(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、その製造方法及び反射型マスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20230214BHJP
G03F 1/58 20120101ALI20230214BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/58
C23C14/06 A
C23C14/06 R
(21)【出願番号】P 2020070677
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】三村 祥平
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】稲月 判臣
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/108470(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/062099(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/077430(WO,A1)
【文献】特開2017-116931(JP,A)
【文献】特開2006-024920(JP,A)
【文献】特開2019-035929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜とを有し、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材となる反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜が、第1層で構成された単層、又は基板側から第1層及び第2層で構成された複数層からなり、
前記第1層が、タンタル及び窒素からなり、
前記第2層が、タンタル、窒素及び酸素からなり、該酸素の含有率が40原子%以下であり、
前記第1層中、タンタルの含有率が55~70原子%、窒素の含有率が30~45原子%であ
り、
前記吸収体膜の厚さ方向中央部が、アモルファス構造又は結晶構造を有し、前記吸収体膜の基板側の結晶性及び基板から離間する側の結晶性の一方又は双方が、前記中央部より高いことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記吸収体膜の表面粗さRMSが0.6nm以下であることを特徴とする請求項
1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記吸収体膜が、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相を含まないことを特徴とする請求項1
又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記多層反射膜と接して、前記吸収体膜とはエッチング特性が異なる保護膜を有することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
更に、前記基板の他の主表面上に形成された導電膜を有することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記基板の前記一の主表面のサイズが152mm角であり、前記一の主表面の中央部142mm角内において、前記吸収体膜を成膜する前後のそり(TIR)の変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.4μm以下であることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクを製造する方法であって、前記吸収体膜を、Taターゲットを用い、スパッタガスとして、希ガスと、反応性ガスとして窒素ガス(N
2)とを用いた反応性スパッタリングにより、マグネトロンスパッタで形成する工程を含むことを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクから製造したことを特徴とする反射型マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIなどの半導体デバイスの製造などに使用される反射型マスクの素材となる反射型マスクブランク、その製造方法及び反射型マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が用いられる。現時点では露光光の波長はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流となっている。
【0003】
しかし、更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より更に波長の短い極端紫外(Extreme Ultraviolet:以下「EUV」と称す。)光を用いたEUVリソグラフィ技術が有望視されている。EUV光とは、波長が0.2~100nm程度の光であり、より具体的には、波長が13.5nm程度の光である。このEUV光は物質に対する透過性が極めて低く、従来の透過型の投影光学系やマスクが使えないことから、反射型の光学素子が用いられる。そのため、パターン転写用のマスクも反射型マスクが提案されている。反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜の上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものが一般的に用いられ、多層反射膜上の吸収体膜の有無により生じる、露光光であるEUV光の反射率の差によって、シリコンウェーハなどの被転写物上に、パターンを形成する。
【0004】
反射型マスクは、反射型マスクブランクを用いて製造されるが、反射型マスクブランクは、基板上に、露光光を反射する多層反射膜と、その上に露光光に対して反射率の低い吸収体膜を有し、更に、一般的には、多層反射膜と吸収体膜の間に保護膜を有する。多層反射膜は、屈折率の異なる層を交互に積層することで形成され、例えば、EUV光露光用には、モリブデン(Mo)層と、シリコン(Si)層とを交互に積層したものが用いられ、吸収体膜には、例えば、EUV光露光用には、タンタル(Ta)に窒素(N)を添加した膜が用いられている(特開2002-246299号公報(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射型マスクを用いて、微細パターンを半導体基板などに、高精度に転写するためには、吸収体膜は、部分的に除去してパターンを形成するため、吸収体膜のパターンを形成した後に、膜の応力が解放されて生じる、基板の表面形状(例えば、そり)の変化を小さくする必要があり、そのためには、基板上に形成されたパターン形成前の吸収体膜の膜応力による基板の変形量を少なくする必要がある。また、吸収体膜のパターンをドライエッチングで形成する際、エッチング速度が高いことが好ましい。エッチング速度が低いと、パターンを形成するためにレジストを厚く形成する必要があり、ハードマスク膜を用いるにしても、吸収体膜をエッチングするときに、ハードマスク膜もエッチングされることがあるため、高精度のパターンを形成するためには、エッチング速度が高い方が好ましい。また、レジスト膜などのエッチングマスクのエッチング量が多くなると、断面形状が悪化する傾向にあるため、良好な断面形状でパターンを形成するためにもエッチング速度が高いことが重要である。更には、表面粗さは、大きくなると欠陥検出感度が悪くなるため、吸収体膜の表面粗さは、より平滑にする必要があるだけでなく、表面が粗い膜は、大気中などから酸素が侵入しやすい場合があり、その結果、エッチング速度が遅くなる場合があるため、より平滑な膜にする必要がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、加工性に優れた吸収体膜によりパターンの解像性を向上させた反射型マスクブランク及びその製造方法、並びに反射型マスクブランクを用いて製造した反射型マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、EUV用反射型マスクブランクにおいて、吸収体膜を、タンタル及び窒素からなる第1層で構成された単層、又は基板側からタンタル及び窒素からなる第1層と、タンタル、窒素及び酸素からなり、該酸素の含有率が40原子%以下である第2層で構成された複数層とすること、更に、第1層中、タンタルの含有率を55~70原子%、窒素の含有率を30~45原子%となるように吸収体膜を構成することにより、吸収体膜の膜応力が小さく、エッチング速度が高くなることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、以下の反射型マスクブランク、その製造方法及び反射型マスクを提供する。
1.基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜とを有し、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスクの素材となる反射型マスクブランクであって、
前記吸収体膜が、第1層で構成された単層、又は基板側から第1層及び第2層で構成された複数層からなり、
前記第1層が、タンタル及び窒素からなり、
前記第2層が、タンタル、窒素及び酸素からなり、該酸素の含有率が40原子%以下であり、
前記第1層中、タンタルの含有率が55~70原子%、窒素の含有率が30~45原子%であり、
前記吸収体膜の厚さ方向中央部が、アモルファス構造又は結晶構造を有し、前記吸収体膜の基板側の結晶性及び基板から離間する側の結晶性の一方又は双方が、前記中央部より高いことを特徴とする反射型マスクブランク。
2.前記吸収体膜の表面粗さRMSが0.6nm以下であることを特徴とする1に記載の反射型マスクブランク。
3.前記吸収体膜が、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相を含まないことを特徴とする1又は2に記載の反射型マスクブランク。
4.前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、前記多層反射膜と接して、前記吸収体膜とはエッチング特性が異なる保護膜を有することを特徴とする1乃至3のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
5.更に、前記基板の他の主表面上に形成された導電膜を有することを特徴とする1乃至4のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
6.前記基板の前記一の主表面のサイズが152mm角であり、前記一の主表面の中央部142mm角内において、前記吸収体膜を成膜する前後のそり(TIR)の変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.4μm以下であることを特徴とする1乃至5のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
7.1乃至6のいずれかに記載の反射型マスクブランクを製造する方法であって、前記吸収体膜を、Taターゲットを用い、スパッタガスとして、希ガスと、反応性ガスとして窒素ガス(N2)とを用いた反応性スパッタリングにより、マグネトロンスパッタで形成する工程を含むことを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法。
8.1乃至6のいずれかに記載の反射型マスクブランクから製造したことを特徴とする反射型マスク。
【発明の効果】
【0010】
本発明の反射型マスクブランクによれば、吸収体膜のパターンを形成によって、膜の応力が解放されて生じる、基板の表面形状(例えば、そり)の変化を小さくすることができ、かつ吸収体膜のドライエッチングにおけるエッチングレートが一定以上で確保される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】反射型マスクブランクの一例を示す断面図である。
【
図2】反射型マスクブランクの他の例を示す断面図である。
【
図3】反射型マスクブランクの別の例を示す断面図である。
【
図4】(A)~(D)は、各々、実験例1~4で得られたTaN系膜の断面の電子線回折像であり、上段から、膜の上部、中部及び下部の電子線回折像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の反射型マスクブランクは、基板と、基板上(一の主表面(表側の面)上)に形成された露光光を反射する多層反射膜、具体的には、極端紫外(EUV)光などの露光光を反射する多層反射膜と、多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜、具体的には、EUV光などの露光光を吸収し、反射率を低下させる吸収体膜とを有する。EUV光を露光光とする反射型マスクブランク(EUV用反射型マスクブランク)からは、吸収体膜をパターニングして形成される吸収体パターン(吸収体膜のパターン)を有する反射型マスク(EUV用反射型マスク)が製造される。EUV光を露光光とするEUVリソグラフィに用いられるEUV光の波長は13~14nmであり、通常、波長が13.5nm程度の光である。
【0013】
多層反射膜は、通常、基板の一の主表面に接して設けられることが好ましいが、本発明の効果を失わなければ、基板と多層反射膜との間に下地膜を設けることも可能である。吸収体膜は多層反射膜に接して形成してもよいが、多層反射膜と吸収体膜との間には、好ましくは多層反射膜と接して、より好ましくは多層反射膜及び吸収体膜と接して、吸収体膜とはエッチング特性が異なる保護膜(多層反射膜の保護膜)を設けてもよい。保護膜は、洗浄、修正等の加工などにおいて、多層反射膜を保護するためなどに用いられる。また、保護膜には、吸収体膜をエッチングによりパターニングするときの多層反射膜の保護や、多層反射膜の酸化を防止する機能を有するものが好ましい。更に、吸収体膜の基板から離間する側には、好ましくは吸収体膜と接して、吸収体膜とはエッチング特性が異なるハードマスク膜(吸収体膜のエッチングマスク膜)を設けてもよい。一方、基板の一の主表面と反対側の面である他の主表面(裏側の面)下、好ましくは他の主表面に接して、反射型マスクを露光装置に静電チャックするために用いる導電膜を設けてもよい。なお、ここでは、基板の一の主表面を表側の面かつ上側、他の主表面を裏側の面かつ下側としているが、両者の表裏及び上下は便宜上定めたものであり、一の主表面と他の主表面とは、基板における2つの主表面(膜形成面)のいずれかであり、表裏及び上下は置換可能である。
【0014】
図1~3に、本発明の反射型マスクブランクの典型的な例を示す。
図1は、本発明の反射型マスクブランクの一例を示す断面図であり、この反射型マスクブランク100は、基板101の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜102と、多層反射膜102に接して形成された吸収体膜103とを備える。
図2は、本発明の反射型マスクブランクの他の例を示す断面図であり、この反射型マスクブランク200は、基板101の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜102と、多層反射膜102に接して形成された保護膜104と、保護膜104に接して形成された吸収体膜103とを備える。
図3は、本発明の反射型マスクブランクの別の例を示す断面図であり、この反射型マスクブランク300は、基板101の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜102と、多層反射膜102に接して形成された保護膜104と、保護膜104に接して形成された吸収体膜103と、基板101の他の主表面上に、他の主表面に接して形成された導電膜105とを備える。
【0015】
基板は、例えば、いわゆる6025基板(6インチ×6インチ×厚さ0.25インチ(SI単位では、通常、152mm×152mm×厚さ6.35mmと表記))を用いることができる。基板は、露光時における熱膨張によるパターンのゆがみを低減する必要があり、基板の熱膨張率は、絶対値として30ppb/℃以下、特に10ppb/℃以下であることが好ましい。このような材料としては、チタニアドープ石英ガラス(SiO2-TiO2系ガラス)などが挙げられる。
【0016】
基板は、多層反射膜中の欠陥の検出や、吸収体パターンの形成や吸収体膜中の欠陥の検出などにおいて、高い位置精度を得る観点からより平坦であることが好ましく、多層反射膜を形成する側の主表面において、露光パターン形成エリア、例えば、6025基板であれば、主表面の中央部、例えば132mm×132mmの範囲で、平坦度(平面度)が0.1μm以下、特に0.05μm以下であることが好ましい。また、基板は、多層反射膜を形成する側の主表面において、高い反射率を得るためには、表面粗さが小さいことが好ましく、表面粗さRMS(二乗平方根粗さ)が、0.15nm以下、特に0.1nm以下であることが好ましい。本発明において、表面粗さRMSは、原子間力顕微鏡(AFM)で、例えば1μm角の範囲で測定した値を用いることができる。
【0017】
一方、多層反射膜を形成する側の主表面とは反対側の主表面は、通常、反射型マスクを露光装置にセットするときに吸着される面となるため、十分なパターン位置精度を得るためには、基板のこの面も平坦であることが好ましく、平坦度(平面度)は1μm以下であることが好ましい。
【0018】
多層反射膜は、反射型マスクにおいてEUV光などの露光光を反射する膜であり、互いに光学特性が異なる複数種の層、例えば、互いに光学特性が異なる2種の層(A層及びB層)を交互に積層したもの、より具体的には、屈折率の異なる複数種の層、例えば、高屈折率層と低屈折率層とを、周期的に積層したものが用いられる。EUV光に対しては、高屈折率層の材料としては、ケイ素(Si)が用いられ、低屈折率層の材料としては、モリブデン(Mo)が用いられ、ケイ素(Si)層とモリブデン(Mo)層とが交互に積層したSi/Mo積層膜が挙げられる。複数種の層の積層は、例えば2周期以上(各々2層以上)、特に40周期以上(各々40層以上)で、好ましくは60周期以下(各々60層以下)であることが好ましい。この周期が少ないと、反射率が低くなるおそれがあり、周期が多いと膜が厚くなり、膜応力が大きくなるおそれがある。Si/Mo積層膜の場合、ケイ素(Si)層及びモリブデン(Mo)層は、各々、ケイ素単体及びモリブデン単体で形成されていることが好ましいが、各々、ケイ素化合物及びモリブデン化合物で形成されていてもよい。
【0019】
Si/Mo積層膜の場合、多層反射膜の基板に最も近い側の層を、Si層としても、Mo層としてもよい。また、基板から最も離間する側の層も、Si層としても、Mo層としてもよいが、Si層とすることが好ましい。多層反射膜の高屈折率層及び低屈折率層の厚さは、露光波長により適宜設定される。例えば、露光光がEUV光(露光波長が13~14nm)の場合は、高屈折率層及び低屈折率層とで構成される1周期分の厚さを6~8nmとし、1周期分の厚さのうち、高屈折率層の厚さを10~90%とすることが好ましい。また、多層反射膜中、高屈折率層及び低屈折率層の各々の厚さは、一定であっても、個々の層において異なっていてもよい。多層反射膜全体の膜厚は、通常240~320nm程度である。
【0020】
多層反射膜の反射率は、多層反射膜の組成や層構成にもよるが、例えば、極端紫外線(EUV)に対する入射角6°での反射率が、60%以上、特に65%以上であることが好ましい。
【0021】
多層反射膜の成膜方法としては、ターゲットに電力を供給し、供給した電力で雰囲気ガスをプラズマ化(イオン化)して、スパッタリングを行うスパッタ法や、イオンビームをターゲットに照射するイオンビームスパッタ法がある。スパッタ法としては、ターゲットに直流電圧を印加するDCスパッタ法、ターゲットに高周波電圧を印加するRFスパッタ法がある。
【0022】
スパッタ法とはArガスなどのガスをチャンバーに導入した状態でターゲットに電圧を印加し、ガスをイオン化し、ガスイオンによるスパッタリング現象を利用した成膜方法で、特にマグネトロンスパッタ法は生産性において有利である。マグネトロンスパッタ法とは、ターゲットの裏側などに磁石を配置し、磁場でターゲット直上のプラズマ密度を上げるスパッタ法であり、マグネトロンスパッタを適用すると、放電時のガス圧力(スパッタ圧力)が低くてもプラズマを維持でき、また、成膜速度が高くなるため好ましい。ターゲットに印加する電力はDCでもRFでもよく、またDCには、ターゲットのチャージアップを防ぐために、ターゲットに印加する負バイアスを短時間反転するパルススパッタリングも含まれる。
【0023】
スパッタ法による多層反射膜の成膜は、例えば、複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いて成膜することができ、具体的には、A層を構成する金属又は半金属のターゲット(例えば、Siターゲット)と、B層を構成する金属又は半金属のターゲット(例えば、Moターゲット)とを用い、スパッタガスとして、Arガス、Krガスなどの希ガスを用いて、ターゲットと基板の主表面とを対向させて、A層を構成する金属又は半金属のターゲットと、B層を構成する金属又は半金属のターゲットとを交互にスパッタリングすることにより、A層及びB層を交互に形成して、成膜することができる。スパッタリングは、基板を主表面に沿って自転させながら実施することが好ましい。
【0024】
Si/Mo積層膜では、ケイ素(Si)層及びモリブデン(Mo)層を、各々、ケイ素化合物及びモリブデン化合物で形成する場合は、スパッタガスとして、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスとを用いた反応性スパッタリングにより成膜することができる。また、ターゲットを、ケイ素化合物やモリブデン化合物としてもよい。
【0025】
吸収体膜は、多層反射膜の上に形成され、露光光を吸収して、露光光の反射率を低減する膜であり、反射型マスクにおいては、吸収体膜が形成されている部分と、吸収体膜が形成されていない部分との反射率の差によって、転写パターンを形成する。本発明の吸収体膜は、単層で構成しても、複数層で構成してもよく、単層の場合は第1層、複数層の場合は基板側から第1層及び第2層で構成される。第1層は、タンタル及び窒素からなり、第1層中、タンタルの含有率を55原子%以上で、70原子%以下、特に65原子%以下、窒素の含有率を30原子%以上、特に35原子%以上で、45原子%以下とする。窒素の含有率が45原子%を超える(即ち、タンタルの含有率が55原子%未満の)場合、膜応力が急激に大きくなる。また、タンタルの含有率(原子%)の最大値と最小値との差を10以下とすることが好ましい。
【0026】
一方、第2層としては、自然酸化により形成される表面酸化層を第2層とすることができる。第2層は、タンタル、窒素及び酸素からなり、酸素の含有率が40原子%以下、好ましくは30原子%以下、より好ましくは28原子%以下である。第2層の厚さは、5nm以下であることが好ましく、より好ましくは3mn以下、更に好ましくは2nm以下である。この場合、酸素含有率の残部がタンタル及び窒素の合計の含有率であり、タンタル及び窒素の合計に対して、タンタルの含有率が55原子%以上で、70原子%以下、特に65原子%以下、窒素の含有率が30原子%以上、特に35原子%以上で、45原子%以下であることが好ましい。第1層において、更には、第2層において、タンタルの含有率及び窒素の含有率を上記範囲とすることにより、吸収体膜の膜応力が小さくなり、また、エッチング速度が高くなり、更に、第2層が存在しても(表面酸化層が存在しても)、エッチング速度が低くならないため、断面形状が悪化し難くなる。
【0027】
吸収体膜をこのような構成とすることで、多層反射膜、保護膜などの吸収体膜の下方に形成されている膜、更には、吸収体膜の上方に形成され得るハードマスク膜などの膜とのエッチング選択比を確保した上で、厚さ方向に一様なエッチングレートを有する膜となり、ドライエッチングにより、良好なパターン形状を得ることができる。なお、ここで用いるドライエッチングは、通常、フッ素系のガスを用いたドライエッチングが適用され、特に、実質的に酸素を含まないフッ素系のガスを用いたドライエッチングが好適である。このようなフッ素系ガスとしてはCF4、SF6などが挙げられる。第1層の窒素の含有率が30原子%より低い場合には、ドライエッチングにおけるエッチングレートが低下し、吸収体膜の上方又は下方に形成される膜との選択比が低下するおそれがある。また、自然酸化により形成される表面酸化層の酸素含有率が高くなる傾向がある。
【0028】
本発明において、吸収体膜は、厚さ方向中央部が、アモルファス構造、又は結晶構造(好ましくは、微結晶構造)を有していることが好ましい。また、吸収体膜の基板側の結晶構造が、吸収体膜の厚さ方向中央部の結晶構造と異なること、特に、吸収体膜の基板側の結晶性が、吸収体膜の厚さ方向中央部より高いことが好ましく、吸収体膜の基板から離間する側の結晶構造が、吸収体膜の厚さ方向中央部の結晶構造と異なること、特に、吸収体膜の基板から離間する側の結晶性が、吸収体膜の厚さ方向中央部より高いことが好ましい。
【0029】
吸収体膜における結晶構造及び結晶性は、具体的には、吸収体膜の断面に対して電子線を入射させることにより得られる電子線回折像により観察することができ、電子線回折像により、吸収体膜の断面の吸収体膜の厚さ方向の各位置における結晶粒の傾向の違いを確認することによって、評価することができる。
【0030】
吸収体膜が、単層からなる場合、第1層が、3つの副層で構成されていてもよい。その場合、第1層の厚さ方向中央部の副層が、アモルファス構造、又は結晶構造(好ましくは、微結晶構造)を有していることが好ましい。また、第1層の基板側の副層の結晶構造が、第1層の厚さ方向中央部の副層の結晶構造と異なること、特に、第1層の基板側の副層の結晶性が、第1層の厚さ方向中央部の副層より高いことが好ましく、また、第1層の基板から離間する側の副層の結晶構造が、第1層の厚さ方向中央部の副層の結晶構造と異なること、特に、第1層の基板から離間する側の副層の結晶性が、第1層の厚さ方向中央部の副層より高いことが好ましい。
【0031】
吸収体膜が、複数層からなる場合、第1層が、2つ又は3つの副層で構成されていてもよい。第1層が、2つの副層で構成されている場合、第1層の基板から離間する側の副層が、アモルファス構造、又は結晶構造(好ましくは、微結晶構造)を有していることが好ましい。また、第1層の基板側の副層の結晶構造が、第1層の基板から離間する側の副層の結晶構造と異なること、特に、第1層の基板側の副層の結晶性が、第1層の基板から離間する側の副層より高いことが好ましく、また、第2層の結晶構造が、第1層の基板から離間する側の副層の結晶構造と異なること、特に、第2層の結晶性が、第1層の基板から離間する側の副層より高いことが好ましい。
【0032】
一方、吸収体膜が、複数層からなり、第1層が、3つの副層で構成されている場合、第1層の厚さ方向中央部の副層が、アモルファス構造、又は結晶構造(好ましくは、微結晶構造)を有していることが好ましい。また、第1層の基板側の副層の結晶構造が、第1層の厚さ方向中央部の副層の結晶構造と異なること、特に、第1層の基板側の副層の結晶性が、第1層の厚さ方向中央部の副層より高いことが好ましく、また、第1層の基板から離間する側の副層及び第2層の結晶構造が、第1層の厚さ方向中央部の副層の結晶構造と異なること、特に、第1層の基板から離間する側の副層及び第2層の結晶性が、第1層の厚さ方向中央部の副層より高いことが好ましい。
【0033】
吸収体膜の基板側又は基板から離間する側の結晶構造(結晶性)を、吸収体膜の厚さ方向中央部と異ならしめることにより、このような構造を有する吸収体膜では、基板から離間する側(特に、最表面部)の自然酸化による表面酸化層の形成が抑制される。
【0034】
吸収体膜の膜厚は、30nm以上、特に40nm以上であることが好ましく、また、100nm以下、特に80nm以下であることが好ましい。また、吸収体膜の表面粗さRMSは0.6nm以下、特に0.5nm以下であることが好ましい。吸収体膜中、特に、吸収体膜の厚さ方向中央部には、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相が、実質的に含まれていないことが好ましい。これらの結晶相を含む吸収体膜では、膜応力が大きくなったり、表面粗さが大きくなったりする場合があり、吸収体膜をこれらの結晶相を含まないようにすることで、膜応力が小さく、また、表面粗さが小さい吸収体膜とすることができる。また、これらの結晶相を含む吸収体膜では、パターンのエッジ部の形状が乱れる可能性、また、欠陥検査時に異物の検出感度が落ちる可能性がある。一方、吸収体膜の基板から離間する側は、立方晶のTaN結晶相が含まれ、結晶性が高い状態にあると、表面酸化層の形成を抑制することができるため、吸収体膜の基板から離間する側には、立方晶のTaN結晶相が含まれていてもよい。ここで、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、X線回折(XRD)により確認することができ、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相の各結晶相が実質的に含まれないとは、これらの結晶相に同定されるピークが検出されない状態をいう。
【0035】
吸収体膜は、多層反射膜又は保護膜上に吸収体膜を成膜する前後の差として、基板が6025基板(主表面のサイズが152mm角)である場合、基板表面中央部の142mm角内のそりの変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.4μm以下、特に0.3μm以下であることが好ましい。そりの変化量が少ないものとすれば、吸収体膜をパターン形成して反射型マスクを製造した際の、パターン位置のずれが少ない吸収体膜を有する反射型マスクブランクとなる。また、成膜直後の状態でそりの変化量(ΔTIR)が少ない吸収体膜であれば、その後の処理(例えば、熱処理)などで、そりの変化量(ΔTIR)を更に少なくすることも可能である。
【0036】
ここで、基板表面中央部の142mm角内は、152mm角の基板の吸収体膜が形成される表面(一の主表面)の周縁から5mmより内側の範囲として設定される。この範囲は、反射型マスクにおいて、反射型マスクを用いた露光に用いられるフォトマスクパターンが形成される領域である。吸収体膜が成膜される前(具体的には、多層反射膜又は多層反射膜及び保護膜が形成された後)の基板のそりと、吸収体膜が成膜された後の基板のそりは、フラットネス測定器で表面の形状を測定した際のTIR(Total Indicator Reading)で規定される平坦度が適用される。TIRの変化量としてのΔTIRは、基板の表面形状を測定した際の基板の中心の高さを、高さ方向の原点とし、同一基板で、基板上に膜が存在する場合と存在しない場合との間の基板平面内各座標における変化量の最大値又は最小値との差と定義される。このそり及びその変化量は、フラットネステスタ(例えば、CORNING社製、Tropel Ultra Flat 200Maskなど)の市販の測定装置により測定し、算出することができる。
【0037】
吸収体膜は、位相シフト機能を有するものであってもよい。吸収体膜の反射率は、位相シフト機能を有するものでない場合は、露光光、特にEUV光に対して、10%以下、特に5%以下、とりわけ2%以下であることが好ましい。一方、位相シフト機能を有する吸収体膜の場合、露光光に対する反射率は、位相シフト機能を有していない吸収体膜より、反射率が高くてもよく、この場合、露光光、特にEUV光に対して、50%以下、特に30%以下であることが好ましく、更に、位相シフト機能を有していない吸収体膜と同様、10%以下、特に5%以下であることが好ましい。位相シフト機能を有する吸収体膜の位相差(位相シフト量)は、吸収体膜が形成されている領域から反射した光と、吸収体膜が形成されていない領域から反射した光との間の位相差として、150°以上、特に170°以上で、210°以下、特に190°以下であることが好ましく、より好ましくは略180°である。位相シフト効果を利用することで、解像度を上げることができる。
【0038】
吸収体膜の基板から離間する側には、吸収体膜の検査において使用される検査光に対して反射率を低減する機能を有する反射率低減膜を形成してもよい。このようにすることで、パターン検査のときの検査感度を上げることができる。また、露光光に対する照射耐性を向上させるための層を、吸収体膜の基板から離間する側の最表層として設けてもよい。
【0039】
吸収体膜を形成する方法としては、スパッタリング法が好ましく、スパッタリングとしては、マグネトロンスパッタが好適である。具体的には、実質的に不純物を含まないTaターゲットを用い、スパッタガスとして、Arガス、Krガスなどの希ガスと、反応性ガスとして窒素ガス(N2)とをスパッタチャンバーに導入して、ターゲットをスパッタさせる反応性スパッタリングで成膜することが好ましい。スパッタチャンバー内の圧力(スパッタ圧力)は、0.15Pa以上で、0.4Pa未満、特に0.3Pa以下であることが好ましい。なお、形成される吸収体膜の組成が同じであっても、スパッタ圧力を変更することでも、表面粗さや結晶構造(結晶性)が異なる吸収体膜を形成することが可能である。スパッタ圧が高いと、結晶性の高い膜が形成され難くなるが、高すぎると、表面粗さが大きくなるだけでなく、大気中などから酸素が侵入しやすい膜になる傾向がある。
【0040】
スパッタリングでは、例えば、単層で構成された吸収体膜又は複数層で構成された吸収体膜の第1層を成膜する前に、予め、その成膜時よりスパッタガス中の窒素ガスの割合(vol%)を高くしてスパッタ(プリスパッタ)し、その後、単層で構成された吸収体膜又は複数層で構成された吸収体膜の第1層を成膜することで、単層で構成された吸収体膜又は複数層で構成された吸収体膜の第1層において、成膜開始直後に形成される部分、即ち、吸収体膜の基板側の結晶性を、吸収体膜の厚さ方向中央部より高くすることができる。また、例えば、吸収体膜の成膜の終了直前において、ターゲットに印加する電力及び/又はスパッタガスの流量を変化させることにより、成膜終了直前に形成される部分、即ち、吸収体膜の基板から離間する側の結晶性を、吸収体膜の厚さ方向中央部より高くすることができる。複数層で構成された吸収体膜では、スパッタリングで成膜された膜の基板から離間する側の最表面部を、自然酸化により形成された表面酸化層として第2層とすることができるが、この場合も、吸収体膜の成膜の終了直前において、ターゲットに印加する電力及び/又はスパッタガスの流量を変化させることにより、成膜終了直前に形成される部分、即ち、吸収体膜の基板から離間する側の結晶性を、吸収体膜の厚さ方向中央部より高くすることができ、その後、自然酸化による表面酸化層を第2層として形成することができる。特に、マグネトロンスパッタの場合は、スパッタガスの導入量や排気量を調整して、チャンバー内圧力(スパッタ圧力)を変化させることでも、吸収体膜の結晶構造(結晶性)や、平滑性などを制御することが可能である。
【0041】
保護膜の材料としては、ルテニウム(Ru)を含む材料が挙げられる。ルテニウム(Ru)を含む材料として具体的には、ルテニウム(Ru)単体、ルテニウム(Ru)に、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)などの金属を含有するルテニウム合金などが挙げられる。ルテニウム合金に含まれるルテニウムの含有率は50原子%以上100原子%未満であることが好ましい。保護膜の膜厚は、1nm以上であることが好ましく、10nm以下、特に5nm以下であることが好ましい。保護膜は、例えば、イオンビームスパッタ法やマグネトロンスパッタ法により成膜することができる。
【0042】
導電膜は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、材質や膜厚に特に制限はない。導電膜の材料としては、例えば、クロム(Cr)又はタンタル(Ta)を含有する材料が挙げられる。また、クロム(Cr)又はタンタル(Ta)を含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。クロムを含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム化合物が挙げられる。タンタル(Ta)を含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル化合物が挙げられる。
【0043】
導電膜の膜厚は、静電チャック用として機能すればよく、特に制限はないが、通常5~50nm程度である。導電膜の膜厚は、反射型マスクとして形成、即ち、吸収体パターンを形成した後に、多層反射膜及び吸収体パターンと、膜応力がバランスするように形成することが好ましい。導電膜は、多層反射膜を形成する前に形成しても、基板の多層反射膜側の全ての膜を形成した後に形成してもよく、また、基板の多層反射膜側の一部の膜を形成した後、導電膜を形成し、その後、基板の多層反射膜側の残部の膜を形成してもよい。導電膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により成膜することができる。
【0044】
吸収体膜の上には、吸収体膜とエッチング特性が異なり、吸収体膜をパターニングする際のエッチングにおいてエッチングマスクとして機能するハードマスク膜を設けてもよい。このハードマスク膜は、吸収体パターンを形成した後には、例えば反射率低減層として残して吸収体膜の一部としても、取り除いて反射型マスク上には残存させないようにしてもよい。ハードマスク膜の材料としては、クロム(Cr)を含む材料が挙げられる。吸収体膜の上に上述した反射率低減膜を形成するとき、ハードマスク膜は、反射率低減層の上に形成することができる。ハードマスク膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により成膜することができる。ハードマスク膜の膜厚は、特に制限はないが、通常5~20nm程度である。
【0045】
更に、反射型マスクブランクは、基板から最も離間する側に、吸収体膜、ハードマスク膜などのパターニングに用いるフォトレジスト膜などのレジスト膜が形成されたものであってもよい。フォトレジスト膜は、電子線(EB)レジストが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実験例に制限されるものではない。
【0047】
[実験例1]
152mm角、6.35mm厚の石英ガラス基板の主表面上に、反射型マスクブランクの吸収体膜に相当するTaN系膜を、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。まず、基板への成膜前に、チャンバー内にArガス(30vol%)とN2ガス(70vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.07Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、プリスパッタを行った。次に、チャンバー内に石英ガラス基板を設置し、Arガス(33vol%)とN2ガス(67vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.16Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、膜厚40nmのTaN系膜を成膜した。
【0048】
得られたTaN系膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、X線光電子分光(XPS)装置(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製、K-Alpha)にて測定したところ、Ta及びNの合計に対して、Taは57原子%、窒素は43原子%であった。一方、大気に暴露されて自然酸化により形成された表面酸化層の酸素含有率は、Ta、N及びOの合計に対して、25原子%であり、表面酸化層の厚さは2nm以下であった。
【0049】
得られたTaN系膜の表面粗さ(RMS)を、原子間力顕微鏡(AFM)装置(Pacific Nanotechnology社製、NANO-IM-8)にて測定したところ、0.54nmであった。また、得られたTaN系膜について、収束イオンビーム(FIB)装置(FEI社製、HeliosG4CX)にて、基板の一部とTaN系膜の全体とを含む厚さ70nm程度の断面を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)装置(日本電子(株)製、ARM200F)にて、ビーム径を5nm程度に絞って断面に照射し、膜の厚さ方向の上部(基板から離間する側)、中部(中央部)及び下部(基板側)の結晶構造(結晶性)を、電子線回折(ED)で評価したところ、下部の結晶性が中部と比べて高くなっていることが確認された。この電子線回折像を、
図4(A)に示す。
図4(A)において、上段が膜の上部、中段が膜の中部、下段が膜の下部の電子線回折像である。また、得られたTaN系膜について、X線回折(XRD)装置((株)リガク製、SmartLab)にて、回折ピークを得、TaN系膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、いずれも検出されなかった。
【0050】
更に、得られたTaN系膜に対し、誘導結合プラズマ(ICP)エッチング装置(Plasma-Therm社製、Unaxis G4)にて、以下の条件でドライエッチングし、エッチングレートを測定したところ、膜厚全体の平均で0.64nm/secであった。
【0051】
<ドライエッチング条件>
圧力:5mTorr(0.67Pa)
温度:25℃
RF1(バイアス):印加電力=54W、周波数=13.56MHz
RF2(ソース):印加電力=325W、周波数=13.56MHz
SF6ガス流量:5sccm
Heガス流量:150sccm
終点検出:窒素の発光分光分析(Optical Emission Spectroscopy)により検出
【0052】
次に、152mm角、6.35mm厚の石英ガラス基板の主表面上に、基板側から厚さ4nmのSi層と、厚さ3nmのMo層とを、各々40層交互に積層し、更に厚さ4nmのSi層を1層積層した厚さ284nmの多層反射膜を形成し、更に、厚さ2nmのRuからなる保護層を成膜した、多層反射膜及び保護膜が形成された基板を準備した。この多層反射膜及び保護膜が形成された基板を用い、上述した吸収体膜の成膜と同様の方法で、保護膜の上に、成膜時間を延長して膜厚70nmのTaN系膜を吸収体膜として成膜した。吸収体膜を成膜する前後において、基板表面中央部の142mm角内のそり(TIR)を、フラットネステスタ(CORNING社製、Tropel Ultra Flat 200Mask)にて測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.35μmであった。
【0053】
[実験例2]
152mm角、6.35mm厚の石英ガラス基板の主表面上に、反射型マスクブランクの吸収体膜に相当するTaN系膜を、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。まず、基板への成膜前に、チャンバー内にArガス(33vol%)とN2ガス(67vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.14Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、プリスパッタを行った。次に、チャンバー内に石英ガラス基板を設置し、Arガス(41vol%)とN2ガス(59vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.24Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、膜厚40nmのTaN系膜を成膜した。
【0054】
得られたTaN系膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、実験例1と同様の方法で測定したところ、Ta及びNの合計に対して、Taは58原子%、窒素は42原子%であった。一方、大気に暴露されて自然酸化により形成された表面酸化層の酸素含有率は、Ta、N及びOの合計に対して、22原子%であり、表面酸化層の厚さは2nm以下であった。
【0055】
得られたTaN系膜の表面粗さ(RMS)を、実験例1と同様の方法で測定したところ、0.54nmであった。また、得られたTaN系膜について、断面の結晶構造(結晶性)を、実験例1と同様の方法で評価したところ、下部の結晶性が中部と比べて高くなっていることが確認された。この電子線回折像を、
図4(B)に示す。
図4(B)において、上段が膜の上部、中段が膜の中部、下段が膜の下部の電子線回折像である。また、得られたTaN系膜について、実験例1と同様の方法で、TaN系膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、いずれも検出されなかった。
【0056】
更に、得られたTaN系膜に対し、実験例1と同様の方法で、エッチングレートを測定したところ、膜厚全体の平均で0.68nm/secであった。
【0057】
次に、実験例1と同様の多層反射膜及び保護膜が形成された基板を準備し、上述した吸収体膜の成膜と同様の方法で、保護膜の上に、成膜時間を延長して膜厚70nmのTaN系膜を吸収体膜として成膜した。吸収体膜を成膜する前後のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.27μmであった。
【0058】
[実験例3]
152mm角、6.35mm厚の石英ガラス基板の主表面上に、反射型マスクブランクの吸収体膜に相当するTaN系膜を、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。まず、基板への成膜前に、チャンバー内にArガス(67vol%)とN2ガス(33vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.07Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、プリスパッタを行った。次に、チャンバー内に石英ガラス基板を設置し、Arガス(30vol%)とN2ガス(70vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.08Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、膜厚40nmのTaN系膜を成膜した。
【0059】
得られたTaN系膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、実験例1と同様の方法で測定したところ、Ta及びNの合計に対して、Taは60原子%、窒素は40原子%であった。一方、大気に暴露されて自然酸化により形成された表面酸化層の酸素含有率は、Ta、N及びOの合計に対して、23原子%であり、表面酸化層の厚さは2nm以下であった。
【0060】
得られたTaN系膜の表面粗さ(RMS)を、実験例1と同様の方法で測定したところ、0.73nmであった。また、得られたTaN系膜について、断面の結晶構造(結晶性)を、実験例1と同様の方法で評価したところ、中部の結晶性が上部及び下部と比べて高くなっていることが確認された。この電子線回折像を、
図4(C)に示す。
図4(C)において、上段が膜の上部、中段が膜の中部、下段が膜の下部の電子線回折像である。また、得られたTaN系膜について、実験例1と同様の方法で、TaN系膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、いずれも検出されなかった。チャンバー内圧力を低圧(0.15Pa未満)とした本例では、実験例1と同様の膜組成でも、吸収体膜の厚さ方向中央部で結晶性が高くなる傾向、また、表面粗さが大きくなる傾向が確認された。
【0061】
更に、得られたTaN系膜に対し、実験例1と同様の方法で、エッチングレートを測定したところ、膜厚全体の平均で0.63nm/secであった。
【0062】
次に、実験例1と同様の多層反射膜及び保護膜が形成された基板を準備し、上述した吸収体膜の成膜と同様の方法で、保護膜の上に、成膜時間を延長して膜厚70nmのTaN系膜を吸収体膜として成膜した。吸収体膜を成膜する前後のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.40μmであった。
【0063】
[実験例4]
152mm角、6.35mm厚の石英ガラス基板の主表面上に、反射型マスクブランクの吸収体膜に相当するTaN系膜を、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。まず、基板への成膜前に、チャンバー内にArガス(67vol%)とN2ガス(33vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.49Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、プリスパッタを行った。次に、チャンバー内に石英ガラス基板を設置し、Arガス(67vol%)とN2ガス(33vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.49Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、膜厚40nmのTaN系膜を成膜した。
【0064】
得られたTaN系膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、実験例1と同様の方法で測定したところ、Ta及びNの合計に対して、Taは61原子%、窒素は39原子%であった。一方、大気に暴露されて自然酸化により形成された表面酸化層の酸素含有率は、Ta、N及びOの合計に対して、30原子%であり、膜の表面から約30nm程度で、酸素が6原子%程度の含有率で検出された。特に、膜の表面から約3nm程度までは、特に高い酸素含有率で酸化が進行していた。
【0065】
得られたTaN系膜の表面粗さ(RMS)を、実験例1と同様の方法で測定したところ、0.76nmであった。また、得られたTaN系膜について、断面の結晶構造(結晶性)を、実験例1と同様の方法で評価したところ、上部、中部及び下部の結晶性が同等であることが確認された。この電子線回折像を、
図4(D)に示す。
図4(D)において、上段が膜の上部、中段が膜の中部、下段が膜の下部の電子線回折像である。また、得られたTaN系膜について、実験例1と同様の方法で、TaN系膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相、α-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、いずれも検出されなかった。プリスパッタの条件が、その後の膜の成膜時のスパッタリングの条件と同じとし、チャンバー内圧力を高圧(0.4Pa以上)とした本例では、実験例3のように、吸収体膜の厚さ方向中央部で結晶性が高くなる傾向はなく、上部、中部及び下部の結晶性が同等である膜構造であったが、表面粗さが大きくなる傾向、更に、表面酸化層が厚くなる傾向が確認された。
【0066】
更に、得られたTaN系膜に対し、実験例1と同様の方法で、エッチングレートを測定したところ、膜厚全体の平均で0.48nm/secであった。
【0067】
次に、実験例1と同様の多層反射膜及び保護膜が形成された基板を準備し、上述した吸収体膜の成膜と同様の方法で、保護膜の上に、成膜時間を延長して膜厚70nmのTaN系膜を吸収体膜として成膜した。吸収体膜を成膜する前後のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.04μmであった。
【0068】
[実験例5]
152mm角、6.35mm厚の石英ガラス基板の主表面上に、反射型マスクブランクの吸収体膜に相当するTaN系膜を、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。まず、基板への成膜前に、チャンバー内にArガス(86vol%)とN2ガス(14vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.06Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、プリスパッタを行った。次に、チャンバー内に石英ガラス基板を設置し、Arガス(86vol%)とN2ガス(14vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.06Paとし、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、膜厚40nmのTaN系膜を成膜した。
【0069】
得られたTaN系膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、実験例1と同様の方法で測定したところ、Ta及びNの合計に対して、Taは89原子%、窒素は11原子%であった。一方、大気に暴露されて自然酸化により形成された表面酸化層の酸素含有率は、Ta、N及びOの合計に対して、44原子%であり、表面酸化層の厚さは約3nmであった。
【0070】
得られたTaN系膜について、実験例1と同様の方法で、TaN系膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相、及び立方晶のTaN結晶相は、いずれも検出されなかったが、α-Ta結晶相が検出された。
【0071】
更に、得られたTaN系膜に対し、実験例1と同様の方法で、エッチングレートを測定したところ、膜厚全体の平均で0.26nm/secであった。
【0072】
次に、実験例1と同様の多層反射膜及び保護膜が形成された基板を準備し、上述した吸収体膜の成膜と同様の方法で、保護膜の上に、成膜時間を延長して膜厚70nmのTaN系膜を吸収体膜として成膜した。吸収体膜を成膜する前後のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で0.80μmであった。
【0073】
[実験例6]
152mm角、6.35mm厚の石英ガラス基板の主表面上に、反射型マスクブランクの吸収体膜に相当するTaN系膜を、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより成膜した。まず、基板への成膜前に、チャンバー内にN2ガスのみ(100vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.15Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、プリスパッタを行った。次に、チャンバー内に石英ガラス基板を設置し、N2ガスのみ(100vol%)を導入し、チャンバー内圧力を0.09Paとして、Taターゲットに1,000Wの電力を印加し、膜厚40nmのTaN系膜を成膜した。
【0074】
得られたTaN系膜を室温で大気中に取り出した後、組成を、実験例1と同様の方法で測定したところ、Ta及びNの合計に対して、Taは53原子%、窒素は47原子%であった。一方、大気に暴露されて自然酸化により形成された表面酸化層の酸素含有率は、Ta、N及びOの合計に対して、19原子%であり、表面酸化層の厚さは2nm以下であった。
【0075】
得られたTaN系膜の表面粗さ(RMS)を、実験例1と同様の方法で測定したところ、1.11nmであった。また、得られたTaN系膜について、実験例1と同様の方法で、TaN系膜に含まれる結晶相を確認したところ、β-Ta結晶相及びα-Ta結晶相は、いずれも検出されなかったが、立方晶のTaN結晶相が検出された。
【0076】
次に、実験例1と同様の多層反射膜及び保護膜が形成された基板を準備し、上述した吸収体膜の成膜と同様の方法で、保護膜の上に、成膜時間を延長して膜厚70nmのTaN系膜を吸収体膜として成膜した。吸収体膜を成膜する前後のそり(TIR)を測定し、前後のそりの変化量(ΔTIR)を算出したところ、絶対値で1.0μmであった。
【符号の説明】
【0077】
100、200、300 反射型マスクブランク
101 基板
102 多層反射膜
103 吸収体膜
104 保護膜
105 導電膜