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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20230216BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20230216BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20230216BHJP
   H05H 1/46 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
H01L21/302 101D
H01L21/205
C23C16/455
H05H1/46 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019015182
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020123685
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川那辺 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 基裕
(72)【発明者】
【氏名】森 功
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-124190(JP,A)
【文献】特開平11-050272(JP,A)
【文献】特開2011-154973(JP,A)
【文献】特開平08-227874(JP,A)
【文献】特開2007-335465(JP,A)
【文献】特開平04-312797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
C23C 16/455
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がプラズマ処理される略円筒状の処理室と、前記処理室内に第一のガスを導入し前記処理室の上方に配置された平板状の第一のガス導入部と、前記処理室内に第二のガスを導入する第二のガス導入部とを備えるプラズマ処理装置において、
前記第一のガス導入部の中心部に配置された第一のガス孔を包囲し前記処理室内に配置された略円環状の仕切り部をさらに備え、
前記第二のガス導入部は、前記仕切り部の外側に配置され、
前記第二のガス導入部の第二のガス孔は、前記処理室の側面から離れて配置されるとともに下方方向に開口され、
前記第二のガス孔の軸線は、前記仕切り部の軸線と略平行であり、
前記仕切り部の下端部の高さは、前記第二のガス孔の高さより低いことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記第二のガス孔は、下方方向に向かって漸次拡径するテーパ形状であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記第二のガス孔は、下方方向に向かって漸次縮径し、前記漸次縮径後、漸次拡径するラバルノズル形状であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記第二のガス導入部は、前記処理室の上隅部に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置において、
プラズマ処理を開始させる場合、前記第一のガス及び前記第二のガスの導入を開始させた後、プラズマを生成するための高周波電力の供給を開始させる制御が行われる制御部をさらに備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置において、
プラズマ処理を終了させる場合、プラズマを生成するための高周波電力の供給を停止させた後、前記第一のガス及び前記第二のガスの導入を停止させる制御が行われる制御部をさらに備えることを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造においてプラズマエッチング、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、プラズマアッシング等のプラズマ処理が広く用いられている。半導体デバイスの量産性確保の観点から、これらのプラズマ処理装置には、ウエハ面内で良好な加工均一性を確保することが求められる。
【0003】
例えばプラズマエッチング装置におけるプラズマの生成方式としては、ECR(Electron Cyclotron Resonance)方式や誘導結合方式や容量結合方式などが知られている。ECR方式とは、磁力線を回る電子の回転周波数とマイクロ波周波数が一致する共鳴現象を利用したプラズマ生成方式である。ECRプラズマ生成に用いるコイル磁場の制御により、ECRプラズマの生成領域を変えてウエハ面内のイオンフラックス分布を制御できるという特徴を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-242777号公報
【文献】特開2008-124190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマ処理対象となるウエハ面内の均一性を確保するためには、エッチングに寄与するイオンやラジカルのウエハへの入射フラックスの分布の調整が必要である。ECR方式のプラズマエッチング装置においては、ウエハ上のイオンフラックス分布均一性を確保するために、電磁コイルの電流値を制御してプラズマ生成領域にあたる875Gの等磁場面(ECR面)の位置制御や磁力線の向きの調整が通常用いられる。
【0006】
荷電粒子であるイオンの輸送は外部から印加する磁場によってある程度制御できるが、電気的中性であるラジカルの輸送は外部磁場によっては制御できない。したがって、ウエハ上へのラジカルのフラックスの径方向分布を制御するには、ラジカルの生成領域の分布、あるいは生成したラジカルのウエハへの輸送を制御する必要がある。その手段として、例えば、装置中心軸近傍と外周の複数個所から異種のガスを導入する技術が知られている(特許文献1、2)。
【0007】
ここで、ラジカル生成の径方向分布を制御するためには、ラジカルの生成領域であるECR面近傍においてガス密度に径方向分布を持たせることが必要である。例えば、ウエハ外周部で所望のラジカルを多くしたい場合、解離すると所望のラジカルを生成するようなガスを外周から供給することが有用である。しかし、供給したガスの流速が遅い場合には、生成したラジカルが等方的に拡散してしまい、ウエハ外周部で所望のラジカルを多くすることはできない。
【0008】
例えば特許文献1、2記載の技術では、外周から供給したガスは装置内壁の隙間を介して処理室下方向に浸み出す構成である。この従来構成では、外周から供給したガスが装置外周部にて解離してラジカルを生成することはできる。しかし、隙間から出てきたガスの流速が低いために、外周から供給したガス由来のラジカルは等方的に拡散してしまい、ウエハ上においてはラジカル密度分布が凸分布(中央密)となりやすい。一方、当該構成において外周ガスの流速を高めるために、装置内壁の隙間を狭くすることもできるが、それにより隙間の周方向均一性が悪化し、外周ガスの噴出し量が周方向において不均一となり、ラジカル密度分布の不均一性を招くという問題が生じる。
【0009】
本発明は、かかる課題を鑑みてなされたものであり、被処理物上におけるラジカルの径方向密度分布を制御することが出来るプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、代表的な本発明のプラズマ処理装置は、試料がプラズマ処理される略円筒状の処理室と、前記処理室内に第一のガスを導入し前記処理室の上方に配置された平板状の第一のガス導入部と、前記処理室内に第二のガスを導入する第二のガス導入部とを備えるプラズマ処理装置において、前記第一のガス導入部の中心部に配置された第一のガス孔を包囲し前記処理室内に配置された略円環状の仕切り部をさらに備え、前記第二のガス導入部は、前記仕切り部の外側に配置され、前記第二のガス導入部の第二のガス孔は、前記処理室の側面から離れて配置されるとともに下方方向に開口され、記第二のガス孔の軸線は、前記仕切り部の軸線と略平行であり、前記仕切り部の下端部の高さは、前記第二のガス孔の高さより低い、ことにより達成される。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被処理物上におけるラジカルの径方向密度分布を制御することが出来るプラズマ処理装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の第一の実施形態に係るエッチング装置の断面図である。
図2図2は、処理室内圧力に対する第二のガス流量とマッハディスク距離の関係を示す図である。
図3図3は、外周ガス導入部11近傍の拡大断面図である。
図4図4は、外周ガス導入部11のガス孔の拡大断面図である。
図5図5は、本発明の第二の実施形態に係るガスとマイクロ波電力導入のタイムチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して以下に示す。
[実施形態1]
図1に、本発明の第一の実施形態に係るプラズマ処理装置であるエッチング装置の概略断面図を示す。制御部CONTの制御に従ってマイクロ波電力(高周波電力)の投入に応じてマイクロ波源1から発振されたマイクロ波は、方形導波管2と自動整合機3とアイソレータ4と円矩形変換器5を介して円形導波管6に伝送される。本実施形態では、マイクロ波源1には工業周波数としてよく用いられる2.45GHzのマグネトロンを用いた。しかし、本発明はこの周波数に限定するものではなく、マイクロ波として数十MHzから数十GHzの電磁波を用いてもよい。
【0014】
自動整合機3は、負荷インピーダンスを調整し、反射波を抑制して効率的に電磁波を供給する役割を持つ。また、反射波からマイクロ波源1を保護するためにアイソレータ4を用いる。円形導波管6には、基本モードである円形TE11モードのみを伝播する直径のものを選ぶ。これは、高次モードが含まれるような径の円形導波管6を用いると、プラズマ生成の安定性や均一性に悪影響を及ぼす虞れがあるためである。円形導波管6は空洞部7に接続されており、空洞部7は電磁界分布をプラズマ処理に適した分布に調整する働きを持つ。
【0015】
空洞部7の下部にはマイクロ波導入窓8、シャワープレート9、内筒10、外周ガス導入部11、仕切り部12が配置されている。プラズマ処理室(単に処理室ともいう)100は、シャワープレート9、内筒10、外周ガス導入部11、仕切り部12、及び後述するチャンバ内壁26によって囲われ、内部で試料がプラズマ処理される略円筒状の領域である。
【0016】
マイクロ波導入窓8、シャワープレート9の材質は、マイクロ波を効率よく透過し、且つ耐プラズマ性が高い石英を用いることができる。あるいは、同様にプラズマ耐性が高く、マイクロ波を透過する材料であるイットリア、アルミナ、フッ化イットリウム、フッ化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いて、マイクロ波導入窓8、シャワープレート9を形成しても良い。
【0017】
これに対し、仕切り部12、内筒10は必ずしもマイクロ波を透過する材料から形成する必要性はないが、仕切り部12や内筒10のスパッタリング等に起因した被処理基板(被処理物)16への異物の付着や汚染等を抑制する観点から、耐プラズマ性を持つ材料から形成する必要がある。そこで、例えば仕切り部12や内筒10の材質として石英を用いることができ、あるいはイットリア、アルミナ、フッ化イットリウム、フッ化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いても良い。
【0018】
マイクロ波導入窓8とシャワープレート9との間には、第一のガス供給手段13から配管を介して第一のガスが供給される。第一のガス供給手段13には、例えばマスフローコントローラによって所望の流量を供給する機能が含まれている。シャワープレート9の中心部に配置された導入部9aには微細なガス供給孔(第一のガス孔ともいう)9bが複数設けられ、第一のガスをプラズマ処理室100に対して均一にシャワー状に供給する役割を持つ。シャワープレート9は、プラズマ処理室9の上方に配置された平板状の部材であり、ここでは第一のガス導入部を構成する。
【0019】
プラズマ処理室100の周囲には電磁コイル14が設けられ、その外周にはヨーク15が設けられている。電磁コイル14に電流を供給することにより、プラズマ処理室100内でECRに必要な磁束密度を満たすように静磁界分布を調整することができる。ヨーク15は装置外部への磁場の漏洩を防ぐ磁気シールドの役割を持つ。
【0020】
電磁コイル14とヨーク15で形成される磁力線は、プラズマ処理室100内の上方から下方に向かって外周方向に広がる拡散磁場となる。2.45GHzのマイクロ波の場合、ECRに必要な磁束密度は875Gである。静磁界分布を調整して、875Gの等磁場面(ECR面)を放電室内の任意の場所に調整することで、プラズマの生成領域の位置を調整することができる。また、静磁界の調整により、被処理基板16へのプラズマの拡散を制御することが出来る。そこで、電磁コイル14は、プラズマの生成領域やプラズマの拡散の制御を容易とするために複数用いることが望ましい。
【0021】
外周ガス導入部11には、第二のガス供給手段17から配管を介して第二のガスが供給される。第二のガスがECR面を介して効率的に解離を行うために、外周ガス導入部11は、内筒10の上端に接して、プラズマ処理室100内の上隅部(上壁と内壁との交差部)に配置されている。外周ガス導入部11が、第二のガス導入部を構成する。
【0022】
円環状の外周ガス導入部11の内部は、図3に示すように空洞となってバッファ室BCを構成している。外周ガス導入部11の外周壁11aには、第二のガス供給手段17とバッファ室BCとを連通するガス導入口11bが形成されている。また、プラズマ処理室100とバッファ室BCとを仕切る外周ガス導入部11の底壁11cには、プラズマ処理室100の下方(処理すべき被処理基板16に近い側)に向かって開口した複数のガス孔(第二のガス孔ともいう)11dが周方向に沿って等間隔に形成されている。ガス孔11dは、バッファ室BCとプラズマ処理室100とを連通しており、またプラズマ処理室100の側面である内筒10の内壁から離れて配置されるとともに、下方向に向かって開口している。ガス孔11dの軸線は、仕切り部12の外周面(すなわち軸線)と平行である。このガス孔11dを設ける代わりに、周方向に連続して開口するスリットを設けても良い。
【0023】
ガス孔11dのガス流路のコンダクタンスはバッファ室BCの容積に比べて十分に低く設定され、すなわちガス孔11dの合計断面積は十分小さく設定される。これにより、バッファ室BC内の圧力が均一に保たれ、全周に沿って配置されたガス孔11dから均一に第二のガスが導入される。
【0024】
プロセス処理室10内に配置された略円環状の仕切り部12は、円管部12aと、円管部12aの上端から径方向外側に延在するフランジ部12bとを有し、シャワープレート9の導入部9aのガス供給孔9b(図1)を全周にわたって包囲している。円管部12aの外周に、外周ガス導入部11の内周壁11eが嵌合しており、すなわち外周ガス導入部11は仕切り部12の径方向外側に配置されている。またフランジ部12bは、シャワープレート9の下面と、外周ガス導入部11の上壁11fとにより挟持されている。なお、フランジ部12bは必ずしも設ける必要はなく、上壁11fをシャワープレート9の下面に直接突き当てるようにしてもよい。
【0025】
仕切り部12の円管部12aは、外周ガス導入部11の底壁11cよりも下方向(処理すべき被処理基板16に向かう側)に延びており、プラズマ処理室100を径方向の内側と外側とに仕切っている。したがって、仕切り部12の内側で導入される第一のガスと、仕切り部12の外側で導入される第二のガスを、径方向に分離した状態でプラズマ処理室100内に導入できる。特に、ガス孔11dが内筒10の内壁から離れて形成されているので、ガス孔11dから吹き出された第二のガスが、内筒10の内壁に接することにより生じる粘性抵抗を小さく抑えることができ、第二のガスの流速を高めることができる。
【0026】
図1において、被処理基板16を載置する基板ステージ兼高周波電極18とその下部には、絶縁板19が備えられており、第一のガス供給手段13及び第二のガス供給手段17から供給されるガスは、コンダクタンス調節バルブ20を介してターボ分子ポンプ21により真空排気される構成となっている。
【0027】
また、被処理基板16にバイアス電力を供給するために、基板ステージ兼高周波電極18にはバイアス用自動整合機22を介してバイアス電源23が接続されている。本実施形態では、バイアス電源の周波数として400kHzのものを用いたが、例えば工業周波数の13.56MHzなど、プラズマ処理に要求される目的に合わせて、それ以外の周波数を用いても良い。
【0028】
また、基板ステージ兼高周波電極18には図示しない温調手段及び被処理基板16を基板ステージ兼高周波電極18に吸着する手段が備えられており、所望のエッチングが出来るように必要に応じて被処理基板16の温度が調節される。
【0029】
基板ステージ兼高周波電極18の上面の外周部及び側面には、基板ステージ兼高周波電極18を保護するために誘電体で構成されるサセプタ24とカバーリング25が設置されている。例えば、サセプタ24やカバーリング25の材質は、耐プラズマ性の高い材料である石英を用いることができるが、同様に耐プラズマ性の高い材料である、イットリア、アルミナ、フッ化イットリウム、フッ化アルミニウム、窒化アルミニウムなどを用いても良い。プラズマ処理室100の下方は、導電性材料で構成される接地されたチャンバ内壁26で囲まれている。
【0030】
プラズマ処理であるエッチングについて説明する。エッチングは、マイクロ波供給源1から供給したマイクロ波によって、プラズマ処理室100に導入されるガスをプラズマ化してプラズマ101を生成し、そこで生成されたイオンやラジカルを被処理基板16に照射して行われる。
【0031】
例えば、被処理基板16の外周部に所望のラジカルを多く供給したい場合、所望のラジカルを生成する第二のガスを第二のガス供給手段17から供給し、更にECR面を外周ガス導入部11に近づけることが有効である。それによりプラズマ処理室100の外周部かつ仕切り部12の外周側では、第二のガス密度が高くなるため第二のガス由来のラジカルを多く生成することができる。
【0032】
また、この第二のガス由来のラジカルは下方に向かうガス流れにより輸送され、被処理基板16の外周部に所望のラジカルを多く供給することが出来る。このとき、外周ガス導入部11から下方に向かうガスの流れを、径方向内側への拡散に対して十分速くする必要がある。移流と拡散の比を表す無次元数であるペクレ数Pe(=vL/D)で表現すると、Pe>>1である場合に、ラジカルはガス流れによって指向性を持って輸送できると考えられる。ここでvは代表速度、Lは代表長さ、Dは拡散係数である。典型的なラジカルの拡散係数は、数Pa程度であれば0.1~10m/sのオーダである。代表長さはウエハ径である0.3mと考えると、Pe>>1となるためにはvは数百m/s以上が必要である。すなわち亜音速から超音速の流れがあれば良いと考えられる。
【0033】
次に、外周ガス導入部11から高速で下向きに第二のガスを導入するための構成や条件について説明する。図3に外周ガス導入部11近傍を拡大した断面図を示す。外周ガス導入部11からプラズマ処理室100に高速で第二のガスを供給するためには、外周ガス導入部11内の円環状のバッファ室BCとプラズマ処理室100との間に十分な圧力差を形成する必要がある。
【0034】
高速ガス導入の一つの指標として、マッハディスク距離について検討する。マッハディスクとは、第二のガスが高圧のバッファ室BCからガス孔11dを介し、低圧のプラズマ処理室100内に移動する過程で急激に膨張すること、またプラズマ処理室100内が有限の圧力を持つことなどに起因して生じる衝撃波のことである。ここでマッハディスク距離とは、第二のガスの出口端からマッハディスクが形成される位置までの距離xをいう。少なくともガス孔11dからマッハディスク間の領域では、超音速の高速なガス流れが形成でき、その領域ではガス流れ方向にラジカルを輸送することができると考えられる。音速はガス種に依存するが、およそ数百m/s程度のオーダとなる。マッハディスク距離xは下式で表される。
=0.67d(p/p0.5・・・(1)
ここで、dはガス孔直径、pは外周ガス導入部11のバッファ室圧力、pはプラズマ処理室100の圧力である。
【0035】
外周ガス導入部11の出口であるガス孔1個あたりのコンダクタンスをC、ガス孔の個数をn個とすると、供給流量Qと圧力の関係は下式になる。
Q=nC(p-p)・・・(2)
【0036】
ガス孔のコンダクタンスCは、第二のガスが粘性流であり、ガス孔が円筒形状の場合、下式で与えられる。
C=(1394d/l)((p+p)/2)・・・(3)
ここで、lはガス孔の長さを表す。
【0037】
式(2)、(3)より、バッファ室圧力pが以下の通り得られる(ただし、(4)式の導出の過程で、p≪pであることから1-(p/p≒1と近似した)。
=√(2lQ/1349nd)・・・(4)
【0038】
なお、式(4)の導出過程では、プラズマ処理室100内の圧力pがpに比べ十分小さいためpを無視した。式(1)と(4)から求めた流量とマッハディスク距離の関係は、図2のようになる。このとき、ガス孔長さlは15mm、ガス孔直径dは0.5mm、ガス孔個数nは60個として計算した。第二のガス流量や、処理室内の圧力を調整することでマッハディスク距離を増減できることがわかる。
【0039】
マッハディスク距離とECR面との関係を模式的に示す図3において、図中のH1は外周ガス導入部11のガス孔11dの出口端から仕切り部12下端までの距離である。また、H2は外周ガス導入部11のガス孔11dの出口端からECR面までの距離である。H2>H1であることから明らかなように、仕切り部12の下端部の高さは、ガス孔11dの出口端の高さより低くなっている。
【0040】
図3に示すように、外周ガス導入部11のガス孔11dからのマッハディスク距離xよりも近い位置になるように外部磁場を制御する場合について検討する。すなわち、H2<xのとき、プラズマ処理室100外周部にて第二のガスが多く解離して第二のガス由来のラジカルが多く生成され、生成されたラジカルは高速なガス流れで下方に輸送される。
【0041】
更に、0<H2<H1<xの場合、仕切り部12にてプラズマ処理室100が径方向に仕切られており、仕切り部12の外周側における第二のガス密度が高くなる。更に第二のガス密度の高い仕切り部12外周の流路にECR面が存在するため、より効果的に第二のガス由来のラジカルを生成できる。以上の構成により、第二のガスがプラズマ処理室100の外周部で多く解離してラジカルを生成し、これを高速なガス流れによって被処理基板16外周部にまで輸送できる。
【0042】
次にH2の制約について述べる。通常、プラズマ処理室100に第二のガスを導入するガス孔11dにて異常放電が生じると、プラズマ処理の均一性が著しく悪化する。ECR面とガス孔11dの出口端との距離が30mm未満である(すなわちH2<30mmである)とガス孔11dにて異常放電が生じることがわかっている。したがって、30mm<H2<xとする必要がある。この条件は、H2は磁場の調節により、またxは、図2に示したように処理室圧力や第二のガス流量調節により実現可能である。
【0043】
一方で、ECR面の高さをマッハディスク位置よりも下方とするとき、すなわち、H2>xであるとき、第二のガス由来のラジカルは被処理基板16に全域的に供給されることとなる。これは、外周ガス導入部11のガス孔11dから離れるほど、ガスの粘性などの影響で第二のガスの流速が減衰し、第二のガスがプラズマ処理室100内に拡散することなどの理由による。
【0044】
H2>xを実現する方法としては、図2に示したように、第二のガス流量低下及びプラズマ処理室内圧力増加を行ったり、あるいは電磁コイル14の電流値を調整してECR面の高さをプラズマ処理室100下方に移動させれば良い。
【0045】
通常、被処理基板16をプラズマ処理する際には、要求される加工性能に応じてシャワープレート9及び外周ガス導入部11から供給される反応性ガスの組成比や処理室圧力等を調整する。したがって、所望のラジカルを被処理基板16の外周部に供給したい場合でも、加工性能の制約によっては必ずしもプラズマ処理室内圧力や第二のガス流量を単純に調整できないことがある。この場合、第二のガス流量調整用のガスとして新たに希ガスなどの反応性の乏しいガスを、外周ガス導入部11に追加導入すればよい。これにより、要求される加工性能を損なうことなく、被処理基板の外周部へのラジカルフラックスを調整することができる。
【0046】
以上述べたように、マッハディスクとECR面の高さの位置関係を調整する方法を用いれば、被処理基板16に入射する第二のガス由来のラジカルのフラックスの径方向分布を調整することが可能となる。
【0047】
本実施形態では外周ガス導入部11のガス孔11dは、図3に示すような円筒形状を有するものとしたが、高速なガス流れを形成するために、孔形状を任意に変更しても良い。図4に外周ガス導入部11のガス孔形状を変更した例を示す。例えば、図4(a)に示すように、ガス孔11dを、底壁11cの下面に近づくに従って(下方向に向かって)漸次径の広がる末広がりのテーパ状としても良い。また、図4(b)に示すように、ガス孔11dを、底壁11cの下面に近づくに従って漸次縮径し、中間地点から漸次拡径するような、流路断面積を絞ってから広げるラバルノズル形状としても良い。その他、高速にガスを導入可能なガス孔断面形状が適宜用いられても良い。
【0048】
[実施形態2]
実施形態1で示したプラズマ処理装置を用いた好適なプラズマ処理方法を、実施形態2にて示す。図5に、プラズマ処理時のガス流量とマイクロ波電力導入のタイムチャートを示す。マイクロ波源1、第一のガス供給手段13、第二のガス供給手段17を含むプラズマ処理装置の各部を制御する制御部CONT(図1)の制御信号に従い、プラズマ処理を開始させる時には、第一のガス及び第二のガスは、マイクロ波電力を印加するΔT1前に導入される。また制御部CONTの制御信号に従い、プラズマ処理を終了させる時にはマイクロ波電力を停止してからΔT2後に、第一のガス及び第二のガスの導入を停止する。
【0049】
このシーケンスの採用により、プラズマ処理室100内で生成したラジカルが第一のガス供給手段13や第二のガス供給手段17に逆流し、ガス配管が腐食するといったリスクを大幅に低減できる。なぜならば、マイクロ波電力を投入してプラズマ処理室100内にプラズマ101が生成している間には、常にガス導入部から遠ざかる方向にガス流れが存在し、プラズマ処理室100で生成したラジカルが第一のガス供給手段13と第二のガス供給手段17にまで到達しにくくなるためである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、半導体ウエハ等の基板上の試料をエッチング等で処理するプラズマ処理装置法に適用可能である。ただし、プラズマ源としてはECR方式に限られず、任意の方式を用いることができる。
【0051】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態における構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態における構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 マイクロ波源
2 方形導波管
3 自動整合機
4 アイソレータ
5 円矩形変換器
6 円形導波管
7 空洞部
8 マイクロ波導入窓
9 シャワープレート
10 内筒
11 外周ガス導入部
12 仕切り部
13 第一のガス供給手段
14 電磁コイル
15 ヨーク
16 被処理基板
17 第二のガス供給手段
18 基板ステージ兼高周波電極
19 絶縁板
20 コンダクタンス調整バルブ
21 ターボ分子ポンプ
22 バイアス用自動整合機
23 バイアス電源
24 サセプタ
25 カバーリング
26 チャンバ内壁
100 プラズマ処理室
101 プラズマ
CONT 制御部
図1
図2
図3
図4
図5