IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社テノックスの特許一覧 ▶ 株式会社クラレの特許一覧 ▶ 株式会社複合技術研究所の特許一覧

特許7228416繊維入りセメントミルクおよび繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法
<>
  • 特許-繊維入りセメントミルクおよび繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法 図1
  • 特許-繊維入りセメントミルクおよび繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法 図2
  • 特許-繊維入りセメントミルクおよび繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】繊維入りセメントミルクおよび繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230216BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20230216BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20230216BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20230216BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20230216BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C04B28/02
E02D3/12 102
C04B22/10
C04B16/06 A
C04B16/06 B
C09K17/10 P
C09K17/02 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019044546
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020147455
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000133881
【氏名又は名称】株式会社テノックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(73)【特許権者】
【識別番号】501232528
【氏名又は名称】株式会社複合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】村山 篤史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 健太
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-104763(JP,A)
【文献】特開平05-345650(JP,A)
【文献】特開2007-270488(JP,A)
【文献】特開昭54-050114(JP,A)
【文献】特開2014-001545(JP,A)
【文献】特開2013-028474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
C09K 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントまたはセメント系固化材と補強用繊維と塩基性炭酸マグネシウムと水がスラリー状に配合され、圧送ポンプを用いて注入される繊維入りセメントミルクであって、前記塩基性炭酸マグネシウムは前記セメントに対する質量比で0.1~4.0%の範囲、前記水セメント比は50~100%の範囲でそれぞれ配合され、かつ前記補強用繊維としてポリプロピレン、ナイロンまたはビニロン繊維が前記セメントミルクに対する体積分率で4.5~7.0%の範囲で混入されていることを特徴とする繊維入りセメントミルク。
【請求項2】
セメントまたはセメント系固化材と補強用繊維と水がスラリー状に配合されてなる繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法であって、塩基性炭酸マグネシウムを前記セメントに対する質量比で0.1~4.0%の範囲で配合し、前記水セメント比は50~100%の範囲で配合し、かつ前記補強用繊維としてポリプロピレン、ナイロンまたはビニロン繊維を前記セメントミルクに対する体積分率で4.5~7.0%の範囲で混入することを特徴とする繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維入りセメントミルクおよび繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法に関し、流動性に富み、特に圧送ポンプによる注入が可能で、地盤改良や液状化対策工などで土中に注入される固化材液として用いられる。
【背景技術】
【0002】
液状化地盤や軟弱地盤の支持力向上や液状化の抑止を目的とした地盤改良工法として、土中に固化材液を圧送ポンプによって注入し、原位置土と強制的に攪拌混合することにより土中に改良体(固結した円柱状パイル)を造成する地盤改良工法が知られている。
【0003】
固化材液は、通常、主にセメントと水を、水セメント比(W/C)80~100%のもとで配合しスラリー状に製造され、水とほぼ同程度の粘性と流動性を有していることから、圧送ポンプを用いた注入であっても、注入管が固化材液で詰まる等といった支障をきたすことはない。
【0004】
ところで、近年、スラリー状の固化材液にポリプロピレン、ナイロンまたはビニロン繊維などの補強用繊維が配合された繊維入りセメントミルクを用いることで、改良体の引張り・曲げに対する強度および靭性を飛躍的に向上させる方法が注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、セメントミルクに繊維を均質に分散させて繊維補強ソイルセメント固化体を施工する方法の発明が開示されている。簡単に説明すると、先ず、水セメント比(W/C)を下限値60~80%とした粘度の高いセメントミルクを製造する。この状態のセメントミルクに増粘剤、分散剤及び繊維を加え、さらに繊維を均質に分散させて粘土の高い繊維入りセメントミルクを製造する。次に、スラリーポンプを用いて繊維入りセメントミルクを施工機に圧送し、かつ別系統の配管で施工機に加圧水を圧送して加水することにより適切な水セメント比(W/C)の繊維入りセメントミルクとする。
【0006】
また、特許文献2は、セメント、水及び添加剤を混合したセメントスラリーの回転粘度計による粘度が0.1Pa・s~3.8Pa・sであって、かつ、前記セメント、水、添加剤及び繊維を混合した繊維入りセメントスラリーのLフロー初速度が13cm/s~120cm/sである繊維入りセメントスラリーの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-232032号公報
【文献】特許第5820651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の施工方法は、繊維入りセメントミルクの製造が複雑で面倒であり、また、増粘剤や分散剤などの添加材を配合する必要があるため不経済であり、さらに加水によりセメントミルクの体積が増え、その分、産業廃棄物として処理される残土の排出量が増え、その処理にコストが嵩む等の課題があった。
【0009】
一方、特許文献2の繊維入りセメントスラリーは、配合材の選択、配合比などの配合管理が非常に細かいため、製造が面倒でコストが嵩む等の課題があった。
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、製造が容易でかつセメントミルクと繊維が分離しにくい上に、流動性にすぐれ、特に圧送ポンプを用いた注入に適した繊維入りセメントミルクおよび繊維入りセメントミルクの圧送ポンプによる注入方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セメントまたはセメント系固化材と補強用繊維と水がスラリー状に配合されてなる繊維入りセメントミルクの発明であって、前記繊維入りセメントミルクに塩基性炭酸マグネシウムが配合されてなることを特徴とするものであり、液状化地盤や軟弱地盤の支持力向上や液状化の抑止および抑制を目的とした深層混合処理工法などの地盤改良工法やセメントミルクのみで柱体を築造する水硬性固化材液置換コラムなどに用いることができる。
【0012】
補強用繊維としては、ポリプロピレン、ナイロンまたはビニロン繊維などが適し、改良体の引張り・曲げに対する強度性能を向上させるためには、ソイルセメント中の補強用繊維の混入率(体積分率)を1%以上とするのが望ましい。
【0013】
また、セメントミルクに対する補強用繊維の混入率(体積分率)は4.5~7.0%程度が望ましく、セメントミルクに対する補強用繊維の混入率(体積分率)が7.0%を超えるとポンプ圧送が困難になる。
【0014】
また、水セメント比(W/C)は50%~100%の範囲が適切であり、炭酸マグネシウムは、少ないとセメントミルクと補強用繊維間の充分な分離抵抗性が得られず、多すぎるとセメントミルクの流動性が低下するため、セメントに対する質量比で概ね0.1~4.0%の範囲で配合するのが効果的であり経済的でもある。
【0015】
また、セメントまたはセメント系固化材の添加量は、構造物の基礎として用いられる改良体では、土1m3に対し150~400kg程度とするのが多く、例えば、セメントまたはセメント系固化材の添加量を250kg、水セメント比(W/C)を60%とした場合、ソイルセメント中の補強用繊維の混入率(体積分率)1%を満足するには、セメントミルクに対する補強用繊維の混入率(体積分率)は5.1%となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の繊維入りセメントミルクは、セメントまたはセメント系固化材と補強用繊維と水とを配合することにより製造される繊維入りセメントミルクに、一定量の塩基性炭酸マグネシウムを配合することで、セメントミルクと補強用繊維との分離を防ぐことができ、かつ流動性を低下させることがなく、特に圧送ポンプを用いた注入に適し、また容易に製造することができる。
【0017】
また、流動性に富むことから水セメント比(W/C)を小さくすることが可能なため、産業廃棄物として処理される残土の排出量を大幅に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の繊維入りセメントミルクの圧送試験の図であり、セメントミルクへの繊維混入率(体積分率)=5.1%の繊維入りセメントミルクの圧送試験を実施したときの概念図である。
図2】本発明の繊維入りセメントミルクの圧送試験の図であり、セメントミルクへの繊維混入率(体積分率)=6.1%の繊維入りセメントミルクの圧送試験を実施したときの概念図である。
図3】本発明の繊維入りセメントミルクの圧送試験の図であり、セメントミルクへの繊維混入率(体積分率)=6.5%の繊維入りセメントミルクの圧送試験を実施したときの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の繊維入りセメントミルクは、セメントまたはセメント系固化材と補強用繊維と炭酸マグネシウムと水とを所定の割合で配合することによりスラリー状に製造されている。
【0020】
補強用繊維としては、例えば、ポリプロピレン、ナイロンまたはビニロン繊維などが配合され、また、水セメント比(W/C)は概ね50%~100%の範囲で配合されている。さらに、炭酸マグネシウムは、セメントに対する質量比で概ね0.1~4.0%の範囲で配合されている。
【0021】
図1-3は、本発明の繊維入りセメントミルクの圧送試験装置と試験方法を概念的に示したものであり、圧送ポンプによるグラウトホース内および施工機械内の圧送可否について確認した。図において、符号1は繊維入りセメントミルク製造プラント、2は圧送ポンプ、3は施工機械、4は流量計、そして、符号5はグラウトホースである。
【0022】
試験の結果、繊維入りセメントミルク内に炭酸マグネシウムを配合することにより、水セメント比(W/C)を60%とした粘度の高い繊維入りセメントミルクでも、圧送ポンプによる圧送が可能であることが確認できた。
【0023】
例えば、図1の試験では、セメント系固化材としてUS-52(宇部三菱セメント株式会社製造)、補強用繊維としてビニロン繊維(直径200μm、長さ6mm、セメントミルクへの繊維混入率(体積分率)=5.1%)、炭酸マグネシウム(炭酸マグネシウム添加率(P/C):セメントに対する質量比=0.35%)、および水(水セメント比(W/C)=60%)をそれぞれ配合した(表1(イ)参照)。
【0024】
試験の結果、ポンプ圧力0.9MPaで、1.5インチ径のグラウトホース内を40m圧送することができた。
【0025】
また、図2の試験では、セメント系固化材としてUS-52(宇部三菱セメント株式会社製造)、補強用繊維としてビニロン繊維(直径200μm、長さ6mm、セメントミルクへの繊維混入率(体積分率)=6.1%)、炭酸マグネシウム(炭酸マグネシウム添加率(P/C):セメントに対する質量比=0.35%)、および水(水セメント比(W/C)=60%)をそれぞれ配合した(表1(ロ)参照)。
【0026】
試験の結果、ポンプ圧力0.45MPaでも、2.0インチ径のグラウトホース内を60m、施工機械内高低差を10m圧送することができた。
【0027】
そして、図3の試験では、セメント系固化材としてUS-52(宇部三菱セメント株式会社製造)、補強用繊維としてビニロン繊維(直径200μm、長さ6mm、セメントミルクへの繊維混入率(体積分率)=6.5%)、炭酸マグネシウム(炭酸マグネシウム添加率(P/C):セメントに対する質量比=0.5%)、および水(水セメント比(W/C)=60%)をそれぞれ配合した(表1(ハ)参照)。
【0028】
試験の結果、ポンプ圧力0.30MPaでも、2.0インチ径のグラウトホース内を60m、施工機械内高低差を10m圧送することができた。
【0029】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、繊維入りセメントミルク内に炭酸マグネシウムを配合するだけで、流動性を低下させることがなく、セメントミルクと補強用繊維との分離を防ぎ、特に圧送ポンプによる圧送を問題なく行うことができ、深層混合処理工法などの地盤改良工法やセメントミルクのみで柱体を築造する水硬性固化材液置換コラム等における注入材として使用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 繊維入りセメントミルク製造プラント
2 圧送ポンプ
3 施工機械
4 流量計
5 グラウトホース
図1
図2
図3