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特許7225170Ag合金円筒形スパッタリングターゲット、スパッタリング装置及び電子デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】Ag合金円筒形スパッタリングターゲット、スパッタリング装置及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230213BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230213BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20230213BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20230213BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230213BHJP
   B22F 3/087 20060101ALI20230213BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20230213BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/34 B
H05B33/14 A
H05B33/26 Z
B22F9/08 A
B22F1/00 K
B22F3/087
C22C5/06 Z
H05B33/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020132807
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029518
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】596133201
【氏名又は名称】松田産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝博
(72)【発明者】
【氏名】仲野 幸健
(72)【発明者】
【氏名】内田 敏治
(72)【発明者】
【氏名】松本 行生
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 達哉
(72)【発明者】
【氏名】菅原 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】青沼 大介
【審査官】篠原 法子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-076080(JP,A)
【文献】特表2010-526211(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108085675(CN,A)
【文献】国際公開第2013/054521(WO,A1)
【文献】特開2013-032597(JP,A)
【文献】特開2018-100437(JP,A)
【文献】特開2013-216976(JP,A)
【文献】特開2016-065290(JP,A)
【文献】特表2010-509502(JP,A)
【文献】特表2016-531203(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105039920(CN,A)
【文献】特開2019-007057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C14/00-14/58
B22F 1/00- 8/00
B22F 9/00
C22C 1/04- 1/05
C22C33/02
H05B33/10
H05B33/14
H05B33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag及びMgを含むAgMg合金を含むAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットであって、
前記スパッタリングターゲット中の酸素含有量が1000wtppm以下、塩素含有量が10wtppm以下であり、
前記AgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの表層部を対象として、CuKα線を使用して回折角度(2θ)が30°~80°の範囲においてX線回折測定を行って得られるX線回折パターンにおいて、Ag合金の結晶面に由来する複数のピークを示し、
それぞれの結晶面のピーク強度から下記式(1)に基づいて算出される結晶方位含有比がいずれも0.5未満であることを特徴とするAgMg合金円筒形スパッタリングターゲット。
【数1】
【請求項2】
前記AgMg合金円筒形スパッタリングターゲットは、円筒形の基体であるバッキングチューブ上に積層されていることを特徴とする請求項1に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記円筒形の基体は、ステンレス、銅、銅合金、チタンのいずれかであることを特徴とする請求項に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項4】
Ag及びMgを含むAgMg合金を含むAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットであって、
前記スパッタリングターゲット中の酸素含有量が1000wtppm以下、塩素含有量が10wtppm以下であり、
前記AgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの表層部を対象として、CuKα線を使用してX線回折測定を行ったときに観察される(111)面、(200)面、(220)面、(311)面のピーク強度から下記式(2)に基づいて算出される結晶方位含有比がいずれも0.5未満であることを特徴とするAgMg合金円筒形スパッタリングターゲット。
【数2】
【請求項5】
Ag及びMgを含むAgMg合金を含むAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、
AgとMgとを含む合金溶湯を真空又は不活性ガス雰囲気中で調整する工程と、ガスアトマイズ法によりアトマイズ粉末を作製する工程と、該アトマイズ粉末を円筒形の基体であるバッキングチューブに吹き付ける工程、とを含み、
前記スパッタリングターゲット中の酸素含有量が1000wtppm以下、塩素含有量が10wtppm以下であることを特徴とするAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
Ag及びMgを含むAgMg合金を含むAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの製造方法であって、
AgおよびMgを含むターゲット材料を真空又は不活性ガス雰囲気中で溶解させる工程と、溶解した前記ターゲット材料を落下させつつ、当該ターゲット材料に不活性ガスを吹き付けることで、前記ターゲット材料を粉末の形態にする工程と、円筒形の基体に前記ターゲット材料を衝突させて堆積する堆積工程を有し、
前記スパッタリングターゲット中の酸素含有量が1000wtppm以下、塩素含有量が10wtppm以下であることを特徴とするAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
前記粉末の粒径は、1μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
記堆積工程では、粉末の形態の前記ターゲット材料が、不活性ガスのフローによって前記基体に衝突することを特徴とする請求項に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットを備えたスパッタリング装置。
【請求項10】
請求項に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットを備えたスパッタリング装置。
【請求項11】
成膜対象物とスパッタリングターゲットとをチャンバ内に配置し、前記成膜対象物に前記スパッタリングターゲットから飛翔するスパッタ粒子を堆積させて成膜するスパッタ成膜工程を含む電子デバイスの製造方法であって、前記スパッタ成膜工程は、請求項1~のいずれか一項に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットを用いることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項12】
成膜対象物とスパッタリングターゲットとをチャンバ内に配置し、前記成膜対象物に前記スパッタリングターゲットから飛翔するスパッタ粒子を堆積させて成膜するスパッタ成膜工程を含む電子デバイスの製造方法であって、前記スパッタ成膜工程は、請求項に記載のAgMg合金円筒形スパッタリングターゲットを用いることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ag合金円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法に関し、特に有機EL素子の薄膜形成に適したAg合金円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形スパッタリングターゲットは、ターゲットの使用効率が非常に高く、大面積の成膜に非常に適している。平板形スパッタリングターゲットは、一般に十数%~30%程度の使用効率であるのに対して、円筒形スパッタリングターゲットは回転させながらスパッタすることにより、約80%の高い使用効率が得られる。また、円筒形スパッタリングターゲットは冷却効率が高いため、ターゲットに高い電力を印加することによる高速成膜が可能である。
【0003】
従前は、このような円筒形スパッタリングターゲットは、建材ガラスへの表面コーティング用の成膜装置として使用されていたが、近年では、有機ELなどの電子部品の製造にも適用され始めている。例えば、特許文献1には、有機EL用ディスプレイの反射膜やタッチパネルの配線膜などの導電性膜を形成するための銀系円筒形ターゲットが開示されている。特許文献1では、ターゲットを構成する結晶粒の形状を整えることで、スパッタリング時のパーティクル低減を図ることができたことが開示されている。
【0004】
この円筒形ターゲットは、スパッタリング時のパーティクル低減には効果がある一方、成膜速度が安定しないという問題が生じた。特に、円筒形スパッタリングターゲットに高い電力を印加して高速成膜した場合、かかる問題はより顕著となった。そしてまた、前述の有機EL用ディスプレイの反射膜は、平坦性も求められることから、成膜速度が不安定な場合、平坦性を悪化させ、ひいては、反射膜としての機能を低下させるという問題を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-204052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スパッタ成膜による膜厚分布を均一にすることができる、Ag合金円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができる本発明の実施形態は、Ag合金からなるAg合金円筒形スパッタリングターゲットであって、前記Ag合金円筒形スパッタリングターゲットの表層部を対象として、CuKα線を使用して回折角度(2θ)が30°~80°の範囲においてX線回折測定を行って得られるX線回折パターンにおいて、Ag合金の結晶面に由来する複数のピークを示し、それぞれの結晶面のピーク強度から下記式(1)に基づいて算出される結晶方位含有比はいずれも0.5未満であることを特徴とするAg合金円筒形スパッタリングターゲット。
【数1】
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スパッタ成膜における膜厚分布を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】円筒形スパッタリングターゲットと円筒形バッキングチューブとを接合したユニットの概略図を示す図である。
図2】スパッタ装置の断面概略図を示す図である。
図3】ターゲットユニットの動作状態を示す模式図(上方から見た図)である。
図4】ターゲットユニットの断面模式図を示すである。
図5】有機EL装置の全体図を示す図である。
図6】1画素の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
通常、円筒形スパッタリングターゲットは、特許文献1に示されるように目的とする金属を溶解してインゴット化し、その後、円筒状に熱間押し出し工程を経て、製造する方法が一般的である。しかし、この方法は、InまたはIn合金などのボンディング材を用いて、円筒形の基体(バッキングチューブ)に接合するなど工程が煩雑であって、歩留まりが悪く、コストが高くつき、製品の大型化も困難であった。
【0011】
また、従来の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法においては、円筒形状に成形する際に金属を溶解してから再度固体化させるため、その工程において特定の結晶方位が優先的に成長し易く、そのため、このようにして製造された円筒形スパッタリングターゲットは、結晶粒が一定方向に揃った組織を有することとなる。
【0012】
スパッタリングにおいては、スパッタリングターゲットの表面に露出している粒子又は結晶粒の結晶面によってスパッタされ易さが異なり、すなわち、ターゲット表面からの粒子の叩き出し易さが変化することが知られている。換言すれば、スパッタされ難い結晶面(抵抗面)やスパッタされ易い結晶面が存在することが知られている。
【0013】
円筒形スパッタリングターゲットを用いたスパッタ装置においては、ターゲットを円筒の軸を中心に回転させながらスパッタを行うため、回転に伴ってターゲット表面のうちのスパッタされる領域が変わることになる。従来の製造方法によって製造された円筒形スパッタリングターゲットでは、上述したように結晶粒が一定方向に揃った組織を有するため、ターゲットの表面のある領域においては抵抗面が多く存在し、他の領域においては抵抗面が少なく存在する。
【0014】
このような円筒形スパッタリングターゲットを用いて成膜を行うと、ターゲットの回転に伴って成膜速度が変動するため成膜速度が不安定となる。特に、高い電力を印加した場合には、スパッタ膜の膜厚分布が不均一になるという問題を生じており、例えば、有機EL用ディスプレイの反射膜は薄膜であり、かつ、高い平坦性が求められることから、一層の膜厚均一性が求められる。
【0015】
上記の問題について本発明者らが鋭意研究したところ、原料粉末を円筒形の基体であるバッキングチューブへ衝突させて、堆積、成形する、いわゆるコールドスプレー法を用いて、円筒形のAg合金スパッタリングターゲットを作製することで、上記の問題を解決できることを見出した。
【0016】
この方法で円筒形スパッタリングターゲットを作製することにより、スパッタ面(円筒形スパッタリングターゲットのスパッタされる表面)において、Ag合金の粒子又は結晶粒の配向をランダムにすることができる。
【0017】
この結果、円筒形スパッタリングターゲットの表面の全周において、各結晶面の存在比を略均一にすることができる。そのため、円筒形スパッタリングターゲットを回転させてターゲットの表面のうちのスパッタされる領域を変えながら成膜を行っても、成膜速度が大きく変動することなく、安定的に成膜を行うことができ、膜厚分布が均一になることを見出し、本発明に到った。
【0018】
この知見に基づき、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲット(以下、単にターゲットと称することもある)は、Ag合金からなるAg合金円筒形スパッタリングターゲットであって、前記Ag合金円筒形スパッタリングターゲットの表層部を対象として、CuKα線を使用して回折角度(2θ)が30°~80°の範囲においてX線回折測定を行って得られるX線回折パターンにおいて、Ag合金の結晶面に由来する複数のピークを示し、それぞれの結晶面のピーク強度から下記式(1)に基づいて算出される結晶方位含有比はいずれも0.5未満であることを特徴とする。
【0019】
このような組織を備えるAg合金円筒形スパッタリングターゲットは、スパッタ成膜の際にスパッタされるスパッタリングターゲットの表面に様々な結晶面がランダムに露出し、特定の結晶面が局所的に存在する領域を小さくすることができる。これにより、ターゲットの表面のうちのスパッタされる領域によって成膜速度がばらつくことが抑制され(安定化され)、より均一な膜厚分布を有する膜を成膜できるという優れた効果を有する。
【0020】
ここでいうスパッタリングターゲットの表層部とは、スパッタリングターゲットの表層部全体のうち、スパッタリングに使用可能な表層部のことを言い、円筒形スパッタリングターゲットの端部等のスパッタリングには使用されない部分は除外されることは言うまでもない。
【0021】
各結晶面の結晶方位含有比は、下記式(1)から求めるものとする。ここで、I(hkl)は、X線回折法により得られる(hkl)面のピーク強度比であり、R(hkl)は、(hkl)面の相対強度比(JCPDS Card参照)であり、Σ{I(hkl)/R(hkl)}は、各々の結晶面の(相対強度比で除した)XRDピーク強度比の総和である。
【0022】
なお、R(hkl)の値は、JCPDS CardのAg合金の粉末X線回折パターンの標準データの値を用いることもできるが、合金元素の含有量が少ない場合などにはAg(純銀)に類似した結晶構造を有する場合が多いため、Ag(純銀)の粉末X線回折パターンの標準データの値を用いることが好ましい。Ag(純銀)の粉末X線回折パターンの標準データとしては、例えば、JCPDS Cardの04-0783を用いることができる。
【数1】
【0023】
Ag(純銀)のX線回折パターンにおいては、2θが30°~80°の範囲内に、それぞれ(111)面、(200)面、(220)面、(311)面に対応する4つのピークが観察される。したがって、Ag合金がAg(純銀)に類似した結晶構造を有する場合には、これらの4つの結晶面のピーク強度から上記の式(1)に基づいて算出される結晶方位含有比はいずれも0.5未満であることを特徴とする。より具体的には、この場合には、上記の式(1)は、下記の式(2)のように書き換えることができるため、結晶方位含有比は下記の式(2)に基づいて算出される。
【数2】
【0024】
ここで、結晶面の結晶方位含有比は、円筒形スパッタリングターゲットの表層部(外周面)のうちの複数箇所を、所定のサイズに切り出して平坦化した後に、X線回折測定を行って算出される。例えば、ターゲット上部1箇所、中央部4箇所、下部1箇所の計6箇所から、表層部を2cm角に切り出して平坦化して測定試料片を作製した後、X線回折測定を行う。X線回折測定はCuKα線を使用して2θが30°~80°の範囲で行い、結晶方位含有比は2θが30°~80°の範囲で算出する。それぞれの箇所において結晶方位含有比を算出し、その平均値を、結晶方位含有比とする。
【0025】
本実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットはAg合金からなる。Ag合金としてはAgを主成分とする合金であれば特に限定はされないが、合金元素として、Li、Mg、Al、Zn、Ga、Pd、In、Sn、Sb、Au、Cu、Csのうちいずれか一種以上を含むことが好ましい。これらの中でも、特に、Mgを含むことがより好ましい。すなわち、AgおよびMgを含むAgMg合金であることが好ましい。また、Ag合金は、合金元素を0.1wt%~10wt%の範囲で含むことが好ましく、0.5wt%~5wt%の範囲で含むことがより好ましい。Ag合金が含む合金元素は、形成する膜の種類や用途に応じて選択することができ、いずれの合金元素を採用した場合であっても、上記する本発明の効果を得ることができる。
【0026】
また、本実施形態に係る円筒形スパッタリングターゲットは、酸素含有量が1000wtppm以下であることが好ましい。より好ましくは100ppm以下である。また、塩素含有量が10wtppm以下であることが好ましい。より好ましくは、1wtppm以下である。酸素や塩素などのガス成分は、金属成分と反応して、異物を形成し、スパッタリング時にパーティクルを発生させることがある。したがって、酸素や塩素を低減することで、パーティクルを低減して、成膜歩留まりを改善することができる。
【0027】
また、有機EL素子をスパッタリングによって形成する際には、成膜雰囲気中やターゲット中に酸素や塩素、それらを含む化合物が多く含まれると、酸素や塩素が有機EL素子を構成する層に混入し、デバイスの特性や寿命を低下させることがある。そのため、スパッタリングターゲットを用いて有機EL素子を形成する際には、酸素や塩素の含有量を可及的に低減することが好ましい。なお、実際的には、酸素を10wtppm未満、塩素を0.1wtppm未満とすることは難しい。
【0028】
ここで、スパッタリングターゲットの中の酸素含有量は、LECO社製の酸素窒素分析装置を用いて測定することができ、塩素含有量は、グロー放電質量分析法(GD-MS)で測定することができる。測定箇所は、円筒形スパッタリングターゲットの上部、中央部、下部付近の3箇所からから試料を切り出し、3箇所における平均値を該スパッタリングターゲット中の酸素含有量、塩素含有量とする。
【0029】
次に、本実施形態に係る円筒形Ag合金スパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
純度が99.9%以上のAgの溶湯に純度99.9%以上の合金化元素を添加して、真空又は不活性ガス雰囲気中で溶解する。溶解合金化後、坩堝の底から溶湯を落下させアルゴン等の不活性ガスを吹き付けることにより、アトマイズ粉を作製する。アトマイズ粉の粒径は1μm以上1000μm以下が好ましい。より好ましくは10μm以上100μm以下である。また、ガス系不純物を低減させるために、表面積の少ない球状とすることが好ましい。
【0030】
次に、このアトマイズ粉を高速の不活性ガスとともにステンレス(SUS304、SUS630等)や銅、銅合金、チタンなどの円筒形の基体であるバッキングチューブに吹き付けることにより、円筒形のAg合金スパッタリングターゲットを作製する。このとき、Ag合金スパッタリングターゲットは、バッキングチューブに対して、直接形成されることになるので、Inなどのボンディング材等が不要であり、また、バッキングチューブとの密着性にも優れるという副次的な効果も有する。
【0031】
このように、本実施形態では固体状態の粉末粒子を溶解させることなくバッキングチューブに高速で衝突させて堆積させることで円筒形のAg合金スパッタリングターゲットを作製する。これにより、原料粉末の状態(粉末を構成する各粒子の向き(結晶方位)が無秩序な状態)を保ったまま、Ag合金をバッキングチューブ上に堆積させることができ、ターゲット中の粒子又は結晶粒が特定の配向性を有しないランダムな配向とすることが可能となる。また、バッキングチューブ上への堆積工程における原料であるアトマイズ粉は、不活性雰囲気或いは真空中で製造されるため、粉末粒子の内部には酸素や塩素などのガス不純物がほとんど混入しない。アトマイズ粉を作製した後、バッキングチューブ上にコールドスプレー法によって堆積させるまでの間にアトマイズ粉を大気雰囲気に曝すなどするとアトマイズ粉を構成する粉末粒子の表面に酸素や塩素が混入する可能性がある。しかし、本実施形態によればその後の堆積工程における原料粉末の高速衝突の際に、粉末粒子の表面を覆っている酸化物層(塩素等を含む)が除去されるので、得られるスパッタリングターゲットにおいて、酸素や塩素を低減することが可能となる。
【0032】
次に、本実施形態に係る円筒形Ag合金スパッタリングターゲットを使用した、スパッタ装置について説明する。
まず、図2及び図3を参照して、本発明の実施形態に係るスパッタ装置100の基本的な構成について説明する。本実施形態に係るスパッタ装置100は、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造において成膜対象物20(基板上に積層体が形成されているものも含む)上に薄膜を堆積形成するために用いられる。より具体的には、スパッタ装置100は、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどの電子デバイスの製造において好ましく用いられる。中でも、本実施形態に係る成膜スパッタ装置100は、有機EL(ElectroLuminescence )素子などの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造において特に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【0033】
スパッタ装置100は、図2に示すように、真空チャンバ10を有し、真空チャンバ10の内部には、成膜対象物20と、マスク7と、成膜対象物20に向かって成膜材料であるスパッタ粒子を飛翔させて成膜対象物20に成膜する成膜源としての回転ターゲットユニット3(以下、単に「ターゲットユニット3」とも称する。)と、が配置されている。本実施形態では、成膜対象物20は固定しているが、適宜、移動させても良い。成膜対象物20を移動させる場合には、回転ターゲットユニット3も移動させても良いし、回転ターゲットユニット3は静止させたままとしても良い。
【0034】
真空チャンバ10には、不図示のガス導入手段及び排気手段が接続され、内部を所定の圧力に維持することができる構成となっている。すなわち、真空チャンバ10の内部には、スパッタガス(アルゴン等の不活性ガスや酸素や窒素等の反応性ガス)が、ガス導入手段により導入され、また、真空チャンバ10の内部からは、真空ポンプ等の排気手段によって排気が行われ、真空チャンバ10の内部の圧力は所定の圧力に調圧される。
【0035】
ターゲットユニット3は、図3に示すように、両端が大気ボックス(移動台)230上に固定されたサポートブロック210とエンドブロック220によって支持されている。ターゲットユニット3は、図4に示すように、円筒形のバッキングチューブ2、バッキングチューブ2の外周に形成された円筒形のスパッタリングターゲット1、さらに内部に配置される磁石ユニット6を有する。サポートブロック210とエンドブロック220によってターゲット1は回転自在に支持されており、磁石ユニット6は固定状態で支持されている。
【0036】
大気ボックス230は、リニアベアリング等の搬送ガイドを介して一対の案内レール250に沿って成膜対象物20の成膜面と平行な方向(ここでは水平方向)に移動自在に支持されている。図3中、案内レール250と平行な方向をX軸、垂直な方向をZ軸、水平面で案内レール250と直交する方向をY軸とすると、ターゲットユニット3は、その回転軸をY軸方向に平行にした状態で、回転軸を中心に回転しながら、成膜対象物20に対して平行に、すなわちXY平面上をX軸方向に移動する。図3では、ターゲットユニット3が水平方向に移動する例であるが、ターゲットユニット3が垂直方向に移動する構造であってもよい。この場合は、成膜対象物20は直立した状態に支持され、成膜対象物20の成膜面と平行な方向にターゲットユニット3は移動する。また、大気ボックス230の内部は大気圧環境となっており、前述の大気ボックス230自身の駆動機構や、ターゲットの回転移動機構や配線や冷却水配管やガス配管や電子回路やセンサなどを、大気ボックス230の内部に設置することができる。
【0037】
スパッタリングターゲット1は、駆動機構12によって回転駆動される。駆動機構12は、たとえば、モータ等の駆動源を有し、動力伝達機構を介してターゲット1に動力が伝達される一般的な駆動機構が適用され、本実施形態では、大気ボックス230に配置される。一方、大気ボックス230は、搬送ガイドに接続された駆動機構によって、X軸方向に直線駆動される。搬送ガイド及び搬送ガイドに接続された駆動機構についても、特に図示していないが、回転モータの回転運動を直線運動に変換するボールねじ等を用いたねじ送り機構、リニアモータ等、公知の種々の直線運動機構を用いることができる。
【0038】
真空チャンバ10内には、上記したターゲットユニット3が搭載される移動可能な大気ボックス230と、真空チャンバ10の底壁と大気ボックス230とを連結する大気アーム30とが設けられる。大気アーム30は、真空チャンバ10の外部に配置された電源8から大気ボックス230内の駆動機構12やバッキングチューブ2、サポートブロック210、エンドブロック220等に電力を供給するための配線Lを収容する配線収容部である。配線Lは、ターゲットユニット3に電力を供給する電力配線、直線駆動機構12 やターゲットを駆動する駆動装置のモータに電力を供給する電力配線などを含んでもよい。さらに、通信、制御信号用の制御配線などを含んでもよい。
【0039】
次に、本実施形態に係る円筒形Ag合金スパッタリングターゲットを使用した、成膜方法について説明する。
真空チャンバ内を所定のガス雰囲気状態にし、制御手段(不図示)によって、大気ボックス230を所定の速度で移動させながら、ターゲットユニット3のバッキングチューブ2に電圧波形を印加すると、プラズマの生成とともにスパッタリングによりターゲット材料が飛散する。その材料がマスク7を通過して成膜対象物20に到達することで、成膜対象物20の表面にターゲット材料を含有した膜が形成される。ターゲットユニット3がX方向に移動(走査)されることで、X方向の広い領域にわたり成膜が可能である。必要であれば、ターゲットユニット3は複数回走査したり、往復走査したりすることができる。
【0040】
次に、本実施形態に係る円筒形Ag合金スパッタリングターゲットを使用した、電子デバイスの製造方法について説明する。
次に、図5図6を参照して、上記スパッタ装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。電子デバイスの例として、有機電子デバイスである有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示している。なお、以下で示す有機EL表示装置の構成は一例であり、本発明をこの構成に限定するものではない。図5は有機EL表示装置60の全体図、図6は、1画素の断面構造を表している。
【0041】
まず、有機EL表示装置について説明する。図5に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本図の有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子と黄色発光素子の組合せでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。また、各発光素子は複数の発光層が積層されて構成されていてもよい。
【0042】
また、画素62を同じ発光を示す複数の発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように複数の異なる色変換素子がパターン状に配置されたカラーフィルタを用いて、1つの画素が表示領域61において所望の色の表示を可能としてもよい。例えば、画素62を少なくとも3つの白色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、青色の各色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。あるいは、画素62を少なくとも3つの青色発光素子で構成し、それぞれの発光素子に対応するように、赤色、緑色、無色の各色変換素子が配列されたカラーフィルタを用いてもよい。後者の場合には、カラーフィルタを構成する材料として量子ドット(Quantum Dot:QD)材料を用いた量子ドットカラーフィルタ(QD-CF)を用いることで、量子ドットカラーフィルタを用いない通常の有機EL表示装置よりも表示色域を広くすることができる。
【0043】
図6は、図5のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。なお、上述のようにカラーフィルタまたは量子ドットカラーフィルタを用いる場合には、各発光層の光出射側、すなわち、図6の上部または下部にカラーフィルタまたは量子ドットカラーフィルタが配置されるが、図示は省略する。
【0044】
また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R,62G,62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0045】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板63を準備する。
【0046】
第1電極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂やポリイミド等の樹脂層をスピンコートやバーコートで形成し、樹脂層をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0047】
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0048】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0049】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0050】
電子輸送層67までが形成された基板を上記実施形態に記載された円筒形Ag合金スパッタリングターゲットを備えているスパッタリング装置に移動し、第2電極68を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。なお、ここでは保護層70をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0051】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施形態において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0052】
このようにして得られた発光層上に形成される電極層は、大気によるガス成分(酸素、窒素)の少ない、低抵抗な膜で形成されることができる。したがって、上記Ag合金円筒形スパッタリングターゲットを使用して形成された有機EL表示装置は、発光特性が高く形成されることができる。
【0053】
次に、本発明の実施例等について説明する。なお、以下の実施例は、あくまで代表的な例を示しているもので、本発明はこれらの実施例に制限される必要はなく、明細書の記載される技術思想の範囲で解釈されるべきものである。
【0054】
(実施例1)
純度99.99%以上のAgを98wt%、Mgを2wt%の比率で真空溶解して、合金化させた後、坩堝の底から溶湯を落下させ、Arガスアトマイズ法により、アトマイズ粉末を作成した。次に、このアトマイズ粉をステンレス製の円筒形の基体であるバッキングチューブに吹き付けて、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。
【0055】
このAg合金円筒形スパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折により評価した結果、上記式(2)で算出される各結晶面の結晶方位含有比は、(111)面が35%、(311)面が25%、(200)面が20%、(220)面が20%、その他の結晶面はいずれも検出されなかった。酸素含有量は70wtppm、塩素含有量は1wtppm未満であった。
【0056】
この円筒形スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に設置して、基板上に成膜を行ったところ、基板上の膜厚の分布は±1%であり、非常に良好であった。
【0057】
また、本実施例による円筒形Ag合金スパッタリングターゲットを使用してデバイス(有機発光素子)を作製し、評価を行った。評価対象のデバイスは、第1電極をITO/APC/ITO、正孔輸送層をα-NPD、発光層及び電子輸送層をAlq3、電子注入層をLiF、第2電極をMgAgとする上面発光の有機発光素子とした。なお、第2電極であるMgAgを本実施例による円筒形Ag合金スパッタリングターゲットを使用して形成した。
【0058】
このデバイスを評価した結果、正面輝度100cd/m2時の特性は、10mA、12.5V、0.90cd/Aであった。参考例として、第2電極であるMgAgを真空蒸着法によって形成したこと以外は、実施例1と同様に有機発光素子を作製した結果、正面輝度100cd/m2時の特性は、10mA、11.7V、0.90cd/Aとなった。
【0059】
以上の通り、本実施例のAg合金スパッタリングターゲットを使用して形成したAg合金層を含む有機発光素子は、真空蒸着法によって形成したAg合金層を含む有機発光素子と同程度の輝度発光効率を示した。すなわち、本実施例によれば、真空蒸着法と同等の性能を有する有機発光素子を形成可能であった。
【0060】
(比較例1)
純度99.99%以上のAgを98%、Mgを2wt%の比率で真空溶解して、合金化させた後、鋳造、熱間押出しにより、円筒形スパッタリングターゲットを作製した。その後、この円筒形スパッタリングターゲットを熱処理して歪を除去して再結晶化し、その後、ステンレス製の円筒形の基体であるバッキングチューブとInを用いてボンディングした。
【0061】
このAg合金円筒形スパッタリングターゲットのスパッタ面をX線回折により評価した結果、上記式(2)で算出される(111)面の結晶方位含有比が50%であった。酸素含有量は170wtppm、塩素含有量は10wtppm未満であった。
【0062】
次に、この円筒形スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に設置して、基板上に成膜を行ったところ、基板上の膜厚の分布は±10%であり、膜厚の面内ばらつきが大きかった。また、本比較例による円筒形スパッタリングターゲットを使用してデバイスを作製し、評価を行った。評価対象のデバイスは、実施例のデバイスと同様、第1電極をITO/APC/ITO、正孔輸送層をα-NPD、発光層及び電子輸送層をAlq3、電子注入層をLiF、第2電極をMgAgとする上面発光の有機発光素子とした。なお、第2電極であるAgMgを本比較例による円筒形スパッタリングターゲットを使用して形成した。
【0063】
このデバイスを評価した結果、正面輝度100cd/m2時の特性は、20mA、16.5V、0.49cd/Aであった。比較例1で得られた有機発光素子は、実施例1及び参考例で得られた有機発光素子と比較して輝度発光効率が半分程度となった。比較例1で得られた有機発光素子は、実施例1および参考例で得られた有機発光素子と比較して使用寿命が短くなる可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、スパッタ膜の膜厚均一性を高めることができる。特に、高い電力を印加して、高速成膜する場合において優れた効果を発揮する。本発明の実施形態に係るAg合金円筒形スパッタリングターゲットは、スパッタ法を用いた、電子部品、半導体デバイス、光学薄膜、磁気デバイス、LED、有機EL、LCD等における素子の形成に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 円筒形スパッタリングターゲット
2 円筒形バッキングチューブ(基体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6