(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】熱処理炉の前処理条件の決定方法、熱処理炉の前処理方法、熱処理装置ならびに熱処理された半導体ウェーハの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/324 20060101AFI20230214BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
H01L21/324 W
H01L21/31 E
H01L21/324 T
(21)【出願番号】P 2020563018
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047783
(87)【国際公開番号】W WO2020137441
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018245445
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】桑野 嘉宏
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-130079(JP,A)
【文献】特開2004-146486(JP,A)
【文献】特開2003-224122(JP,A)
【文献】特開2002-093785(JP,A)
【文献】特許第6477844(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理炉の前処理条件の決定方法であって、
前記前処理は、前記熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱することであり、
供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補を複数設定すること、
各組み合わせの候補に、前記前処理による除去対象として特定した対象金属の種類に応じて決定された点数を付与すること、および、
前記付与された点数を指標として、前記複数の候補の中から、前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決定すること、
を含
み、
前記点数は、前記対象金属の種類に基づき熱力学平衡計算により決定された点数である、熱処理炉の前処理条件の決定方法。
【請求項2】
前記熱力学平衡計算は、前記対象金属の元素と前記候補の供給ガスに含まれる元素を含む多元系熱力学平衡計算である、請求項
1に記載の熱処理炉の前処理条件の決定方法。
【請求項3】
前記熱力学平衡計算により、
前記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧、
前記対象金属を含む固体化合物中の前記対象金属の平衡物質量の総和、
前記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG
0、および
前記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG
0、
を求め、求められた結果を指標として前記点数を決定することを含む、請求項
2に記載の熱処理炉の前処理条件の決定方法。
【請求項4】
前記点数は、
前記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標として決定された点数、
前記対象金属を含む固体化合物中の前記対象金属の平衡物質量の総和を指標として決定された点数、
前記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG
0を指標として決定された点数、および
前記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG
0を指標として決定された点数、
の乗数である、請求項
3に記載の熱処理炉の前処理条件の決定方法。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の熱処理炉の前処理条件の決定方法により、熱処理炉の前処理条件を決定すること、および、
前記決定された前処理条件下で熱処理炉を前処理すること、
を含む、熱処理炉の前処理方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の熱処理炉の前処理方法により熱処理炉を前処理すること、および、
前記前処理された熱処理炉内で半導体ウェーハを熱処理すること、
を含む、熱処理された半導体ウェーハの製造方法。
【請求項7】
熱処理装置であって、
熱処理炉と、
熱処理炉制御部と、
前記熱処理炉を前処理する前処理の条件を決定する前処理条件決定部と、
を含み、
前記前処理は、前記熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱することであり、
前記前処理条件決定部は、
供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補を複数記録する候補記録部と、
計算用情報記録部、点数計算部および組み合わせ決定部を有する解析部と、
を含み、
前記計算用情報記録部は、前記候補記録部に記録された各候補の点数を計算するための計算用情報を記録し、
前記計算用情報は、前記前処理による除去対象として特定された対象金属の種類に応じて決定され、
前記点数計算部は、前記計算用情報から前記候補記録部に記録された各候補の点数を計算し、
前記組み合わせ決定部は、前記計算された点数を指標として、前記複数の候補の中から、前記熱処理炉の前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決定し、
前記熱処理炉制御部は、前記組み合わせ決定部で決定された供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの情報を前記組み合わせ決定部から受信し、受信した情報にしたがい前記熱処理炉に前処理を実行させる前処理実施情報を送信し、
前記熱処理炉は、前記前処理実施情報を受信し、該前処理実施情報にしたがい前処理を実施
し、
前記計算用情報が、前記対象金属の種類に基づき熱力学平衡計算により決定される、熱処理装置。
【請求項8】
前記熱力学平衡計算は、前記対象金属の元素と前記候補の供給ガスに含まれる元素を含む多元系熱力学平衡計算である、請求項
7に記載の熱処理装置。
【請求項9】
前記計算用情報は、前記熱力学平衡計算により求められる下記情報:
前記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧、
前記対象金属を含む固体化合物中の前記対象金属の平衡物質量の総和、
前記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG
0、および
前記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG
0、
を含む、請求項
8に記載の熱処理装置。
【請求項10】
前記点数は、
前記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標として決定された点数、
前記対象金属を含む固体化合物中の前記対象金属の平衡物質量の総和を指標として決定された点数、
前記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG
0を指標として決定された点数、および
前記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG
0を指標として決定された点数、
の乗数である、請求項
9に記載の熱処理装置。
【請求項11】
前記計算用情報記録部、前記点数計算部および前記組み合わせ決定部の1つ以上に修正情報を提供する修正部を更に含む、請求項
7~
10のいずれか1項に記載の熱処理装置。
【請求項12】
請求項
7~
11のいずれか1項に記載の熱処理装置を含む、熱処理された半導体ウェーハの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年12月27日出願の日本特願2018-245445号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、熱処理炉の前処理条件の決定方法、熱処理炉の前処理方法、熱処理装置ならびに熱処理された半導体ウェーハの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0003】
熱処理炉は、熱処理対象物を炉内に配置して各種熱処理を施すために広く用いられている。そのような熱処理炉としては、例えば、半導体ウェーハをアニールするためのアニール炉、半導体ウェーハにエピタキシャル層を形成するためのエピタキシャル成長炉等が挙げられる。
【0004】
熱処理炉内に汚染金属が存在すると、その金属が熱処理中に熱処理対象物に付着し、熱処理対象物に金属汚染が発生してしまう。そこで、熱処理炉内の汚染金属を除去するために、熱処理対象物の熱処理を行う前に、前処理として、熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱すること(いわゆる空焼き)が行われている(特開2002-25924号公報、特開2003-224122号公報(それらの全記載は、ここに特に開示として援用される)参照)。
【発明の概要】
【0005】
特開2002-25924号公報および特開2003-224122号公報では、特定条件下で熱処理炉を前処理(空焼き)することが提案されている(上記公報の特許請求の範囲参照)。しかし従来、そのような前処理条件を決定するためには、多くの試行錯誤を繰り返すしかなかった。
【0006】
本発明の一態様は、熱処理炉の前処理条件を効率的に決定するための方法を提供する。
【0007】
本発明の一態様は、
熱処理炉の前処理条件の決定方法であって、
上記前処理は、上記熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱することであり、
供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補を複数設定すること、
各組み合わせの候補に、上記前処理による除去対象として特定した対象金属の種類に応じて決定された点数を付与すること、および、
上記付与された点数を指標として、上記複数の候補の中から、前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決定すること、
を含む、熱処理炉の前処理条件の決定方法(以下、単に「決定方法」とも記載する。)、
に関する。
【0008】
上記決定方法によれば、供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補毎に除去対象として特定した金属の種類に応じて決定された点数に基づき、多くの試行錯誤を繰り返すことなく効率的に前処理条件を決定することができる。
【0009】
一態様では、上記点数は、上記対象金属の種類に基づき熱力学平衡計算により決定された点数であることができる。
【0010】
一態様では、上記熱力学平衡計算は、上記対象金属の元素および上記候補の供給ガスに含まれる元素を含む多元系熱力学平衡計算であることができる。
【0011】
一態様では、上記熱力学平衡計算により、
上記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧、
上記対象金属を含む固体化合物中の上記対象金属の平衡物質量の総和、
上記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0、および
上記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0、
を求め、求められた結果を指標として上記点数を決定することができる。
【0012】
一態様では、上記点数は、
上記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標として決定された点数、
上記対象金属を含む固体化合物中の上記対象金属の平衡物質量の総和を指標として決定された点数、
上記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として決定された点数、および
上記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として決定された点数、
の乗数であることができる。
【0013】
本発明の一態様は、
上記決定方法により熱処理炉の前処理条件を決定すること、および、
上記決定された前処理条件下で熱処理炉を前処理すること、
を含む、熱処理炉の前処理方法(以下、単に「前処理方法」とも記載する。)、
に関する。
【0014】
本発明の一態様は、
上記前処理方法により熱処理炉を前処理すること、および、
上記前処理された熱処理炉内で半導体ウェーハを熱処理すること、
を含む、熱処理された半導体ウェーハの製造方法(以下、単に「製造方法」とも記載する。)、
に関する。
【0015】
本発明の一態様は、
熱処理装置であって、
熱処理炉と、
熱処理炉制御部と、
上記熱処理炉を前処理する前処理の条件を決定する前処理条件決定部と、
を含み、
上記前処理は、上記熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱することであり、
上記前処理条件決定部は、
供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補を複数記録する候補記録部と、
計算用情報記録部、点数計算部および組み合わせ決定部を有する解析部と、
を含み、
上記計算用情報記録部は、上記候補記録部に記録された候補の点数を計算するための計算用情報を記録し、
上記計算用情報は、上記前処理による除去対象として特定された対象金属の種類に応じて決定され、
上記点数計算部は、上記計算用情報から上記候補記録部に記録された候補の点数を計算し、
上記組み合わせ決定部は、上記計算された点数を指標として、上記複数の候補の中から、上記熱処理炉の前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決定し、
上記熱処理炉制御部は、上記組み合わせ決定部で決定された供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの情報を上記組み合わせ決定部から受信し、受信した情報にしたがい上記熱処理炉に前処理を実行させる前処理実施情報を送信し、
上記熱処理炉は、上記前処理実施情報を受信し、この前処理実施情報にしたがい前処理を実施する、熱処理装置、
に関する。
【0016】
一態様では、上記計算用情報は、上記対象金属の種類に基づき熱力学平衡計算により決定され得る。
【0017】
一態様では、上記熱力学平衡計算は、上記対象金属の元素と上記候補の供給ガスに含まれる元素を含む多元系熱力学平衡計算であることができる。
【0018】
一態様では、上記計算用情報は、上記熱力学平衡計算により求められる下記情報:
上記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧、
上記対象金属を含む固体化合物中の上記対象金属の平衡物質量の総和、
上記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0、および
上記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0、
を含むことができる。
【0019】
一態様では、上記点数は、
上記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標として決定された点数、
上記対象金属を含む固体化合物中の上記対象金属の平衡物質量の総和を指標として決定された点数、
上記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として決定された点数、および
上記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として決定された点数、
の乗数であることができる。
【0020】
一態様では、上記熱処理装置は、上記計算用情報記録部、上記点数計算部および上記組み合わせ決定部の1つ以上に修正情報を提供する修正部を更に含むことができる。
【0021】
本発明の一態様は、上記熱処理装置を含む、熱処理された半導体ウェーハの製造装置に関する。
【0022】
本発明の一態様によれば、供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補毎に除去対象として特定した対象金属の種類に応じて決定された点数に基づき、多くの試行錯誤を繰り返すことなく効率的に前処理条件を決定することができる。また、本発明の一態様によれば、そのように決定された前処理条件下で熱処理炉を前処理することを含む熱処理炉の前処理方法、およびそのような前処理が行われた熱処理炉内で半導体ウェーハを熱処理することを含む熱処理された半導体ウェーハの製造方法を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、熱処理装置を提供することができ、この熱処理装置を含む、熱処理された半導体ウェーハの製造装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一態様にかかる決定方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本発明の一態様にかかる決定方法の他の一例を示すフロー図である。
【
図3】本発明の一態様にかかる前処理方法の一例を示すフロー図である。
【
図4】本発明の一態様にかかる熱処理装置の一例の構成を示す概略図である。
【
図5】本発明の一態様にかかる熱処理装置の他の一例の構成を示す概略図である。
【
図6】本発明の一態様にかかる熱処理装置の他の一例の構成を示す概略図である。
【
図7】本発明の一態様にかかる熱処理装置の他の一例の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の一態様を図面を参照して説明することがあるが、本発明は図面に示されている例に限定されるものではない。
【0025】
[熱処理炉の前処理条件の決定方法]
本発明の一態様は、熱処理炉の前処理条件の決定方法であって、上記前処理は熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱することであり、供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補を複数設定すること、各組み合わせの候補に上記熱処理による除去対象として特定した対象金属の種類に応じて決定された点数を付与すること、および、上記付与された点数を指標として上記複数の候補の中から前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決定することを含む熱処理炉の前処理条件の決定方法に関する。
【0026】
図1は、本発明の一態様にかかる決定方法の一例を示すフロー図である。
図2は、本発明の一態様にかかる決定方法の他の一例を示すフロー図である。以下、上記決定方法について、
図1、
図2を適宜参照し、更に詳細に説明する。
【0027】
<熱処理炉>
上記決定方法により前処理条件が決定される熱処理炉は、各種熱処理のために使用可能な公知の構成の熱処理炉であることができる。具体例としては、半導体ウェーハをアニールするためのアニール炉、半導体ウェーハにエピタキシャル層を形成するためのエピタキシャル成長炉、半導体ウェーハを熱酸化するための熱処理炉等を挙げることができるが、熱処理対象物を炉内に配置して熱処理を行うことができるものであればよく、上記具体例に限定されない。熱処理炉は、少なくとも加熱手段を備え、炉内に反応性ガス、不活性ガス等のガスを供給するためのガス供給手段、炉内ガスを排出するためのガス排出手段等を備えることもできる。
【0028】
<熱処理炉の前処理>
熱処理炉において実際に熱処理対象物の熱処理を実施する前に、前処理が行われる。この前処理は、熱処理対象物が配置されていない状態で、熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱することをいう。前処理のために炉内に供給されるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、水素ガス等の無機ガスおよび有機ガスの一種または二種以上の混合ガスを挙げることができる。有機ガスの一例としては、有機塩素化合物ガス等の有機ハロゲン化合物ガスを挙げることができる。また、前処理時の炉内の加熱温度は、例えば700~1300℃であることができる。ここで炉内の加熱温度とは、熱処理炉の加熱手段の設定温度、炉内の雰囲気温度、熱処理炉の内壁の表面温度および炉内に配置されているいずれか1つ以上の部材の表面温度からなる群から選ばれる少なくとも一種の温度であることができる。
【0029】
前処理による汚染金属の除去効率は、同じ前処理条件で前処理を行ったとしても、除去すべき汚染金属の種類によって異なり得る。そのため従来、前処理によって熱処理炉内から除去すべき対象の金属を効率的に低減可能な前処理条件を決定するためには、何ら指標なく試行錯誤を繰り返すことが通常であった。これに対し、上記決定方法では、まず、「供給ガスの種類」と「加熱温度」との組み合わせの候補を複数設定する。そして、複数の候補のそれぞれについて、除去対象として特定した対象金属の種類に応じて、点数を付与する。この点数は、例えば、対象金属の除去効率がより高いと見積もられるほどより高い点数が付与されるように決定することができる。点数の決定は、一態様では実験的に行うことができ、他の一態様では計算により行うことができる。点数の付与の具体的態様については後述する。上記決定方法では、こうして各候補に付与された点数を指標として、除去すべき金属の種類に応じて、複数の候補の中から前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決定する。このように実験的または計算により決定された点数を指標として前処理条件を決定することにより、多くの試行錯誤を繰り返すことなく、熱処理炉の前処理条件を決定することが可能となる。除去対象の金属は、前処理対象の熱処理炉により熱処理が施される熱処理対象物の熱処理後の用途等を考慮して決定することができる。例えば、熱処理対象物が半導体ウェーハの場合、デバイス特性に影響を及ぼす可能性のある金属汚染を低減することが望まれるため、各種金属(例えば鉄、銅、ニッケル、クロム、アルミニウム、ナトリウム等)の一種または二種以上を、除去対象として特定することができる。
【0030】
<点数の付与>
熱処理炉の前処理のための「供給ガスの種類」と「加熱温度」との組み合わせの候補への点数の付与を実験的に行う方法としては、例えば下記の方法を挙げることができる。既知量の対象金属によって意図的に汚染させた熱処理炉を、ある候補の供給ガスと加熱温度の組み合わせの条件下でテスト熱処理(テスト前処理)する(
図1中、S11)。このテスト前処理後の熱処理炉内に残留している対象金属の一部または全部を公知の方法によって回収し、回収された対象金属量を定量する(
図1中、S12)。例えば、回収された対象金属量が少ないほど(即ち対象金属の除去効率が高いほど)、その候補に高い点数が付与されるように点数を決定することができる(
図1中、S13)。または、点数の付与は、テスト前処理または実際に前処理が行われた後の熱処理炉内で熱処理された熱処理物の金属汚染量に基づき重み付け関数を定め、この重み付け関数によって実験により得られた値に重み付け処理を行った後の値に基づき行ってもよい。また、点数の付与は、シミュレーション、最適化計算ツール等を用いて行ってもよい。
また、実験的に行う方法としては、下記の方法を挙げることもできる。上記のようにテスト前処理が行われた後の熱処理炉内で、任意の熱処理条件下でサンプル(例えば半導体ウェーハ、半導体ウェーハ等の半導体材料から切り出されたテストピース等)の熱処理を行う。この熱処理後の上記サンプルの表面に付着している対象金属および/または上記サンプルの表層部等に拡散している対象金属の一部または全部を、公知の方法によって回収して定量する。定量は、例えばICP-MS(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry)等により行うことができる。または、テスト前処理後のサンプルを公知の方法によって分析することにより、対象金属による金属汚染量を定量する。分析方法としては、μ-PCD(Microwave Photoconductivity Decay)法、SPV(Surface Photovoltage)法等を挙げることができる。ここで上記サンプルについて定量された対象金属量が少ないことは、テスト前処理後の熱処理炉での熱処理によるサンプルの金属汚染が少なかったことを意味するということができる。換言すれば、テスト前処理による対象金属の除去効率が高かったことを意味するということができる。したがって、上記サンプルについて定量された対象金属量が少ないほど(即ち対象金属の除去効率が高いほど)、その候補に高い点数が付与されるように点数を決定することができる。または、点数の付与は、上記のように重み付け処理を行った後の値に基づき行ってもよく、シミュレーション、最適化計算ツール等を用いて行ってもよい。
上記テスト熱処理は、実際に前処理される熱処理炉で行ってもよく、または、例えば実際に前処理される熱処理炉よりも小スケールの加熱炉で行うこともできる。
こうして、対象金属毎に各候補に点数を付与し、例えばデータベース化しておくこと(例えば点数表の作成)ができる(
図1中、S14)。そのようなデータベースが構築されれば、その後は、除去すべき対象金属等のプロセス条件が決定されれば(
図1中、S15)、例えばその金属の除去効率が高いと見積もられる(例えば点数が高い)候補を、データベースから選択し、実際に熱処理炉を前処理する前処理条件(供給ガスおよび加熱温度)として決定することができる(
図1中、S16)。こうして、多くの試行錯誤を繰り返すことなく、熱処理炉の前処理条件を決定することができる。
【0031】
一方、上記の点数の付与を計算により行うための計算方法としては、熱力学平衡計算を挙げることができる。即ち、上記の点数は、一態様では、対象金属の種類に基づき熱力学平衡計算により決定された点数であることができる。熱力学平衡計算とは、ギブスの自由エネルギーが最小化される平衡組成を最適化手段により算出する手法であって、計算方法は公知であり、公知の計算ソフトにより計算を行うことができる。前処理時、熱処理炉には、汚染金属の元素と供給ガスを構成する元素が存在する。即ち、前処理時に熱処理炉には複数の元素が存在するため、熱力学平衡計算は、除去対象として特定した対象金属の元素および候補の組み合わせの供給ガスに含まれる元素を含む多元系熱力学平衡計算であることができる。更に、多元系熱力学平衡計算では、実際に熱処理炉で熱処理される熱処理対象物の構成元素や、実際に熱処理時に熱処理炉に存在する部材の構成元素も、計算において考慮することができる。例えば、前処理後の熱処理炉でシリコンウェーハの熱処理が行われる場合には、シリコン(Si)や、ウェーハ支持部材の表面被覆膜(例えばSiO
2膜)の構成元素等も、除去対象の金属の揮発反応や汚染(付着)反応に関与し得るため、これらの各種元素も多元系熱力学平衡計算において考慮することができる。また、多元系熱力学平衡計算によれば、除去対象として二種以上の金属を特定しても熱力学平衡計算が可能である。熱力学平衡計算のために計算ソフトに入力する熱処理炉内の圧力(即ち系内の圧力)は、任意に設定可能であり、例えば0atm超100atm以下程度とすることができる。こうして各種プロセス条件を決定し(
図2中、S21)、熱力学平衡計算を行うことができる。
【0032】
熱処理炉において起こり得る反応としては、熱処理炉に付着していた対象金属が揮発する反応と対象金属が熱処理炉を汚染する(即ち熱処理炉に付着)する反応とが挙げられる。対象金属が熱処理炉から揮発したとしても、汚染(付着)が発生すると、熱処理炉から対象金属を除去する効率は低下するからである。したがって、熱処理炉から対象金属を効率的に除去するためには、熱力学平衡計算において、熱処理炉における揮発モデルと汚染モデルの両モデルを考慮することが好ましい。より詳しくは、熱処理炉から対象金属を効率的に除去するためには、前処理条件は、「揮発モデルにおいて熱処理炉からの対象金属の揮発物の量が多く、汚染モデルにおいて対象金属が付着する量が少ない条件」とすることが好ましい。これは換言すれば、「対象金属を含むガスの蒸気圧が高く、対象金属を含むガスの揮発反応が起こりやすい条件であり、また、対象金属の固体汚染物質の物質量が小さく、汚染反応が起こりにくい条件」ということができる。そこで、上記決定方法の一態様では、点数を付与するために、熱力学平衡計算により、対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧、対象金属を含む固体化合物中の対象金属の平衡物質量の総和、対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG
0、および対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG
0を求め、求められた結果を指標として点数を決定することができる(
図2中、S22~S27)。上記の指標に基づき点数を付与する具体的態様について以下に説明する。
【0033】
対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧(即ち、平衡状態での揮発ガスの分圧)については、この値が大きいほど対象金属がより揮発し易く熱処理炉から除去され易いということができる。したがって、熱力学平衡計算により算出された対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧が大きいほどより高い点数が付与されるように判断基準を定め(一例として、後述の表1のような判断基準表を作成し)、対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標として点数を決定することができる。
【0034】
対象金属を含む固体化合物中の対象金属の平衡物質量(即ち、平衡状態での物質量)の総和については、この値が小さいほど熱処理炉への対象金属の付着(汚染)がより生じ難いということができる。したがって、例えば、熱力学平衡計算により算出された対象金属を含む固体化合物中の対象金属の平衡物質量の総和が小さいほど高い点数が付与されるように判断基準を定め(一例として、後述の表3のような判断基準表を作成し)、対象金属を含む固体化合物中の対象金属の平衡物質量の総和を指標として点数を決定することができる。
【0035】
対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0については、この値が小さいほど対象金属がより揮発しやすく熱処理炉から除去され易いということができる。したがって、例えば、熱力学平衡計算により算出された対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0が小さいほど高い点数が付与されるように判断基準を決定し(一例として、後述の表6のような判断基準表を作成し)、対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として点数を決定することができる。また、ある候補の供給ガスに関して、対象金属が関与する揮発反応が複数あり得る場合、複数の揮発反応の中でギブスの自由エネルギーΔG0が最小の揮発反応のΔG0、最大のΔG0または複数の揮発反応のギブスの自由エネルギーの平均(例えば算術平均)を、点数を決定するための指標にすることができ、最小の揮発反応のΔG0または最大のΔG0を点数を決定するための指標にすることが好ましく、最小の揮発反応のΔG0を点数を決定するための指標とすることがより好ましい。
【0036】
対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0については、この値が正の値であるほうが負の値である場合に比べて熱処理炉への対象金属の付着(汚染)がより生じ難いということができる。また、正の値の中では絶対値がより大きいほうが、負の値の中では絶対値がより小さいほうが、熱処理炉への対象金属の付着(汚染)がより生じ難いということができる。したがって、例えば、熱力学平衡計算により算出された対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0が正の値である場合が負の値である場合と比べて高い点数が付与されるように、かつ正の値の中では絶対値がより大きいほうが高い点数が付与されるように、負の値の中では絶対値がより小さいほうが高い点数が付与されるように、判断基準を決定し(一例として、後述の表9のような判断基準表を作成し)、対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として点数を決定することができる。また、ある候補の供給ガスに関して、対象金属が関与する汚染反応が複数あり得る場合、複数の汚染反応の中でギブスの自由エネルギーΔG0が最小の汚染反応のΔG0、最大のΔG0または複数の汚染反応のギブスの自由エネルギーの平均(例えば算術平均)を、点数を決定するための指標にすることができ、最小の汚染反応のΔG0または最大のΔG0を点数を決定するための指標にすることが好ましく、最小の汚染反応のΔG0を点数を決定するための指標にすることがより好ましい。
【0037】
以上のように、対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧、対象金属を含む固体化合物中の対象金属の平衡物質量の総和、対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG
0、および対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG
0という熱力学平衡計算により算出される4種の数値に基づき決定された4種の点数に基づき、一態様では、これら点数の乗数として、各候補の点数(総合点数と呼ぶこともできる。)を算出することができる(
図2中、S26、S27)。即ち、例えば、ある候補について上記4種の点数がA、B、C、Dであった場合、その候補の点数は、点数=A×B×C×Dと決定することができる。また、一態様では、上記の場合、4種の点数の合計(A+B+C+D)として、その候補の点数を決定することもできる。各候補の点数を乗数として付与することにより、各候補の違いをより強調することができる。
【0038】
また、点数の付与を計算により行う態様においても、先に実験的に点数を付与する態様と同様に、点数の付与は、テスト前処理または実際に前処理が行われた後の熱処理炉内で熱処理された熱処理物の金属汚染量に基づき重み付け関数を定め、この重み付け関数によって計算により得られた値に重み付け処理を行った後の値に基づき行ってもよい。また、点数の付与は、シミュレーション、最適化計算ツール等を用いて行ってもよい。
【0039】
<前処理条件の決定>
以上のように、供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの複数の候補のそれぞれについて、除去対象として特定した対象金属の種類に応じて点数が付与される。こうして付与された点数を指標として、実際に熱処理炉の前処理を行うために採用する前処理条件を決定することができる。決定基準に関しては、例えば、一態様では、点数が所定点数以上の候補の中から、前処理条件を決定することができる。また、一態様では、複数の候補の中で最も高い点数の候補を前処理条件として決定することができる。ただし、実際に前処理条件として決定する候補は、最も高い点数の候補に限定されない。例えば、点数が所定範囲内の候補の中から、供給ガスのコスト、取扱いの容易性等を考慮して前処理条件を決定することもできる。
【0040】
[熱処理炉の前処理方法]
本発明の一態様は、上記決定方法により熱処理炉の前処理条件を決定すること、および、上記決定された前処理条件下で熱処理炉を前処理することを含む熱処理炉の前処理方法に関する。
【0041】
図3は、本発明の一態様にかかる前処理方法の一例を示すフロー図である。対象金属、実際に熱処理炉で熱処理される熱処理対象物の構成元素、実際に熱処理時に熱処理炉に存在する部材の構成元素等の各種プロセス条件が決定された後、詳細を先に説明したように点数付与を行うことができる(
図3中、S31、S32)。こうして付与された点数を、例えば解析ソフトから出力する(
図3中、S33)。出力された結果の中から、点数を指標として、供給ガスと加熱温度との組み合わせを選択し、前処理条件を決定することができる(
図3中、S34、S35)。ここでの選択は、自動または手動で行うことができる。そして、こうして決定された前処理条件下で熱処理炉を前処理することができる(
図3中、S36)。
【0042】
上記前処理方法では、上記決定方法により決定された種類の供給ガスを使用し、かつ決定された加熱温度で、熱処理炉の前処理を行う。前処理は、一般に「空焼き」とも呼ばれ、通常、熱処理対象物を熱処理炉内に配置して熱処理を施す前に行われる。例えば、熱処理炉のガス供給口からガスを供給するとともに熱処理炉のガス排出口から炉内ガスを排出する通気可能な状態で、前処理条件として決定した加熱温度に加熱された熱処理炉内へ、前処理条件として決定した種類のガスを供給して、前処理を行うことにより、熱処理炉内を汚染している汚染金属の少なくとも一部または全部を、熱処理炉外に排出することができる。好ましくは、除去対象として特定した対象金属の一部または全部を熱処理炉外へ排出することができる。かかる前処理を行った後に熱処理対象物の熱処理を行うことにより、熱処理対象物が熱処理によって金属汚染されることを抑制することができる。前処理時間は、除去対象の金属の種類や金属汚染量等に応じて決定すればよい。例えば1分間~20時間程度とすることができるが、上記範囲は例示であって、本発明を限定するものではない。
【0043】
[半導体ウェーハの製造方法]
本発明の一態様は、上記前処理方法により熱処理炉を前処理すること、および、上記前処理された熱処理炉内で半導体ウェーハを熱処理することを含む、熱処理された半導体ウェーハの製造方法に関する。
【0044】
熱処理が施される半導体ウェーハとしては、シリコンウェーハ等の各種半導体ウェーハを挙げることができる。例えば、公知の方法で育成されたシリコン単結晶インゴットから切り出したシリコン単結晶ウェーハを、鏡面研磨等の研磨加工、面取り加工等の加工処理の一種以上を任意に施した後に熱処理炉へ導入して熱処理を行うことができる。熱処理の具体例としては、アニール、気相成長、熱酸化等の各種熱処理を挙げることができる。これらの熱処理は、公知の方法により実施できる。上記前処理方法により前処理した後の熱処理炉において半導体ウェーハを熱処理することにより、熱処理炉からの金属汚染が抑制された熱処理済半導体ウェーハを提供することが可能となる。そのような熱処理済半導体ウェーハとしては、例えば、シリコン単結晶ウェーハにアニール処理により改質層を形成したアニールウェーハ、エピタキシャル層をシリコン単結晶ウェーハ上に有するエピタキシャルウェーハ、熱酸化膜を有するシリコン単結晶ウェーハ等の各種シリコンウェーハを挙げることができる。
【0045】
[熱処理装置]
本発明の一態様は、熱処理炉と、熱処理炉制御部と、上記熱処理炉を前処理する前処理の条件を決定する前処理条件決定部と、を含む熱処理装置に関する。上記前処理は、上記熱処理炉の炉内をガスを供給しながら加熱することであり、上記前処理条件決定部は、供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの候補を複数記録する候補記録部と、計算用情報記録部、点数計算部および組み合わせ決定部を有する解析部と、を含む。上記計算用情報記録部は、上記候補記録部に記録された候補の点数を計算するための計算用情報を記録する。上記計算用情報は、上記前処理による除去対象として特定された対象金属の種類に応じて決定される。上記点数計算部は、上記計算用情報から上記候補記録部に記録された候補の点数を計算し、上記組み合わせ決定部は、上記計算された点数を指標として、上記複数の候補の中から、上記熱処理炉の前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決する。上記熱処理炉制御部は、上記組み合わせ決定部で決定された供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせの情報を上記組み合わせ決定部から受信し、受信した情報にしたがい上記熱処理炉に前処理を実行させる前処理実施情報を送信し、上記熱処理炉は、上記前処理実施情報を受信し、この前処理実施情報にしたがい前処理を実施する。
【0046】
上記熱処理装置によれば、上記決定方法による前処理条件の決定、および決定された前処理条件下での熱処理炉の前処理を行うことができる。かかる前処理条件の決定および前処理の実施の詳細については、先に記載した通りである。
【0047】
以下に、上記熱処理装置の一例を図面に基づき説明する。ただし上記熱処理装置は、図面に示す態様に限定されるものではない。以下では、各図において、同一の部分については同一の符号が付されている。
【0048】
図4は、上記熱処理装置の一例の構成を示す概略図である。
図4に示されている熱処理装置1は、前処理条件決定部10と、熱処理炉制御部11と、熱処理炉12と、を備えている。
【0049】
前処理条件決定部10は、候補記録部101と、解析部102と、を有する。
【0050】
候補記録部101には、熱処理炉12の前処理のための「供給ガスの種類」と「加熱温度」との組み合わせの候補が複数入力され、記録される。更に、候補記録部101には、前処理による除去対象として特定された対象金属の種類も入力し、記録することもできる。
【0051】
計算用情報記録部1001には、点数計算部1002において各候補の点数を計算するために使用される情報が入力され、記録される。計算用情報は、前処理による除去対象として特定された対象金属の種類に応じて決定される。決定の詳細は、先に記載した通りである。
【0052】
例えば、点数の付与を実験的に行う態様では、先に説明したようにデータベース化した情報(例えば、対象金属毎に、ガスの種類と加熱温度との組み合わせの複数の候補について、それぞれ点数が表示された点数表)を、計算用情報記録部1001に記録することができる。
【0053】
点数の付与を計算により行う態様では、例えば、計算用情報記録部1001に記録される計算用情報を、前処理による除去対象として特定された対象金属の種類に基づき熱力学平衡計算により決定することができる。この計算の詳細は、先に記載した通りである。
【0054】
点数計算部1002では、計算用情報記録部1001に記録された計算用情報から、候補記録部101に記録された各候補の点数を計算する。例えば、候補記録部101に記録された候補情報を点数計算を行うソフトにコピーする等して取り出し、計算用情報記録部1001に記録された計算用情報を同じソフトにコピーする等して取り出し、各候補の点数を、所定の計算方法によって計算する。計算の詳細は、先に記載した通りである。一例として、計算用情報は、熱力学平衡計算により求められる下記情報:除去対象として特定された対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧、上記対象金属を含む固体化合物中の上記対象金属の平衡物質量の総和、上記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0、および上記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を含むことができる。そして、各候補の点数は、上記対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標として決定された点数、上記対象金属を含む固体化合物中の上記対象金属の平衡物質量の総和を指標として決定された点数、上記対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として決定された点数、および上記対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標として決定された点数の乗数であることができる。
【0055】
組み合わせ決定部1003は、点数計算部1002で決定された各候補の点数を指標として、候補記録部101に記録された複数の組み合わせの候補の中から、熱処理炉12の前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせを決定する。この決定の詳細については、先に記載した通りである。
【0056】
図5に示す熱処理装置2は、解析部102に修正部1004を含む点以外、
図4に示す熱処理装置1と同じ構成を有する。修正部1004は、計算用情報記録部1001、点数計算部1002および組み合わせ決定部1003からなる群から選ばれる1つ以上に、修正情報を提供することができる。一態様では、修正情報は、実際に前処理が行われた熱処理炉で熱処理された熱処理物の金属汚染量に基づき、計算用情報記録部1001における計算用情報を決定するための決定方法を修正するための修正情報であることができる。上記金属汚染量は、熱処理物から回収した金属成分をICP-MS等により定量する方法、熱処理物をμ-PCD法、SPV法等により分析する方法等の公知の方法によって求めることができる。また、一態様では、修正情報は、実際に前処理が行われた熱処理炉で熱処理された熱処理物の金属汚染量に基づき、点数計算部1002において点数を計算するための計算式を修正するための情報であることができる。また、一態様では、修正情報は、組み合わせ決定部1003において前処理条件を決定するための決定基準を修正するための情報であることができる。修正情報は、計算用情報記録部1001、点数計算部1002および組み合わせ決定部1003からなる群から選ばれる1つのみに提供されてもよく、2つに提供されてもよく、3つすべてに提供されてもよい。
【0057】
こうして、組み合わせ決定部1003において、点数計算部1002で計算された点数を指標として、候補記録部101に記録された複数の候補の中から、熱処理炉12の前処理条件として採用する供給ガスの種類と加熱温度との組み合わせが決定される。
【0058】
熱処理炉制御部11は、こうして決定された供給ガスと加熱温度との組み合わせの情報を、組み合わせ決定部1003から受信し、受信した情報にしたがい熱処理炉12に前処理を実行させる前処理実施情報を送信する。
【0059】
熱処理炉12は、上記前処理実施情報を受信し、この信号にしたがい前処理を実施する。熱処理炉12の詳細は、前処理条件が決定される熱処理炉について先記載した通りである。
【0060】
一態様では、こうして前処理が実施された後、先に記載した修正情報を得るための熱処理および熱処理物の金属汚染量の分析を行い、分析結果に基づき修正情報を作成し、修正部1004に入力することができる。
【0061】
図6に示す熱処理装置3は、熱処理炉制御部11からの前処理信号が複数の熱処理炉(12a、12b、12c)によって受信される点以外、
図4に示す熱処理炉1
2と同じ構成を有する。
図6には、例示として熱処理炉を3つ示したが、1つの熱処理炉制御部から前処理実施情報を受信する熱処理炉の数は、特に限定されない。
【0062】
図7に示す熱処理装置4は、組み合わせ決定部1003で決定された情報が複数の熱処理炉制御部(11a、11b、11c)によって受信される点以外、
図4に示す熱処理炉1
2と同じ構成を有する。
図7には、例示として熱処理炉制御部を3つ示したが、1つの組み合わせ決定部から情報を受信する熱処理炉制御部の数は、特に限定されない。また、1つの組み合わせ決定部から、複数の熱処理炉制御部へ同じ情報を送信してもよく、複数の熱処理炉を異なる前処理条件で前処理するために複数の熱処理炉制御部へ異なる情報を送信してもよい。
【0063】
また、
図7に示す熱処理装置を、1つの熱処理炉制御部からの前処理信号が複数の熱処理炉によって受信されるように変形することもできる。
【0064】
前処理条件決定部10および熱処理炉制御部11は、1つまたは2つ以上のコンピュータにより構成することができ、コンピュータに搭載させたソフトによって、各部の各種動作を実行させることができる。また、各種情報の送受信は、有線通信または無線通信によって実行することができる。
【0065】
[半導体ウェーハの製造装置]
本発明の一態様は、上記熱処理装置を含む、熱処理された半導体ウェーハの製造装置に関する。
【0066】
上記製造装置は、少なくとも上記熱処理装置を含み、半導体ウェーハに各種処理を施すための1つ以上の装置を任意に含むことができる。かかる装置の一例としては、シリコン単結晶インゴットから切り出したシリコン単結晶ウェーハに鏡面研磨等の研磨加工を行うための研磨装置、面取り加工するための面取り加工装置等を挙げることができる。
【0067】
上記熱処理装置および半導体ウェーハの製造方法のその他の詳細については、決定方法、前処理方法および製造方法に関する先の記載を参照できる。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を実施例に基づき更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下に記載の「%」は、体積%である。
【0069】
1.対象金属の特定
鉄を、除去対象の金属として特定した。
【0070】
2.前処理条件の候補の決定
候補の供給ガスの種類は、酸素(100%O2)、窒素(100%N2)、アルゴン(100%Ar)、水素(100%H2)、水素と酸素との混合ガス(80%H2/20%O2)、および1,2-ジクロロエチレンと酸素との混合ガス(20%Trans-1,2-ジクロロエチレン/80%O2)とし、候補の加熱温度は、1100℃、1150℃、1200℃、1250℃、および1300℃とし、熱処理炉内の圧力として1atmを選択し、以下のように熱力学平衡計算を実施した。熱力学平衡計算は、熱力学平衡計算ソフトMALTを使用し、このソフトに付属するアルゴリズムにより実施した。以下の表では、水素と酸素との混合ガス(80%H2/20%O2)を「80%H2/O2」、Trans-1,2-ジクロロエチレンと酸素との混合ガス(20%Trans-1,2-ジクロロエチレン/80%O2)を「20%Trans1,2DCE/O2」と表記する。
以下では、加熱温度1200℃についての計算結果を例に説明する。
【0071】
3.対象金属を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標とした点数の決定
上記熱力学平衡計算ソフトに、加熱温度(1200℃)、圧力(1atm)を入力し、かつ、対象金属元素、候補の供給ガスを構成する元素、シリコン(Si)、および実際の熱処理時に熱処理炉内に配置される部材(ウェーハ支持部材)の表面に存在するシリコン酸化膜(SiO2)の構成元素により生成され得る物質をソフトのデータベースから選択して各物質の物質量を入力した。これらの情報が入力されると、上記熱力学平衡計算ソフトによる多元系熱力学平衡計算の計算結果から、鉄を含むガスの平衡揮発ガス分圧の総和Pが求められた。ここで求められたPを指標として、下記の判断基準表(表1)にしたがい、加熱温度1200℃と下記表2に示されている供給ガスとの組み合わせの候補について、鉄を含むガスの平衡揮発ガス分圧を指標とした点数を表2に示すように決定した。
【0072】
【0073】
【0074】
4.対象金属を含む固体化合物中の対象金属の平衡物質量の総和を指標とした点数の決定
上記3.での入力により、上記熱力学平衡計算ソフトは、鉄とシリコンを含む固体物質中の鉄の平衡物質量を算出した。この算出結果から、鉄とシリコンを含む固体物質中の鉄の平衡物質量の総和Mcを求めた。ここで求められたMcを指標として、下記の判断基準表(表3)にしたがい、加熱温度1200℃と下記表4に示されている供給ガスとの組み合わせの候補について、鉄を含む固体化合物中の鉄の平衡物質量の総和を指標とした点数を表4に示すように決定した。
【0075】
【0076】
【0077】
5.対象金属が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標とした点数の決定
上記3.での入力により、上記熱力学平衡計算ソフトは、選択された物質の中の鉄を含む揮発性物質が揮発する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0を算出した。算出結果を、表5に示す。
【0078】
【0079】
表5に示された各供給ガスについての各種揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0の中の最小値を指標として、下記の判断基準表(表6)にしたがい、加熱温度1200℃と下記表7に示されている供給ガスとの組み合わせの候補について、鉄が関与する揮発反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標とした点数を表7に示すように決定した。
【0080】
【0081】
【0082】
6.対象金属が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標とした点数の決定
上記3.での入力により、上記熱力学平衡計算ソフトは、選択された物質の中の鉄を含む物質が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を算出した。算出結果を、表8に示す。
【0083】
【0084】
表8に示された各供給ガスについての各種汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0の中の最小値を指標として、下記の判断基準表(表9)にしたがい、加熱温度1200℃と下記表10に示されている供給ガスとの組み合わせの候補について、鉄が関与する汚染反応のギブスの自由エネルギーΔG0を指標とした点数を表10に示すように決定した。
【0085】
【0086】
【0087】
7.点数表の作成
加熱温度1200℃と各供給ガスとの組み合わせの候補について、上記3~6で決定された4種の点数の乗数を、各候補の点数として付与した。
加熱温度1100℃、1150℃、1250℃および1300℃についても上記3~6と同様に多元系熱力学平衡計算を行い、算出結果に基づき上記3~6と同様に点数を決定した。こうして決定された4種の点数の乗数を、各候補の点数として付与した。
以上のように各候補に付与された点数の点数表が、下記表11である。
【0088】
【0089】
8.前処理条件の決定および前処理の実施
同じロットから取り出した3枚のシリコンウェーハに対し、それぞれ前処理前または下記前処理後にアニールを実施した。これら3枚のシリコンウェーハは、同じロットのシリコンウェーハであるため、熱処理前の鉄汚染レベルは同様と見做すことができる。
まず、上記表11に示す点数表から高点数の「加熱温度1300℃/Trans-1,2-ジクロロエチレンと酸素との混合ガス(20%Trans-1,2-ジクロロエチレン/80%O2)」の組み合わせを前処理条件として決定し、既知量の鉄で意図的に汚染した半導体ウェーハ用アニール炉の前処理(空焼き)を実施した。前処理は、加熱温度(加熱手段の設定温度)1300℃および炉内圧力1atmのアニール炉へ上記混合ガスを供給するとともにアニール炉の排気口から炉内ガスを排出しながら、前処理時間1時間で実施した。
上記前処理後のアニール炉においてシリコンウェーハのアニールを行った。前処理前のアニール炉でも同様のアニール条件でシリコンウェーハのアニールを行った。
前処理前のアニール炉でアニールされたシリコンウェーハおよび前処理後のアニール炉でアニールされたシリコンウェーハの表面を同種の回収液(酸溶液)で走査し、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)によって走査後の回収液中の鉄の定量分析を行った。こうして得られた定量値を回収液が走査されたシリコンウェーハ表面の面積で除した値を、シリコンウェーハの表面鉄濃度とした。こうして求められた表面鉄濃度がより低いほど、アニール炉からのシリコンウェーハの鉄汚染が抑制されているということができ、アニールを実施したアニール炉の鉄汚染が少ないということもできる。前処理前のアニール炉でアニールされたシリコンウェーハの表面鉄濃度は5.0×1010atoms/cm2であったのに対し、前処理後のアニール炉でアニールされたシリコンウェーハの表面鉄濃度は3.0×109atoms/cm2であった。この結果から、上記のように決定された前処理条件下での前処理により、アニール炉の鉄汚染を低減できたことが確認できる。
また、上記決定された前処理条件とは異なる条件下での前処理として、加熱温度(加熱手段の設定温度)を1300℃、供給ガスをアルゴン(100%Ar)として、上記と同様の既知量の鉄で意図的に汚染した半導体ウェーハ用アニール炉の前処理(空焼き)を上記と同様に実施し、前処理後のアニール炉でシリコンウェーハを同様のアニール条件でアニールした。このアニール後のシリコンウェーハの表面鉄濃度を上記と同様に求めたところ、2.0×1010atoms/cm2であり、前処理によりアニール炉の鉄汚染を低減できたことが確認された。
更に、以上の結果から、熱力学平衡計算による計算結果に基づき付与された表11中の点数がより高い前処理条件により、熱処理炉の鉄汚染をより低減できることも確認された。
【0090】
本発明の一態様は、半導体ウェーハの技術分野をはじめとする各種熱処理が行われる技術分野において有用である。