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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】試料の処理方法およびプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20230213BHJP
【FI】
H01L21/302 104C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021104670
(22)【出願日】2021-06-24
(62)【分割の表示】P 2019546055の分割
【原出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2021145153
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 寿美子
(72)【発明者】
【氏名】山口 欣秀
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩之
(72)【発明者】
【氏名】篠田 和典
(72)【発明者】
【氏名】川村 剛平
(72)【発明者】
【氏名】高妻 豊
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 勝
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-084965(JP,A)
【文献】特開2014-170894(JP,A)
【文献】特開2018-073962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
C23F 1/12
H01L 21/3213
H01L 21/768
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め試料に形成された遷移金属元素を含む遷移金属膜を所定の膜厚まで当該遷移金属膜を残してエッチングするエッチング工程を含む試料の処理方法であって、
前記エッチング工程は、
前記試料の温度を100℃以下に保ちつつ、前記遷移金属膜の表面に遷移金属酸化物層を等方的に生成する第1の工程と、
前記遷移金属酸化物層にハロゲン元素を含まないβ-ジケトンを含む錯化ガスを供給しつつ、前記試料の温度を150℃以上250℃以下の所定の温度まで昇温させる第2の工程と、
前記試料の温度を150℃以上250℃以下に保ちつつ、前記錯化ガスと前記第1の工程で形成された遷移金属酸化物との反応により生じた反応物を昇華させて除去する第3の工程と、
前記試料を冷却する第4の工程とを有する試料の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記エッチング工程において、前記第1~第4の工程が繰り返し行われる試料の処理方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1の工程において、酸素ラジカルを前記遷移金属膜に照射することにより、前記遷移金属酸化物層を生成する試料の処理方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記第2の工程において、電磁波により前記試料の温度を昇温させる試料の処理方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記遷移金属膜は、Co(コバルト)を含む金属膜である試料の処理方法。
【請求項6】
プラズマ源と、
遷移金属元素を含む遷移金属膜が形成された試料が載置されるステージが設置された処理室と、
前記プラズマ源に酸化ガスを供給するガス供給部と、
ハロゲン元素を含まないβ-ジケトンを含む錯化ガスを前記処理室に供給する錯化ガス供給器と、
前記プラズマ源と前記ステージとの間に設置されるスリット板と、
前記処理室を排気する排気機構と、
制御部とを有し、
前記制御部は、前記遷移金属膜を所定の膜厚まで当該遷移金属膜を残してエッチングするエッチング工程において、試料の温度を100℃以下に保ちつつ、前記ガス供給部から酸化ガスを前記プラズマ源に供給しながらプラズマを発生させ、前記スリット板を通過した中性の前記酸化ガスとラジカルとを前記試料に照射することにより前記遷移金属膜の表面に遷移金属酸化物層を生成し、その後前記排気機構により前記処理室を排気する第1の工程と、前記錯化ガス供給器から前記処理室に前記錯化ガスを供給させつつ前記試料の温度を150℃以上250℃以下の所定の温度まで昇温させる第2の工程と、前記試料の温度を150℃以上250℃以下に保つことにより、前記錯化ガスと前記第1の工程で形成された遷移金属酸化物との反応により生じた反応物を昇華させ、その後前記排気機構により前記処理室を排気する第3の工程と、前記試料を冷却する第4の工程との実行を制御するプラズマ処理装置。
【請求項7】
請求項において、
前記制御部は、前記エッチング工程において前記第1~第4の工程を繰り返し実行するプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項において、
前記試料を加熱するランプユニットを有し、
前記制御部は、前記エッチング工程において、前記ランプユニットが発生する電磁波により前記試料の温度を昇温させるプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項において、
前記ステージの内部に形成される冷媒流路に冷媒を循環供給するチラーを有し、
前記制御部は、前記チラーを制御して前記試料を冷却するプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項において、
前記ステージの温度を測定する温度計と、
前記制御部は、前記エッチング工程において、前記温度計により測定された前記ステージの温度、及び前記試料に照射された電磁波が前記試料に吸収された電磁波のスペクトル強度の波長依存性データに基づいて求めた前記試料の温度分布情報に基づき、前記ランプユニット及び前記チラーを制御するプラズマ処理装置。
【請求項11】
請求項において、
前記ガス供給部は、前記試料を冷却する冷却ガスを前記試料と前記ステージとの間に供給可能であり、
前記制御部は、前記エッチング工程の前記第1の工程と前記第4の工程において、前記ガス供給部に前記冷却ガスを供給させるプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属元素を含む遷移金属膜が形成された試料の処理方法およびプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化・高性能化は、それを構成する半導体デバイスの微細化・高集積化により進んできている。半導体デバイスの回路を形成する配線の微細化にあたり、Cu(銅)配線では、周囲への拡散を防止するためのバリア層が必要であるため微細化には不利であること、またエレクトロマイグレーションが更に顕著になることが懸念される。また、W(タングステン)配線は比較的高い抵抗率を有する。このため、他の金属材料を用いた配線の検討が進められている。
【0003】
CuやWに替わる配線材料として期待される金属材料として、Co(コバルト)やRu(ルテニウム)などの遷移金属がある。微細配線に適用するには、このような遷移金属元素を含む遷移金属膜をナノメートルレベルの高度な制御性をもって加工することが必要である。このように高精度なエッチングを行うためには、薬液を用いて金属膜を加工するウェットエッチングでは困難であり、ガスを用いたドライエッチングが有力視される。
【0004】
例えば、特許文献1では、β-ジケトンと錯体を形成可能な金属元素で成膜された金属膜を、β-ジケトンとNO、NO、O、Oといった酸化性ガスとを添加したエッチングガスによるドライエッチング方法を開示する。特にエッチング速度のばらつきを抑えるため、エッチングガスに含まれる水分含有量をβ-ジケトンに対して30質量ppm以下とすることが開示されている。
【0005】
特許文献2もβ-ジケトンを用いたドライエッチング方法であり、β-ジケトンと酸化性ガスである第1の添加ガスとHOあるいはHである第2の添加ガスとを添加したエッチングガスによるドライエッチング方法を開示する。特にエッチング速度を高速化するため、エッチングガスにおけるβ-ジケトンの量、第2の添加ガスの量を適正化することが開示されている。
【0006】
特許文献3は、遷移金属膜のエッチングにおいて、酸素イオンを含む第1のガスにより異方的に金属酸化層を形成する酸化工程と、金属酸化層を錯化させるための第2のガスを導入し、金属酸化層において金属錯体を形成させてエッチングを行う錯化エッチング工程を備えた遷移金属膜のエッチング方法が開示されている。第2のガスとしてはβ-ジケトン系ガスが例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-110230号公報
【文献】特開2018-110229号公報
【文献】特開2017-84965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薄膜を加工して微細な半導体デバイスとするため、薄膜を加工するエッチングには高い要求が課される。具体的には、ウエハ全面において均一な加工がなされるようエッチング量のウエハ面内のバラツキが所定の値、例えば1nm以下に抑えられる必要がある。また、加工後の薄膜界面はデバイス特性に大きな影響を及ぼすため、エッチング後の薄膜の表面ラフネスについても、上述したエッチング量のウエハ面内のバラツキ程度以下には抑制される必要がある。
【0009】
例えば、Coを含む金属膜の場合、発明者らは、Co酸化物はおよそ100℃以上の温度では粒状や柱状に形状が変化し易いことを見いだした。具体的には、酸化ガスとして酸素ガスを用いた場合、100℃以上の温度においては、プラズマ源を用いて酸素プラズマを生成して酸素イオンを膜表面に照射した場合、イオン遮蔽板により酸素イオンや電子を遮断して酸素ラジカルを膜表面に照射した場合、プラズマ源を用いず酸素ガスをそのまま膜表面に照射した場合のいずれにおいても、生成されるCo酸化膜は粒状化あるいは柱状化することが分かった。特許文献1や特許文献2のようにβ-ジケトンに酸化性ガスを添加したエッチングガスによりエッチングを行う場合、β-ジケトンとCoとが反応してできる錯体が気化可能な温度範囲で処理しなければならなくなるため、基板温度は100℃以上とする必要がある。このため、Co酸化膜の生成と錯化によるエッチングとが同時に進行するとともに、このとき生成されるCo酸化物は粒状化や柱状化する結果、エッチング量を高精度に制御したり、エッチング後の金属膜の表面粗さを抑制したりすることが困難である。
【0010】
したがって、遷移金属を酸化させて金属酸化物層を生成する酸化工程と、金属酸化物層を錯化して金属錯体を形成する錯化工程とを分離して、それぞれ適切な条件で処理を行うことが望ましい。特許文献3は酸化工程と錯化工程とを分離したエッチング方法を開示するが、エッチングに方向性をもたせるため、酸化工程を異方的に行っている。この場合には、エッチング後の遷移金属を含む金属膜において表面粗さが残る、むしろエッチング中に表面粗さを増大させてしまうおそれがあることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施の態様である試料の処理方法は、予め試料に形成された遷移金属元素を含む遷移金属膜を所定の膜厚まで当該遷移金属膜を残してエッチングするエッチング工程を含む試料の処理方法であって、エッチング工程は、試料の温度を100℃以下に保ちつつ、遷移金属膜の表面に遷移金属酸化物層を等方的に生成する第1の工程と、遷移金属酸化物層にハロゲン元素を含まないβ-ジケトンを含む錯化ガスを供給しつつ、試料の温度を150℃以上250℃以下の所定の温度まで昇温させる第2の工程と、試料の温度を150℃以上250℃以下に保ちつつ、錯化ガスと第1の工程で形成された遷移金属酸化物との反応により生じた反応物を昇華させて除去する第3の工程と、試料を冷却する第4の工程とを有する。
【0012】
また、本発明の他の実施の態様であるプラズマ処理装置は、プラズマ源と、遷移金属元素を含む遷移金属膜が形成された試料が載置されるステージが設置された処理室と、プラズマ源に酸化ガスを供給するガス供給部と、ハロゲン元素を含まないβ-ジケトンを含む錯化ガスを処理室に供給する錯化ガス供給器と、プラズマ源とステージとの間に設置されるスリット板と、処理室を排気する排気機構と、制御部とを有し、制御部は、遷移金属膜を所定の膜厚まで当該遷移金属膜を残してエッチングするエッチング工程において、試料の温度を100℃以下に保ちつつ、ガス供給部から酸化ガスをプラズマ源に供給しながらプラズマを発生させ、スリット板を通過した中性の酸化ガスとラジカルとを試料に照射することにより遷移金属膜の表面に遷移金属酸化物層を生成し、その後排気機構により処理室を排気する第1の工程と、錯化ガス供給器から処理室に錯化ガスを供給させつつ試料の温度を150℃以上250℃以下の所定の温度まで昇温させる第2の工程と、試料の温度を150℃以上250℃以下に保つことにより、錯化ガスと第1の工程で形成された遷移金属酸化物との反応により生じた反応物を昇華させ、その後排気機構により処理室を排気する第3の工程と、試料を冷却する第4の工程との実行を制御する。
【発明の効果】
【0013】
遷移金属膜の表面ラフネスを抑制、減少しながら高精度にエッチング可能とする。
【0014】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】遷移金属膜のエッチングの様子を示す模式図である。
図2】遷移金属膜のエッチングを行うプロセスフロー図である。
図3】プラズマ処理装置の概略構成を示す断面図である。
図4】エッチング工程(1サイクル)のタイムチャートである。
図5】エッチング工程(1サイクル)におけるCoを含む膜の表面付近の状態の変化を示す模式図である。
図6】エッチング量のサイクル数依存性を示す図である。
図7】エッチングによる表面ラフネスの酸化温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略するものとする。
【0017】
本発明者らがCoの酸化過程を詳細に検討した結果、Coの酸化過程は、(1)Coイオンや酸素イオンがCo酸化物層中を拡散する拡散現象と、(2)酸化雰囲気中の酸素のCo表面での界面反応、およびCo金属層からCo金属原子がCo酸化物層中に入るCo金属-Co酸化物層間の界面反応とが同時に進行しており、そのバランスは温度によって変わること、これに関係してCo酸化物が3次元的に成長するか否かの臨界温度が100℃であることを見出した。100℃以下の低温度において生成される酸化層の厚さは、例えば5nm程度と薄くなり、3次元的な成長が抑制され粒状化、柱状化が起きにくい。
【0018】
特に、本発明の実施の形態では、酸化工程を等方的に行うことによって表面ラフネスの増大を抑制し、更には減少させることができる。図1は、本実施の形態により、表面粗さによる凹凸形状を膜表面に有する遷移金属元素を含む金属膜(以下、「遷移金属膜」という)のエッチングの様子を示す模式図である。なお、遷移金属膜とは遷移金属単体膜の他、遷移金属元素を含む複数の元素により構成される金属膜を含む。なお、図では分かり易くするため表面の凹凸を強調している。
【0019】
上述したように、酸化過程の温度を制御することによって、酸化は等方的に進行し、金属層-酸化物層界面は一定速度で移動する。ここで、図1に示すように、エッチング前の遷移金属膜の表面110に凸部111、凹部112が存在するとする。凸部111においては、他の部分よりも拡散して到達する酸素の量が多くなるためより局所的に酸化が進み、形成される酸化物層の厚さが増す。一方、凹部112においては、他の部分よりも拡散して到達する酸素の量が少なくなるため局所的に酸化が進まない。このように、凸部111ではより厚い酸化物層が、凹部112ではより薄い酸化物層が形成されることになる。
【0020】
生成された酸化物層120を、錯化ガスを用いたエッチング工程ですべて除去することにより、金属層-酸化物層界面130がエッチング後の遷移金属膜の表面140として現れる。エッチング前の遷移金属膜の表面110の表面ラフネスL、エッチング後の遷移金属膜の表面140の表面ラフネスLとすると、L>Lの関係が成立し、遷移金属膜の凹凸が減少する。図1に示した工程を1サイクルとして繰り返し行うことにより、遷移金属膜の表面の凹凸は減少していき、表面形状は平坦化されていく。酸化条件が適切に制御される限り、等方的に酸化が進み平坦な金属層-酸化物層界面が乱されることはない。また、等方的に酸化が進むことにより、遷移金属膜の表面にあった凹凸は減少される。この結果、エッチング前の遷移金属膜の表面粗さの状態にかかわらず、エッチング終了後の遷移金属膜の膜表面は平坦化でき、良好なデバイス特性を得ることができる。
【0021】
図2は、遷移金属膜のエッチングを行うプロセスフロー図である。以下、各ステップについて説明する。
【0022】
ステップS101では、遷移金属膜が形成された試料(例えば、ウエハ)が載置されたプラズマ処理装置の処理室内に酸化ガスを導入する。例えば、酸化金属元素がCoであるとすると、遷移金属膜はCoを含む金属膜であり、Co単体膜の他、FeCo膜、NiCo膜、CoPt膜等が含まれる。酸化ガスとしては、酸素の他、オゾンや一酸化窒素などでも良い。本ステップでの試料の温度は100℃以下に調整されている。
【0023】
ステップS102では、プラズマ源により生成されたプラズマによって酸化ガスが活性化され、Coを含む金属膜の表面に酸化物層が生成される。生成される酸化物層の厚さは酸化条件によって決まる。このとき、酸化物層の表面ラフネスを増大させないため、試料の温度を100℃以下に保ちつつプラズマ処理する。ただし、試料の温度が低過ぎると、1サイクル内の処理温度の差が大きくなり昇温(ステップS105)あるいは冷却(ステップS108)を速やかに行うことができず、エッチングのスループットを低下させるおそれがある。このため、プラズマ処理するときの試料の温度は-20℃以上であることが好ましい。その後、速やかに酸化ガスを排気し、酸化処理を終了する(ステップS103)。ステップS101~S103による遷移金属膜の酸化工程を第1の工程という。
【0024】
ステップS104では、Coを含む金属膜の酸化物層と反応してCo錯体を生成する錯化ガスを処理室内に導入する。錯化ガスとしてはβ-ジケトンが好適であり、以下、錯化ガスとしてはβ-ジケトンを用いる例を示す。本ステップでは試料の温度は第1の工程の温度のままでよい。β-ジケトンをまず低温でCoを含む金属膜の表面に生成された酸化物層表面に物理吸着させる。β-ジケトンを処理室内に導入しながら、試料が150℃~250℃の温度になるまで昇温する(ステップS105)。昇温の過程で、Coを含む金属膜の酸化物層表面に物理吸着したβ-ジケトンは次第に化学吸着が優勢となり、活性化される。ステップS104~S105の錯化ガスの導入と昇温工程を第2の工程という。
【0025】
昇温後、150~250℃の温度範囲に試料の温度を保つことにより、錯体化および反応物である錯体が昇華することによって除去され、エッチングが進行する(ステップS106)。この錯体化反応が進み、生成された反応物が昇華するためには150℃以上の温度が必要である。しかし、250℃を超えるとβ-ジケトンの重合が始まる。分子量の大きな重合体が生じるとエッチングの進行が困難となってくる。さらに300℃を超えるとβ-ジケトン自体の分解が始まる。錯化ガスの分解や重合反応を避けるため、250℃以下の温度とすることが望ましい。すなわち、ステップS106の処理温度は150~300℃の温度範囲であることを要し、更には150℃~250℃とすることが望ましい。第1の工程で生成された酸化物層が昇華除去された後、錯化ガスを排気する(ステップS107)。ステップS106~S107の酸化物層の除去と錯化ガスの排気工程を第3の工程という。
【0026】
なお、使用する錯化ガスとしては、β-ジケトンの中でもフッ素や塩素等のハロゲン元素を含まない材料であるとよい。ハロゲン元素を含むβ-ジケトン、例えばトリフルオロアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン等を用いた場合、上述した処理温度範囲では、Co錯体を形成する他に、副生成物としてCoのハロゲン化物も生成される。Coのハロゲン化物が昇華除去されるには300℃以上の高温が必要となるため、上述した処理温度範囲では除去されず、Coを含む金属膜の表面に堆積し、錯体形成およびその昇華除去の反応を阻害することにより、エッチングの安定性を低下させたり、エッチング後の表面ラフネスの増大を引き起したりするおそれがあるためである。
【0027】
錯化ガスを排気した後、速やかにステップS101の処理温度まで冷却する(ステップS108)。ステップS108の冷却工程を第4の工程という。
【0028】
以上のステップS101~S108で構成される第1~第4の工程をサイクリックに繰り返し行い、終了条件を満たすかどうか判定し(ステップS109)、終了条件を満たす場合には、エッチングを終了する。終了条件としては、例えば、所望のエッチング量を得たか否かの判定を行う。
【0029】
以上説明したCoを含む膜のエッチングを実施するプラズマ処理装置について説明する。図3にプラズマ処理装置100の概略構成を示す断面図である。
【0030】
処理室1はベースチャンバー11により構成され、その中には被処理試料であるウエハ2を載置するウエハステージ4(以下、ステージ4と記す)が設置されている。ベースチャンバー11の上方に配置された容器60に、石英チャンバー12、ICPコイル34及び高周波電源20を備えたプラズマ源が設置されている。この例では、プラズマ源にICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)放電方式を用いている。円筒型の石英チャンバー12の外側に設置されたICPコイル34には、プラズマ生成のための高周波電源20が整合器22を介して接続されている。高周波電力の周波数は13.56MHzなど、数十MHzの周波数帯を用いるものとする。
【0031】
石英チャンバー12の上部には天板6が設置されている。天板6にはシャワープレート5が設置され、天板6の下側にガス分散板17が設置されている。処理ガスはガス分散板17の外周から処理室1内に導入される。
【0032】
処理ガスはガス種毎に設置されたマスフローコントローラ50によって供給流量が調整される。図3では、処理ガスとしてH、O、Arを使用する例を示しているが、ガス種はこれらには限られない。
【0033】
一方、錯化ガスとしてβ-ジケトンを用いる場合には、液体原料(液体錯化剤)を使用することになる。このため、錯化ガス供給器47により液体錯化剤を気化させる。錯化ガス供給器47は液体錯化剤を収納するタンク45を有し、タンク45の周囲を覆うヒータ46によって液体錯化剤が加熱されることにより、タンク45上部に液体錯化剤の蒸気が充満する。生成した錯化ガスはマスフローコントローラ50-5で流量を制御されて処理室1内に導入される。錯化ガスが処理室1内に導入されない間は、バルブ53,54を閉じ、液体錯化剤を処理室1から遮断する。
【0034】
処理室1の下部には処理室を減圧するため、真空排気配管16によって、ポンプ15に接続されている。ポンプ15は、例えば、ターボ分子ポンプやメカニカルブースターポンプやドライポンプで構成される。また、処理室1や石英チャンバー12内の放電領域3の圧力を調整するため、調圧機構14がポンプ15の上流側に設置されている。調圧機構14、ポンプ15、真空排気配管16を総称して排気機構と称する。なお、ステージ4にはステージ4とベースチャンバー11の底面との間で真空封止するためのOリング81が設けられている。
【0035】
ステージ4とICPプラズマ源を構成する石英チャンバー12との間には、ウエハ2を加熱するためのIR(Infrared)ランプユニットが設置されている。IRランプユニットは、主にIRランプ62、IR光を反射する反射板63、IR光透過窓74を備えている。IRランプ62にはサークル型(円形状)のランプを用いる。なお、IRランプ62から放射される光(電磁波)は、可視光から赤外光領域の光を主とする光(ここではIR光と呼ぶ)を放出するものとする。この例では、IRランプ62として3周分のIRランプ62-1,62-2,62-3が設置されているものとしたが、2周、4周などとしてもよい。IRランプ62の上方にはIR光を下方(ウエハ2の載置方向)に向けて反射するための反射板63が設置されている。
【0036】
IRランプ62にはIRランプ用電源64が接続されており、その途中には、高周波電源20で発生するプラズマ生成用の高周波電力のノイズがIRランプ用電源64に流入しないようにするための高周波カットフィルタ25が設置されている。また、IRランプ用電源64はIRランプ62-1,62-2,62-3に供給する電力を互いに独立に制御する機能を有しており、ウエハ2の加熱量の径方向分布を調節できるようになっている。
【0037】
この例ではIRランプユニットの中央に、石英チャンバー12内に供給されたガスを処理室1に流すため、ガス流路75が形成されている。このガス流路75には、石英チャンバー12の内部で発生させたプラズマ中で生成されたイオンや電子を遮蔽し、中性のガスや中性のラジカルのみを透過させてウエハ2に照射するための複数の穴の開いたスリット板(イオン遮蔽板)78が設置されている。
【0038】
一方、ステージ4には、ステージ4を冷却するための冷媒流路39が内部に形成されており、チラー38によって冷媒が循環供給されるようになっている。また、ウエハ2を静電吸着によってステージ4に固定するため、板状の電極板である静電吸着用電極30がステージ4に埋め込まれており、それぞれに静電吸着用のDC電源31が接続されている。
【0039】
また、ウエハ2を効率よく冷却するため、ステージ4に載置されたウエハ2の裏面とステージ4との間にHeガス(冷却ガス)を供給できるようになっている。また、静電吸着用電極30を作動させてウエハ2を静電吸着したまま加熱・冷却を行っても、ウエハ2の裏面に傷がつかないようにするため、ステージ4の表面(ウエハ載置面)はポリイミド等の樹脂でコーティングされているものとする。さらに、ステージ4の内部には、ステージ4の温度を測定するための熱電対70が設置されており、この熱電対は熱電対温度計71に接続されている。
【0040】
また、ウエハ2の温度を測定するための光ファイバー92-1,92-2が、ステージ4に載置されたウエハ2の中心部付近、ウエハ2の径方向ミドル部付近、ウエハ2の外周付近の3箇所に設置されている。光ファイバー92-1は、外部IR光源93からのIR光をウエハ2の裏面にまで導いてウエハ2の裏面に照射する。一方、光ファイバー92-2は、光ファイバー92-1により照射されたIR光のうちウエハ2を透過・反射したIR光を集めて分光器96へ伝送する。
【0041】
すなわち、外部IR光源93で生成された外部IR光は、光路をON/OFFさせるための光路スイッチ94へ伝送される。その後、光分配器95で複数に分岐し(この場合は3つに分岐)、3系統の光ファイバー92-1を介してウエハ2の裏面側のそれぞれの位置に照射される。ウエハ2で吸収・反射されたIR光は光ファイバー92-2によって分光器96へ伝送され、検出器97でスペクトル強度の波長依存性のデータを得る。検出器97で得られたスペクトル強度の波長依存性のデータは、制御部40の演算部41に送られて吸収波長が算出され、これを基準にウエハ2の温度を求めることができる。なお、光ファイバー92-2の途中には光マルチプレクサー98が設置されており、分光計測する光を、ウエハ中心、ウエハミドル、ウエハ外周のどの計測点における光とするかを切り替えられるようになっている。これにより演算部41では、ウエハ中心、ウエハミドル、ウエハ外周ごとのそれぞれの温度を求めることができる。
【0042】
制御部40は、プラズマ処理装置100を構成する各機構を制御する。具体的には、高周波電源20を制御し、ICPコイル34への高周波電力供給のON-OFFを制御する。また、ガス供給部51を制御して、それぞれのマスフローコントローラ50-1~3から石英チャンバー12の内部へ供給するガスの種類及び流量を調整する。あるいは、錯化ガス供給器47を制御して、マスフローコントローラ50-5から石英チャンバー12の内部へ供給する錯化ガスの流量を調整する。エッチングガスを供給している状態において、制御部40はポンプ15を作動させるとともに調圧機構14を制御して、処理室1の内部が所望の圧力(真空度)となるように調整する。
【0043】
また、制御部40は、静電吸着用のDC電源31を作動させてウエハ2をステージ4に静電吸着させ、Heガスをウエハ2とステージ4との間に供給するマスフローコントローラ50-4を作動させた状態で、熱電対温度計71で測定したステージ4の内部の温度、及び検出器97で計測したウエハ2の中心部付近、半径方向ミドル部付近、外周付近のスペクトル強度情報に基づいて演算部41で求めたウエハ2の温度分布情報に基づいて、ウエハ2の温度が所定の温度範囲になるように、IRランプ用電源64及びチラー38を制御する。
【0044】
図4は、遷移金属元素としてCoを含む金属膜をプラズマ処理装置100により、図2のフローチャートにしたがって、酸化ガスとして酸素を、錯化ガスとしてβ-ジケトンの代表的な物質であるアセチルアセトンを用いてエッチングする場合の1サイクル(S101~S108)におけるタイムチャートである。また、図5に1サイクルにおけるCoを含む金属膜の表面付近の状態の変化を模式的に示す。この図でも金属膜表面の凹凸を強調して示している。
【0045】
まず、処理室1に設けられた搬送口(図示省略)を介して、エッチングすべきCoを含む金属膜が形成されたウエハ2を処理室1へ搬入し、ステージ4に搭載する。制御部40は、DC電源31を作動させてウエハ2をステージ4に静電吸着してウエハ2をステージ4に固定するとともに、ガス供給部51を制御してHeガス対応のマスフローコントローラ50-4からウエハ2の裏面とステージ4との間にウエハ冷却用のHeガスを供給して、ウエハ2の裏面のステージ4との間のHeガスの圧力230を所定の圧力231に設定するとともに、ウエハの温度240を温度241とする。この例ではウエハ温度241を20℃としたが、-20℃から100℃の範囲で設定すればよい。
【0046】
続いて、制御部40は、マスフローコントローラ50-2によって処理室1内に供給する酸化ガスである酸素の流量を調整するとともに、調圧機構14の開度を調整して処理室1の内部と石英チャンバー12の内部の圧力を目標圧力に設定する。この状態で、制御部40は高周波電源20をONにして放電電力211を投入することにより、石英チャンバー12の内部においてプラズマ放電を開始し、石英チャンバー12の内部にプラズマ10を発生させる。この時、ウエハ2の温度を20℃に保つので、IRランプ62への印加電力220は、ゼロの状態(電力221)である。
【0047】
この状態で、プラズマ10にて酸素ガスの一部がイオン化、解離される。このプラズマ10が発生した領域においてイオン化しなかった中性のガスとラジカルはスリット板78を通過してウエハ2に照射される。このラジカルはウエハ2の表面に吸着してCo膜と反応し、Co酸化物層が生成される。この過程は、図5に示す状態(a)から状態(b)への変化に相当する。スリット板78の効果によりプラズマ10中に生成するイオンはウエハ2には殆ど入射しない。したがって、Co膜の酸化は主にラジカルによって等方的に進行し、金属膜300の表面にCo酸化物層302が生成される。生成されるCo酸化物層302の厚さは、酸素ガスを用いたプラズマ処理時間や処理温度に依存して増すが、この場合の温度では60秒を経過すると酸化量は飽和した。このため、酸素ガスを用いたプラズマ処理時間を60秒とした。
【0048】
Co酸化物層を形成するために必要なプラズマ処理時間が経過した後、制御部40は高周波電源20をOFF(放電電力212)として、プラズマ放電を止める。また、処理室1に残留するガスを、排気機構により排気する。そして、ウエハ裏面へのHeガスの供給を停止し、バルブ52を開いてウエハ2の裏面の圧力を処理室1内の圧力と同程度にする。ウエハ裏面のHeガスが抜かれることにより、図4のウエハ裏面He圧力230が圧力232となる。以上が第1の工程である。
【0049】
なお、第1の工程における酸化処理前、または処理後、あるいは処理前後に、水素ガスによるプラズマ処理を行って被処理体表面を還元し、Coを含む膜の酸化物層の酸化状態を調整してもよい。
【0050】
続いて、錯化ガスであるアセチルアセトンの処理室1への供給を開始する。制御部40は、錯化ガス供給器47のヒータ46によりタンク45内のアセチルアセトンを気化させ、マスフローコントローラ50-5から、アセチルアセトンガスの処理室1への供給を開始する。このとき、錯化ガス供給器47から処理室1に気化したアセチルアセトンを供給する配管において、アセチルアセトンが凝集しないよう、配管を加熱しておく。
【0051】
また、制御部40はIRランプ用電源64の出力をONにして、IRランプ62を点灯させる(電力222)。IRランプ62から放射されたIR光はIR光透過窓74を透過しウエハ2を加熱する。これによりウエハ温度は温度242として示すように上昇する(図4に示すウエハの温度240を参照)。この加熱昇温の過程でアセチルアセトンはウエハ2表面に物理吸着から化学吸着に変化する。昇温を開始してから35秒後にウエハ温度240は200℃に到達して、第2の工程を終了する。この例では、到達するウエハ温度を200℃としたが、到達するウエハ温度243は150℃から250℃の範囲で設定すればよい。
【0052】
ウエハの温度240が200℃(ウエハ温度243)に到達したら、制御部40はIRランプ用電源64の出力を電力223に低減することにより、一定の時間、ウエハ2の温度を温度243に一定に保つ。このように、ウエハ2の温度を200℃に維持した状態でアセチルアセトンの供給を続ける。圧力は100Pa、アセチルアセトンの流量は250ccmとした。Co酸化物層とその表面に吸着したアセチルアセトンとが反応することで、コバルトアセチルアセトナートを主とした反応生成物の生成および昇華除去が繰り返されCo酸化物層の厚さが減じていく。この過程は、図5に示す状態(b)から状態(c)への変化に相当する。Co酸化物層302が全て除去されることによりエッチングは停止し、Co金属層303が露出する。
【0053】
第2の工程及び本工程(第3の工程)において、IRランプ62からの電磁波によりウエハ2を加熱することにより、加熱の必要なウエハ表面を効率的に温めることができ、例えば175℃程度の温度差があっても、速やかに加熱を完了することができる。なお、ウエハ2をステージ4上に載置した状態で加熱するとして説明したが、リフトピンなどを用いてウエハ2をステージ4から上昇させ、熱的に接触していない状態でIR光(電磁波)を照射しても良い。これにより、ウエハ2からステージ4への伝熱を抑制できるため、さらに短時間でウエハ2を所望の温度まで上昇させることができる。この場合、IRランプ62から放射され、ウエハ2を透過して光ファイバー92-2に到達した光を用いて、ウエハ2の温度を測定するとよい。また、ウエハ2の面内の径方向の温度分布に基づき、IRランプ62-1,62-2,62-3の電力比を制御するとよい。
【0054】
その後、制御部40は、IRランプ用電源64の出力をOFFにして(電力224)、ウエハ2の加熱を停止する。また、処理室1に残留するガスは、排気機構により速やかに排気する。以上で、第3の工程を終了する。
【0055】
続いて、制御部40はArガス供給用のマスフローコントローラ50-1とHeガス供給用のマスフローコントローラ50-4を制御して、処理室1の内部にArガスを供給しながらウエハ2の裏面のステージ4との間にHeガスを供給し、ウエハ2の裏面のステージ4との間のHeガスの圧力230を所定の圧力233に設定するとともに、ウエハ2の冷却を開始する(温度244)。ウエハ温度は、20℃まで冷却され、冷却に要した時間は30秒であった。以上で第4の工程を終了する。
【0056】
このように、本実施例においては第1の工程における酸化処理、第3の工程における錯化・昇華除去処理ともに等方的に進行されることにより、図5に示されるように、金属膜300表面の凹凸の高さは、当初のCo金属層301におけるLから、処理後のCo金属層303におけるLに減少する。第1~第4の工程からなるサイクルを繰り返すことにより、金属膜300のエッチングを行うとともに、その表面の凹凸を平坦化することができる。
【0057】
図6図2に示したプロセスフローにしたがってCoを含む金属膜のエッチング処理を行った結果を示す。横軸に実施したサイクル数、縦軸にエッチング量を示している。14サイクル繰り返し、計14.7nmのエッチング量を得たところでエッチングを終了した。図6には、1、3、6、9、12、14サイクル終了時にエッチング量を計測した結果を示している。サイクル数に応じてほぼ線形にエッチング量が変化していることが分かる。この場合の1サイクル当たりのCo膜のエッチング量、すなわちエッチングレートは0.94nm/サイクルであった。
【0058】
図7に第1の工程の温度(酸化温度)をそれぞれ異ならせて、図2に示したプロセスフローにしたがってCoを含む金属膜のエッチング処理を行った結果を示す。横軸に第1の工程における酸化温度、縦軸に表面粗さを示している。第1の工程における酸化温度を、-20℃、0℃、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃、150℃、175℃とした。サイクル処理数は10とし、第1の工程における酸化温度以外の設定条件および処理方法は同じにしている。ただし、第3の工程の温度は200℃と設定しているため、第1の工程における酸化温度によって、第2の工程において昇温する温度幅および第4の工程において冷却する温度幅が異なっており、それに伴って昇温および冷却に要する時間は異なっている。
【0059】
原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて、このようにして作製した9つのエッチング試料の表面粗さを評価した。評価した領域は1μm×1μmの正方形の領域である。評価領域内における測定点の凹凸値の二乗平均平方根を表面粗さの値とした。このように、Co酸化物層を100℃以下の温度で形成した場合には、10サイクルエッチング処理後の表面粗さは1nm未満と小さい。一方、Co酸化物層形成温度が100℃を超えるとエッチング処理後の表面粗さは1nmを超え、温度に応じて急激に粗さが増していく。本評価結果より、第1の工程の温度、すなわちCo酸化物層の形成温度を100℃以下にすることによって、エッチング後の表面粗さを抑制できることが示された。
【符号の説明】
【0060】
1:処理室、2:ウエハ、3:放電領域、4:ウエハステージ、5:シャワープレート、6:天板、10:プラズマ、11:ベースチャンバー、12:石英チャンバー、14:調圧機構、15:ポンプ、16:真空排気配管、17:ガス分散板、20:高周波電源、22:整合器、25:高周波カットフィルタ、30:静電吸着用電極、31:静電吸着用のDC電源、34:ICPコイル、38:チラー、40:制御部、41:演算部、45:タンク、46:ヒータ、47:錯化ガス供給器、50:マスフローコントローラ、51:ガス供給部、52,53,54:バルブ、60:容器、62:IRランプ、63:反射板、64:IRランプ用電源、70:熱電対、71:熱電対温度計、74:IR光透過窓、75:ガス流路、78:スリット板、81:Oリング、92:光ファイバー、93:外部IR光源、94:光路スイッチ、95:光分配器、96:分光器、97:検出器、98:光マルチプレクサー、100:プラズマ処理装置、110:遷移金属膜の表面(エッチング前)、111:凸部、112:凹部、120:酸化物層、130:遷移金属層-酸化物層界面、140:遷移金属膜の表面(エッチング後)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7