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特許7226227クリンカの製造方法及びクリンカ製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】クリンカの製造方法及びクリンカ製造装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/36 20060101AFI20230214BHJP
   G01N 15/02 20060101ALI20230214BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20230214BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20230214BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20230214BHJP
【FI】
C04B7/36
G01N15/02 C
G01N21/27 A
G01J5/00 101Z
G01J5/48 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019175974
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021050130
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-052741(JP,A)
【文献】特開2014-214071(JP,A)
【文献】特開2013-199407(JP,A)
【文献】特開2014-073917(JP,A)
【文献】特開2008-046077(JP,A)
【文献】特開平09-268038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00 - 7/60
G01N 15/02
G01N 21/27
G01J 5/00
G01J 5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キルンから排出されたクリンカの画像を取得する工程と、
取得した前記画像から前記クリンカのサイズを計測し、サイズが閾値以上である粒子を検出する工程と、
検出された前記粒子について、前記画像から摘出パラメータを取得する工程と、
取得した前記画像から、前記粒子の位置情報を取得する工程と、
取得された前記摘出パラメータの値が設定範囲を満たさない場合に、前記粒子を前記クリンカから摘出する工程と、
を含み、
前記摘出パラメータが、下記式(1)により算出される円形度、前記クリンカの平均温度と前記粒子の温度との差、及び、CIE(国際照明委員会)L表色系のL値の少なくとも1つであり、
前記位置情報に基づいて、前記摘出パラメータの値が前記設定範囲を満たさない前記粒子を前記クリンカから摘出する、クリンカの製造方法。
C=4πS/g ・・・(1)
C:円形度
S:前記画像から取得される粒子の面積
g:前記画像から取得される粒子の周囲長
【請求項2】
前記サイズの閾値は、予め測定された、前記クリンカに含まれるアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム含有量の少なくとも1つに基づいて決定される、請求項1に記載のクリンカの製造方法。
【請求項3】
前記クリンカの一部を採取する工程と、
採取された前記クリンカを分級する工程と、
分級後の前記クリンカについて、分級径毎に前記アルカリ含有量、前記SO含有量、前記塩素含有量、及び、前記フリーライム含有量を測定する工程と、
前記アルカリ含有量、前記SO含有量、前記塩素含有量、及び、前記フリーライム含有量の少なくとも1つに基づいて、前記サイズの閾値を設定する工程と、
を更に含む、請求項に記載のクリンカの製造方法。
【請求項4】
キルンから排出されたクリンカの画像を取得する画像取得手段と、
取得した前記画像を処理して前記クリンカのサイズを計測し、サイズが閾値以上である粒子を検出するサイズ検出手段と、
前記サイズ検出手段で検出された粒子について、前記画像から摘出パラメータを取得する摘出パラメータ取得手段と、
取得した前記画像から、前記粒子の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記摘出パラメータが設定範囲を満たさない場合に、前記粒子を前記クリンカから摘出する摘出手段と、
を含み、
前記摘出パラメータ取得手段は、円形度演算手段、温度取得手段、及び、L値演算手段の少なくとも1つを含み、
前記円形度演算手段は、下記式(1)により算出される円形度を演算し、
前記温度取得手段は、前記画像から温度分布を取得して、前記クリンカの平均温度と前記粒子の温度との差を取得し、
前記L値演算手段は、前記画像からCIE(国際照明委員会)L表色系のL値を算出し、
前記摘出手段が、前記位置情報に基づいて、前記摘出パラメータの値が前記設定範囲を満たさない前記粒子を前記クリンカから摘出する、クリンカ製造装置。
C=4πS/g ・・・(1)
C:円形度
S:前記画像から取得される粒子の面積
g:前記画像から取得される粒子の周囲長
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリンカの製造方法及びクリンカ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの原料となるクリンカは、石灰石、粘土等の原料を、粉砕、焼成することで製造される。通常、焼成工程はロータリーキルンで行われる。得られたクリンカはその後クリンカクーラで冷却され、その後セメントの製造に使用される。
【0003】
ところで、セメント組成物中のアルカリ成分、塩素成分、SO、フリーライムなどは、セメント等の諸物性に影響を及ぼすことが知られている。
例えば、アルカリ成分含有量が高いクリンカを、土壌などの軟弱地盤の固化改良のセメント系固化材に利用すると、高い強度を発現させることができる。一方で、アルカリ成分含有量が高いクリンカをコンクリート構造物に利用すると、シリカ鉱物を含有する骨材とアルカリ成分とが反応し、これによりコンクリートが膨張してひび割れ等が発生することがある。
塩素含有量が高いクリンカをコンクリート構造物に利用すると、鉄筋や鉄骨等の腐食を引き起こし、コンクリート構造物の耐久性を低下させる。
SO含有量は、モルタル及びコンクリートに使用した場合に、流動性や強度発現性に影響を与える。また、SO含有量が多い場合には、低融点物質を生成してクリンカ粒を凝集させて大きなクリンカが生成しやすくなる。
フリーライム含有量が高いクリンカをコンクリート構造物に利用すると、水和による膨張のため、コンクリート構造物にひび割れ等が発生することが知られている。
【0004】
そこで、用途に応じて上述の成分の含有量、すなわち、クリンカの品質を管理する必要がある。例えば、アルカリ成分含有量や塩素量が少ないクリンカを得る手法として、焼成後のクリンカを洗浄することにより、上記成分の濃度を低減させることが知られている(例えば特許文献1)。
【0005】
一方、特許文献2~3は、塩素含有量が規格外のクリンカを製品に混入させない手法を開示している。塩素含有廃棄物を焼成用燃料に用いる場合に、ロータリーキルンの内壁に付着する白色のコーチングが剥落することにより、クリンカの塩素含有量が高くなることが知られている。特許文献2~3に開示される手法では、クリンカの白色度と塩素含有量との相関に着目し、白色度が閾値を超える場合に、クリンカの搬送先を製品サイロから規格外品サイロに切り替えることにより、製品中の塩素濃度を規格内に管理している。は、石灰石、粘土等の原料を、粉砕、焼成することで製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-247660号公報
【文献】特開2013-199407号公報
【文献】特開2014-73917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の手法では、製造したクリンカの全量を洗浄する必要があり、多量の水を必要とするなど処理費用が高く、水和反応が進行する虞があることが問題となっていた。また、セメントの要求性能に応じてクリンカ中のアルカリ成分や塩素を調整することが難しいという問題があった。
【0008】
特許文献2~3では、画像取得エリアに存在するクリンカをすべて規格外品として分別するため、規格を満たすクリンカも規格外品サイロに搬送されることになる。すなわち、特許文献2~3の手法では、ロスが大きくなることが問題であった。また、特許文献2~3では塩素のみを検出しており、アルカリ成分やフリーライムなどの他の成分の含有量を含めたクリンカの品質管理を行うことができなかった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、所定の品質を満たすクリンカを効率的に製造する方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、焼成後のクリンカを分級して粒度毎にアルカリ成分、塩化物イオン、及び、フリーライムの含有率を分析したところ、これらの成分は大粒径のクリンカに多く含まれることに着目した。更に本発明者は、所定の大きさ以上のクリンカでは、上記成分の含有量と、クリンカの円形度、周囲温度対する温度の違い(冷却度合い)、及び、明度の各々との間に相関があることを見出し、本願発明を着想するに至った。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]キルンから排出されたクリンカの画像を取得する工程と、取得した前記画像から前記クリンカのサイズを計測し、サイズが閾値以上である粒子を検出する工程と、検出された前記粒子について、前記画像から摘出パラメータを取得する工程と、取得された前記摘出パラメータの値が設定範囲を満たさない場合に、前記粒子を前記クリンカから摘出する工程と、を含み、前記摘出パラメータが、下記式(1)により算出される円形度、前記クリンカの平均温度と前記粒子の温度との差、及び、CIE(国際照明委員会)L表色系のL値の少なくとも1つである、クリンカの製造方法。
C=4πS/g ・・・(1)
C:円形度
S:前記画像から取得される粒子の面積
g:前記画像から取得される粒子の周囲長
[2]取得した前記画像から、前記粒子の位置情報を取得する工程を更に含み、前記位置情報に基づいて、前記摘出パラメータの値が前記設定範囲を満たさない前記粒子を前記クリンカから摘出する[1]に記載のクリンカの製造方法。
[3]前記サイズの閾値は、予め測定された、前記クリンカに含まれるアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム含有量の少なくとも1つに基づいて決定される、[1]または[2]に記載のクリンカの製造方法。
[4]前記クリンカの一部を採取する工程と、採取された前記クリンカを分級する工程と、分級後の前記クリンカについて、分級径毎に前記アルカリ含有量、前記SO含有量、前記塩素含有量、及び、前記フリーライム含有量を測定する工程と、前記アルカリ含有量、前記SO含有量、前記塩素含有量、及び、前記フリーライム含有量の少なくとも1つに基づいて、前記サイズの閾値を設定する工程と、を更に含む、[3]に記載のクリンカの製造方法。
【0012】
[5]キルンから排出されたクリンカの画像を取得する画像取得手段と、取得した前記画像を処理して前記クリンカのサイズを計測し、サイズが閾値以上である粒子を検出するサイズ検出手段と、前記サイズ検出手段で検出された粒子について、前記画像から摘出パラメータを取得する摘出パラメータ取得手段と、前記摘出パラメータが設定範囲を満たさない場合に、前記粒子を前記クリンカから摘出する摘出手段と、を含み、前記摘出パラメータ取得手段は、円形度演算手段、温度取得手段、及び、L値演算手段の少なくとも1つを含み、前記円形度演算手段は、下記式(1)により算出される円形度を演算し、前記温度取得手段は、前記画像から温度分布を取得して、前記クリンカの平均温度と前記粒子の温度との差を取得し、前記L値演算手段は、前記画像からCIE(国際照明委員会)L表色系のL値を算出する、クリンカ製造装置。
C=4πS/g ・・・(1)
C:円形度
S:前記画像から取得される粒子の面積
g:前記画像から取得される粒子の周囲長
[6]取得した前記画像から、前記粒子の位置情報を取得する位置情報取得手段を更に含み、前記摘出手段が、前記位置情報に基づいて、前記摘出パラメータの値が前記設定範囲を満たさない前記粒子を前記クリンカから摘出する、[5]に記載のクリンカ製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明に依れば、所定の品質を満たすクリンカを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るクリンカ製造装置のブロック図である。
図2】第1実施形態に係るクリンカ製造方法を説明するフロー図である。
図3】第2実施形態に係るクリンカ製造方法を説明するフロー図である。
図4】第3実施形態に係るクリンカ製造方法を説明するフロー図である。
図5】第4実施形態に係るクリンカ製造方法を説明するフロー図である。
図6】第5実施形態に係るクリンカ製造方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[クリンカ製造装置]
本発明のクリンカ製造装置は、キルンから排出されたクリンカの画像を取得する画像取得手段と、取得した前記画像を処理して前記クリンカのサイズを計測し、サイズが閾値以上である粒子を検出するサイズ検出手段と、前記サイズ検出手段で検出された粒子について、前記画像から摘出パラメータを取得する摘出パラメータ取得手段と、前記摘出パラメータが設定範囲を満たさない場合に、前記粒子を前記クリンカから摘出する摘出手段と、を含み、前記摘出パラメータ取得手段は、円形度演算手段、温度取得手段、及び、L値演算手段の少なくとも1つを含み、前記円形度演算手段は、下記式(1)により算出される円形度を演算し、前記温度取得手段は、前記画像から温度分布を取得して、前記クリンカの平均温度と前記粒子の温度との差を取得し、前記L値演算手段は、前記画像からCIE(国際照明委員会)L表色系のL値を算出するものである。
C=4πS/g ・・・(1)
C:円形度
S:前記画像から取得される粒子の面積
g:前記画像から取得される粒子の周囲長
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るクリンカ製造装置のブロック図である。図1のクリンカ製造装置1は、キルン(ロータリーキルン)2、クリンカクーラ3、ベルトコンベア5、及び、品質管理手段10を備える。
【0017】
キルン2は、セメント原料を焼成してクリンカを生成させる。キルン2の上流側に、セメント原料を予熱するための予熱装置(図1では不図示)、及び、予熱されたセメント原料を仮焼成する仮焼炉(図1では不図示)が配置されていても良い。
【0018】
キルン2で焼成されたクリンカは、クリンカクーラ3内を通過する間に冷却される。なお、キルン2から排出されたクリンカには、塩素成分や硫黄成分などを多く含むコーチング等も含まれる場合がある。中には、コーチングを巻き込みながら成長するクリンカも存在する。これらの中には、サイズが大きいものが含まれており、搬送時等にトラブルの原因となり得る。
そこで、図1に示すように、クリンカ製造装置1は更に、クリンカクーラ3とベルトコンベア5との間に、クラッシャ4を備えていても良い。この場合、クリンカクーラ3で冷却されたクリンカ等が、クラッシャ4で粗粉砕される。
【0019】
ベルトコンベア5は、クリンカクーラ3から排出されたクリンカを搬送する。図1では、ベルトコンベア5の後段に、クリンカを貯蔵するサイロ6が設置される。ただし、本発明はこれに限定されず、ベルトコンベア5は、サイロを経由せずに、クリンカと石膏とを混合してセメントを製造するセメント製造装置(不図示)に接続していても良い。
【0020】
品質管理手段10は、焼成・冷却後のクリンカに処理を施し、所定の品質のクリンカを得るための設備である。品質管理手段10は、制御部11、画像取得手段12、及び、摘出手段13で構成される。
【0021】
画像取得手段12は、可視光あるいは赤外線(近赤外線~遠赤外線)を受光することができるカメラである。図1のクリンカ製造装置1では、画像取得手段12は、ベルトコンベア5の上流側でベルトコンベア5の上方に設置される。画像取得手段12は、クリンカクーラ3あるいはクラッシャ4から排出されてベルトコンベア5上に載置された直後の粒子(クリンカ及びコーチングを含む)の画像を取得する。
なお、画像取得手段12は、クリンカクーラ3内に設置されていても良い。
【0022】
制御部11は、画像取得手段12が取得した画像に基づいて、ベルトコンベア5を流通するクリンカの中で所定の品質を充足しない粒子を検出する。制御部11は例えばコンピュータであり、画像取得手段12及び摘出手段13と連絡する。制御部11は、サイズ検出手段及び摘出パラメータ取得手段を含む。
【0023】
サイズ検出手段は、画像取得手段12が取得した画像を処理してクリンカのサイズを計測し、サイズが閾値以上である粒子を検出する。
【0024】
摘出パラメータ取得手段は、サイズ検出手段で検出された粒子について、画像に基づいて摘出パラメータを取得する。本実施形態において、摘出パラメータ取得手段は、円形度演算手段、温度取得手段、及び、L値演算手段のうち少なくとも1つを含む。
【0025】
制御部11は更に、位置情報取得手段を有していても良い。位置情報取得手段は、特定の粒子の位置情報を取得する。
なお、制御部11中の各手段の詳細については後述する。
【0026】
摘出手段13は、ベルトコンベア5の下流側に設置される。摘出手段13は、摘出パラメータ取得手段が取得したパラメータに基づき、ベルトコンベア5上の粒子の中から所定の品質を充足しない粒子を摘出する。摘出手段13としては、パラレルリンクロボット、多関節ロボットなどのロボット、ダンパ、エアガン、ワイパ、フリックロッドなどが挙げられる。摘出方法の詳細については後述する。
【0027】
[クリンカの製造方法]
本発明のクリンカの製造方法は、キルンから排出されたクリンカの画像を取得する工程と、取得した前記画像から前記クリンカのサイズを計測し、サイズが閾値以上である粒子を検出する工程と、検出された前記粒子について、前記画像から摘出パラメータを取得する工程と、取得された前記摘出パラメータの値が設定範囲を満たさない場合に、前記粒子を前記クリンカから摘出する工程と、を含み、前記摘出パラメータが、下記式(1)により算出される円形度、前記クリンカの平均温度と前記粒子の温度との差、及び、CIE(国際照明委員会)L表色系のL値の少なくとも1つである製造方法である。
C=4πS/g ・・・(1)
C:円形度
S:前記画像から取得される粒子の面積
g:前記画像から取得される粒子の周囲長
【0028】
図1に例示されるクリンカ製造装置を用い、本発明のクリンカの製造方法の一実施形態を以下で説明する。
原料は、石灰石、ケイ石、粘土などであり、所定の組成比となるように配合されたのち、粉砕される。
粉砕された原料は、キルン2に導入される。なお、予熱装置及び仮焼炉が設置される場合は、まず原料が予熱装置に導入され、その後仮焼炉で仮焼された後に、キルン2に導入される。キルン2内で、原料が1200~1500℃程度で焼成され、クリンカが生成する。また、ロータリーキルンの内壁には、原料や燃焼ガスから放出される成分が付着したコーチングが形成されており、このコーチングが一定量の厚さとなると内壁から剥落することがある。この場合、ロータリーキルン内で、クリンカとコーチングとが混合される。
【0029】
焼成されたクリンカは、コーチング等とともにクリンカクーラ3から排出される。クリンカクーラ3内でクリンカ等の粒子は、80~400℃程度に冷却される。冷却された粒子は、クラッシャ4で粉砕されていても良い。
【0030】
冷却後(あるいは粉砕後)の粒子は、ベルトコンベア5上に載置されてサイロ6まで搬送される。ベルトコンベアでの搬送中に、所定の品質を満たさない粒子を選別する工程が実施される。
以下で、選別工程について、各実施形態を図2図6を参照して詳述する。
【0031】
〔第1実施形態〕
図2は、本発明の第1実施形態に係るクリンカの製造方法のフロー図である。第1実施形態は、摘出パラメータ取得手段が円形度演算手段を含み、円形度を摘出パラメータとする例である。
【0032】
ステップS1では、画像取得手段12が、ベルトコンベア5上の粒子の画像を撮影する。撮影される画像は、可視光を検出して得られる画像(可視光画像)である。可視光画像は公知の手段により撮影される。撮影された画像は、制御部11のサイズ検出手段に送信される。
【0033】
ステップS2では、まず、サイズ検出手段が画像を解析し、撮影領域に存在する各クリンカのサイズを計測する。計測されるサイズは、例えば、面積、周囲長、定方向最長幅、円等価径などである。
【0034】
サイズ検出手段には、サイズの閾値が予め格納されている。サイズ検出手段は、上記計測されたサイズと、サイズの閾値とを比較する。そして、サイズ検出手段は、閾値以上のサイズを有する粒子を検出する。サイズ検出手段は、解析した画像及び検出した粒子のサイズなど、検出した粒子の情報を円形度演算手段に送信する。
【0035】
サイズの閾値は、クリンカに含まれるアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム(f-CaO)含有量の少なくとも1つに基づいて決定されることが好ましい。
焼成後のクリンカ中のアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム(f-CaO)含有量は、クリンカ原料の種類、キルンでの焼成温度、キルン内での原料クリンカの焼成度合いによって変化するが、大きいクリンカは、キルン内での燃焼が不十分であるため、内部に上記成分が残留しやすくなる。また、キルン内壁から剥離したコーチングは比較的大きく、多量の塩素や硫黄化合物を含有する。このことから、キルンから排出されたもののうち、ある一定のサイズ以上の粒子は、燃焼が不十分であった大粒径のクリンカ、コーチング、あるいは、コーチングを内部に巻き込みながら成長したクリンカに由来し、上述した成分の含有量高いと考えられる。これらは、クラッシャで粉砕された後でもある程度のサイズで存在する。一方、小さいクリンカは燃焼が十分であるため、上記成分の含有量が少ない。
【0036】
ベルトコンベア5で搬送させるクリンカは互いに重なり合っている。サイズが大きい粒子は搬送の過程で上方に浮き上がり、撮影された画像に写りやすい。一方で、サイズが小さい粒子は重なりによって上方の粒子の陰に隠れ、撮影された画像に写らないものが多数存在する。すなわち、サイズが小さいクリンカは、すべての粒子を画像撮影で把握することが困難である。
【0037】
そこで本発明では、上記成分の含有量に基づいてサイズの閾値を決定し、選別の第1段階として、画像撮影されたクリンカの中から閾値以上のサイズを有する粒子を抽出する。
【0038】
具体的に、サイズの閾値は以下の工程で決定される。
キルンから排出されたクリンカの一部が採取される。採取されるクリンカは、画像撮影の対象となるクリンカであることが好ましい。すなわち、図1のクリンカ製造装置1では、ベルトコンベア5で搬送されるクリンカ、あるいは、クリンカクーラ3から排出されたクリンカであることが好ましい。
【0039】
採取されたクリンカは、所定のサイズ毎に分級される。分級方法としては、上記のように画像解析により各クリンカのサイズを計測し、設定したサイズ範囲(分級径)毎に分別することが好ましい。ただし、本発明では、公知の分級方法を用いることもできる。公知の分級方法としては、振動篩機、ロータップ式篩振動機、トロンメル、グリズリー式スクリーンなどを用いた方法がある。振動篩機を用いる場合には、例えばJIS Z 8801-1:2006「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に規定されている篩を用いることができる。
【0040】
分級されたクリンカについて、分級径毎に、アルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム含有量のうちの少なくとも1つが測定される。アルカリ含有量及び塩素含有量、及び、SO含有量は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定される。フリーライム含有量は、JCAS I-01「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準拠して測定される。
【0041】
分級径毎に、得られた分析値を基準値と対比させる。分析値が基準値を満たさない(基準値を超える)分級径の下限値が、「サイズの閾値」に設定される。
ここで基準値とは、クリンカの品質管理基準値である。例えば、本発明の方法により製造されたクリンカをセメントに用いた場合に該セメントが規格を満たすように、各成分の基準値を決定することができる。
【0042】
上述したクリンカの分析及び閾値の設定は、選別工程以前に予め行うだけでなく、例えば、所定の運転時間経過したときなど定期的に、あるいは、燃焼条件や原料産地を変えた場合、得られるクリンカの品質を変更した場合など、条件を変更した場合に、分析及び閾値の設定を改めて行っても良い。また、本実施形態では、製造されるクリンカの要求品質により、サイズの閾値を適宜変更することができる。
【0043】
本実施形態では、選別の第2段階として、円形度による判定を実施する。ステップS3では、円形度演算手段が、ステップS2で検出された、閾値以上のサイズを有する粒子について、円形度を算出する。円形度(C)は、下記式(1)で表される。
C=4πS/g ・・・(1)
C:円形度
S:画像から取得される粒子の面積
g:画像から取得される粒子の周囲長
面積(S)及び周囲長(g)は、上記したようにサイズ検出手段が画像を解析することによって得られる。従って、本実施形態では、サイズ検出手段が閾値以上のサイズを有する粒子について面積及び周囲長を取得し、円形度演算手段に送信する。円形度演算手段は、得られた面積(S)及び周囲長(g)を用い、各粒子の円形度(C)を算出する。
【0044】
円形度演算手段には予め、円形度の設定範囲が格納されている。本実施形態では、円形度の設定範囲はC≧αである。αは円形度の閾値である。
【0045】
円形度の閾値(α)は以下の工程で決定される。
まず、採取したクリンカの中から、閾値以上のサイズを有する粒子を抽出する。抽出された粒子の画像を取得し、画像解析を行って、各粒子の面積及び周囲長を計測し、円形度を算出する。そして円形度に基づいて粒子を段階ごとに分別する。
その後、各段階についてアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、フリーライム含有量のうち少なくとも1つを測定する。得られた分析値を基準値と対比させ、分析値が基準値を満たさない場合の円形度の上限値が、「円形度の閾値(α)」に設定される。そして、該閾値(α)以上の範囲が、「円形度の設定範囲」に設定される。
【0046】
ステップS4では、円形度演算手段が算出した円形度(C)が、設定範囲を満たすか否かが判断される。算出された円形度が設定範囲を満たす場合(C≧αの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
算出された円形度が設定範囲を満たさない場合(C<αの場合)、制御部11の円形度演算手段は、該当する粒子を摘出する指令を摘出手段13に送信する。その後、ステップS5に移行する。
【0047】
十分に燃焼が進んだクリンカは、ある程度の大きさであったとしても球形に近い形状となる。このため、十分に燃焼が進んだクリンカは、高い円形度を有する。このようなクリンカは、アルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム含有量の少なくとも1つを測定したときに、基準値を満たすものである。
一方、燃焼が不十分であったり、コーチング等を巻き込んで成長した大粒径のクリンカは、不定形であることが多い。また、コーチングは剥落物であるので、不定形である。これらのクリンカやコーチングは、図1に例示されるクリンカ製造装置のようにクラッシャで粉砕された後でも、形状は不定形となっている。すなわち、円形度が低い粒子は、大粒径のクリンカまたはコーチングに由来し、アルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム含有量が多く含まれ、基準値を満たさない。
【0048】
このように、円形度と各成分の含有量との間とに相関があることから、閾値以上のサイズを有する粒子の円形度を求め、その円形度によって、その粒子が大粒径のクリンカあるいはコーチングに由来するか否かを判断することができる。円形度の閾値は、クリンカに含まれるアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム(f-CaO)含有量の少なくとも1つに基づいて決定されることが好ましい。
【0049】
ステップS5において、摘出手段13が、円形度演算手段によって特定された粒子をベルトコンベア5上から外部に摘出する。その後、ステップS1に戻る。
なお、算出された円形度が設定範囲を満たす場合(C≧αの場合)、円形度算出手段は摘出手段13に指令を送信しない。このため、C≧αを満たす粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に戻る。
【0050】
摘出方法としては、上述したパラレルリンクロボット、多関節ロボットなどのロボット、エアガンなどを用い、特定された粒子を個別にベルトコンベア上から取り除いてもよい。例えば、ロボットの先端に真空吸着手段を設け、特定された粒子をロボット先端に吸着させて搬出することができる。ロボット先端にアームを設け、アームが特定された粒子を握持して搬出することもできる。また、特定された粒子に対しエアガンからエアを射出し、粒子をベルトコンベアの外にはじき出すことができる。
【0051】
別の摘出方法としては、ロボット、ダンパ、ワイパ、フリックロッドなどを用い、特定された粒子をその周囲の小径クリンカごとベルトコンベア上から取り除いても良い。例えば、ロボットの先端にバキュームホースを設置し、特定された粒子を含むクリンカを吸引して除去することができる。また、ダンパにより搬出経路を切り替えることにより、特定された粒子を含むクリンカを製品から除去することもできる。この場合、除去されたクリンカを篩に通過させ、篩を通過した小径クリンカを再度ベルトコンベア上に戻しても良い。こうすることにより、篩上に残留する、所定の品質を満たさない粒子のみを除去することができ、クリンカの収率を向上させることができる。
【0052】
本実施形態では、所定の品質を満たさない粒子を確実に除去するために、摘出対象となる粒子の位置情報を取得する位置情報取得工程を含むことが好ましい。制御部11は位置情報取得手段を更に含むことが好ましい。
【0053】
具体的に、円形度演算手段は、閾値未満の円形度を有する粒子(摘出対象の粒子)に関する情報を位置情報取得手段に送信する。当該情報は、画像取得手段が取得した画像(サイズ検出手段及び円形度演算手段で処理された画像を含む)などである。
位置情報取得手段は、画像、ベルトコンベアの搬送速度などから、ベルトコンベアで搬送されている摘出対象の粒子の位置情報を取得する(位置情報取得工程)。位置情報取得手段は、得られた位置情報を摘出手段13に送信する。
摘出手段13は、円形度演算手段から送信された指令と、位置情報取得手段から得られた位置情報に基づいて、抽出対象の粒子の位置を把握し、該粒子をベルトコンベア5上から摘出する。
【0054】
このように、位置情報取得手段を用いることで、所定の品質を満たさない粗大な粒子を確実に除去することができる。この結果、得られるクリンカの品質を精度良く管理することが可能となる。
【0055】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態に係るクリンカの製造方法のフロー図であり、特に選別工程を説明するための図である。第2実施形態は、摘出パラメータ取得手段が温度取得手段を含み、温度差(クリンカの平均温度と粒子の温度との差)を摘出パラメータとする例である。
【0056】
ステップS1では、画像取得手段12が、ベルトコンベア5上の粒子の画像を撮影する。撮影される画像は、可視光画像及び温度分布画像である。可視光画像及び温度分布画像は、公知の手段により撮影される。温度分布画像の取得は、後述する「温度分布画像全体の温度の平均値(平均温度)」が200℃以下となったときに測定することが好ましい。
画像取得手段12は、可視光画像を制御部11のサイズ検出手段に送信する。また、画像取得手段12は、温度分布画像を制御部11の温度取得手段に送信する。
【0057】
ステップS2では、サイズ検出手段が、第1実施形態と同じ工程で閾値以上のサイズを有する粒子を検出する。サイズ検出手段は、解析した画像など、検出した粒子の情報を温度取得手段に送信する。
【0058】
ステップS11では、温度取得手段が、温度分布画像とサイズ検出手段で処理された画像とを重ね合わせる。そして、温度分布画像に存在するクリンカ全体の温度の平均値(以下、「平均温度」と称する)と、閾値以上のサイズを有する各粒子の温度(以下、「粒子の温度」と称する)とを取得する。次いで、式(2)により、平均温度と粒子の温度との差(T)を取得する。すなわち、温度差Tは、キルンから排出されたクリンカの平均温度と閾値以上のサイズを有する粒子の温度の差である。
温度差T=(粒子の温度)-(平均温度)・・・(2)
【0059】
温度取得手段には予め、温度差の設定範囲が格納されている。本実施形態では、温度差の設定範囲はT<βである。βは温度差の閾値である。
【0060】
温度差の閾値(β)は以下の工程で決定される。
まず、採取したクリンカの中から、閾値以上のサイズを有する粒子を抽出する。抽出された粒子の温度分布画像を取得し、画像解析を行って、上記の定義に従い各粒子について平均温度に対する温度差を取得する。そして温度差に基づいて粒子を段階ごとに分別する。
その後、各段階についてアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、フリーライム含有量のうち少なくとも1つを測定する。得られた分析値を基準値と対比させ、分析値が基準値を満たさない場合の温度差の下限値が、「温度差の閾値(β)」に設定される。そして、該閾値(β)未満の範囲が、「温度差の設定範囲」に設定される。
【0061】
ステップS12において、温度取得手段は、取得した温度差(T)が、設定範囲を満たすか否かを判断する。取得した温度が設定範囲を満たす場合(T<βの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
取得した温度差が設定範囲を満たさない場合(T≧βの場合)、制御部11の温度取得手段は、該当する粒子を摘出する指令を摘出手段13に送信する。その後、ステップS5に移行する。
【0062】
大粒径のクリンカは、熱容量が大きいために、小粒径のクリンカに比べて冷却速度が遅い傾向がある。図1に例示されるクリンカ製造装置のようにクラッシャを備える場合には、大粒径のクリンカが粉砕されて表面積が大きくなっても温度が下がりにくいため、粉砕後のクリンカの温度が他よりも高い傾向がある。コーチングも同様に、小粒径のクリンカよりも熱容量が大きいために温度が高い傾向がある。すなわち、温度が周囲よりも高い粒子は、大粒径のクリンカまたはコーチングに由来すると考えられる。このため、温度が周囲よりも高い粒子では、アルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム含有量が多く含まれ、基準値を満たさない。
【0063】
このように、温度差と各成分の含有量との間とに相関があることから、閾値以上のサイズを有する粒子についてクリンカ全体の平均温度との差を取得し、該温度差に基づいて大粒径のクリンカあるいはコーチングに由来するか否かを判断することができる。温度差の閾値は、クリンカに含まれるアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム(f-CaO)含有量の少なくとも1つに基づいて決定されることが好ましい。
【0064】
ステップS5では、摘出手段13が、温度取得手段によって特定された粒子をベルトコンベア5上から外部に摘出する。その後、ステップS1に戻る。
なお、取得した温度差が設定範囲を満たす場合(T<βの場合)、温度取得手段は摘出手段13に指令を送信しない。このため、T<βを満たす粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に戻る。
【0065】
抽出方法としては、第1実施形態で説明した方法と同じとすることができる。また、本実施形態においても、制御部11は位置情報取得手段を更に含み、摘出対象となる粒子の位置情報を取得する位置情報取得工程を含むことが好ましい。
【0066】
〔第3実施形態〕
図4は、本発明の第3実施形態に係るクリンカの製造方法のフロー図であり、特に選別工程を説明するための図である。第3実施形態は、摘出パラメータ取得手段がL値演算手段を含み、L値を摘出パラメータとする例である。ここで、「L値」とは、CIE(国際照明委員会)L表色系のL値(明度)である。
【0067】
ステップS1では、画像取得手段12が、ベルトコンベア5上の粒子の画像を撮影する。撮影される画像は、可視光画像である。可視光画像は公知の手段により撮影される。撮影された画像は、制御部11のサイズ検出手段に送信される。
【0068】
ステップS2では、サイズ検出手段が、第1実施形態と同じ工程で閾値以上のサイズを有する粒子を検出する。サイズ検出手段は、解析した画像など、検出した粒子の情報をL値演算手段に送信する。
【0069】
ステップ21では、L値演算手段が、取得した画像に基づいて閾値以上のサイズを有する粒子について、L値を演算する。
値の演算には、公知の方法を用いることができる。例えば、取得した画像中で該粒子に対応する画素について、RGB値の平均値を算出する。その平均値をグレースケールに変換したときの明度を、粒子のL値とする。
【0070】
値演算手段には予め、L値の設定範囲が格納されている。本実施形態では、L値の設定範囲はL<γである。γはL値の閾値である。
【0071】
値の閾値(γ)は以下の工程で決定される。
まず、採取したクリンカの中から、閾値以上のサイズを有する粒子を抽出する。更に画像解析を行って、各粒子のL値を取得する。そしてL値に基づいて粒子を段階ごとに分別する。
その後、各段階についてアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、フリーライム含有量のうち少なくとも1つを測定する。得られた分析値を基準値と対比させ、分析値が基準値を満たさない場合の下限値が、「L値の閾値(γ)」に設定される。そして、閾値(γ)より大きい範囲が、「L値の設定範囲」に設定される。
【0072】
ステップ22では、L値演算手段が、算出したL値(L)が、設定範囲を満たすか否かを判断する。取得したL値が設定範囲を満たす場合(L<γの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
取得したL値が設定範囲を満たさない場合(L≧γの場合)、制御部11のL値取得手段は、該当する粒子を摘出する指令を摘出手段13に送信する。その後、ステップS5に移行する。
【0073】
大粒径のクリンカは燃焼が不十分であるため、L値が大きくなる。一方、十分に燃焼が進んだクリンカは、L値が小さくなる。すなわち、ロータリーキルンから排出されたクリンカの粒径とL値との間に相関がある。また、コーチングは一般に白色であるため、L値が大きい。コーチングには特に多量の塩素が含まれる。すなわち、L値が大きい粒子は、大粒径のクリンカまたはコーチングに由来すると考えられる。このため、L値が大きい粒子では、アルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム含有量が多く含まれ、基準値を満たさない。
【0074】
このように、L値と各成分の含有量との間とに相関があることから、閾値以上のサイズを有する粒子のL値を取得し、そのL値によって、その粒子が大粒径のクリンカあるいはコーチングに由来するか否かを判断することができる。L値の閾値は、クリンカに含まれるアルカリ含有量、SO含有量、塩素含有量、及び、フリーライム(f-CaO)含有量の少なくとも1つに基づいて決定されることが好ましい。
【0075】
ステップS5では、摘出手段13が、L値取得手段によって特定された粒子をベルトコンベア5上から外部に摘出する。その後、ステップS1に戻る。
なお、取得したL値が設定範囲を満たす場合(L<γの場合)、L値取得手段は摘出手段13に指令を送信しない。このため、L<γを満たす粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に戻る。
【0076】
抽出方法としては、第1実施形態で説明した方法と同じとすることができる。また、本実施形態においても、制御部11は位置情報取得手段を更に含み、摘出対象となる粒子の位置情報を取得する位置情報取得工程を含むことが好ましい。
【0077】
〔第4実施形態〕
図5は、本発明の第4実施形態に係るクリンカの製造方法のフロー図であり、特に選別工程を説明するための図である。第4実施形態は、摘出パラメータ取得手段が円形度演算手段及び温度取得手段を含み、円形度及び温度差を摘出パラメータとする例である。
【0078】
ステップS1では、第2実施形態と同様の方法にて、画像取得手段12が、ベルトコンベア5上の粒子の可視光画像及び温度分布画像を撮影する。画像取得手段12は、撮影した画像をサイズ検出手段及び温度取得手段に送信する。
【0079】
ステップS2では、サイズ検出手段が、第1実施形態と同じ工程で閾値以上のサイズを有する粒子を検出する。サイズ検出手段は、解析した画像など、検出した粒子の情報を円形度演算手段に送信する。
【0080】
第4実施形態では、まず円形度による選別が実行される。ステップS3では、円形度演算手段が、第1実施形態と同様の工程で、閾値以上のサイズを有する粒子の円形度(C)を算出する。
次いで、ステップ4において、円形度演算手段が、算出した円形度(C)が、設定範囲を満たすか否かを判断する。算出された円形度が設定範囲を満たす場合(C≧αの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
算出した円形度が設定範囲を満たさない場合(C<αの場合)、円形度算出手段が、解析した画像など、サイズ検出手段が検出した粒子の情報を温度取得手段に送信する。その後、ステップS11に移行する。
【0081】
ステップS11では、第2実施形態と同様にして、温度取得手段が、温度分布画像とサイズ検出手段で処理された画像とを重ね合わせ、閾値以上のサイズを有する粒子について温度差(T)を取得する。
次いで、ステップS12において、温度取得手段は、取得した温度差(T)が、設定範囲を満たすか否かを判断する。取得した温度差が設定範囲を満たす場合(T<βの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
取得した温度差が設定範囲を満たさない場合(T≧βの場合)、制御部11の温度取得手段は、該当する粒子を摘出する指令を摘出手段13に送信する。その後、ステップS5に移行する。
【0082】
ステップS5において、摘出手段13は、温度取得手段から指令を受けた場合に、温度取得手段によって特定された粒子をベルトコンベア5上から外部に摘出する。その後、ステップS1に戻る。
【0083】
抽出方法としては、第1実施形態で説明した方法と同じとすることができる。また、本実施形態においても、制御部11は位置情報取得手段を更に含み、摘出対象となる粒子の位置情報を取得する位置情報取得工程を含むことが好ましい。
【0084】
抽出パラメータによる判定を行う順番は特に限定されない。第4実施形態の変形例として、まず温度差に基づく判定及び摘出を実施した後、円形度に基づく判定及び摘出を行うフローとすることができる。
【0085】
第4実施形態では、2つの摘出パラメータに基づいて所定の品質を満たさないと予想されるクリンカを検出し摘出しているため、品質管理の精度を高めることが可能である。
【0086】
なお、2つの摘出パラメータの組み合わせは上記に限定されない。摘出パラメータとして、円形度及びL値、温度差及びL値の組み合わせをそれぞれ採用することもできる。また、これらの組み合わせにおいても、上記したように判定を行う順番も限定されない。
【0087】
〔第5実施形態〕
図6は、本発明の第5実施形態に係るクリンカの製造方法のフロー図であり、特に選別工程を説明するための図である。第5実施形態は、摘出パラメータ取得手段が円形度演算手段、温度取得手段及びL値演算手段を含み、円形度、温度差及びL値を摘出パラメータとする例である。
【0088】
ステップS1では、第2実施形態と同様の方法にて、画像取得手段12が、ベルトコンベア5上の粒子の可視光画像及び温度分布画像を撮影する。画像取得手段12は、撮影した画像をサイズ検出手段及び温度取得手段に送信する。
【0089】
ステップS2では、サイズ検出手段が、第1実施形態と同じ工程で閾値以上のサイズを有する粒子を検出する。サイズ検出手段は、解析した画像など、検出した粒子の情報を円形度演算手段に送信する。
【0090】
第5実施形態では、まず円形度による選別が実行される。ステップS3において、円形度演算手段が、第1実施形態と同様の工程で、閾値以上のサイズを有する粒子の円形度(C)を算出する。
次いで、ステップS4において、円形度演算手段は、算出した円形度(C)が、設定範囲を満たすか否かを判断する。算出された円形度が設定範囲を満たす場合(C≧αの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
算出した円形度が設定範囲を満たさない場合(C<αの場合)、制御部11の円形度算出手段が、解析した画像など、サイズ検出手段が検出した粒子の情報を温度取得手段に送信する。その後、ステップS11に移行する。
【0091】
ステップS11では、第2実施形態と同様にして、温度取得手段は、温度分布画像とサイズ検出手段で処理された画像とを重ね合わせ、閾値以上のサイズを有する粒子について温度差(T)を取得する。
次いで、ステップS12において、温度取得手段は、取得した温度差(T)が、設定範囲を満たすか否かを判断する。取得した温度差が設定範囲を満たす場合(T<βの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
取得した温度差が設定範囲を満たさない場合(T≧βの場合)、制御部11の温度取得手段は、温度取得手段は粒子の情報をL値演算手段に送信する。その後、ステップ21に移行する。
【0092】
ステップS21では、第3実施形態と同様にして、L値演算手段は、閾値以上のサイズを有する粒子について、L値を演算する。
次いで、ステップS22において、L値演算手段は、算出したL値(L)が、設定範囲を満たすか否かを判断する。取得したL値が設定範囲を満たす場合(L<γの場合)、粒子は摘出されずにベルトコンベア5を通過する。その後、ステップS1に移行する。
取得したL値が設定範囲を満たさない場合(L≧γの場合)、制御部11のL値取得手段は、該当する粒子を摘出する指令を摘出手段13に送信する。その後、ステップS5に移行する。
【0093】
ステップS5において、摘出手段13は、L値演算手段から指令を受けた場合に、L値演算手段によって特定された粒子をベルトコンベア5上から外部に摘出する。その後、ステップS1に戻る。
【0094】
抽出方法としては、第1実施形態で説明した方法と同じとすることができる。また、本実施形態においても、制御部11は位置情報取得手段を更に含み、摘出対象となる粒子の位置情報を取得する位置情報取得工程を含むことが好ましい。
【0095】
抽出パラメータによる判定を行う順番は特に限定されない。第5実施形態の変形例として、以下の順で判定することができる。
・円形度→L値→温度差
・L値→温度差→円形度
・L値→円形度→温度差
・温度差→円形度→L
・温度差→L値→円形度
【0096】
第5実施形態では、3つの摘出パラメータに基づいて所定の品質を満たさないと予想されるクリンカを検出し摘出しているため、品質管理の精度を更に高めることが可能である。
【実施例
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
<実施例1>
クリンカクーラから排出された後ジョークラッシャ-で粉砕されたクリンカを採取した。採取直後に採取したクリンカを、粒子同士が重ならないように平面上に広げた。この状態で、CCDカメラを用いて可視光画像を撮影した。
【0099】
得られた可視光画像を処理し、画像中の各粒子の面積を取得した。更に、得られた面積から、等価面積径(粒子を真球と見なしたときの半径)を算出した。
得られた等価面積径に基づいて、各粒子を以下の段階に分別した。
(A-1)等価面積径50mm以上
(A-2)等価面積径30mm以上50mm未満
(A-3)等価面積径15mm以上30mm未満
(A-4)等価面積径15mm未満
【0100】
分別された各段階から粒子の一部を抽出し、アルカリ成分、塩素、SO、フリーライムの含有率を、それぞれ以下に従い測定した。表1に結果を示す。
(1)アルカリ成分(RO)、塩化物イオン(Cl)の含有率、SOの含有率
クリンカ中のアルカリ成分、塩素成分の含有率及びSO含有率を、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定した。
(2)フリーライム(f-CaO)の含有率
クリンカ中のフリーライム含有率を、JCAS I-01「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準拠して測定した。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例1では、セメント工場におけるクリンカ製造の管理基準に基づいて、アルカリ成分、塩化物イオン、SO、f-CaOの含有率の基準値を、それぞれ0.65%、0.025%、0.8%、1%とする。各基準値のすべてを満たす段階は、A-3及びA-4である。この結果から、サイズの閾値は、基準値を満たさない成分がある(基準値を超える)段階であるA-2の下限値(30mm)に設定される。
【0103】
次いで、等価面積径が30mm以上の粒子(段階A-1及びA-2)を、粒子同士が重ならないように平面上に広げた。この状態で、CCDカメラを用いて可視光画像を撮影した。
得られた可視光画像を処理し、画像中の各粒子の面積及び周囲長を取得した。面積と周囲長とから、式(1)により各粒子の円形度を算出した。
【0104】
得られた円形度に基づいて、各段階の粒子を更に以下の段階に分別した。
(B-1)円形度0.75以上
(B-2)円形度0.65以上0.57未満
(B-3)円形度0.55以上0.65未満
(B-4)円形度0.55未満
【0105】
分別された各段階から粒子の一部を抽出し、アルカリ成分、塩化物イオン、SO、フリーライムの含有率を、上記(1)~(2)に従い測定した。表2に結果を示す。
【0106】
【表2】
【0107】
上述した各成分の基準値に照らすと、すべての基準値を満たす段階は、B-1及びB-2である。この結果から、円形度の閾値は、基準値を満たさない成分がある段階であるB-3の上限値(0.65)に設定される。すなわち、等価面積径が30mm以上の粒子のうち、円形度が0.65未満の粒子は、要求される品質を満たさない粒子であり、この粒子を全クリンカの中から抽出することにより、得られるクリンカが上述の基準値を超えることを防止することが可能である。
【0108】
<実施例2>
実施例1と同ロットのクリンカを採取した。採取直後に採取したクリンカを、粒子同士が重ならないように平面上に広げた。この状態で、CCDカメラを用いて可視光画像を撮影した。また、サーモグラフィを用いて温度分布画像を撮影した。
【0109】
得られた可視光画像を処理し、画像中の各粒子の面積を取得した。更に、得られた面積から、等価面積径(粒子を真球と見なしたときの半径)を算出した。実施例1の結果に基づき、等価面積径が30mm以上である各粒子について、平均温度と各粒子の温度の差を取得した。なお、平均温度は155℃であった。
得られた温度差に基づいて、等価面積径が30mm以上である粒子を以下の段階に分別した。
(C-1)温度差+100℃以上
(C-2)温度差+50℃以上+100℃未満
(C-3)温度差-50℃以上+50℃未満
(C-4)温度差-50℃未満
【0110】
分別された各段階から粒子の一部を抽出し、アルカリ成分、塩化物イオン、SO、フリーライムの含有率を、上記(1)~(2)に従い測定した。表3に結果を示す。
【0111】
【表3】
【0112】
実施例2では、等価面積径30mm以上の粒子で段階C-4に分類される粒子はなかった。
上述した各成分の基準値に照らすと、すべての基準値を満たす段階は、C-3である。この結果から、温度差の閾値は、基準値を満たさない成分がある段階であるC-2の下限値(+50℃)に設定される。すなわち、等価面積径が30mm以上の粒子のうち、温度差が+50℃以上の粒子は、要求される品質を満たさない粒子である。この粒子を全クリンカの中から抽出することにより、得られるクリンカが上述の基準値を超えることを防止することが可能である。
【0113】
<実施例3>
実施例1と同ロットのクリンカを採取した。採取直後に採取したクリンカを、粒子同士が重ならないように平面上に広げた。この状態で、CCDカメラを用いて可視光画像を撮影した。
【0114】
得られた可視光画像を処理し、画像中の各粒子の面積を取得した。更に、得られた面積から、等価面積径(粒子を真球と見なしたときの半径)を算出した。実施例1の結果に基づき、等価面積径が30mm以上である各粒子について、可視光画像に基づきL値を算出した。
得られたL値に基づいて、等価面積径が30mm以上である粒子を以下の段階に分別した。
(D-1)L値240以上
(D-2)L値200以上240未満
(D-3)L値150以上200未満
(D-4)L値150未満
【0115】
分別された各段階から粒子の一部を抽出し、アルカリ成分、塩化物イオン、SO、フリーライムの含有率を、上記(1)~(2)に従い測定した。表4に結果を示す。
【0116】
【表4】
【0117】
上述した各成分の基準値に照らすと、すべての基準値を満たす段階は、D-3及びD-4である。この結果から、L値の閾値は、基準値を満たさない成分がある段階であるD-2の下限値(200)に設定される。すなわち、等価面積径が30mm以上の粒子のうち、L値が200以上の粒子は、要求される品質を満たさない粒子である。この粒子を全クリンカの中から抽出することにより、得られるクリンカが上述の基準値を超えることを防止することが可能である。
【符号の説明】
【0118】
1 クリンカ製造装置
2 キルン
3 クリンカクーラ
4 クラッシャ
5 ベルトコンベア
6 サイロ
10 品質管理手段
11 制御部
12 画像取得手段
13 摘出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6