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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】透過潜像画像形成体
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/333 20140101AFI20230213BHJP
   B41M 3/14 20060101ALI20230213BHJP
   B42D 25/324 20140101ALI20230213BHJP
   B41M 3/10 20060101ALN20230213BHJP
【FI】
B42D25/333
B41M3/14
B42D25/324
B41M3/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020009225
(22)【出願日】2020-01-23
(65)【公開番号】P2021115734
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】堀内 直人
(72)【発明者】
【氏名】小関 正一
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-224416(JP,A)
【文献】特開2012-051227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/02
B42D 25/00-25/485
B41M 1/00- 3/18
B41M 7/00- 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、透かし模様が形成され、前記透かし模様は、前記基材よりも透過性の高い凹形状の第1の透かし要素が複数形成された潜像部と、前記基材よりも透過性の高い凹形状の第2の透かし要素が複数形成された背景部から成る透過潜像模様を備え、透過光下で前記基材と正対した位置から観察すると、前記潜像部と前記背景部は透過性が等しく、前記潜像部と前記背景部の透過性が等しい構成は、
i)前記潜像部に形成される前記第1の透かし要素の面積率が、前記背景部に形成される前記第2の透かし要素の面積率より高く、かつ、前記第2の透かし要素の深さが、前記第1の透かし要素の深さより深い構成、又は、
ii)前記第2の透かし要素の深さが、前記第1の透かし要素の深さと同じであり、かつ、前記第1の透かし要素の大きさとピッチが、前記第2の透かし要素より大きい構成、又は、
iii)前記第1の透かし要素と前記第2の透かし要素は、面積率と深さが同じ画線であって、前記潜像部に形成される前記第1の透かし要素と、前記背景部に形成される前記第2の透かし要素の配置される方向が異なる構成であり、
透過光下で前記基材を傾けて観察すると、前記背景部に形成される前記第2の透かし要素の少なくとも一部が死角となり、前記潜像部と前記背景部の透過光量の差により、潜像が視認されることを特徴とする透過潜像画像形成体。
【請求項2】
前記潜像部と前記背景部が、前記i)の構成であって、前記潜像部は、大きさと深さが異なる前記第1の透かし要素が、それぞれ形成され、透過性が等しい第1の潜像部、第2の潜像部、・・・、第nの潜像部(nは2以上の自然数)から成り、
前記第1の透かし要素の大きさが最も大きい要素を前記第1の潜像部、前記第1の透かし要素の大きさが最も小さい要素を前記第nの潜像部とし、前記第1の潜像部、前記第2の潜像部、・・・、前記第nの潜像部の順に、前記第1の透かし要素の大きさが小さくなり、
前記第1の透かし要素の深さが最も浅い要素を前記第1の潜像部、前記第1の透かし要素の深さが最も深い要素を前記第nの潜像部とし、前記第1の潜像部、前記第2の潜像部、・・・、前記第nの潜像部の順に、前記第1の透かし要素の深さが深くなり、
前記透過光下で前記基材を傾けて観察する角度により、前記潜像の図柄が変化して視認されることを特徴とする請求項1記載の透過潜像画像形成体。
【請求項3】
基材の少なくとも一部に、透かし模様が形成され、前記透かし模様は、透かしインキによって形成され前記基材よりも透過性の高い第1の透かし要素が複数形成された潜像部と、前記基材よりも透過性の高い凹形状の第2の透かし要素が複数形成された背景部から成る透過潜像模様を備え、透過光下で前記基材と正対した位置から観察すると、前記潜像部と前記背景部は透過性が等しく、透過光下で前記基材を傾けて観察すると、前記背景部に形成される前記第2の透かし要素の少なくとも一部が死角となり、前記潜像部と前記背景部の透過光量の差により、潜像が視認されることを特徴とする透過潜像画像形成体。
【請求項4】
透かし模様は、前記潜像部に形成された前記第1の透かし要素及び前記背景部に形成された前記第2の透かし要素と重ならない位置に、前記基材よりも透過性の高い凹形状の第3の透かし要素が複数形成されて成る透過模様を更に備え、前記第3の透かし要素の大きさは、前記第2の透かし要素の大きさ以下であり、前記第3の透かし要素の深さは、前記第2の透かし要素の深さ以上であり、
前記透過光下で前記基材を観察する角度によって、前記透過模様と前記潜像が変化して視認されることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の透過潜像画像形成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、通行券等の貴重印刷物の分野において、透過光下で傾けると、画像が変化して視認できる透過潜像画像形成体に関するものである。
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そこで、前述したデジタル機器による複製や偽造を防止するため、プリンタやコピー機では再現不可能な様々な偽造防止技術が必要とされている。
【0003】
この偽造防止技術の一つとして、用紙の粗密や厚薄によって模様を形成して透過光下で視認させる、いわゆるすかし技術が存在する。このようなすかしの加工技術の例としては、すかしの模様が凹凸形状としてロール部材に形成された円網やダンディロールを用いて、用紙に厚薄を施す技術が古くから行われている。円網やダンディロールによって形成された相対的に紙の厚さが薄い部分を透過光下で観察すると、透過光量が高くなって明るく視認され、相対的に紙の厚さが厚い部分を透過光下で観察すると、透過光量が低くなって暗く視認される。
【0004】
このすかし技術は、通常の反射光下での観察では、模様が視認できないことから、貴重印刷物の他のデザインに影響することなく、一定量以上の光さえ存在すれば、あらゆる環境下で模様を確認することで真偽判別が可能であり、知名度も抜群に高いことから、貴重印刷物の分野で広く用いられている。
【0005】
また、用紙の粗密や厚薄によってすかしを形成する技術として、写真、絵画等の中間階調を表現するため、レーザー加工によって紙の素材を除去して透かしを形成した紙加工品が提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、特許文献1の技術は、原画像の階調に応じてレーザー加工によって形成する窪みの深さと大きさを異ならせることによって、階調のある透かしを形成するものである。
【0006】
一方、本出願人は、すかし技術のように、透過光下で模様が視認できるだけでなく、傾けて観察すると、画像が変化する真偽判別形成体を提案している(例えば、特許文献2参照)。なお、特許文献2の技術は、基材を貫通する穿孔を基準位置とし、特定方向に配置された非貫通孔が基材を貫通する穿孔の一部と重なって形成され、透過光下で傾けて観察した際に、潜像が視認できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-006597号公報
【文献】特許第3873211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術は、透過光下で観察することで階調豊かな透かしが視認できる技術であるが、傾けて観察した際に、画像が変化するものではなかった。
【0009】
また、特許文献2の技術は、貫通孔群と、貫通孔群を構成する貫通孔に対応した非貫通孔の配置によって、透過光下で傾けて観察した際に潜像が視認できる技術であるが、潜像の図柄に対応して形成される非貫通孔を紙基材に形成した場合に、非貫通孔は、紙基材の被加工部より厚さが薄く、光透過性が高いことから、傾ける前に潜像の図柄が見えてしまうという問題があった。
【0010】
また、特許文献2の技術は、貫通孔と非貫通孔を一つの組み合わせとし、それを複数配置することで画像を形成する構成であるが、潜像の解像度を向上させるためには、狭い領域内に多くの貫通孔と非貫通孔を設ける必要があるが、基材の強度が低下するという問題がある。逆に基材の強度を優先する場合には、貫通孔と非貫通孔同士の間隔を一定量空けて加工しなければならず、その場合、潜像の解像度が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、透過光下で傾けて観察した際に潜像が視認できる透かし模様を備え、解像度の高い図柄の潜像を形成した場合に基材の強度が低下することを抑えるとともに、透過光下で傾けて視認される潜像の隠蔽性が高い透過潜像画像形成体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の透過潜像画像形成体は、基材の少なくとも一部に、透かし模様が形成され、透かし模様は、基材よりも透過性の高い凹形状の第1の透かし要素が複数形成された潜像部と、基材よりも透過性の高い凹形状の第2の透かし要素が複数形成された背景部から成る透過潜像模様を備え、潜像部と背景部は透過性が等しく、潜像部と背景部の透過性が等しい構成は、i)潜像部に形成される第1の透かし要素の面積率が、背景部に形成される第2の透かし要素の面積率より高く、かつ、第2の透かし要素の深さが、第1の透かし要素の深さより深い構成、又は、ii)第2の透かし要素の深さが、第1の透かし要素の深さと同じであり、かつ、第1の透かし要素の大きさとピッチが、第2の透かし要素より大きい構成、又は、iii)第1の透かし要素と第2の透かし要素は、面積率と深さが同じ画線であって、潜像部に形成される第1の透かし要素と、背景部に形成される第2の透かし要素の配置される方向が異なる構成であり、透過光下で基材を傾けて観察すると、潜像部と背景部の透過光量の差により、潜像が視認されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の透過潜像画像形成体は、潜像部と背景部が、i)の構成であって、潜像部は、大きさと深さが異なる第1の透かし要素が、それぞれ形成され、透過性が等しい第1の潜像部、第2の潜像部、・・・、第nの潜像部(nは2以上の自然数)から成り、第1の潜像部、第2の潜像部、・・・、第nの潜像部の順に、第1の透かし要素の大きさが小さく、かつ、第1の透かし要素の深さが深く、透過光下で基材を傾けて観察する角度により、潜像の図柄が変化して視認されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の透過潜像画像形成体は、基材の少なくとも一部に、透かし模様が形成され、透かし模様は、透かしインキによって形成され基材よりも透過性の高い第1の透かし要素が複数形成された潜像部と、基材よりも透過性の高い凹形状の第2の透かし要素が複数形成された背景部から成る透過潜像模様を備え、潜像部と背景部の透過性が等しく、透過光下で基材を傾けて観察すると、潜像部と背景部の透過光量の差により、潜像が視認されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の透過潜像画像形成体は、透かし模様は、潜像部に形成された第1の透かし要素及び背景部に形成された第2の透かし要素と重ならない位置に、基材よりも透過性の高い凹形状の第3の透かし要素が複数形成されて成る透過模様を更に備え、第3の透かし要素の大きさは、第2の透かし要素の大きさ以下であり、第3の透かし要素の深さは、第2の透かし要素の深さ以上であり、透過光下で基材を観察する角度によって、透過模様と潜像が変化して視認されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透過潜像画像形成体は、潜像が視認される透過潜像模様を構成する潜像部と背景部の透過性が等しいことから、潜像の隠蔽性が高い。
【0017】
また、本発明の透過潜像画像形成体は、基材に貫通孔を形成することなく、透かしによって、潜像が視認される透過潜像模様を形成することから、基材の強度が低下することを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の透過潜像画像形成体の概要を示す図である。
図2】第1の実施の形態の透過潜像模様の構成を示す図である。
図3】透過潜像画像形成体に対して正対した位置から透過光下で観察した状態と、視認される透かしを示す図である。
図4】透過潜像画像形成体に対して斜めの方向から透過光下で観察した状態と、視認される透かしを示す図である。
図5】透過潜像模様を構成する潜像部と背景部の構成を示す図である。
図6】透過潜像模様を構成する潜像部と背景部の別の構成を示す図である。
図7】潜像部と背景部が画線で構成された透かし要素から成る例を示す図である。
図8】潜像部と背景部が破線で構成された透かし要素から成る例を示す図である。
図9】第2の実施の形態の透過潜像画像形成体の概要を示す図である。
図10】第2の実施の形態の透かし模様の構成を示す図である。
図11】第2の実施の形態の透かし模様の一部拡大図であり、透過模様の構成を示す図である。
図12】透過模様を構成する第3の透かし要素の構成を示す図である。
図13】第3の実施の透過潜像画像形成体の概要を示す図である。
図14】第3の実施の形態の透過潜像模様を構成する潜像部の構成を示す図である。
図15】第3の実施の形態の潜像部を構成する第1の潜像部の構成を示す図である。
図16】第3の実施の形態の潜像部を構成する第2の潜像部の構成を示す図である。
図17】第3の実施の形態の潜像部を構成する第3の潜像部の構成を示す図である。
図18】第3の実施の形態の潜像部の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する、しかしながら、本発明は、以下に述べる形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他様々な形態が含まれる。
【0020】
(第1の実施の形態)
はじめに、本発明の第1の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)の概要について図1を用いて説明する。図1に示す透過潜像画像形成体(1)は、紙等の光透過性を有する基材(2)の上の少なくとも一部に、透過光下で視認できる透かし模様(7)を備え、第1の実施の形態において透かし模様(7)は、潜像部(3)と、背景部(4)から成る透過潜像模様(7A)を備える。
【0021】
本発明で用いる基材(2)は、光透過性を有するシート状のものであればよく、紙、合成繊維紙、不織布、フィルム、カード基材を用いる。詳細には、針葉樹、広葉樹等の木材繊維、ケナフ、バガス、アバカ、麻、木綿、みつまた、こうぞ、わら、竹等の非木材繊維から成る紙、レーヨン等の再生繊維、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、PET、ポリオレフィン系等の合成繊維から成る合成繊維紙又は不織布を用いることが可能である。ただし、フィルムやカードのような基材(2)を用いる場合は、基材の厚みで光透過性を調整できる材料でなければならない。
【0022】
本発明において透かし模様(7)は、例えば、従来の透かしの構成と同様に、基材(2)の厚さを部分的に異ならせた凹形状で形成され、これらの凹形状から成る透かし模様(7)は、反射光下では視認されず、透過光下の観察では視認可能である。本発明の透かし模様(7)は、更に、透過光下における観察方向を変えることで、視認できる図柄が変化し、潜像部(3)の図柄(ここでは、「N」の文字)が視認できることを特徴とする。以下、透過潜像模様(7A)の詳細な構成について説明する。
【0023】
(透過潜像模様)
図2(a)は、本発明における透過潜像画像形成体(1)の平面図を示しており、図1の破線エリアの拡大図である。また、図2(b)は、図2(a)のA-A’線における断面図である。図2に示す透過潜像模様(7A)は、凹形状から成る構成の例である。
【0024】
図2(a)に示すように、透過潜像模様(7A)を構成する潜像部(3)は、基材(2)の一方の面に凹形状の第1の透かし要素(5)が複数配置されて成り、背景部(4)は、基材(2)に第1の透かし要素(5)が形成される同じ面に、凹形状の第2の透かし要素(6)が複数配置されて成る。図2に示す潜像部(3)は、詳細には、第1の透かし要素(5)が第1の方向(V1)に一定のピッチ(P1)で配置されるとともに、第1の方向と異なる第2の方向(V1)に一定のピッチ(P1)で配置された例を示している。このように第1の透かし要素(5)が一定のピッチ(P1、P1)で配置されることで、透過光下で潜像部(3)は、一様な明るさの透かしとして視認することができ、後述する背景部(4)との透過性の関係により、潜像部(3)を隠ぺいすることができる。なお、第1の透かし要素(5)が配置される方向は、異なる方向であれば、図2に示す方向に限定されるものではない。
【0025】
また、図2に示す背景部(4)は、詳細には、第2の透かし要素(6)が第1の方向(V1)に一定のピッチ(P2)で配置されるとともに、第1の方向と異なる第2の方向(V2)に一定のピッチ(P2)で配置された例を示している。背景部(4)もまた、第2の透かし要素(6)が一定のピッチ(P2、P2)で配置されることで、透過光下で、一様な明るさの透かしとして視認することができ、後述する潜像部(3)との透過性の関係により、潜像部(3)を隠ぺいすることができる。なお、第2の透かし要素(6)が配置される方向は、異なる方向であれば、図2に示す方向に限定されるものではない。
【0026】
図2に示す潜像部(3)は、第1の透かし要素(5)が一定のピッチ(P1、P1)で配置される構成について説明したが、第1の透かし要素(5)を異なるピッチでランダムに配置し、透過光下で潜像部(3)を一様な明るさとしてもよい。また、背景部(4)に配置される第2の透かし要素(6)においても、同様であり、第2の透かし要素(6)を異なるピッチでランダムに配置し、透過光下で背景部(4)を一様な明るさとしてもよい。
【0027】
図2に示す第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)は、円形状の構成から成る例を示しているが、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)は、円形状に限定されるものではなく、三角形、四角形を含む多角形、星型等の各種図形、あるいは文字や記号、数字等であってもよい。また、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)は、画線の構成でもよい。また、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)が異なる形状でもよく、例えば、第1の透かし要素(5)が円形で、第2の透かし要素(6)が三角形とする構成や、第1の透かし要素(5)が直線で、第2の透かし要素(6)が四角形とする構成としてもよい。ここでは、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)が円形状の構成から成る例について説明し、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)が、画線の構成から成る例については後述する。
【0028】
本発明において、潜像部(3)と背景部(4)は、透過性が等しい構成により、透過光下で基材(2)に正対した位置から観察した際に潜像部(3)の図柄を視認することができないが、透過光下で基材(2)を傾けて観察すると、潜像部(3)のみ光が透過することで潜像部(3)の図柄が視認できる。この効果を満たす構成について詳細に説明する。
【0029】
本発明の効果を満たす一つ目の構成は、図2に示すように、第1の透かし要素(5)の凹形状の深さ(H1)に対して、第2の透かし要素(6)の凹形状の深さ(H2)が深く、かつ、第1の透かし要素(5)の面積率が、第2の透かし要素(6)の面積率より高い構成である。本発明において、「第1の透かし要素(5)の面積率」とは、基材(2)の単位面積当たりに形成される第1の透かし要素(5)の面積の割合のことであり、「第2の透かし要素(5)の面積率」とは、基材(2)の単位面積当たりに形成される第2の透かし要素(6)の面積の割合のことである。なお、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の深さと面積率の関係については、前述した条件と逆でもいいことは言うまでもない。つまり、第1の透かし要素(5)の凹形状の深さ(H1)に対して、第2の透かし要素(6)の凹形状の深さ(H2)が浅く、かつ、第1の透かし要素(5)の面積率が、第2の透かし要素(6)の面積率より低い構成でもよい。
【0030】
図2では、第1の透かし要素(5)の面積率が、第2の透かし要素(6)の面積率より高い構成として、第1の透かし要素(5)の大きさ(W1、W1)が、第2の透かし要素(6)の大きさ(W2、W2)より大きく、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)が、第1の方向(V1)と第2の方向(V2)に同じピッチで配置された構成を示している。
【0031】
一般に、凹形状の透かしは、基材(2)より明るく視認されるが、その大きさが高い程、光が透過する量が多くなって明るく視認され、凹形状の深さが深い程、光が透過する量が多くなって明るく視認される。図2に示す第2の透かし要素(6)の大きさは、第1の透かし要素(5)の大きさより小さいが、第2の透かし要素の深さ(H2)が第1の透かし要素(H1)の深さより深い構成とすることにより、大きさと深さが異なる第1の透かし要素(5)が配置された潜像部(3)と第2の透かし要素(6)が配置された背景部(4)の透過性を等しい構成としている。なお、図2に示す構成では、第1の透かし要素(5)を配置するピッチ(P1、P1)と、第2の透かし要素(6)を配置するピッチ(P2、P2)を同じとした例について説明したが、潜像部(3)と背景部(4)の透過性を同じにするために、第2の透かし要素(6)を配置するピッチ(P2、P2)を適宜調整して、第2の透かし要素(6)を形成すればよく、図2に示す構成において、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が同じであれば、第1の透かし要素(5)を配置するピッチ(P1、P1)と、第2の透かし要素(6)を配置するピッチ(P2、P2)が異なってもよい。
【0032】
本発明の透過潜像画像形成体(1)において、図2に示すように、所定の形状で形成された第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の大きさの差が目視で確認できると、透過光下で観察した際に潜像の図柄が類推されてしまうことから、微細な大きさであることが好ましく、第1の透かし要素(5)の大きさ(W1、W1)と第2の透かし要素(6)の大きさ(W2、W2)は、500μm以下とすることが好ましい。
【0033】
(加工方法)
本発明において、凹形状の第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)を形成する方法は、公知の透かしを形成する手段を用いることができ、例えば、製紙工程で、透かしに対応した凸部を備えたダンディロールや円網を用いる方法や、作製された紙にレーザー加工、彫刻加工によって、基材(2)を除去することで、凹形状の透かしを形成することができる。
【0034】
(効果)
以上の構成で成る透過潜像模様(7A)を図3(a)に示すように、透過光下で基材(2)に正対した位置から観察すると、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しいことから、図3(b)に示すように、潜像部(3)と背景部(4)は同じ明るさとなって潜像部(3)の図柄を視認することができず、透過潜像模様(7A)全体が、周りの基材(2)よりも明るく視認される。本発明において、透過光下での観察とは、図3(a)に示すように、基材(2)に透過潜像模様(7A)が形成された側に観察者の視点(O)が位置し、基材(2)を挟む観察者の視点(O)とは反対側に光源(9)が位置する条件で観察することである。また、本発明において、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しいとは、潜像部(3)に形成された第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の大きさ、配置するピッチ、深さのバランスによって透過光下で基材(2)に正対して観察した際に、潜像部(3)が視認できない明るさに潜像部(3)と背景部(4)が形成されていることである。
【0035】
一方、図4(a)に示すように、透過光下で基材(2)に対して斜めの方向から観察すると、第2の透かし要素(6)は、第1の透かし要素(5)より大きさが小さく、かつ、第2の透かし要素(6)の深さ(H2)が深いため、基材(2)の死角となって透過光を観察することができない。また、第1の透かし要素(5)は、第2の透かし要素(6)より大きさが大きく、第1の透かし要素(5)の深さ(H1)が浅いため、光が透過して潜像部(3)は、周りの基材(2)よりも明るく視認される。以上の結果、図4(b)に示すように、潜像部(3)が現す「N」の文字が潜像として視認され、これを確認することで真偽判別することができる。図4では、基材(2)に対して観察者の視点(O)が斜めの方向から観察した状態を示しているが、観察者の視点(O)を固定して、基材(2)を傾けて観察しても、潜像を視認することができる。なお、透過光下で基材(2)に対して斜めの方向から観察した際に、第2の透かし要素(6)は、基材(2)の死角となって透過光を観察することができないとは、詳細には、第2の透かし要素(6)が形成された基材(2)自体は光を透過するものの、図4(b)に示すように、透かし模様(7)の周囲の基材(2)と同じ明るさとなり、第2の透かし要素(6)自体及び第2の透かし要素(6)によって構成される背景部(4)が視認できないことである。また、第1の透かし要素(5)が光を透過するとは、基材(2)の死角となる第2の透かし要素(6)よりも透過する光の量が多いことであり、本発明において視認できる潜像は、背景部(4)に対して潜像部(3)が相対的に明るいことで視認される。
【0036】
本発明の透過潜像画像形成体(1)において、潜像を視認するための基材(2)に対して斜めから観察する方向(基材に対する観察角度)は、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の形状にもよるが、いずれにしても、図3(a)に示す基材(2)に対して正対して観察する状態から徐々に傾けていくと、はじめに第2の透かし要素(6)からの透過光が視認できなくなるので、その時点で、潜像を視認することができる。また、基材(2)と水平となる観察方向から、基材(2)に対して正対する観察方向へ徐々に傾けていくと、潜像部(3)を構成する第1の透かし要素(5)からの透過光が、はじめに視認できるため、「N」の文字の潜像を視認することができる。
【0037】
本発明の透過潜像画像形成体(1)は、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しいことから、透過光下で斜めから観察した際に視認される潜像の図柄の隠蔽性が高いので、傾けて観察した際に視認できる潜像効果が高い。
【0038】
以下、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しく、透過光下で基材(2)を傾けて観察すると潜像が視認できる他の例について説明する。
【0039】
図5は、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の面積率と深さが異なる構成の別の例であり、潜像部(3)の「N」の文字を現す領域に、第1の透かし要素(5)が隙間なく配置された構成である。なお、背景部(6)に形成される第2の透かし要素(6)の深さ(H2)は、前述のとおり、第1の透かし要素(5)の深さ(H1)より深く、各要素(5、6)の深さ(H1、H2)、第2の透かし要素(6)の大きさを調整することで、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しい構成となっている。
【0040】
図5に示す構成で成る透過潜像画像形成体(1)は、「N」の文字の領域全体に第1の透かし要素(5)が隙間なく形成されることから、透過光下で傾けて視認される潜像も「N」の文字全体から透過する光を視認することができ、図2に示す構成よりも、解像度が高い潜像を視認できるという効果がある。
【0041】
続いて、本発明において潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しく、透過光下で基材(2)を傾けて観察すると潜像が視認できる二つ目の構成について説明する。図6(a)は、図1に示す透過潜像画像形成体(1)の透過潜像模様(7A)が形成された領域において、破線で囲む領域の拡大図であり、図6(b)は、図6(a)のA-A’線における断面図である。
【0042】
図6に示す透過潜像模様(7A)は、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の大きさ及びピッチが異なり、かつ、深さが同じ構成の例である。具体的な例として、図6に示す第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)は、円形状で深さ(H1、H2)が同じであり、第1の透かし要素(5)の大きさ(W1、W1)が、第2の透かし要素(6)の大きさ(W2、W2)より大きい構成となっている。このため、深さが同じ第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)を比べると、大きい第1の透かし要素(5)の方が明るく視認される。そこで、小さい第2の透かし要素(6)を形成するピッチ(P2、P2)を、第1の透かし要素(5)を形成するピッチ(P1、P1)より小さくして形成することで、透過性を同じ構成としている。
【0043】
図6に示す構成で成る透過潜像画像形成体(1)においても、基材(2)に対して正対する方向から徐々に傾けて観察すると、はじめに面積が小さい第2の透かし要素(6)が死角となるため、潜像部(3)が現す「N」の文字の潜像を視認することができる。なお、図6に示す構成において、第1の透かし要素(5)は、一定のピッチ(P1、P1)で配置された例であるが、第1の透かし要素(5)を異なるピッチでランダムに配置し、透過光下で潜像部(3)を一様な明るさとしてもよく、背景部(4)に配置される第2の透かし要素(6)も同様である。
【0044】
続いて、本発明において潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しく、透過光下で基材(2)を傾けて観察すると潜像が視認できる三つ目の構成について説明する。図7(a)は、図1に示す透過潜像画像形成体(1)の透過潜像模様(7A)が形成された領域において、破線で囲む領域の拡大図であり、図7(b)は、図7(a)のB-B’線における断面図である。
【0045】
図7(a)に示す透過潜像模様(7A)は、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)が同じ画線幅(W1、W2)の画線で構成され、潜像部(3)に形成される第1の透かし要素(5)が配置される方向(V1)と背景部(4)に形成される第2の透かし要素(6)が配置される方向(V1)が異なる構成の例である。また、図7に示す透過潜像模様(7A)において第1の透かし要素(5)は、第1の方向(V1)に一定のピッチ(P1)で配置され、第2の透かし要素(6)は、第2の方向(V1)に一定のピッチ(P2)で配置されて成り、第1の透かし要素(5)のピッチ(P1)と第2の透かし要素(6)のピッチ(P2)は同じである。また、図7(b)の断面図に示すように、第1の透かし要素(5)の深さ(H1)と第2の透かし要素(6)の深さ(H2)もまた、同じである。なお、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の配置は、異なる方向に配置されれば、図7に示す配置に限定されるものではないが、第1の方向(V1)と第2の方向(V1)の角度の差が小さいと潜像の視認性が低下することから、第1の方向(V1)と第2の方向(V1)の角度差を45°以上とすることが好ましく、図7(a)に示すように、第1の方向(V1)と第2の方向(V1)が90°異なることがより好ましい。
【0046】
図7に示す透過潜像模様(7A)において、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の画線幅(W1、W2)、ピッチ(P1、P2)及び深さ(H1、H2)が同じであることから、潜像部(3)と背景部(4)の透過性は同じである。
【0047】
図7に示す構成で成る透過潜像画像形成体(1)においても、透過光下で基材(2)に対して正対する方向から徐々に傾けて観察すると、潜像部(3)が現す「N」の文字の潜像を視認することができる。なお、図7に示す構成で成る透過潜像画像形成体(1)において潜像を観察する場合、潜像部(3)に形成された第1の透かし要素(5)の長さ方向と平行方向(B-B’線)であって基材(2)に対して斜めの方向から観察する。図3(a)に示す透過光下で基材(2)に正対した位置の視点(O)から徐々に基材(2)に対して傾けていくと、第2の透かし要素(6)の画線幅(W2)が、第1の透かし要素(5)の長さより短いことで、はじめに、第2の透かし要素(6)が、基材(2)の死角となって透過光を観察することができなくなり(詳細には、周囲の基材との明るさの差がない状態)、その際、第1の透かし要素(5)を透過する光の量が第2の透かし要素(6)より多く、「N」の文字の潜像を視認することができる。
【0048】
図7では、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)が直線で構成された例を示しているが、図8に示すように破線の構成でもよい。この場合、図7に示す一つの第1の透かし要素(5)を一定の間隔で分断した状態となり、図8の破線で構成された第1の透かし要素(5)の一部を構成する第1’の透かし要素(5’)は、画線方向の大きさ(W1)が画線幅(W1)より大きい構成とする。また、図8の破線で構成された第2の透かし要素(6)の一部を構成する第2’の透かし要素(6’)は、画線方向の大きさ(W2)が画線幅(W2)より大きい構成とする。
【0049】
図8に示す構成で成る透過潜像画像形成体(1)においても、透過光下で基材(2)に対して斜めの方向から観察すると潜像が視認できる原理については、図7に示す構成で成る透過潜像画像形成体(1)と同様であり、図3(a)に示す透過光下で基材(2)に正対した位置の視点(O)から徐々に基材(2)に対して傾けていくと、第2の透かし要素(6)の画線幅(W2)が、第1’の透かし要素(5’)の画線方向の大きさ(W1)より短いことで、はじめに、第2の透かし要素(6)が、基材(2)の死角となって透過光を観察することができなくなり(詳細には、周囲の基材との明るさの差がない状態)、その際、第1の透かし要素(5)を透過する光の量が第2の透かし要素(6)より多く、「N」の文字の潜像を視認することができる。
【0050】
図7及び図8では、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)が画線と破線で構成される例について説明したが、他の画線、例えば、波線、鋸線等の構成としてもよい。また、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)が画線で構成される場合において、段落(0029)から段落(0031)で説明したように、潜像部(3)と背景部(4)に形成する第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の面積率と深さが異なる構成としてもよい。また、図7及び図8に示す構成において、第1の透かし要素(5)は、一定のピッチ(P1)で配置された例であるが、第1の透かし要素(5)を異なるピッチでランダムに配置し、透過光下で潜像部(3)を一様な明るさとしてもよく、背景部(4)に配置される第2の透かし要素(6)も同様である。
【0051】
(透かしインキによる第1の透かし)
以上に説明した潜像部(3)に形成される第1の透かし要素(5)は、凹形状で構成された例であるが、基材(2)内部へ浸透して明るく視認される作用がある透かしインキを印刷して形成してもよい。具体的な材料としては、樹脂やワックス、動植物油等であり、市販されている透かしインキを用いて印刷すればよい。透かしインキを印刷して形成した第1の透かし要素(5)は、第2の透かし要素(6)のように基材(2)が凹むことがないことから、透過光下で斜めから観察した際に、光が透過して潜像を視認することができる。なお、透かしインキを印刷して第1の透かし要素(5)を形成する場合においても、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しくなるように、各要素の大きさ、面積率及び第2の透かし要素(6)の深さ(H2)等を調整すればよい。
【0052】
第1の実施の形態において潜像部(3)は、「N」の文字を現して成る例について説明したが、これに限定されるものではなく、他の文字、図形、記号等であってもよい。また、透過光下で傾けて視認できる潜像は「N」の文字が視認できる例について説明したが、「N」の文字の背景が視認できる構成としてもよく、この場合、「N」の文字の背景を現す領域に第1の透かし要素(5)を形成し、「N」の文字を現す領域に第2の透かし要素(6)を形成すればよい。また、第1の実施の形態において透過潜像模様(7A)は、「円形」とした例であるが、他の図形、文字、記号等であってもよく、その場合、第2の透かし要素(6)を形成する背景部(4)の領域を適宜変更すればよい。
【0053】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、透過光下で基材(2)に正対した位置の視点(O)から観察した際に、潜像とは異なる図柄が視認され、透過光下で観察角度を変化させることで、視認される図柄が変化する透過潜像画像形成体(1)である。以下、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)の構成について説明する。
【0054】
図9(a)は、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)を示す図であり、図9(b)は、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)を、透過光下で基材(2)に正対した位置の視点(O)から観察した際に視認される図柄を示す図であり、図9(c)は、透過光下で観察角度を変化させることで視認される潜像の図柄を示す図である。第2の実施の形態について分かり易く説明するため、第2の実施の形態の透過潜像模様(7A)を構成する潜像部(3)と背景部(4)が現す図柄は、第1の実施の形態と同様に「N」の文字を模る構成の例について説明する。また、図9(b)に示すように、透過光下で基材(2)に正対した位置の視点(O)から観察した際に視認される図柄は、一例として「星型」の図柄とした例について説明し、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)の構成について第1の実施の形態と異なる点について説明する。
【0055】
図10は、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)に形成される透かし模様(7)の構成を示す図であり、透かし模様(7)は、第1の実施の形態と同じ構成である図10(b)に示す透過潜像模様(7A)と、図10(c)に示す透過模様(7B)によって構成される。なお、第2の実施の形態において、透過潜像模様(7A)の構成は、第1の実施の形態と同様であって、「N」の文字を現す潜像部(3)と、その背景を構成する背景部(4)から成り、潜像部(3)と背景部(4)の透過性が等しい構成となっている。
【0056】
図11は、図10(a)の破線で囲む透過潜像模様(7A)と透過模様(7B)が形成された領域の拡大図である。図11において、太い点線で示すのは、透過模様(7B)が現す「星型」の図柄の輪郭を示しており、透過模様(7B)は、図11の太い点線内に、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)と重ならないように、第3の透かし要素(11)が複数配置されて成る。
【0057】
図11において、第3の透かし要素(11)は、一定のピッチ(P3、P3)で配置された例を示しているが、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)と重なることなく配置され、所望とする透過模様(7B)の図柄に応じて配置されていれば、第3の透かし要素(11)は、一定のピッチで配置されていなくてもよい。
【0058】
図11において、第3の透かし要素(11)は、円形状の構成を示しているが、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)と重ならない構成であれば、三角形、四角形等の形状でもよいし、画線の構成でもよい。
【0059】
第2の実施の形態の第3の透かし要素(11)は、凹形状であり公知の透かしを形成する手段を用いることができ、例えば、製紙工程で、透かしに対応した凸部を備えたダンディロールや円網を用いる方法や、作製された紙にレーザー加工、彫刻加工によって、基材(2)を除去することで形成することができる。
【0060】
第3の透かし要素(11)の大きさは、第2の透かし要素(6)の大きさと同じか又は小さく、具体的には、図11に示す円形状の直径に相当する第3の透かし要素(11)の大きさ(W3、W3)が、第2の透かし要素(6)の大きさ(W2、W2)と同じか又は小さい構成である。
【0061】
また、第3の透かし要素(11)の深さ(H3)は、第2の透かし要素(6)の深さ(H2)と同じか又は深く、具体的には、図12(a)に示すように、第3の透かし要素(11)の深さ(H3)は、第2の透かし要素(6)の深さ(H2)と同じか又は図12(b)に示すように、第3の透かし要素(11)の深さ(H3)は、第2の透かし要素(6)の深さ(H2)より深い構成となっている。なお、図12(a)及び図12(b)は、第2の透かし要素(6)と第3の透かし要素(11)の深さの関係を示す図であって、図11に示す第2の透かし要素(6)と第3の透かし要素(11)の配置関係を示すものではない。
【0062】
(効果)
以上の構成で成る第2の実施の形態の透かし模様(7)を透過光下で基材(2)に正対した位置から観察した場合、潜像部(3)が隠蔽された透過潜像模様(7A)に加えて、透過模様(7B)が形成されることから、図9(b)に示すように、透過模様(7B)が形成された領域は、その周りよりも明るく視認され「星型」の図柄を視認することができる。
【0063】
一方、第2の実施の形態の透かし模様(7)を透過光下で基材(2)に対して斜めの方向から観察すると、背景部(4)の第2の透かし要素(6)が基材(2)の死角となるのと同様に、第3の透かし要素(11)の深さ(H3)が、第2の透かし要素(6)の深さ(H2)以上で形成されることで、第3の透かし要素(11)も基材(2)の死角となって透過光を観察することができない(詳細には、周囲の基材との明るさの差がない状態となる)。その結果、基材(2)に対して斜めの方向から観察すると、図9(c)に示すように、潜像部(3)が現す「N」の文字が潜像として視認される。そして、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)は、透過光下で観察角度を変化させることで、視認される図柄が変化する効果を確認することで、真偽判別することができる。
【0064】
第2の実施の形態において、図11に示す第3の透かし要素(11)は、すべて同じ大きさで形成された例を示しているが、第2の透かし要素(6)の大きさ(W2、W2)以下であれば、部分的に大きさを異ならせてもよい。また、図11に示す第3の透かし要素(11)は、一定のピッチ(P3、P3)で配置された例を示しているが、「星型」の図柄を現す領域内で、ピッチ(P3、P3)を異ならせてもよい。また、透過模様(7B)を構成する全ての第3の透かし要素(11)は、同じ深さ(H3)で構成されてもよいし、第2の透かし要素(6)の深さ(H2)以上の構成であれば、「星柄」の図柄を現す領域内で、深さ(H3)を部分的に異ならせてもよい。これらの構成によれば、透過模様(7B)が現す「星型」の図柄の領域内で、透過光量の差が生じ、明暗差のある「星型」の図柄を視認することができる。すなわち、透過光下で基材(2)に正対した位置から観察した場合に視認できる透かしに、階調表現することができる。
【0065】
また、第2の実施の形態において、透過模様(7B)である「星型」の図柄を構成する領域は、透過潜像模様(7A)の潜像部(3)と背景部(4)を構成する領域の一部と重複して配置された例について説明したが、第3の透かし要素(11)は、第1の透かし要素(5)及び第2の透かし要素(6)と重ならない配置であればよく、透過模様(7B)は、潜像部(3)を構成する領域の一部のみに重複して配置されてもよいし、背景部(4)を構成する領域の一部のみに重複して配置されてもよい。
【0066】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、透過光下で傾けて観察する角度を変化させることにより、視認される潜像の図柄が変化する透過潜像画像形成体(1)である。以下、第3の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)の構成について説明する。
【0067】
図13(a)は、第3の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)を示す図であり、第3の実施の形態の透かし模様(7)を構成する潜像部(3)は、透過光下で傾けて観察する角度を変化させた際に視認できる潜像として、図13(b)に示す「円形」の図柄、図13(c)に示す「星型」の図柄及び図13(d)に示す「正方形」の図柄を含んだ構成となっている。
【0068】
図14は、第3の実施の形態の潜像部(3)の構成を示す図であり、図14(a)に示す潜像部(3)は、図14(b)に示す「円形」の図柄に対応した領域(以降、「第1の潜像部(3-1)」という。)、図14(c)に示す「星型」の図柄に対応した領域から第1の潜像部(3-1)を除く領域(以降、「第2の潜像部(3-2)」という。)及び図14(d)に示す「正方形」の図柄に対応した領域から第1の潜像部(3-1)と第2の潜像部(3-2)を除く領域(以降、「第3の潜像部(3-3)」という。)から成る。
【0069】
第1の潜像部(3-1)、第2の潜像部(3-2)及び第3の潜像部(3-3)には、凹形状の第1の透かし要素(5)が形成されるが、各潜像部(3-1、3-2、3-3)に形成される第1の透かし要素(5)は、大きさと深さが異なり、詳細について説明する。
【0070】
図15(a)は、第1の潜像部(3-1)の一部拡大図であり、第1の潜像部(3-1)は、図15(a)の拡大図に示すように、第1の透かし要素(5)が複数配置されて成る。以降、第1の潜像部(3-1)に配置される第1の透かし要素(5)のことを「第1-1の透かし要素(5-1)」として説明する。図15(b)は、図15(a)の拡大図のA-A’線における断面図であり、第1の潜像部(3-1)は、凹形状の第1-1の透かし要素(5-1)が形成されており、符号(H1-1)は、第1-1の透かし要素(5-1)の深さを示している。
【0071】
図16(a)は、第2の潜像部(3-2)の一部拡大図であり、第2の潜像部(3-2)は、図16(a)の拡大図に示すように、第1の透かし要素(5)が複数配置されて成る。以降、第2の潜像部(3-2)に配置される第1の透かし要素(5)のことを「第1-2の透かし要素(5-2)」として説明する。図16(b)は、図16(a)の拡大図のA-A’線における断面図であり、第2の潜像部(3-2)は、凹形状の第1-2の透かし要素(5-2)が形成されており、符号(H1-2)は、第1-2の透かし要素(5-2)の深さを示している。
【0072】
図17(a)は、第3の潜像部(3-3)の一部拡大図であり、第3の潜像部(3-3)は、図17(a)の拡大図に示すように、第1の透かし要素(5)が複数配置されて成る。以降、第3の潜像部(3-3)に配置される第1の透かし要素(5)のことを「第1-3の透かし要素(5-3)」として説明する。図17(b)は、図17(a)の拡大図のA-A’線における断面図であり、第3の潜像部(3-3)は、凹形状の第1-3の透かし要素(5-3)が形成されており、符号(H1-3)は、第1-3の透かし要素(5-3)の深さを示している。
【0073】
図15から図17に示す第1-1の透かし要素(5-1)から第1-3の透かし要素(5-3)は、互いに大きさと深さが異なるが、第1の潜像部(3-1)、第2の潜像部(3-2)及び第3の潜像部(3-3)の透過性は同じ構成である。詳細には、図15から図17に示すように透かし要素(5)の大きさは、第1-1の透かし要素(5-1)が大きく、第1-2の透かし要素(5-2)、第1-3の透かし要素(5-3)の順に小さい。また、図15から図17に示すように透かし要素(5)の深さは、第1-1の透かし要素(5-1)が浅く、第1-2の透かし要素(5-2)、第1-3の透かし要素(5-3)の順に深い。段落(0029)及び段落(0031)で説明したように、凹形状の透かしの大きさと深さを調整することで、透過性を等しい構成とすることができることから、ここでは、大きさと深さが異なる三つの透かし要素(5-1、5-2、5-3)の透過性を等しい構成としている。なお、第3の実施の形態で説明する三つの透かし要素(5)のうち、凹形状の透かしの深さが最も深い第1-3の透かし要素(5-3)の深さ(H1-3)は、背景部(4)に形成される第2の透かし要素(6)の深さ(H2)より浅い構成であり、凹形状の透かしの大きさが最も小さい第1-3の透かし要素(5-3)の大きさは、第2の透かし要素(6)の大きさより大きい構成となっている。
【0074】
(効果)
以上の構成で成る第3の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)を、透過光下で基材(2)に正対した位置から観察すると、第1の潜像部(3-1)、第2の潜像部(3-2)及び第3の潜像部(1-3)の透過性が等しいことから、潜像部(3)全体としては、一様な明るさで視認される。また、前述のように、潜像部(3)と背景部(4)もまた、単位面積当たりの透過光量が等しいことから、透かし模様(7)全体が、一様な明るさで視認される。
【0075】
一方、基材(2)に正対した位置から徐々に傾けて観察すると、はじめに、背景部(4)に形成された第2の透かし要素(6)の深さ(H2)が深いため、基材(2)の死角となって透過光を観察することができなくなる(詳細には、周囲の基材との明るさの差がない状態となる)。これに対して、第1-1の透かし要素(5-1)、第1-2の透かし要素(5-2)及び第1-3の透かし要素(5-3)は、第2の透かし要素(6)よりも大きさが大きく、深さが浅いため、光は透過する。この結果、第1の潜像部(3-1)、第2の潜像部(3-2)及び第3の潜像部(3-3)が光を透過して、各潜像部(3-1、3-2、3-3)によって現わされた図13(d)に示す「正方形」の潜像を視認することができる。
【0076】
また、更に、基材(2)に対して傾けて観察していくと、潜像部(3)のうち、最も深さが深い第1-3の透かし要素(5-3)が基材(2)の死角となって透過光を観察することができなくなる。その結果、第3の潜像部(3-3)が視認できなくなり、第1の潜像部(3-1)と第2の潜像部(3-2)によって現わされた図13(c)に示す「星型」の潜像を視認することができる。
【0077】
また、更に、基材(2)に対して傾けて観察していくと、潜像部(3)のうち、2番目に深さが深い第1-2の透かし要素(5-2)が基材(2)の死角となって透過光を観察することができなくなる。その結果、第2の潜像部(3-2)も視認できなくなり、第1の潜像部(3-1)によって現わされた図13(b)に示す「円形」の潜像を視認することができる。以上のように、第3の実施の形態の透過潜像画像形成体(1)は、透過光下で傾けて観察する角度を変化させることにより、視認される潜像の図柄が変化し、これを真偽判別に用いることができる。
【0078】
第3の実施の形態において、透過光下で傾けて観察する角度を変化させた場合に視認できる潜像について、図13に示す図柄とした例について説明したが、各潜像部が現す図柄は、これに限定されるものではない。また、図14に示す各潜像部(3-1、3-2、3-3)は、外側の図柄によって、内側の図柄が囲まれた例であるが、図18(a)に示すように、各潜像部同士が隣接して配置されてもよいし、図18(b)に示すように、各潜像部同士が離れて配置されてもよいが、透過光下で基材(2)に正対した位置から観察した際に、潜像部(3)の図柄が視認されないために背景部(4)と隣接して配置される必要があり、好ましくは、背景部(4)によって囲まれる配置がよい。また、図18(b)において、「星型」の図柄を第1の潜像部(3-1)、「正方形」の図柄を第2の潜像部(3-2)、「三角形」の図柄を第3の潜像部(3-3)が現した例であるが、図18(c)に示すように、各図柄を現す各潜像部を変更してもよい。また、第3の実施の形態において、透過光下で傾けて観察する角度を変化させた場合に視認できる潜像の数が三つとした例について説明したが、更に多くの潜像を設けてもよいし、二つとしてもよい。
【0079】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した透過潜像画像形成体(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例)
実施例は、図5に示す透過潜像模様(7A)を備えた透かし模様(7)が基材(2)に形成された透過潜像画像形成体(1)であり、以下、実施例の詳細な構成について説明する。
【0081】
実施例の基材(2)として、木綿パルプを原料とし、手すきシート作製機(熊谷理機工業株式会社製)を用いて、厚さ100μmの白色の紙基材を作製した。この際、手すきシート作製機の金網に凸部を設けることで、以下に説明する透過潜像模様(7A)を構成する凹形状の透かしを形成した。
【0082】
透過潜像模様(7A)を構成する潜像部(3)は、第1の透かし要素(5)を隙間なく配置して「N」の文字を形成した。なお、第1の透かし要素(5)の深さ(H1)は、30μmとした。
【0083】
また、透過潜像模様(7A)を構成する背景部(4)は、第2の透かし要素(6)の大きさ(W2、W2)を250μmとし、第2の透かし要素(6)のピッチ(P2、P2)を375μmとして、複数形成した。なお、第2の透かし要素(6)の深さ(H2)は、62μmとした。
【0084】
実施例として作製した透過潜像画像形成体(1)の潜像部(3)と背景部(4)は、第1の透かし要素(5)と第2の透かし要素(6)の構成が異なるが、透過性が同じであり、透過光下で基材(2)に正対した位置から観察した際に、同じ明るさで視認された。また、透過光下で基材(2)に対して斜めの方向から観察した際には、第2の透かし要素(6)が基材(2)の死角となり、光が透過して相対的に明るい潜像部(3)の図柄が潜像として視認することができた。
【符号の説明】
【0085】
1 透過潜像模様形成体
2 基材
3 潜像部
3-1 第1の潜像部(第3の実施の形態)
3-2 第2の潜像部(第3の実施の形態)
3-3 第3の潜像部(第3の実施の形態)
4 背景部
5 第1の透かし要素
5’ 第1’の透かし要素
6 第2の透かし要素
6’ 第2’の透かし要素
7 透かし模様
7B 透過模様
9 光源
11 第3の透かし要素
図1
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