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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】放牧動物管理システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20230216BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021540975
(86)(22)【出願日】2020-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2020031342
(87)【国際公開番号】W WO2021033732
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2019150738
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505149446
【氏名又は名称】株式会社ズコーシャ
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】千田 廉
(72)【発明者】
【氏名】山本 倫之
(72)【発明者】
【氏名】清野 伸孝
(72)【発明者】
【氏名】善方 響輝
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-295212(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0044732(US,A1)
【文献】特開2011-234668(JP,A)
【文献】特許第5892235(JP,B2)
【文献】特許第4229757(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/183350(WO,A1)
【文献】特許第5846292(JP,B2)
【文献】特開平11-128210(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2548190(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 11/00 - 29/00
A61D 1/08
G01P 15/00 - 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放牧地に放牧された複数の動物に、加速度センサ、位置検出センサ、及びこれらの検出値を個体識別コードとともに送信する送信部を取り付け、
前記送信部から送信される前記検出値によって、前記動物の状態を管理する放牧動物管理システムであって、
前記動物の管理情報を登録する動物情報データーベースを有するサーバーが、
特定時刻における複数の前記動物の存在位置から群れを判断する群れ判断ステップと、
前記群れ判断ステップで判断した前記群れに入らない前記動物を、管理対象候補動物として抽出する管理対象候補動物抽出ステップと、
前記群れ判断ステップ及び前記管理対象候補動物抽出ステップを、異なる時刻で複数回繰り返し行い、前記管理対象候補動物として所定回数以上抽出された前記動物を、管理対象動物として特定する管理対象動物特定ステップと
前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、前記加速度センサの前記検出値を用いて単位時間当たりの加速度、又は前記加速度の標準偏差から運動強度を算出し、算出される前記運動強度から発情状態を判断する動物状態判断ステップとを有し、
前記動物状態判断ステップにおける前記発情状態を判断する前記運動強度の閾値を、雨天か否かを含む気象情報によって変更することを特徴とする放牧動物管理システム。
【請求項2】
前記サーバーが
前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、所定位置に、所定時間以上存在しているか否かを判断する動物状態判断ステップと、
前記動物状態判断ステップで、前記所定位置に前記所定時間以上存在していると判断した前記管理対象動物を分娩状態又は要救出状態として出力し、前記所定位置に前記所定時間以上存在していないと判断した前記管理対象動物を前記発情状態として出力する出力ステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載の放牧動物管理システム。
【請求項3】
前記動物状態判断ステップでは、
当日(n)における前記運動強度と、1日前(n-1)からX日前(n-X)までの平均運動強度との比較から判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の放牧動物管理システム。
【請求項4】
前記動物状態判断ステップでは、
1日前(n-1)との比較における当日(n)の前記運動強度から判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の放牧動物管理システム。
【請求項5】
前記動物状態判断ステップでは、
前回の発情日からの間隔期間を前記発情状態の判断に加える
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の放牧動物管理システム。
【請求項6】
前記動物状態判断ステップでは、
前記位置検出センサの前記検出値から前記単位時間当たりの移動距離を算出し、算出される前記移動距離を前記発情状態の判断に加える
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の放牧動物管理システム。
【請求項7】
前記サーバーが、
前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、前記加速度センサの前記検出値の変化を時系列で表示する管理対象動物表示ステップ
を有し、
前記管理対象動物表示ステップでは、
前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、前記加速度センサの前記検出値を用いて前記単位時間当たりの前記加速度、又は前記加速度の前記標準偏差から算出する前記運動強度の変化を時系列で表示する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の放牧動物管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放牧地に放牧された複数の動物の状態を管理する放牧動物管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、放牧地に放牧された牛に首輪をつけ、GPS衛星からの電波に基づいた家畜位置データを首輪から送信し、監視センターでは受信した家畜位置データを画面上の放牧地の地図に家畜位置として点画像を表示すること、地図上に牛の位置を示す点画像がかたまりとなって表示されること、移動軌跡データファイルから、子牛が誕生したことを判定することについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-160820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放牧牛は舎飼牛とは異なる環境下で飼育管理されている。
一般に昼夜野外にいる放牧環境において個体の管理情報を得るには、個体の位置・移動距離情報(GPS)、加速度センサによる行動情報および行動に影響を与える気象情報が必要となる。
しかし、放牧多頭管理現場での日常業務は少人数で行われ、草地の状態、移牧作業、各牛の観察、発情発見に伴う授精業務、分娩確認・補助と多岐に渡る。
例えば放牧牛の場合、数十頭程度であれば、全ての牛の移動軌跡や現在位置を監視することも可能であるが、100頭を越える放牧牛の全ての移動軌跡や現在位置を監視することは困難である。
すなわち、全頭牛の発情発見、分娩監視、疾病(異状)発見は少人数では困難となっている。
【0005】
そこで、本発明は、群れを作るという動物の習性に着目し、群れから外れた動物を異常として判断することで、多数の動物に対する管理負担を軽減できる放牧動物管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の放牧動物管理システムは、放牧地に放牧された複数の動物に、加速度センサ11、位置検出センサ12、及びこれらの検出値を個体識別コードとともに送信する送信部13を取り付け、前記送信部13から送信される前記検出値によって、前記動物の状態を管理する放牧動物管理システムであって、前記動物の管理情報を登録する動物情報データーベース22を有するサーバー20が、特定時刻t1における複数の前記動物の存在位置から群れを判断する群れ判断ステップと、前記群れ判断ステップで判断した前記群れに入らない前記動物を、管理対象候補動物として抽出する管理対象候補動物抽出ステップと、前記群れ判断ステップ及び前記管理対象候補動物抽出ステップを、異なる時刻で複数回繰り返し行い、前記管理対象候補動物として所定回数以上抽出された前記動物を、管理対象動物として特定する管理対象動物特定ステップと、前記サーバー20が前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、前記加速度センサ11の前記検出値を用いて単位時間当たりの加速度、又は前記加速度の標準偏差から運動強度を算出し、算出される前記運動強度から発情状態を判断する動物状態判断ステップとを有し、前記動物状態判断ステップにおける前記発情状態を判断する前記運動強度の閾値を、雨天か否かを含む気象情報によって変更することを特徴とすることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の放牧動物管理システムにおいて、前記サーバー20が前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、所定位置に、所定時間以上存在しているか否かを判断する動物状態判断ステップと、前記動物状態判断ステップで、前記所定位置に前記所定時間以上存在していると判断した前記管理対象動物を分娩状態又は要救出状態として出力し、前記所定位置に前記所定時間以上存在していないと判断した前記管理対象動物を前記発情状態として出力する出力ステップとを有することを特徴とすることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の放牧動物管理システムにおいて、前記動物状態判断ステップでは、当日(n)における前記運動強度と、1日前(n-1)からX日前(n-X)までの平均運動強度との比較から判断することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載の放牧動物管理システムにおいて、前記動物状態判断ステップでは、1日前(n-1)との比較における当日(n)の前記運動強度から判断することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の放牧動物管理システムにおいて、前記動物状態判断ステップでは、前回の発情日からの間隔期間を前記発情状態の判断に加えることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の放牧動物管理システムにおいて、前記動物状態判断ステップでは、前記位置検出センサ12の前記検出値から前記単位時間当たりの移動距離を算出し、算出される前記移動距離を前記発情状態の判断に加えることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の放牧動物管理システムにおいて、前記サーバー20が、前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、前記加速度センサ11の前記検出値の変化を時系列で表示する管理対象動物表示ステップを有し、前記管理対象動物表示ステップでは、前記管理対象動物特定ステップで特定された前記管理対象動物について、前記加速度センサ11の前記検出値を用いて前記単位時間当たりの前記加速度、又は前記加速度の前記標準偏差から算出する前記運動強度の変化を時系列で表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、群れから離れて行動する動物を管理対象動物とすることで、全頭を対象とした場合に困難な、発情発見、分娩監視、疾病発見、脱柵発見、事故発見が可能となり、草地の状態や移牧のタイミングも把握可能となり、多数の動物が放牧されていても、管理負担を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例による放牧動物管理システムを機能実現手段で表したブロック図
図2】同放牧動物管理システムのフロー図
図3】同放牧動物管理システムを説明する、特定時刻t1におけるイメージ図
図4】同放牧動物管理システムを説明する、特定時刻t2におけるイメージ図
図5】同放牧動物管理システムを説明する、特定時刻t3におけるイメージ図
図6】本発明の他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示すグラフ
図7】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示す図
図8】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示す図
図9】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示す図
図10】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示すグラフ
図11】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示すグラフ
図12】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す画面イメージ図
図13】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す画面イメージ図
図14】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す画面イメージ図
図15】本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による放牧動物管理システムは、動物の管理情報を登録する動物情報データーベースを有するサーバーが、特定時刻における複数の動物の存在位置から群れを判断する群れ判断ステップと、群れ判断ステップで判断した群れに入らない動物を、管理対象候補動物として抽出する管理対象候補動物抽出ステップと、群れ判断ステップ及び管理対象候補動物抽出ステップを、異なる時刻で複数回繰り返し行い、管理対象候補動物として所定回数以上抽出された動物を、管理対象動物として特定する管理対象動物特定ステップと、サーバーが管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、加速度センサの検出値を用いて単位時間当たりの加速度、又は加速度の標準偏差から運動強度を算出し、算出される運動強度から発情状態を判断する動物状態判断ステップとを有し、動物状態判断ステップにおける発情状態を判断する運動強度の閾値を、雨天か否かを含む気象情報によって変更するものである。本実施の形態によれば、群れから離れて行動する動物を管理対象動物とすることで、全頭を対象とした場合に困難な、発情発見、分娩監視、疾病発見、脱柵発見、事故発見が可能となり、草地の状態や移牧のタイミングも把握可能となり、多数の動物が放牧されていても、管理負担を低減できる。また、異常と推定できる動物に対して、発情状態を予測することができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による放牧動物管理システムにおいて、サーバーが管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、所定位置に、所定時間以上存在しているか否かを判断する動物状態判断ステップと、動物状態判断ステップで、所定位置に所定時間以上存在していると判断した管理対象動物を分娩状態又は要救出状態として出力し、所定位置に所定時間以上存在していないと判断した管理対象動物を発情状態として出力する出力ステップとを有するものである。本実施の形態によれば、異常と推定できる動物に対して、分娩状態若しくは要救出状態か、又は発情状態にあるかを予測することができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による放牧動物管理システムにおいて、動物状態判断ステップでは、当日(n)における運動強度と、1日前(n-1)からX日前(n-X)までの平均運動強度との比較から判断するものである。本実施の形態によれば、過去の平均運動強度との比較で、発情状態を予測することができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態による放牧動物管理システムにおいて、動物状態判断ステップでは、1日前(n-1)との比較における当日(n)の運動強度から判断するものである。本実施の形態によれば、前日の運動強度との比較で、発情状態を予測することができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4のいずれかの実施の形態による放牧動物管理システムにおいて、動物状態判断ステップでは、前回の発情日からの間隔期間を発情状態の判断に加えるものである。本実施の形態によれば、過去の発情日からの間隔期間を判断に加えることで、発情状態をより正確に予測することができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5のいずれかの実施の形態による放牧動物管理システムにおいて、動物状態判断ステップでは、位置検出センサの検出値から単位時間当たりの移動距離を算出し、算出される移動距離を発情状態の判断に加えるものである。本実施の形態によれば、移動距離を判断に加えることで、発情状態をより正確に予測することができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による放牧動物管理システムにおいて、管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、加速度センサの検出値の変化を時系列で表示する管理対象動物表示ステップを有し、管理対象動物表示ステップでは、管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、加速度センサの検出値を用いて単位時間当たりの加速度、又は前記加速度の標準偏差から算出する運動強度の変化を時系列で表示するものである。本実施の形態によれば、異常と推定できる動物に対して健康状態を判断できる。
【実施例
【0016】
以下本発明の一実施例について図面とともに説明する。
図1は、本発明の一実施例による放牧動物管理システムを機能実現手段で表したブロック図である。
本実施例による放牧動物管理システムは、放牧地に放牧された動物に取り付ける端末機10と、放牧地に放牧された動物の状態を管理するサーバー20とで構成される。
【0017】
例えば、動物が牛のように反芻動物である場合には、端末機10は頸部に取り付けることが好ましい。端末機10は、加速度センサ11、位置検出センサ12、及びこれらの検出値を個体識別コードとともに送信する送信部13を備えている。
加速度センサ11は、3軸加速度センサが好ましく、3軸加速度センサを用いることで、前後方向加速度、上下方向加速度、及び左右方向加速度を検出することができ、採食、反芻時の咀嚼、及び伏臥休息を、前後方向加速度、上下方向加速度、及び左右方向加速度から判別することができる。例えば、継続する経過時刻における所定時間に、前後方向加速度、上下方向加速度、及び左右方向加速度が、閾値を越えている場合には、反芻時の咀嚼及び伏臥休息ではなく採食であると判別することができる。また、前後方向加速度、上下方向加速度、及び左右方向加速度の少なくともいずれかから、反芻時の咀嚼加速度波形の規則性を判別することで、加速度波形に高い規則性が認められる場合には、健康であると評価することができる。
位置検出センサ12は、GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)によるセンサであることが好ましい。
個体識別コードは、動物の個体を識別できればよく、端末機10に付与された端末識別コードを用いることもできる。
【0018】
サーバー20は、送信部13から送信される検出値を受信する受信部21と、受信した検出値を個体識別コード別に時刻情報とともに記憶する動物情報データーベース22と、制御部23と、表示部24とを有する。
制御部23は、群れを判断する群れ判断手段23Aと、群れに入らない個体を管理対象候補動物として抽出する管理対象候補動物抽出手段23Bと、管理対象動物を特定する管理対象動物特定手段23Cと、管理対象動物について個体の状態を判断する動物状態判断手段23Dとを有する。
群れ判断手段23Aでは、特定時刻における複数の動物の個体存在位置から群れを判断する。例えば、放牧地を所定エリアにメッシュ分割し、所定数の個体が存在するメッシュエリアを抽出し、抽出したメッシュエリアが連続する範囲を群れのエリアと判断することができる。また、個別の個体を中心とする所定範囲に他の個体が所定数存在していれば、群れにいる個体と判断することもできる。
管理対象候補動物抽出手段23Bでは、特定時刻において、群れ判断ステップで判断した群れに入らない個体を、管理対象候補動物として抽出する。
管理対象動物特定手段23Cでは、所定期間内に、管理対象候補動物として所定回数以上抽出された個体を、管理対象動物として特定する。
動物状態判断手段23Dでは、管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、所定位置に、所定時間以上存在しているか否かを判断し、所定位置に所定時間以上存在している場合には管理対象動物を分娩状態又は要救出状態と判断し、所定位置に所定時間以上存在していない場合には管理対象動物を発情状態と判断する。
表示部24では、管理対象としている動物について、加速度センサ11の検出値の変化を時系列で表示し、位置検出センサ12の検出値の変化を時系列で表示することができる。
【0019】
図2は、同放牧動物管理システムのフロー図である。
サーバー20では、受信部21で検出値を受信すると(S1)、受信した検出値を動物情報データーベース22に登録する(S2)。
群れ判断ステップでは、群れ判断手段23Aが、特定時刻における個体の位置検出センサ12の検出値を動物情報データーベース22から抽出し(S3)、抽出した位置検出センサ12の検出値から特定時刻における個体の群れを判断する(S4)。
管理対象候補動物抽出ステップでは、S4で判断した群れに入らない個体を、管理対象候補動物として抽出する(S5)。
【0020】
群れ判断ステップ(S3、S4)及び管理対象候補動物抽出ステップ(S5)を、所定期間が経過するまで、異なる時刻で複数回繰り返し行う(S6でNo)。ここでの所定期間は、例えば、6時間、12時間、又は24時間である。
所定期間が経過した場合には(S6でYes)、管理対象動物特定ステップに移行する。
管理対象動物特定ステップでは、管理対象候補動物として所定回数以上抽出されたか否かを判断し(S7)、管理対象候補動物として所定回数以上抽出された個体を管理対象動物として特定する(S8)。管理対象候補として抽出されなかった個体、及び管理対象候補動物として抽出された回数が所定回数未満である個体は正常と判断する(S9)。
S8において、管理対象動物として特定された個体については、動物情報データーベース22から、その個体に関する検出値を抽出する(S10)。
【0021】
管理対象動物表示ステップでは、管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、加速度センサ11の検出値の変化を時系列で表示し(S11)、管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、位置検出センサ12の検出値の変化を時系列で表示する(S12)。
【0022】
動物状態判断ステップでは、管理対象動物特定ステップで特定された管理対象動物について、所定位置に、所定時間以上存在しているか否かを判断し(S13)、出力ステップでは、所定位置に所定時間以上存在していると判断した管理対象動物を分娩状態又は要救出状態として出力し(S14)、所定位置に所定時間以上存在していないと判断した管理対象動物を発情状態として出力する(S15)。
【0023】
図3から図5は、同放牧動物管理システムを説明するイメージ図であり、図3は所定の放牧地における特定時刻t1における動物の存在位置を示し、図4は所定の放牧地における特定時刻t2における動物の存在位置を示し、図5は所定の放牧地における特定時刻t3における動物の存在位置を示している。
【0024】
図3から図5において、破線枠Xは群れ判断ステップで判断された群れを示すエリアである。図3では動物1~7が群れに入らないと判断される個体、図4では動物1~3が群れに入らないと判断される個体、図5では動物1~3、8、9が群れに入らないと判断される個体であり、これらの個体は、それぞれの特定時刻t1、特定時刻t2、及び特定時刻t3において管理対象候補動物として抽出される。
【0025】
管理対象動物特定ステップでの所定回数を3回とすると、動物1~3が管理対象動物として特定される。
動物1、3については、特定時刻t1、特定時刻t2、及び特定時刻t3において、異なる位置に存在するため、所定位置に所定時間以上存在していないと判断し、発情状態であると予測できる。
また、動物2については、特定時刻t1、特定時刻t2、及び特定時刻t3において、同じ位置に存在するため、分娩状態又は要救出状態であると予測できる。
【0026】
このように、群れから離れて行動する動物を管理対象動物とすることで、多数の動物が放牧されていても、管理負担を低減でき、この管理対象動物について加速度センサ11の検出値の変化を時系列で表示し、又は位置検出センサ12の検出値の変化を時系列で表示することで、異常と推定できる動物に対し、健康状態を判断し、又は分娩状態若しくは要救出状態か、又は発情状態にあるかを予測することができる。
【0027】
図6は、本発明の他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示すグラフであり、図6(a)は当日(n)における運動強度の変化を示し、図6(b)は1日前(n-1)からX日前(n-X)までの平均運動強度に対する当日(n)の運動強度の標準偏差を示し、図6(c)は図6(b)から一部のデータをヒストグラム化したグラフを示し、図6(d)は図6(c)の頻度をグラフ化したものを示している。
本実施例による動物状態判断処理は、図1に示す動物状態判断手段23Dで行われる。
図6(a)は、当日(n)について、加速度センサ11の検出値を用いて単位時間当たりの加速度を標準化したグラフであり、縦軸を加速度とし横軸を時間としている。高い値が運動強度が強であり、低い値が運動強度が弱となる。
図6(b)は、1日前(n-1)からX日前(n-X)までの単位時間当たりの加速度の平均値と標準偏差を基に当日(n)の単位時間の加速度を標準化したグラフであり、縦軸を加速度とし横軸を時間としている。高い値は運動強度が強であり、低い値は運動強度が弱である。
図6(c)は、図6(b)に示す「発情判定したい時間」から24時間前のデータを切り出し、切り出した24時間のデータをヒストグラム化している。
図6(d)は、運動強度の時間分布を示しており、運動強度の時間分布から発情状態を判断することができる。
また、過去の平均運動強度との比較で、発情状態を予測することができる。
なお、例えば、10分、20分、30分、及び60分間隔の加速度又は加速度の標準偏差で運動強度を算出し、算出される運動強度から発情状態を判断することもできる。
【0028】
図7は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示す図であり、図7(a)は運動強度の分類閾値を機械学習で計算し設定した後の運動強度の時間分布を示し、図7(b)は図7(a)に示す時間分布を3つのカテゴリーにまとめた時間分布を示し、図7(c)は図7(b)に示す3つのカテゴリーに分けた時間分布の発情前後での変化を示している。
本実施例による動物状態判断処理は、図1に示す動物状態判断手段23Dで行われるが、機械学習の計算はサーバー20以外で行うこともできる。
図7(a)では、一定間隔の運動強度の大きさについて8つのカテゴリーに分類している。運動強度の大きさは不等間隔とした。機械学習は実験測定により発情牛(=正解データ、n≧80ケース)を用いて行っている。
図7(b)では、図7(a)での8つのカテゴリーを3つのカテゴリーにまとめている。3つのカテゴリーでのそれぞれの運動強度の大きさは等間隔である。
図7(c)では、発情日(8月30日)、発情の前日(8月29日)、及び発情の翌日(8月31日)における、運動強度の増減を示している。
3つのカテゴリー分布(回数・数値)での発情日の特徴は、発情による休息時間の減少、採食行動の低下、反芻の低下が起こるため、運動強度の低い行動が低下し、中程度(歩行等)が増加する。
図7(c)に示すように、動物状態判断処理は、1日前(n-1)との比較における当日(n)の運動強度から判断することができ、前日の運動強度との比較で、発情状態を予測することができる。
【0029】
図8は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示す図である。
図8では、放牧育成牛の24時間データを用いた任意時間での発情検知を示している。
ユーザーは任意の時間に、「発情兆候・発情」の有無について「検知」指示を行うことで、指示から所定期間前、例えば指示から24時間前データを動物状態判断手段23Dで、加速度センサ11の検出値を用いて単位時間当たりの加速度、又は加速度の標準偏差から運動強度を算出し、算出される運動強度から発情状態を判断することにより「発情兆候・発情」を予測することができる。
また、あらかじめ指示時刻を設定しておくことで、設定時刻前の所定期間における発情状態を予測して表示することができる。従って、放牧管理者の業務・勤務時間の都合に合わせて、任意の指示時刻を設定して発情の有無に関する情報が得られるため、管理者・人工授精の業務スケジュールに合わせた情報提供が可能となる。
【0030】
図9は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示す図であり、図9(a)は処理流れを示し、図9(b)は処理結果を示すグラフである。
本実施例による動物状態判断処理は、図1に示す動物状態判断手段23Dで行われる。
本実施例は、放牧育成牛の例えば、10分、20分、30分、及び1時間(変動可能)間隔データを用いることでリアルタイムに発情を予測できるものである。
図9(a)に示すように、送信部13から送られる加速度センサ11の検出値を標準化処理し(S31)、S31で標準化処理した運動強度を加算して1時間データとし(S32)、この1時間データを2乗処理し(S34)、その結果をグラフ表示する(S35)。なお、個体ごとに運動強度を算出して発情レベルの係数を算出しておき(S33)、S35におけるグラフ化では個体ごとの係数を用い、閾値以上時に発情報知を行う(S36)。
表示されるグラフには閾値ラインを表示することで、閾値以上のタイミングを発情と予測することができる。
図9(b)は、S34の結果を示すグラフであり、グラフには閾値を表示する。
閾値は、放牧育成牛の個体ごとに設定し、この閾値(スライスレベル・発情検知レベル)を超えた際に、発情スタート時間として予測が可能となる。業務上、放牧地に管理者がいない場合、その他の事情で発情時間情報が必要な牛について「リアルタイム発情モード」として逐次計算(予測)することが可能となる。
【0031】
次に、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を以下に説明する。
放牧牛の動物状態の一つである分娩予測は下記の判定基準によって行うことができる。
採食時間の顕著な減少(発情日<分娩日)、採食時間の変化と同時に起る移動時間の減少(発情日>分娩日)、特定エリア(半径150~500m)での滞在時間が60分以上になった場合、及び群れの中心から30~1000m以上離れている、の基準で判定できる。
採食時間は加速度センサ11による加速度変動によって検出でき、移動時間、特定エリアでの滞在時間、及び群れの中心からの距離は位置検出センサ12による位置検出によって検出できる。
【0032】
図10は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示すグラフであり、異常牛(疾病・事故・死亡)の判定方法を示している。
図10は移動距離と加速度変量との相関分布図である。
図10に示すように、2019/8/1 19:30以降ほぼゼロレベルとなることで、疾病、事故、又は死亡などの異常と推定することができる。
従って、例えば1時間のような所定時間内に、加速度差分値の変動がなく、移動距離が例えば10mのような所定範囲内という、2つの条件を満たした場合に、異常行動と判定し報知することができる。
【0033】
図11は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムでの動物状態判断処理方法を示すグラフであり、水のみ場へ行った回数を示している。
図11では、放牧育成牛のある個体について、一週間の期間、緯度・経度データから得られた分布図を示しており、丸で囲った個所が水飲み場である。
黒枠に囲まれたエリアにプロットされた数が水飲み場に来た回数である。
雨天時は水飲み場への回数が減少する。また、移動距離も減少傾向にあり、発情時の移動も抑制される。
従って、動物状態判断の処理では、雨天の場合には雨天以外の天候の場合と、閾値やアルゴリズムを変更することが好ましい。
【0034】
図12は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す画面イメージ図であり、放牧育成牛の滞在時間をマップ上に示している。
図12において、小径丸印は20分以下の滞在、中径丸印は21分以上60分以下、大径丸印は61分以上2時間までを示している。
このように、放牧育成牛の草地滞在時間の変動情報を位置情報(マップ情報)とともに出力することで草原管理を行うことができる。
【0035】
図13は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す画面イメージ図であり、群れ全体がどの時間にどの辺に滞在していたかを分布で示している。
図13(a)では、白丸印は4:00~18:00、黒丸印は18:00~4:00の滞在を示し、図13(b)では、図13(a)におけるA~FとP1~P5とでメッシュ区分された場所における群れでの平均滞在時間を示している。
このように、草原の中のどの場所でどれくらいの時間をかけて採食しているかを可視化しマップ上において表示することができる。
【0036】
図14は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す画面イメージ図であり、変化のある個体を抽出することができる出力イメージ図である。
図14(a)は、個体別に前日と当日との移動距離及び活動量を比較した一覧リスト出力であり、図14(b)は、図14(a)の一覧リストから特定の個体の現在位置をマップ上に表示したものである。
このように、個体別に前日と当日との移動距離及び活動量を比較し、変化がある個体を摘出することもでき、群れ判断手段23Aに代えて、又は群れ判断手段23Aでの判断とともに、管理対象候補動物として抽出することもできる。
【0037】
図15は、本発明の更に他の実施例による放牧動物管理システムを示す説明図である。
図15(a)は、群れの中心位置の推定と各個体の中心位置からの距離情報を説明する図であり、図15(b)は群れ中心の計算式である。
位置検出センサ12の検出値から群れの中心点を推測し、中心点の座標から直線距離でどれくらい離れているかを計測し動物情報データ-ベース22に登録する。この情報は、分娩予知(群れから離れた位置での分娩)、運動疾患による移動の困難、社会的順位の低い牛の管理、などの情報として利用可能となる。5分、10分、30分、及び1時間間隔での、推定される群れ中心点からの距離を記録し管理情報として使用する。
なお、中心点は図15(b)の計算式によって求めることができ、中心点(XO,YO)を緯度経度の座標に置き換え、各個体位置(Xn,Yn)の距離(Ln)を求め、1分、2分、10分、及び20分間隔の距離情報を動物情報データ-ベース22に登録する。
【0038】
以上のように本実施例によれば、群れから離れて行動する動物を管理対象動物とすることで、全頭を対象とした場合に困難な、発情発見、分娩監視、疾病発見、脱柵発見、事故発見が可能となり、草地の状態や移牧のタイミングも把握可能となり、多数の動物が放牧されていても、管理負担を低減できる。
また、動物状態判断ステップでは、前回の発情日からの間隔期間を発情状態の判断に加えることで、発情状態をより正確に予測することができる。
また、動物状態判断ステップでは、位置検出センサ12の検出値から単位時間当たりの移動距離を算出し、算出される移動距離を発情状態の判断に加える、発情状態を更に正確に予測することができる。
【0039】
本発明による放牧動物管理システムは、加速度センサ11及び位置検出センサ12に加えて、放牧地に設置した気象センサや、広く提供されている気象情報を用いて、気象による行動への影響を調整することにより、発情検知、分娩検知、疾病検知、脱柵、及び放牧内での事故、草地の状態、又は移牧のタイミングを報知することができる。
首輪に取り付けた送信部13からのデータ送信間隔は、5~20分間隔と長く、送信データ数を加速度センサ11の検出値と位置検出センサ12の検出値に限ることで欠損率は3%以下とすることができている。
送信部13からのデータは公衆無線システム(LPWA)を介してインターネット回線を用いることでサーバー20に送信し保存することができる。
受信部21で受信するデータはサーバー20内で再計算し、WEB対応アプリケーションにより事務所内の大型PCモニターや現場にキャリー可能なモバイル端末を用いて表示できる。
放牧管理者の業務時間に合わせた任意の時間にサーバー20内で再計算し、各個体の発情を検知することができる。
発情予測方法は、任意の時間から24時間データを遡って再計算して予測する方法と、5分、10分、20分、及び1時間間隔の分析結果と1つ前の発情日からの間隔期間を使った発情兆候を検出する方法とを選択できる。また同時に位置検出センサ12による移動距離の増減を発情検知の判断要素として用いていることで確度を上げることができる。
分娩が近い牛は、移動距離が長く採食量が減少するため位置検出センサ12と加速度センサ11とによる採食行動の減少データをトリガーとすることができる。
放牧牛は草地内に草が少なくなると、牧柵近くの淵の草を採食する傾向、移動距離が長くなる傾向、又は特定場所に行かなくなる傾向がある。従って、牧柵近くにいる時間帯が増加する傾向と、頭数から現在放牧している草地の採食可能状態の判断を促す警報を表示することができる。
放牧内で動かなくなった牛の報知は、群から2時間以上離れた場合や、移動距離と加速度の反応により、異常牛(疾病等により移動ができない状態)か死亡牛の報知を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、特に放牧牛について、発情、分娩、及び怪我の管理に適している。
【符号の説明】
【0041】
1~9 動物
10 端末機
11 加速度センサ
12 位置検出センサ
13 送信部
20 サーバー
21 受信部
22 動物情報データーベース
23 制御部
23A 群れ判断手段
23B 管理対象候補動物抽出手段
23C 管理対象動物特定手段
23D 動物状態判断手段
X 破線枠
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15