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特許7228439粉末積層造形用粉末材料及び造形物の製造方法
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  • 特許-粉末積層造形用粉末材料及び造形物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】粉末積層造形用粉末材料及び造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20230216BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20230216BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20230216BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230216BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230216BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20230216BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20230216BHJP
   C22C 29/08 20060101ALN20230216BHJP
【FI】
B22F1/00 Q
B22F1/00 M
C22C1/051 G
B22F10/28
B33Y70/00
B33Y10/00
C04B35/56 260
B28B1/30
C22C29/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019060845
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020158850
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山田 純也
(72)【発明者】
【氏名】伊部 博之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 伸映
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-113952(JP,A)
【文献】特開平10-088311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 - 8/00
B22F 10/00 - 12/90
C22C 1/04 - 1/059
B33Y 70/00
B33Y 10/00
C04B 35/56
B28B 1/30
C22C 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形前に粉末材料の予熱を行う粉末積層造形法によって造形物を製造するための粉末材料であって、複数の一次粒子が結合してなる二次粒子を含有し、1100℃、2.5時間との条件で熱処理した場合の質量減少率が0.02質量%以下である粉末積層造形用粉末材料。
【請求項2】
前記二次粒子が、セラミック粒子と金属粒子の焼結体からなる焼結粒子である請求項1に記載の粉末積層造形用粉末材料。
【請求項3】
前記セラミック粒子が炭化タングステン粒子である請求項2に記載の粉末積層造形用粉末材料。
【請求項4】
前記金属粒子がコバルト粒子である請求項2又は請求項3に記載の粉末積層造形用粉末材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末積層造形用粉末材料を用いて、造形前に粉末材料の予熱を行う粉末積層造形法によって造形物を製造する造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末積層造形用粉末材料及びそれを用いる造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーメット、超硬合金で形成された工具、金型等の製作に、粉末積層造形法を用いることが検討されている。粉末積層造形用の粉末材料として、例えば特許文献1には、タングステンカーバイド(WC)の一次粒子とコバルト(Co)の一次粒子との焼結粒子(二次粒子)で構成された粉末材料が開示されている。
また、例えば特許文献2には、減圧下において電子ビームで粉末材料を融解させて粉末積層造形法によって三次元的な造形物を製造する積層造形装置が開示されている。この積層造形装置においては、造形物にクラックが生じることを抑制するなど造形精度を向上させる目的で、造形前に粉末材料の予熱が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/194678号
【文献】特表2015-507092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に開示の積層造形装置を用いて造形物を製造しようとすると、予熱によって粉末材料からガスが発生して十分な減圧ができず、造形を行うことができない場合があった。この原因は、粉末材料に添加したバインダーに由来する有機成分が予熱によって分解して二酸化炭素が生成するためであった。
本発明は、造形前に予熱を行ってもガスが生成しにくく減圧下で粉末積層造形法によって造形物を製造することが可能な粉末積層造形用粉末材料及び造形物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る粉末積層造形用粉末材料は、粉末積層造形法によって造形物を製造するための粉末材料であって、複数の一次粒子が結合してなる二次粒子を含有し、1100℃、2.5時間との条件で熱処理した場合の質量減少率が0.02質量%以下であることを要旨とする。
本発明の他の態様に係る造形物の製造方法は、上記の一態様に係る粉末積層造形用粉末材料を用いて粉末積層造形法によって造形物を製造することを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、造形前に予熱を行ってもガスが生成しにくく減圧下で粉末積層造形法によって造形物を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】粉末積層造形のための積層造形装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0009】
本実施形態の粉末積層造形用粉末材料は、粉末積層造形法によって造形物を製造するための粉末材料であって、複数の一次粒子が結合してなる二次粒子を含有し、1100℃、2.5時間との条件で熱処理した場合の質量減少率が0.02質量%以下である。
粉末積層造形用粉末材料は、例えば、セラミック粒子、金属粒子等の粒子にバインダーを添加して造粒することにより製造される場合があるが、前述した予熱などの加熱によりバインダーから熱分解ガス、揮発ガス等のガスが発生する場合がある。例えば、バインダーが分解して二酸化炭素、有機成分ガス等の熱分解ガスが発生する場合がある。
【0010】
本実施形態の粉末積層造形用粉末材料は、1100℃、2.5時間との条件で熱処理した場合の質量減少率が0.02質量%以下であるので、造形前に予熱を行ったとしても、粉末積層造形用粉末材料から熱分解ガス、揮発ガス等のガスが発生しにくい。そのため、本実施形態の粉末積層造形用粉末材料は、十分に減圧をすることができ、減圧下で粉末積層造形法による造形を行うことができるので、クラックが少ないなど造形精度が高い造形物を製造することができる。
【0011】
本実施形態の粉末積層造形用粉末材料においては、質量減少率を測定する際の上記熱処理の条件は1100℃、2.5時間であるが、熱処理の温度は1100℃以上であれば他の温度とすることもできる。ただし、熱処理の温度は、1500℃以下であることが好ましく、1300℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることがさらに好ましい。
【0012】
また、熱処理の時間は2.5時間以上とすることもできる。ただし、熱処理の時間は、24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましい。
さらに、熱処理による質量減少率は低い方がより好ましいので、0.015質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
さらに、熱処理時の圧力は特に限定されるものではなく、常圧下で熱処理を行ってもよいし、減圧下で熱処理を行ってもよい。
【0013】
本実施形態の粉末積層造形用粉末材料を用いて粉末積層造形法によって造形を行えば、種々の立体形状の造形物を製造することが可能である。例えば、工作を行うための種々の工具(例えば切削工具)や、成形を行うための種々の金型や、治具等の種々の部品を、本実施形態の粉末積層造形用粉末材料を用いた粉末積層造形法によって製造することが可能である。
【0014】
本実施形態における粉末積層造形法としては、例えば、レーザー粉体肉盛り法(レーザーメタルデポジション法;LMD)、選択的レーザー溶融法(セレクトレーザーメルティング法;SLM)、電子ビーム溶融法(エレクトロンビームメルティング法;EBM)等のビーム照射方式が挙げられる。特に電子ビーム溶融法は、造形時に減圧が必要となるので、本実施形態の粉末積層造形用粉末材料を好適に使用することができる。
【0015】
レーザーメタルデポジション法とは、具体的には、構造物の所望の部位に粉末材料を提供して、そこにレーザー光を照射することで粉末材料を溶融・凝固させ、当該部位に肉盛りを行う技術である。この手法を利用することで、例えば、構造物に摩耗等の物理的な劣化が発生した場合に、当該劣化部位に粉末材料として当該構造物を構成する材料又は補強材料等を供給し、その粉末材料を溶融・凝固させることで劣化部位等に肉盛りを行うことができる。
【0016】
セレクトレーザーメルティング法とは、設計図から作成したスライスデータに基づき、粉末材料を堆積させた粉末層にレーザー光を走査させ、粉末層を所望形状に溶融・凝固する操作を、1断面(1スライスデータ)ごとに繰り返して積層させることで、三次元的な構造体を造形する技術である。
エレクトロンビームメルティング法とは、3D CADデータから作成したスライスデータを基に、電子ビームを用いて上記粉末層を選択的に溶融・凝固させ、積層することで、3次元的な構造体を造形する技術である。
【0017】
本実施形態の粉末積層造形用粉末材料の種類は特に限定されるものではなく、例えば、セラミック粒子、金属粒子等が挙げられるが、複数の一次粒子が結合してなる二次粒子を含有すればよく、例えば、セラミック粒子と金属粒子の焼結体からなる焼結粒子を含有してもよい。詳述すると、本実施形態の粉末積層造形用粉末材料は、セラミック粒子(一次粒子)と金属粒子(一次粒子)とを焼結して得られた焼結体からなる焼結粒子(二次粒子)を含有してもよい。
【0018】
セラミック粒子と金属粒子とを焼結して焼結体からなる焼結粒子を得る方法は、特に限定されるものではなく、一般的な焼結方法を採用可能であるが、例えば、プラズマアトマイズ法等のアトマイズ法、溶射法、高周波誘導熱プラズマ法を用いることにより、焼結体からなる焼結粒子を得ることができる。
【0019】
セラミック粒子の種類は特に限定されるものではないが、酸化物系セラミックの粒子や非酸化物系セラミックの粒子が挙げられる。
酸化物系セラミックとしては、例えば、以下に示す金属の酸化物が挙げられる。すなわち、金属としては、B、Si、Ge、Sb、Bi等の半金属元素、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Al、Ga、In、Sn、Pb等の典型元素、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au等の遷移金属元素、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Er、Lu等のランタノイド元素から選択される1種又は2種以上の金属が挙げられる。これらの金属の中でも、Mg、Y、Ti、Zr、Cr、Mn、Fe、Zn、Al、Erから選択される1種又は2種以上の金属が好ましい。
【0020】
酸化物系セラミックとしては、より具体的には、例えば、アルミナ、ジルコニア、イットリア、クロミア、チタニア、コバルタイト、マグネシア、シリカ、カルシア、セリア、フェライト、スピネル、ジルコン、酸化ニッケル、酸化銀、酸化銅、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化ストロンチウム、酸化スカンジウム、酸化サマリウム、酸化ビスマス、酸化ランタン、酸化ルテチウム、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、マンガン酸化物、酸化タンタル、酸化テルピウム、酸化ユーロピウム、酸化ネオジウム、酸化スズ、酸化アンチモン、アンチモン含有酸化スズ、酸化インジウム、スズ含有酸化インジウム、酸化ジルコニウムアルミネート、酸化ジルコニウムシリケート、酸化ハフニウムアルミネート、酸化ハフニウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化ランタンシリケート、酸化ランタンアルミネート、酸化イットリウムシリケート、酸化チタンシリケート、酸化タンタルシリケート等が挙げられる。
【0021】
また、非酸化物系セラミックとしては、例えば、炭化タングステン(タングステンカーバイド)、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化モリブデン、炭化タンタル、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物系セラミックや、ホウ化モリブデン、ホウ化クロム、ホウ化ハフニウム、ホウ化ジルコニウム、ホウ化タンタル、ホウ化チタン等のホウ化物系セラミックや、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の窒化物系セラミックが挙げられる。
【0022】
さらに、非酸化物系セラミックとしては、例えば、フオルステライト、ステアタイト、コーディエライト、ムライト、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライト、サイアロン等の複合化物や、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等のリン酸化合物が挙げられる。
これらのセラミックは、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらのセラミックの中では、炭化タングステンが特に好ましい。
【0023】
金属粒子の種類は特に限定されるものではないが、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ビスマス(Bi)、ニオブ(Ni)、モリブデン(Mo)、錫(Sn)、タングステン(W)、鉛(Pb)等の金属の粒子や、これらの金属のうち2種以上の金属の合金の粒子が挙げられる。
これらの金属は、いずれか1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの金属の中では、コバルトが特に好ましい。
【0024】
セラミック粒子と金属粒子の焼結体からなる焼結粒子においては、セラミック粒子と金属粒子との質量比は特に限定されるものではなく、粉末積層造形用粉末材料の使用目的や使用条件に応じて任意に設定することができる。また、本発明の目的が達成される範囲内の量であれば、第3の成分を添加剤としてセラミック粒子及び金属粒子に添加して、焼結体としてもよい。さらに、粉末積層造形用粉末材料は、セラミック粒子、金属粒子、焼結粒子等を含有していれば、樹脂の粒子、添加剤の粒子等の他の粒子をさらに含有していてもよい。
【0025】
セラミック粒子及び金属粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は特に限定されるものではなく、粉末積層造形用粉末材料の使用目的や使用条件に応じて任意に設定することができる。また、焼結体からなる焼結粒子の平均粒子径(平均二次粒子径)も同様に特に限定されるものではなく、粉末積層造形用粉末材料の使用目的や使用条件に応じて任意に設定することができる。
【0026】
<粉末積層造形用粉末材料の製造方法>
本実施形態の粉末積層造形用粉末材料の製造方法は、1100℃、2.5時間との条件で熱処理した場合の質量減少率が0.02質量%以下であるならば、特に限定されるものではないが、粉末積層造形用粉末材料の製造工程中のいずれかの工程(例えば最終工程)に焼成工程を有する方法により、使用時に加熱されてもガスが発生しにくい粉末積層造形用粉末材料を製造することができる。
【0027】
加熱により熱分解ガス、揮発ガス等のガスを発生させ得る物質(例えば、粉末積層造形用粉末材料を製造する際に添加されるバインダー)を、焼成工程における加熱によって予め除去すれば、使用時に加熱されてもガスが発生しにくい粉末積層造形用粉末材料を製造することができる。
あるいは、本実施形態の粉末積層造形用粉末材料が焼結により製造される場合には、焼結工程において、熱分解ガス、揮発ガス等のガスを発生させ得る物質を除去可能な条件(加熱温度及び加熱時間)で焼結を行うことにより、使用時に加熱されてもガスが発生しにくい粉末積層造形用粉末材料を製造することができる。
【0028】
焼成工程における焼成条件及び焼結工程における焼結条件は、粉末積層造形用粉末材料を1100℃、2.5時間との条件で熱処理した場合の質量減少率が0.02質量%以下となる条件に設定する必要がある。焼成条件及び焼結条件は、1100℃且つ24時間以上であることが好ましく、1150℃且つ12時間以上であることがより好ましく、1200℃且つ6時間以上であることがさらに好ましい。
【0029】
なお、上記のような焼成条件での焼成や焼結条件での焼結を行わなくても、1100℃、2.5時間との条件で熱処理した場合の質量減少率が0.02質量%以下となる場合には、上記のような焼成条件での焼成や焼結条件での焼結を行う必要はない。すなわち、焼成工程を有しない製造方法で粉末積層造形用粉末材料を製造してもよいし、通常の焼結条件で焼結を行う製造方法で粉末積層造形用粉末材料を製造してもよい。
【0030】
<造形物の製造方法>
本実施形態の粉末積層造形用粉末材料を用いて粉末積層造形法によって三次元的な造形物を製造する方法は、例えば、次のような方法がある。図1は粉末積層造形のための積層造形装置の一例の簡略図を示しており、大まかな構成として、積層造形が行われる空間である積層エリア10と、粉末材料を貯留しておくストック12と、積層エリア10への粉末材料の供給を補助するワイパ11と、粉末材料を固化するための固化手段(電子銃、レーザー発振器等)13と、を備えている。
【0031】
積層エリア10は、典型的には、外周が囲まれた造形空間を造形面より下方に有し、この造形空間内に昇降可能な昇降テーブル14を備えている。この昇降テーブル14は、所定厚みΔt1ずつ降下することができ、この昇降テーブル14上に目的の造形物を造形してゆく。ストック12は、積層エリア10の傍に配置され、例えば、外周が囲まれた貯留空間内に、シリンダー等によって昇降可能な底板(昇降テーブル)を備えている。底板が上昇することで、所定量の粉末材料を造形面に供給(押し出し)することができる。
【0032】
このような積層造形装置では、昇降テーブル14を造形面より所定厚みΔt1だけ下げた状態で積層エリア10へ粉末材料層20を供給することで、所定厚みΔt1の粉末材料層20を用意することができる。このとき、造形面にワイパ11を走査させることで、ストック12から押し出された粉末材料を積層エリア10上に供給するとともに、粉末材料の表面を平坦化して、均質な粉末材料層20を形成することができる。そして、例えば、形成された第1層目の粉末材料層20に対し、第1層目のスライスデータに対応した固化領域にのみ、固化手段13を介して熱源を与えることで、粉末材料を所望の断面形状に焼結又は接合等し、第1層目の粉末固化層21を形成することができる。
【0033】
この後、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ下げて積層エリア10へ再度粉末材料を供給し、ワイパ11でならすことで第2層目の粉末材料層20を形成する。そしてこの粉末材料層20の第2層目のスライスデータに対応した固化領域にのみ、固化手段13を介して熱源を与えて粉末材料を固化させて第2層目の粉末固化層21を形成する。このとき、第2層目の粉末固化層21と、下層である第1層目の粉末固化層21とが一体化されて、第2層目までの積層体を形成する。
【0034】
引き続き、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ下降させて積層エリア10へ新たな粉末材料層20を形成し、固化手段13を介して熱源を与えて所要箇所を粉末固化層21とする、との工程を、所望の回数繰り返す。これにより、複数層の粉末固化層21が積層され一体化されてなる積層体が形成され、目的とする三次元的な造形物を製造することができる。
【0035】
なお、粉末材料を固化する方法としては、電子ビーム、レーザー光等の照射により熱を与えて粉末材料を溶融固化する方法などが選択される。具体的には、粉末材料を固化するための固化手段が電子銃である場合は、例えば熱電子放出型の電子銃や電界放射型の電子銃を固化手段として好適に用いることができる。また、粉末材料を固化するための固化手段がレーザー発振器である場合は、例えば炭酸ガスレーザーやYAGレーザーを固化手段として好適に用いることができる。
【0036】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
平均一次粒子径2μmの炭化タングステン粒子と平均一次粒子径2μmのコバルト粒子の焼結体からなる焼結粒子の集合体である実施例及び比較例の粉末(粉末積層造形用粉末材料)を製造した。一次粒子の平均粒子径はレーザー回折・散乱法により測定することができる。例えば、株式会社堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-300を用いて測定することができる。
【0037】
比較例の粉末積層造形用粉末材料は、炭化タングステン粒子とコバルト粒子と有機バインダーの混合粉末を、ボトムスプレー方式の噴霧流動造粒機にて造粒し、1250℃、常圧で2.5時間焼結した後に、解砕、分級することにより製造した。炭化タングステン粒子とコバルト粒子の混合比は、炭化タングステン粒子88質量%に対しコバルト粒子12質量%とした。
【0038】
実施例の粉末積層造形用粉末材料は、炭化タングステン粒子とコバルト粒子と有機バインダーの混合粉末を、ボトムスプレー方式の噴霧流動造粒機にて造粒し、1250℃、常圧で2.5時間焼結し解砕したものを、さらに1100℃、常圧で24時間焼結した後に、解砕、分級することにより製造した。炭化タングステン粒子とコバルト粒子の混合比は、炭化タングステン粒子88質量%に対しコバルト粒子12質量%とした。
【0039】
実施例及び比較例の粉末積層造形用粉末材料に対して、それぞれ熱処理を施し、熱処理前後での質量減少率(単位は%)を測定した。実施例、比較例ともに、20gの粉末積層造形用粉末材料を熱処理に供した。熱処理の条件は1100℃、常圧、2.5時間である。質量減少率は、熱処理前の粉末積層造形用粉末材料の質量から熱処理後の粉末積層造形用粉末材料の質量を差し引き、それを熱処理前の粉末積層造形用粉末材料の質量で除することにより求めることができる。測定の結果、実施例の粉末積層造形用粉末材料の質量減少率は0.001質量%であるのに対して、比較例の粉末積層造形用粉末材料の質量減少率は0.064質量%であった。
【0040】
次に、実施例及び比較例の粉末積層造形用粉末材料を用いて、それぞれ粉末積層造形法によって造形物を製造した。造形物の製造には、特許文献2に開示の積層造形装置に類似の積層造形装置を用いた。すなわち、この積層造形装置においては、造形前に粉末積層造形用粉末材料の予熱を1000℃で行った後に、減圧下において電子ビームで粉末積層造形用粉末材料を融解させて粉末積層造形法によって三次元的な造形物を製造するようになっている。
【0041】
その結果、実施例の粉末積層造形用粉末材料を用いた場合には、予熱によって粉末材料からガスが発生することがほとんどないので、十分な減圧を行うことができ、上記積層造形装置によって造形物を問題なく製造することができた。これに対して、比較例の粉末積層造形用粉末材料を用いた場合には、予熱によって粉末材料から二酸化炭素等のガスが発生したため、十分な減圧を行うことができず、上記積層造形装置によって造形物を製造することができなかった。
【符号の説明】
【0042】
13・・・固化手段
20・・・粉末材料層
21・・・粉末固化層
図1