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  • 特許-体温上昇剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】体温上昇剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20230214BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230214BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230214BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230214BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230214BHJP
【FI】
A61K36/185
A61P3/00
A61K8/9789
A61Q19/00
A23L33/105
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018234343
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020094018
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 尚貴
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094019(JP,A)
【文献】特開2018-158891(JP,A)
【文献】特開2012-126683(JP,A)
【文献】FoodStyle21, 2018, Vol.22 No.7, p.30-37
【文献】株式会社わかさ生活HP 「わかさの秘密 ハイビスカス」,2016年03月01日,https://himitsu.wakasa.jp/contents/hibiscus/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/185
A61P 3/00
A61K 8/9789
A61Q 19/00
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローゼルに含水エタノールを加えて、ローゼルの含水エタノール抽出物を得る工程と、
前記含水エタノール抽出物にヘキサンを加えて、ローゼルの含水エタノール-ヘキサン抽出物を得る工程と、
を含む、ローゼルの含水エタノール-ヘキサン抽出物を有効成分として含む体温上昇剤組成物の製造方法。
【請求項2】
ローゼルの含水エタノール抽出物を得る工程が、ローゼルにエタノール含有量が50質量%以上の含水エタノールを加えて加温攪拌することを含み、
ローゼルの含水エタノール-ヘキサン抽出物を得る工程が、前記含水エタノール抽出物を濃縮後、ヘキサン、エタノール及び水を加えて溶媒分配を行い、上層を得ることを含む、請求項1記載の体温上昇剤組成物の製造方法。
【請求項3】
体温上昇剤組成物が、経口投与用または非経口投与用組成物である、請求項1または2に記載の体温上昇剤組成物の製造方法。
【請求項4】
体温上昇剤組成物が、医薬、化粧品、または食品の形態にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の体温上昇剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性が高い、継続的摂取が可能な体温上昇剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
夏場の冷房による冷え、冬季の体温低下に対して暖める手段としては手足のマッサージや市販の保温材の使用や、暖かい飲料の摂取などにより熱を取り込む等の方法がある。しかしながらこれらの対策は体表温度の低下抑制や一時的な体温維持効果しか見込めない。また近年は高齢化に伴い、自律神経の調節力低下、低血圧、貧血などの症状で知られる「冷え性」の症状を訴える患者数が増加している。
こうした状況に対して障害部位の局所で十分な治療効果を有し、全身への影響が少なく、且つ高齢者に対しても安全性が高く、末梢血流障害によって惹起される冷感、痺れ、疼痛等の症状を治療しうる体温上昇剤の開発が切望されている。
体温上昇のためには局部のマッサージやサウナなどの温浴療法による外部温熱装置からの加温が有効とされている。しかしながらマッサージでは効果が一時的であること、またサウナによる温浴療法は体表面からの加温によるため加温効率が悪く、大量の熱源が必要となってしまうことなど問題点が生じる。
これまで体温上昇剤としてアザミ族植物又はその抽出物(特許文献1)、15-ケトプロスタグランジンE類(特許文献2)や体温上昇装置として呼吸器を加熱する人体深部体温上昇装置(特許文献3)の提案がなされている。これらの提案は末梢における体温の上昇、深部体温の上昇に関わる発明であるが、体温上昇剤については摂取により一時的な効果は見込めるものの、長時間にわたった持続性があるとは限らず、体温上昇装置については大型の設備が必要になるなどの問題点が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-139485号公報
【文献】特開平1-151519号公報
【文献】特表2013-518692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、安全性が高く、継続的摂取が可能な体温上昇剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
アオイ科フヨウ属ローゼル(Hibiscus sabdariffa)の有機溶媒抽出物を有効成分とする組成物によって上記課題を解決した。特にローゼルをアルコール含有溶媒により抽出することにより高い体温上昇効果を持つ抽出物を作製することに成功した。
本発明は以下を提供する。
(1)ローゼルの有機溶媒抽出物を含む、体温上昇剤組成物。
(2)有機溶媒抽出物の有機溶媒が、アルコールを含む、(1)記載の体温上昇剤組成物。
(3)有機溶媒抽出物の有機溶媒が、アルコール及びアルカンを含む、(2)記載の体温上昇剤組成物。
(4)経口投与または非経口投与用組成物である、(1)~(3)のいずれか一に記載の体温上昇剤組成物。
(5)医薬、化粧品、または食品である、(1)~(4)のいずれか一に記載の体温上昇剤組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明のローゼルの有機溶媒抽出物を含む体温上昇剤組成物を投与することにより、即時的にかつ持続的にヒトまたは動物の体温を上昇させることができる。ローゼルは沖縄地方などでの食経験があり、安全性の高い植物であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ローゼル有機溶媒抽出物の投与後60分間にわたる体温変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の体温上昇剤組成物は、ローゼルの有機溶媒抽出物を含む。
ローゼルは、学名をHibiscus sabdariffa Lといい、アオイ科フヨウ属に属する植物である。
ローゼルは萼や蔕はハイビスカスティーとして親しまれ、葉はアジアでは野菜として生食されていることが知られており、食経験が豊富であり、安全性の高い食品であるといえる。
ローゼル(植物体)の全体を抽出に用いてもよく、葉、茎、花(萼(がく)及び蔕(へた)を用いてもよい。特に萼及び/又は蔕の部分を用いることが好ましい。
ローゼルは、収穫した後そのまま抽出に用いてもよく、または乾燥したものを用いてもよく、さらに凍結乾燥したものや、乾燥後に粉末状にしたものを用いてもよい。
【0009】
本発明ではローゼルを有機溶媒により抽出したローゼル有機溶媒抽出物を用いる。
有機溶媒としては特に制限は無いが、例えば、メタノール、含水メタノール、エタノール、含水エタノール、プロパノール、含水プロパノール、ブタノール等のアルコール類あるいは含水アルコール類を例とするアルコール含有溶媒、メチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のグリコール類、グリセリン、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等の酸エステル類、ジエチルエーテル等のアルキルエーテル類、ペンタン、ヘキサン等のアルカン類、さらに前記有機溶媒の2以上の組合せが挙げられる。
アルコールを含む有機溶媒が好ましく、より好ましくは、エタノール、含水エタノールを含むアルコールが挙げられる。含水エタノールは、エタノール含量が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
本発明の有機溶媒としてさらに好ましくは、アルコール及びアルカンを含む。アルカンとして好ましくは炭素数5~8までの非環式アルカンであり、より好ましくはヘキサンである。
【0010】
本発明ではまた、2種類以上の異なる溶媒を組合わせて抽出することにより、体温上昇効果がより高い抽出物を得ることが可能である。例えば、アルコール類やグリコール類の極性溶媒とアルキルエーテル類やアルカン類のような非極性溶媒とを組合わせて用いてもよい。さらに、アルコール類やグリコール類の極性溶媒により抽出を行った後、アルキルエーテル類やアルカン類のような非極性溶媒を用いて抽出を行ってもよい。より具体的には例えば、アルコール類あるいは含水アルコール類を含むアルコール含有溶媒で抽出してアルコール抽出物(さらに具体的にはエタノール抽出物)を得た後、ヘキサン等のアルカン類によりさらに抽出を行って得たアルコール-アルカン抽出物(さらに具体的には、エタノール-ヘキサン抽出物)が挙げられる。
【0011】
有機溶媒による抽出は、上述した有機溶媒をローゼル植物に添加し、攪拌しながら、必要に応じて加温しながら行うことが収量の観点から好ましい。例えば、有機溶媒存在下に、室温から当該有機溶媒の沸点程度までの温度で加温しながら抽出を行うことが好ましい。より好ましくは60~80℃の温度である。抽出時間は少なくとも1時間、より好ましくは1~5時間、さらに好ましくは2~3時間程度である。
有機溶媒の量は、植物の状態(乾燥しているか否か、粉末状かどうか)や溶媒の種類により適宜変えることができるが、例えば、ローゼルの乾燥物1gに対して1~200ml程度、あるいは10~50ml程度である。
2種類以上の異なる溶媒を組合わせて抽出する場合には、これらの溶媒を単に混合して用いてもよく、あるいは、1種類の溶媒でまず抽出を行い、それを濃縮し、その後さらに他の溶媒を加えて抽出を行ってもよい。
2種類以上の異なる溶媒を組合わせて抽出する場合には、例えば、ローゼルの乾燥物1gに対して、第1の溶媒を1~200ml程度、好ましくは10~50ml程度用いて抽出し、濃縮後、第2の溶媒を第1の溶媒と同程度用いてさらに抽出を行ってもよい。
植物由来の固形物を濾過して除いた濾過物を濃縮して得られた濃縮物をそのまま用いてもよく、あるいはさらに水相-有機相に分配して、有機相の濃縮物を用いてもよい。
【0012】
本発明のローゼル有機溶媒抽出物の体温上昇効果については、例えば、テレメトリー計測手法により確認することができる((i)「生体機能評価の領域を広げるテレメトリー法」社団法人日本実験動物協会、Japanese society of laboratory Animals、No8、APR2002、p5~p8、(ii)Greeneら、Journal of Pharmacological and Toxicological Methods, 56 (2007), 218-222)。
本明細書において体温上昇効果は、コントロール(プラセボ)に対し、有意に温度上昇が見られることであり、好ましくは30分以上有意な温度上昇が継続することである。
本発明のローゼル有機溶媒抽出物を含む体温上昇剤組成物は、効果を奏する量において適宜投与することができる。例えばヒトを含む哺乳動物に対し、一日あたり0.01g/kg体重~0.1g/kg体重程度で投与してもよい。
【0013】
本発明のローゼル有機溶媒抽出物を含む体温上昇剤組成物は、医薬品、化粧品、食品として用いることができる。医薬品には医薬部外品も含まれる。
本発明のローゼル有機溶媒抽出物を含む体温上昇剤組成物は、助剤と共に任意の形態に製剤化して、経口投与又は非経口投与が可能である。例えば、経口投与用の剤形としては、例えば錠剤、口腔内速崩壊錠、カプセル、顆粒、細粒等の固形投薬形態、シロップ及び懸濁液のような液体投薬形態が挙げられる。非経口投与用の剤形としては、例えば注射剤、点眼剤、点鼻剤、貼付剤、坐剤、皮膚外用剤の形態が挙げられる。
【0014】
固形投薬形態とする場合、一般製剤の製造に用いられる種々の添加剤を適当量含んでいてもよい。このような添加剤としては、例えば賦形剤、結合剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、界面活性剤等が挙げられる。
液体投薬形態とする場合、本発明のローゼル抽出物は、必要に応じてpH調整剤、緩衝剤、溶解剤、懸濁剤等、等張化剤、安定化剤、防腐剤等の存在下、常法により製剤化することができる。
【0015】
皮膚外用剤の形態としては、特に限定されず、例えば、軟膏剤、クリーム剤、外用液剤等の医薬品等とすることができる。上記成分以外に、通常医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、各種皮膚栄養成分、紫外線吸収剤、酸化防止剤、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、色剤、水、防腐剤、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0016】
本発明のローゼル有機溶媒抽出物を含む体温上昇剤組成物は、機能性食品、健康食品、特定保健用食品、栄養機能食品等の保健機能食品、特別用途食品(例えば、病者用食品)、健康補助食品、サプリメント等として調製されてもよい。サプリメントとして、例えば、一般的なサプリメントの製造に用いられる種々の添加剤と共に錠剤、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等の形状とすることができる。
【0017】
本発明のローゼル有機溶媒抽出物を含む体温上昇剤組成物は、飲食品に配合することができる。配合可能な飲食品としては、特に限定はないが、例えば、飴、グミ、チューインガム等の菓子類;クッキー、クラッカー、ビスケット、チョコレート、プリン、ゼリー、スナック菓子、米菓、饅頭、羊羹等の菓子類;アイスクリーム、アイスキャンディー、シャーベット、ジェラート等の冷菓;ドーナツ、ケーキ、食パン、フランスパン、クロワッサン等のベーカリー食品;うどん、そば、中華麺、きしめん等の麺類;白飯、赤飯、ピラフ等の米飯類;カレー、シチュー、ドレッシング等のソース類;ハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージ等の練り製品;天ぷら、コロッケ、ハンバーグ等の各種惣菜類;ジュース、お茶等の飲料等が挙げられる。
【実施例
【0018】
ローゼル抽出物作製
ローゼル凍結乾燥物44.2gに880mlの80%エタノールをセパラブルフラスコに添加し、70℃に加温しながら2時間攪拌しながら抽出を行った。抽出液はエバポレーターにより濃縮し、20.1686gのローゼルエタノール抽出物を得た。
ローゼルエタノール抽出物に対して700mlのヘキサン、100mlのエタノール、200mlの蒸留水を添加し、溶媒分配を行った。分配後は上層を採取し、エバポレーターにより濃縮を行い562.2mgのローゼルエタノール-ヘキサン抽出物を得た。ローゼルエタノール-ヘキサン抽出物は25mg/mlの濃度になるようにvehicle(生理食塩水+3%エタノール+10%Tween80)に溶解し、動物試験に使用した。
【0019】
動物試験
C57BL/6マウス雄8~9週齢をペントバルビタール10mg/kgを腹腔投与により麻酔を実施し、正向反射の消失を確認した。麻酔後は首部の左側を開き、頚動脈を露出させた後、慢性実験テレメトリー自動測定システム送信機HD-X10(プライムテック社)のカテーテルを頚動脈に注入し、また腹部には送信機本体を埋没し、縫合した。縫合後は4日間の回復期間の後、慢性実験テレメトリー自動測定システムPhysiol Tel and PONEMAH (プライムテック社)の受信ステージにケージをセットし、マウスを6匹1群としてコントロール群(vehicle投与)および、ローゼルエタノール-ヘキサン抽出物群(ローゼルエタノール-ヘキサン抽出物 100mg/kg/4ml in vehicle)の2群を同一個体において連続で測定した。測定は午前9~10時を投与前測定とし、午前10時ちょうどに経口投与を行い、そこから23時間にわたってデータを採取した。採取したデータは1時間ごとにまた、投与後直後1時間以内においては1分ごとにデータを平均化し、投与前測定前体温からの変化量(体温変化)を経時的に示した。
得られたデータは群間ごとにt検定を行い、p値が0.05以下となる点にはグラフ上に**をつけた(図1)。
なお、本試験に供したマウスはローゼルエタノール-ヘキサン抽出物の経口投与後14日間以上生存した。
【0020】
図1からわかるように、ローゼルエタノール-ヘキサン抽出物をマウスに投与することで摂取直後からの即時的な体温上昇効果を示すことが認められた。
本発明の体温上昇剤組成物は冷え性の症状の改善のみならず、日常生活での体温の上昇によって基礎代謝が高くなるという著効を奏することも期待される。また即時的な体温上昇効果も示すことからアスリートなどへのウォーミングアップの補助剤としての用途も期待される。
図1