ただし、(A)ポリアセタール共重合体の構造や特性については特定が困難であるため、(A)ポリアセタール共重合体がどのように寄与しているかについては明らかではない。いずれにしても、所定の製造方法により得られる(A)ポリアセタール共重合体と、(B)~(F)成分とが相まって、摺動特性と、歯車に適用した場合の疲労耐久性とが向上すると考えられる。
以下に先ず、本実施形態の製造方法において用いられる各成分について説明する。
【0012】
[(A)ポリアセタール共重合体]
本実施形態において、(A)ポリアセタール共重合体は、トリオキサンを主モノマー(a)(全モノマーの80~99.9モル%)とし、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールをコモノマー(b)とし、重合触媒(c)に下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用して共重合を行った反応生成物に、塩基性失活剤(d)を添加し、溶融混練処理して、重合触媒(c)を失活させて得られる。
【0013】
(主モノマー(a))
主モノマー(a)としては、トリオキサンが使用される。トリオキサンは、ホルムアルデヒドの環状三量体であり、一般的には酸性触媒の存在下でホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留等の方法で精製して用いられる。重合に用いるトリオキサンは、水、メタノールなどの不純物を極力低減させたものが好ましい。
【0014】
(コモノマー(b))
コモノマー(b)としては、少なくとも1つの炭素- 炭素結合を有する環状エーテル及び/又は環状ホルマールが使用される。コモノマー(b)として使用する化合物の代表的な例としては、例えば、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。中でも、重合の安定性から考慮して、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、エチレンオキサイドが好ましい。
更に、得られるポリアセタール樹脂組成物の性能を大幅に低下させないような範囲ならば、主モノマー(a)、コモノマー(b)に加えて、第三のコモノマー成分として、分岐剤などの公知の変性剤コモノマーを併用添加しても差し支えない。
【0015】
本実施形態において、コモノマー(b)として用いる、環状エーテル及び/又は環状ホルマールから選ばれる化合物の量は、全モノマー(主モノマーとコモノマーの合計量)中の割合として0.1~20モル%であることが好ましく、0.2~10モル%であることがより好ましい。コモノマー(b)の量が0.1モル%未満であると、重合によって生成する粗ポリアセタール共重合体の不安定末端部が増加して安定性が悪くなることがある。コモノマー量が20モル%を超えると、生成共重合体が軟質となり融点の低下を生じることがある。
【0016】
(重合触媒(c))
本実施形態においては、上記のようなポリアセタール共重合体の製造において、重合触媒(c)として、下記一般式(1)で示されるヘテロポリ酸を使用する。
Hm[M1
x・M2
yOZ]・nH2O ・・・一般式(1)
【0017】
式(1)中、M1はP及びSiより選ばれた1種又は2種の元素から成る中心元素を示す。M2はW、Mo及びVより選ばれた1種以上の配位元素を示す。xは1以上10以下の整数を示し、yは6以上40以下の整数を示し、zは10以上100以下の整数を示し、mは1以上の整数を示し、nは0以上50以下の整数を示す。
【0018】
上記ヘテロポリ酸の具体例として、リンモリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブドタングステン酸、リンモリブドバナジン酸、リンモリブドタングストバナジン酸、リンタングストバナジン酸、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、ケイモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステントバナジン酸等が挙げられる。中でも、重合の安定性、ヘテロポリ酸自体の安定性から考慮して、へテロポリ酸は、ケイモリブデン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸又はリンタングステン酸のいずれか1種以上であることが好ましい。
【0019】
本実施形態において、上記へテロポリ酸の使用量は、その種類によっても異なり、また、適当に変えて重合反応を調節することができるが、一般には重合されるべきモノマーの総量に対し0.05~100ppm(以下、質量/質量ppmを示す。)の範囲であり、好ましくは0.1~50ppmである。また、リンモリブデン酸、リンタングステン酸等の如き非常に強く作用するヘテロポリ酸は、0.1~10ppmの使用量で十分である。この様な少量の触媒でも共重合が可能なことは、触媒による重合体の主鎖分解、解重合等の好ましくない反応を僅少に留め、不安定なホルメート末端基(-O-CH=O)、ヘミアセタール末端基(-O-CH2-OH)等の生成を抑制するのに効果的であり、また、経済的にも有利である。
【0020】
反応を均一に行うために、重合触媒は、重合に悪影響のない不活性な溶媒で希釈して、主モノマー(a)及び/又はコモノマー(b)に添加して使用することが望ましい。上記不活性な溶媒として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の炭素数1~10の低分子量カルボン酸と、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-へキサノール等の炭素数1~10の低分子量のアルコールが縮合して得られるエステル;アセトン、2-ブタノン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、3-へキサノン、メチルイソブチルケトン、メチル-t-ブチルケトン等の炭素数1~10の低分子量のケトン類が好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。工業的な入手しやすさ等も勘案すると、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、2-ブタノン、メチルイソブチルケトン等が最も好適である。重合触媒は、上記不活性な溶媒に、好適には濃度1~30質量/質量%で溶解されるが、これに限定されるものではない。また、前述した主モノマー(a)、コモノマー(b)、分子量調節剤等の何れか1種又は複数種の一部量又は全量に、上記重合触媒の所定量を予め混合し、この溶液を重合系に添加して重合を行う方法も好ましい。
【0021】
〔共重合体の調製〕
本実施形態において、重合による粗ポリアセタール共重合体の調製は、従来から公知のトリオキサンの共重合と同様の設備と方法で行うことができる。即ち、バッチ式、連続式、半連続式の何れも可能であり、液体モノマーを用い、重合の進行とともに固体粉塊状のポリマーを得る方法が一般的である。本実施形態に用いられる重合装置としては、バッチ式では一般に用いられる撹拌機付きの反応槽が使用でき、また、連続式としては、コニーダー、二軸スクリュー式連続押出混合機、二軸パドルタイプの連続混合機、その他、これまでに提案されているトリオキサン等の連続重合装置が使用可能であり、また2種以上のタイプの重合機を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
重合方法は特に限定されるものではないが、先に提案されているように、コモノマー(b)及び重合触媒(c)としてのヘテロポリ酸を、あらかじめ液相状態を保ちつつ十分に混合し、得られた混合液を主モノマー(a)たるトリオキサンとともに重合装置に供給して共重合反応を行うことができる。そうすると、必要触媒量の低減が可能となり、結果としてホルムアルデヒド放出量のより少ないポリアセタール共重合体を得るのに有利であり、より好適な重合方法である。重合温度は、60~120℃の温度範囲で行なわれる。
【0023】
本実施形態において、上記の主モノマー(a)とコモノマー(b)とを重合してポリアセタール共重合体を調製するにあたり、重合度を調節するため公知の連鎖移動剤、例えばメチラールの如き低分子量の線状アセタール等を添加することも可能である。
【0024】
また、重合反応は活性水素を有する不純物、例えば水、メタノール、ギ酸等が実質的に存在しない状態、例えばこれらがそれぞれ10ppm以下の状態で行うのが望ましく、このためには、これらの不純物成分を極力含まないように調製されたトリオキサン、環状エーテル及び/又は環状ホルマールを、主モノマーやコモノマーとして使用するのが望ましい。
【0025】
続いて、塩基性失活剤の添加による重合触媒の失活について説明する。
【0026】
(塩基性失活剤(d))
塩基性失活剤の種類、添加方法は、特に限定されるものでないが、粗ポリアセタール共重合体を洗浄することなく、粗ポリアセタール共重合体に対して塩基性失活剤をそのまま添加し溶融混練することで、重合触媒の失活及び粗ポリアセタール共重合体の不安定末端の安定化に供することができるものが好ましい。具体的には、塩基性失活剤は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物、及びアミノ基又は置換アミノ基を有するトリアジン環含有化合物、から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0027】
さらには、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、炭酸水素塩若しくはカルボン酸塩又はその水和物を使用した場合に、最終的に得られる組成物において、そのホルムアルデヒド発生量は特に低い値となり、より好ましい。具体的には、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0028】
本実施形態において、上記の塩基性失活剤は、1種類であってもよいし、複数を組み合わせて使用してもよく、それらの水和物や混合物、複塩等の状態であっても構わない。
【0029】
かかる重合及び失活処理の後、必要に応じて更に未反応モノマーの分離回収、乾燥等を従来公知の方法にて行う。
【0030】
次いで、本実施形態において使用する(B)~(F)成分について、以下に説明する。
【0031】
[(B)不飽和カルボン酸、不飽和脂肪酸の酸無水物及びこれらの誘導体から選択される少なくとも1種によってオレフィン系重合体が変性された変性オレフィン系重合体]
本明細書において、上記変性オレフィン系重合体を「(B)成分」ともいう。本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物おいて、(B)成分を含有させることで、摺動特性に優れる。逆に、ポリアセタール樹脂組成物おいて、(B)成分以外のオレフィン系重合体を含有させる場合、摺動特性が劣る。
【0032】
(B)成分において用いられるオレフィン系重合体(変性前)としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン等のα-オレフィンの単独重合体、及びこれらの2種以上から成るランダム、ブロック又はグラフト共重合体、及びこれらに1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、2,5-ノルボナジエン等の非共役ジエン成分、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン等の共役ジエン成分、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β-不飽和酸又はそのエステル等の誘導体、アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、又は酢酸ビニル等のビニルエステル、ビニルメチルエーテル等のビニルエーテルやこれらのビニル系化合物の誘導体等のコモノマー成分のうちの少なくとも1種を含んで成るランダム、ブロック又はグラフト共重合体等が挙げられ、その重合度、側鎖や分岐の有無や程度、共重合組成比等の如何を問わない。
【0033】
オレフィン系重合体の例としては、高圧法ポリエチレン、中低圧法ポリエチレン、気相法エチレン-α-オレフィン共重合体、LLDPE、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体等がある。好ましくは、ポリエチレン、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体である。
【0034】
本実施形態において使用される(B)成分とは、上記のオレフィン系重合体を、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、ナジック酸、メチルナジック酸、アリルコハク酸などの不飽和カルボン酸、及び無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、アリル無水コハク酸等の不飽和カルボン酸無水物、及びこれらの誘導体等からなる群より選ばれた少なくとも1種で変性したものである。
【0035】
好ましい(B)成分は、そのメルトフローレート(MFR)が0.01~100g/10分のものであり、更に好ましいのは、MFRが0.1~50g/10分のものであり、特に好ましいのは、MFRが0.2~30g/10分のものである。尚、メルトフローレート(MFR)は、ISO 1133に従って測定された。
【0036】
好ましい(B)成分の具体例としては、無水マレイン酸で変性されたポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体等が挙げられる。中でも、(B)成分が無水マレイン酸で変性されたポリエチレンを含有するものであると、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の摺動特性が高まる点で好ましい。
【0037】
その変性方法としては、オレフィン系重合体と、不飽和カルボン酸、その無水物、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を、溶液状態又は溶融状態で適当な有機過酸化物等のラジカル開始剤の存在下で加熱して反応させる方法等が好適であるが、特にこれに限定されるものではない。両成分の配合量は、オレフィン系重合体100質量部に対して、前記化合物0.1質量部以上20質量部以下、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下が適当である。そのような化合物で変性したオレフィン系重合体中の有効なその化合物の量が少なすぎる場合、(A)成分と(B)成分との間の親和性が不十分となる場合があり、多すぎる場合、摺動特性等の改善すべき物性を低下させる場合がある。
【0038】
本実施形態において、(B)成分は、(A)成分100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下含有させることが好ましく、2質量部以上7質量部以下含有させることがより好ましい。得られるポリアセタール樹脂組成物において、(B)成分の配合量が0.5質量部未満であると、摩擦摩耗量が増加する可能性があるため、好ましくない。(B)成分の配合量が10質量部を超える場合は、機械物性が低下する可能性があるため、好ましくない。
【0039】
[(C)1級アミノ基又は2級アミノ基を有し、数平均分子量が400以上500,000以下であるアルキレングリコール系重合体]
本明細書において、当該アルキレングリコール系重合体を「(C)成分」ともいう。本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物において、(C)成分を含有させることで、摺動特性に優れる。
【0040】
(C)成分である、1級アミノ基又は2級アミノ基を有するアルキレングリコール系重合体とは、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールのホモポリマー又はコポリマーであって、その末端又は分子鎖中に1級又は2 級アミノ基を有するポリマーをいう。さらに脂肪酸とのエステル、脂肪族アルコールとのエーテルを形成する等の若干の変性をした重合体でもよい。その例として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれらの構成単位からなるコポリマーであって、少なくとも1つのアミノプロピル基、アミノオクチル基を有するもの等がある。
【0041】
重合体の種類は特に限定されるものでないが、アルキレングリコール系重合体が、脂肪酸とのエステル、脂肪族アルコールとのエーテルを形成する等の若干の変性をした重合体であると、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の摺動特性が高まる点で好ましい。
【0042】
(C)成分の数平均分子量は、400以上500,000以下であり、400以上100,000以下であることが好ましく、1,000以上6,000以下であることがさらに好ましい。これは、(C)成分の配合により、(B)成分のポリアセタール樹脂への分散性が改善されるが、(C)成分の数平均分子量が400未満では(A)成分又は(B)成分の高分子材料として持つ機械物性、摺動特性を損ない、数平均分子量が50万を超えては、溶融粘度が高くなりポリアセタール樹脂に分散させることが困難になるからである。
【0043】
(C)成分の配合量は、(A)成分に対して0.01質量部以上5質量部以下であり、0.1質量部以上4質量部以下であることがより好ましく、0.3質量部以上3質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以上2質量部以下であることが特に好ましい。中でも、(C)成分の配合量が1質量部以上であると、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の摺動特性を大きく改善できる点で好ましい。(C)成分が0.01質量部未満であると、成形品の摺動特性の改質効果を充分得られず、また5質量部を超えると機械物性を低下させ、好ましくない。
【0044】
[(D)BET比表面積が15m2/g以下であり、平均粒子径が50nm以上200nm以下であり、表面未処理であり、立方体状である炭酸カルシウム]
本明細書において、当該炭酸カルシウムを「(D)成分」ともいう。本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物において、(D)成分を含有させることで、摺動特性に優れる。
従来より、樹脂成形品の摺動特性を改善するため、ポリアセタール樹脂組成物の成分として、無機充填剤を用いることが知られている。また、無機充填剤として、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、炭酸バリウム、タルク、ウォラストナイト、マイカ及び酸化亜鉛等が知られている。しかしながら、本実施形態においては、炭酸カルシウムが必須の構成要素である。無機充填剤として、(D)成分たる炭酸カルシウム以外の他の無機充填剤を含有させても、(D)成分を含有させた場合よりも、成形品の表面性に優れるとはいえないため、好ましくない。
【0045】
(D)成分のBET比表面積は、15m2/g以下である。本明細書において、BET比表面積とは、窒素を基準の気体として用い、BET式により得る単分子層完結時の吸着量から求められる比表面積(単位質量当たりの表面積)をいい、BET比表面積の測定法は、ASTM D-3037に規定されている。BET比表面積が15m2/gを超えると、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の表面性及び摺動特性が劣るため、好ましくない。
【0046】
(D)成分の平均粒子径は、50nm以上200nm以下であり、80nm以上170nm以下であるとより好ましい。本明細書において、粒子径とは、日立ハイテク社製走査型電子顕微鏡S3000Hを用いて30,000倍で拡大観察し、対象粒子の長径と短径を測定したときの長径と短径との算術平均値をいうものとする。また、本明細書において、平均粒子径とは、100サンプルの粒子径の算術平均値をいうものとする。平均粒子径
が50nm未満であると、製品中で2次凝集する可能性があるため、好ましくなく、平均粒子径が200nmを超えると、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の表面性及び摺動特性が劣る点で好ましくない。
【0047】
(D)成分は、表面未処理である。(D)成分の表面が処理されていると、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の摩耗性が劣るため、好ましくない。
【0048】
本明細書において、「表面未処理」とは、炭酸カルシウム粒子の表面が、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、チタネート系化合物、シラン系化合物等の表面処理剤で処理されていないことをいう。
【0049】
(D)成分は、立方体状である。ここで、立方体状には、正六面体たる立方体のみならず、完全な立方体とは言えないまでもほぼ立方体に近い六面体を含むものとする。(D)成分の形状が不定形である等、立方体状でないと、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の表面性及び摺動特性が劣る点で好ましくない。なお、本明細書において、(D)成分の形状が立方体状であるか否かは、例えば500℃、3時間で製品を燃焼させ、その残渣を電子顕微鏡観察することで確認するものとする。
【0050】
(D)成分の配合量は、(A)成分に対して0.1質量部以上20質量部以下であり、0.1質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。(D)成分が0.1質量部未満であると摩擦摩耗量が増加する可能性があり、また20質量部を超える表面性が悪化する可能性があるため、好ましくない。
【0051】
[(E)2価以上4価以下の多価アルコールの部分エステル]
本明細書において、当該多価アルコールの部分エステルを「(E)成分」ともいう。本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物において、(E)成分を含有させることで、表面性及び摺動特性に優れる。
【0052】
従来より、ポリアセタール樹脂組成物の成分として、潤滑剤を用いることが知られている。また、潤滑剤として、鉱油、炭化水素、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸と脂肪族アルコールよりなる脂肪族エステル、多価アルコールの部分エステル及び/又はフルエステル、カルボン酸と無機酸とのエステル、脂肪酸とアミン化合物とのアミド、金属石鹸、天然ワックス、シリコーン及びその誘導体、置換ジフェニルエーテル等が知られている。しかしながら、本実施形態においては、(E)成分としての部分エステルと、後に説明する(F)成分としてのアルファオレフィンオリゴマーとの両方が必須の構成要素である。潤滑剤として、これら(E)成分及び(F)成分以外の他の潤滑剤を含有していたとしても、本実施形態ほど、表面性に優れるとはいえないため、好ましくない。
【0053】
(E)成分の具体例として、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノステアレート等が挙げられる。(E)成分としての部分エステルに関し、エステルが部分エステルでないと、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の表面性及び摺動特性が劣る点で好ましくない。
【0054】
(E)成分の配合量は、(A)成分に対して0.1質量部以上10質量部以下であり、0.5質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。(E)成分が0.1質量部未満であると摩擦摩耗量が増加する可能性があり、また10質量部を超えると染み出しが発生する可能性があるため、好ましくない。
【0055】
[(F)アルファオレフィンオリゴマー]
本明細書において、当該オリゴマーを「(F)成分」ともいう。本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物において、(F)成分を含有させることで、摺動特性に優れる。
【0056】
(F)成分の配合量は、(A)成分に対して0.1質量部以上10質量部以下であり、1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。(F)成分が0.1質量部未満であると、ポリアセタール樹脂組成物を成形してなる成形品の摺動特性が劣る可能性があり、また10質量部を超えると染み出し、剥離が発生する可能性があるため、好ましくない。
【0057】
[他の安定剤及び添加剤]
本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物は、公知の各種安定剤をさらに添加して安定性を補強することができる。また、目的とする用途に応じてその物性を改善するために、公知の各種の添加剤をさらに配合し得る。
【0058】
添加剤として、各種の着色剤、離型剤、核剤、帯電防止剤、その他の界面活性剤、異種ポリマー(前記のグラフト共重合体以外)等が挙げられる。また、本実施形態の目的とする組成物の性能を大幅に低下させない範囲内であれば、無機・有機・金属等の繊維状、粉粒状、板状の充填剤を1種又は2種混合使用することもできる。
【0059】
[ポリアセタール樹脂組成物の調製]
本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物の調製は、従来の樹脂組成物調製法として一般に用いられる公知の方法により容易に調製される。例えば、(1)組成物を構成する全成分を混合し、これを押出機に供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(2)組成物を構成する成分の一部を押出機の主フィード口から、残余成分をサイドフィード口から供給して溶融混練し、ペレット状の組成物を得る方法、(3)押出し等により一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを混合して所定の組成に調整する方法等を採用できる。
【0060】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、上述のポリアセタール樹脂組成物の製造方法により製造される。従って、摺動特性に優れ、かつ、歯車に適用した場合に疲労耐久性に優れる。本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、歯車に適用した場合に疲労耐久性に優れるものであるが、歯車に限るものではなく、歯車に類する、疲労耐久性が要求される部材に適用してもよい。
【0061】
<樹脂製歯車>
本実施形態の樹脂製歯車は、上述のポリアセタール樹脂組成物を成形してなる。上記の本実施形態のポリアセタール樹脂組成物と同様に、本実施形態の樹脂製歯車は、摺動特性に優れ、かつ、疲労耐久性に優れる。
【0062】
本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物を用いて樹脂製歯車を成形する方法としては特に限定はなく、当該技術分野で知られている各種方法を採用することができる。例えば、本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0063】
その他、本実施形態の樹脂製歯車は、本実施形態に係るポリアセタール樹脂組成物を板状又は棒状に成形したあと、それらを切削加工などの一般的な成形加工により成形することができる。
【0064】
本実施形態の樹脂製歯車が適用できる歯車の種類としては、特に限定はないが、例えば、平歯車、ラック、内歯車、はすば歯車、はすば内歯車、はすばラック、やまば歯車、すぐばかさ歯車、まがりばかさ歯車、ゼロールかさ歯車、ねじ歯車、円筒ウォームギヤ等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
<(A)ポリアセタール共重合体の調製>
〔ポリアセタール共重合体A-1~A-4〕
重合反応装置として連続式二軸重合機を用いた。この重合機は、外側に加熱用又は冷却
用の媒体を通すためのジャケットが付いており、その内部には撹拌、推進用の多数のバドルを付した2本の回転軸が長手方向に設けられている。この二軸重合機のジャケットに80℃の熱媒を通し、2本の回転軸を一定の速度で回転させながら、その一端に、主モノマー(a)としてのトリオキサンと、コモノマー(b)としての1,3-ジオキソラン(3.3質量%対全モノマー)と、連鎖移動剤としてのメチラール1500質量ppm(対全モノマー)との混合液を連続的に供給した。そして、上記混合液に表1に示す重合触媒(ギ酸メチル溶液)として、全モノマーに対して表1に示した量で連続添加して共重合を行なった。表1において、重合触媒の添加量は全モノマーの合計に対する質量比率(単位:ppm)である。その後、重合機の他端に設けられた吐出口から粗ポリアセタール共重合体を排出するとともに、重合触媒を失活させるため、表1に示した塩基性失活剤を添加した。表1において、塩基性失活剤の量は粗ポリアセタール共重合体に対する質量比率(単位:ppm)である。次いで、酸化防止剤としてとしてトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕0.3質量部を添加し、ベント付き二軸押出機を用いて温度220℃、ベント部の真空度5mmHgで溶融混練して押し出した。上記の工程を経て、ポリアセタール共重合体(A-1~A-4)を得た。なお、各ポリアセタール共重合体のメルトフローレート(MFR)は、測定装置:Melt Indexer L202型((株)タカラサーミスタ製)を用い、荷重2.16kg、温度190℃で、ISO 1133に従って測定された。
【0067】
〔ポリアセタール共重合体A’-1〕
触媒として三フッ化ホウ素をガス状で使用し、重合機の他端に設けられた吐出口から粗ポリアセタール共重合体を排出するところまでは、上記ポリアセタール共重合体A-1~A-4と同様に行った。排出された反応生成物は速やかに破砕機に通しながら、トリエチルアミンを0.05質量%含有する60℃の水溶液に加え触媒を失活させた。さらに、分離、洗浄、乾燥することで、粗ポリアセタール共重合体を得た。次いで、この粗ポリアセタール共重合体100質量部に対して、トリエチルアミン5質量%水溶液を3質量%、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を0.3質量%添加し、二軸押出機にて210℃で溶融混練し不安定部分を除去し、ポリアセタール共重合体A’-1に係るポリアセタール共重合体を得た。
【0068】
【0069】
<ポリアセタール樹脂組成物の調製>
<(A)ポリアセタール共重合体の調製>で得た(A)成分及び下記(B)~(F)成分を表2に示す割合(単位は質量部)でプリブレンドした後、1ヶ所のベント口を有する30mm径の二軸押出機の主フィード口に投入して溶融混合(押出条件:L/D=35、押出し温度=200℃、スクリュー回転数=120rpm、ベント真空度=-700mmHg、吐出量=12kg/hr)し、ペレット状の組成物を調製した。
【0070】
(B)変性オレフィン系重合体
(B-1)無水マレイン酸変性低密度ポリエチレン(LDPE)(製品名:タフマーMM6850,三井化学(株)製)
(B-2)無水マレイン酸変性エチレン-アクリル酸エチルコポリマー(EEA)(製品名:HPR AR2011,三井デュポンポリケミカル(株)製)
(C)1級アミノ基又は2級アミノ基を有し、数平均分子量が400以上500,000以下であるアルキレングリコール系重合体
(C-1)両末端アミン変性ポリエチレングリコール(PEG)(製品名:ケミスタットY-400,数平均分子量:4,000,三洋化成工業(株)製)
(D)BET比表面積が15m2/g以下であり、平均粒子径が50nm以上200nm以下であり、表面未処理であり、立方体状である炭酸カルシウム
(D-1)BET比表面積が11.5m2/gであり、平均粒子径が150nmであり、表面未処理であり、立方体状である炭酸カルシウム(製品名:Brilliant1500,膠質の炭酸カルシウム,白石工業(株)製)
(E)多価アルコールの部分エステル
(E-1)グリセリンモノステアレート(製品名:リケマールS100,理研ビタミン(株)製)
(F)アルファオレフィンオリゴマー
(F-1)アルファオレフィンオリゴマー(製品名:ルーカントHC600,三井化学(株)製)
【0071】
【0072】
[歯車疲労特性の評価]
≪成形条件:歯車成形≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、日精樹脂工業(株)製の射出成形機(NEX500)を用いて、シリンダー温度を200℃とし、金型温度80℃、射出速度20mm/s、保圧120MPa、冷却時間8秒の射出条件で射出成形し、モジュール1、歯数54、歯幅10mmの平歯車を得た。
≪歯車耐久性試験≫
先の≪成形条件:歯車成形≫で得られた平歯車を、(株)小野測器の小型歯車疲労試験機に同材同士の歯車を噛み合わせて設置した。片方の歯車を駆動側、もう一方の歯車を従動側とした。次に、駆動側の歯車をトルク10N/m、回転数300rpmの条件で回転させ、歯車が破壊するまでの総回転数を測定した。測定結果を表3に示す。
【0073】
[摩擦係数の評価]
≪成形条件:円筒状試験片成形≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(αS50i-A)を用いて、シリンダー温度を200℃とし、金型温度80℃、射出速度10mm/s、保圧70MPa、冷却時間10秒の射出条件で射出成形し、内径20.0mm 、外径25.6mm 、高さ15.0mm の円筒状試験片を得た。
≪摩耗試験≫
先の≪成形条件:円筒状試験片成形≫で得られた円筒状試験片を(株)オリエンテック製のEFM-3-ENに同材同士の組み合わせで設置した。片方の円筒状試験片を駆動側、もう一方を固定側とした。次に、面圧0.06MPa、線速度15cm/sの条件で回転させ、ロードセルで摩擦力を検出し、試験開始23時間後から1時間の平均値から動摩擦係数を算出した。算出結果を表3に示す。
【0074】
【0075】
表3より、実施例1~5のいずれも、比較例1よりも歯車の破壊までの総回転数が多く、歯車の疲労耐久性に優れることが分かる。また、実施例1~5及び比較例1において、摩擦係数はすべて同じ数値であった。
以上より、実施例1~5に記載のポリアセタール樹脂組成物は、摺動特性に優れ、かつ、歯車に適用した場合において疲労耐久性に優れることが分かる。