(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】液滴粒子
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20230216BHJP
G01N 1/40 20060101ALI20230216BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
G01N1/28 Z
G01N1/28 T
G01N1/40
B01J13/00 G
(21)【出願番号】P 2020111474
(22)【出願日】2020-06-29
(62)【分割の表示】P 2018557147の分割
【原出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018020497
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 地域産学バリュープログラム「質量分析計への液体試料高効率導入インターフェイスの開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591081321
【氏名又は名称】紀本電子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】紀本 岳志
(72)【発明者】
【氏名】豊田 岐聡
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩志
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-535916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0250063(US,A1)
【文献】特開平09-061413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)気体中または真空中の条件下で浮遊する輸送される液滴粒子であって、
(b)
前記液滴粒子は、前記条件下で蒸発する液体と目的成分物質と臨界ミセル濃度
を上回る界面活性剤とを含
み、
(c)
前記液滴粒子の表面全体に、自己凝集した
界面活性剤の分子が逆ミセル様に並
んだ膜を
有し、
(d
)直径10μm以下の粒径を有する球状であることを特徴とする液滴粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中または真空中で安定的に存在する微小な液滴粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、汚染土壌から地下水中への汚染物質の流出が大きな問題となっており、そのモニタリングに対する関心が高まっている。通常、ベンゼンなどの揮発性汚染物質を含む地下水等の水溶液試料(採取サンプル)の成分や濃度測定は、採取者が、現場からサンプルを、大型で高感度な測定装置のある実験室等に持ち帰り、重金属から有機化合物まで多岐にわたる汚染物質〔環境基準26物質、要監視27物質、合計53物質〕を、成分毎に個別に異なる分析法で測定している(特許文献1,2および特許文献3,4等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-90306号公報
【文献】特開2002-48782号公報
【文献】特開2013-19816号公報
【文献】特開2016-188811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の地下水中の揮発性汚染物質の種類や量(濃度)等を同定する方法として、試料の一度の導入で多成分を同時に分析可能な、単一微粒子質量分析計(ATOFMS)やマルチターン型飛行時間型質量分析計(MULTUM)等といった、高感度で高精度型の質量分析装置を利用しようとする試みがなされている。
【0005】
しかしながら、これら高感度な質量分析装置を用いて、地下水中の物質の分析を行うには、その前段階で大きな問題が発生する。すなわち、汚染物質の溶媒である水(地下水)は、質量分析計に導入可能なサイズの、直径または粒径100μm以下の液滴(エアロゾル)まで細粒化すると、すぐに水または水分が蒸発するため、機器導入前に試料液滴が消失してしまう。そのため、このままでは、前述の揮発性汚染物質等を、水等の水系溶媒に溶存させたまま、その成分を質量分析計で計測または同定することは不可能である。さらに、近年、質量分析計は高感度化が計られ、高性能となったといえども、目的とする成分が極微量成分の場合、測定が難しい場合も多々ある。
【0006】
そこで、本発明は、乾燥条件下や真空中でも、微小サイズの球形を維持し続けることのできる液滴粒子を生成することを、課題および目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(a)気体中または真空中の条件下で浮遊輸送される液滴粒子であって、
(b)前記条件下で蒸発する液体と目的成分物質と臨界ミセル濃度未満の界面活性剤とを含む混合溶液が霧化された直径100μm以下の液滴から前記液体が蒸発して濃縮された目的成分物質と、
(c)液滴粒子の表面全体に、自己凝集して分子が逆ミセル様に並ぶことによって、前記液体が蒸発することを抑制する膜を形成し、臨界ミセル濃度を上回る界面活性剤とを含み、
(d)混合溶液における界面活性剤の濃度に対応する直径10μm以下の粒径を有する球状であることを特徴とする液滴粒子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液滴粒子は、揮発性の液体を基体(ベース)としながらも、乾燥条件下や真空中で、微小サイズの球形を安定して維持し続ける、寿命の長い、新規な液滴粒子である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明の目的、特色、および利点は、下記の詳細な説明と図面とから、より明確になるであろう。
【
図1】
図1A,
図1Bおよび
図1Cは、この順に、本発明の液滴粒子(エアロミセル)の形成過程を説明する図である。
【
図2】本発明の実施形態の液滴粒子の生成方法を説明する工程図である。
【
図3】実施形態の液滴粒子の生成装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施例における液滴粒子の生成装置の概略構成を示す図である。
【
図5】
図5Aは実施例の液滴粒子の生成装置における噴霧手段の先端部分の断面図であり、
図5BはそのP部拡大図である。
【
図6】実施例で得られた液滴粒子の粒径を、界面活性剤の濃度ごとにプロットした散点グラフである。
【
図7】実施例で得られた液滴粒子の平均粒径を、濃度ごとにプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参考にして、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態の液滴粒子の形成過程を説明する図である。
【0011】
本実施形態の液滴粒子は、
図1Cに示すような、たとえば水、アルコール等の揮発性の液体と、界面活性剤等の、気液界面で自己凝集により不揮発性の膜を形成する化合物と、を含む液滴粒子であって、気体中または真空中において、崩壊することなく、または、内部の前記液体が蒸発することなく、安定に存在することを特徴とする。
【0012】
従来、このような、揮発性の液体を基体(ベース)とする、直径または粒径100μm以下の液滴粒子(エアロゾル)は、気体中または真空中においてすぐに液体(水やアルコール等)が蒸発するため、瞬時に液滴が消失してしまっていた。
【0013】
しかしながら、本発明のものである、前記の新規な液滴粒子は、上記界面活性剤等の、気液界面で自己凝集により不揮発性の膜を形成する化合物の適量の添加により、気体中または真空中においても、崩壊することなく、または、内部の液体が蒸発することなく、1秒間以上にわたって安定に維持される。これが、本発明の液滴粒子の特徴である。
【0014】
なお、上記「揮発性」を有するとは、通常の大気圧・室温下(ここでは15℃とする)、飽和蒸気圧に達していない気体中で自然に蒸発が進行することをいう。また逆に、「不揮発性」とは、通常の大気圧・室温下において、取り扱い中に蒸発や昇華による極端な減量が発生しないことをいう。すなわち、水、アルコール、水-アルコールの混合液は、揮発性を有するものとする。
【0015】
さらに、上記の液滴粒子の「安定」とは、通常は乾燥または蒸発が進行する乾燥空気中または真空中において、表面の気液界面に形成された膜(通常、球形)が、1秒間以上の長きにわたって保持されることをいう。また、上記「適量」とは、化合物が界面活性剤である場合、その化合物に対応した限界ミセル濃度(cmc)未満の濃度をいう。
【0016】
前述の液滴粒子を生成する方法は、まず、前記の揮発性の液体中に、界面活性剤等の、気液界面で自己凝集により不揮発性の膜を形成する化合物を分散させた混合溶液を準備する。それを、噴霧または霧化装置等を用いて気体中または真空中に吐出し、前記混合溶液を霧化させて、
図1Aに示すような液滴粒子を作製する。
【0017】
つぎに、前記の気体中または真空中で、
図1Bに示すように、前記液体の揮発により液滴粒子を縮径させ、この縮径した液滴粒子の表面に前記化合物を整列させて、この液滴粒子と周囲の雰囲気との境界(気液界面)に、蒸発保護膜となる不揮発性の膜が形成された液滴粒子〔
図1C参照〕を作製する。
【0018】
以上の方法により、気体中または真空中で安定な液滴粒子(エアロミセル)を、安定的にかつ効率的に生成することができる。また、得られた液滴粒子は、直径または粒径100μm以下の微小な液滴でありながら、気体中または真空中で長寿命なため、質量分析計等に導入するための余裕時間を充分に得ることができる。
【0019】
なお、先にも述べたように、本実施形態においては、前記「揮発性の液体」として、水またはアルコールを、好適に採用する。また、前記「不揮発性の膜を形成する化合物」として、種々の界面活性剤を、好適に使用する。
【0020】
以上の構成により、より安定的に、かつ、より効率的に、気体中または真空中で安定な、エアロミセル等の液滴粒子を生成することができる。
【0021】
つぎに、具体的な液滴粒子の生成方法と生成装置について説明する。
図2は本発明の第1実施形態における液滴粒子の生成方法を示すステップ図であり、
図3は第1実施形態における液滴粒子の生成装置の構成の概略を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態の液滴粒子の生成方法は、
図2に示すように、少なくとも、揮発性の液体に、気液界面で自己凝集により不揮発性の膜を形成する化合物を添加して混合溶液を作製する工程(以下、混合溶液作製工程)と、前記混合溶液を、乾燥空気中または真空中に噴霧して、直径100μm以下の微小な液滴を作製する工程(以下、液滴作製工程)と、前記液滴中の液体を揮発させ、該液滴の直径を縮小させる工程(以下、液滴縮小工程)と、前記液滴の直径の縮小により、液滴表面の気液界面に、前記化合物からなる膜(保護膜)を形成する工程(以下、保護膜形成工程)と、前記膜が形成された液滴を、他の物体に接触させることなく所定位置まで輸送する工程(以下、液滴輸送工程)と、を備える。
【0023】
なお、以下の第1実施形態では、説明の容易上、前記揮発性の液体として水または水溶液を使用し、前記不揮発性の膜を形成する化合物として界面活性剤を使用した例について、記載する。また、直径100μm以下の粒子(液滴)を、微小または微細であるという場合がある。なお、前記乾燥空気に代えて、酸素、窒素、希ガスや、その混合ガス等を用いてもよい。
【0024】
各工程を詳しく説明すると、混合溶液作製工程は、試料となる水溶液に、臨界ミセル濃度未満の界面活性剤を添加して、つぎの液滴作製のための、準備または用意をする工程である。界面活性剤(洗剤)としては、ミセルを形成する性質を有するものであれば、特にその種類は限定されず、イオン性界面活性剤、非イオン性(ノニオン)界面活性剤のいずれでも使用することができる。また、イオン性界面活性剤として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができる。なお、使用量は少量ではあるが、人体や環境への影響を考慮して、環境への負荷の少ない、安全性の高い界面活性剤が、好適に採用される。
【0025】
なお、「臨界ミセル濃度(cmc)未満」の濃度とは、界面活性剤を添加した状態で、液体の表面(界面)および水中でも界面活性剤が吸着や凝集することなく、ミセル(球体)を形成しない状態で存在できる程度の、低濃度のことをいう。
【0026】
液滴作製工程は、前述の界面活性剤を添加した水溶液(試料)を、乾燥空気中または真空中に噴霧して、前記乾燥空気中または真空中に浮遊する直径100μm以下の微小液滴を作製する工程である。水溶液の噴射手段としては、ネブライザー等の超音波式のほか、加熱気化式のもの等も使用することが可能である。本実施形態においては、気流により生じた負圧を利用して微小で微細な液滴を多数作製できるアトマイザー等を、好適に使用する。このような、微小な液滴を効率的に作製することのできるアトマイザー等(装置)については、後記で説明する。
【0027】
つぎに、前述で作製された微小な液滴は、以下の液滴縮小工程と保護膜形成工程とを経て、液体(液滴)の表面である気液界面に、該液体の蒸発を防ぐ界面活性剤の保護性薄膜が形成された、逆ミセル様の微小液滴からなるエアロゾル(先に述べたエアロミセル)が形成される。なお、液滴縮小工程と保護膜形成工程とは、通常、同時に並行して行われるが、行われる順序やタイミングや時制について、制限はない。
【0028】
液滴縮小工程は、前記液滴作製工程で作製された微小な液滴中の水または水分を、後記の生成装置における液滴養生部2(
図3参照)において、乾燥空気中または真空中での浮遊中に蒸発させ、この微小な液滴の直径をさらに縮小させて、水溶液中の成分を濃縮する工程である。なお、粒径1μm未満の極少サイズのエアロゾルを「エアロ・ナノ・ミセル」と呼ぶ場合がある。
【0029】
また、保護膜形成工程は、前述の液滴の径縮小に伴って、微小な液滴の表面に、先に添加した界面活性剤の分子が整列した薄膜からなる蒸発保護膜または乾燥保護膜を、形成する工程である。なお、上述の薄膜は、前記水溶液中の各成分が濃縮されることによって、先に溶液に添加していた界面活性剤の濃度が臨界ミセル濃度を上回り、微小な液滴の表面に、逆ミセル様に界面活性剤の単分子または複数分子が並ぶことにより形成されている。
【0030】
この時、たとえば、粒径が10μmから1μmに縮小された場合、液滴の体積は1/1000となり、液滴に溶存している物質(目的試料および界面活性剤)は、1000倍濃縮されることになる。このように、液滴縮小工程と保護膜形成工程とは、水溶液中の目的物質の濃縮工程でもある。
【0031】
これらの構成により、前記液滴養生部2(
図3参照)内に、空中または真空中に浮遊する、寿命の長い液滴粒子を、安定的に作製することができる。
【0032】
つぎに、作製された液滴粒子は、輸送工程を経て、目的地または所定場所等を含む所定位置まで移送される。すなわち、液滴輸送工程は、たとえば、気体の流れを利用した気流(空気)輸送、または、粒子を帯電あるいはイオン化させる等によって、前記保護膜が形成された微小な液滴を、他の物体に接触させることなく、所定位置まで輸送する工程である。これにより、前述の液滴粒子を、その寿命内に、液滴粒子を利用または加工する位置まで送り届けることができる。
【0033】
なお、上記における「寿命の長い」(寿命が長い)とは、液滴粒子の生成から所定位置(目的地)まで到達できる間の時間をいい、通常、前記微小なサイズの液滴粒子の水分が蒸発するまでに要する0.01秒~0.5秒程度に対して充分に長い、1秒~数秒間以上の間、液滴粒子が崩壊や蒸発せずに維持されることをいう。
【0034】
つぎに、前述の液滴粒子(エアロミセル)を作製するための液滴粒子の生成装置は、
図3のブロック図に示すように、少なくとも、水溶液を直径100μm以下の液滴とする噴霧手段(水溶液噴霧手段1)と、生成された液滴を浮遊させる液滴養生部2と、生成された液滴粒子を所定位置まで輸送する輸送手段3と、を備える。なお、本実施形態の液滴粒子の生成装置(
図3)においては、前記の各手段または各部に加え、水溶液噴霧手段1に乾燥空気を供給するための乾燥空気供給手段(装置D)と、水溶液噴霧手段1に水溶液(試料)を供給するための水溶液供給手段(装置S)とが、配設されている。
【0035】
水溶液噴霧手段1には、先にも述べたように、直径100μm以下の微小液滴を効率的に作製することのできるアトマイザー等の噴霧装置が、好適に用いられる。水溶液噴霧手段1の具体例の詳細は、後記の実施例で説明する。
【0036】
液滴養生部2には、乾燥空気を密閉できる気密状のタンクや槽状の容器等が用いられる。これらタンクや容器等の上部には、タンク等の内部に、水溶液噴霧手段1から噴射された液滴を導入するための開口(孔2a)が設けられている。また、下部には、作製された液滴粒子を導出する液滴回収部として、同様の開口(孔2b)が形成されている。
【0037】
なお、液滴養生部2内部には、後記の乾燥空気供給装置Dから供給された乾燥空気が、上から下(図中の、頂部の孔2aから底部の孔2b)に向かって、ゆっくりと流れるようになっている。すなわち、この乾燥空気の気流に乗って、作製された液滴粒子(エアロミセル)が、他の物体に接触することなく、空中に浮遊したまま、下部の液滴回収部まで運ばれるようになっている。
【0038】
また、液滴養生部2は、底部の孔2bから内部の空気を吸引または脱気することにより、真空に近い低圧環境または真空とすることもできる。
【0039】
輸送手段3は、前述の液滴回収部と、これに接続されたチューブ状または管状の部材から構成されている。これら輸送手段3は、生成された液滴粒子を静電気等で吸着することがないよう、帯電性のない素材を用いて構成されているか、もしくは、アース(接地)が設けられている。
【0040】
なお、本実施形態では、生成された液滴粒子(エアロミセル)は、乾燥空気の押圧により、液滴養生部2から、パーティクルカウンターや質量分析装置等まで運ばれるが、このような押圧源または正圧源等がない装置の場合は、別途、液滴粒子を液滴養生部2から、質量分析装置等の所定位置まで吸引するための負圧源等を設けてもよい。
【0041】
水溶液噴霧手段1に乾燥空気を供給する乾燥空気供給装置Dとしては、相対湿度50%以下の乾燥空気を連続して生成できるドライエアユニットと、コンプレッサ等の定量ポンプユニットとを少なくとも備える装置が使用される。この乾燥空気供給装置Dから供給された乾燥空気は、水溶液の微細噴霧や液滴の輸送等、液滴粒子の生成装置の動力源または駆動源として用いられる。
【0042】
水溶液噴霧手段1に水溶液(試料)を供給する水溶液供給装置Sとしては、少量の水溶液を、定量で噴霧手段1に供給できる装置であれば、どのような構成でもよい。たとえば、マイクロシリンジと、マイクロシリンジポンプ等の組み合わせを利用することができる。また、超音波噴霧器や加熱式噴霧器等を使用してもよい。
【0043】
以上の構成によって、本実施形態の液滴粒子の生成装置は、直径100μm以下の液滴を噴霧し、それを効果的かつ効率的に、微小な液滴粒子(エアロミセル)とすることができる。
【実施例】
【0044】
つぎに、液滴粒子を実際に作製した実施例について説明する。
【0045】
本実施例では、
図4に示す生成装置を用いて、液滴粒子の生成を行った。なお、実施例における液滴粒子の生成装置も、基本的な構成は実施形態で示した装置と同様であり、水溶液噴霧手段1と、液滴養生部2と、輸送手段3と、乾燥空気供給装置Dと、水溶液供給装置Sと、からなる。
【0046】
図5A,
図5Bは、本実施例の水溶液噴霧手段1(アトマイザー)における水溶液噴射手段の先端(口金)の構成を示す断面模式図である。この水溶液噴射手段の先端は、内周を水溶液が流れる内管の外側(外径側)に、乾燥空気が流れる外管が配設された、二重管構造になっている。したがって、
図5Bに示すように、外管端部から高速で流出する乾燥空気によって生じる負圧により、内管から吐出された水溶液(試料)は、5~20μm程度の微小な液滴となって、液滴養生部2に向かって噴出する。
【0047】
実施例の液滴養生部2は、上下に長いタンク状であり、その上下長(高さ)は約360mm、中央部の最大直径約42mmφで、容積は約2Lのものを用いた。また、液滴養生部2に、水溶液噴射手段1の先端から時間あたり1.5L程度の乾燥空気を供給し、液滴養生部2の下部から排気した。
【0048】
[実施例1]
前述の構成の液滴粒子の生成装置(
図4,
図5A)を用いて、液滴粒子の生成を行った。なお、水溶液(水)としては純水を用い、これに、界面活性剤として、代表的なアニオン界面活性剤である、直鎖アルキル(ドデシル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム〔以下、LASと略称する〕を、10~100μM(M=mol/L)添加して、微小サイズの液滴粒子(エアロ・ナノ・ミセル)の生成の確認を行った。ちなみに、LASの臨界ミセル濃度〔cmc〕は、1.2mMol/L(1200μM)である。
【0049】
[アトマイザーの水溶液噴射条件]
図5Bに示すように、水溶液噴霧手段1の内管と外管の間から、1.5L/分相当の流量の乾燥空気を流しながら、内管から、流量2.0μL/分の割合で、LASを添加した純水を、図示下側の液滴養生部2に向けて噴射した。そして、液滴養生部2の底部に位置する溶液回収部には、測定機器として、光散乱式のパーティクルカウンター(リオン社製KC-01E)を直接接続して、この液滴養生部2の底部まで到達する液滴粒子(エアロミセル)の個数と粒径分布とを、実験ごとに1分間計測した。なお、LASを添加しない純水のテスト噴射で観測される液滴粒子は、極めて少ない。
【0050】
LASの添加割合を、10,20,30,50,80μMにした場合に検出された「液滴粒子」(エアロミセル)の平均粒径の計測結果を、
図6のグラフに示す。なお、この散点グラフは、複数回行った計測における、液滴の平均粒径の分布を、全てプロットしている。
【0051】
つぎに、
図7に示すグラフは、
図6の散点を各濃度ごとに平均を取った、平均粒径の変化を示すものである。すなわち、
図7は、LASの各濃度ごとに、得られるであろう液滴粒子(エアロミセル)の粒径の期待値を示している。この結果は、各液滴粒子が球体であるとし、その球体表面の界面に、LASの単分子が一様に並ぶ単分子膜が形成された場合のモデル計算(シミュレーション)の結果と、良く一致している。
【0052】
ちなみに、10μMのLASを添加した場合(1分間2.0μLあたり)、粒径0.3~0.5μmの液滴が約2800個、粒径0.5~1.0μmの液滴が約120個生成され、50μMのLASを添加した場合(1分間2.0μLあたり)では、粒径0.3~0.5μmの液滴が約12000個、粒径0.5~1.0μmの液滴が約1100個、計測中の1分間にわたって、ほぼ途切れることなく検出されることが確認されている。また、最大80秒間にわたって、連続して液滴粒子(エアロミセル)を検出することができた。
【0053】
このように、LASを添加した水は、本発明の生成装置を用いた生成方法によって、安定的に、効率良く、微小なサイズの液滴粒子(エアロミセルまたはエアロ・ナノ・ミセル)を生成できることがわかった。
【0054】
なお、添加する界面活性剤として、ドデシル硫酸ナトリウム〔SDS:臨界ミセル濃度(cmc)8.2mM〕を用いた場合でも、前記実施例と同様の結果が得られることが、確認されている。
【0055】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、請求の範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の、寿命の長い微小な液滴粒子は、質量分析計等への液体試料の直接導入や、その過程における液体試料のオンライン濃縮等の利用に好適である。したがって、液体試料中の溶存化学物質の連続モニタリングを可能にする。その他にも、前記液滴粒子は、塗料スプレーに用いられる液滴粒子の長寿命化や、液滴粒子を内包カプセルとして利用したドラッグデリバリー等を、可能にする。特に、ドラッグデリバリーについては、液滴粒子の大きさを変えることで、人体の到達させる部位(鼻、咽喉、気管、肺、肺胞等)をコントロールすることが可能となり、より効率的な治療が可能になる。
【符号の説明】
【0057】
1 水溶液噴霧手段
2 液滴養生部
3 輸送手段
D 乾燥空気供給装置
S 水溶液供給装置