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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】油ちょうベーカリー食品用乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20230215BHJP
   A21D 8/00 20060101ALI20230215BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20230215BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D8/00
A21D13/60
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018237223
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020096572
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】大柳 杏里
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-218409(JP,A)
【文献】特開平10-262541(JP,A)
【文献】特開平09-154474(JP,A)
【文献】特開2010-268693(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212128(WO,A1)
【文献】特表2001-516223(JP,A)
【文献】特開2016-214230(JP,A)
【文献】特開2001-057844(JP,A)
【文献】広沢京子著,DOUGHNUTS!DOUGHNUTS!,2010年,主婦の友社,p.54-55
【文献】ユニテックフーズ パン生地改良剤製剤一覧,ユニテックフーズ株式会社,2018年01月18日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、
穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を乳化物の状態で0.2~4.2質量部含み、
穀粉100質量部に対し、油脂を40~150質量部含み、
水の質量に対する油脂の質量の比(油脂/水比)が、0.3~1.2である、
ことを特徴とする、油ちょうベーカリー食品用生地。
【請求項2】
穀粉100質量部に対し、油脂を40~110質量部含むことを特徴とする、請求項1記載の油ちょうベーカリー食品用生地。
【請求項3】
穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、
穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を非乳化物の状態で0.5~4.2質量部み、
穀粉100質量部に対し、油脂を40~100質量部含み、
水の質量に対する油脂の質量の比(油脂/水比)が、0.3~0.9である、
ことを特徴とする、油ちょうベーカリー食品用生地。
【請求項4】
油脂が液状油から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の油ちょうベーカリー食品用生地。
【請求項5】
請求項1または2に記載の油ちょうベーカリー食品用生地の製造方法であって、セルロース誘導体を油脂及び水と混合して乳化物を作製し、前記乳化物を生地に添加することを特徴とする、上記製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の油ちょうベーカリー食品生地あるいは請求項記載の製造方法により製造された油ちょうベーカリー食品用生地を、油ちょうすることを含む、ベーカリー食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油ちょうベーカリー食品用乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に揚げ菓子や揚げパン等の油ちょうベーカリー食品は、穀粉あるいは穀粉を含むミックス粉に水や卵、液状油を加えて生地をつくり、フライして製造する。
焼成するパン類又は菓子類の生地において油脂や糖の配合が多いものは、しっとりした食感を有する製品を製造できるが、フライなどの油ちょう処理をするパン類又は菓子類の生地において油脂や糖配合を多くすると、油ちょう中に生地から油脂が溶出し、形状を保つことができない。
特許文献1又は2には、油ちょうされたドウ組成物の吸油を低減させることを目的としてメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースを生地に添加すると十分な吸油低減効果が得られないという問題に対し、これらのセルロースエーテルの水溶液を添加して製造した油ちょう用ドウ組成物を油ちょうすると、吸油量が大幅に低減された製品が得られたことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-268693号公報
【文献】特開2005-218409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フライなどの油ちょうにより製造されるベーカリー食品において、しっとりして口溶けの良い生地を作製するため、油脂や糖類の配合を多くしようとすると、油ちょう中に生地から油脂が溶出し、形状を保つことができず、フライ中にバラバラに分解してしまい、従来油脂や糖類の配合を多くすることができなかった。形状を保持するためには、油脂や糖類の量を減らすなどの調整を行う以外にないが、この方法では、本来の目的のしっとりして口溶けがよい菓子やパンを得ることはできない。
したがって、本発明の課題は、油脂や糖類を多量に配合した油ちょうベーカリー食品又はそれを製造することができる油ちょうベーカリー食品用生地を提供することである。
本発明のさらなる課題は、油脂や糖類を多量に配合した油ちょうベーカリー食品であって、しっとりとして口溶けのよい油ちょうベーカリー食品、又はそれを製造することできる油ちょうベーカリー食品用生地を提供することである。
さらに、本発明の他の課題は、保形性がよくかつしっとりとした食感を有する油ちょうベーカリー食品又はそれを製造することができる油ちょうベーカリー食品用生地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を乳化物の状態で0.2質量部以上添加した油ちょうべーカリー食品用生地とすることにより、従来製造できなかった、多量の油脂あるいは糖類を含む油ちょうベーカリー食品を製造することが可能となることを見いだした。また、穀粉、水及びセルロース誘導体を含み、さらに油脂を穀粉100質量部に対し40質量部以上含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を非乳化物の状態で0.5質量部以上添加した油ちょうべーカリー食品用生地とすることにより、従来製造できなかった、多量の油脂あるいは糖類を含む油ちょうベーカリー食品を製造することが可能となることを見いだした。すなわち、上記構成の生地とすることにより、油脂あるいは糖類が多量に含まれる生地であっても、油ちょう中に生地が分解せず、形状を保持でき、さらに従来にないしっとりした食感となることを見いだした。
【0006】
よって、本発明は以下を提供する。
(1)穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を乳化物の状態で0.2質量部以上含むことを特徴とする、油ちょうベーカリー食品用生地。
(2)穀粉100質量部に対し、油脂を40質量部以上含むことを特徴とする、(1)記載の油ちょうベーカリー食品用生地。
(3)穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を非乳化物の状態で0.5質量部以上含み、かつ油脂を40質量部以上含むことを特徴とする、油ちょうベーカリー食品用生地。
(4)水の質量に対する油脂の質量の比が、0.3~1.3である、(1)~(3)のいずれか一に記載の油ちょうベーカリー食品用生地。
(5)穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を4.2質量部以下含むことを特徴とする、(1)~(4)のいずれか一に記載の油ちょうベーカリー食品用生地。
(6)穀粉100質量部に対し、水を350質量部以下含むことを特徴とする、(1)~(5)のいずれか一に記載の油ちょうベーカリー食品用生地。
(7)(1)~(6)のいずれか一に記載の油ちょうベーカリー食品用生地を油ちょうしてなるベーカリー食品。
(8)(1)~(6)のいずれか一に記載の油ちょうベーカリー食品生地の製造方法であって、セルロース誘導体を油脂及び水と混合して乳化物を作製し、前記乳化物を生地に添加することを特徴とする、上記製造方法。
(9)(1)~(6)のいずれか一に記載の油ちょうベーカリー食品生地あるいは前記(8)記載の製造方法により製造された油ちょうベーカリー食品用生地を、油ちょうすることを含む、ベーカリー食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の油ちょうベーカリー食品用生地あるいはベーカリー食品の製造方法により、油脂や糖類を多量に加えても油ちょう中に生地が分解せず、形状を保持でき、さらに従来にないしっとりした食感の油ちょう食品が得られる。従来、セルロース誘導体の吸油低減効果は知られていたが、油脂や糖類を多量に含む油ちょうベーカリー食品用生地の油ちょう中に、生地から油脂が溶出し、形状を保つことができず、フライ中にバラバラに分解してしまうことを防ぐことができることは知られていなかった。また、さらに得られた油ちょうベーカリー食品はしっとりとした食感を有する。特に、セルロース誘導体を乳化物とした後、生地に添加すると油ちょう食品がさらにしっとりとした食感を有するものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(油ちょうベーカリー食品用生地)
本発明の油ちょうベーカリー食品用生地の第一の態様は、穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を乳化物の状態で0.2質量部以上含むことを特徴とする、油ちょうベーカリー食品用生地である。
また、本発明の油ちょうベーカリー食品用生地の第二の態様は、穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む油ちょうベーカリー食品用生地であって、穀粉100質量部に対し、セルロース誘導体を非乳化物の状態で0.5質量部以上含み、かつ油脂を40質量部以上含むことを特徴とする、油ちょうベーカリー食品用生地である。
「油ちょう」とは、油で揚げる調理方法を意味し、フライ調理などともいう。油ちょうの温度等の条件は、目的に応じて適宜調整することができる。例えば、160~210℃で1~7分間、あるいは170~200℃で2~3分間程度油ちょうしてもよい。油ちょうに用いられる油は特に限定されるものではない。通常、パーム油、菜種油等である。
【0009】
「油ちょうベーカリー食品」とは、油ちょう調理される、穀粉を用いて製造されるパンあるいは菓子類を意味する。好ましくは揚げパン、ドーナツ等が挙げられる。揚げパンとは、パン生地を成形して油ちょうする製品である。ドーナツは、ドーナツ生地を成形して油ちょうする製品であり、例えば、チュロス、ケーキドーナツ等を含む。
【0010】
「油ちょうベーカリー食品用生地」は、油ちょうする前のベーカリー食品用の生地を意味する。油ちょうベーカリー食品用生地は冷蔵品あるいは冷凍品であってもよい。
【0011】
生地は、少なくとも穀粉、油脂、水及びセルロース誘導体を含む。さらに、糖類を含んでいてもよく、その他、油ちょうベーカリー食品用生地に用いることが知られているその他の材料を含んでいてもよい。
【0012】
本発明において「セルロース誘導体」とは、様々なセルロースの誘導体であり、具体的には、セルロースエーテル、セルロースエステルなどが挙げられる。セルロースエーテルが好ましい。セルロースエーテルとしてより具体的には、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース等が挙げられる。
セルロース誘導体は、水溶液2%粘度(温度20℃)で15mPa・s~250,000mPa・sであることが好ましい。より好ましくは5000mPa・s~250000mPa・sの粘度である。
【0013】
セルロース誘導体は乳化物あるいは非乳化物の形態で用いることができる。例えば、非乳化物として添加する方法としては、生地材料に固体のまま添加して、その後生地を形成してもよく、また、水溶液を作製してから添加してもよい。
乳化物の形態で用いる場合には、セルロース誘導体を、水及び油脂と混合して乳化物を形成してから生地に混合することができる。生地の水の量は穀粉100質量部に対して50~350質量部、油脂の量は40~300質量部程度であることが好ましいが、乳化物に使用する水の量と油脂の量は、穀粉100質量部に対する上述の油脂又は水の量に含まれる。
乳化物の形成方法については後述する。
セルロース誘導体が乳化物の形態で生地に含まれる場合には、穀粉100質量部に対して、0.2質量部以上のセルロース誘導体を含む。好ましくは0.2~4.2質量部であり、さらに好ましくは0.5~4.0質量部である。
セルロース誘導体が非乳化物の形態で生地に含まれる場合には、穀粉100質量部に対して、0.5質量部以上のセルロース誘導体を含む。好ましくは0.5~4.2質量部であり、さらに好ましくは0.6~2.0質量部である。
セルロース誘導体を添加することにより、従来、油ちょうベーカリー食品として製造できなかったような多量の油脂あるいは糖類を含む食品を製造することが可能になった。
【0014】
穀粉としては、薄力粉や強力粉等の小麦粉、並びに米粉などの小麦粉以外の穀粉類を用いることができる。また保形性を維持できる範囲、例えば、(澱粉を含む)穀粉全質量に対し、5~10質量%程度であれば、澱粉を用いてもよい。澱粉としては生澱粉あるいはそれを加工した加工澱粉のいずれでもよい。例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等の澱粉が挙げられる。本発明において「穀粉」の質量について述べる場合には「澱粉」の質量を含む。
【0015】
油脂は、ショートニング、バター、マーガリンのような固体油脂であってもよく、サラダ油、コーン油、大豆油、なたね油等などの液状油であってもよい。生地内での分散性の点から、液状油であることが好ましい。
本発明の油ちょうベーカリー食品用生地は、穀粉100質量部に対し、油脂を40質量部以上含むことが好ましい。より好ましくは40~300質量部である。しっとりした食感の点から、油脂を50質量部~250質量部含むことがより好ましく、60質量部~150質量部であることがさらに好ましく、70質量部~100質量部であることがよりさらに好ましい。
【0016】
糖類は、グラニュー糖、精白糖、粉糖、上白糖、ブドウ糖、麦芽糖等及びこれらの組み合わせが挙げられる。口溶けの点から、グラニュー糖であることがより好ましい。
本発明の油ちょうベーカリー食品用生地は、穀粉100質量部に対し、糖類を30質量部以上含むことが好ましい。口溶けの点から、糖類を40質量部~150質量部含むことより好ましく、80質量部~120質量部であることがよりさらに好ましい。
【0017】
乳化物を作製する場合、生地100質量部に対し、穀粉と糖類の合計量を60~140質量部の範囲で配合できる。穀粉と糖類の割合は30:70~70:30とするのが好ましい。穀粉を配合することはフライ中の固化、形状の補強をする意味がある。糖類は食感のしっとり食感、甘みの付与の意味がある。
【0018】
本発明の生地における、水の質量に対する油脂の質量の比は、0.3~1.3であることが好ましく、さらに0.5~0.9であることがより好ましい。特にセルロース誘導体を乳化物の状態で添加する場合には0.3~1.3であることが好ましい。また、セルロース誘導体を乳化物の状態で添加する場合には0.3~1.1であることが好ましい。かかる範囲において保形性及び食感を良好に維持できるからである。
また、本発明の油ちょうベーカリー食品用生地は、穀粉100質量部に対し、水を50質量部以上含み、350質量部以下含むことが好ましい。作業性の点から、水を90質量部以上含むことより好ましく、100質量部~130質量部であることがよりさらに好ましい。
本発明において、卵などの水分を含む他の資材を用いる場合には、その水分量を換算して、水の添加量に算入する。
【0019】
その他の材料としては、脱脂粉乳等の乳類、卵又は卵黄等の卵類、食塩、香料、着色料、旨味調味料、香辛料等が挙げられる。イーストやべーキングパウダー等の膨張剤を添加すると保形性が悪くなるので使用しない方が好ましいが、保形性を維持できるような量であれば添加してもよい。例えば、穀粉100質量部に対し、1~2質量部程度である。
また、食感改良、味の付与として、糖類や粉乳、ココアパウダー等を添加してもよい。その他の材料は、生地100質量部に対し上限25質量部まで加えることができる。
【0020】
(油ちょうベーカリー食品用生地の製造方法)
本発明の第一の態様の油ちょうベーカリー食品用生地は、穀粉100質量部に対し、乳化物としたセルロース誘導体を0.2質量部以上添加して製造することができる。好ましくは、穀粉100質量部に対し、油脂を40質量部以上添加し、さらに水を80質量部以上添加してもよい。あるいは糖類を40質量部以上添加してもよい。油脂、糖類の好ましい量については上で記載したとおりである。
【0021】
本発明のより好ましい第一の態様の油ちょうベーカリー食品用生地の製造方法は、セルロース誘導体を油脂及び水と混合して乳化物を作製する工程を含み、前記乳化物を、少なくとも穀粉、油脂及び糖類を含む中間生地に添加することを含む方法である。
セルロース誘導体を油脂及び水と混合して乳化物を作製する工程は、例えば、以下のように行うことが好ましい。
油ちょうベーカリー食品用生地に用いる穀粉100質量部に対し、0.2質量部以上のセルロース誘導体を用意し、穀粉100質量部に対し25~55質量部の油脂と、75~45質量部の水を加えてミキシングを行い、乳化物を形成する。
より好ましくは、油脂にセルロース誘導体を添加し、ミキサーでなじむまで混捏し、その後水を添加して、さらに混捏することが好ましい。
ミキシングの条件は、セルロース誘導体の種類や油脂の量や種類及び水の量により適宜変えることができるが、例えば、ビーターを使用し、1速(100rpm)~2速(200rpm)の速度で1~3分間撹拌することが好ましい。このとき温度は8~15℃程度に調整することが好ましい。
【0022】
上記セルロース誘導体の乳化物を製造した後、本発明の油ちょうベーカリー食品用生地の残りの材料を添加して、ミキシングし、生地を製造することが好ましい。
【0023】
本発明の好ましい態様として、以下の工程を含む、油ちょうベーカリー食品用生地の製造方法が挙げられる。
工程1:油脂とセルロース誘導体をミキサーに投入し、ビーターで攪拌した後、水を加えさらに攪拌し、乳化物を製造する(第1ミキシング)
工程2:次に穀粉、糖類を投入し、混捏する(第2ミキシング)
工程3:必要に応じてフロアタイムをとり、生地をなじませた後、成形する。
【0024】
本発明の第二の態様の油ちょうベーカリー食品用生地は、穀粉100質量部に対し、油脂を40質量部以上添加し、非乳化物状態のセルロース誘導体を0.5質量部以上添加して製造することができる。好ましくは、穀粉100質量部に対し、水を80質量部以上添加してもよい。あるいは糖類を40質量部以上添加してもよい。油脂、糖類の好ましい量については上で記載したとおりである。
非乳化物の状態で添加する方法としては、例えば、生地材料にセルロース誘導体を固体のまま添加したり、水溶液を作成してから添加する方法が挙げられる。
【0025】
(油ちょうベーカリー食品の製造方法)
本発明において、油ちょうベーカリー食品は、上述の油ちょうベーカリー食品生地を油ちょうすることにより製造することができる。
本発明の油ちょうベーカリー食品の製造方法の好ましい実施態様は以下の工程を含む。工程4:油ちょうベーカリー食品用生地を、ドーナツ用カッターやディッシャーを使用しフライヤーへ分割し、油ちょうする。
油ちょう条件は特に限定されないが、例えば、160~210℃で1~7分間、あるいは170~200℃で2~3分間程度であってもよい。油ちょうに用いられる油は特に限定されるものではない。通常、パーム油、菜種油等である。
【実施例
【0026】
製造例1:フライ菓子の製造
配合
※1 ユニテックフーズ株式会社製 メトセルTM250M(HPMC)
※2 日本製粉株式会社製 クイン
【0027】
(1)エマルションの作製(第1ミキシング)
サラダ油80質量部にHPMC1.0質量部を添加しミキサー(エスケーミキサー社製、SK-20型)で混捏(ビーター使用1速1分間)しきれいになじんだら、水120質量部を加えさらに混捏し(ビーター使用、3速、2分30秒間、捏ね上げ温度10℃以下)エマルションを得た。
(2)ドーナツ生地の作製(第2ミキシング)
上記エマルション201質量部に小麦粉100質量部とグラニュー糖100質量部を添加し1速1分間、3速30秒間混捏した(捏ね上げ温度15℃~20℃)。
(3)ドーナツの製造
フロア時間を10分間とり、ドーナツカッターにて生地を60gずつ分割し、170℃~200℃の油中で2~3分間フライし目的のフライ菓子を製造した。
【0028】
参考例1~3及び実施例A1、A2及びB1
参考例1~3では製造例1の第1のミキシングを行なわず、表1のすべての配合をミキサーに投入し、第2のミキシングを行なった。実施例A1は、製造例1の第1ミキシングを行わず、ドーナツ生地の作製において、サラダ油と水とHPMCを添加した。実施例A2は、製造例1の第1ミキシングを行わず、予め水とHPMCの水溶液を作製しておき、製造例1の第2ミキシングでサラダ油とともに添加した。B1は製造例1のとおりにドーナツを製造した。
評価基準表1に従い10人のパネラーにより評価した。評価基準において、参考例3の保形性及び食感の値を3.0とした。
【0029】
評価基準表1
【0030】
しっとりして口溶けの良い製品を得るための生地は油脂や糖が多く含まれている(参考例1)。しかし、参考例1ではフライ中に生地が崩壊するので、その対策として油脂と糖を減量するか(参考例2)、小麦粉を増量する(参考例3)ことで形状を保持することができたが食感は必ずしも良好とはいえなかった。HPMCを添加することで保形性がよく食感も良好な製品が得られた(実施例A1)。HPMCを予め水に分散させて水溶液を調製して添加すると、さらにあらかじめエマルションを形成することによって、より食感が改善された(実施例B1)。
【0031】
表1
*参考例1はフライ中に生地が崩壊したため、食感の評価ができなかった。
**あらかじめ水にHPMCを分散させ水溶液として添加した。
【0032】
試験例1 サラダ油と水の量の検討
HPMCをエマルション形成なしに添加した例について、サラダ油と水の量について合計量を小麦粉100質量部に対し200質量部に固定し、サラダ油と水の量の割合を表2-1のように変え、その他は製造例1に従いドーナツを製造した。製造したドーナツを25℃で60分間静置し粗熱がとれた後、パネラー10名により評価基準表1に従って保形性と食感を評価した(表2-1)。
【0033】
表2-1
【0034】
HPMCをエマルション形成させて添加した例について、サラダ油及び水の配合量を表2-2のように変え、その他は製造例1に従いドーナツを製造した。製造したフライ菓子を25℃で60分間静置し粗熱がとれた後、パネラー10名により評価基準表1に従って評価した(表2-2)。
【0035】
表2-2
【0036】
(結果)
実施例A1では、保形性がよく、また食感もかなりしっとりしており口どけが良かった。実施例A3及びA4も形状を保ち、また食感もしっとり感が残っていた。
実施例B1では、保形性及びしっとり感共に非常に良好であった。実施例B3、B4も保形性、食感ともに良好であった。
実施例B2及びB5では保形性がやや安定せず、食感もしっとり感はあるが油っぽくべたつき口溶けがわるいか、あるいはしっとり感がなくなっていた。
【0037】
試験例2 HPMC量の検討
エマルション作製に必要なHPMC量検討のため、HPMCの配合量を表3-1及び3-2のように変え、その他は製造例1に従いフライ菓子を製造した。製造したフライ菓子を25℃で60分間静置し粗熱がとれた後、パネラー10名により評価基準表1に従って評価した。
【0038】
表3-1
【0039】
表3-2
【0040】
比較例A1は形状が保てないので不適であった。実施例A5は良好だが実施例B7より劣っていた。
実施例B6及びB7は保形性、食感共に良好であった。実施例B8は保形性は問題ないが、食感が硬くぱさついた。
比較例B1は形状が安定せず、食感もしっとりしているが油っぽくべとつき口溶けがわるいので不適であった。
【0041】
試験例3 MC及びHPMCの種類の検討
エマルション作製に必要なMC又はHPMCの種類の検討の為、表4-1及び4-2のように種類を変え、その他は製造例1に従いフライ菓子を製造した。製造したフライ菓子を25℃で60分間静置し粗熱がとれた後、パネラー10名により評価基準表1に従って評価した。
【0042】
表4-1
【0043】
表4-2
※1 ユニテックフーズ株式会社製 メトセルTM250M(HPMC)
※2 ユニテックフーズ株式会社製 メトセルMx0209(MC)
※3 信越化学工業株式会社製 メトローズMCE4000(MC)
【0044】
実施例B1及びB9は保形性、食感共に良好であった。実施例A6は形状が若干不安定で食感も若干劣っていた。
【0045】
試験例4 穀粉と糖類の割合の検討
エマルション作製後に骨格や食感改良に必要な小麦粉と糖の割合検討のため、糖の配合量を表5のように変え、その他は製造例1に従いフライ菓子を製造した。製造したフライ菓子を25℃で60分間静置し粗熱がとれた後、パネラー10名により評価基準表1に従って評価した。
【0046】
表5
【0047】
実施例B11及びB12は保形性、食感共に良かった。
実施例B10は保形性は良いが、食感はもっちり弾力があるがしっとりさには欠けていた。実施例B13は保形性がやや悪かった。
【0048】
試験例5 穀粉とエマルションの割合の検討
小麦粉と糖の割合は変更せず(小麦粉:糖=1:1)、エマルション(サラダ油+水+HPMC)の量を表6のように変え、その他は製造例1に従いフライ菓子を製造した。製造したフライ菓子を25℃で60分間静置し粗熱がとれた後、パネラー10名により評価基準表1に従って評価した。
【0049】
表6
【0050】
実施例B15及びB16は保形性、食感共によかった。
実施例B14は保形性は良いが、食感はしっとりさが少なくややパサツキがあった。
【0051】
試験例6 穀粉と糖類とエマルションの割合と量の検討
小麦粉と糖及びエマルション(サラダ油+水+HPMC)の割合を表7のように変え、その他は製造例1に従いフライ菓子を製造した。
製造したフライ菓子を25℃で60分間静置し粗熱がとれた後、パネラー10名により評価基準表1に従って評価した。
【0052】
表7
【0053】
実施例B18~B21は保形性、食感共に良好であった。
実施例B17は保形性は良いが、食感はしっとりさが少なくややパサツキがあった。