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特許7224011アプタマーの創製が可能か否かの判定方法及びそれを利用したアプタマーの創製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】アプタマーの創製が可能か否かの判定方法及びそれを利用したアプタマーの創製方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6811 20180101AFI20230210BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20230210BHJP
【FI】
C12Q1/6811 Z
C12N15/115 Z ZNA
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018121082
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2020000051
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療分野研究成果展開事業」「酵素阻害アプタマーを用いた高感度簡易迅速疾病診断法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一典
(72)【発明者】
【氏名】イ ジンヒ
(72)【発明者】
【氏名】上野 絹子
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/010640(WO,A1)
【文献】YOKOYAMA, T. et al.,Development of HGF-Binding Aptamers With the Combination of G4 Promoter-Derived Aptamer Selection and In Silico Maturation,Biotechnology and Bioengineering,2017年,Vol.114, No.10,pp.2196-2203
【文献】YOSHIDA, W. et al.,Aptamer Selection Based on G4-Forming Promoter Region,PLOS ONE,2013年,Vol.8, Issue 6,Article number e65497, pp.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の標的蛋白質に結合するアプタマーが、G4PAS法により創製可能か否かの判定方法であって、前記標的蛋白質が核移行シグナルを有するか否かを調べることを含み、核移行シグナルが存在する場合に、G4PAS法により前記アプタマーを創製可能であると判定する方法であり、
ここで、G4PAS法は、標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域中の1又は複数のG4構造と同一の塩基配列を持つ1又は複数のアプタマーを作製するステップと、
作製したアプタマーが標的蛋白質と結合することを確認するステップと、
を含む方法である、前記判定方法。
【請求項2】
所望の標的蛋白質に結合するアプタマーの創製方法であって、
請求項1記載の判定方法により、所望の標的蛋白質に結合するアプタマーが、G4PAS法により創製可能か否かを判定するステップと、
所望の標的蛋白質に結合するアプタマーが、G4PAS法により創製可能であると判定された場合に、
該標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域中のプロモーター領域中の1又は複数のG4構造と同一の塩基配列を持つ1又は複数のアプタマーを作製するステップと、
作製したアプタマーが標的蛋白質と結合するか否かを確認するステップと、
を含む、標的蛋白質と結合するアプタマーの創製方法。
【請求項3】
請求項記載の方法によりアプタマーを創製することと、創製されたアプタマー若しくは該アプタマーと9%以上の配列同一性を有する塩基配列を持ち、かつG4構造を含み、標的蛋白質と結合するアプタマー又はこれらのアプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ち標的蛋白質と結合するアプタマーを合成することを含む、アプタマーの製造方法。
【請求項4】
請求項記載の方法により創製されたアプタマーの塩基配列又は該塩基配列を含む塩基配列を持つアプタマーを合成することを含む請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の標的蛋白質に結合するアプタマーの創製が、G4PAS法により可能か否かの判定方法及びこれを利用したアプタマーの創製方法並びに該創製方法を利用したアプタマーの製造方法に関する。さらに本発明は、前記創製方法により創製されたアプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
アプタマーとは、特有の立体構造により特定の低分子や蛋白質などを認識し、結合する核酸リガンドを指す。従来、アプタマーはSystematic evolution of ligands by exponential enrichment(SELEX)によって創製されてきた。SELEX法ではポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う必要があるが、増幅の際にバイアスが生じることがあり、アプタマーの創製に失敗することがある。また、PCRを少なくとも数回は行う必要があるので、手間と時間がかかる。
【0003】
一方、本願出願人は、標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター配列中にG-quadruplex構造(以下、「G4構造」と呼ぶ)が存在する場合、該G4構造を構成する塩基配列と同じ塩基配列を持つアプタマーが、標的蛋白質と結合することを見出し、この知見を利用して、SELEXを行わずにアプタマーを創製する方法(G4 promoter-derived aptamer selection (G4PAS)と命名)を提供し、特許出願した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO 2014/010640 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるG4PAS法により、所望の標的蛋白質に結合するアプタマーが得られる確率は50%未満である。所望の標的蛋白質に結合するアプタマーを創製すべくG4PAS法を実施しても、標的蛋白質に結合するアプタマーが得られない場合には、その努力は徒労であり、時間と費用が無駄となる。
【0006】
本発明の目的は、G4PAS法により、標的蛋白質に結合するアプタマーの創製が可能か否かの判定方法を提供することである。また、本発明の目的はG4PAS法により標的蛋白質に結合するアプタマーを高い確率で創製できる、アプタマーの新規な創製方法及び該方法を利用したアプタマーの製造方法を提供することである。さらに本発明の目的は、上記本発明の創製方法により創製された新規なアプタマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、標的蛋白質が、核移行シグナルを含む場合又は核内蛋白質である場合には、GRPASにより高い確率で所望のアプタマーを創製することができ、核移行シグナルを含まない場合又は核内蛋白質でない場合には、GRPAS法によっては所望のアプタマーを創製することができないことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、 所望の標的蛋白質に結合するアプタマーが、G4PAS法により創製可能か否かの判定方法であって、前記標的蛋白質が核移行シグナルを有するか否か、又は前記標的蛋白質が核内蛋白質であるか否かを調べることを含み、核移行シグナルが存在する場合又は核内蛋白質である場合に、G4PAS法により前記アプタマーを創製可能であると判定する方法であり、
ここで、G4PAS法は、標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域中又は該遺伝子の転写を調節する転写調節因子の遺伝子のプロモーター領域中の1又は複数のG4構造と同一の塩基配列を持つ1又は複数のアプタマーを作製するステップと、
作製したアプタマーが標的蛋白質と結合することを確認するステップと、
を含む方法である、前記判定方法、を提供する。
【0009】
また、本発明は、
所望の標的蛋白質に結合するアプタマーの創製方法であって、
前記標的蛋白質が核移行シグナルを有するか否か又は前記標的蛋白質が核内蛋白質か否かを調べるステップと、
該標的蛋白質が核移行シグナルを有する場合又は核内蛋白質である場合に、
該標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域中又は該遺伝子の転写を調節する転写調節因子の遺伝子のプロモーター領域中の1又は複数のG4構造と同一の塩基配列を持つ1又は複数のアプタマーを作製するステップと、
作製したアプタマーが標的蛋白質と結合するか否かを確認するステップと、
を含む、標的蛋白質と結合するアプタマーの創製方法を提供する。
【0010】
さらに本発明は、上記本発明の方法により創製されたアプタマー若しくは該アプタマーと95%以上の配列同一性を有する塩基配列を持ち、かつG4構造を含み、標的蛋白質と結合するアプタマー又はこれらのアプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ち標的蛋白質と結合するアプタマーを合成することを含む、アプタマーの製造方法を提供する。
【0011】
さらに本発明は、上記本発明の創製方法により創製された、以下の新規なアプタマーを提供する。
【0012】
配列番号84~91のいずれかで示される塩基配列、若しくはこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列を持ち、かつ、G4構造を含み、PDGF-BBと結合するアプタマー、又は該アプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ちPDGF-BBと結合するアプタマー。
【0013】
配列番号163で示される塩基配列、若しくはこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列を持ち、かつ、G4構造を含み、ApoE4と結合するアプタマー、又は該アプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ちApoE4と結合するアプタマー。
【0014】
配列番号156~162のいずれかで示される塩基配列、若しくはこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列を持ち、かつ、G4構造を含み、Annexin A2と結合するアプタマー、又は該アプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ちAnnexin A2と結合するアプタマー。
【0015】
配列番号185、187、188、194、195、199、202、204のいずれかで示される塩基配列、若しくはこれらの各塩基配列との配列同一性が95%以上である塩基配列を持ち、かつ、G4構造を含み、SP1と結合するアプタマー、又は該アプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ちSP1と結合するアプタマー。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、G4PAS法により、所望の標的蛋白質に結合するアプタマーを創製することが可能か否かを判定することが可能になった。よって、本発明により、徒労を避けて、効率的に所望のアプタマーを創製することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記のとおり、本発明は、所望の標的蛋白質に結合するアプタマーが、G4PAS法により創製可能か否かの判定方法である。ここで、G4PAS法は、基本的に特許文献1に記載された方法であるが、本願発明において、標的蛋白質の転写を調節する転写調節因子の遺伝子のプロモーター領域中に存在するG4構造と同一の塩基配列を持つアプタマーも標的蛋白質に結合することが見出されたので、本発明においては、標的蛋白質のプロモーター領域中のG4構造に加え、標的蛋白質遺伝子の転写を調節する転写調節因子の遺伝子のプロモーター領域中に存在するG4構造を利用する場合をも包含する。すなわち、本発明におけるG4PAS法は、標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域中又は該遺伝子の転写を調節する転写調節因子の遺伝子のプロモーター領域中の1又は複数のG4構造と同一の塩基配列を持つ1又は複数のアプタマーを作製するステップと、作製したアプタマーが標的蛋白質と結合することを確認するステップとを含む方法である。なお、後者のステップは、作製したアプタマーが複数ある場合には、作製したアプタマーのうち前記標的蛋白質と結合するアプタマーをスクリーニングするステップとなる。なお、本発明において、「塩基配列を持つ」とは、塩基の並び方がその配列となっていることを意味する。例えば、アプタマーが、「G4構造と同一の塩基配列を持つ」とは、アプタマーの塩基配列が、G4構造の塩基配列と同一であることを意味する。
【0018】
本発明の判定方法の一実施形態では、標的蛋白質が核移行シグナル(nuclear localization signal、以下「NLS」と呼ぶことがある)を有するか否かを調べる。NLSは、核膜を通過して核内に移行可能な蛋白質が持つ、5~20個程度のアミノ酸配列から成る領域であり、塩基性アミノ酸であるリジン及びアルギニンに富む配列である。ヒトの蛋白質が持つNLSとしては、下記表1に列挙するものが知られている。これらのNLSの少なくとも1つが標的蛋白質に含まれているか否かを調べることにより、標的蛋白質がNLSを有するか否かを調べることができる。
【0019】
【表1-1】
【表1-2】
【0020】
また、NLSを有するか否かは、種々の蛋白質について既に報告されているので、公知の学術文献又はデータベースを調査することによっても、標的蛋白質がNLSを有するか否かを調べることができる。NLSを集めているデータベースは複数存在するので、このようなデータベースを利用することにより、多くの標的蛋白質について、NLSの有無を調べることができる。利用可能なこのようなデータベースとしては、NLSDB (https://rostlab.org/services/nlsdb/) (Nair et al.,2003)及びLocSigDB (http://genome.unmc.edu/LocSigDB/)(Negi et al.,2015)を挙げることができる。
【0021】
標的蛋白質のNLSの有無について記載した学術文献やデータベースがない場合には、組織から核分画を採取し、標的蛋白質と特異的に反応する抗体を用いた免疫沈降を行う方法や、GFP等の標識を結合した抗体を用いた免疫組織化学等の公知の方法により標的蛋白質がNLSを有するか否かを調べることもできる。このような方法により、NLSが見つけられてきた。
【0022】
下記実施例から明らかなように、標的蛋白質がNLSを有する場合には、高い確率でG4PAS法によりアプタマーの創製が可能であり、有さない場合には高い確率でG4PAS法によりアプタマーを創製することはできない。よって、本発明の判定方法により、標的蛋白質と結合するアプタマーを創製可能か否かを高い正確性をもって判定することができる。
【0023】
なお、NLSを有する蛋白質の一部は核内蛋白質でもあるが、NLSを有さない核内蛋白質も存在し、このようなNLSを有さない核内蛋白質にも本発明の方法を適用することができる。核内蛋白質は、種々の公知文献やデータベースに種々のものが記載されており、これらの文献やデータベースに核内蛋白質であることが報告されている蛋白質は核内蛋白質である。また、核内蛋白質か否かは、組織から核分画を採取し、標的蛋白質と特異的に反応する抗体を用いた免疫沈降を行う方法や、GFP等の標識を結合した抗体を用いた免疫組織化学等の公知の方法により調べることが可能である。下記実施例では、ApoE4が、NLSを有さない核内蛋白質であり、本発明の方法を適用してApoE4に結合するアプタマーが得られている。
【0024】
本発明はまた、上記本発明の判定方法により、G4PAS法によるアプタマーの創製が可能であると判定された標的蛋白質について、G4PAS法により該標的蛋白質に結合するアプタマーを創製することを含む、アプタマーの創製方法を提供する。すなわち、標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域中又は該遺伝子の転写を調節する転写調節因子の遺伝子のプロモーター領域中のG4構造と同一の塩基配列を持つアプタマーを作製することにより、標的蛋白質と結合するアプタマーを創製する。なお、標的蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター領域中又は該遺伝子の転写を調節する転写調節因子の遺伝子のプロモーター領域中のG4構造は1個とは限らず、複数存在する場合もある。このような場合、どのG4構造がアプタマーの創製に有効かは実験してみないとわからないが、各G4構造と同一の塩基配列を持つアプタマーをそれぞれ作製して、各アプタマーが標的蛋白質と結合するか否かを調べることにより、容易に標的蛋白質と結合するアプタマーを創製することができる。すなわち、複数のアプタマーを作製した場合には、作製したアプタマーのうち前記標的蛋白質と結合するアプタマーをスクリーニングすることにより、標的蛋白質と結合するアプタマーを創製することができる。なお、塩基配列中にG4構造が存在するか否かは、特許文献1に記載されているとおり、コンピューターソフトによる解析(例えば、http://bioinformatics.ramapo.edu/QGRS/analyze.phpで公開されているRAMAPO COLLEGEのMapper(Nucleic Acids Research 2006 July; 34 (Web Server issue):W676-W682)等を用いて容易に行うことができる。
【0025】
上記方法により創製されたアプタマーを、常法により合成することによりアプタマーを製造することができる。アプタマーの合成方法は周知であり、市販のDNA合成機を用いた化学合成や、大量生産を目指す場合には遺伝子工学的手法により製造することができる。なお、アプタマーはDNAでもRNAでもよいが、安定性に優れたDNAが好ましい。また、アプタマーは、PNA(peptide nucleic acid)、LNA(locked nucleic acid)、BNA(bridged nucleic acid) 等の人工核酸や、Ds(7-(2-thienyl)imidazo[4,5-b]pyridine)、PX-DNA等の種々の修飾核酸であってもよい。
【0026】
製造するアプタマーの塩基配列は、創製されたアプタマーの塩基配列と同一でよいが、アプタマーと95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を持ち、かつG4構造を含み、標的蛋白質と結合するアプタマーであってもよい。なお、ここで、「配列同一性」は、配列を比較する2つの塩基配列の塩基ができるだけ多く一致するように2つの配列を整列させ(必要に応じてギャップを挿入する)、一致する塩基の数を全塩基数で除し、百分率で表した数値を意味する。両者の塩基数が異なる場合には、長い方の塩基数で除す。配列同一性を算出するソフトは周知であり、インターネット上でも無料公開されている。標的蛋白質と結合するのはG4構造であるので、G4構造を維持していれば、他の領域が変異していても標的蛋白質と結合する可能性が高い。さらに、標的蛋白質に結合するアプタマーを、リンカーを介して複数分子結合することにより標的蛋白質への親和性が高められたアプタマーを製造することが可能であることが公知である(例えばWO 2014/103738 A1参照)ことからも明らかなように、標的蛋白質と結合するG4構造を含んでいれば、その一端又は両端に他の配列が結合されても標的蛋白質との結合性が維持される蓋然性は高い。したがって、アプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ち標的蛋白質と結合するアプタマーを合成する場合も本発明の製造方法に包含される。なお、標的蛋白質に結合するアプタマーを、リンカーを介して複数分子結合する場合、リンカーとしては、標的蛋白質との結合親和性に悪影響を与えない塩基配列であれば特に限定されず、ポリチミン(t)のような同一の塩基からなるポリヌクレオチドが、それ自体で分子内ハイブリダイゼーションを起こしたりすることがないので好ましい。リンカーのサイズは特に限定されないが、通常、5塩基~20塩基程度である。なお、3個以上のアプタマー分子を連結する場合、必ずしも直線状に連結する必要はなく、例えば、放射状やデンドリマー状に連結したものでもよい。なお、複数のアプタマー分子を連結しない場合には、G4構造の一端又は両端に結合する塩基配列は、各10塩基以下が好ましく、特に各3塩基以下が好ましい。
【0027】
上記本発明のアプタマーの創製方法により、新規なアプタマーが創製された。すなわち、塩基配列が配列番号84~91のいずれかで示される、PDGF-BB(血小板由来増殖因子BB)と結合するアプタマー、塩基配列が配列番号163で示される、ApoE4(アポリポ蛋白質E)と結合するアプタマー、塩基配列が配列番号156~162のいずれかで示される、Annexin A2(アネキシンII)と結合するアプタマー、及び塩基配列が配列番号185、187、188、194、195、199、202、204のいずれかで示されるSP1(血管内皮成長因子(VEGF)の転写因子)と結合するアプタマーである。なお、上記のとおり、これらのアプタマーの塩基配列との配列同一性が95%以上、好ましくは97%以上、さらに好ましくは99%以上である塩基配列を持ち、かつ、G4構造を含み、各標的蛋白質と結合するアプタマー並びにこれらのアプタマーの塩基配列を含む塩基配列を持ち各標的蛋白質と結合するアプタマーも本発明の範囲に包含される。
【0028】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0029】
1.実施例1
(1) 標的蛋白質遺伝子プロモーター領域中に存在するG4構造形成配列の探索
標的蛋白質としては下記表1に示す19種類の疾患関連蛋白質を用いた。各標的蛋白質をコードする遺伝子プロモーター領域を、UCSC genome browser (https://genome. ucsc.edu/)によって抽出した。具体的には、遺伝子の転写開始点から上流、下流それぞれ1 kbpの範囲の塩基配列を取得した。取得した塩基配列中に存在する、G4形成可能配列(PQS)の探索は、QGSR mapper (http://bioinformatics.ramapo.edu/QGRS/index. php) (Kikin et al., 2006) を用いて行った。その際、以下の条件を満たす塩基配列をPQSとして抽出した。
G2 < N1-7G2 < N1-7G2 < N1-7G2 <
【0030】
結果としては、全ての標的蛋白質について、最低1つ以上のPQSを得ることができた(表1)。
【0031】
(2) PQSの構造及び標的蛋白質への結合能の評価
得られたPQSを化学合成した後、標的蛋白質への結合能を調べるために、SPR解析を行った。また、結合が観察されたPQSに関して、その構造評価を行うために、CDスペクトラムを測定した。
【0032】
(3) SPR解析
測定にはBiacoreT200を用いた。各PQSをTBSバッファー(10 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 100 mM KCl含有又は非含有; pH 7.4) に溶解後、95℃で10分間熱処理を行い、25℃に除冷することでフォールディングを行った。各標的蛋白質を、アミンカップリングを介してCM5センサーチップ上に2000から4000 RU程度固定し、そこに調製したPQSをインジェクトし、結合させた(結合時間(Association time): 120秒、解離時間(Dissociation time): 120秒、 流速: 30mL/min、25℃)。 その後、BIAevaluation software (GE Healthcare).を用いてフィッティングを行い、乖離定数(KD)を求めた。
【0033】
結果として、標的とした19種類の蛋白質のうち、8種類の蛋白質で、その蛋白質に結合するPQSを得ることができた。
【0034】
(4) CDスペクトラム測定
標的蛋白質への結合が観察されたPQSに関してCDスペクトラムを測定することによりG4構造の形成を確認した。すなわち、各DNAオリゴヌクレオチドをTrisバッファー (10 mM Tris-HCl, pH 7.4) または TBSバッファー (10 mM Tris-HCl, 100 mM KCl, pH 7.4)によって 2μMになるように希釈し、95℃で10分間熱処理後に、25℃に除冷することでフォールディングを行った。その後、220-320nmの範囲でのCDスペクトラム測定を、日本分光のJ-820を用いて行った。その際の光路長は10mm, 温度は20℃で測定を行った。
【0035】
結果として、標的蛋白質への結合が観察されたPQSについては、G4構造を形成するDNAオリゴヌクレオチドに特徴的なピークパターン(パラレル型のG4の場合、260 nmに正の、240 nmに負のピークを有すること、また、アンチパラレル型のG4の場合290 nmに正の、260 nmに負のピークを有することが知られている (Vorlickova et al., 2012)。)が観察された。そして、各ピークは、G4構造を安定化することが知られているカリウムイオン存在下で増強された。このことから、標的蛋白質への結合が観察されたDNAオリゴヌクレオチドはG4構造を形成していると考えた。
【0036】
(5) 標的蛋白質がNLSを有するかどうかの調査
標的蛋白質へのPQSを獲得することができた20種類の蛋白質について、NLSを有するかどうかを調べた。調査にはウェブツールであるNLSDB (https://rostlab.org/services/nlsdb/) (Nair et al., 2003)、またはLocSigDB (http://genome.unmc.edu/LocSigDB/) (Negi et al., 2015)を用いた。もし、NLSDBまたはLocSigDBのどちらか一方でもNLSを有するという結果を出した場合に、標的蛋白質にはNLSが存在すると判断した。 また、複数のアイソフォームが存在する蛋白質については全てのアイソフォームについて調査を行った。
【0037】
各蛋白質のプロモーター配列は公知であるので、G4PAS法を実施することが可能であった。 G4PAS法を行った結果を下記表2に示す。
【0038】
表2に示されるように、NLSを有するか又は核内蛋白質である9種類の蛋白質では、いずれもG4PAS法により、標的蛋白質に結合するアプタマーが得られた。これに対し、NLSを持たず核内蛋白質でもない11種類の蛋白質では、G4PAS法により、標的蛋白質に結合するアプタマーが得られなかった。これらの結果は、NLSの有無又は核内蛋白質か否かにより、G4PAS法により標的蛋白質に結合するアプタマーが得られるか否かを予測することができることを示している。なお、SP1は、血管内皮成長因子(VEGFA)の転写因子であるので、本発明の方法は、標的蛋白質の転写因子を対象にしてG4PAS法を行った場合でも、標的蛋白質に結合するアプタマーが得られることも明らかになった。
【0039】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【配列表】
0007224011000001.app