(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】電解液分析方法及び電解液分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20230215BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230215BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230215BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20230215BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
G01N21/65
H01M10/0566
H01M10/058
H01M6/16 A
H01M12/06 G
(21)【出願番号】P 2020557599
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2019045497
(87)【国際公開番号】W WO2020105687
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018219767
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 潤
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102507472(CN,A)
【文献】特開2010-266380(JP,A)
【文献】特表2013-514530(JP,A)
【文献】REN et al.,Direct monitoring of trace water in Li-ion batteries using operando fluorescence spectroscopy,Chemical Science,2017年10月23日,Vol.9/Iss.1,PP.231-237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
H01M 6/16、50
H01M 10/04、0566
058、42、48
H01M 12/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷のキャリアとなるイオン性物質を溶媒に添加してなる電解液に測定光を照射して、前記電解液から生じる二次光を検出する二次光検出工程と、
前記二次光検出工程により検出された二次光から、前記電解液の成分単体に前記測定光を照射した場合には現れない発光情報を特定する発光情報特定工程と、
前記発光情報特定工程により特定された発光情報を用いて、前記電解液を分析する電解液分析工程とを備え
、
前記発光情報特定工程は、複数回の前記二次光検出工程により検出された複数の励起-発光マトリックス(EEM)データを用いて多変量解析により前記二次光に含まれる複数の発光成分を特定するものであり、
前記電解液分析工程は、特定された複数の発光成分を用いて、前記電解液を分析するものである、電解液分析方法。
【請求項2】
前記電解液分析工程は、前記発光情報特定工程により特定された発光情報と、基準となる発光情報とを比較することにより、前記電解液を分析するものである、請求項1記載の電解液分析方法。
【請求項3】
前記電解液分析工程は、前記発光情報特定工程により特定された発光情報から求まる発光強度変化と、基準となる発光強度変化とを比較することにより、前記電解液を分析するものである、請求項1又は2記載の電解液分析方法。
【請求項4】
前記電解液分析工程は、前記電解液の水分含有量、前記電解液の使用温度、又は、前記電解液の劣化度合いを診断するものである、請求項1乃至3の何れか一項に記載の電解液分析方法。
【請求項5】
電荷のキャリアとなるイオン性物質を溶媒に添加してなる電解液に測定光を照射する照射部と、
前記電解液から生じる二次光を検出する検出部と、
前記検出部により検出された二次光から、前記電解液の成分単体に前記測定光を照射した場合には現れない発光情報を特定する特定部と、
前記特定部により特定された発光情報を用いて、前記電解液を分析する分析部とを備え
、
前記特定部は、前記検出部により検出された複数の励起-発光マトリックス(EEM)データを用いて多変量解析により前記二次光に含まれる複数の発光成分を特定するものであり、
前記分析部は、特定された複数の発光成分を用いて、前記電解液を分析するものである、電解液分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液分析方法及び電解液分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の電解液を分析する方法としては、特許文献1に示すように、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)やガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)などを用いたものが考えられている。
【0003】
しかしながら、上記の方法では、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーなどにより電解液を各成分単体に分離して分析することになり、ありのままの電解液の状態を測定することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明者は、電荷のキャリアとなるイオン性物質を溶媒に添加してなる電解液を各成分単体に分離することなく非破壊で測定することを検討しており、電解液に励起光を照射した際に電解液から生じる発光を検出することにより、電解液を分析することを考えている。
【0006】
この発光分析において、本願発明者がリチウムイオン二次電池用電解液を構成する各単成分に励起光を照射したところ、
図9に示すように、各成分単体からの顕著な発光が検出されないことが分かった。なお、
図9に示すデータは、励起-発光マトリックス(EEM)データであり、すなわち各波長の励起光を照射した際に得られる各発光波長における光強度を測定したものである。「LiPF
6粉末」のEEMデータに見られる対角線方向へ伸びる強い光強度は、レイリー散乱による光を検出したものである。また、
図9の「EC100%」のEEMデータなどに見られる対角方向へ伸びる光強度は、C-H結合に由来するラマン散乱に相当する。
【0007】
一方で、電解液を各成分単体に分離することなくそのままの状態で励起光を照射したところ、
図2に示すように、電解液からの発光が検出されることが分かった。
【0008】
そこで本発明は、上記の現象を利用して、電解液に前処理を施すことなく迅速かつ非破壊で分析することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る電解液分析方法は、電荷のキャリアとなるイオン性物質を有機溶媒に添加してなる電解液に測定光を照射して、前記電解液から生じる二次光を検出する二次光検出工程と、前記二次光検出工程により検出された二次光から、前記電解液の成分単体に前記測定光を照射した場合には現れない発光情報を特定する発光情報特定工程と、前記発光情報特定工程により特定された発光情報を用いて、前記電解液を分析する電解液分析工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、電解液の成分単体に測定光を照射した場合には現れない発光情報を特定し、その特定された発光情報を用いることにより、電解液をそのままの状態で分析することができる。その結果、電解液に前処理を施すことなく、迅速かつ非破壊で分析することができる。
【0011】
電解液の分析を容易に行うためには、前記電解液分析工程は、前記発光情報特定工程により特定された発光情報と、基準となる発光情報とを比較することにより、前記電解液を分析するものであることが望ましい。
【0012】
電解液の変化の要因を特定できるようにするためには、前記電解液分析工程は、前記発光情報特定工程により特定された発光情報から求まる発光強度変化と、基準となる発光強度変化とを比較することにより、前記電解液を分析するものであることが望ましい。
【0013】
具体的に前記電解液分析工程は、前記電解液の水分含有量、前記電解液が受けた温度負荷量、又は、前記電解液の劣化度合いを診断するものであることが考えられる。
【0014】
二次光には種々の情報が含まれていることから、それら情報の中から特徴的な情報を抽出して分析に用いることが望ましい。このため、前記発光情報特定工程は、複数回の前記二次光検出工程により検出された複数の励起-発光マトリックス(EEM)データを用いて多変量解析により前記二次光に含まれる複数の発光成分をそれぞれ特定するものであり、前記電解液分析工程は、特定された複数の発光成分を用いて、前記電解液を分析するものであることが望ましい。
【0015】
また、本発明に係る電解液分析装置は、電荷のキャリアとなるイオン性物質を有機溶媒に添加してなる電解液に測定光を照射する照射部と、前記電解液から生じる二次光を検出する検出部と、前記検出部により検出された二次光から、前記電解液の成分単体に前記測定光を照射した場合には現れない発光情報を特定する特定部と、前記特定部により特定された発光情報を用いて、前記電解液を分析する分析部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上に述べた本発明によれば、電解液に前処理を施すことなく迅速かつ非破壊で分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解液分析装置の構成を模式的に示す図である。
【
図2】同実施形態の励起-発光マトリックス(EEM)データの一例を示す図である。
【
図3】室温及び70℃温調下におけるEEMデータの経時変化を示す図である。
【
図4】同実施形態の分析方法を示すフローチャートである。
【
図6】EEMデータに含まれる発光成分及び各スペクトルを、PARAFAC解析により抽出した結果を示す図である。
【
図7】PARAFAC解析により抽出した励起・発光スペクトルについて、各EEMデータにおける重みである負荷量(PARAFACスコア)を示す図である。
【
図8】室温及び70℃におけるPARAFACスコアの経時変化を示す図である。
【
図9】電解液に含まれる各成分単体を測定した場合のEEMデータを示す図である。
【符号の説明】
【0018】
100・・・電解液分析装置
2 ・・・照射部
L1 ・・・測定光(励起光)
L2 ・・・二次光(試料由来の発光)
3 ・・・検出部
4 ・・・特定部
5 ・・・分析部
6 ・・・格納部
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る電解液分析装置及び電解液分析方法について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
<装置構成>
本実施形態の電解液分析装置100は、例えばリチウムイオン二次電池に用いられる電解液を、前処理を施すことなく非破壊で分析するものである。
【0021】
測定対象である電解液は、極物質を構成する元素と同元素を持ち電池内部で電荷のキャリアとなる、イオン性物質を溶媒に添加して作製されたものである。本実施形態では、リチウムイオン二次電池用電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を含み、高誘電率溶媒としてエチレンカーボネート(EC)を含み、低粘度溶媒としてジメチルカーボネート(DMC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を含むものを用いた。
【0022】
なお、電解質としては、電荷のキャリアとなるイオン性物質を溶媒に添加して作製されたものであれば良い。本実施形態では、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)の他、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含むものであっても良い。電解液に含まれる電解質は、前述したものの何れか1つであってもよいし、それらを組み合わせたものであってもよいし、前述したもの以外の電解質を含むものであってもよい。
【0023】
また、溶媒としては、構造中に非共有電子対を1つ以上有する溶媒、好ましくは、構造中にカルボニル基、エーテル結合、酸素を有する環状構造のいずれか1つ以上の特徴を有する有機溶媒であれば良い。例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジエチルカーボネート(DEC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、メチル-γ-ブチロラクトン(GVL)であっても良い。電解液に含まれる溶媒は、前述したものの何れか1つであってもよいし、それらを組み合わせたものであってもよいし、前述したもの以外の溶媒を含むものであってもよい。
【0024】
具体的に電解液分析装置100は、
図1に示すように、リチウムイオン二次電池の電解液Sに測定光L1を照射する照射部2と、電解液Sから生じる二次光L2を検出する検出部3と、検出部3により検出された二次光L2から、電解液Sの成分単体に測定光L1を照射した場合には現れない発光情報を特定する特定部4と、特定部4により特定された発光情報を用いて、電解液Sを分析する分析部5とを備えている。
【0025】
なお、本実施形態では、照射部2と検出部3との間に電解液Sを収容した容器10が着脱可能に取り付ける容器ホルダ(不図示)が設けられた構成であるが、電解液Sを収容する測定セルを設けた構成としても良い。
【0026】
照射部2は、測定光L1である励起光を電解液Sに照射するものであり、例えばキセノンランプ等の励起光源21と、当該励起光源21からの光を分光して励起光を射出する分光器22とを有している。本実施形態の照射部2は、例えば220~600nmの励起波長を有する測定光L1を照射するものである。
【0027】
検出部3は、測定光L1が照射された電解液Sから生じる電解液S由来の発光(二次光L2)を検出するものであり、二次光L2を分光する分光器31と、当該分光器31により分光された二次光L2を検出する検出器32とを有している。本実施形態では、例えば、211~617nmの波長帯域を有する光を検出するものである。検出器32は、例えばCCD検出器である。検出器32の各測定における露光時間は例えば1.0秒である。
【0028】
その他、本実施形態の電解液分析装置100では、電解液Sの吸光度を算出するために電解液Sを透過した透過光L3を検出する透過光検出器6を備えている。
【0029】
次に説明する特定部4及び分析部5は、CPU、メモリ、入出力インターフェイス、AD変換器等を有するコンピュータにより構成されており、メモリに格納された分析プログラムに基づいて、CPU及び周辺機器が協働することによってその機能が発揮される。
【0030】
特定部4は、検出器32により検出された二次光L2の光強度信号を取得して、電解液Sの成分単体に測定光L1を照射した場合には現れない発光情報を特定するものである。この特定部4は、電解液Sの成分単体(LiPF6、EC、DMC、EMC)に測定光L1を照射した場合には現れない発光ピークを有する発光成分を特定する。
【0031】
具体的に特定部4は、
図2に示す複数個の励起-発光マトリックス(EEM)データ(縦軸を励起波長、横軸を発光波長として、各波長の光強度を表した3次元データ)を生成し、この複数個の3次元データ(EEMデータ)を用いて多変量解析により二次光L2の光強度信号に含まれる複数の発光成分を特定する。ここで、複数個のEEMデータは、温度や水分混入量等状態の異なる電解液Sから得られたものである(
図3参照)。
【0032】
以下に、特定部4の演算方法の一例について
図4を参照して説明する。
【0033】
照射部2から測定光L1を照射し(ステップS1)、検出部3により二次光L2を検出する(ステップS2)。そして、特定部4は、複数個の光強度信号から、
図2に示す複数個のEEMデータを生成する(ステップS3)。
【0034】
なお、
図2は、内部フィルタ効果(Inner filter effect)及びレイリー散乱を補正し、水ラマン光散乱強度を用いてノーマライズされた補正後のEEMデータである。これらの補正処理は、特定部4により行われる(
図5参照)。
【0035】
また、特定部4は、多変量解析の1つであるPARAFAC(Parallel factor analysis)を用いて、複数個のEEMデータから、EEMに見られる複数の発光成分に関する定性的な情報、すなわち励起スペクトル及び発光スペクトルを抽出するとともに(ステップS4、
図6参照)、それら発光成分が各EEMにおける寄与量(PARAFACスコア)を定量的な発光情報として算出する(ステップS5、
図7参照)。なお、このPARAFACスコアは、解析に用いた各EEMにおいて抽出された各発光成分がそれぞれどの程度の強度で含まれているかを示す値である。このように本実施形態の特定部4による発光情報の特定には、二次光の光強度信号から発光情報を抽出すること、及び、二次光の光強度信号から発光情報を算出することを含むものであったが、何れか一方であっても良いし、その他の方法により発光情報を特定するものであっても良い。
【0036】
そして、分析部5は、特定部4により特定された複数の発光成分を用いて、電解液Sを分析するものである。具体的に分析部5は、特定部4により特定された複数の発光スペクトルのPARAFACスコアを用いて、電解液Sの状態を分析・診断する(ステップS6)。例えば、分析部5は、複数の発光スペクトルのPARAFACスコアと、基準となる発光情報(所定の状態を示すPARAFACスコア)とを比較して、電解液Sの水分含有量、電解液Sの使用温度、又は、電解液Sの劣化度合いを診断する。
【0037】
以下に、室温(25℃)に温調した電解液SのPARAFACスコアの時間変化と、70℃に温調した電解液SのPARAFACスコアの時間変化とを
図8に示す。
【0038】
室温に温調した場合の各発光成分のPARAFACスコアはほとんど一定であり、それらの大小関係は変わらないことが分かる。一方で、70℃に温調した場合の各発光成分のPARAFACスコアは大きな変化を示し、それらの大小関係も変化している。
【0039】
この結果から、各温度において電解液SのPARAFACスコアの値及び大小関係が決定されることから、これらの値を予め取得して格納部7に記憶し、基準となる発光情報とする。そして、測定試料である電解液Sを測定して得られたPARAFACスコアと比較することにより、リチウムイオン二次電池の使用時における電解液Sの温度を診断することができる。
【0040】
同様にして、電解液Sの水分含有量別に基準となる発光情報(例えば、電解液SのPARAFACスコア)を取得しておけば、測定試料である電解液Sを測定して得られた発光情報(複数の発光スペクトルのPARAFACスコア)と比較することにより、電解液Sの水分含有量を評価することができる。また、リチウムイオン二次電池の使用時間(充放電サイクル)別に基準となる発光情報(例えば、電解液のPARAFACスコア)を取得しておけば、測定試料である電解液Sを測定して得られる発光情報(複数の発光スペクトルのPARAFACスコア)と比較することにより、電解液Sの劣化度合いを評価することができる。
【0041】
<本実施形態の効果>
本実施形態の電解液分析装置100によれば、電解液Sの成分単体に測定光L1を照射した場合には現れない発光情報を特定し、その特定された発光情報を用いることにより、電解液Sをそのままの状態で分析することができる。その結果、電解液Sに前処理を施すことなく、迅速かつ非破壊で分析することができる。
【0042】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0043】
例えば、特定部及び分析部の機能を以下としても良い。
(1)特定部が二次光の光強度信号から3次元的なデータである励起-発光マトリックス(EEM)を生成することなく、特定励起波長における2次元データ(例えば横軸を発光波長とし、縦軸を光強度としたグラフデータ)を生成して、当該2次元データから発光ピーク等の発光情報を特定するものであっても良い。この場合、分析部は、特定された発光情報と、比較対象となる判断基準データとを比較して、電解液を分析する。
【0044】
(2)特定部が二次光の光強度信号から3次元データ(EEMデータ)を生成し、当該3次元データから多変量解析を用いることなく発光ピークなどの発光情報を特定するものであっても良い。この場合、分析部は、特定された発光情報と、比較対象となる判断基準データとを比較して、電解液を分析する。ここで、3次元データを示す画像データを画像処理することにより発光ピーク等の発光情報を特定することもできる。
【0045】
(3)特定部が二次光の光強度信号から3次元データ(EEMデータ)を生成し、当該3次元データから多変量解析を用いて複数の発光成分の発光スペクトルを抽出して、当該発光スペクトルを発光情報として特定するものであっても良い。つまり、PARAFACスコア以外の情報を発光情報としても良い。この場合、分析部は、特定された発光情報と比較対象となる判断基準データとを比較して、電解液を分析する。
【0046】
以上のように特定部は、二次光の光強度信号から抽出される情報であって、電解液の成分単体に励起光を照射した場合には現れない発光を示す発光情報を特定するものであれば、前記実施形態に限られない。
【0047】
前記実施形態では、電解液の成分単体に測定光L1を照射した場合には発光ピークが現れないことを前提として、EEMデータから得られた複数の発光成分が電解液Sの成分単体に測定光L1を照射した場合には現れない発光情報であるとしていたが、必ずしもそうとは限らない。つまり、電解液Sの成分単体に測定光L1を照射したときの成分単体の発光情報(発光しないという情報も含む。)を予め発光情報格納部(不図示)に格納しておき、特定部4は、当該発光情報格納部に格納された成分単体の発光情報と、電解液Sから生じる二次光L2と比較して、電解液Sの成分単体に測定光L1を照射した場合には現れない発光情報を特定することが考えられる。そして、分析部4は、成分単体の発光情報との比較により特定された発光情報に基づいて、電解液Sを分析する。なお、発光情報格納部に格納される発光情報としては、EEMデータであってもよいし、EEMデータから求まるスペクトルデータなどであっても良い。
【0048】
前記実施形態では、リチウムイオン電池の電解液を分析した例を示したが、電荷のキャリアとなるイオン性物質を有機溶媒に添加して作製した電解液を使用する電池の電解液であれば、リチウム・硫黄電池の電解液、リチウム・空気電池の電解液、リチウム・銅電池の電解液などを分析するものであっても良い。
【0049】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、電解液に前処理を施すことなく迅速かつ非破壊で分析することができる。