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  • 特許-有機発光素子、組成物および膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】有機発光素子、組成物および膜
(51)【国際特許分類】
   H10K 85/60 20230101AFI20230214BHJP
   C07D 209/82 20060101ALI20230214BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230214BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230214BHJP
   H10K 50/11 20230101ALI20230214BHJP
   H10K 50/12 20230101ALI20230214BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20230214BHJP
【FI】
H10K85/60
C07D209/82
C09K11/06 660
C09K11/06 690
H05B33/14 B
H10K50/11
H10K50/12
H10K101:20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020538291
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031127
(87)【国際公開番号】W WO2020039930
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018156709
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019073933
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 一
(72)【発明者】
【氏名】畠山 琢次
(72)【発明者】
【氏名】近藤 靖宏
(72)【発明者】
【氏名】笹田 康幸
(72)【発明者】
【氏名】梁井 元樹
(72)【発明者】
【氏名】陳 展耀
(72)【発明者】
【氏名】田中 正樹
(72)【発明者】
【氏名】野田 大貴
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 善丈
(72)【発明者】
【氏名】能塚 直人
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-179809(JP,A)
【文献】国際公開第2015/102118(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188111(WO,A1)
【文献】Chin-Yiu Chan, Masaki Tanaka, Hajime Nakanotani & Chihaya Adachi,Efficient and stable sky-blue delayed fluorescence organic light-emitting diodes with CIEy below 0.4,NATURE COMMUNICATIONS,2018年11月28日,9:5036
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
C07D 209/82
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を1つまたは複数有する化合物と下記一般式(2)で表される化合物をともに含む有機発光素子。
【化1】
一般式(1)において、a環、b環およびc環は、それぞれ独立して、他の環が縮合してアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよいベンゼン環を表し、これらの環における少なくとも1つの水素原子は置換されていてもよい。R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアリール基、またはベンゼン環で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc1-または単結合により前記a環および/またはc環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc2-または単結合により前記a環および/またはb環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。前記Rc1およびRc2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。
【化2】
一般式(2)において、R31~R35のうちの4つは各々独立に置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を表すが、4つがすべて同一であることはない。残りの1つは水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
【請求項2】
前記一般式(1)で表される構造を1つまたは複数有する化合物が、前記一般式(1)で表される構造を2つ有する化合物である、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(1a)で表される化合物である、請求項2に記載の有機発光素子。
【化3】
一般式(1a)において、R11~R17は各々独立に置換基を表し、R18~R23は各々独立に水素原子または置換基を表し、n11、n13、n14、n17は各々独立に0~5のいずれかの整数を表し、n12は0~2のいずれかの整数を表し、n15、n16は各々独立に0~4のいずれかの整数を表す。
【請求項4】
19およびR22が各々独立に置換基を表す、請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記一般式(2)におけるR31~R35の少なくとも1つが、3位か6位の少なくとも一方が置換されたカルバゾール-9-イル基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記一般式(2)におけるカルバゾール-9-イル基が、無置換であるか、あるいは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、置換もしくは無置換のジヘテロアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアリールヘテロアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリールオキシ基で置換されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記一般式(2)で表される化合物が、下記一般式(2a)で表される化合物である、請求項6に記載の有機発光素子。
【化4】
一般式(2a)において、R41~R44、R46~R49は各々独立に置換基を表すが、一般式(2a)のベンゾニトリルに結合する4つの置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基がすべて同一であることはない。n41~n44、n46~n49は各々独立に0~4のいずれかの整数を表す。R45は水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
【請求項8】
前記一般式(1)で表される化合物を発光層内に含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記一般式(1)で表される化合物と前記一般式(2)で表される化合物を同じ層内に含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項10】
下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物をともに含む組成物。
【化5】
一般式(1)において、a環、b環およびc環は、それぞれ独立して、他の環が縮合してアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよいベンゼン環を表し、これらの環における少なくとも1つの水素原子は置換されていてもよい。R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアリール基、またはベンゼン環で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc1-または単結合により前記a環および/またはc環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc2-または単結合により前記a環および/またはb環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。前記Rc1およびRc2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。
【化6】
一般式(2)において、R31~R35のうちの4つは各々独立に置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を表すが、4つがすべて同一であることはない。残りの1つは水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
【請求項11】
下記一般式(1)で表される化合物と下記一般式(2)で表される化合物をともに含む膜。
【化7】
一般式(1)において、a環、b環およびc環は、それぞれ独立して、他の環が縮合してアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよいベンゼン環を表し、これらの環における少なくとも1つの水素原子は置換されていてもよい。R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアリール基、またはベンゼン環で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc1-または単結合により前記a環および/またはc環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc2-または単結合により前記a環および/またはb環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。前記Rc1およびRc2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。
【化8】
一般式(2)において、R31~R35のうちの4つは各々独立に置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を表すが、4つがすべて同一であることはない。残りの1つは水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子、組成物および膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、ホール輸送材料、発光材料などを新たに開発することにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。例えば特許文献1には、複数の芳香族環をホウ素原子や窒素原子などで連結した多環芳香族化合物が有機エレクトロルミネッセンス素子の発光材料等として有用であることが記載されている。
【0003】
一方、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いる材料を組み合わせることにより、発光効率を高める研究もなされている。例えば特許文献2には、発光材料とホスト材料を含む発光層に、最低励起一重項エネルギー準位が発光材料とホスト材料の中間にある遅延蛍光材料を添加することが記載されている。遅延蛍光材料は、励起状態において、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じやすいため、励起一重項状態のみならず、励起三重項状態も逆項間交差を介した経路により発光に利用することができる。このため、遅延蛍光材料を添加することにより、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を向上させることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5935199号公報
【文献】特許第5669163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発光材料とホスト材料を含む発光層に、最低励起一重項エネルギー準位が発光材料とホスト材料の中間にある遅延蛍光材料を添加することにより、確かに有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率は向上する。しかしながら、遅延蛍光材料を添加することにより向上した発光効率であってもまだ満足の行くレベルには到達していないことが多く、なかでも青色発光素子については十分に高い外部量子収率を実現できているものは僅かである。このため、高い発光効率を達成しつつ、高効率の青色発光素子の実現に道を開くことができる新たな技術を提供することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような状況下において、本発明者らは、発光効率が高い有機発光素子を提供することができる材料の組み合わせを見いだすことを目的として検討を進めた。特に、高効率な青色発光素子の実現に道を開くことができるような材料の組み合わせを見いだすことを念頭において検討を進めた。
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する多環芳香族化合物と特定の構造を有する遅延蛍光材料を組み合わせて用いることにより、発光効率が高い有機発光素子を提供し得ることを見いだして、以下に記載する本発明を提供するに至った。
【0007】
[1] 下記一般式(1)で表される構造を1つまたは複数有する化合物と下記一般式(2)で表される化合物をともに含む有機発光素子。
【化1】
一般式(1)において、a環、b環およびc環は、それぞれ独立して、他の環が縮合してアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよいベンゼン環を表し、これらの環における少なくとも1つの水素原子は置換されていてもよい。R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアリール基、またはベンゼン環で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc1-または単結合により前記a環および/またはc環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc2-または単結合により前記a環および/またはb環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。前記Rc1およびRc2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。
【化2】
一般式(2)において、R31~R35のうちの4つは各々独立に置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を表すが、4つがすべて同一であることはない。残りの1つは水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
[2] 前記一般式(1)で表される構造を1つまたは複数有する化合物が、前記一般式(1)で表される構造を2つ有する化合物である、[1]に記載の有機発光素子。
[3] 前記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(1a)で表される化合物である、[2]に記載の有機発光素子。
【化3】
一般式(1a)において、R11~R17は各々独立に置換基を表し、R18~R23は各々独立に水素原子または置換基を表し、n11、n13、n14、n17は各々独立に0~5のいずれかの整数を表し、n12は0~2のいずれかの整数を表し、n15、n16は各々独立に0~4のいずれかの整数を表す。
[4] R19およびR22が各々独立に置換基を表す、[3]に記載の有機発光素子。
[5] 前記一般式(2)におけるR31~R35の少なくとも1つは、3位か6位の少なくとも一方が置換されたカルバゾール-9-イル基である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[6] 前記一般式(2)におけるカルバゾール-9-イル基が、無置換であるか、あるいは、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、置換もしくは無置換のジヘテロアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアリールヘテロアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリールオキシ基で置換されている、[1]~[5]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[7] 前記一般式(2)で表される化合物が、下記一般式(2a)で表される化合物である、[6]に記載の有機発光素子。
【化4】
一般式(2a)において、R41~R44、R46~R49は各々独立に置換基を表すが、一般式(2a)のベンゾニトリルに結合する4つの置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基がすべて同一であることはない。n41~n44、n46~n49は各々独立に0~4のいずれかの整数を表す。R45は水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
[8] 前記一般式(1)で表される化合物を発光層内に含有する、[1]~[7]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[9] 前記一般式(1)で表される化合物と前記一般式(2)で表される化合物を同じ層内に含有する、[1]~[8]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[10] 前記一般式(1)で表される化合物と前記一般式(2)で表される化合物をともに含む組成物。
[11] 前記一般式(1)で表される化合物と前記一般式(2)で表される化合物をともに含む膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機発光素子は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物をともに含んでいるために、高い発光効率を有する。また、本発明によれば、発光効率が高い青色発光素子を実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図2】化合物1の吸収スペクトルと、化合物1、化合物2-38、実施例1の各発光スペクトルである。
図3】実施例2の素子、比較素子1、比較素子2の各過渡減衰曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0011】
<一般式(1)で表される化合物>
本発明では、下記一般式(1)で表される構造を1つまたは複数有する化合物を用いる。
【化5】
【0012】
一般式(1)において、a環、b環およびc環は、それぞれ独立して、他の環が縮合してアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよいベンゼン環を表し、これらの環における少なくとも1つの水素原子は置換されていてもよい。R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアリール基、またはベンゼン環で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc1-または単結合により前記a環および/またはc環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc2-または単結合により前記a環および/またはb環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。前記Rc1およびRc2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。
【0013】
a環、b環およびc環は、単環であっても多環であってもよいが、一般式(1)中に表示されるBとNに直接結合する環はベンゼン環である。BとNに直接結合するベンゼン環が他の環と縮合して多環を形成するとき、その形成される多環はアリール環またはヘテロアリール環である。ここでいうアリール環の炭素数は6~30であることが好ましく、6~16であることがより好ましく、6~12であることがさらに好ましく、6~10であることが特に好ましい。また、ここでいうヘテロアリール環の炭素数は6~30であることが好ましく、6~25であることがより好ましく、6~20であることがさらに好ましく、6~15であることがさらにより好ましく、6~10であることが特に好ましい。ヘテロアリール環を構成するヘテロ環は5~7員環であることが好ましく、5または6員環であることがより好ましい。ヘテロ環の環構成原子としては、炭素原子以外に、酸素原子、硫黄原子および窒素原子からなる群から選ばれる1~5個のヘテロ原子を挙げることができる。縮合して形成されるアリール環またはヘテロアリール環として、ナフタレン環、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、ペリレン環、ペンタセン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、チアントレン環などを挙げることができる。
【0014】
、Rが採りうるアリール基としては、例えば、炭素数6~30のアリール基が挙げられ、炭素数6~16のアリール基が好ましく、炭素数6~12のアリール基がより好ましく、炭素数6~10のアリール基が特に好ましい。アリール基を構成するアリール環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、ペリレン環、ペンタセン環などを挙げることができる。
、Rが採りうるヘテロアリール基は、少なくともベンゼン環が縮合した多環構造を有しており、その多環構造を構成するベンゼン環で結合する基である。R、Rが採りうるヘテロアリール基を構成するヘテロアリール環の説明と好ましい範囲については、a環、b環およびc環が採りうるヘテロアリール環の説明と好ましい範囲を参照することができる。
は、-O-、-S-、-C(-Rc1-または単結合により、a環および/またはc環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。Rは、-O-、-S-、-C(-Rc2-または単結合により、a環および/またはb環におけるNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子と結合していてもよい。ここでいうNとの結合位置(原子)に隣接している炭素原子は、Bとは結合していない炭素原子である。Rc1およびRc2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。ここでいうアルキル基は、炭素数1~4であるものが好ましく、例えばメチル基、エチル基を挙げることができる。R、Rが、-O-、-S-、-C(-Rc1-、-C(-Rc2-または単結合によりa環、b環および/またはc環と結合して形成される環状構造として、例えばフェノキサジン環、フェノチアジン環、アクリジン環、カルバゾール環を挙げることができる。
【0015】
、Rが置換アリール基または置換ヘテロアリール基であるときの置換基、および、a環、b環およびc環が置換されているときの置換基は、ハロゲン原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロアリール基、置換または無置換のジアリールアミノ基、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ基、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ基(アリール基とヘテロアリール基を有するアミノ基)、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基または置換または無置換のアリールオキシ基であることが好ましい。これらの基が置換基を有する場合の置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキル基が挙げられる。R、R、a環、b環およびc環に存在する置換基の総数は0~15であることが好ましく、0~10であることがより好ましく、例えば1~10の中から選択したり、2~10の中から選択したり、0~6の中から選択したり、0~4の中から選択したり、0~2の中から選択したりしてもよい。
【0016】
置換基として採りうるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子、塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0017】
置換基として採りうるアリール基としては、また、置換基として採りうるジアリールアミノ基、アリールヘテロアリールアミノ基、アリールオキシ基に含まれるアリール基としては、例えば、炭素数6~30のアリール基が挙げられ、炭素数6~16のアリール基が好ましく、炭素数6~12のアリール基がより好ましく、炭素数6~10のアリール基が特に好ましい。アリール基を構成するアリール環としては、単環系であるベンゼン環、縮合二環系であるナフタレン環、縮合三環系であるアセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、縮合四環系であるトリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、縮合五環系であるペリレン環、ペンタセン環などが挙げられる。後述するようにアリール基はさらにアリール基で置換されていてもよいため、例えば置換アリール基として三環系であるテルフェニル環(m-テルフェニル、o-テルフェニル、p-テルフェニル)等を採ることもできる。
【0018】
置換基として採りうるヘテロアリール基としては、また、置換基として採りうるジヘテロアリールアミノ基、アリールヘテロアリールアミノ基、に含まれるヘテロアリール基としては、例えば、炭素数2~30のヘテロアリール基が挙げられ、炭素数2~25のヘテロアリール基が好ましく、炭素数2~20のヘテロアリール基がより好ましく、炭素数2~15のヘテロアリール基がさらに好ましく、炭素数2~10のヘテロアリール基が特に好ましい。ヘテロアリール基を構成するヘテロアリール環としては、例えば環構成原子として炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子および窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1~5個含有する複素環などが挙げられる。ヘテロアリール基を構成するヘテロアリール環としては、例えば、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、インドリジン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、フラザン環、オキサジアゾール環、チアントレン環などが挙げられる。
【0019】
置換基として採りうるアルキル基は、直鎖、分枝鎖および環状のいずれでもよく、例えば、炭素数1~24の直鎖アルキル基、炭素数3~24の分枝鎖アルキル基または炭素数3~8の環状アルキル基が挙げられる。炭素数1~18の直鎖アルキル基、炭素数3~18の分枝鎖アルキル基および炭素数4~8の環状アルキル基が好ましく、炭素数1~12の直鎖アルキル基、炭素数3~12の分枝鎖アルキル基および炭素数5~7の環状アルキル基がより好ましく、炭素数1~6の直鎖アルキル基、炭素数3~6の分枝鎖アルキル基および炭素数5~6の環状アルキル基がさらに好ましく、炭素数1~4の直鎖アルキル基、炭素数3または4の分枝鎖アルキル基が特に好ましい。具体的なアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、4-メチル-2-ペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、n-オクチル基、t-オクチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、2-プロピルペンチル基、n-ノニル基、2,2-ジメチルヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、1-メチルデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、1-ヘキシルヘプチル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-エイコシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2,2,1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、デカヒドロナフチル基、アダマンチル基などが挙げられる。本明細書において「n」はノルマル、「s」がセカンダリー、「t」はターシャリーの略である。
【0020】
置換基として採りうるアルコキシ基としては、例えば、炭素数1~24の直鎖アルコキシ基、炭素数3~24の分枝鎖アルコキシ基または炭素数3~8の環状アルコキシ基が挙げられる。炭素数1~18の直鎖アルコキシ基、炭素数3~18の分枝鎖アルコキシ基、炭素数4~8の環状アルコキシ基が好ましく、炭素数1~12の直鎖アルコキシ基、炭素数3~12の分枝鎖アルコキシ基、炭素数5~7の環状アルコキシ基がより好ましく、炭素数1~6の直鎖アルコキシ基、炭素数3~6の分枝鎖アルコキシ基、炭素数5~6の環状アルコキシ基がさらに好ましく、炭素数1~4の直鎖アルコキシ基、炭素数3~4の分枝鎖のアルコキシ基が特に好ましい。具体的なアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ビシクロ[2,2,1]ヘプチルオキシ基、ビシクロ[2.2.2]オクチルオキシ基、デカヒドロナフチルオキシ基、アダマンチルオキシ基などが挙げられる。
【0021】
置換基として採りうるジアリールアミノ基を構成する2つのアリール基、ジヘテロアリールアミノ基を構成する2つのヘテロアリール基、アリールヘテロアリールアミノ基を構成するアリール基とヘテロアリール基は、それぞれ互いに単結合または連結基を介して結合していてもよいし、結合していなくてもよい。連結基の連結鎖構成原子数は、好ましくは1~3、より好ましくは1または2、さらに好ましくは1である。連結基としては、-O-、-S-、-C(=O)-、-C(=S)-、-N(R51)-、-B(R52)-、-C(R53)(R54)-、-Si(R55)(R56)-またはこれらの2つ以上を連結した連結基を挙げることができる。ここでR51~R56は各々独立に水素原子または置換基を表し、置換基としては、置換もしくは無置換のアルキル基(好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは炭素数1~6)、置換もしくは無置換のアリール基(好ましくは炭素数6~20、より好ましくは炭素数6~14、さらに好ましくは炭素数6~10)、置換もしくは無置換のヘテロアリール基(好ましくは環骨格原子数5~20、より好ましくは環骨格原子数5~14、さらに好ましくは環骨格原子数5~10)を好ましく例示することができる。
【0022】
一般式(1)で表される構造を複数有する化合物は、一般式(1)で表される構造の多量体である。多量体は、2~6量体が好ましく、2~3量体がより好ましく、2量体が特に好ましい。多量体は、一つの化合物の中に一般式(1)で表される構造を複数有する形態であればよく、例えば、上記構造が単結合、炭素数1~3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などの連結基で複数結合した形態に加えて、上記構造に含まれる任意の環(a環、b環またはc環)を複数の一般式(1)で表される構造で共有するようにして結合した形態であってもよく、また、一般式(1)で表される構造に含まれる任意の環(a環、b環またはc環)同士が縮合するようにして結合した形態であってもよい。
【0023】
一般式(1)で表される好ましい化合物群として、例えば下記一般式(1a)で表される化合物群を挙げることができる。
【化6】
【0024】
一般式(1a)において、R11~R17は各々独立に置換基を表し、R18~R23は各々独立に水素原子または置換基を表し、n11、n13、n14、n17は各々独立に0~5のいずれかの整数を表し、n12は0~2のいずれかの整数を表し、n15、n16は各々独立に0~4のいずれかの整数を表す。
【0025】
一般式(1a)におけるR11~R23が採りうる置換基は、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロアリール基、置換または無置換のジアリールアミノ基、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ基、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ基(アリール基とヘテロアリール基を有するアミノ基)、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基または置換または無置換のアリールオキシ基が好ましい。これらの基が置換基を有する場合の置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキル基が挙げられる。ここでいうアリール基、ヘテロアリール基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、アリールヘテロアリールアミノ基、アルキル基、アルコキシ基、およびアリールオキシ基については、一般式(1)におけるこれらの基の説明を参照することができる。
ベンゼン環の2位に結合したR14とベンゼン環の2位に結合したR15は、互いに結合して単結合または連結基を形成してもよい(ここでベンゼン環の1位は一般式(1a)に表示された窒素原子Nに結合する位置である)。また、ベンゼン環の2位に結合したR16とベンゼン環の2位に結合したR17は、互いに結合して単結合または連結基を形成してもよい(ここでベンゼン環の1位は一般式(1a)に表示された窒素原子Nに結合する位置である)。ここでいう連結基については、一般式(1)における連結基の記載を参照することができる。
一般式(1a)におけるn11、n13~n17は、0~3のいずれかの整数であることが好ましく、0~2のいずれかの整数であることがより好ましい。
【0026】
一般式(1a)で表される化合物の中に、R11~R23として存在する置換基の数は0~26であることが好ましく、0~16であることがより好ましく、例えば1~8の中から選択したり、2~8の中から選択したり、0~4の中から選択したり、0~2の中から選択したりしてもよい。
一般式(1a)で表される好ましい化合物群として、R18、R20、R21、R23が水素原子である化合物群を挙げることができ、より好ましい化合物群として、R18、R20、R21、R23が水素原子であって、n11~n17が各々独立に0~2のいずれかの整数である化合物群を挙げることができる。
一般式(1a)で表される別の好ましい化合物群として、R18~R23が水素原子、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のジアリールアミノ基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基または置換または無置換のアリールオキシ基である化合物群を挙げることができる。
一般式(1a)で表されるさらに別の好ましい化合物群として、R19とR22が置換基である化合物群を挙げることができ、より好ましい化合物群としてR19とR22が置換または無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、置換または無置換のジアリールアミノ基、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルコキシ基または置換または無置換のアリールオキシ基である化合物群を挙げることができる。これらの基が置換基を有する場合の置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基またはアルキル基が挙げられる。
【0027】
一般式(1)で表される好ましい化合物群として、例えば下記一般式(1b)で表される化合物群を挙げることもできる。
【化7】
【0028】
一般式(1b)において、R31~R37は各々独立に置換基を表し、n31~n33、n35は各々独立に0~5のいずれかの整数を表し、n34、n37は各々独立に0~3のいずれかの整数を表し、n36は0~4のいずれかの整数を表す。
【0029】
一般式(1b)におけるR31~R37が採りうる置換基は、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のアルキル基が好ましい。これらのアリール基やアルキル基が置換基を有する場合の置換基としては、アリール基またはアルキル基が挙げられる。ここでいうアリール基とアルキル基については、一般式(1)におけるこれらの基の説明を参照することができる。特に一般式(1b)のR31~R37が採りうるアルキル基の炭素数は1~12であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。また、特に一般式(1b)のR31~R37が採りうるアリール基は、炭素数6~10のアリール基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。
一般式(1b)におけるn31~n37は、0~2のいずれかの整数であることが好ましく、0~1のいずれかの整数であることがより好ましい。
【0030】
一般式(1b)のn31~n37の合計は0~14であることが好ましく、0~8であることがより好ましく、例えば1~8の中から選択したり、2~8の中から選択したり、0~4の中から選択したり、0~2の中から選択したりしてもよい。
一般式(1b)で表される好ましい化合物群として、R31~R37が置換もしくは無置換のフェニル基である化合物群を挙げることができ、より好ましい化合物群として、R31~R37が無置換のフェニル基である化合物群を挙げることができる。
一般式(1b)で表される別の好ましい化合物群として、n35が1~5のいずれかの整数である化合物群、n35が1~3のいずれかの整数である化合物群、n35が1であってR35が置換もしくは無置換のフェニル基である化合物群を挙げることができる。また、n36が1~4のいずれかの整数である化合物群、n36が1~3のいずれかの整数である化合物群、n36が1であってR36が置換もしくは無置換のフェニル基である化合物群を挙げることができる。さらに、n35とn36が各々独立に1~3のいずれかの整数である化合物群、n35とn36が1である化合物群、n35とn36が1であってR35とR36が各々独立に置換もしくは無置換のフェニル基である化合物群を挙げることができる。
【0031】
一般式(1)や一般式(1a)で表される化合物は、特許第5935199号公報の段落番号[0281]~[0316]と合成例の記載を参照して合成することができる。また、既知の合成法を組み合わせることにより合成することも可能である。具体的な合成手順については、後述の合成例1を参照することができる。
【0032】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明で採用することができる化合物は以下の具体例によって限定的に解釈されることはない。
【化8-1】
【化8-2】
【0033】
<一般式(2)で表される化合物>
本発明では、下記一般式(2)で表される化合物を用いる。
【化9】
【0034】
一般式(2)において、R31~R35のうちの4つは各々独立に置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を表すが、4つがすべて同一であることはない。残りの1つは水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
【0035】
31~R35が採りうるカルバゾール-9-イル基の置換基として、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、置換もしくは無置換のジヘテロアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアリールヘテロアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、または置換もしくは無置換のアリールオキシ基を好ましく挙げることができる。これらの基はさらにこれらの置換基で置換されていてもよい。
ここでいうアリール基、ヘテロアリール基、ジアリールアミノ基、ジヘテロアリールアミノ基、アリールヘテロアリールアミノ基、アルキル基、アルコキシ基、およびアリールオキシ基については、一般式(1)におけるこれらの基の説明を参照することができる。
31~R35が採りうるカルバゾール-9-イル基が置換されている場合、その置換基の結合位置は、カルバゾール環の3位か、3位と6位の両方であることが好ましい。
31~R35が採りうるカルバゾール-9-イル基の具体例として、3-メチルカルバゾール-9-イル基、3,6-ジメチルカルバゾール-9-イル基、3-エチルカルバゾール-9-イル基、3,6-ジエチルカルバゾール-9-イル基、3-t-ブチルカルバゾール-9-イル基、3,6-ジーt-ブチルカルバゾール-9-イル基、3-フェニルカルバゾール-9-イル基、3,6-ジフェニルカルバゾール-9-イル基、3-(カルバゾール-9-イル)カルバゾール-9-イル基、3,6-ビス(カルバゾール-9-イル)カルバゾール-9-イル基などを挙げることができる。
【0036】
31~R35のうちの4つは各々独立に置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を表すが、4つがすべて同一であることはない。4つがいずれも異なっていてもよいが、好ましいのは3つが同じで1つが異なっている場合か、2つが同じで他の2つも同じである場合である。例えば、R31とR35が同じでR32とR34が同じである場合、R31とR32が同じでR34とR35が同じである場合、R31とR34が同じでR32とR35が同じである場合、R32とR34とR35が同じでR31だけが異なる場合、R31とR34とR35が同じでR32だけが異なる場合を挙げることができる。
一般式(2)に存在する置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基の相違点は、カルバゾール-9-イル基が置換基を有するか有さないかの相違であってもよいし、カルバゾール-9-イル基に結合している置換基の種類の相違であってもよいし、カルバゾール-9-イル基に結合している置換基の結合位置の相違であってもよい。好ましいのは、カルバゾール-9-イル基が置換基を有するか有さないかの相違と、カルバゾール-9-イル基に結合している置換基の種類の相違である。カルバゾール-9-イル基に結合している置換基の種類が相違する例として、アルキル基で置換されたカルバゾール-9-イル基とアリール基で置換されたカルバゾール-9-イル基を挙げることができる。カルバゾール-9-イル基に結合している置換基の結合位置が相違する例として、3位と6位がそれぞれアルキル基で置換されたカルバゾール-9-イル基と3位だけがアルキル基で置換されたカルバゾール-9-イル基を挙げることができる。
【0037】
31~R35の残りの1つは水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。残りの1つが置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を表すとき、その置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基は他の4つのうちの少なくとも1つと同一であってもよいし、他の4つとは異なっていてもよい。R31~R35の残りの1つが採りうるアリール基については、一般式(1)の説明におけるアリール基の記載を参照することができる。R31~R35の残りの1つが採りうるアリール基は置換されていてもよく、置換基として好ましいのはアルキル基またはアリール基である。R31~R35の残りの1つが採りうるアリール基として、例えば4位がアルキル基またはアリール基で置換されたフェニル基、3位と5位がアルキル基またはアリール基で置換されたフェニル基を挙げることができる。残りの1つが水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、またはシアノ基であるとき、それはR31~R35のいずれであってもよいが、R33であることが好ましい。
【0038】
一般式(2)で表される好ましい化合物群として、例えば下記一般式(2a)で表される化合物群を挙げることができる。
【化10】
【0039】
一般式(2a)において、R41~R44、R46~R49は各々独立に置換基を表すが、一般式(2a)のベンゾニトリルに結合する4つの置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基がすべて同一であることはない。n41~n44、n46~n49は各々独立に0~4のいずれかの整数を表す。R45は水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基、またはシアノ基を表す。
【0040】
41~R44、R46~R49が採りうる置換基については、一般式(2)の説明におけるR31~R35が採りうるカルバゾール-9-イル基の置換基の記載を参照することができる。R45が採りうる基については、一般式(2)の説明におけるR31~R35の残りの1つが採りうる基の記載を参照することができる。
【0041】
n41が2以上であるとき、複数のR41は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR41は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。n42が2以上であるとき、複数のR42は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR42は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。n43が2以上であるとき、複数のR43は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR43は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。n44が2以上であるとき、複数のR44は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR44は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。n46が2以上であるとき、複数のR46は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR46は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。n47が2以上であるとき、複数のR47は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR47は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。n48が2以上であるとき、複数のR48は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR48は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。n49が2以上であるとき、複数のR49は互いに同一であっても異なっていてもよく、また、隣接する2つのR49は結合して環状構造を形成してもよいし形成しなくてもよい。ここでいう環状構造については、一般式(1)における環状構造の説明を参照することができる。
【0042】
n41~n49は、0~3のいずれかの整数であることが好ましく、0~2のいずれかの整数であることがより好ましい。n41~n49の総和は、1~24であることが好ましく、1~16であることがより好ましく、1~8であることがさらに好ましい。
n41~n44、n46~n49の組み合わせ例として、n41だけが1であり他が0である場合、n43だけが1であり他が0である場合、n41とn42が1であり他が0である場合、n43とn44が1であり他が0である場合、n41とn43が1であり他が0である場合、n41とn46が1であり他が0である場合、n41とn48が1であり他が0である場合、n41~n44が1であり他が0である場合、n41、n42、n46、n47が1であり他が0である場合、n43、n44、n46、n47が1であり他が0である場合、n41、n42が0であり他が1である場合、n43、n44が0であり他が1である場合を挙げることができる。
【0043】
一般式(2)や一般式(2a)で表される化合物は、後述の合成例2を参考にして合成することができる。すなわち、4-フェニル-2,3,5,6-テトラフルオロベンゾニトリルに置換もしくは無置換のカルバゾールを反応させることにより、2位と6位に置換もしくは無置換のカルバゾール-9-イル基を導入し、さらに置換もしくは無置換のジアリールカルバゾールと反応させることにより、3位と5位に置換もしくは無置換のジアリールカルバゾール-9-イル基を導入することにより合成することができる。また、既知の合成法を組み合わせることにより合成することも可能である。
【0044】
以下の表1および表2に、一般式(2)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明で採用することができる化合物は以下の具体例によって限定的に解釈されることはない。一般式(2)の中の置換基を表す一般式(3a)と一般式(3b)も以下に記載する。
【化11】
【0045】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0046】
【表2】
【化12】
【0047】
[一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の組み合わせ]
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物は、有機発光素子用の材料として組み合わせて用いることができる。有機発光素子では、一般式(2)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物へと効率よくエネルギー移動がなされ、そのエネルギーが発光に使用される。この機構を、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって以下において説明する。
有機エレクトロルミネッセンス素子では、電極から注入されたホールおよび電子の再結合によって励起エネルギーが発生すると、電極間の有機層に含まれる有機化合物が基底状態から励起一重項状態および励起三重項状態に遷移する。励起一重項状態の有機化合物(一重項励起子)と励起三重項状態の有機化合物(三重項励起子)との形成確率は、統計的に一重項励起子が25%、三重項励起子が75%である。そして、励起子のうち励起一重項状態の一般式(2)の化合物のエネルギーが一般式(1)の化合物に移動し、基底状態の一般式(1)の化合物が励起一重項状態に遷移する。励起一重項状態になった一般式(1)の化合物は、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射する。あるいは、励起一重項状態になった一般式(1)の化合物のエネルギーが別の発光材料に移動し、基底状態の発光材料が励起一重項状態に遷移し、その後基底状態に戻るときに蛍光を放射する。
このとき、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、一般式(2)の化合物が励起三重項状態から励起一重項状態に逆項間交差しやすい化合物であるため、この逆項間交差による一重項励起エネルギーも一般式(1)の化合物に移動する。このため、存在比率の大きい励起三重項状態のエネルギーも間接的に発光に寄与し、一般式(2)の化合物を含まない構成に比べて有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を飛躍的に向上させることができる。
一般式(2)の化合物は、できるだけ逆項間交差しやすい化合物であることが好ましい。このため、熱エネルギーの吸収によって励起三重項状態から励起一重項状態に逆項間交差する熱活性化型の遅延蛍光材料であることが好ましい。熱活性化型の遅延蛍光材料は、デバイスが発する熱を吸収して励起三重項状態から励起一重項状態へ比較的容易に逆項間交差し、その励起三重項エネルギーを効率よく発光に寄与させることができる。一般式(2)の化合物は、最低励起一重項状態でのエネルギー準位ES1と77Kの最低励起三重項状態でのエネルギー準位ET1の差ΔESTが0.3eV以下であることが好ましく、0.2eV以下であることがより好ましく、0.15eV以下であることがさらに好ましく、0.10eV以下であることがさらにより好ましい。エネルギー差ΔESTが小さい化合物は、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差が比較的容易に起こるため、その励起三重項エネルギーを効率よく発光に寄与させることができる。また、励起過程での三重項励起子の蓄積が効果的に抑制されるため、一般式(2)で表される化合物を用いることにより、三重項励起子の蓄積に起因する励起子消滅やデバイス劣化が抑えられ、より高い発光効率に加えて優れた高い耐久性を得ることもできる。また、励起子消滅が抑えられることにより、有機レーザーの実現にも大いに貢献することができる。
【0048】
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を有機発光素子に用いることにより、良好な青色光を発光する有機発光素子を実現することが可能である。例えば、CIE-XYZ表色系における色度座標xが0.23以下でyが0.40以下、好ましくはxが0.20以下でyが0.30以下、より好ましくはxが0.16以下でyが0.26以下である光を発光しうる有機発光素子を提供することが可能である。高い発光効率で良好な青色光を発光する有機発光素子として満足が行くものはほとんど提供されるに至っていないことから、本発明の有用性は極めて高い。なお、本発明の有機発光素子の発光色は、必ずしも青色に限定されるものではなく、青色以外の発光を実現する有機発光素子であっても、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を用いるものである限り、本発明の範囲内に含まれる。
【0049】
[有機発光素子]
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物は、有機発光素子を構成するいずれかの層に一緒に含まれるようにしてもよいし、それぞれの化合物が異なる層に含まれるようにしてもよい。異なる層に含まれるようにする場合は、互いに隣接する層に各化合物が含まれるようにすることが好ましい。例えば、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物が発光層にともに含まれるようにしたり、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物が発光層に隣接する層にともに含まれるようにしたり、一般式(1)で表される化合物が発光層に含まれるようにして一般式(2)で表される化合物が発光層に隣接する層に含まれるようにしたりすることが可能である。
有機発光素子には、一般式(1)で表される化合物よりも、一般式(2)で表される化合物を多量に用いるのが好ましい。これらの化合物の合計を100重量部としたとき、一般式(1)で表される化合物は0.01~49.9重量部で用いることが好ましく、1~35重量部で用いることがより好ましい。
【0050】
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物が発光層にともに含まれるようにする場合は、これらの化合物の他にホスト材料が含まれるようにしてもよい。ホスト材料は、一般式(1)で表される化合物や一般式(2)で表される化合物よりも最低励起一重項エネルギーが大きい有機化合物であり、キャリアの輸送を担うホスト材料としての機能や一般式(1)で表される化合物のエネルギーを該化合物中に閉じ込める機能を有する。これにより、一般式(1)で表される有機化合物は、分子内でホールと電子とが再結合することによって生じたエネルギー、および、ホスト材料および一般式(2)で表される化合物から受け取ったエネルギーを効率よく発光に変換することができ、発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができる。
ホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物を採用することが好ましい。ホスト材料は、一般式(1)で表される化合物や一般式(2)で表される化合物よりも発光層に多く含まれるようにすることが好ましい。具体的には、発光層の全重量の40重量%以上とすることが好ましく、50重量%以上とすることがより好ましく、また、99.9重量%以下とすることが好ましく、95重量%以下とすることがより好ましい。発光層に一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物だけが含まれる場合と、発光層に一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とホスト材料が含まれる場合は、一般式(2)で表される化合物から一般式(1)で表される化合物へのエネルギー移動を経て、主として一般式(1)で表される化合物から発光する。
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物が発光層にともに含まれるようにする場合は、これらの化合物の他に発光材料が含まれるようにしてもよい。発光材料は、一般式(1)で表される化合物よりも最低励起一重項エネルギーが小さい化合物である。このとき、発光層にはホスト材料も含まれていてもよい。発光材料は、一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、またはこれらの両方からエネルギー移動を受け、発光する。このとき、一般式(1)で表される化合物からの発光が観測されることもある。発光層における発光材料の含有量は、発光層の全重量の0.01重量%~30重量%とすることが好ましく、0.1重量%~15重量%とすることがより好ましい。
【0051】
一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物が発光層に隣接する層にともに含まれるようにする場合は、発光層には発光材料が含まれるようにする。発光層には、一般式(1)で表される化合物が含まれていてもよい。発光層の発光材料は、隣接する層の一般式(1)で表される化合物、一般式(2)で表される化合物、またはこれらの両方からエネルギー移動を受け、発光する。
一般式(1)で表される化合物が発光層に含まれるようにして一般式(2)で表される化合物が発光層に隣接する層に含まれるようにしてもよい。一般式(2)で表される化合物からエネルギー移動を受けた一般式(1)で表される化合物が発光するようにしてもよいし、発光層にさらに発光材料が含まれるようにして、発光材料から発光するようにしてもよい。
有機発光素子における一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の使用態様は、有機発光素子の製造目的や機能に応じて適宜アレンジすることができる。
【0052】
次に有機発光素子の構成について説明する。
有機フォトルミネッセンス(PL)素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を発光層に隣接する層に含まれるようにする場合、これらの化合物は発光層に隣接する上記のいずれかの層に含ませることができる。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図1に示す。図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0053】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0054】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0055】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0056】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層である。発光層には、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を含む層、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物とホスト材料を含む層、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物と発光材料を含む層、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物と発光材料とホスト材料を含む層、発光材料を含む層、発光材料とホスト材料を含む層、発光材料と一般式(1)で表される化合物を含む層などとすることができる。発光層に一般式(1)で表される化合物が含まれていない場合は、発光層に隣接する層に一般式(1)で表される化合物が含まれる。発光層に一般式(2)で表される化合物が含まれていない場合は、発光層に隣接する層に一般式(2)で表される化合物が含まれる。
【0057】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0058】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0059】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0060】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0061】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0062】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0063】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0064】
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0065】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。
【0066】
まず、発光層のホスト材料として用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0067】
【化13】
【0068】
【化14】
【0069】
【化15】
【0070】
【化16】
【0071】
【化17】
【0072】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0073】
【化18】
【0074】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0075】
【化19】
【0076】
【化20-1】
【化20-2】
【0077】
【化21】
【0078】
【化22】
【0079】
【化23】
【0080】
【化24】
【0081】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0082】
【化25】
【0083】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0084】
【化26】
【0085】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0086】
【化27】
【0087】
【化28】
【0088】
【化29】
【0089】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0090】
【化30】
【0091】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0092】
【化31】
【0093】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、燐光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
一方、燐光については、本発明の化合物のような通常の有機化合物では、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を含有させることにより、発光効率が高い有機発光素子を提供することができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【0094】
[組成物および膜]
本発明は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を含む組成物も提供する。組成物は、溶液状態であってもよいし、固体状態であってもよい。溶液状態にある場合は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物がともに溶解する溶媒に溶解する。例えばトルエンを用いることができる。
本発明は、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を含む膜も提供する。膜内において一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物は混合されていてもよいし、一般式(1)で表される化合物を含む層と一般式(2)で表される化合物を含む層が積層された構造を含んでいてもよい。一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物を含む膜は、有機発光素子用の膜として有用であるが、それ以外の用途に用いてもよい。
【実施例
【0095】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
以下に記載される発光特性の評価は、紫外可視近赤外分光光度計(パーキンエルマー社製:Lambda950-PKA)、蛍光分光光度計(HORIBA社製:FluoroMax-4)、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製:PMA-12C10027-01)、光励起絶対発光量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製:C9920PMA-11)、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社製:C11367-25)、およびストリークカメラ(浜松ホトニクス社製:U8167-1)を用いて行った。また、本実施例では、発光寿命が100ns以下の蛍光を即時蛍光と判定し、発光寿命が0.1μs以上の蛍光を遅延蛍光と判定した。
【0096】
(合成例1) 化合物1の合成
[第1段]
【化32】
【0097】
窒素雰囲気下、1,3-ジブロモベンゼン(25.0g、106mmol)、アニリン(20.3ml、223mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)(Pd(dba))(971mg、1.06mmol)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP:1.98g、3.18mmol)、NaOtBu(25.5g、265mmol)およびトルエン(400ml)の入ったフラスコを110℃に加熱し、18時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、シリカゲルを用いて濾過し(溶離液:トルエン)、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物をトルエンに溶解させた後、適当量を減圧留去し、ヘキサンを加え再沈殿させることで、N,N-ジフェニルベンゼン-1,3-ジアミン(16.5g、収率60%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=5.63(s,2H)、6.60(dd,2H)、6.74(t,1H)、6.90(t,2H)、7.06(d,4H)、7.12(t,1H)、7.24(dt,4H).
【0098】
[第2段]
【化33】
【0099】
窒素雰囲気下、1,3-ジブロモ-5-クロロベンゼン(8.11g、30mmol)、ジフェニルアミン(10.1g、60mmol)、Pd(dba)(550mg、0.6mmol)、2-ジシクロヘキシルフェニルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシジフェニル(SPhos:0.493g、1.2mmol)、NaOtBu(8.60g、90mmol)およびトルエン(300ml)の入ったフラスコを80℃に加熱し、15時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、シリカゲルを用いて濾過し(溶離液:トルエン)、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物をトルエンに溶解させた後、減圧留去することで飽和溶液を調製し、ヘキサンを加え再沈殿させることで、5-クロロ-N,N,N,N-テトラフェニルベンゼン-1,3-ジアミン(5.66g、収率43%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=6.56(d,2H)、6.64(t,1H)、7.00(t,4H)、7.05(d,8H)、7.21(dd,8H).
【0100】
[第3段]
【化34】
【0101】
窒素雰囲気下、第1段で合成したN,N-ジフェニルベンゼン-1,3-ジアミン(1.34g、5.1mmol)、第2段で合成した5-クロロ-N,N,N,N-テトラフェニルベンゼン-1,3-ジアミン(4.80g、11mmol)、Pd(dba)(0.140g、0.15mmol)、トリ-tert-ブチルホスフィン(60.7mg、0.30mmol)、NaOtBu(1.47g、15mmol)およびトルエン(200ml)の入ったフラスコを110℃に加熱し、8時間撹拌した。反応液を室温まで冷却し、シリカゲルを用いて濾過し(溶離液:トルエン)、溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物をヘキサン、メタノールの順に洗浄することで、N,N’-(1,3-フェニレン)ビス(N,N,N,N,N-ペンタフェニルベンゼン-1,3,5-トリアミン(4.80g、収率87%)を白色固体として得た。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=6.38(d,4H)、6.41(t,2H)、6.58(dd,2H)、6.70(t,1H)、6.88-6.90(m,14H)、6.85(t,1H)、6.99(d,16H)、7.08-7.15(m,20H).
【0102】
[第4段]
【化35】
【0103】
,N’-(1,3-フェニレン)ビス(N,N,N,N,N-ペンタフェニルベンゼン-1,3,5-トリアミン(3.24g、3.0mmol)およびオルトジクロロベンゼン(400ml)の入ったフラスコに、窒素雰囲気下、室温で、三臭化ホウ素(1.13ml、12mmol)を加えた。滴下終了後、180℃まで昇温して20時間撹拌した。その後、再び室温まで冷却して、N-ジイソプロピルエチルアミン(7.70ml、45mmol)を加え、発熱が収まるまで撹拌した。その後、60℃で減圧下、反応溶液を留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物をアセトニトリル、メタノール、トルエンの順に洗浄し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:トルエン)で精製後粗体をo-ジクロロベンゼンで2回再結晶を行い、その後1×10-4mmHgの減圧下、440℃にて昇華精製を行うことで、化合物1を1.17g得た。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ=5.72(s,2H)、5.74(s,2H)、5.86(s,1H)、6.83(d,2H)、6.88-6.93(m,12H)、7.05(t,8H)、7.12-7.19(m,6H)、7.24-7.26(m,4H)、7.05(d,4H)、7.12(dd,8H)、7.12-7.19(m,6H)、7.32(d,4H)、7.38(dd,2H)、7.42(t,2H)、7.46(dd,2H)、7.47(dd,4H)、9.30(d,2H)、10.5(s,1H).
13C-NMR(101MHz,CDCl):99.5(2C+2C)、103.4(1C)、116.8(2C)、120.0(2C)、123.1(4C)、125.3(8C)、127.1(2C)、127.6(2C)、128.5(8C)、129.6(4C)、129.8(4C)、130.2(4C+2C)、130.3(4C)、135.0(2C)、142.1(2C)、142.5(2C)、143.3(1C)、146.8(4C)、147.9(2C+2C)、148.0(2C)、150.1(2C)、151.1(2C).
【0104】
(合成例2) 化合物2-38の合成
[第1段および第2段]
【化36】
【0105】
窒素気流下、トリブチル錫クロリド(5.06g、4.45mL、13.78mmol)および、4-ブロモ-2,3,5,6-テトラフルオロベンゾニトリル(2.92g、11.50mmol)のトルエン溶液(50mL)に、トリ(о-トリル)ホスフィン(0.525g、1.72mmol)およびトリス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)(1.57g、1.72mmol)を加え、100℃に昇温し、21時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、セライトろ過した。次に、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=1:2)で精製し、白色固体の化合物a(2.42g、9.63mmol、収率83.7%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=7.56-7.51(m,3H),7.48-7.45(m,2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値251.0、観測値251.1
【0106】
窒素気流下、水素化ナトリウム(60% 鉱物油分散物、0.125g、3.14mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10mL)に9H-カルバゾール(0.397g、2.38mmol)を加え、室温1時間攪拌した。この混合物を-50℃に冷却し、化合物a(0.3g、1.19mmol)を加え、冷却バスを取り外し、徐々に室温に戻しながら22時間攪拌した。この反応混合物を氷水に加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:2)で精製し、黄色固体の化合物b(0.486g、0.89mmol、収率74.8%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=8.16(d,J=7.5Hz,4H)、7.62-7.59(m,2H)、7.54-7.49(m,7H)、7.38(dt,J=7.5Hz,1.0Hz,4H),7.30(d,J=7.5Hz,4H)、
ASAPマススペクトル分析:理論値545.2、観測値545.2
【0107】
[第3段]
【化37】
【0108】
窒素気流下、3,6-ジフェニルカルバゾール(0.66g、2.06mmol)と炭酸カリウム(0.43g、3.11mmol)の1-メチル-2-ピロリドン溶液(10mL)に化合物b(0.45g、0.825mmol)を加え、100℃、48時間攪拌した。この混合物を室温に戻し、水を加えてクエンチし、酢酸エチルにより抽出、有機層を飽和食塩水により洗浄、無水硫酸マグネシウムにより乾燥させた。これを減圧濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:ヘキサン=1:1)で精製し、黄色固体の化合物2-38(0.575g、0.502mmol、収率60.9%)を得た。
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=7.81(d,J=1.5Hz,4H)、7.72-7.70(m,4H)、7.54-7.52(m,8H)、7.43(t,J=7.5Hz,8H)、7.32(t,J=7.5Hz、4H)、7.29-7.06(m,20H)、6.86-6.83(m,2H)、6.61-6.58(m,1H)、6.56-6.52(m,2H)
ASAPマススペクトル分析:理論値1143.4、観測値1143.4
【0109】
(合成例3) 化合物2-117の合成
[第1段]
【化38】
【0110】
窒素雰囲気下で9H-カルバゾール(167mg、1mmol)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解し、0℃でNaH(40mg、1mmol)を加えて室温で30分間撹拌した。その後、テトラフルオロベンゾニトリル(175mg、1mmol)を加え、室温で16時間撹拌した。水でクエンチして沈殿物を濾別し、粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、中間体aを得た(収量193mg、収率60%)。
1H NMR (500 MHz, CDCl3, 298 K, relative to Me4Si): δ = 8.16 (d, 2H, 7.5 Hz), 7.53-7.58 (m, 1H), 7.48 (t, 2H, 7.0 Hz), 7.38 (t, 2H, 7.5 Hz), 7.11 (d, 2H, 8.0 Hz); 13C NMR (126 MHz, CDCl3): δ = 155.8, 155.7, 153.8, 153.7, 150.9, 150.8, 150.7, 150.1, 150.0, 149.9, 148.8, 148.7, 148.6, 148.0, 147.9, 147.8, 140.0, 126.6, 124.4, 124.3, 124.3, 124.2, 124.2, 121.6, 120.8, 112.2, 112.0, 111.9, 111.8, 109.4, 109.3, 109.2,109.2, 105.5, 105.4;
19F NMR (471 MHz, CDCl3): δ = -114.32 (m, 1H), -128.05 (m, 1H), -130.54 (m, 1H);
MS (APCI) calcd. for C19H9F3N2:
m/z = 322.08; found: 322.17 [M]+.
【0111】
[第2段]
【化39】
【0112】
窒素雰囲気下で3,6-ジフェニル-9H-カルバゾール(957mg、3mmol)を乾燥N、N-ジメチルホルムアミド(30mL)に溶解して、0℃でNaH(120mg、3mmol)を加えて、室温で30分間撹拌した。その後、2-(9H-カルバゾール-9-イル)-3,5,6-トリフルオロベンゾニトリル(322mg、1mmol)を加え、150℃で16時間加熱した。水でクエンチして沈殿物を濾別し、粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、化合物2-117を得た(収量976mg、収率80%)。
1H NMR (500 MHz, Acetone-d6, 298 K, relative to Me4Si): δ = 9.07 (s, 1H), 8.36 (s, 2H), 8.29 (d, 4H, 10.0 Hz), 7.95-8.00 (m, 10H), 7.55-7.70 (m, 18H), 7.30-7.45 (m, 20H), 7.18 (t, 2H, 7.0 Hz). 13C NMR (126 MHz, Acetone-d6): δ = 143.1,143.1, 142.1, 142.0, 141.6, 141.5, 141.0, 140.7, 140.2, 140.0, 136.2, 135.9, 135.8, 130.6, 130.5, 128.8, 128.8, 128.7, 128.5, 128.4, 127.6, 126.8, 126.7, 126.7, 126.5, 126.42, 125.8, 122.9, 122.0, 120.5, 120.4, 120.4, 113.4, 112.9, 112.7, 112.7.
MS (APCI) calcd. for C91H57N5:
m/z = 1220.5; found: 1221.0 [M]+. Elemental analysis calcd. (%) for C91H57N5: C 89.55, H 4.71, N 5.74; found: C 89.51, H 4.65, N 5.72.
【0113】
(予備測定) 化合物1と化合物2-38の測定
化合物1のトルエン溶液と化合物2-38のトルエン溶液を調製した(各濃度は10-5mol/L)。
化合物1のトルエン溶液と化合物2-38のトルエン溶液について、300Kでスペクトル測定を行った結果を図2に示す。図2上段には、化合物1のトルエン溶液の吸収スペクトルと、化合物2-38のトルエン溶液に波長360nmの励起光を照射したときの発光スペクトルを示している。450nm前後の領域で、両者に重なりがあることが確認された。化合物1のトルエン溶液に波長360nmの励起光を照射したときの発光スペクトルは、図2下段に破線で示してある。
【0114】
化合物2-38の最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)を下記の方法にしたがって測定した。
(1)最低励起一重項エネルギー準位(ES1
化合物2-38のトルエン溶液の発光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求めた。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とした。ES1は2.79eVであった。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
(2)最低励起三重項エネルギー準位(ET1
化合物2-38のトルエン溶液を77[K]に冷却し、励起光(337nm)を照射し、ストリークカメラを用いて燐光強度を測定した。励起光入射後1ミリ秒から入射後10ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の燐光スペクトルを得た。この燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求めた。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とした。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引いた。燐光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考えた。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該燐光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とした。
(3)測定結果
化合物2-38の最低励起一重項エネルギー準位(ES1)は2.79eVであり、最低励起三重項エネルギー準位(ET1)は2.66eVであった。ES1-ET1を計算することにより、ΔESTは0.13eVと計算された。
【0115】
(実施例1) 化合物1と化合物2-38を含む薄膜の調製と測定
真空度5×10-4Pa以下で石英基板上に化合物1と化合物2-38とmCBP[3,3’-ジ(9H-カルバゾール-9-イル)-1,1’-ビフェニル]を異なる蒸着源から共蒸着させることにより厚さ50nmの薄膜を形成した(化合物1が1重量%、化合物2-38が25重量%、mCBPが74重量%)。この薄膜を、実施例1の薄膜とした。
実施例1の薄膜に対して、波長360nmの励起光を照射したときの発光スペクトルを、図2下段に実線で示す(FWHMは20nm)。化合物1の発光スペクトルと一致していることが確認された。実施例1の薄膜のフォトルミネッセンス量子効率は75%であり、遅延成分は30%であった。ここでは、発光寿命が0.1μs未満の蛍光を即時蛍光と判定し、発光寿命が0.1μs以上の蛍光を遅延蛍光と判定して遅延成分の割合を求めた。
【0116】
(実施例2) 化合物1と化合物2-38を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の調製と測定
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度2×10-5Paで積層した。
まず、ITO上にHATCNを10nmの厚さに蒸着して正孔注入層を形成し、その上に、TrisPCzを30nmの厚さに蒸着して正孔輸送層を形成した。続いて、mCBPを5nmの厚さに蒸着して電子阻止層を形成した。次に、化合物1と化合物2-38とmCBPを異なる蒸着源から共蒸着させることにより厚さ50nmの発光層を形成した(化合物1が1重量%、化合物2-38が25重量%、mCBPが74重量%)。その上に、SF3-TRZを10nmの厚さに蒸着して正孔阻止層を形成し、その上に、SF3-TRZ:LiQ(重量比7:3)を20nmの厚さに蒸着して電子輸送層を形成した。さらにLiQを2nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに形成することにより陰極を形成することにより、実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0117】
(実施例3) 化合物8と化合物2-117を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の調製と測定
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度2×10-5Paで積層した。
まず、ITO上にHATCNを10nmの厚さに蒸着して正孔注入層を形成し、その上に、TrisPCzを30nmの厚さに蒸着して正孔輸送層を形成した。続いて、mCBPを5nmの厚さに蒸着して電子阻止層を形成した。次に、化合物8と化合物2-117とmCBPを異なる蒸着源から共蒸着させることにより厚さ30nmの発光層を形成した(化合物8が0.5重量%、化合物2-117が15重量%、mCBPが84.5重量%)。その上に、SF3-TRZを10nmの厚さに蒸着して正孔阻止層を形成し、その上に、SF3-TRZ:LiQ(重量比7:3)を20nmの厚さに蒸着して電子輸送層を形成した。さらにLiQを2nmの厚さに形成し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに形成することにより陰極を形成することにより、実施例3の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0118】
【化40】
【0119】
実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子からの発光は、CIE-XYZ表色系における色度座標xが0.151、yが0.256であり、良好な青色発光であった。実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子の蛍光スペクトルを測定したところ、化合物1と同じ発光極大波長を有していたことから、化合物1からの発光であることが確認された。実施例2の素子と、化合物1(1重量%)とmCBP(99重量%)からなる発光層に変えた点だけが異なる比較用の有機エレクトロルミネッセンス素子(比較素子1)と、化合物2-38(25重量%)とmCBP(75重量%)からなる発光層に変えた点だけが異なる比較用の有機エレクトロルミネッセンス素子(比較素子2)の各過渡減衰曲線を測定した結果を図3に示す。比較素子1から実施例2の素子になることにより、遅延成分の割合が増加していることから、化合物2-38から化合物1へのエネルギー移動がなされたことが確認された。
実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率は、1000nit(1.8lm/W)で20%を上回る高い値であった。化合物1(1重量%)とmCBP(99重量%)からなる発光層に変えた点だけが異なる比較用の有機エレクトロルミネッセンス素子(比較素子1)の外部量子効率が8%であったことから、実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子は大幅な量子効率の向上を達成している。また、実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光強度が測定開始時の95%になるまでの時間(LT95)は、750nit(1.35lm/W)で約100時間であり、長い寿命を有することが確認された。
また、実施例3の有機エレクトロルミネッセンス素子は発光極大波長が469nmであり、外部量子効率が最大22.5%であった。実施例3においても、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子が高い発光効率を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の有機発光素子は高い発光効率を有する。また、本発明によれば、良好な青色を発光する高効率の有機発光素子を提供することが可能である。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0121】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1
図2
図3