(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230216BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20230216BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230216BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20230216BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20230216BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C22C38/00 304
C22C38/00 303D
C22C33/02 K
B22F3/24 B
B22F3/10 E
(21)【出願番号】P 2019058989
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】藤森 信彦
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147425(JP,A)
【文献】特開2013-243215(JP,A)
【文献】特開2016-154219(JP,A)
【文献】特開2014-132628(JP,A)
【文献】特開2017-183710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
C22C 38/00
C22C 33/02
B22F 3/24
B22F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R:29.3質量%以上35.0質量%以下(RはR1又はR1とR2とからなり、R1はDy、Tb、Gd及びHoを除く希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrのうち少なくとも一種を含み、R2はDy、Tb、Gd及びHoのうち少なくとも一種であり、R-T-B系焼結磁石全体の0.5質量%以下である)、
B:0.80質量%以上0.91質量%以下、
Ga:0.2質量%以上1.0質量%以下、及び
T:61.5質量%以上69.5質量%以下(TはFe又はFeとCoであり、Tの90~100質量%がFeである)を含有し、
下記式(1)を満足するR-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)
合金粉末を準備する工程と、
前記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を、1010℃以上1050℃以下の焼結温度で、保持時間を20時間以上40時間以下として加熱後、1000℃から20℃/分以上で300℃まで冷却して、焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体を、400℃以上900℃以下の熱処理温度に加熱後、20℃/分以上で300℃まで冷却する熱処理工程と、を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R-T-B系焼結磁石における前記R2の含有量は、不可避不純物レベル以下である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記R-T-B系焼結磁石における前記Gaの含有量は、0.4質量%以上0.8質量%以下である、請求項1又は2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記焼結工程における前記保持時間は24時間以上36時間以下である、請求項1~3のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrのうち少なくとも一種を含み、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを含む)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は主としてR2T14B化合物からなる主相とこの主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR2T14B化合物は高い磁化を持つ強磁性材料でありR-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という場合がある)が低下するため不可逆熱減磁が起こる。そのため、特に電気自動車用モータに使用される場合、高温下でも高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
従来、HcJ向上のために、Dy、Tb等の重希土類元素RHをR-T-B系焼結磁石に多量に添加していた。しかし、重希土類元素RHを多量に添加すると、HcJは向上するが、残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という場合がある)が低下するという問題があった。そのため、近年、R-T-B系焼結磁石の表面から内部にRHを拡散させて主相結晶粒の外殻部にRHを濃化させることでBrの低下を抑制しつつ、高いHcJを得る方法が提案されている。
【0006】
しかし、DyやTbは、もともと資源量が少ないうえ産出地が限定されている等の理由から、供給が不安定であり、価格変動するなどの問題を有している。また、近年、特に電気自動車用モータ向けの需要の急拡大により、現状のDyやTbの使用量では供給不足になると予測されている。そのため、DyやTbなどのRHをほとんど使用せずに(具体的には、RH含有量を0.5質量%以下にして)、高いHcJを得ることが求められている。
【0007】
特許文献1には、通常のR-T-B合金よりもB量を低くするとともに、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種類以上の金属元素Mを含有させることによりR2F17M相を生成させ、該R2Fe17相を原料として生成させた遷移金属リッチ相(R6T13M)の体積率を十分に確保することにより、Dyの含有量を抑制しつつ、保磁力の高いR-T-B系希土類焼結磁石が得られることが記載されている。
【0008】
また、上述の通りR-T-B系焼結磁石が最も利用される用途はモータであり、特に電気自動車用モータなどの用途で高温安定性を確保するためにHcJの向上は大変有効であるが、それらの特性とともに角形比Hk/HcJ(以下、単にHk/HcJという場合がある)も高くなければならない。Hk/HcJが低いと減磁しやすくなるという問題を引き起こす。そのため、高いHcJを有するとともに、高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石が求められている。なお、R-T-B系焼結磁石の分野においては、一般に、Hk/HcJを求めるために測定するパラメータであるHkは、J(磁化の強さ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のH軸の読み値が用いられている。このHkを減磁曲線のHcJで除した値(Hk/HcJ=Hk(kA/m)/HcJ(kA/m)×100(%))が角形比として定義される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らの検討の結果、特許文献1に記載されているような、B量が低く、Gaを含有するR-T-B系希土類磁石では、RH含有量を少なくするにつれて、特にHk/HcJが低下し得る問題があることを見出した。
【0011】
そこで本発明は、RH(本発明におけるR2)をほとんど使用せずに(具体的には、RH含有量(R2の含有量)を0.5質量%以下(0質量%を含む)にして)、高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様1は、
R:29.3質量%以上35.0質量%以下(RはR1又はR1とR2とからなり、R1はDy、Tb、Gd及びHoを除く希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrのうち少なくとも一種を含み、R2はDy、Tb、Gd及びHoのうち少なくとも一種であり、R-T-B系焼結磁石全体の0.5質量%以下である)、
B:0.80質量%以上0.91質量%以下、
Ga:0.2質量%以上1.0質量%以下、及び
T:61.5質量%以上69.5質量%以下(TはFe又はFeとCoであり、Tの90~100質量%がFeである)を含有し、
下記式(1)を満足するR-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)
合金粉末を準備する工程と、
前記合金粉末を成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を、1010℃以上1050℃以下の焼結温度で、保持時間を20時間以上40時間以下として加熱後、1000℃から20℃/分以上で300℃まで冷却して、焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体を、400℃以上900℃以下の熱処理温度に加熱後、20℃/分以上で300℃まで冷却する熱処理工程と、を含む、R-T-B系焼結磁石の製造方法である。
【0013】
本発明の態様2は、前記R-T-B系焼結磁石における前記R2の含有量は、不可避不純物レベル以下である、態様1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法である。
【0014】
本発明の態様3は、前記R-T-B系焼結磁石における前記Gaの含有量は、0.4質量%以上0.8質量%以下である、態様1又は2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法である。
【0015】
本発明の態様4は、前記焼結工程における前記保持時間は24時間以上36時間以下である、態様1~3のいずれかに記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、RH(R2)をほとんど使用せずに(具体的には、RH含有量(R2の含有量)を0.5質量%以下(0質量%を含む)にして)、高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのR-T-B系焼結磁石の製造方法を例示するものであって、本発明を以下に限定するものではない。
【0018】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に規定するような特定の範囲の組成を有するR-T-B系焼結磁石の製造において、焼結工程(焼結温度、保持時間及び冷却条件)、及び熱処理条件(熱処理温度及び冷却条件)を適切に制御することにより、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石の磁気的特性を向上できることを見出した。これにより、RH含有量が0.5質量%以下の場合でも、高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を実現できることを見出した。
以下に本発明の実施形態に係る製造方法について詳述する。
【0019】
<R-T-B系焼結磁石>
まず、本発明に係る製造方法によって得られるR-T-B系焼結磁石について説明する。
【0020】
(R-T-B系焼結磁石の組成)
本実施形態に係るR-T-B系焼結磁石の組成は、
R:29.3質量%以上35.0質量%以下(RはR1又はR1とR2とからなり、R1はDy、Tb、Gd及びHoを除く希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrのうち少なくとも一種を含み、R2はDy、Tb、Gd及びHoのうち少なくとも一種であり、R-T-B系焼結磁石全体の0.5質量%以下である)、
B:0.80質量%以上0.91質量%以下、
Ga:0.2質量%以上1.0質量%以下、及び
T:61.5質量%以上69.5質量%以下(TはFe又はFeとCoであり、Tの90~100質量%がFeである)を含有し、
下記式(1)を満足する。
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)
【0021】
上記組成により、一般的なR-T-B系焼結磁石よりもB量を少なくするとともに、Ga等を含有させているので、二粒子粒界にR-T-Ga相が生成して、高いHcJを得ることができる。ここで、R-T-Ga相とは、代表的にはNd6Fe13Ga化合物である。R6T13Ga化合物は、La6Co11Ga3型結晶構造を有する。また、R6T13Ga化合物は、その状態によっては、R6T13-δGa1+δ化合物(δは典型的には2以下)になっている場合がある。例えば、R-T-B系焼結磁石中にCu、Alが比較的多く含有される場合、R6T13-δ(Ga1-x-yCuxAly)1+δになっている場合がある。
以下に、各組成について詳述する。
【0022】
(R:29.3~35.0質量%)
Rは、R1又はR1とR2とからなり、R1はDy、Tb、Gd及びHoを除く希土類元素のうち少なくとも一種であり、Nd及びPrのうち少なくとも一種を含み、R2はDy、Tb、Gd及びHoの少なくとも一種であり、R-T-B系焼結磁石全体の0.5質量%以下である。Rの含有量は、29.3~35.0質量%である。Rが29.3質量%未満であると焼結時の緻密化が困難となるおそれがあり、35.0質量%を超えると主相比率が低下して高いBrを得られないおそれがある。Rの含有量は、好ましくは29.3~33.0質量%である。Rがこのような範囲であれば、より高いBrを得ることができる。
R2は供給が不安定であるため、極力少なくする必要がある。そのため、R2の含有量は0.5質量%以下とする。好ましくは、R2の含有量は、製造工程で不可避的に含まれる不純物の量((以下、単に「不可避不純物レベル」という場合がある)以下であり、例えば、0.1質量%以下であり、さらに好ましくは、RにR2を含有しない(RはR1からなる)。
【0023】
(B:0.80~0.91質量%)
焼結磁石中のBの含有量は、0.80~0.91質量%である。Bが0.80質量%未満であるとR2T17相が生成されて高いHcJが得られないおそれがあり、0.91質量%を超えるとR-T-Ga相の生成量が少なすぎて高いHcJが得られないおそれがある。Bの含有量は、好ましくは0.88~0.90質量%であり、より高いHcJ向上効果が得られる。
【0024】
さらに、Bの含有量は下記式(1)を満たす。
[T]/55.85>14[B]/10.8 (1)
ここで[T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である。
【0025】
式(1)を満足することにより、Bの含有量が一般的なR-T-B系焼結磁石よりも少なくなる。一般的なR-T-B系焼結磁石は、主相であるR2T14B相以外に軟磁性相であるR2T17相が生成しないように、[T]/55.85(Feの原子量)は14[B]/10.8(Bの原子量)よりも少ない組成となっている([T]は、質量%で示すTの含有量である)。本発明の実施形態のR-T-B系焼結磁石は、一般的なR-T-B系焼結磁石と異なり、[T]/55.85が14[B]/10.8よりも多くなるように式(1)で規定している。なお、本発明の実施形態のR-T-B系焼結磁石におけるTの主成分はFeであるため、Feの原子量を用いている。
【0026】
(Ga:0.2~1.0質量%)
Gaの含有量は、0.2~1.0質量%である。Gaが0.2質量%未満であると、R-T-Ga相の生成量が少なすぎて、R2T17相を消失させることができず、高いHcJを得ることができないおそれがある。好ましくは、Gaの含有量は0.4質量%以上である。一方、1.0質量%を超えると不要なGaが存在することになり、主相比率が低下してBrが低下するおそれがある。好ましくは、Gaの含有量は0.8質量%以下である。
【0027】
(T:61.5~69.5質量%(Tは、Fe又はFeとCoでありTの90~100質量%がFeである))
Tは、遷移金属元素のうち少なくとも1種であり、Feを含む。
焼結磁石中のTの含有量は61.5~69.5質量%である。Tの含有量が61.5質量%未満または69.5質量%を超えると、大幅にBrが低下する恐れがある。また、Tの全量を100質量%としたとき、その10質量%以下をCoで置換できる。すなわち、Tの全量の90質量%以上がFeである。また、Tの全量(100質量%)をFeにしてもよい。Coを含有することにより耐食性を向上させることができるが、Coの置換量がFeの10質量%を超えると、高いBrが得られないおそれがある。好ましくは、Tの全量を100質量%としたとき、その0質量%超3.5質量%以下をCoに置換することであり、更に好ましくは、その0質量%超1.0質量%以下をCoに置換することである。
【0028】
本発明のR-T-B系焼結磁石の好ましい1つの態様は、残部が不可避不純物である。不可避不純物としては、ジジム合金(Nd-Pr)、電解鉄、フェロボロンなどに通常含有されるCr、Mn、Si、La、Ce、Sm、Ca、Mgなどを含有することができる。さらに、製造工程中の不可避不純物として、O(酸素)、N(窒素)およびC(炭素)などを例示できる。
また、本発明のR-T-B系焼結磁石の別の好ましい態様では、本発明の目的を達成する範囲内で、1種以上の他の元素(不可避不純物以外の意図的に加えた元素)を更に含んでもよい。例えば、このような元素として、少量(各々0.1質量%程度)のAg、Zn、In、Sn、Ti、Ge、Y、H、F、P、S、V、Ni、Mo、Hf、Ta、W、Nb、Zrなどを含有してもよい。また、上述した不可避不純物として挙げた元素を意図的に加えてもよい。このような元素は、合計で例えば1.0質量%程度含まれてもよい。この程度であれば、高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることが十分に可能である。
【0029】
本発明のR-T-B系焼結磁石の更に別の好ましい態様では、本発明の目的を達成する範囲内で、任意のその他の元素を更に含んでもよい。そのように選択的に含有させることができるその他の元素を以下に例示する。
【0030】
(Cu:0質量%超、0.50質量%以下)
Cuを適量含むことにより、HcJをさらに向上させることができる。
Cuは、0.50質量%以下で含まれてもよい。Cuの含有量は、好ましくは0.05~0.50質量%である。Cuを0.05質量%~0.50質量%で含有するとHcJをさらに向上させることができる。
【0031】
(Al:0質量%超、0.50質量%以下)
Alを適量含むことにより、HcJをさらに向上させることができる。
Alは、0.50質量%以下で含まれてもよい。Alの含有量は、好ましくは0.05~0.50質量%である。Alを0.50質量%以下で含有すると、HcJをさらに向上させることができる。Alは、製造工程中の不可避不純物として0.05質量%以上含有され得るが、不可避不純物として含有される量と意図的に添加した量の合計で0.50質量%以下含有してもよい。
【0032】
(R-T-B系焼結磁石の磁気的特性)
本発明は、RH(すなわち、R2)をほとんど使用せずに、高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造するための方法を提供することを目的とする。本発明では、R2を含まない(すなわち、R2含有量が0質量%である)ことが好ましいが、0.5質量%以下であればR2を含んでもよい。
従来のR-T-B系焼結磁石は、R2含有量に応じて、HcJとHk/HcJがある程度向上する。それに対し、本発明に係るR-T-B系焼結磁石は、R2を含まない場合はもとより、R2を含む場合においても、従来のR-T-B系焼結磁石から予想されるよりも、高いHcJと高いHk/HcJを示す。
具体的には、本発明に係る焼結磁石は、R2の含有量に応じて、下記式(2)および(3)を満たす。
HcJ>1300+160[R2](kA/m) (2)
Hk/HcJ>85+10[R2](kA/m) (3)
ここで[R2]は質量%で示すR2の含有量である。
また、下記式(4)および(5)を満たすことが好ましい。
HcJ>1350+160[R2](kA/m) (4)
Hk/HcJ>87+9[R2](%) (5)
また、下記式(6)および(7)を満たすことが更に好ましい。
HcJ>1400+160[R2](kA/m) (6)
Hk/HcJ>88+8[R2](%) (7)
また、本発明に係るR-T-B系焼結磁石は高いBrを示すことが好ましい。特にBrが1.37超であることが好ましく、1.375以上であることがより好ましく、1.38以上であることが更に好ましい。
【0033】
<R-T-B系焼結磁石の製造方法>
次に、本発明に係るR-T-B系焼結磁石の製造方法を説明する。
R-T-B系焼結磁石の製造方法は、合金粉末を準備する工程、成形工程、焼結工程、および熱処理工程を含む。
以下、各工程について説明する。
【0034】
(1)合金粉末を準備する工程
前記組成となるようにそれぞれの元素の金属または合金を準備し、ストリップキャスティング法等を用いてフレーク状の合金を得る。
得られたフレーク状の合金を水素粉砕し、粗粉砕粉のサイズを例えば1.0mm以下とする。次に、粗粉砕粉をジェットミル等により微粉砕することで、例えば粒径D50(気流分散法によるレーザー回折法で得られた値(メジアン径))が3~7μmの微粉砕粉(合金粉末)を得る。なお、ジェットミル粉砕前の粗粉砕粉、ジェットミル粉砕中およびジェットミル粉砕後の合金粉末に助剤として公知の潤滑剤を使用してもよい。
【0035】
(2)成形工程
得られた合金粉末を用いて磁界中成形を行い、成形体を得る。磁界中成形は、金型のキャビティー内に乾燥した合金粉末を挿入し、磁界を印加しながら成形する乾式成形法、金型のキャビティー内に該合金粉末を分散させたスラリーを注入し、スラリーの分散媒を排出しながら成形する湿式成形法を含む既知の任意の磁界中成形方法を用いてよい。
【0036】
(3)焼結工程
成形工程で得られた成形体を、焼結炉内で焼結することにより、焼結体(焼結磁石)を得る。本発明では、成形体を、1010℃以上1050℃以下の所定の焼結温度で、保持時間を通常より長い20時間以上40時間以下として加熱する。通常の焼結条件は、保持時間4時間~6時間程度である。つまり、本発明の焼結工程の保持時間は、通常の保持時間に比べて3倍~10倍程度長い。
焼結温度が1010℃未満だと、Hk/HcJの向上効果が得られず、1050℃超だと、異常粒成長が発生してしまう。なお、焼結温度の測定方法としては、焼結炉内の成形体に熱電対を接触させて温度を測定することが好ましい。また、簡易的には、あらかじめ、焼結炉内の温度と焼結炉内に置かれた別の成形体の温度とを熱電対により同時に測定することで、焼結炉内の温度と焼結炉内の成形体の温度との対応関係を調査しておき、その対応関係に基づいて、焼結炉内の温度から焼結炉内の成形体の温度を読み取ってもよい。
保持時間が20時間未満だとHk/HcJの向上効果が不十分である。好ましくは24時間以上である。また40時間超ではHk/HcJの向上効果が飽和するため、40時間以下とする。好ましくは、36時間以下である。なお、保持時間は、成形体を焼結炉内で加熱し始めて、所定の焼結温度になった時点から、所定の焼結温度での加熱を停止した時点までの時間とする。
また、雰囲気による酸化を防止するために、真空雰囲気中または雰囲気ガス中で加熱することが好ましい。雰囲気ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
所定の焼結温度、保持時間で加熱後、1000℃から300℃まで20℃/分以上の冷却速度で急冷する。冷却速度が20℃/分未満であるとHcJ及びHk/HcJが低下する可能性がある。20℃/分以上の冷却速度を実現するために、焼結炉内にヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを導入しながら冷却することが好ましい。これにより、放冷などの一般的な冷却(冷却速度:約10℃/分)と比較して、冷却速度を速めることができる。
また、所定の焼結温度から1000℃超までの冷却については、冷却速度は20℃/分未満と遅い方が好ましく、より好ましくは10℃/分未満である。これにより、Hk/HcJの低下、及びR-T-B系焼結磁石の割れを抑制できる。
なお、冷却速度の測定方法としては、逐一冷却時間に対する焼結炉内の成形体の温度低下率を測定してもよいし、冷却開始温度から冷却終了温度までの平均冷却速度(例えば1000℃から300℃まで冷却する場合、焼結炉内の成形体の温度が1000℃から300℃になるまでに経過した時間を測定し、1000℃と300℃の差分:700℃をその経過した時間で除した値)を測定してもよい。
【0037】
(4)熱処理工程
得られた焼結体(焼結磁石)に対し、磁気特性を向上させることを目的とした熱処理を行う。熱処理温度は、400℃以上900℃以下とする。熱処理温度が400℃未満または900℃超だと、HcJ及びHk/HcJの向上効果が不十分である。好ましくは、400℃以上600℃以下である。なお、熱処理温度の測定方法としては、熱処理炉内の焼結体に熱電対を接触させて温度を測定することが好ましい。また、簡易的には、あらかじめ、熱処理炉内の温度と熱処理炉内に置かれた別の焼結体の温度とを熱電対により同時に測定することで、熱処理炉内の温度と熱処理炉内の焼結体の温度との対応関係を調査しておき、その対応関係に基づいて、熱処理炉内の温度から熱処理炉内の焼結体の温度を読み取ってもよい。
熱処理工程における保持時間は既知の条件を用いることができ、例えば60分以上300分以下とすることができる。なお、保持時間は、焼結体を熱処理炉内で加熱し始めて、所定の熱処理温度になった時点から、所定の熱処理温度での加熱を停止した時点までの時間とする。また、雰囲気による酸化を防止するために、真空雰囲気中または雰囲気ガス中で熱処理することが好ましい。雰囲気ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。
所定の熱処理温度に加熱後、所定の熱処理温度から300℃まで20℃/分以上の冷却速度で急冷する。冷却速度が20℃/分未満であるとHcJ及びHk/HcJが低下する可能性がある。20℃/分以上の冷却速度を実現するために、熱処理炉内にヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを導入しながら冷却することが好ましい。これにより、放冷などの一般的な冷却(冷却速度:約10℃/分)と比較して、冷却速度を速めることができる。なお、冷却速度の測定方法としては、逐一冷却時間に対する熱処理炉内の焼結体の温度低下率を測定してもよいし、冷却開始温度から冷却終了温度までの平均冷却速度(例えば、800℃から300℃まで冷却する場合、熱処理炉内の焼結体の温度が800℃から300℃になるまでに経過した時間を測定し、800℃と300℃の差分:500℃をその経過した時間で除した値)を測定してもよい。
【0038】
本発明では、焼結工程後、熱処理工程前に、さらに追加の熱処理工程を一回以上行ってもよい。追加の熱処理工程として、例えば、焼結体を、400℃以上焼結温度以下、好ましくは700℃以上900℃以下に加熱後、室温以上熱処理温度以下の温度まで冷却してもよい。
【0039】
最終的な製品形状にするなどの目的で、得られた焼結磁石に研削などの機械加工を施してもよい。その場合、熱処理は機械加工前でも機械加工後でもよい。さらに、得られた焼結磁石に、表面処理を施してもよい。表面処理は、既知の表面処理であってもよく、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗料などの表面処理を行うことができる。
【0040】
このようにして得られた焼結磁石は、HcJとHk/HcJが共に向上されていた。
【実施例】
【0041】
R-T-B系焼結磁石がおよそ表1の合金No.M1~M6に示す組成となるように、各元素を秤量してストリップキャスト法により鋳造し、フレーク状の合金を得た。得られたフレーク状の合金を水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100質量%に対して0.04質量%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素雰囲気中で乾式粉砕し、D50が3.8~4.0μmの合金粉末を得た。得られた合金粉末の成分分析結果を表1の合金No.M1~M6に示す。表1における各成分(O、N及びC以外)は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。また、O(酸素)含有量は、ガス融解-赤外線吸収法、N(窒素)含有量は、ガス融解-熱伝導法、C(炭素)含有量は、燃焼-赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した。
【0042】
前記合金粉末に、液体潤滑剤を微粉砕粉100質量%に対して、0.4質量%添加、混合した後、磁界中成形し、成形体を得た。なお、成形装置は、磁場印加方向と加圧法方向とが直行する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0043】
得られた成形体を表2に示す条件で焼結工程、及び熱処理工程を行いR-T-B系焼結磁石を得た。例えば表2のサンプルNo.1は、合金No.M1の合金粉末を成形して得られた成形体をアルゴン雰囲気ガス中で焼結温度:1050℃、保持時間:8時間として加熱した後、焼結炉内にアルゴンガスを導入しながら、1000℃から300℃まで25℃/分の平均冷却速度で急冷した。なお、焼結温度は、焼結炉内の成形体に熱電対を接触させて測定した。
その後、焼結体をアルゴン雰囲気ガス中で熱処理温度:470℃保持時間:180分として加熱した後、熱処理炉内にアルゴンガスを導入しながら、470℃から300℃まで25℃/分の平均冷却速度で冷却した。なお、熱処理温度は、熱処理炉内の焼結体に熱電対を接触させて測定した。
サンプルNo.2~15も同様に記載している。なお、表2には記載されていないが、サンプルNo.1~15すべてのサンプルにおいて、焼結温度から1000℃超まで約10℃/分の平均冷却速度で放冷し、また、焼結工程後、熱処理工程前に追加の熱処理工程を行った。追加の熱処理工程は、焼結工程後の焼結体をアルゴン雰囲気ガス中で、800℃で保持時間:120分として加熱し、300℃まで、熱処理炉内にアルゴンガスを導入しながら、20℃/分の平均冷却速度で急冷した。
【0044】
得られたR-T-B系焼結磁石に機械加工を施し、縦7mm、横7mm、厚み7mmの試料を作製し、B-Hトレーサによって磁気特性を測定した。その結果を表3に示す。なお、HkはJ(磁化の大きさ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×Jr(Jrは残留磁化、Jr=Br)の値になる位置のHの値である。
【0045】
表1および2において、下線を付した数値および記号は本発明の範囲から外れていることを示す。
なお、表1および2の「式1」の欄には、合金組成が式(1)、すなわち、[T]/55.85>14[B]/10.8([T]は質量%で示すTの含有量であり、[B]は質量%で示すBの含有量である)を満たしている場合「○」を記載し、満たしていない場合「×」を記載した。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
本発明は、RHをほとんど使用せずに、高いHcJと高いHk/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を製造するための方法を提供することを目的とする。そのため、実施例では、「RH含有量」、「HcJ」、および「Hk/HcJ」のそれぞれについて良好な値であるか否かを判定し、すべて良好または最も良好なものを「本発明例」、いずれかが不良または異常粒成長が発生したものを「比較例」とする。
「RH含有量」の判定方法としては、R2含有量が0.1質量%以下の場合は最も良好(◎)とし、R2含有量が0.1質量%超0.5質量%以下の場合は良好(○)とし、R2含有量が0.5質量%超の場合は不良(×)とした。
「HcJ」の判定方法としては、式(2)、すなわち、HcJ>1300+160[R2](kA/m)を満たす場合は最も良好(◎)とし、満たさない場合は不良(×)とした。なお、R2含有量が0.5質量%超の場合は、「HcJ」の判定を行っていないので判定無し(-)とした。
「Hk/HcJ」の判定方法としては、式(3)、すなわち、Hk/HcJ>85+10[R2](%)を満たす場合は良好(◎)とし、満たさない場合は不良(×)とした。なお、R2含有量が0.5質量%超の場合は、「Hk/HcJ」の判定を行っていないので判定無し(-)とした。
【0050】
表3に示すように、本発明例(サンプルNo.6、7、9および10)はいずれも、「R2含有量」、「HcJ」、および「Hk/HcJ」のいずれも良好または最も良好であった。
これに対し、サンプルNo.1、2、5および8は、焼結工程における保持時間が短いため、「Hk/HcJ」が不良であった。サンプルNo.3および4は、R2含有量が0.5質量%超のため、「RH含有量」が不良であった。サンプルNo.11は、B含有量が0.92質量%と高いため、「HcJ」が不良であった。サンプルNo.12は、焼結工程における焼結温度が1060℃と高いため、異常粒成長が発生した。サンプルNo.13は、B含有量が0.96質量%と高く、また式(1)を満たさなかったため、「HcJ」が不良であった。サンプルNo.14は、焼結工程における冷却速度が10℃/分と遅かったため、「Hk/HcJ」が不良であった。サンプルNo.15は、熱処理工程における冷却速度が10℃/分と遅かったため、「Hk/HcJ」が不良であった。