(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】ワイヤソーの運転再開方法
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20230214BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20230214BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230214BHJP
B24B 53/00 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B24B27/06 H
B28D5/04 C
H01L21/304 611W
B24B53/00 Z
(21)【出願番号】P 2019223232
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 健司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 三千登
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-519385(JP,A)
【文献】特開2015-112701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
B24B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを、複数の溝付ローラに巻き掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、ワークを相対的に前記ワイヤ列に対して押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーの運転において、
前記ワークの切断を前記ワークの途中で一旦中断した後、前記ワークの切断を再開する場合の運転再開方法であって、
前記砥粒を磨耗させた前記固定砥粒ワイヤを、前記ワークの切断を中断した前記ワークの切り込み位置に配置し、前記ワークの切断を再開する
方法であって、
前記固定砥粒ワイヤの芯線の直径をR、新線である前記固定砥粒ワイヤの直径をR1、前記砥粒を磨耗させた後のワイヤの直径をR2とした時に、前記R2がR≦R2≦R+(R1-R)×0.1 を満たす前記砥粒を摩耗させた前記固定砥粒ワイヤを、前記ワークの切断を中断した前記ワークの切り込み位置に配置し、前記ワークの切断を再開する
ことを特徴とするワイヤソーの運転再開方法。
【請求項2】
前記R2とは異なる、前記固定砥粒ワイヤの前記砥粒を磨耗させた後のワイヤ直径をR3とした時に、R3がR2<R3≦R2+(R1-R)×0.5 を満たす前記砥粒を摩耗させた前記固定砥粒ワイヤを、R2を満たす前記砥粒を摩耗させた前記固定砥粒ワイヤと供給する新線との間の位置に配置し、前記ワークの切断を再開することを特徴とする請求項
1に記載のワイヤソーの運転再開方法。
【請求項3】
前記固定砥粒ワイヤに砥石を相対的に押し当てて、前記砥粒を摩耗させることを特徴とする請求項
1または2に記載のワイヤソーの運転再開方法。
【請求項4】
前記砥石としてWA砥石を用いることを特徴とする請求項
3に記載のワイヤソーの運転再開方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤによるワークの切断に関し、特に、切断の中断時におけるワイヤソーの運転再開方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンインゴットや化合物半導体インゴットなどからウェーハを切り出す手段として、ワイヤソーが知られている。このワイヤソーでは、例えば遊離砥粒方式では、複数のローラの周囲に切断用ワイヤが多数巻き掛けられることにより、ワイヤ列が形成されており、その切断用ワイヤが軸方向に高速駆動され、かつ、スラリが適宜供給されながらワイヤ列に対してワークが切り込み送りされることにより、このワークが各ワイヤの位置で切断され、同時に複数枚のウェーハを切り出すようにしたものである(特許文献1)。
【0003】
ここで、
図2に、一般的なワイヤソーの一例を示す。
図2に示すように、このワイヤソー201は、主に、ワークWを切断するためのワイヤ202(高張力鋼線)、ワイヤ202を巻き掛けた溝
付ローラ103、ワイヤ202の張力を調整する
張力調整機構104、切断されるワークWを下方へ送り出す機構105、切断時にスラリを供給する機構206で構成されている。
【0004】
ワイヤ202は、一方のワイヤリール107から繰り出され、トラバーサ108、プーリー109、張力調整機構104を経て、溝付ローラ103に300~500回程度巻き掛けられた後、もう一方の張力調整機構104’、プーリー109’、トラバーサ108’を経てワイヤリール107’に巻き取られている。
【0005】
また、溝付ローラ103は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に略一定のピッチで溝を切ったローラであり、巻き掛けられたワイヤ202が溝付ローラ駆動モータ110によって、一方向あるいは、予め定められた周期で軸方向に往復駆動できるようになっている。
【0006】
ワイヤリール107、107’はワイヤリール駆動モータ111、111’によって回転駆動され、溝付ローラ駆動モータ110とワイヤリール駆動モータ111、111’の速度をそれぞれ制御することにより、ワイヤ202にかかる張力を調整することができる。
【0007】
また、
図2のワークWを下方へ送り出す機構105は、
図3のように、ワーク保持部112、ワークプレート113から構成されるワーク保持手段114を有しており、ワークプレート113には、ワークWに貼り付けられた接合部材(ビーム)120を介してワークWが接着される。
【0008】
ワークW切断時には、ワークWを下方へ送り出す機構105によってワークWは保持されつつ相対的に押し下げられ、溝付ローラ103に巻き掛けられたワイヤ202からなるワイヤ列に対して送り出される。
【0009】
このようなワイヤソー201を用い、ワイヤ202に張力調整機構104、104’を用いて適当な張力をかけて、ワイヤリール駆動モータ111、111’によりワイヤ202を軸方向に往復走行させながら、スラリを供給する機構206から供給されたスラリを供給し、ワークWを下方へ送り出す機構105でワークを切り込み送りすることでワークを切断する。
【0010】
ところで、ワイヤソーに用いられている鋼線ワイヤは、耐摩耗、耐張力性に富み、また、溝付ローラには、ワイヤの損傷を防ぐため所定硬度の樹脂ローラが使用されているが、ワイヤの経時的な摩耗や、疲労によってワークの切断時にワイヤが断線してしまい、ワークの切断を継続することができない場合がある。
【0011】
このような場合、従来は、ワークの切り込みからワイヤを離脱させる離脱作業を行ってから断線箇所を新線と結線する。その後、結線箇所を回収側のワイヤリール107’まで送ってから、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させ、ワイヤ列を断線時のワーク切り込み位置に配置し、ワークの切断を再開する方法が行われていた。
【0012】
一方、
図1に示すように、砥粒を含むスラリを使用せず、代わりにダイヤモンド砥粒等をワイヤの表面に固着した固定砥粒ワイヤ402を使用して、ワークを切断する方法も知られており、直径150mm程度以下の小直径インゴットの切断には一部で実用化している。
【0013】
この固定砥粒ワイヤ402による切断では、
図2に示した一般的なワイヤソー201における鋼線ワイヤ202の代わりに、
図1に示しているように固定砥粒ワイヤ402を装着している。また、
図2に示した一般的なワイヤソー201において供給するスラリを、
図1に示したワイヤソー101では、砥粒が含まれない冷却水などのクーラントに変えた、クーラントを供給する機構106を含むワイヤソー101を用いている。このように、この固定砥粒ワイヤ402による切断では、一般的なワイヤソーをそのまま使用することができる。
【0014】
固定砥粒ワイヤに関しても断線する場合があり、遊離砥粒ワイヤと同じように、ワークの切り込みからワイヤを離脱させる離脱作業を行い、断線箇所を新線と結線し、結線箇所を回収側のワイヤリール107’まで送り、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させ、ワイヤ列を断線時のワーク切り込み位置に配置し、ワークの切断を再開する方法が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記遊離砥粒を用いたワイヤソーの場合は、
図4(a)に示すように、遊離砥粒Gの幅の分だけワイヤ202とワークWとの間に隙間(クリアランス)ができるため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させ、ワイヤ列を断線時のワーク切り込み位置に配置することは比較的容易であった。しかし、
図4(b)に示すように、上記固定砥粒を用いたワイヤソーの場合、固定砥粒ワイヤ402とワークWとの間には隙間が生じないため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることが困難であるという課題があった。
【0017】
また、ワイヤとワークとの引っ掛かりが大きい場合には、ワイヤ断線に至ることがある。ワイヤ断線が発生した場合には、もう一度ワイヤの結線作業などを行う手間が必要となり、また巻き掛け直す分の固定砥粒ワイヤが余分に必要になるなど損失が大きい。
【0018】
本発明は、前述のような問題を鑑みてなされたもので、固定砥粒ワイヤを用いた、ワイヤソーによるワークの切断において、ワイヤの断線等の異常によって、途中で中断されたワークの切断を再開する場合でも、ワイヤをワークの切断位置に戻すことができ、しかも、切り込み位置へのワイヤの設置時に、ワイヤの断線が発生することがない、ワイヤソーの運転再開方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明は、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを、複数の溝付ローラに巻き掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、ワークを相対的に前記ワイヤ列に対して押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーの運転において、前記ワークの切断を前記ワークの途中で一旦中断した後、前記ワークの切断を再開する場合の運転再開方法であって、前記砥粒を磨耗させた前記固定砥粒ワイヤを、前記ワークの切断を中断した前記ワークの切り込み位置に配置し、前記ワークの切断を再開する、ワイヤソーの運転再開方法を提供する。
【0020】
本発明のワイヤソーの運転再開方法であれば、固定砥粒ワイヤの砥粒を摩耗させることで、ワークとワイヤの間に隙間ができるため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることが容易となり、切り込み位置へのワイヤの設置時に、ワイヤが断線することを抑制できる。
【0021】
また、このとき、前記固定砥粒ワイヤの芯線の直径をR、新線である前記固定砥粒ワイヤの直径をR1、前記砥粒を磨耗させた後のワイヤの直径をR2とした時に、前記R2がR≦R2≦R+(R1-R)×0.1 を満たす前記砥粒を摩耗させた前記固定砥粒ワイヤを、前記ワークの切断を中断した前記ワークの切り込み位置に配置し、前記ワークの切断を再開することが好ましい。
【0022】
このような方法によれば、固定砥粒ワイヤの砥粒を摩耗させることで、ワークとワイヤの間に隙間ができるため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることがより容易となり、ワイヤが断線することをより抑制できる。ワイヤ列を断線時のワーク切り込み位置に配置する時に、ワークと接触して引っ掛かりが発生しなくなり、ワーク切断面にソーマークが生じたり、Warp品質を損なったりすることを抑制できる。
【0023】
また、このとき、前記R2とは異なる、前記固定砥粒ワイヤの前記砥粒を磨耗させた後のワイヤ直径をR3とした時に、R3がR2<R3≦R2+(R1-R)×0.5 を満たす前記砥粒を摩耗させた前記固定砥粒ワイヤを、R2を満たす前記砥粒を摩耗させた前記固定砥粒ワイヤと供給する新線との間の位置に配置し、前記ワークの切断を再開することが好ましい。
【0024】
このような方法によれば、固定砥粒ワイヤの砥粒を摩耗させることで、ワークとワイヤの間に隙間ができるため、切り込み位置へのワイヤの設置時に、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることがより容易となり、ワイヤが断線することをより抑制できる。ワイヤ列を断線時のワーク切り込み位置に配置する時に、ワークと接触して引っ掛かりが発生しなくなり、ワーク切断面にソーマークが生じたり、Warp品質を損なったりすることを抑制できる。そしてさらに、ワイヤ直径の変化が小さくなり、切り込み時にワイヤへの負荷が急激に増大することがなくなるので、切断再開時の断線も防止することができる。
【0025】
また、このとき、前記固定砥粒ワイヤに砥石を相対的に押し当てて、前記砥粒を摩耗させることが好ましい。
【0026】
このような方法によれば、固定砥粒ワイヤ表面の固定砥粒を効果的に除去可能であり、ワイヤをワークの切断位置に戻すことがより容易になる。そのため、運転再開時に再断線が発生しないように、ワイヤ直径を制御することがより容易となり、ワークにワイヤが引っ掛かってソーマークが生じたり、ワークの品質を損なったり、ワイヤの断線が発生したりすることをさらに抑制できる。
【0027】
また、このとき、前記砥石はWA(White Alundum)砥石を用いることが好ましい。
【0028】
このような砥石であれば、固定砥粒ワイヤ表面の固定砥粒を効果的に除去可能であり、ワイヤをワークの切断位置に戻すことがより容易になる。そのため、運転再開時に再断線が発生しないように、ワイヤ直径を制御することがより容易となり、ワークにワイヤが引っ掛かってソーマークが生じたり、ワークの品質を損なったり、ワイヤの断線が発生したりすることをさらに抑制できる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、固定砥粒ワイヤの砥粒を摩耗させることで、ワークとワイヤの間に隙間ができるため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることがより容易となり、切り込み位置へのワイヤの設置時に、ワイヤが断線することをより抑制できる。ワイヤ列を断線時のワーク切り込み位置に配置する時に、ワークと接触して引っ掛かりが発生しなくなり、ワーク切断面にソーマークが生じたり、Warp品質を損なったりすることを抑制できる。そしてさらに、ワイヤ直径の変化が小さくなり、切り込み時にワイヤへの負荷が急激に増大することがなくなるので、切断再開時の断線も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図4】ワークの切断を再開するために、ワークの切り込み位置にワイヤを配置した際の、ワークとワイヤの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
上述のように、固定砥粒を用いたワイヤソーの場合、固定砥粒ワイヤ402とワークWとの間には隙間が生じないため、切り込み位置へのワイヤの設置時に、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることが困難であるため、ワイヤの断線が発生することがなくなるような方法が求められていた。
【0033】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを、複数の溝付ローラに巻き掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、ワークを相対的に前記ワイヤ列に対して押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーの運転において、前記ワークの切断を前記ワークの途中で一旦中断した後、前記ワークの切断を再開する場合の運転再開方法であって、前記砥粒を磨耗させた前記固定砥粒ワイヤを、前記ワークの切断を中断した前記ワークの切り込み位置に配置するワイヤソーの運転再開方法により、切り込み位置へのワイヤの設置時に、ワイヤの断線が発生することを抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0034】
以下、図面を参照して説明する。
【0035】
遊離砥粒方式を用いたワイヤソーの場合は、
図4(a)に示すように、遊離砥粒Gの幅の分だけワイヤ202とワークWとの間に隙間(クリアランス)ができるため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させ、ワイヤ列を断線時のワーク切り込み位置に配置することは比較的容易であった。しかし、上記固定砥粒方式を用いたワイヤソーの場合、
図4(b)に示すように、固定砥粒ワイヤ402とワークWとの間には隙間が生じないため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることが困難である。
【0036】
そこで、本発明者は、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを、複数の溝付ローラに巻き掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、ワークを相対的に前記ワイヤ列に対して押し当てて切り込み送りし、前記ワークをウェーハ状に切断するワイヤソーの運転において、前記ワークの切断を前記ワークの途中で一旦中断した後、前記ワークの切断を再開する場合の運転再開方法であって、前記砥粒を磨耗させた前記固定砥粒ワイヤを、前記ワークの切断を中断した前記ワークの切り込み位置に配置し、前記ワークの切断を再開することを特徴とするワイヤソーの運転再開方法を見出した。
【0037】
本発明のワイヤソーの運転再開方法であれば、固定砥粒ワイヤの砥粒を摩耗させることで、ワークとワイヤの間に隙間ができるため、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させることが容易となり、しかも、切り込み位置へのワイヤの設置時に、ワイヤが断線することを抑制できる。
【0038】
また、本発明者は、固定砥粒ワイヤの芯線の直径をR、新線である固定砥粒ワイヤの直径をR1、砥粒を磨耗させた後のワイヤの直径をR2とした時に、R2がR≦R2≦R+(R1-R)×0.1 を満たす砥粒を摩耗させた固定砥粒ワイヤを、ワークの切断を中断したワークの切り込み位置に配置することで、ワイヤが断線することをさらに抑制できることを発見した。しかも、ワークと接触して引っ掛かりが発生しなくなり、ワーク切断面にソーマークが生じたり、Warp品質を損なったりすることを抑制できる。
【0039】
また、さらに調査を進めていく中で、ワーク切り込み位置に配置するまでに問題はないが、運転再開してすぐに再び断線が発生する場合があることがわかった。
【0040】
断線した箇所を調べると、固定砥粒ワイヤの直径を、R2を満たすように摩耗させた部分と、新線との境付近がワークの中を通るタイミングで断線が発生していることがわかった。このことから、本発明者は、固定砥粒ワイヤを摩耗させた箇所と新線とでワイヤ直径が大きく異なった場合、その段差部の前後でワークへの切り込みが大きくなり、ワイヤへの負荷が急激に増大して断線が発生しているものと推測した。
【0041】
そこで、本発明者は、運転再開時の再断線を防ぐ方法として、R2とは異なる、固定砥粒ワイヤの砥粒を磨耗させた後のワイヤ直径をR3とした時に、R3がR2<R3≦R2+(R1-R)×0.5 を満たす砥粒を摩耗させた固定砥粒ワイヤを、R2を満たす砥粒を摩耗させた固定砥粒ワイヤと供給する新線との間の位置に配置し、ワークの切断を再開するワイヤソーの運転再開方法を見出した。
【0042】
このような方法によれば、ワイヤが走行してワークの中を通る時に、ワイヤ直径はR2⇒R3⇒新線の順で大きくなるため、R2⇒新線の順に係合させる場合よりもワイヤ直径の変化が小さくなり、切り込み時にワイヤへの負荷が急激に増大することなく、ワイヤ断線を防ぐことができる。
【0043】
また、固定砥粒ワイヤを摩耗させるために、固定砥粒ワイヤに砥石を相対的に押し当てることが好ましい。また、砥石はWA(White Alundum)砥石を用いることが好ましい。
【0044】
このような運転再開方法であれば、固定砥粒ワイヤ表面の固定砥粒を効果的に除去可能であり、ワイヤをワークの切断位置に戻すことがより容易にでき、しかも、切り込み位置へのワイヤの設置時や運転再開時の再断線が発生しないように、ワイヤ直径を制御することが容易となる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
図1に示すようなワイヤソーを用いて、表1の共通条件にて円柱状のワークの切断を開始し、途中で切断を中断した。その後、ワイヤをワークの切り込みから離脱させ、ワイヤの未使用部がワークの位置に来るまでワイヤを回収側リールに送った。
【0047】
【0048】
(実施例1)
表2の砥石を用いて、表3の各条件になるようにワイヤを摩耗させてから、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させて、ワイヤ列を切断中断時のワーク切り込み位置に配置することを試みた。
【0049】
【0050】
【0051】
(比較例)
ワイヤを摩耗させることなく、ワイヤ各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させて、ワイヤ列をワークの切断中断時のワーク切り込み位置に配置することを試みた。
【0052】
実施例1と比較例を行った結果、表4に示すように、比較例ではソーマークやワイヤ断線が発生した。実施例1に関しては、いずれの条件でもワイヤ断線は発生せず、「R≦R2≦R+(R1-R)×0.1」を満たしている条件3~5はソーマークもワイヤ断線も発生しなかった。
【0053】
【0054】
(実施例2)
表2の砥石を用いて、表5の各条件になるようにワイヤを摩耗させてから、ワイヤの各列に対してワークの各切り込みを対応させて係合させて、ワイヤ列をワークの切断中断時のワーク切り込み位置に配置し、切断を再開させた。
【0055】
【0056】
実施例2の結果、表6に示すように、「R2<R3≦R2+(R1-R)×0.5」を満たす条件3~5では、運転再開時の断線の発生はなかった。
【0057】
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0059】
101…ワイヤソー(固定砥粒方式)、
103…溝付ローラ、
104、104’…張力調整機構、
105…ワークを下方へ送り出す機構、
106…クーラントを供給する機構、
107、107’…ワイヤリール、
108、108’…トラバーサ、
109、109’…プーリー、
110…溝付ローラ駆動モータ、
111、111’…ワイヤリール駆動モータ、
112…ワーク保持部、
113…ワークプレート、
114…ワーク保持手段、
120…接合部材(ビーム)、
201…ワイヤソー(遊離砥粒方式)、
202…ワイヤ(高張力鋼線)、
206…スラリを供給する機構、
402…固定砥粒ワイヤ、
W…ワーク、
G…砥粒。