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特許7225681リチウムの浸出方法及びリチウムの回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】リチウムの浸出方法及びリチウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/12 20060101AFI20230214BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20230214BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20230214BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20230214BHJP
   C22B 3/42 20060101ALI20230214BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230214BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20230214BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20230214BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20230214BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B1/02
C22B3/04
C22B3/22
C22B3/42
C22B3/44 101Z
C22B7/00 C
B09B3/40
B09B3/00 ZAB
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018202224
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2020066795
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸也
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103290217(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0171869(US,A1)
【文献】特開2016-191143(JP,A)
【文献】特開2012-200653(JP,A)
【文献】国際公開第2018/023159(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有材料からリチウムを浸出するリチウムの浸出方法であって、
リチウム含有材料と水酸化ナトリウムを混合し、大気圧下、酸化性雰囲気において500℃以上の温度で焙焼する焙焼工程と、
前記焙焼工程で得られる焙焼物を水で浸出し、アルカリ性の浸出液を得る浸出工程と、
前記浸出工程で得られるスラリーを固液分離する固液分離工程とを有することを特徴とし、
前記焙焼工程において、前記水酸化ナトリウムを溶融させて前記リチウム含有材料と反応させることを特徴とするリチウムの浸出方法。
【請求項2】
前記リチウム含有材料が、アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウムの浸出方法。
【請求項3】
前記焙焼を800℃以下で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムの浸出方法。
【請求項4】
前記リチウム含有材料が、リチウム含有鉱石、リチウム化合物またはリチウム含有産業再利用物のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項の何れか1項に記載のリチウムの浸出方法。
【請求項5】
前記リチウム含有鉱石が、スポジュメン、リシア雲母、ペタライト、アンブリゴナイト又は、ジャダライトのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項に記載のリチウムの浸出方法。
【請求項6】
前記リチウム化合物が、NCA活物質(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物)であることを特徴とする請求項に記載のリチウムの浸出方法。
【請求項7】
前記リチウム含有産業再利用物が、リチウムイオン電池であることを特徴とする請求項に記載のリチウムの浸出方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項の何れか1項に記載のリチウムの浸出方法によって得られる固液分離工程後の浸出液に、イオン交換樹脂を接触させて前記イオン交換樹脂にリチウムイオンを選択的に吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程において前記リチウムイオンを選択的に吸着させた前記イオン交換樹脂にナトリウム塩を含有する水溶液を接触させて前記イオン交換樹脂から前記リチウムイオンを溶離させる溶離工程と、
前記溶離工程で得られた溶離後液に炭酸源を添加する晶析工程とを有することを特徴とするリチウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有材料からリチウムを浸出し、回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムは陶器やガラスの添加剤、鉄鋼連続鋳造用のガラスフラックス、グリース、医薬品、電池等、産業において広く利用されている。特に、二次電池であるリチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、電圧が高いことから、最近ではノートパソコンなどの電子機器のバッテリーや電気自動車・ハイブリッド車の車載バッテリーとしての用途が拡大しており、需要が急増している。これに伴い、原料である水酸化リチウムや炭酸リチウムの需要も急増している。
【0003】
リチウムは主に灌水からの精製やリチウム含有鉱石の精錬により製造されるが、近年のリチウム需要の増大からリチウム資源確保のための取り組みが進められており、例えば使用済みリチウムイオン二次電池等の、リチウムを含有する産業廃棄物(以下、「リチウム含有産業再利用物」ともいう)からのリチウムの回収が検討されている。また、廃棄物からだけではなく製造工程、例えば、リチウムイオン二次電池用正極材料の製造工程において製品化されなかったリチウム化合物からリチウムを回収することが推進されている。
【0004】
リチウム含有鉱石の精錬方法としてはいわゆる硫酸法が非特許文献1に知られている。ここで、リチウム含有鉱石、リチウム化合物またはリチウム含有産業再利用物等のリチウム含有材料(以下、「リチウム含有材料」ともいう)を硫酸法で処理する場合、リチウム浸出液は酸性の硫酸塩水溶液になる。また、リチウム含有材料の主成分としてアルミニウムが含まれる場合、リチウム浸出液はアルミニウムを高濃度に含む水溶液になる。
【0005】
この浸出液からアルミニウムを除去する方法として、特許文献1に中和法が、特許文献2に溶媒抽出法が提案されている。また出願人は先の出願である特願2017-232984号(以下、「先願発明」とする)において、イオン交換法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-33984号公報
【文献】特開2012-211386号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】小林正夫、「リチウムの資源,生産,応用」日本鉱業会誌/100 1152 (’84-2) 115~122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の中和法では高濃度のアルミニウムを除去するために多くの中和剤が必要になる問題があった。また、特許文献2の溶媒抽出法では、リチウムはアルミニウムより抽出し難いという問題があった。そして、中和法や溶媒抽出法のように浸出液からアルミニウムを除去する方法は、工程が複雑になり、操業が難しくなる、薬剤費や設備費などが増加して経済的に不利になる問題があった。
【0009】
一方、例えば先願発明のイオン交換法のようにリチウムを抽出する方法によれば、このような問題を解消することができる。しかし、この方法では浸出液をアルカリ性にしてアルミニウムを陰イオンにする必要がある。非特許文献1の硫酸法ではリチウム浸出液は酸性となるため、イオン交換法では中和法よりも多量のアルカリ剤の添加が必要になり、経済的に不適となる問題があった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、アルミニウムを含むリチウム含有材料からリチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減するリチウムの浸出方法及びリチウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係るリチウムの浸出方法は、リチウム含有材料からリチウムを浸出するリチウムの浸出方法であって、リチウム含有材料と水酸化ナトリウムを混合し、酸化性雰囲気において500℃以上の温度で焙焼する焙焼工程と、前記焙焼工程で得られる焙焼物を水で浸出し、アルカリ性の浸出液を得る浸出工程と、前記浸出工程で得られるスラリーを固液分離する固液分離工程とを有することを特徴とし、前記焙焼工程において、水酸化ナトリウムを溶融させて前記リチウム含有材料と反応させることを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、リチウム含有材料からアルカリ性の浸出液を得ることできるため、リチウム含有材料からリチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減することができる。また、水酸化ナトリウムを溶融して液体にすることで、リチウム含有材料との反応性を高めることができるため、リチウム含有材料からアルカリ性の浸出液を得ることできる。
【0013】
このとき、本発明の一態様では、前記リチウム含有材料が、アルミニウムを含んでもよい。
【0014】
このようにすれば、アルミニウムを含むリチウム含有材料からリチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減することができる。
【0017】
このとき、本発明の一態様では、前記焙焼を800℃以下で行ってもよい。
【0018】
このようにすれば、水酸化ナトリウムを溶融して液体にすることでリチウム含有材料との反応性を高めることができるため、リチウム含有材料からアルカリ性の浸出液を得ることできる。
【0019】
本発明の一態様に係るリチウムの回収方法は、前記のリチウムの浸出方法によって得られる固液分離工程後の浸出液に、イオン交換樹脂を接触させて前記イオン交換樹脂にリチウムイオンを選択的に吸着させる吸着工程と、前記吸着工程において前記リチウムイオンを選択的に吸着させた前記イオン交換樹脂にナトリウム塩を含有する水溶液を接触させて前記イオン交換樹脂から前記リチウムイオンを溶離させる溶離工程と、前記溶離工程で得られた溶離後液に炭酸源を添加する晶析工程とを有することを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、リチウム含有材料からリチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リチウム含有材料からアルカリ性の浸出液を得ることでき、リチウムとアルミニウムを容易に分離しリチウムのみを容易に選択回収することができるため、アルミニウムを含むリチウム含有材料からリチウムをより簡便に回収し、かつ回収コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムの浸出方法の概略を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係るリチウムの回収方法の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
[1.リチウムの浸出方法]
本発明の一実施形態に係るリチウムの浸出方法は、リチウム含有材料からリチウムを浸出するものであって、焙焼工程と、浸出工程と、固液分離工程とを有する。以下、リチウムの浸出方法の概要及び各工程をそれぞれ説明する。
【0025】
[1-1.リチウムの浸出方法の概要]
まず、リチウムの浸出方法の概要について図面を使用しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムの浸出方法の概略を示すフロー図である。本発明の一実施形態に係るリチウムの浸出方法は、図1に示すように、焙焼工程S1と浸出工程S2と固液分離工程S3とから構成される。
【0026】
以下、リチウム含有材料としてリチウム含有鉱石を例に挙げて、リチウムの浸出方法の概要を説明する。リチウム含有鉱石にはスポジュメン(LiO・Al・4SiO)、リシア雲母(K(Li,Al)(Si,Al)10(F,OH))、ペタライト(LiO・Al・8SiO)、アンブリゴナイト(2LiF・Al・P)、ジャダライト(NaOLiO(SiO(BO)等がある。
【0027】
通常これらの鉱石からリチウムを浸出するには、鉱石を焙焼し、これを浸出して水溶液にする。焙焼法としては硫酸化焙焼法が広く用いられており、例えばスポジュメンからリチウムを浸出する場合はα-スポジュメンをロータリーキルン内で1,100度に加熱し、冷却キルンを経て排出する。この工程で、スポジュメンはα型からβ型に結晶構造が変化する。β-スポジュメンの微粉に硫酸を理論量より若干過剰に混合し、硫酸焙焼炉で約250℃に加熱すると、β-スポジュメン中のLi0だけが硫酸リチウムに変化する。焼鉱を水に浸出し硫酸リチウム水溶液とし、過剰の硫酸は石灰で中和し、生じた石膏はアルミナ、シリカとともに濾過除去してリチウムの浸出液を得る。また、リチウムの回収は浸出液から炭酸リチウムを沈殿させることで行う。具体的には、得られた浸出液に少量のソーダ灰、消石灰を加えて浄液し、多重効用缶を用いて硫酸リチウムが飽和溶液になるまで濃縮し、ソーダ灰の飽和溶液と反応させて炭酸リチウムの沈殿を得る。
【0028】
以上のように、硫酸化焙焼法を用いてリチウム含有材料から水浸出を行った場合、浸出液は酸性の硫酸塩水溶液になる。そして、主成分にアルミニウムを含むリチウム含有鉱石では、浸出液はアルミニウムを高濃度に含む水溶液になる。
【0029】
この浸出液からアルミニウムを除去するためには、中和法(例えば特許文献1)があるが、この方法ではリチウム含有材料の主成分であるアルミニウムを除去するために、多くの中和剤が必要になる。その他には溶媒抽出法(例えば特許文献2)があるが、溶媒抽出法ではリチウムはアルミニウムより抽出し難い問題がある。
【0030】
いずれにしても、浸出液からアルミニウムを除去する方法は、浸出の後に多量のアルミニウムを除去するための工程が加わるため、工程が複雑になり、操業が難しくなる、薬剤費や設備費などが増加して経済的に不利になるといったデメリットがある。
【0031】
このような経緯があり、アルミニウムを除去せずにリチウムを回収する方法が望まれてきた。そして、本発明者は、アルカリ性の水溶液中ではアルミニウムは陰イオンであるアルミン酸イオン[Al(OH)として存在するが、リチウムは陽イオンであるLiで存在することに着目した。このような形態にすれば、例えば陽イオン交換樹脂を用いれば、陰イオンであるアルミニウムは吸着せず、陽イオンであるリチウムのみを選択回収することができる(例えば、先願発明)。
【0032】
しかし、上述の硫酸化焙焼法により得られる浸出液は酸性である。この浸出液をアルカリ性にする前に中性になった時点で水酸化アルミニウムが沈殿するため、これを回収することでアルミニウムを除去すれば良く、さらにアルカリ剤を添加してアルカリ性の水溶液を作製し、イオン交換法を適用してリチウムのみを選択回収する意味がない。上述の通り、主成分にアルミニウムを含むリチウム含有材料は中和するだけでも多量のアルカリ剤が必要となることから、これをアルカリ性にするためにさらにアルカリ剤を添加するのは経済的に不適である。このため、硫酸化焙焼法で処理したリチウム含有材料では、先願発明のイオン交換法のような、浸出液をアルカリ性にする分離方法を用いることができない問題があった。
【0033】
このような実情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、発明者らはアルミニウムを含むリチウム含有材料と水酸化ナトリウムを混合して焙焼することで、アルカリ性の浸出液が得られること、浸出液中のリチウムとアルミニウムを容易に分離することができることを見出した。そして、アルミニウムを含むリチウム含有材料から水溶性の酸化リチウムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
以下、リチウム含有材料からのリチウム浸出方法について、リチウム含有材料としてリチウム含有鉱石を例に挙げて説明する。発明者らはリチウム含有鉱石が酸化リチウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素を含む化合物であることに着目し、含有する酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素を水酸化ナトリウムと反応させてこれらを水溶性のアルミン酸ナトリウム及びケイ酸ナトリウムに変えれば、LiOは水溶性であるため、焙焼処理後のリチウム含有鉱石を水で浸出することが可能となり、かつアルカリ性の浸出液を得られることを発見するに至った。例えば、スポジュメン(LiO・Al・4SiO)の場合は式1のような反応となる。
LiO・Al・4SiO + 10NaOH
→LiO + 2NaAlO + 4NaSiO + 5HO・・・式1
【0035】
本発明の焙焼処理法を用いれば、焙焼処理後のリチウム含有鉱石を水で浸出するだけで、リチウム及びアルミニウムを含有するアルカリ性の浸出液を得ることができる。このため、陽イオン交換樹脂を用いてリチウムとアルミニウムを容易に分離し、リチウムのみを容易に選択回収することが可能になる。
【0036】
また、本発明の焙焼処理法を用いれば、酸性の浸出液をアルカリ性にするための中和剤が不要になるため、薬剤費や設備費などを低減することができる。このため、リチウムの回収コストを低減することができる。
【0037】
また、本発明の焙焼処理法を用いれば、アルミニウムを除去するための中和剤を必要とせずに、リチウムのみを容易に選択回収することが可能になる。これにより浸出液からアルミニウムを除去する工程が不要になるため、工程が簡略になり、操業が簡易になり、リチウムを簡便に回収することができる。また、薬剤費や設備費などを低減することができるため、リチウムの回収コストを低減することができる。
【0038】
[1-2-1.リチウム含有材料]
原料となるリチウム含有材料はリチウム以外にアルミニウムを含む材料である。具体的にはリチウム含有鉱石、リチウム化合物またはリチウム含有産業再利用物のいずれか1種以上を使用するのが好ましい。リチウム含有鉱石の場合は、スポジュメン(LiO・Al・4SiO)、リシア雲母(K(Li,Al)(Si,Al)10(F,OH))、ペタライト(LiO・Al・8SiO)、アンブリゴナイト(2LiF・Al・P)、ジャダライト(NaOLiO(SiO(BO)のいずれか1種以上が、より好ましい。リチウム化合物の場合は、NCA活物質(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物)が、より好ましい。リチウム含有産業再利用物の場合は、リチウムイオン電池が、より好ましい。
【0039】
[1-2-2.焙焼工程S1]
焙焼工程S1では、原料であるリチウム含有鉱石、例えばスポジュメンやペタライト、と水酸化ナトリウムを混合し、加熱炉で焙焼する。焙焼工程S1では、リチウム含有鉱石と水酸化ナトリウムを反応させることで水溶性のLiOを得ることができる。そして、後述の浸出工程S2において、リチウム含有材料からアルカリ性の浸出液を得ることできる。
【0040】
焙焼温度は水酸化ナトリウムの融点である318℃以上であれば良いが、溶融させ完全に液体とさせるために、500℃以上であることが望ましい。水酸化ナトリウムが溶融せず、水酸化ナトリウム及びリチウム含有鉱石が固体の状態では、式1の反応は進行せずLiOは生成しない。水酸化ナトリウムを溶融して液体にすることでリチウム含有鉱石との反応性を高めることができ、式1の反応により水溶性のLiOを生成することができる。また、焙焼時間は2時間以上であることが好ましい。焙焼時間を2時間以上とすることで、式1の反応を進めLiOを生成することができる。焙焼時間の上限は特に限定されないが、焙焼温度の維持費用を削減する観点から10時間以下が好ましい。また、焙焼工程S1で水酸化ナトリウムを溶融させることにより、短時間でLiOを生成することができるため、リチウム含有材料の処理速度を速くすることができ、リチウムの回収コストを低減することができる。加熱時の雰囲気は酸素があっても問題なく、特に限定されない。経済的に加熱処理を行うことから、空気中、すなわち酸化性雰囲気が好ましい。また、経済的に加熱処理を行うことから、焙焼は大気圧下で行うことが好ましい。リチウム含有鉱石は反応効率を上げるために細かく粉砕する方が望ましく、粒度は1mm以下であれば好ましい。しかし、粒度を細かくすると粉砕コストがかかるため、粒度は加熱時間と粉砕コストを考慮して決定される。焙焼時間は粉砕したリチウム含有鉱石に溶融した水酸化ナトリウムが染み込み、反応すれば良いことから、粉砕物の粒度や処理バッチのサイズから任意に決めることができる。
【0041】
[1-2-3.浸出工程S2]
浸出工程S2では、焙焼工程S1で得られた焙焼物を粉砕し、水と混合してスラリー状にして撹拌混合する。焙焼工程S1で生成するLiOは浸出工程S2においてLiOH水溶液となる。また、焙焼工程S1で生成するNaAlOは浸出工程S2においてNa[Al(OH)]を生成し、またNaSiOは水溶液中で水酸化物イオンを生成するため、浸出液はアルカリ性を示す。このため、浸出工程S2ではアルカリ性の浸出液を得ることができるため、中和剤により浸出液をアルカリ性にすることなく後述のリチウムの回収方法において、選択的にリチウムを回収することが可能となる。この浸出工程S2で得られる浸出液は概ねpH11以上のアルカリ性の液になる。
【0042】
[1-2-4.固液分離工程S3]
固液分離工程S3では、浸出工程S2で得られたスラリー状の浸出液から、浸出液と浸出残渣を固液分離する工程である。固液分離後に回収した浸出液は上記の通りアルカリ性であることから、後述のリチウムの回収方法において、陽イオン交換樹脂を用いて選択的にリチウムを回収することが可能となる。また、リチウム含有鉱石や、NCA活物質(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物)等のリチウム化合物、リチウムイオン電池等のリチウム含有産業再利用物に含まれる不純物を浸出残渣として分離することで、後述のリチウムの回収方法を容易に行うことが可能となる。
【0043】
[2.リチウムの回収方法]
上記浸出液は、リチウムとアルミニウムを含んでおり、アルカリ性であることから、陽イオン交換樹脂を用いてリチウムとアルミニウムを分離して、選択的にリチウムを回収することが可能である。具体的には、浸出液を陽イオン交換樹脂に接触させリチウムを吸着させてリチウムとアルミニウムを分離する。その後、陽イオン交換樹脂に溶離液を通液して、リチウムを含む溶離後液を得る。そして、溶離後液に炭酸源、例えば炭酸ナトリウムを添加して炭酸リチウムを得る。
【0044】
[2-1.リチウムの回収方法の概要]
次に、リチウムの回収方法の概要について図面を使用しながら説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るリチウムの回収方法の概略を示すフロー図である。本発明の一実施形態に係るリチウムの回収方法は、図2に示すように、吸着工程S4と溶離工程S5と晶析工程S6とから構成される。以下各工程の詳細を説明する。
【0045】
[2-2-1.吸着工程S4]
吸着工程S4では、上記浸出液に強酸性陽イオン交換樹脂を接触させて、強酸性陽イオン交換樹脂にリチウムイオンを選択的に吸着させる。アルミニウムとリチウムを含有する浸出液はどのような金属濃度でもかまわないが、浸出液のpHを9以上に調整することで、アルミニウムイオンをアルミン酸イオン[Al(OH)にする。この浸出液をNa型に調整したスルホン酸基を含有する強酸性陽イオン交換樹脂に通液すると、カチオンであるリチウムイオンは吸着するが、アニオンであるアルミン酸イオンは吸着しない。アルミニウムイオンはリチウムイオンより選択性が高いため浸出液中にアルミニウムイオンが存在する場合はリチウムイオンを強酸性陽イオン交換樹脂に選択的に吸着させるのは困難であるが、アルミニウムイオンをアルミン酸イオンにすることでリチウムイオンを選択的に吸着させることができる。また上述したように浸出工程S2においてアルカリ性の浸出液を得ることができるため、中和剤により浸出液をアルカリ性にすることなく、本工程においてリチウムとアルミニウムを容易に分離することができる。
【0046】
[2-2-2.溶離工程S5]
溶離工程S5ではナトリウム塩を含有する水溶液を用いて、吸着工程S4でリチウムイオンを選択的に吸着させた強酸性陽イオン交換樹脂からリチウムイオンを溶離する。具体的には、吸着工程S4後の強酸性陽イオン交換樹脂にナトリウム塩を含有する水溶液を接触させてリチウムイオンを溶離し、リチウムイオンを含有する溶離後液を得る。ナトリウム塩を含有する水溶液としては例えば硫酸ナトリウム水溶液を用いることができる。陽イオン交換樹脂は通常酸を用いて溶離を行うが、カラムを用いて吸着と溶離を行う場合、吸着工程S4で通液した浸出液が残留していると液の混合によるpH低下により、水酸化アルミニウムの沈殿が発生する、アルミニウムが酸性領域でカチオンの形態になり樹脂に吸着されるなどの不具合が発生し、リチウムの回収率が低下する。硫酸ナトリウム水溶液を溶離に用いることで上述のpH低下を防ぐことができるため、リチウムの回収率の低下を防ぐことができる。硫酸ナトリウム水溶液を用いてリチウムイオンを溶離した場合、硫酸リチウムを含有する溶離後液を得る。
【0047】
[2-2-3.晶析工程S6]
晶析工程S6は、溶離工程S5で得られた溶離後液に炭酸源を添加して、溶離後液中の硫酸リチウムを炭酸リチウムに転換して沈殿させる工程である。晶析工程S6により、リチウム含有材料からリチウムを回収することができる。炭酸源としては炭酸ナトリウムが好ましい。このようにすれば、晶析工程S6において水溶性の硫酸ナトリウムが生成するため、溶解度の低い炭酸リチウムと分離することができ、炭酸リチウム中の不純物の品位を低下させることができる。また、晶析工程S6は60~80℃で行うことが好ましい。炭酸リチウムの溶解度は20℃では13.3g/Lであるが、80℃では8.5g/L、100℃では7.2g/Lである。このため、沈殿時の温度は高い程良いが、一般的に80℃を超えると反応槽や周辺装置の耐熱性の観点から操作が困難になる、コスト増になるといったデメリットがある。更に90℃以上では沸点が近くなるため、一般的には60~80℃が適当な温度範囲と言える。晶析工程S6で得られる炭酸リチウムを含むスラリーから、例えばフィルタープレスなどの濾過装置を用いて、晶析母液と炭酸リチウムを固液分離する。濾過して固液分離により回収した炭酸リチウムは必要に応じて乾燥処理をしても良い。
【実施例
【0048】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
スポジュメンを粉砕した粉末5gに水酸化ナトリウムのフレークを5g添加して混合し、混合物を坩堝に装入した。坩堝を電気炉に入れ。空気中、500℃で2時間、焙焼した。焙焼した後の処理物を粉砕して、100mLの純水と混合し、30分間、常温で撹拌混合した。得られたスラリーを5C濾紙(JIS P 3801に規定される5種C)で固液分離して浸出液を得た。浸出液のpHは約13であり、リチウム濃度は340mg/L、アルミニウム濃度は170mg/Lであった。浸出率はリチウムが17%であり、アルミニウムが2%であった。
【0050】
<実施例2>
焙焼温度を800℃に変更した以外は、全て実施例1と同じ操作を行った。浸出液のpHは約13であり、リチウム濃度は410mg/L、アルミニウム濃度は110mg/Lであった。浸出率はリチウムが20%であり、アルミニウムが2%であった。
【0051】
以上のとおり、本発明を用いれば、酸化焙焼処理後の処理物を水浸出するだけで、リチウムとアルミニウムを含有するアルカリ性の水溶液を得ることが可能であることが分かった。このことから、上述したイオン交換法を用いることで、リチウムを回収できることが分かった。そして、浸出液を酸性からアルカリ性にすることなく、上記イオン交換法を用いることができることが分かった。
【0052】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0053】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、リチウムの浸出方法及びリチウムの回収方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0054】
S1 焙焼工程、S2 浸出工程、S3 固液分離工程、S4 吸着工程、S5溶離工程、S6 晶析工程
図1
図2